Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館の人々。 『胸の話』 前編

2005/12/11 10:22:21
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※なんか咲夜×中国だから気を付けて。それと、ちょっとキャラ違ってる?










 今日も真っ赤な紅魔館、主が血を飲み、その妹が地下で遊び、メイドが働き、もやしは本を読み、小悪魔が片づけ、門番が居眠りする。
 綺麗に晴れたの冬の空、立ったまま眠っていた門番、紅美鈴の脳天に銀の刃が閃いた。
 擬音にするならばすこーんとでも言おうか、快い音を立てて転がる隊長の姿を部下達はいつものようにほったらかす。
「あいたたた……」
 美鈴はゆるゆる立ち上がり、頭に刺さったそれを引き抜くと手慣れたように絆創膏で閉じる。
 額から手を離した彼女の前には、メイド長がいつものように仁王立ちに立ちふさがっていた。
 背丈としては見下ろしていても、見上げる瞳は威力抜群、咲夜はごまかすように弱々しく笑う美鈴の象牙の喉元にナイフを当てると、薄笑いを浮かべて、また眠っていたのね、そんなに外で寝るのが好きかしら?と囁くように呟く。
 その言葉に切っ先の彼女が大きく首を横に振ると、視界に映るは凍った銀の雨。
「……じゃあ、しっかり起きておく事ね」
 酷薄な笑みのまま咲夜がそう告げると、美鈴は少しうつむきぎみになって優しく微笑み、口を開いた。
「そうですね、咲夜さんが寂しがっちゃいますし」
 時よ止まれと言うべきか、咲夜の時間は自らの力を伴わずに止まる。
 少し離れてみていた門番隊達からは、いつものアレよ、などとひそひそ話し声がしていた。
 咲夜の止まった時の中、ほほえみかける美鈴の視線は咲夜の止まった表情と絡み合う。
――そして時は動き出す。
 永遠とも思えそうな数秒の後、咲夜は何事もなかったかのようにナイフを回収して微笑む美鈴の肩をつかんだ。
 にこにこしている美鈴の表情からは既に切っ先の恐怖など消えうせているようで、何とも暖かな脳である。
 咲夜がその案外としっかりして、それでいて細い肩を強く引くと、彼女は小さく、あ、と呟き、そしてその言葉は咲夜に飲み込まれた。
 じっと、3秒、優しく、柔らかくぶつかり、重なる影。
 やがて咲夜は唇を離しほんのり赤らんだ頬と、しっかり働きなさいよ、という言葉だけを残して宙に掻き消えてしまった。
 後に残ったのは、きゃぁきゃぁ騒ぐ門番隊と、咲夜さんって甘えん坊だなぁ、と呟いて頭にナイフを突き刺した門番だけ。








紅魔館の人々。  『胸の話』

前編








 十六夜咲夜は自室で思案に耽っていた。
 いささか特異な性格故、あまり悩みは多い方ではない彼女だが――何せ幻想郷に来た事で最大の悩みは既に解消されている――それでも彼女にはどうにもならない悩みが一つあった。
 さすがの彼女も喉を鳴らし、酷使してなお白魚のごとき指先を我が身にたぐり寄せてそれに触れる。
 むにむにむに。
 B?
 いや、Aかも知れない。
 それ即ち血液型にあらず。
 胸、それは女性にのみ与えられた柔らかな突起。
 彼女の悩みとは、乳房の大きさであった。
 元より胸の種はなくとも悩みの種であったそれは、先ほどの口づけの際に押し当たった美鈴の乳房の感触に不意にどうにもならない双葉を開く。
――小さいわ。
 思考が思わず一色に染まった。
 豊かな乳房は女性の特権であるはずなのに――肥満の場合は美しくないので却下だ。
 しかし、どうすれば胸を大きくできる?
 斬って削って抉りはすれど、育てた事などありはしない。
 そして彼女は立ち上がり、床を踏みしめ部屋を出た。


 わからなければ人に聴く。
 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
 それこそが、ただいま凛然たる歩みで廊下を闊歩する咲夜の作戦であった。
 訪ね行くはもちろん、常日頃穀潰し生活を送る紫もやし。
 いつもいつも養っているのだからこんな時ぐらいは役に立ってもらわなければ。


 辿り着いたる大図書館、門を開いて人捜し、むらさきもやしはどこかいな――いない。
 いつもは終わらない蔵書の整理に明け暮れている小悪魔の姿さえない。
 本棚にしがみついて蔵書を整理していた図書館のメイドに尋ねれば、二人はパチュリーの私室に居るであろうと言う。
 ならば話は早いと彼女は勇んで宙に飛び立ち、その部屋の扉の前に飛び降りた。
 そして彼女は扉に触れ、思わず手を離して一歩下がる。

『Patchouli’s study』

 仰々しい書体でルームでなくスタディ、即ち書斎と書かれたその扉は、共にその書体すらを一部とする魔法陣によって固く閉ざされていた。
 にわか仕込みの知識でもわかる、しっかりとした鍵の魔法。
 しかも防音の類も掛かっているだろう。
 咲夜は思わず小さなため息をつき、全く、どこまで主人の質を表すのだろうかと思いながら、両手を開いて扉に突く。
「さて……どのくらいかしら、ね!」
 頭の中で、時計が回る。
 左回りに時間が進む。
 例えどんな魔法でも、人の通った扉なら、通った時間は開いている。
 こんな魔法は彼女の壁ではない。
 やがて扉は小さく音を立てて浮き上がり、人を招いてわずかに揺れた。
「ん……パチュリーさ……」
 ノブをつかんでわずかに頭を入れた彼女は、中の光景に思わず言葉を失う。
「ちょっと、動かないで。上手く廻らないわ」
 そこにいたのは普段のパジャマはどこへやら、上半身裸で小悪魔の胸元を縛るかのように動く、どこにそんな物を隠していたと言いたくなるような胸のパチュリー。
「やっ!ぱちゅりーさま、そんな事言ったってっ、きゃっ!」
 そして縛られる小悪魔もまた、豊かな乳房を自在に歪ませ、パチュリーの縄のような物に抵抗もなく蹂躙されていた。

――そうか。おまえらそんな関係か。主従ってご主人様と犬か。犬は私の特権じゃなかったのか。てかおまえらそろって隠れ巨乳かよ。パチュリー様はうすうす着痩せ感が出てたよでも小悪魔おまえもかよ畜生。ちくしょう。チクショォォォォォオォオオォオオォォォォッッ!!!

 コンマ数秒の間に彼女の脳はよくわからない悔しさに絶叫する獣と化し、そのまま野獣のごとく牙を剥きかけてお嬢様の顔を思い出し踏みとどまった。
 お嬢様の友達を傷つけるわけにはいかないと、彼女は渾身の力で一歩下がって会話に耳を傾ける。
 すると、小悪魔、あなたまた胸育ったわね、とか、パチュリー様、ベビーパウダーはたきますから息止めててくださいね、とか、新しいブラ買わなきゃいけませんねぇ、とか、胸なんて大きくても重くて蒸れるだけでどうにもならないわねぇ、何とかならないかしら、等という会話が聞こえてきた。
――ああ、胸のサイズ測ってたの?――もとい、総員、耳を食いしばれ。
 咲夜は本棚周りのメイド達が知覚できぬ程の勢いで駆け出す。
 さしもの彼女も、ここにいてはいろんな意味で心が折れてしまう。
 しかたない別の知識人を頼るかと、彼女はそのまま館の門へと向かっていった。






「あれ?咲夜さん、お出かけですか?」
 どこまでも瀟洒に、あくまでも優雅に、目が紅に染まっていようとも彼女は悠然と門にさしかかる。
 咲夜はにこにこと声を掛ける美鈴を一瞥すると、思わずその眉間にナイフを突き立て、勢い込んで空を目指した。
「……あれぇ?なんでぇ?……いたた」
 後には「出かけてきます、後ヨロシク」と書かれた伝言のみがぺらぺらと一陣の木枯らしに吹かれるのみ。






 きーんとばかりに空を駆ける咲夜。
 とりあえず手っ取り早いところ、竹林に座る永遠邸へ、薬屋訪ねてまっしぐら。
 魔理沙もかくやの早さで飛んでいると、不意に飛び出してくる影とすれ違った。
 咲夜は一瞬敵襲かと構えて、すぐにそれを解いて自分の道に戻る。
 影の正体たる夜雀は、助けてー!と叫びつつ、みょんな剣士と焼き鳥ー!と吠える冥界の姫に追い回されて宙を踊っていた。
 つまりそれはいつもの光景。
 少し違うとすれば、躁が過ぎて出陣する二人に付いてきてしまったのだろうめるぽーと叫ぶ騒霊の次女がついでに暴れているぐらい。
 まぁ、それはたいしたことではない、と、彼女は流れ弾を受けないように少し速度を落として竹林へ飛んだ。


――ああ、それにしてもあの大食らいの胸のでかい事。従者の胸を吸い上げてるのかしら?あの騒霊の胸は……まぁたいしたこと無かったわね。
 彼女がそんな事を考えつつ竹林を飛んでいくと、程なく開けて永遠邸の庭にたどり着く。
 咲夜は正門にたどり着けなかった事をしまったと思ったが、尋ね人は僥倖にもその縁側で茶を飲んでいた。
「良い日和ね、邪魔するわ」
 永琳は舞い降りる咲夜に笑顔で、ええ、邪魔ね、と返すと、湯飲みを脇に置いて、何の用かしら?と呟いた。
 そんな対応に咲夜は居住まいを正して口を開く。
「聞きたい事があるわ」
 瞬間、永琳の体がわずかに跳ねる。
 そして、こわばっていた体は後に続いた言葉でなんだそんな事かと言わんばかりに弛緩した。
「胸を大きくする方法、無いかしら?」
 この薬師を前にして、薬でもいいわ、と言いきる程の覚悟で放たれた言葉とはうってかわって、永琳は興味もなさそうに笑顔を崩して呆れたような表情をする。
 彼女が面倒くさそうに頭を掻きつつ、そんな事なの?と呟けば、たわわな乳房がふるふる揺れた。
「ええ、胸よ。豊胸。元より大きいでしょうあなたに聞いても意味はないかも知れないけれど……」
 胸の揺れから目をそらし、心を食いしばって咲夜は続けると、永琳は、何故胸を大きくしたいのかしらと、今度は医者の顔になって言葉を返す。
「……胸が小さいと、格好悪いと思えるのよ」
 咲夜は恥ずかしそうに、ついに押しとどめていた物が漏れたようにうつむいて呟くように言う。
 すると永琳はどこか不思議そうな顔で立ち上がって口を開いた。
「格好悪い?……あなたの容姿を悪いといえる人間なんてそうそう居ないと思うけど……」
 上から下まで目をやれば、多少O脚気味ながらも真っ白くカモシカのようにすらりとのびた長い足。
 その上には小股の切れ上がってしなやかなくびれに繋がる腰回り。
 そして控えめな薄い、しかし形の良い胸元はなだらかな肩と細く白い首に繋がり、腕から指先は女性らしさを存分に示すがごとく滑らかに。
 華奢な首筋に讃えられた頭は全てが形良くまとまり、銀の髪に彩られた蒼にも紅にも染まる瞳は、すっと通った鼻筋と共に小顔がちなかんばせに品よく収まる。
 その総体の印象は猫科の美獣、これで格好悪かったら人間の形という物はよほど醜い形状であると言う事になってしまう。
「そうね。でも、これじゃダメなのよ」
 咲夜はいけしゃあしゃあと言ってのけると、胸元に手を当てて薄い胸に思いをはせるように、負けたままじゃ、格好悪いわ、とこぼす。
 そんな彼女の様子に永琳は何かを得心した様子でははぁ、と漏らして腕を組んで口を開いた。
「まぁ、話はわかったわ。でも私では無理ね」
 永琳はどうにもにやにやして、私では、ね、と繋げる。
「確かに胸も育つ薬はあるけど、それは肥満を促進するだけの薬だし、お腹の方が太くなるわね」
 彼女はそう言い終わると、目の前で困ったように突っ立っている咲夜にどうする?と視線で投げかけた。
 咲夜はため息をついて、本当、お邪魔したわ、と言うと、太るのは立ち絵だけで十分よと青空に飛び立つ。
 そして永琳は当てがはずれても特にしょげた様子も見せずに飛んでいく咲夜の背中を見上げ、優しく微笑んで、誰に言うでなく口を開いた。
「命短し恋せよ乙女、ってね……恋に期待に、せいぜいたっぷり胸を膨らましなさいな」
 うふふ、と笑った永琳が冷めたお茶を入れ替えさせるために呼びつけた鈴仙に、あなた、好きな人はいる?と聞いて困惑を呼んだのはまた別の話。






 で、所変わって紅魔館。
 本日3本目の額のナイフを引き抜いた美鈴は、手持ちの絆創膏が切れて周りの部下達も予備を持っていなかったので、もらいに行くために館の中にいた。
「うーん、絆創膏の消費も馬鹿にならないんだけどなぁ」
 とぼとぼ歩く美鈴の額からは血とそれ以外の何かがぽたぽたこぼれる。
 気で止血してはいる物の脳まで届いた傷口からこぼれる物はさしもの彼女でも留めきれないらしい。
 これで致命傷で無いどころか絆創膏で塞いでおけば直るというのだからさすがは妖怪であった。
 彼女が館内のメイドから絆創膏を出してもらい、血液その他を拭き取ってもらっていると、不意に後ろから幼い、しかし威圧的な声が掛かる。
「門番がどうして中にいるのかしらね」
 ばさりと翼がはためいて、美鈴はぎくりと立ち上がる。
 レミリアはいつの間にやら現れて、いつものように指先を胸元に当てるようなポーズのまま美鈴を見下ろしていた。
「あなたの運命にサボタージュなんて選択肢があったかしら?」
 夜の種族のそのままの笑みでそんな事を言う彼女に、美鈴はわたわたあわてながら、いえ決してそんな事は!と必死に弁明を重ねる。
 しかしレミリアはそんな彼女に、しかも額を寄せ当てお取り込み中?と意地も悪そうにくすくす笑いながら続けていく。
 絆創膏を貼っていたメイドは滅相も御座いませんお嬢様と叫んで飛び去り、咲夜はどうする気?泣かせるなら容赦はしないわよ?などとレミリアが告げる。
「誤解ですお嬢様ぁぁぁ!!!」
 そして美鈴が緩い涙腺の栓を開いて哀願し始めると、レミリアは唐突にそんな物言いを止めて今度はそれなりに少女らしい笑みでくすくす声を上げると、からかっただけよ、と抱きついていた美鈴を引きはがして言った。
「出かける咲夜の八つ当たりで絆創膏が切れて張ってもらっていただけ。みんな知っているわ」
 居住まいを正してかわいらしく立ち塞がった彼女は全てを見透かした目でそんな風に宣言する。
「ああ、そうだわ。美鈴、あなた私のお茶に同席しなさい」
 闇の翼を翻した彼女は、次いで踵を返したところでふと思いついたように振り返って口を開き、咲夜も居ない事だしね、とそのまま館を飛んでいった。


「そうね、今日はただの血で良いわ」
 メイド佇む紅く染まる室内、柔らかな椅子にまさしく王者の如く、しかしちんまりと収まったレミリアは、A型の+で、あなたもそれで良いわね?と美鈴に問いかける。
 対して場違いの感を醸しつつ椅子の上に縮こまる美鈴は、はぁ、と気の抜けた返事を返し、何故自分に声が掛かったのかという疑問を口にした。
「ただの気まぐれ、暇つぶしよ。今は咲夜も出かけているし、一人でお茶も退屈だもの」
 そしてレミリアは運ばれてきた人肌のカップを受け取り、それに、あなたなら私と同じ物を飲んでお腹を壊したりはしないわ、と少し困ったような笑みを浮かべて漏らす。
「咲夜さんがこれ飲んじゃったんですか!?」
 差し出された血液を手にする美鈴はその言葉にそんな驚きを口にした。
 人間がカップ一杯の血液を飲み干せば、まぁ大抵は消化不良でお腹を壊してしまうだろう。
「そうなのよ、あの子ったら私が「一緒に飲みなさい」って言ったら額面通りに一緒に生き血を飲もうとしてね」
 彼女は小さな唇をカップに当てて一口飲み、真っ赤に湿った唇で続ける。
「無理に飲み下して吐き戻しもしない物だから後でふらふらになっていてね、それでも取り繕おうとする所が見ていてちょっと不憫だったわ」
 カップを置いたレミリアはまるで外見相応の歳であるかのように、優しくくすくす笑う。
 そんな話を聞いた美鈴は咲夜さんらしいですねぇ、とこれまた微笑みながら言葉を返すと、カップの中身を少し啜った。
 次いで美鈴は軽く呻くように声を上げる。
 レミリアが何かと訪ねれば、彼女は小さくすいませんと呟いてから返事を返した。
「人間の血を飲むなんて久しぶりで、ちょっと浸っちゃいました」
 するとレミリアがふぅんと声を上げ、どのくらい久しぶり?と訪ねる。
「そうですねぇ……門番になってからは食べてないんじゃないでしょうか?」
 まぁ、ここには人間も来ませんしね、と少々情けない笑いを伴って彼女は答え、それに、殺すとか痛そうですし、と続けた。
 その言葉に、痛そう?獲物に同情するって事かしら、等という返事来ると、そうですねぇ、なんだか辛いんですよ、こっちまで痛くなって来るというか……
 と一層自嘲の色合いの濃い笑みを浮かべて美鈴は返す。
「……まるで人間みたい。いえ、人間以上ね、あなた」
 柔らかな腕を頬杖に突いて、レミリアはなんとも面白そうに言う。
「咲夜はそんな事考えもしないもの。あなたはずいぶんと変わった妖怪なのねぇ」
 情けなげな笑いと心底面白そうな微笑みが紅い部屋に小さく響く。
 人ならざる者達のお茶会は続く。






 またもやきーんとばかりに空を駆ける咲夜。
 次に目指すは人の里、三人目の知識人、上白沢慧音。
 これで駄目なら東方の三賢者は全滅と言う事になってしまう、しかしよく考えれば三人とも巨乳。
 さっきの永琳のたわわな胸、うちのもやしの着痩せする胸、そして今から行く半獣のホルスタイン。
 くそう、巨乳はバカって迷信だったのか。
 いや、胸を大きくする方法を知らないのだし、そう賢いとはいえないかも知れない。
 いやいや、彼女たちは最初から大きかったのでそんな事を知る必要がなかった?
 でもあの薬師は私の質問に驚いていたようだし……まさか、豊胸手術?
 咲夜がそんな益体のない事を思案しつつ空を飛んでいると、今度は眼下でチルノがレティをうれしそうに引っ張り回していた。
「あら、冬の妖怪じゃない。もうそんな季節なのね……」
 小さなチルノはきゃいきゃい騒ぎつつ、ふくふくしたレティに飛びついてばたばたする。
 その光景は微笑ましくあるのだが、咲夜は今まで興奮のあまり忘れていた寒さを思い出し少し震えてしまう。
 そう言えば彼女の衣装は冬服とはいえ内勤のメイド服だけで、他に防寒具らしい物は身につけていない。
 あまり勢いよく飛び出すのも考え物であった。


――うーん、あの冬の妖怪も胸は大きかったわね……でも、あれは太ましいって言うのよ。あの薬屋の言っていた薬を飲めばあんな体型にはなれるんでしょうけど、あんなマニアックな体型はゴメンだわ。
 そうこうするうちに森は開けて人里に届く、今は昼なので上空を誰かが飛ぶ事などみんな大して気にしないのだろう、村は穏やかな空気に包まれたままである。
 そこら辺にいた里人に尋ねれば、多少怪訝な顔をする物のたやすく尋ね人の居場所を答えてくれた。
 そして話の通りに少し行くと、禿げた田園から木立、竹林に入り、道は細って一件の庵が見えてくる。
 あれぞ話に聞きし白沢の巣、とばかりに咲夜は庵に飛び寄ると、扉を叩こうとしてある事に気づく。

「……っ!……ぁ…ゃぁっ………っ……!!」

 聞き取りづらくも妙に鼻に掛かった女性の喘ぎ。
 咲夜の時間が思わず止まる。
 真っ昼間から何やってんのよと叫びたくなる声帯を何とか押さえて彼女は空中を後退すると、しばし思案の後にさらに後方で地面に降りて、竹をがさがさ鳴らしながら歩き始めた。
 てくてくがさがさの音が竹林に鳴り響くと、庵はとたんに柔道場のような喧噪を発し、咲夜は騒ぎの具合に合わせつつ、音が止む頃に庵の前に辿り着いて扉を叩く。
 するとがらりと勢いよく扉が開いて、髪が乱れるやら帽子がずれるやら着衣が乱れるやら妙に艶っぽいやらの上白沢さんが飛び出し、だ、誰だ!ってお前か!とどもりがちな声を上げる。
 どうにもしどろもどろな対応の慧音の後ろでは、例の蓬莱人が上気した頬でサスペンダーもずれたままにこちらを恨めしそうに見ていた。
 しかし咲夜はそれ無視して、少し聞きたい事があるの、時間良いかしら?と慧音に告げる。
 これぞ大人の対応、完璧で瀟洒なメイドの瀟洒ぶりであった。
 また、それ以上に気を利かせて1時間は待つ等という悠長な真似などしない。時は金なり、である。


「え……っと……胸を大きくしたい、と?」
 唐突に現れた咲夜の頓狂な質問に、慧音はあからさまな困惑の色を浮かべつつそんな言葉を返す。
 慧音は繰り返すように、乳房の成長を促したいというわけだな?等と手先で胸元の空を凸になぞりつつ問いかける。
 しかし彼女の場合は既にその凸の空間をたっぷりと占有する物を所有しているため、それ以上大きくしてどうする気だと突っ込みたくなるような構図であった。
 咲夜は魂を食いしばってすました顔で慧音の言葉に肯定の意を示す。
 すると慧音が胸かぁ……とぼやくように腕を組んだため、たわわなそれは一層押し上げられて咲夜の奥歯を軋ませた。
「一番手っ取り早いのは妊娠なんだが、それは根本的に意味が違うし……話に聞くような方法はまず効果はないし……」
 効果はないし、と言いつつ彼女はチラチラ妹紅を横目で見る。
 千年を越えてつるぺたで有り続ける蓬莱人はおそらく永年に渡って様々な手段を試みたのであろう、そしてその結果はそこでしょんぼりと鎮座ましましている。
「……あ、愛する者に揉んでもらうのが良い、等と聞いた事はあるが……」
 そして慧音は妹紅を見て思い出したのだろうか、顔を真っ赤に染めつつ恥ずかしそうにそんな事を漏らした。
 対応するかのように視線の絡んだ妹紅もまた林檎の如く頬を染め返して見つめ合う。
 脳裏でこのバカップルと悪態を吐いた咲夜は、そう、ありがとう、邪魔したわね、と言ってふわりと浮かぶ。
「じゃ、さっきの続きをごゆっくり」
 そして、目の前でさんざっぱら巨乳を見せつけられた復讐を落として、彼女は空に消えていった。


「や、やっぱりバレてたーーー!!」
「無かった事にーーーーー!!!」






 宴もたけなわ、とまでは言わないまでも二人の茶会はそれなりに和やかに続いていた。
「で、あの子ったらそこで全部ブチ撒けちゃうのよ。普段は猫みたいなのに私と居るといつも犬みたいな生真面目になっちゃうんだから」
 レミリアはだいぶだれてきたのだろうか、翼の先でこりこりと頭を掻きつつ飼い猫でも語るようにそんな事を言う。
 話の中身は咲夜の話題、彼女たちにとってもっとも分かりやすい共通の話題と言えば彼女だ。
「ところで美鈴。あなた、咲夜の事をどう思っているの?」
 その言葉に美鈴は、へ?とどうも要領得ないような返答返す。
「え?咲夜さんは良い同僚だと思いますよ?ナイフ刺しますけど」
 おませさんと言った表情で問いかけていたレミリアは、そんな返事に呆れたような表情になってため息を吐いた。
「はぁ……まったく、あの子もやっかいなのを選んだわねぇ……」
 しかし、そのやっかいな当人は何の謂われかもわからずただ頭を捻るばかり。
 するとレミリアはそんなぼけ中国に痺れを切らし、わずかに手を招いて美鈴の頭を耳のそばに寄せると、いい?一回しか言わないわよ?と念を押すように囁きかける。
「咲夜はね、あなたの事が好きなのよ」
 そして呟かれた言葉に、美鈴は何でそんな事を言うんですかという表情になり、え?私も咲夜さんの事、好きですよ?といつものようにぽややんと返してしまう。
 そこは割合気の短い、しかも咲夜の事が可愛いお嬢様、今度はもはやそんなぼけっぷりをため息のみですませる程の遠慮会釈など持って生まれていない。
 彼女の幼くも美しい表情の向こうで何かが千切れるような幻聴が轟き、細く力強い腕が温かすぎる妖怪の頭を鷲掴みにするともはや囁くなどと言う配慮も効かぬ勢いで声を絞り出した。
「文脈から感じ取りなさいこのバカ中国!!咲夜はあなたの事が好きなの!ライクじゃなくてラブなの!!あの子どう見てもそうとしか見えないのよ!!」
 言葉と腕に思考的にも物理的にも脳みそをシェイクされつつ、わかったわね!!!と放り投げられてしまうのは美鈴。
 ゆらっ、と立ち上がった彼女は焦点の合わない思考に専念した顔で、何かをぶつぶつ呟きながらふらふらと部屋を去っていく。
 椅子にとすんと勢いよく座り直したレミリアは、おかわりをお願い、部屋の遠いところに居るであろうメイドへとカップを差し出して自らの失態に気付いた。

――丸聞こえだったわ。






 咲夜はやっぱりきーんと空を飛んでいる。
 もう勢い込んで訪ねに行く相手も居ないのだが、なにぶんまともな収穫がなかった事に相まってあのバカップルの現場に出くわした事で少々気が立って、これはその腹いせである。
 そしていくらか気分良くちょっと本気を出して空を飛んでいると、いつの間にやら彼女は三途の河原にいた。
 少々無軌道に飛び回り過ぎたのか、気づけばどんよりと曇るあの世とこの世の境。
 いい加減にして帰ろう、と彼女が踵を返そうとしたところ、そんな背中にどこか威勢の良い声が掛かる。
「なんだ、メイドじゃないか」
 咲夜は思わず振り返るが、見渡す限りそんな声を発し得る存在はない。
 よくよく目を凝らせば川の遙か向こうに一隻の船のような点が見えるが、あの距離では声は届かないだろう。
 しかし思うのは常識の範囲の話である。
 咲夜が船の姿を認めると同時に、船と咲夜の間は歪むようにどんどん縮み、10秒もしないうちに船はこちらの川縁にたどり着いてしまう。
「あれ?あんた死んだんじゃない、みたいだねぇ」
 辿り着いた船からはよっこらせとばかりに赤い髪の背の高い女性、死神の小町が降りてきてそう言った。
 とりあえず呼び止められて降りてきた咲夜を前に、彼女は、てっきりころっと死んできたのかとおもった、と背丈に見合って豊かな体をゆっくりと陸に立ち上げつつ呟く。
 ゆさったゆんと例の部位が揺れて、ここは生きてるヤツの来るところじゃぁない、さっさと帰んな、と声が飛び出すと咲夜の巨乳ムカツクゲージがついに臨界を越えた。

「…………さようなら」
 放つ言葉は、別れの言葉。
 御手に閃く、銀の牙。
「そうそう、さっさと帰って……ってうわぁ!!」
 咲夜の言葉を別れの挨拶と思っていた小町は、臨戦態勢の咲夜を認めて思わず叫び声を上げた。
 彼女は理由はわからないがとりあえず逃げようと、転がるように宙に飛び出し、己の力で先ほどのように自分の前の世界を川の向こうに縮め出す。
「逃がさないわ」
 しかし駆け寄る咲夜の力はその縮めた距離の空間を瞬間的に引き延ばし、一瞬効果を失わせる。
「きゃんっ!?ぁああでもあたいの力の方が距離を――」
 そして、彼女はそれ以降の言葉を継ぐ事はなかった。
「距離操作で勝とうなんて気はないわ。一瞬でも止めれられれば、あなたの時間は私の物」

 そして、三途の川に滅多刺しで図体のでかい巨乳の土左衛門が――



















「小町?小町はどこー!?」
はいこんにちは、そして初めまして。
ここに投稿するのは初となります。とりあえず「もそきよ」とお呼び下さい。
このSSでは美鈴が微妙に強キャラですね。まぁその辺あしからず。

さてさて、幻想郷を飛び回っても胸を育てる方法を見つけられなかった咲夜。
レミリアのお茶に捕まり咲夜は自分を好いているようだと聞かされた美鈴。
そして好きな人を訪ねられてしまったうどんげと訪ねた永琳。
ギシアン真っ最中から邪魔され、続きをどうぞと言われたもこけーね。
何にも悪い事してないのに不意打ちで三途の川に浮かぶ小町と待てど暮らせど魂が送られてこない映姫。
……の、三組は置いといて。
咲夜と美鈴、二人は一体どんな変遷を経てどんな結果に辿り着くのか!?
「紅魔館の人々。『胸の話』後編」 ご期待あれ!!



でもまだ後編完成してないヨー……
もそきよ
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コメント



0.3650簡易評価
20.-10名前が無い程度の能力削除
×永淋○永琳
22.60haruka削除
ゆったりと、一読させて頂きました。
とりあえず、らぶらぶ成分は増加するという解釈でよろしいでしょうか?
え? ダメ? そんなこと言わずにお代官様!

というわけで。
文章に関してなのですが、地の文に会話文が入りすぎて、少々読みづらく思います。あとは、展開の性急さに、少しだけ、違和感も。
これは私だけかもしれませんが、一読者の視点から、ということで心に留め置いてくださると光栄です。

では、後編、期待しています。
33.無評価もそきよ削除
>×永淋○永琳
なおしましたー
42.70名前が無い程度の能力削除
強キャラ中国も……うん。
47.無評価れふぃ軍曹削除
少し文章が固いかな…。
と言うよりは逆に、全体の流れから「悪食幽々子」や「みょん」や「中国という言い回し」と言った存在が浮いている様な感じがします。
笑いを取る部分も、あくまで「胸」というテーマに当てはめた場所だけに絞った方が、上手くまとまる様な気が。

まだ前編で言うような感想ではない気もしますが…。
まあぶっちゃけ言いたいことは…。

妹紅……めちゃかわいい…。(笑)

とりあえず完結まではフリレでご容赦を。
77.80時空や空間を翔る程度の能力削除
胸が小さくても私はOK!!!
78.100名前が無い程度の能力削除
悩む気持ちは分かるぜメイド長!!