Coolier - 新生・東方創想話

衛星ネクロファンタジア

2020/03/14 21:42:36
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衛星ネクロファンタジア




 まだ片われ月が、山の背中へ落ちない刻に、大きなけわいを感じて境内へ出ると、その眩しさに 「わあ」 と言った。
 沢山の光の粒が、境内を満たしていたのである。
 その蛍にも似た光の粒を、あるいはついに、天人が取りかえしのつかない何事かをしでかして、すべて空の星々を、大地に叩きおとしたのかしら。と思ったけれども、上を見ると星々はまだ、天上の闇に張りついていた。落ちてきそうには見えない。
 胸さわぎもしないので、異変とも思えない。珍しい光景ではあったけれども。
 私はしばらく境内に現れた、光の粒を眺めることにした。
 空を飛んで、鳥居の上に座った。博麗神社と同じように、光の粒に覆われた人里が見える。人里だけでなく、地平線の果てまでも、光の粒に覆われている。
 口もとに右手のひらを当てがって、そうではない。とは言わないで 「この光の粒はなんなのかしら」 と独りごちる。
 そのとき口もとの人さし指に、ひとつの光の粒が乗った。私はそれを捕まえると、手のひらの中で弄んだ。
 それから私はこの光の粒を、どこかで見たような気にさせられる。
 どこだろう。私が友達より、頭がわるいとしても、別に痴呆ではない。しかし自分はもとより“過去”に比べて“今”を大切にする性格であった。
 思いだすことなど……。
 と頭を働かせていると、不意に光の粒でも星々でもない、一筋の線が魔法の森から近づいてくる。それは隕石のように一直線で神社に向かってきて、私にぶっつかる寸前で、宙空に止まると、寝間着すがたで 「おはよう」 と言った。
 私の友達は、珍しく大きな帽子をかぶっていない。

「こんな時間にどうしたの」
「どうしたも何も、やたらと窓の外が明るいので、外を見たら星のような光の粒に家が覆われているじゃないか。ヘンに思って空に出たら、いよいよ幻想郷の全土が光に覆われている。おまえも気がついただろうと思って、神社に来てみたわけだよ」

 私は蛍のようだとたとえ、友達は星のようだとたとえる。
 何がちがっているのだろう。

「ねえ」

 私はこの光の粒を見たことがある。
 と聞いてみたら、

「なんだ、おまえは忘れてしまったのか」

 と言っているあいだにも、私の友達は箒に乗りながらも、微妙に宙空で上下している。そうして宙で安定を取っている。無知を挑発するからかいのたゆたい。

「おぼえていないわ」 と私は素直に言ってから 「教えてちょうだい」

 と媚びてみても、そこで得意にほほえんで、教えてくれないのが、私の友達の癖であった。
 …… 「なあ」 と私に声をかけると。

「この光から、私は宇宙を感じるよ」

 私は 「宇宙?」 とオウムのように返すしかなかった。

「どうしてそう思うの」

 とさらに言葉をつけたしてみたら、

「だって宇宙には砂粒のような光が点々としているだろう。そうして今、本当なら暗くしずんだこの場所に、どうしてか光の粒が満ちているだろう。はるか空の階下のこの場所に。たとい地上にあったって、その暗闇に丸い小さな光の粒があるならば、それは宇宙だと思うんだ。
 広義的には……宇宙と空と地に空間の境いは……ないわけだし」

 その熱っぽい語りぐちは、しだいにすぼまっていった。
 つい語りすぎて、恥ずかしくなったのだろう。
 宇宙と星が好きだから。それが友達の心をざわめかせる。
 私はすこしはにかんで、たしかにこの現象は宇宙だと思った。そう信じるみることにした。
 宇宙の地に降りそそいだ光のめあて。
 と思いこめば光の粒は本当の星の小さなかけ。
 私がわざとらしく分かったようにうなずくと、

「なんだよ。ふん、おまえに宇宙が分かるものかよ。なんとなしに、星が……きれいとしか思ってないのにさ。
 宇宙ってのは、空への憧れそのものなんだよ。ときにおまえは、鳥になりたいと思ったことはあるか?」
「ないけど」

 と私は冷酷に言う。その問いの意味を解さないから。

「おまえは産まれながらに飛べるだろう。だから鳥になりたいとは思わない、思えないんだ。
 鳥になってまで、空を飛ぶと言うのは、人間の普遍的の願いなんだよ。その願いは宇宙に通じているのに、肝心のおまえは鳥への憧れをしらないので、誰よりも宇宙に近いくせに、宇宙に無知だと言っているんだ」

 そのとおりかもしれない。と考えもしないで納得すれば、それはたしかに私の無知の証しであった。
 それでも、

「星がきれいと思えるだけで充分じゃない?」

 と自分でも、妙に屈託なく言ってのけたら。
 私の友達は虚を突かれたように、きらきらの瞳を丸くしている。
 それから呆れたように 「これだから巫女と言うやつは」 と呟いていた。
 私はもちろん、その言葉を素どおりしようとしたけれども。

「あっ……ミコ」
「どうした」
「いや、思いだしたの。ミコって言葉で。巫女じゃなくって、神子だけど。この光は、神霊廟の底で見た、欲の霊ってやつと似ているわ」
「似ていると言うか……」

 同じなのであった。
 ……それにしても、

「なら、これはなんの欲の霊なのかしら」
「それは知らない。また仙人が、何かやらかしたのかな」

 私の頭のよい友達が知らないのなら、永遠の謎になるのかもしれない。とそのときは思った。
 しかし答えは思わぬかたちで、私たちに示された。
 一緒に神社の中へ戻ると、机に外の世界の新聞が、置かれていたのである。

「すきま風が置いていったのかな」

 私の友達は“すきま”をいやに強調して言った。

「すきま」
「うん、すきま」

 私たちは新聞を読んだ。そこにはこんなふうに書いてある。

“月面へふたたび有人飛行。××年ぶりの、人類の希望”

「ふん、なるほど。結局のところ宇宙じゃないか」

 と言う私の友達は、心なしか嬉しそうに見える。

「あの欲の霊たちは外の世界の人間たちの、しばらく忘れられていた、宇宙を探求しようとする欲望なんだと思うよ。
 忘れたまえば、それは幻想郷へ至るのだから。この地の底に捨ておかれてしまったそれが、外の世界へ帰るために、土の中から這いだしてきたのだろう」

 私の博識な友達は、推理を披露したあとに、アポロの話しをしてくれた。
 ギリシア神話のことではない。そちらも別に、詳しくはないけれども。

「外の世界の雑誌で見た、にわかの知識だけど……。
 アポロ十一号と言うのは、最初に人間を、月に送りとどけた船だと聞く。
 有人月面着陸は、それから五回もおこなわれたけど……十七号を最後に終わった」
「どうして?」
「知らないよ。そんな暇はなくなったのか、飽きてしまったのかもしれない。でも今は、それがふたたび再燃した」
「月なんて行こうと思えばいつでも行けるわ」
「まあ、私たちは月に行ったことがあるからそう言えるさ。でも月に行きたくても、それを叶えられないやつが、世の中には山ほどいる。
 誰でも簡単に飛べるわけじゃない。届かなければ、手を伸ばすばかりさ」

 あるいはついに、外の世界には、すべての人間がいつでも月に行ける時代が、近づいているのかもしれないよ。
 と私の友達はささやいてくる。
 そのとき不意に、私の胸に奇妙な感傷が走った。

「なら、なら。外の世界の人たちみんな、地を離れて宇宙に去ってしまうの?」
「そこまでは言わないよ」
「もしそうなったら、幻想郷はどうなる? 私たちは、空へ去ってゆく人たちに、置きざりにされてしまうのかしら……それって、せつないわ」

 そこまで言って、私は気がついた。
 私は鳥に憧れない。産まれながらに飛べるから。
 しかし私はまさに今、空想でしかないけれども、置きざりにされる寂しさを感じている。空に飛びたつ、外の人たちを想いながら。
 これがはるか眼上の鳥を見あげながら、それに憧れることなのだ。と私は知った。
 ……。
 その日はふたたび眠りにつくと夢を見た。
 外の世界の人々が、この星とはちがう、遠くの星に移住している。その星の中に、もちろん幻想郷はない。しかし代わりに幻想郷は衛星として、その星につかずはなれず、以前と同じようにまつわっていたのである。
 そうして私たちは、今でもときに、外の世界を馳せるように。
 その星を衛星から見つめながら、私たちを見つけてくれる日を待っていた。
 今でもそうであるように。
 それにしても、宇宙の衛星の幻想郷では、名の納まりがわるいので。
 私はその衛星を、こんなふうに呼ぶことにした。




衛星ネクロファンタジア 終わり
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コメント



0.170簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
不思議な感じでした
2.100サク_ウマ削除
きらきらと輝きに染められた世界。外界の夢。空を飛べる彼女の、宇宙(そら)へ飛ぶ者たちへの感傷。
神秘的で素晴らしい作品だと思います。お見事でした。
3.100終身削除
色々と眩しいお話でした 多分正解なんだろうけど不思議現象についてあくまで1人の人間の解釈として触れられていて疑問が解決した爽快感があるのに神秘的な感じが残っていてロマンチックな気分になれ塩梅が良かったと思います
7.100名前が無い程度の能力削除
小説なんて星がきれいと思えるだけで充分なのよ
8.100Actadust削除
幻想郷は空を飛ぶのが当たり前のようですけど、みんな二本足で地面に立って、そこで生きてるんですよね……。
きらきら輝いているようで、どこか退廃的な、とても素敵な作品でした。
9.100ヘンプ削除
とても素敵なお話でした。
憧れ、そして感傷……入り混じったような、そんなおはなしでした。霊夢の感傷、魔理沙の話。とても良かったです。
10.100南条削除
空も飛べるし月にも簡単に行ける霊夢ですが、置いていかれるかもしれないという懸念には寂しさを感じる
持って生まれたものが違うだけで、根っこのところでは霊夢も普通の人間なのだろうなと思いました