Coolier - 新生・東方創想話

その日は朝から夜だった

2020/01/24 11:21:12
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 その日は朝から夜だった。

 しかし、普段から時間の概念がない秋姉妹の二人は、そんなことは知るよしもなく。

「姉さんおはよー」

 穣子が寝ぼけ眼で囲炉裏へやってくると、静葉は涼しい顔で告げる。
「まだ夜よ」

 眼をこすりながら穣子は、大きなあくびをする。

「そっか。んじゃも少し寝るわ。寒いし」
「そ。おやすみ」

 穣子はきびすを返すと、自室へ帰っていった。

 数刻後、再び穣子がやってくる。

「姉さんおはよー」

 静葉は涼しい顔で告げる。

「まだ夜よ」
「結構寝た気がしたけど……じゃ、も少し寝るね」

 再び穣子は自室へと消えていく。

 更に数刻後。

「ねえさん、おあよー」
「まだ夜よ」
「なんかもう十分寝た気がするんだけど」
「外見てご覧なさい」

 首をかしげていた穣子は言われるまま外を見る、確かに暗かった。

「夜ね」
「夜でしょ」

 穣子は納得したようにうんと頷く。

「でももう眠くないし起きるー」

 そう言うと穣子は、囲炉裏のそばへ胡座をかいて座る。

「ところで、姉さんは何してたの」
「火を見てたのよ」
「火?」
「そう。囲炉裏の火の揺らぎを見つめていたの」
「そんなことして何が楽しいのよ」
「こうして火の揺らぎを見ていると、段々と精神が統一され、感覚が研ぎ澄まされていき、自然に私が神としてなすべき事、そして、この山における自分の立ち位置。果ては幻想郷の行く末なんかを、ぼんやりと考えられるようになってくるのよ」
「……よーするに暇って事ね」
「そうね」

 そう言って静葉は、にやりと笑みを浮かべる。
 穣子は気怠そうに、頬杖をつく。

「ほら、暇なら穣子も眺めてみるといいわ」
「嫌よ。そんな根暗っぽいことしても面白くないし。それなら囲炉裏で焼き芋作った方がまだマシだわ」
「本当、穣子は花より団子ね」
「そう言う姉さんだって美味しいもの好きでしょ」
「それはもちろんよ。美味しいものは心を豊かにするもの」
「でも、火は美味しくないでしょ」
「そうね」
「なら、火よりイモの方がいいじゃない」
「その理屈はおかしいわよ」
「なんでよ」
「だって火はそもそも食べ物じゃないわ。火を食べるなんて火の神様くらいじゃない。でもイモは違うわ。イモは誰でも食べられるでしょ。食べ物だもの」
「私は愛でるときもあるけど」
「あなたは例外よ。だって――」
「あー先に言っておくけど芋の神様じゃないからねー」
「ええ知ってるわ。焼き芋の神様でしょ」
「なんでそんな限定的なのよ!? トイレの神様くらい限定的だわそれ」

 姉との身のない会話に疲れた穣子は、ふうとため息をつくとちらりと外を見る。まだ暗いままだ。

「姉さん。まだ朝来ないみたいなんだけどー」
「そのうち明けるわよ」
「そうかしら」
「そうよ。止まない雨などない。明けない夜はない。幻想郷の夜明けは近いわ」
「まー別にいいけどさー。朝になってもやることないし」

 そう言って穣子はごろんと横になる。
 ふと、静葉が告げる。

「そういえば思い出したんだけど、昨日はお天道様が西から昇って東に沈んでたわね」
「はぁー? 何それ。姉さんの見間違いなんじゃないの?」
「そんなことないわ。私は一度見たことは忘れないもの」
「ふーん。じゃあ、昨日の文さんの新聞の見出し言ってよ」
「もちろん覚えてるわ。『怪奇! 夜歩く埴輪人間出現!?』ね」
「ふーん。じゃ、その前の日は?」
「『衝撃の事実! 雪不足はレティが風邪を引いたせいだった!?』だわ」
「じゃ、その――」
「『里激震! 寺子屋爆発事件!』」
「ぶー! ハズレー」
「あら、どうして?」
「その日は休刊日でしたー」

 そう言うと穣子は、にやっと笑みを浮かべる。
 静葉も不敵な笑みを浮かべて告げる。

「というか、そもそも穣子はいつも新聞まともに読んでないじゃない」
「必要ないもーん」
「だからいつまで経ってもイモっぽいのよ」
「余計なお世話よ!」
「もう少し幻想郷のこと学んでみたらどうなの」
「嫌よ。面倒くさい」
「だから鈍くさいのよ」
「そんなことより、うどん食べたい」
「だからうどんくさいのよ」
「うどんくさいって何よ。どんなにおいよそれ」
「そうね。ほのかな小麦粉のにおいとか、だしの効いたつゆのにおいとか」
「まーた適当なことを言って……」

 そう言って穣子は、はぁとため息をついて外を見る。まだ暗い。

「ねえ、いくら何でも長過ぎない? 夜」
「そうね」
「なにかあったのかしら」
「きっと夜さんが朝さんを陥れたのよ。そしてこうやって幅をきかせているんだわ」
「……昼さんはどうしたのよ」
「そうね。昼寝でもしてるんじゃないかしら。昼さんは昼寝が趣味なのよ」
「ずいぶん怠惰ね。そいつ」
「どこでも横になれば3秒で眠れるのよ」
「あのさー。思いつかなかったからって、いくらなんでも適当過ぎない? さっきっから何よ。朝さんとか昼さんとか」
「え、まさか、穣子知らないの? 朝の神様と夜の神様よ?」
「あっ、えっ、神様のことだったの……? さん付け呼びだったからすぐ思い浮かばなかったわよ! もう。早く言ってよ! っていうかそれ本当だったらかなり大事じゃない!? 神様同士の喧嘩って異変って奴じゃ」
「大丈夫よ。なんにせよいずれにせよ解決するから」

 そう言って静葉はにこりと笑みを浮かべる。
 その更に数刻後、ようやく二人の家に朝日が差す。


 後日、新聞には、巫女によって異変が解決されたことを伝える記事が載っていた。
 
「ね。私の言ったとおりでしょ。 なんとかなるって。異変だからって慌てる必要なんてないのよ。大抵は私たちとは無関係なんだから」
「まぁ……たしかにそうなんだけど……姉さんはいいの? それで」

 複雑そうな表情を浮かべている穣子に、静葉は笑みを浮かべて告げる。

「これでいいのよ」
???「これでいいのだ!」
バームクーヘン
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コメント



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1.80ペプチド削除
面白かったです。
凄く読みやすくてほんわかとしました。
2.90奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気で面白かったです
4.80名前が無い程度の能力削除
何気ない会話の雰囲気好き
5.100モブ削除
永夜ですかね? こういう本筋から外れた所の話は想像しがいがあって面白いです。ありがとうございました
7.100終身削除
起き始めの時間ってなんだかとてもゆったりしていて気分が良いですよね この2人だけの空間で好きなように思いついた事を話しているようななんだか本当に時間もゆっくり進んでいるような感じでほのぼのしていて良かったです 
8.100名前が無い程度の能力削除
異変を大事ととらえる穣子とは対照にのんびり構えて、それでいいのよと動じない静葉はある漫画のパパみたいでした。