Coolier - 新生・東方創想話

微睡みの中へ

2020/01/03 00:49:35
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 不意に、目が覚める。
 満ちる静寂。薄暗い部屋。目覚まし時計や寝坊した彼女の慌てる音も、朝日の明るさも無い。早朝なのだろう、と目に映る明度と同じくらいぼんやりしている思考でそう察した。
 起きるにはまだ早い時間帯に、起きたにしてはあやふやな意識。
 きっと今は、夢を視ていたはずなのに、何かの拍子で意識が現に来てしまった、そんな状況なのだろう。
 謂わば、ゆめとうつつが溶け合っていて。
 或いは、ゆめとうつつの間で彷徨っていて。
 夢でもあり、現でもある。
 再び夢の中へと戻り、朝を迎えれば、忘れてしまうような時分。
 今回の切っ掛けは、この肌寒さの所為だろう、と体を震わせた。
 たまらず、掛け布団を手早くかけ直し、近くの暖かそうな物の方へ無意識に寝返りを打つ。
 すると、視界の暗度が先程よりもやや高まった。目をしばたたかせると、その理由がよく分かった。
 茶色掛かった黒髪の彼女が、こちらに顔を向けたまま寝ているからだ。
 寝相のせいか、はだけてしまった私とは違い、彼女は布団にしっかりとくるまり、すぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てている。
 幸せそうで羨ましいなぁと思いながら、そんな彼女を見つめながら再び夢の世界へ意識を手放そうとした瞬間。
 ふと、些細な疑問が頭を過った。
 ……どうして、彼女とこういう間柄になったのだろう、と。
 気が付いたら、出会っていて。
 気が付いたら、惹かれていて。
 気が付いたら、いつも居て。
 気が付いたら、一緒に住んでいて。
 切っ掛けはいろいろあった。
 彼女からの提案だったり、私のアイデアだったり。
 でも、その原初の動機とは、一体何だろう。
 唐突な自問に対し、私は、自答する。
 有り体に言えば、私は彼女に好意を抱いている、という事だ。
 では――……彼女の、何処に好意を抱いているの?

「…………」

 根本への問いかけに、私は、ただ押し黙るしか無かった。
 見た目?
 確かに彼女の容姿は素敵だ。長い睫毛、柔らかそうな頬、凛とした顔立ち、私とは正反対の黒髪、体型も華奢で健康的。ころころと変わる表情は、どこか愛くるしい。可愛くて、綺麗で、美しい。自信を持ってそう言える。
 だが、ここまで好意を寄せる決め手としては、決定打に欠ける。
 ただ見ているだけで満足するなら、友人になる必要すら無い。
 では、頭の良さ?
 確かに彼女は、自他も認めるほどの明晰な頭脳の持ち主だ。物理学やオカルトは勿論、様々な分野に対して幅広く知識を有しており、洞察力も高く、会話をしていて飽きる事が無い。頭の回転の良さで、大小様々なピンチを乗り越えてきた事もある。
 だが、ここまで好意を寄せる決め手としては、決定打に欠ける。
 言葉を交わすだけで満足するなら、友人程度の関係性で事足りるだろう。
 ならば、性格?
 何事に対しても明るく真っ直ぐで、考えながらも手足を動かす行動派。何があっても自らの芯を通そうとする強い意志。
 裏を返せば、マイペースで、無遠慮で、他人のことなどお構いなし。周りの意見に殆ど耳を傾けない。加えて、時間にルーズ。何度待たされたことか。 
 ……今まで挙げてきた中で一番なさそうな気がする。
 では、特異な瞳?
 結界の綻びを視る私の眼のように、夜空から時間と場所を視る、彼女の眼。他に異能を有している人は見たことが無い。私も、そして彼女も、その眼の秘密を他の人に明かしたことも無い。
 二人だけの秘密。だからこそ、二人で秘封倶楽部を結成したと言っても過言では無いだろう。
 そんな境遇に対し、何かしら特別な感情を抱くのは、当たり前とも言える。
 だが、ここまでの好意を寄せる物かと言われると、自信が無い。
 倶楽部活動だけで満足するなら、ここまで距離を縮める必要なんて無いだろう。
 ……考えれば考えるほど、確実な答えを出せない。
 いや、答えは見えているはずなのに、それを掴めずに居るような。
 手で握りしめようとすると、隙間から抜け出てしまう煙のような。
 思うように言葉で表せない。
 いや、まさか。嫌な想像が頭をよぎる。
 ……もしかすると、答えだと思っている物は、嘘で。
 彼女への想いは、偽物で。
 だから、上手く言葉に出来ないのでは?
 取り留めも無い思考が、おかしな渦を巻いてしまって。
 何の気無しの疑問符が、具体的な不安になってしまって。
 不安はどんどん募り、恐怖心となり。

「……いやぁ」

 無意識に、そんな言葉を呟いて。
 私は、彼女に抱きついていた。
 己の突飛な行動に驚き、慌てて離れようとするも、バタバタと動いてしまっては彼女を起こしかねない。静止し、様子を見る。……問題なさそうだ。
 ほっと胸をなで下ろすと、私と彼女の息遣いだけが在った空間に、とくん、とくんと、メトロノームのように規則正しい音が加わっていることに気が付いた。
 その音に、耳を傾ける。
 とくん、とくん。
 とくん、とくん。
 彼女の心臓の音が、鼓膜を通じ、脳に、体に、そして心に、響く。
 心地の良いリズム。
 安心できるリズム。
 私を包み込むようなリズム。
 心が安らぐ。
 抱きつく前は、不安でいっぱいで、ざわついていた心が、本当に穏やかに、安心感で満ち足りていた。
 きっと、この鼓動が、彼女のリズムが、自分のリズムと合わさっているのだと。
 ……私と波長が合っているのだと、なんとなく理解した。
 この音も、匂いも、温もりも、距離感も、何もかもが合っていて。
 そんな彼女が――そんな彼女だから、好きなんだ。
 先程の問いに対して、そう確信しつつも、不安を抱くほどに自問自答してきた末の答えがこれなのかと、我ながら苦笑してしまう。
 勿論、今まで挙げてきた彼女の要素だって大好きだ。かけがえのない、大事な彼女の一側面なのだから。
 けれど。
 波長が合うだなんて、ありふれていて、あやふやな言葉に落ち着いてしまうのだ。
 もっともっと深く踏み込んでみれば、もしかすると、この好きだという想いを、具体的な言葉で、細かく、いくらでも挙げていけるかもしれない。
 でも、それは違うと思う。
 逃げや極論から来る否定では無い。
 何故なら、好きだというこの感情を、美辞麗句を並び立てて表現しようとしてしまえば、その言葉で再現できなかった感情を、切り捨ててしまうことに他ならないのだから。彼女への好意である事に変わりは無いはずなのに、失われてしまう。それは避けたいから。
 ……なんてことを言ったら、ロジカルな彼女は笑うだろうか?
 いや、違う。
 彼女だって、明瞭な答えが無くても、言葉では判らなくても良いと、思っているはずだ。
 だって、この科学世紀においても尚、未だ答えの無い不思議を求め、愛する者なのだから。

「そうよね、蓮子?」

 もぞりと動き、彼女のことを、一層強く抱きしめて。
 とくんと跳ねた鼓動を耳にしながら、
 押しつけでは無いと、独りよがりでは無いと、そう信じて。
 想いを込めて、彼女の名前を呟いて。

「当たり前じゃない」

 え、なんて素っ頓狂な声を漏らした直後。私は強く抱き返されていた。
 見上げると、寝ていたはずの彼女が目を細めていた。
 いつの間にか起きていたらしい。

「何が当たり前なのよ」
「好きだという想いを、在り合わせの言葉で表す必要は無いって事」

 思わず目をしばたたかせてしまった。
 ゆめとうつつが混じり合っているから、私の考えが彼女の方へ通り抜けてしまっていたのだろうか。彼女の目に手をかざすことで、私の夢を彼女と共有出来るように。
 それとも、さっきからずっと独り言でぶつぶつ呟いていて、彼女に筒抜けだったのか。

「大正解よ、蓮子」
「貴女の考えていることなんてお見通しだから」

 彼女はそう言ってから、私の頭を軽く撫でた。

「好意の有無への言及は簡単。確認のためにも必要ね。けれど、その好意の形を言葉にして決めつけてしまうのはナンセンス」
「どうして?」
「可能性が、狭まってしまうからよ」

 彼女の背中を優しく撫でながら、私よりも飛躍していて、それでいて説得力のある理由の詳細を聞く。
 
「有限の言葉で言い表してしまえば、好きだという想いに秘められた可能性も、有限になってしまう。数限られた言葉の中から選び取る所為で、自ら限界を決めてしまうから。
 だからこそ、あえて輪郭を不明瞭にしておけば、きっとどんな言葉でも当てはまるような、無限の可能性が秘められるようになると思うの」

 撫でていた手を私の頬に添えながら、彼女は言った。

「だって私は、貴女との繋がりに、限界を感じたく無いから。
 あらゆる可能性を、貴女と共有したいもの」

 繋がり、間、関係性。
 そこに秘められた、無限の可能性。
 でも、それは。

「好き以外の感情もあり得るって事? だとすると、蓮子のことを嫌いになってしまう可能性も内包しているという事なの?」
「好きも嫌いも、望みも妬みも、何だって全部同義語よ、私達にとっては。きっとね」

 彼女の指摘には心当たりがあった。互いの目を気持ち悪いと形容した事だ。
 きっとそれは、負の感情を抱くという可能性の一部が表出していたのかもしれない。

「そう考えると、秘封倶楽部も、この好きだという感情も、私達を結ぶ運命の赤い糸に秘められた可能性の一つに過ぎないのかもしれないわね」

 小指をくいと動かす彼女。
 何もかもを内に秘めるその糸は、有り難くもあり、何処か畏ろしくもあった。
 でも、不思議と、悪い気分にはならなくて。
 ぽつりと、呟く。

「いつから、私達はその赤い糸で結ばれていたのかな」
「出会う前から……いや、生まれたときから、かしら。むしろ、私達はそう在るように存在している、としたらどう?」
「良いわね。ロマンチックだわ」

 それは、ある意味、運命共同体のような。
 ……二人で一つで在るように存在している、私達。
 どんな始まり方であれ、私達は手を取り合っていただろうと。
 どんな終わり方であれ、私達はそれを納得しているだろうと。
 始まらなくても、終わらなくても、私達は何処かで繋がっているのだろうと。
 きっと、世界がどう在ろうとも、私達が私達である限り、私と貴女は出会っていたし、互いに想いを寄せていたと。
 彼女の言葉を通じて、確かな確信が、私の胸の内には在った。
 ……あえて確定しないことで存在し続ける、無限の可能性。
 その可能性の末に、一つ屋根の下、同じ布団で寝ている今。
 こんな形に落ち着いた私達は――。

「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子」
「愛してる」
「私も、愛してるわ」

 今の私達には、それだけで十分だった。
 それだけで、想いの全てが伝わるのだから。
 互いに小さく笑ってから、互いをぎゅうと抱き直して。
 好きな人の腕の中で、今一度、微睡みの中へと還っていった。
書き初めです。
去年の書き納めとの温度差がやばい。
でも久々にストレートに甘々なSSが書けて楽しかったです。
無限の可能性を秘めた彼女たちのためにも、今年も創作活動を頑張りたいところ。
というわけで、書くべき原稿に戻ります。

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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良い感じの秘封でした
2.90名前が無い程度の能力削除
甘々な秘封に癒されました、良かったです