Coolier - 新生・東方創想話

たとえ高く飛べたとしても

2019/12/27 20:08:18
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 すぅ、と私の意識は浮上した。
「うにゅ……」
 見えたのは天井。私のお気に入りの物を貼り付けた天井が見える。ごそごそと布団から身体を起こす。
「……何を見たんだっけ……」
 ごしごしと目を擦ってもなにも思い出せない。ぼーっとする頭を振り払おうとして左右にぶんぶん回す。それでも頭の中は晴れなくて、ベッドに座り続けた。


「……く、お空! どうしたの、そんなにぼーっとして」
 声が聞こえたと思ってハッと意識が戻るとベッドの傍にお燐が立っていた。こちらを不思議そうに見ている。
「お燐……おはよ……何見たかわかんないや。なんか頭が回らなくて」
「夢でも見たのかい? それにしても珍しいね、そんな風になるなんて。さ、着替えてさとり様と朝食だよ。早く来てね」

 お燐は軽やかにタッタ、と私の部屋から出ていった。

 ううん、さとり様の前でこんな顔してちゃダメだよね。ほっぺを叩いて気合いを入れた。

 ***

「ほらほら、遅いよお空! 久しぶりにこいし様もいるのにどうしたのさ」
「やっほー、お空久しぶりー」
 やっとの事で着替えて食堂に行くと、入った所でお燐から大きな声で言われる。こいし様が何かを言ったような気がした。
「眠くて……」
「私が頭叩こうか?」
 こいし様が言う。それにさとり様が少し笑う。
「こいし様のビンタ痛くて嫌だよ。本気で叩くから嫌……」
「ぶー楽しいのに」
「それ楽しいのはこいし様だけじゃないかなあ?」
そう言って三人で笑う。

「はいはい、朝食を食べますよ。お空、席に着いてくださいな」

 さとり様の声で私は席に座る。さとり様とこいし様が隣でお燐と私がその反対の席に座っている。元から人型のさとり様とこいし様、人化の術を使えるお燐と私だけ座るところだから。だから四人机になっている。他のみんなは床で食べる。

「いただきます」

 ***

 バサリ、と空を飛ぶ。空と言っても地霊殿の地下、灼熱地獄の縦穴を飛んでいる。剥き出しの壁の岩に当たらないようにゆっくりとバサッ、バサッと降りていく。地獄の跡からの熱はいつもの通りに熱い。周りは薄暗くて、下に降りていく度に光が強くなっていく。
 ゴポッ、ゴポッ……ぐつぐつと煮え滾る赤い水。罪人たちをとらえて離さない光。すれすれの所まで私は近づいて熱の調整を始める。制御棒を掲げて、周りの温度を下げて行く。そこで私は違和感を感じた。

 温度が下がらない。いつもなら制御を始めた時点で徐々に下がっていくはずなのに。むしろ制御出来ずに温度が上がっているかのように思う。

「……なにこれ! どうして下がらないのっ……!」

 いつも出来ることが出来なくて分からなくなる。このっ!このっ! いくらやろうとしても温度は下がらなかった。

 どうしよう。温度が下がらないと、この赤い水が溢れてきてしまう。

 昔、さとり様に拾われる前、ただの地獄烏のときに、私は一度だけ灼熱地獄のこの水が溢れて旧地獄中が赤く、熱くなったことがあった。それに気が付かずに仲間がみんな水の中に入って燃えて死んでいった。飛べるものは宙に、飛べないものは針山地獄の高いところにしがみついて生きのびた。三日三晩、赤い水は引かなかった。そんなことになったらさとり様が……

 悪い意識を振り払うように頭を勢いよく回す。だめ、そんなことはさせない。でも、さとり様には言えない。誰に言ったら良いんだろうか。焦る頭で考える。
 ……! 緑の巫女さんがいた! それが頭に思いつくやいなや、私は地上に向かうためにがむしゃらに空を駆けていた。

 ***

「赤い水が溢れてくる?」
 後ろに凄いものをつけた大きな神様が言う。私がバタバタと神社に飛んできた時は緑の巫女さんに退治されそうになった所を神様が助けてくれた。そうしてさっきまでいた灼熱地獄の様子を慌てて伝えた。
「神奈子、それって……噴火じゃないの」
 小さい方の神様がよく分からないことを言っている。
「しかし、妖怪の山は噴火したことあるだなんて聞いたことないぞ」
「そりゃ、私たちこの辺の詳しいことは知らないよ。何が起源か聞かないことには分からないよ」
 何言ってるんだろう。温度が下がらなくても大丈夫なのだろうか。
「あの、私どうすればいいの……わかんないよ……」
「お空、少し落ち着け。今はまだ大丈夫だ。いま下がらないといって、上がり続ける訳じゃないだろう」
 大きい方の神様が私にそう言う。
「でもっ! でも!」
 仲間が苦しみながら死んでいったことを思い出す。そんなことしちゃいけない。苦しむさとり様は見たくない。
「ほら落ち着きな」
 小さい方の神様が何かを言うと、身体全体に何かが這うような感覚あった。私は驚いた。身体を見ると白い蛇に縛られていた。
「なに!?」
ジタバタと私は暴れる。怖いもので、食われそうで、逃げたい! 嫌だ!

「チッ、ダメか! 早苗! こいつを気絶させろ!」
「わかりました! お空さん、ごめんなさいね!」

 逃げようとしていた意識は真っ黒になっていた。

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