Coolier - 新生・東方創想話

リップ・サービス・モンスター

2019/12/10 20:19:13
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 ほの暗い空間に少女が独り。恐ろしい光を見ることなく、自身の柔らかい殻に閉じこもり遊んでいた。少女は狂気の自分が好きだった。鼻歌を歌って、孤独を謳って、爆弾のような冷たさを内側に秘めている実感が心地よかった。
 そんな私の世界に干渉する者があった。
「あ、お姉様、丁度良かった。私をここから出して、退屈で死んじゃいそう」
「おお、妹よ。それは難しい、なぜならお前は気がふれているからだ」
 私は狂っているらしい。だけど、生物は傀儡ではないのだからいつも予想を上回るはずだ。ちっちゃな自分の世界からはみ出たものを人は狂気と呼び、理性という檻に閉じ込めたがる。
「非道いわ、私はまともよ。ちょっと力が強いだけ」
「そうだとも。だが我らは徒に人間を傷つけるような蛮族ではない。誇り高き吸血鬼なのだ」
「何が誇りよ、そんなもの吹けば飛ぶような芥と同じ。お姉様は怖いんだ、自分が壊れていくのが。そうよね、守るものが在るもんね」
「その通り、己の衝動を制御できなければ犬畜生にも劣るけだものに成り下がる」
「咲夜は優秀だけど、でも私の方が強いよ」
「腕力なら勝てる者は少ないさ。困ったものだ。愛おしい妹よ、力を誇示することは簡単だが、世界はもっと広いのだ」
 世界とは幻想郷のことだろうか。確かに私は勢力もシステムも知らない箱入り娘だ。
「じゃあその広い世界で勉強するから出して」
「それはできない」
 なんでも私の事を肯定してくれる姉は、なぜかこの鍵だけは開けてくれない。
「ふうん、結局そうなんだ。お姉様は私の事を閉じ込めてさ、嫌なんでしょ。私が表に出て、スカーレットの名が穢れるのが」
 姉妹はいつも二人で一つ。互いに欠けてはならないが、影が私で姉は光だ。真っ赤な狂気を閉じ込め続け、気高くあろうと胸を張る。
 影に潜む吸血鬼のくせに。
「……」
「沈黙が答えね。出来の悪い妹をもって残念ねぇ」
「それ以上喋るな。お前は少し疲れているんだ」
「何よ! 結局は自分が一番可愛いだけのナルシストがっ、池に落ちて死んでしまえ! そうなれば私は自由だ!」
 ここで二度目の沈黙が生じた。姉は口から絞り出すように言葉を発した。
「自由の意味をはき違えるな。頭を冷やせ」
「ああ! 神よ! どうかこの不幸な少女を救いたまえ! この檻を食い破る牙を! 暴虐の夜を殺す爪を! 死をも恐れぬ狂気を! 我に与えたまえ! あははは……!」
「……」
 私の唯一無二の姉は、精一杯無表情を保ち、地下室を後にした。


 地下室から上がり、図書館に出たレミリアは親友である魔女に声をかけた。
「ちょっとパチェー今度は何読ませたのよ」
「シェイクスピアとか、いろいろ適当に」
 やけに芝居がかった口調に、なるほどと一瞬納得しかけた。人間のやっている劇場に入ったときの記憶が呼び起こされたところで、レミリアはいやいやと考えを振り払った。
「悲劇のヒロインというよりサイコホラーだったわよ!」
「あの子なりに解釈したんでしょう」
「最後とか叫びまくってたわ、神よ! とか。吸血鬼なのに」
「で、付き合えなくなったと。あなただって似たようなものじゃない。異変の時とか」
「いや、もっとなんていうか、スマートに返すものじゃない。途中まではいい感じだったのに」
 時折、姉妹はこうやって戯れていた。今日は悲劇のヒロインを演じていたらしい。幽閉されて孤独な生活を送るうちに狂気に陥った少女、という設定だろうが、流石に急変しすぎだとレミリアは思った。
「影響されやすいのかも、あんまり変な思想の本とか与えないでね」
「じゃあ趣向を変えてエンタメね。『連続通り魔殺人鬼対大炎上爆弾魔事件』」
「やめて! 館吹っ飛んじゃう!」
「じゃあSF。オチは世界滅亡」
「もっとダメ! ……む、賊が入ったわね」
 レミリアは人間の気配を捉えた。図書館に用事がある侵入者は決まっていた。
「ちぇ、レミリアも一緒か」
 足音を消して近づいたようだが、感づかれてしまっては面白くないと魔理沙が本棚の陰から姿を見せた。
「あ、ネズミよ。追い出さなくちゃ」
「まぁまぁ、久しぶりね魔理沙。もてなしは紅茶と弾幕、どちらがお好みかしら」
「紅茶が良いけど、生憎ゆっくりしてる暇はないんでね。どちらも勘弁願いたい」
「くく、仕方がない。すぐに終わらせるとしよう」
 にやりと口元を吊り上げてミニ八卦炉を構えた魔理沙に対し、レミリアは上品な含み笑いで返して見せた。強者の余裕感たっぷりである。
「本は汚さないでね。レミィはいくら穢れてもいいけど」
「おい親友」


 5分にわたる壮絶な弾幕ごっこを終えたレミリアは自室に戻った。すると丁度メイド長である咲夜がシーツを交換していた。
「お嬢様。お召し物が汚れております」
「うー、ちょっとね。意外とてこずったのよ、あとで着替えるわ。それより咲夜、おやつは?」
「はい、ただいま」
 主の子犬のような愛嬌のある期待のまなざしが咲夜に突き刺さった。時間を止め、10分ほどかけてにやけ面を戻し、もう10分かけて紅茶とクッキーを用意した。
「本日はO型にしてみました」
「うむ、熱っ」
 ふうふうせずに口をつけたせいで、その紅い液体が持つ灼熱地獄をもろに食らってしまった。そしてドレスは血の池地獄と化した。
「淹れたてですので」
「舌火傷したー、しゃくやー、氷」
「はいっかしこまりました」
 一瞬だけ恍惚の表情を浮かべたメイド長は、吸血鬼の並外れた動体視力でもとらえきれない速度で姿を消した。そして時計の秒針がきっかり一回りした時に氷精を連れて戻ってきた。
「あたいになんか用か。あっ、妖精に何か要請か?」
「ありがとう、十分冷えたわ。帰っていいわよ」
「なんだよー呼んどいてさぁ。あ、そういえばあんたが実は、極悪非道妖怪モケーレムベンベだっていう噂は本当か」
「ブン屋ね……ばれてしまっては仕方がないなぁ、くくく、ぎゃおー! たーべちゃうぞー!」
 レミリアは両手を高く掲げ、牙をむき出しにしてチルノに迫った。
「おわ、豹変した! 四十八計逃げずんば虎児を得ず、ここは撤退だ、覚えてろー!」
「ふふん、いつでもかかってきなさい」
「何やってんのあんた」
 テラスまで追いかけたところで満足気に汗を拭った。テラスにはなぜか紅白の目出度い巫女が居た。
「あら、久方ぶり。すべての偶然は定められた必然、つまりはこの邂逅も運命だよ」
「急にそれっぽいこと言われてもなぁ。まぁ妖精と楽しそうでなにより」
「年長者が幼子に合わせるのは当然だろう」
「そうは見えなかったけどね」
「くく、それだけ私が――」
「れみりあ?」
「うー☆ 何言わせんのよ!」
 ちなみに霊夢は菫子を探しに来たらしい。魔理沙しか来ていないことを伝えると「なんとなくそんな気はした」と言ってお茶菓子をせびって帰った。


 ほの暗い地下室に少女が二人、今度は素の状態で会話していた。
「あのね、フラン、昨日のそんなに悪くなかった――」
「言わないで! 自己嫌悪に陥りたくないの」
「わかったわ」
 フランドールはだいぶ冷静になったようだった。昨日の会話を書き留めた、小説もどきの日記帳のページは、鉛筆で黒く塗りつぶされていた。
「お姉様はすごいね」
「うん、そうでしょう」
「そこは謙遜するところだと思う、もしくは具体的に聞くか」
「じゃあ、聞くわ。何がすごいと思ったのかしら」
「周りに合わせるっていうか、適応するっていうか。見てたよ図書館とテラスでのやり取り。楽しそうだった」
「え、ああそうなの。混ざっても、良かったのよ?」
 一瞬面食らったようだが、レミリアは特に動揺したり赤面したりすることはなかった。
「無理だよ。暴走しちゃう」
「昨日みたいに?」
 フランドールは掌を開いて見せた。そこには視認できない目が浮かんでいた。
「ごめんってば」
「……本で見たけど、鳥と獣と蝙蝠っていう寓話。獣と鳥が戦争してるんだけど、蝙蝠は常に有利な方につくんだ。「毛皮と牙があるから獣だ」とか「翼が生えてるから鳥だ」とか言って」
「ふうん」
「最後は除け者にされちゃうんだけど、なんだかんだで生き残るんだよね。流れに沿って立ち位置を変えるってさ、難しいことだと思うのよ。お姉様はまさに蝙蝠ね」
「私をちんけな哺乳類と一緒にされては困るわ」
「でもさなんか似てるよ。人間に忌み嫌われるはずなのに、巫女とかと結構仲良くしちゃって。あんな道化演じられないわ」
 レミリアはどのように返答すればよいか迷った。そもそも決してレミリアは何者かを演じているわけではなかった。すべてが自分で、嘘偽りは一切ない。たとえあのふざけた幼い姿が新聞に書かれて広まったとしても、胸を張っていられる自信があった。ゆえに、吸血“鬼”なのだ。
 物語の蝙蝠は卑怯だったかもしれないが、彼が持つ翼も牙も決して偽りではなかったはずだ。なるほど、そう言われれば似ている気もした。
 だが蝙蝠と一緒くたにされるのはやはり気にくわなかった。
「私は怪物よ。夜に潜むだけで逃げも隠れもしないわ」
「じゃあ口先女ね。怪物っぽいでしょ、弱点も明確だし」
 口裂け女と掛けた洒落のつもりだった。フランドールにできるのは精々洒落か皮肉を言うくらいのもので、姉のような道化にはなれなかった。自分が本当に壊れて、存在を失ってしまいそうな気がするのだ。それは妖怪にとって何よりも恐ろしい。
「それもなぁ」
「じゃあ、リップ・サービス・モンスター」
「……ちょっとかっこいいかも」
「意味ほぼおんなじだけど」
「響きよ響き」
 レミリアは楽しそうに笑った。まるで無知な童子のようだった。なぜかそれが滑稽で、姉につられるようにフランドールも笑った。
 飾り気のない話声は閑寂な闇に溶け、姉妹の世界から漏れ出ることはなかった。
「ドラキュラ、白く照らすブラックライト 真っ暗い闇に光る牙、まるでジャックナイフ」リップ・サービス・モンスター

緋想天の乗りの良さ、危険度極高とは信じられません。
それにしても二次創作をみているといろんなレミリアがいるなぁと。ボケ、ツッコミ、ニヒル、権力者、カリスマ、かりちゅま、原作っぽいの、エトセトラ。それに比べてフランちゃんはとち狂ってるか、引きこもりくらいしか見かけないのはなぜなのでしょう。
灯眼
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コメント



0.110簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
皆のやり取りが面白く良かったです
2.100サク_ウマ削除
レミリアの多面性をこの長さでここまで一度に描き切るとは、おみそれしました。お見事でした。良かったです。
3.100ヘンプ削除
仲の良い二人が良かったです。
姉に焦がれる妹はいつか適応できるんでしょうか。気になります。
4.90封筒おとした削除
影響されやすいレミリア!
色々見れて楽しかったです
5.100名前が無い程度の能力削除
レミリアはすごく楽しそうに生きてますね
良かったです
6.100南条削除
面白かったです
レミリアの魅力がこれでもかというほどに表されていました
とても読みやすかったです
8.100名前が無い程度の能力削除
ヒトに前向きなレミリアと、自分なりの自己表現を探すフランドールがどちらも素敵でした。生きてる…!
10.80名前が無い程度の能力削除
あったかい姉妹だなぁ。いい日常でした
12.100モブ削除
見る人それぞれの像に合わせることが出来る。それってとてもすごいことで、きっとお嬢様はそれを苦とも思っていないのでしょうね。それを見るフランドールもまた、姉と同じ差異があるのかもしれないというところにほほえましさを感じました。
13.100終身削除
吸血鬼のイメージのあるコウモリとも繋げてレミリアの色々な顔の出し方が見えたようで自分の中のレミリアのイメージに大きな影響のあるような作品だったと思います 色んな人妖と上手くやっているようなレミリアが印象に残りました