Coolier - 新生・東方創想話

有閑少女隊その21 とん汁はいつでも無敵、相方は?

2019/10/10 01:51:54
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 いつもの博麗神社。
 三人はカードゲームに興じていた。ババ抜きらしい。

 博麗霊夢の手札は二枚、どちらかはババだ。
 引こうとする魔理沙の右手側の札がニョキっと飛び出ている。左側を引き抜こうとする霧雨魔理沙。
 だが、ぎゅっと掴んで離さない霊夢。

「こっちを抜かせろよ」

「ヤだ」

「ヤだって、おまっ」

「どうしてこっちを抜きたがるの?」

「どうしてって、飛び出ている方がババだからだぜ」

「何故知ってんの?」

「何故って……」

 霊夢とは長い付き合いだが、こういったトンチキなところにドッと疲れが出てしまう。

「私の心を読んだのね?」

「お前、いい加減にしろよな」

「霊夢さん、反則ですよ」

 一抜けしていた東風谷早苗も抗議する。

「なあ、霊夢」

「何よ」

「これはゲームだ」

「分かっているわよ」

「ゲームにはルールがあるんだぜ」

「知っているわよ」

「ルールは守るもんだろ」

 弾幕ごっこの創始者の一人でルール作成にも携わっている博麗の巫女さんに分かりやすく説明する魔法使い。

「黙っていないで何とか言えよ」

「……魔理沙のイケず」

「お前なぁ」

 にゃーんにゃおにゃお  ガーガーガガーア

「おや? 誰か来ましたよ」

「この声はウザ猫とアホ鴉ね」

「お燐とお空だろ、ちゃんと呼んでやれよ」

「私が見てくるよー」

 その小ささ故にカードを持つことかなわず見学していた少名針妙丸がトテテテテーッ、と走っていく。

「針妙丸! 一人じゃ危ないでしょ、仕方ないわねー」
 
 よっこしょと腰を上げる保護者にして家主さん。

「ごまかすな霊夢! まだ勝負がついていないだろっ」

「あらら、この勝負は水入りですね」

 やがて黒猫に跨った針妙丸と肩に大きな鴉を乗せた霊夢が戻ってきた。
 地霊殿在住の火車、火焔猫燐と地獄鴉の霊烏路空。

「うーん、これはアレですね」

「どした?」

「バビ●二世ですよ。針妙丸さんがバビ●とすると乗っている猫ちゃんはろでむで、鴉はろぷろすですね。そして霊夢さんが、ぷぷっ ぽせいどんっですっ ぷへははは」

「自分で言って自分でウケるなよ」

「さっぱり分からないけど、バカにされていることは理解したわ。取り敢えずシメておこうかしら?」

「ま、待ってください、不朽の名作バ●ル二世について語る時間をください、決して損はさせませんから!」

 早苗によるあちらの特撮・アニメ・コミックの解説はなかなか面白いので、結局は皆で聞くことになった。

「つまり、私がその無敵の戦闘用大型ロボットってことなのね?」

「便宜上そうなりますかね」

「そんじゃアンタはゴーリキね。立場上、私がブチのめして良いんでしょ?」

 じりりっと迫るってくる霊夢から、あたふたと慌てて逃げる早苗。ポセイドンとのタイマンは必敗フラグなのだ。

「まあ待てよ、針妙丸も見ているんだぜ? あんま殺伐としたモノは見せないほうが良いんじゃないか?」

「バ●ル二世の話は面白かったけど、結構殺伐とした内容だったわよ」

「あなたがろでむで、あなたはろぷろすね」

 その針妙丸はバ●ル二世にハマったらしく、お燐とお空でゴッコ遊びをする気満々だった。

「いくぞー、ろぷろーす!」

 鴉形態のお空の首にピョンと跨った。

「ガー ガー ガー!」

 話の内容を理解しているかは疑問の残る地獄鴉だが、針妙丸を乗せたまま外へと飛んでいってしまった。

「あ、こらっ、どこ行くの? 危ないでしょうが!」

 過保護気味な霊夢が慌てて縁側から庭に出る。

「針妙丸も飛べるんだから、危ないってことはないと思うがなあ」

「それでも心配するのがお母さんなんですよ」

 バビ●二世とロプロスは神社の上空、低いところをゆっくりと旋回していた。

「むっ あれはヨ●の手下だなー」

 なりきっている針妙丸は甲高い声で庭に出てきた三人を指差している。

「ろぷろす、超音波攻撃だー!」

「ガー」

「超音波? あのアホ鴉、そんなマネできんの?」

「そんな技、聞いたことないぜ」

「レイムノアホー アホー アーーホー」

 ロプロスがダミ声でがなった。

「な、なんですってぇー!」

「レイムノバーカ バーーカー」

「降りてきなさいよ! くおらぁ!」

「超音波攻撃、効いてるじゃないか」

「へははは、相変わらず単純ですよねー」

「サナエハポチャコー ポチャポチャコー」

「はああ? ちょっとぉ! 聞き捨てなりませんよ!」

「お前も同じだっての」

「マリサハイケメーン スケコマシー」

「……私、どんな反応をすれば良いんだ?」

「降りてこーい!」×2

「いや、お前らも飛べるだろ」

「アホー アホー アホーー」

 ―――†―――†―――†――― 

「ろでむ! 変身!」

 お空に比べ、このノリに乗り損なった火焔猫燐は、ちょっと困っていた。

「どーしたの? ろでむ、変身だよ!」

「にゃ、にゃあーーん」

 ぐにょにょ~んと、猫の姿が歪み、猫耳ゴスロリファッションの少女が出現した。

「やたーっ! 変身したー!」

「えーと、皆さん、こんちわ。……へへへ」

 相方お空による先ほどの蛮行のとばっちりをもらってはたまらないので下手に出ている。
 現に両巫女は機嫌が悪いのだが、当の鴉は野生の勘か気まぐれか、安全圏である濡れ縁の端でカオカオとお気楽に鳴いている。

「今日は何よ」

「あの、遊びに来たのは間違いないんだけど、今日は先触れというか、お遣いというか」

「ハッキリ言いなさいよ」

「カーオカオ ガーガガガーアガー ガッガ アホー」

「何て言ってるんだ?」

「……猫ムスメ、通訳!」

 お燐とお空はT・P・Oが揃えば自機組でも手に負えなくなるほどの大妖怪なのだが、地下の異変以後、たびたび神社に気軽に遊びに来ては益体もないことを覚え、主人である古明地さとりを悩ませている。

「あのですね、ご主人様たちがここに遊びに来たいそうなの」

「あのアホ鴉、ホントにそう言ったの? 最後のアホーは何の意味なの?」

「あれは……カラス語の接尾語みたいなもので意味はあまりないんだよ、うん」

「ホントに? またバカにしてるんじゃないの?」

「そ、そんなことないよ」

「アホー アホー チョーアホー」

「ちょっとお空! 黙ってなよっ!」

 立ち上がりかけた霊夢の腕をすかさず掴んだ魔理沙。

「まあカラス語講座はまた今度にしようぜ。お燐、お前のご主人様って、さとりのことだよな?」

「うん」「ガー」

「あれ? ご主人様たちって言いましたよね? あとは誰ですか?」

「早苗、アンタよく気づいたわね」

「注意深さは私の美質の一つですからね、ふふん」

「はいはい」

「もう一人は特別ゲストだよ!」「ガガー」

「ふーん、誰かな? 私たちが知ってるヤツか?」

「じきに分かるよ」「ガーガ」

「もうすぐ来るのね?」

「うん」「アホォ」

「……こんのおおぉ! その羽根全部毟ってやるわ!」

「こんにちわー」

 あわや流血沙汰の寸前に来訪者が有った。

 ―――†―――†―――†――― 

「お久しぶりね」

「やっふーーぅ!」

 やって来たのは地霊殿の主、古明地さとりとその妹、古明地こいしだった。
 姉は薄紫の緩く波打つショートヘアに水色の上着、ピンクのスカート。妹は薄緑の髪と黄色い上着でスカートは濃い緑。色合いが補色位置で互いを引き立て合っている。
 ちなみに姉は半眼でちょっと眠そうだが、妹は元気ハツラツオロナ――であり、これも対照的であった。

「珍しいな二人一緒とは。どしたんだ?」

「お姉ちゃんと、ぶらり幻想郷巡りの旅なんだよ」

「優雅なものね」

「でも、ここ(博麗神社)は観光名所じゃありませんよ? まだウチ(守矢神社)の方がご利益がありますよ?」

「余計なこと言うんじゃないわよ」

「ここは楽しいところだってお燐もお空も言ってたから。あ、お針(はり)ちゃんだー」

「こいっしゃーん」

 針妙丸に気づいたこいしは説明を切り上げてしまった。

「悪いわね、落ち着きのない子で」

 こいしが針妙丸と戯れている様子を見て申し訳なさそうにする姉。

「さとり様、少しよろしいですかね。ちょい、こちらへ」

 お燐が主人を部屋の隅に誘う。

「うん? 分かったわ。皆さん、慌ただしくて申し訳ないわね」

 さとりが部屋の隅っこでお燐としゃがみ込んでなにやら話し始めた。

「どうしたんですかね」

「訪ねてきていきなり失礼な連中ね」

 風通しの良いオツムの巫女たちより少しだけ世慣れていて少しだけ聡い魔理沙は大方を理解していた。

(いつにも増して機嫌の悪い霊夢のことと、その原因であるお空のことを説明しているんだろうな。いくら心が読めても状況の分からない初っ端ではトチるかも知れないからなあ)

「ところで霊夢さん」

「何よ」

「あのヒト、覚(さとり)妖怪なんですよね?」

 対戦経験も無く、旧地獄へ行くこともない早苗は初対面となる覚り妖怪を少しだけ警戒している。

「そうよ」

「恐ろしい能力を持っているんですよね?」

「確か、ヒトの話を聞かない程度の能力、だっけ?」

「言わせてもらうとだな、幻想郷の住人は、ほぼ全員がその能力を持っているぜ」

「私は残念ながら持っていませんけどねー。……何ですか二人とも、その塩っぱい目は」

「霊夢、忘れたのかよ。心を読む程度の能力、だぜ」

「んー、そんな感じだったわね」

「それでよく勝てましたね、その時はどんな対処をしたんですか?」

「んー …… むぅー …… えーと……」

「なあ早苗、その件はもういいだろ? 察してやれよ」

「あ、察しました! つまり、覚えていないんですね?」

 言わんで良いことを言ってしまった緑。赤の眉間に皺が寄ったその時。

「お待たせしたわね」

 話を終えた古明地さとりが改めて三人に向き直った。

「心を読まれちゃうんでしょうか?」

 小声で対戦経験者たちに聞く早苗。

「いきなりそれはないんじゃないか?」

「アンなことやコンなこと、読まれたらヤですよ」

「そうね、不愉快だわ」

「少し落ち着けって」

「乙女の秘密は断固死守です」

「ヤるか……先制攻撃はいつでも最良の選択だしね」

「だから待てって、話を聞いてみようぜ、な?」

「どうしたのかしら?」

 不穏な空気を漂わすダブル巫女を見て首をかしげる古明地さとり。

「アンタ、早速私たちの心を読もうとしているわね?}

「はい?」

 決めつけ&言いがかりであった。
 その能力のために迫害されてきたのだ。ようやく居場所を見つけた今、それを濫用するはずもないのだが。

「あのな、お前の能力のことでちょっと身構えちゃってるんだ。気を悪くしないでくれよ」

 最近は不本意ながら仕方なく良識派にポジションチェンジしかけている魔理沙が穏便に済まそうと間に入った。

(っかしーなぁ。私、やらかし系のハズなのに、調整ばっかりだぜ。……コイツ等のせいなんだろうけどな、はぁ)

「無理もないわね。でも安心して、そんなことをしに来たわけではないから」

「油断したらダメよ!」

「合点承知の助です!」

「だからさぁ……仮に読まれたってどうせロクなこと考えてないんだし」

「お待ちなさい。心を読むことが前提なの? 失礼ね」

 そう言ってもファイティングポーズを解かない巫女二人を見せられると流石に苛立つ。
 決めつけるならばやってやろうか、怖いトコ見せたろか、とも思う。だって妖怪だもの。

「話を聞かないコたちね。……分かったわ」

 さとり妖怪の第三の目が鈍い光を帯びてくる。

「読めるものなら読んでみなさいよ!」

「どんとこいです! さあっ さあ!」

「これ、何の戦いなんだよ」

「二人とも、こういう時は何か一つのことを集中して考えて頭の中をいっぱいにしておくのよ」

「まあ、それが妥当な対策だな」」

「ちなみに魔理沙さんはアリスさんのこと、どう思ってるんですか?」

「おまっ 今そんなこと聞くなよ!」

 早苗のワイルドピッチに心中が一気に盆回りの魔理沙。

(いかん、アリスのことを考えちゃダメだ、いや、むしろアリスの変なことを考えてかき乱すんだ。えーと……
 例えば、一人ジェンガしているアリス。
 例えば、バク転を失敗して後頭部をかかえてるアリス。
 例えば、ドジョウすくいを踊っているアリス……)

 早苗は頭の中に満干全席を思い浮かべ、現世では自ら封印している食欲リミッターをすべて解除し、丸飲み妖怪野槌の如く貪り喰らっていた。

 そして霊夢は……毎度おなじみの魔理沙漬けだった。

 ―――†―――†―――†――― 

「皆さん。十分に見せてもらったわ」

 第三の目から光が失われている。瞼が下がり気味で心なしかグッタリしているように見える。

「やっぱり読みやがったわね」

「いや、この展開はこちらが悪いと思うぜ」

「妖怪の肩を持つんですか? ちなみにどうでした?」

「どうって?」

「心の中ですよ」

「お前、乙女の秘密がどうとか騒いでいたくせに何だよ」

「切り替え早いわね」

「皆さんが何を考えていたか気になるじゃないですか」

「期待を裏切るようで申し訳ないけど、記憶や思考を他人に言うつもりはないわよ」

 さとり妖怪としての矜持であろう。

「意外とケチですね」

「そこでケチって言うのが意外だぜ」

「でもまあ、私も気になることがあったから少しくらいなら良いかしらね」

「結構ユルいわね」

「風祝の貴方」

「……え? 私ですか?」

「お前以外誰がいるんだよ」

「風祝なんて最近呼ばれていませんでしたから」

「お役目に自覚がないんじゃない? そんなだからトンチキ巫女とか、とん汁巫女とか呼ばれんのよ。少しは真面目にやんなさい」

「……ぬぐぐぐっ ぐぎぎぎぃ」

 今の早苗の心を覗いたならば『アナタだけには言われたくない!』の文字がワードアート四〇〇〇ポイントサイズで見られるだろう。

「話が進まないわ」

「すまないな。でも、諦めてくれ」

 さとりに謝る魔理沙だが、いつものことなので欠片も悪いと思ってない。

「それで風祝さん」

「あ、はい」

「貴方はその……もう少し抑えた方が良いかもね」

「抑えるって、もしかして食欲をですか?」

「もしかしなくてもそうよ。後々の体のためね」

「……………………ど、ど、努力してみまぐぅ」

「そんなに苦渋の返答なのか?」

「そして魔理沙」

「おう」

「苦労しているのね」

「ん? まあ、な」

「霊夢、貴方には直接確認したいのだけど」

「ちょい待て、私にはもう無いのかよっ」

「多くを語るには、なんだか気の毒で」

「おいっ 気になるじゃないか! なんだよその目は!」

「また今度ね」

「……ったく」

「改めて霊夢、貴方は女性よね?」

「見て分かんないってんならブチのめすわよ」

「ならばどうして彼女のことを?」

「魔理沙の初物は私がいただくのよ、これは決定事項だからよ」

「お、おい」

「せっかくボカシて聞いているのに……」

「あと二年くらいして熟れ頃になったら私の剛直を思うさま打ち込んでやんのよ」

「だから貴方は女性よね?」

「くどいわね」

「どうやってそのような状態に至るつもりなの?」

「二年もあればどうとでもするわよ、ぐっふふ」

「なあ霊夢、冗談だろ?」

「アリスなんぞにくれてやるもんかよっ」

「お、おかしいって、絶対、おかしいじぇ」

 霊夢の対魔理沙トンデモ発言はいつものことだが、今回は何やら腰が据わっている。だから魔理沙もいつになく怯えているのだ。目が潤んでいるし。

「おー、これがレイマリなんだね! きゃー」

 いつの間にか話の輪に入っているハルトマンのナントカ少女が嬌声をあげた。

「そーーんなこたぁー、どーでもいーんだよ!」

 そして半泣きの魔理沙がキレた。

 ―――†―――†―――†――― 

 あの後、怯える魔理沙を「冗談よ」と宥めて取りあえず〝あずゆーじょある〟になっている神社の居間。
 霊夢曰く、無理強いするつもりは無く、あくまでも和姦が望みらしい。 ……和姦て……

「こちらの神社では大勢で料理を作って楽しむことが流行っていると聞いたのよ」

「はあ? そんなん初めて聞いたわよ」

「いや、最近はそんな感じだぜ」

「そうですよ、ここが食の発信地になっているんですよ」

「ちょっと待ちなさいよ、いつの間にそんなことになってんのよ」

「ここで色々旨いモン作って食べてるのは事実だろ?」

「博麗神社の愉快な食卓ってことで有名らしいですよ」

「愉快? 愉快って何よ、知らないわよ?」

「楽しくて気持ちよくて、面白おかしいことですよ」

「んなこと聞いてんじゃないのよ! アンタたちが寄り集まって好き勝手に料理して騒いでいるだけでしょ?」 

「霊夢、嫌だったのか?」

「……え」

「旨いモン食べられてラッキーが多いだろ?」

「そうですよ、美味しいモノのアタリが多くてラッキーじゃないですか」

「アンタはタカってるだけじゃないの」

「みんなで美味しいもの食べて楽しければ良いじゃありませんか」

「早苗にしては珍しく真実だと思うな」

「むうう」

 確かに準備や片付けで面倒なことが多いが、珍しくて美味しいエクスペリエンスなのは間違いない。無くなったらかなり寂しくなると思う。

「なあ霊夢、これからも私、フォローするからさ。な?」

「私ももちろんお手伝いしますよお! ビバ! 美食!」

 これまでそしてこれからの事象を心の天秤に乗せながら他人に知られたら、うそっ? と驚かれるほど簡単な造りの思考回路をフル回転させた霊夢が結論を出した。

「……分かったわよ。 チッ」

「で、今日は何にするんだ?」

「とん汁にしましょう」

「早苗?」

「私、とん汁巫女ですから。」

「大丈夫かよ? さっきからテンションが乱高下だぜ?」

「とん汁大好きとん汁巫女です、よろしく」

「なーに? さっきの気にしてんの?」

「霊夢がおかしなこと言うから根に持ってるんだぜ」

「何て心が狭いのかしらね」

「お前が言うのか。まあいいや、とん汁良いんじゃないか? あんま手間もかからないし、旨いし」

「では、とん汁ですね!」

「とん汁はガッツリ系の汁物だけど、それだけだと物足りないな」

「豚丼はどうでしょう?」

「とん汁に豚丼って、どんだけ豚なんだよ」

「そう言や、とん、と、ぶたの使い分けって何かしら?」

「ぶた汁ってなんかヤだし、とん丼って軽すぎるからだろ」

「ふーん、そんなもんかもね」

「豚の角煮はどうでしょう?」

「一旦、豚から離れろよ」

「簡単なモノで……何が良いかしらねえ」

 とん汁には何を合わせる? と聞かれても極論すれば何でも合う、との答えになるだろう。玉子かけご飯と白菜の漬け物でも具だくさんのとん汁があれば十分だ。

「一口(ひとくち)ヒレカツはどうかしら?」、

 地霊殿の主だった。

 ―――†―――†―――†―――

「ヒレカツって、ヒレ肉のフライのことか?」

「元々カツレツは肉類をパン粉で揚げたものらしく、魚や野菜はフライと呼ばれるようですね」

「ヒレって牛のヒレ肉でしょ? 高いのよ」

「じゃあ正式にはヒレカツレツか?」

「ヘレとかフィレとも言う最高級の部位ですよ」

「だからヒレ肉って高いのよ」

「へー、何だか旨そうだぜ」

「ねえ、ヒレ肉、高いわよ」

「脂肪が少なくて柔らかい贅沢なお肉ですよね」

「ヒレ肉は高いのに」

「早速買いに行こうぜ」

「ヒレ肉はすっごく高いのよ」

「今日の材料代はすべて私が持ちましょう」

「魔理沙、十キログラム買ってきて! 超特急よ!」

「待て、落ち着け、ステイ! そんなに買っても腐らせるだけだろ?」

「明日のことを考えなければそのくらいは」

「早苗には聞いてないぜ! さっさと在庫の確認と買い出しのリストアップだ!」

 結局仕切るのは苦労性の魔法使いだった。

「ゴボウはあるな、ニンジンも。玉子と小麦粉も。ゴマ油、天ぷら油、味噌も良しと」

「とん汁ならショウガとニンニクが少しあると良いわ」

「お? さとり、お前、料理できるのか?」

「簡単なものならね、ふふ」

「おねーちゃんの料理は美味しいよー。だって昔は……なんだっけ?」

 またも突然割り込んできた妹妖怪。どうやら二人で暮らしていた頃は姉が有り合わせのものでそれなりの料理を作っていたらしい。

「そいつぁ頼もしいぜ。ヒレカツも任せて良いんだな?」

 魔理沙の質問に硬い笑顔で答えたさとり。

「あとはとん汁用に豚バラ肉とダイコン、コンニャクですかね」

「あとはヒレ肉よ」

「パン粉も買わなきゃだな」

「あと、ヒレ肉よ」

「あ、タマネギもあった方が良いな」

「あとヒレ肉が良いわ」

「カツですからキャベツの千切りも欲しいですね」

「ヒレ肉も欲しいわ」

「買い出しは私とさとりで十分かな」

「私は?」

「霊夢、お前は留守番な」

「どうしてよ」

「お前が行ったらヒレ肉しか買ってこなそうだからだ」

「そ、そんなこたぁないわよ」

「いーから留守番だぜ。早苗と準備頼んだぜ」

「……分かったわよ」

「あ、ソースどうします? カツにはソースでしょう」

「ソースなら少しはあるけど。中濃だったかしら?」

「カツならとんかつソースだろ? あのドロッとした甘いヤツ」

 たまにお好み焼きをする博麗神社には中濃ソースはあるのだ。中濃ソースはウスターソースより粘度があり、とんかつソースは更に粘度が高く、甘味が強いのでカツに合うとされている(あくまで一般論)。
 ちなみにとんかつソースはまだ幻想郷入りしていない。

「魔理沙、何で知ってんの? 一体どこで食べたのよ」

 すかさず反応した霊夢に魔理沙は分かりやすい〝しまった!〟の顔。

「えーと……ソースは」

「どこで食べたの?」

「……ソースは」

「さとり、読心!」

「ちょっと貴方、私の扱いが雑すぎない?」

 これでも地獄の妖怪や怨霊たちが震えあがる強大な妖しであり、ボス勢でさえ一目置く地霊殿の主なのだが。

「この展開はアレでしょうね」

 両手のひらを下に向け、ヒラヒラ動かして見せる早苗。
 それを見て片眉をつり上げ、歯を剥き出し、鼻の穴をおっぴろげる赤の巫女さん。ギリギリ美人の完全アウト顔だった。

「予想はしていたけど、あのオンナのとこね?」

「……ソーっすね」

「ウマいですっ」

「うまかぁねぇわよ!」

 ばちーーん

「痛い! どうして私を叩くんですか!」

「何よ? 謝れって言うの?」

「そうですよっ 謝ってくださいっ」

「頭を下げればいいのかしら?」

「そうですよ!」

 おもむろに早苗の頭を掴む霊夢。

「ごめんなさいねっ」

 霊夢は頭を下げた。早苗の頭に。

 がごっ

 白目を剥いた早苗はその場に正座するように崩れ落ち、足をたたんだまま仰け反って気を失った。

「お、おいっ、やりすぎだろ」

「元はと言えばアンタのせいでしょうが!」

 機嫌最悪のマリサスキー巫女。アリスが絡む場合、ただでさえ短い導火線は一センチも無い。

「私? 私が悪いのかよ? なあ?」

「申し訳ないのだけど、巻き込まないでくれるかしら」

 助けを求めるように振り向いた魔理沙に丁寧に会釈した覚り少女。

 ―――†―――†―――†―――

「あれ? 私、今まで何を……」

 気を取り戻した早苗の肩をポンッと叩いた魔理沙。

「考えるな、感じろ……いや違った、考えるな、忘れろ」

「一口ヒレカツとん汁セット、準備するわよー」

「はいっ 張り切ってまいりましょう!」

 霊夢の号令に素直に反応する。

「早苗、お前はスゴいヤツだよ。ホントにそう思うぜ」

「あら? 魔理沙さん、私のスゴさにようやく気付いたんですかぁ?」

「うん、とにかくスゴいぜ。ずっとそのままのお前でいてくれよな、切に願うぜ」

「買い出し班、行ってこーい」

「はいはい、さとり、私の後ろに乗ってくれ」

「お手柔らかにお願いね」

「私も行きたーい」

 元気良く手を挙げたのは針妙丸だった。

「針妙丸、外は危ないわ。今回は私一緒じゃないのよ?」

 毎度過保護気味の霊夢お母さん、これまでの言動がウソに思えるほど優しく穏やかに説いている。

「行きたーい、行きたーい」

「霊夢、私とさとりが一緒なら連れて行っても大丈夫だろ? たまには良いじゃないか」

「むうう」

 まだオーケーを出さない保護者。

「お燐、貴方も一緒に来なさい。そのコの護衛に専念するのよ」

「合点にゃー」

「ふー、それじゃ針妙丸、お使いお願いね。くれぐれも気をつけるのよ」

 ようやく許可が下りた。

「それじゃー 私もー」

「ガー ガガー」

「貴方たちは留守番よ」

 地霊殿の主は、ボス級トラブラーの二人にピシャリと言い放つ。

「うー、つまんなーい」

「ガガー ガアガッガー」

「アンタたち、おとなしく支度を手伝いなさいよ。特にアホ鴉、アンタが行っても何の役にも立たないでしょ?」

「……ケッ アホー」

「くぉのおおおおー!」

「魔理沙さん! 早く行ってください! このままでは、ちっとも進みませんよ!」

「お、おうっ 後は任せたぜー!」

 ―――†―――†―――†――― 

「それでねっ それからねっ そしてねっ」

 お燐の肩に乗ってあれこれ品定めの真似事をし、店員とのやり取りに参加したのがよほど楽しかったのか、戻ってきた針妙丸のテンションは天井にぶつかるほどだった。
 それを微笑みを浮かべながら、うんうんと聞いている霊夢。ここだけ見れば慈愛溢れる清廉な巫女様なのだが。

「良かったわねー。でも、そろそろご飯の支度をしなくちゃだから居間で遊んでいてね」

 霊夢なりに割り切って針妙丸を膝から降ろして立ち上がった。

「ぽせいどんがいなくなっちゃったよ」

 針妙丸はちょっと寂しそうだ。

「それじゃー、私がおっぱいせいじんをやるよ」

 こいしが嬉しそうに名乗りを上げた。

「おっぱいせいじん?」

「こいしっ」

 妹のお下品な言い間違えを厳しく指摘する姉さん。

「言っちゃなんだが、お前の妹、結構やらかしてるよな」

 痛いところを突かれたが、確かに大きな異変に自由奔放に関わり、良くも悪くも名を成している妹は頭痛の種でもある。

「そうね。困った妹なんだけどね」

 ここまで言ってからはたと思いついたさとり。

「こいしが出家したいと言って、いきなり坊主頭にしたのには驚いたわ」

「そんなことしたのかよ?」

「坊主頭って、ホントですか!」

「エラいこっちゃじゃないのよ」

 本気でビックリするかしまし娘たち。

「……いえ、あの、冗談なんだけど」

「は?」×3

 心が読めてしまうので普通の会話が苦手な古明地さとりは今後のためと考え、円滑なコミュニケーションを取る手段を模索していた。その一環として冗談の一つくらい言えるようにと日々練習しているのだけれど、どうも上手くいっていない。
 そのことを正直に打ち明け、俯いてしまった。

「無茶しやがって」

「向き不向きがあると思いますが」

「キャラがブレるわよ」

 散々なダメ出しにますます俯く地霊殿の主人。

「ところでお前ら、揃って留守にして大丈夫なのかよ?」

「そう言えばそうね」

「何かあったら大変じゃありませんか?」

 強大な妖怪ではあるが、見た目は華奢な美少女がシュンとしている姿に三人とも慌てて気を使ってみせる。

「今日と明日は頼りになる留守番がいるから平気よ」

「留守番?」

「ふふ、今はナイショ」

 どうやら自信のあるネタに当たったらしい。
 表情筋がバリカタなさとりが誰でもが分かるほどニッコリして見せた。

※拙作【ナズーリン! 幻想郷に四季が来る!】参照ww

 ―――†―――†―――†――― 

「とん汁って、要は肉の入った味噌汁よね」

「待ってくださいっ とん汁はそんな簡単なモノではありませんよ」

「うるさいわね」

「なあ霊夢、味噌をケチるなよな」

「何ですって」

「いつもの味噌汁、あと少しだけ濃いと私、嬉しいんだけどな」

「そうだったの……じゃあ、キス一回で小さじ一杯追加。これでどう?」

「何がどう、なんだよ」

「条件を飲むか、薄い味噌汁を飲むか決めてってこと」

「この話、今ここでしなくちゃダメなのか?」

 皆が聞き耳を立てている。

「ちなみに一回は一回、制限時間は無しね」

「待てよ! そんな無茶は承諾できないぜ!」

「直接触らせてくれるなら味噌を丼で足してあげるわ」

「それはもはや味噌汁じゃないだろ? マジでこの話、やめないか?」

「アンタが振ってきた話じゃないの」

「そりゃそうなんだけど……悪かったぜ。でも、今日のとん汁はお客さんもいるんだから普通にしようぜ?」

 霊夢は返事もせず、無表情のまま。

「分かった、分かったよ!」

 諦め、投げやりな魔理沙。
 霊夢に抱きつき、軽く触れるだけのキスをした。

「これで良いんだろ? 一回は一回だからな!」

 にまあと口角をつり上げる霊夢。

「まあ良いわ。魔理沙からってことが重要だものね」

「ふーむ、これがラブコメで言うところのターニングポイントでしょうか」

「なるほど、確かにヒロインの心情に大きな変化が訪れた瞬間ね」

 ペンネームを使って小説を執筆している古明地さとりはとても興味深そうだった。

「んなわけあるか! お前ら、見世物じゃないんだぞ!」

「いえいえ十分に見世物ですよ」

「妹と二人分、二貫文でいかがかしら?」

 ぷっと、誰かが笑った。

「アンタ、面白い冗談言えるじゃない」

「え?」

 本人はいたって本気だった。

「霊夢! 下拵えは済んでるのかよ!」

「もちろんよ、ハニー」

「はに……や、やめろよっ」

「はいはい、そろそろ作りますよー」

 ぱんぱんと手を叩く早苗。

「それではいよいよ私の出番ね」

 姉妖怪が持参の白いエプロンをシュルっと纏った。
 その顔は何やら悲壮だが強い決意が見て取れる。

「こ、このおーきな鍋にゴマ油を入れて馴染ませまーす」

「……キャラチェンですか?」

「言うな! アイツなりに一般受けを狙った設定なんだろうと思うぜ」

「お料理さとりん、ってところかしら」

 好き勝手に解説するかしまし娘を無視しつつ、ほんのり赤い顔で続行するさとり姉さん。

「馴染むって分かりづらいよね。この場合、ゴマの香ばしい匂いがしてきたら良いんだよー」

「頑張るわね」

「黙ってろって」

「ここにいきなり斜め切りして軽く水に晒したごぼうを入れちゃうよ。ゴボウはとん汁の隠し味なんだよ」

「茶色くなったら取り出しまーす。いい匂いでしょ?」

「お次は肉! 豚のバラ肉をこのお鍋で強気で炒めます、けっこー脂が出るよ」

「強気って、強火のことですよね?」

「分かりやすいわ」

「ショウガとニンニクのみじん切りを入れてジャッジャと絡ませたらぁ」

「絡ませたら?」

「イチョウ切りのニンジン、半月切りのダイコン、くし切りのタマネギ、さっきのゴボウ、野菜を全部投入だあー」

「おお、豪快だな」

「ここでちょっと塩、肉の脂を絡めるように混ぜ混ぜ」

「力が要りそうですね、さとりさん大丈夫でしょうか?」

「基礎体力は無さそうだからなあ」

「見てなさいよ、結構頑張っているわよ」

「そしてここにちぎって湯がいたコンニャクを投入! そして更にお水を少し足して蓋をして火を弱めて蒸し焼きだ! 野菜に完全に火を入れるよ」

「野菜に火が通ったら、ひたひたくらいにお水を入れて更にグツグツ。アクが浮いてくるから軽く掬うよ、でもザックリで良いの、あんまり取ったら旨みも取れちゃうから」

「んー、料理上手だな」

「そうですね、ポイントを抑えているみたいですし」

「一連の手際を見れば上級者に間違いないわよ」

 これまで料理達者たちのお手前を見てきた三人はそれなりに目が肥えている。自分でできるどうかはさておき。

「このままひと煮立ち、味見してみれば分かるよ! これだけでもとっても美味しいから」

「仕上げはお味噌。味を見ながら少しずつ足していくよ。うーーん、完成! 火から外してちょっと馴染ませて食べる直前に暖めれば、もう最高のとん汁でーす!」

 ―――†―――†―――†――― 

「さとり、お前の新境地、ある意味尊敬するぜ」

「涙なくしては見られませんでした」

「アンタの無茶な頑張りは無駄にはしないわ」

 とん汁制作を終え、心身、主に心力を限界まで酷使した古明地さとりが椅子に腰掛け真っ白な灰になっていた。
 色々と感想を述べてくれてはいるが、さとりには、それじゃない、そうじゃない感しかなかった。

「お姉ちゃん! カッコよかった! スンゴく、スンゴくカッコよかったよおー! サイコォーー!」

(ああ、やっぱり私の妹ね。貴方がそう思ってくれたのならやった甲斐があったわ。お姉ちゃん頑張ったよ……)

 若干迷走気味ではあったが、世間に溶け込もうと努力した生真面目で心根の優しい大妖怪の奮戦が一段落した。

「とん汁はもう少し放置だな。一口ヒレカツに移ろうか」

「さとりさん、戦線復帰には少しかかりそうですよ?」

「限界突破しちゃったんだから仕方ないわよ」

「お燐、ヒレカツいけるか?」

「無理だにゃん」

「ガー ガンガー」

「アホ鴉、アンタには端から聞いちゃいないわよ」

「アッホゥ」

「あ、今のは分かりました、『あっそう』って言ったんですよ、きっと」

「せ、正解だよ」

 黙ったまま睨みつけている霊夢。そっぽを向いて小声でアホアホ鳴いているお空。

「とにかくだ、ヒレカツやろうぜ」

「ダメ元ですが、こいしさんはどうなんでしょう?」

 そう言われて意識しないと容易く認識の外に行ってしまう厄介な妹妖怪は姉を介抱していた。肩を揉んだり、タオルで風を送ったり、頭から水をかけたり、ワセリンを塗ったりしていた。

「お姉ちゃん、あと一分で復帰するよー」

「優秀なセコンドですね」

「んじゃ待つか」

「そうね、もう少し頑張ってもらいたいからね」

 ―――†―――†―――†――― 

「これ、いい感じね」

 ぶお、ぶお、と振り下ろす。

「肉叩きって名前も気に入ったわ」

「霊夢に持たせちゃいけない武器だな」

「調理器具なんですけどね」

 霊夢が振り回しているのは平型の肉叩き。
 柔らかめの肉を伸ばすときに使う金属製の分厚いヘラのような器具だ。肉の形を崩さず、薄く均一に伸ばせて繊維も適当にほぐれるちょっと上級の調理アイテム。

 ぶおっ ぶおっ!

「何か叩きたいわ」

「生き物はやめとけよ? もちろん私は生き物だぜ」

「私も生きてますからね?」

 ぶおっ! ぶおっ! ぶおっ!

「それ、あげるわ」

「良いの? 悪いわね」

「さとり、良いのかよ?」

「だって『返して』と言ったら『はい、返すわ』と頭に振り下ろすつもりみたいだから」

 復活したさとりがヒレ肉を一口大に切り、軽く叩いて伸ばす段で霊夢が運命のアイテムを見つけてしまったのだ。

「霊夢、一度それ置けよ」

「どして?」

「持ったままじゃ他のこと出来ないだろ?」

(ホントは危なくてしょうがないからだけどな)

「カッパにもっと大きくて重たいの作らせようかしら」

 後日、この博麗霊夢の【肉叩きバンバン】は近隣で大変に恐れられることとなる。ばんばん、ばばんばん、と問答無用で叩かれて平たくなってしまい、元に戻らない悪霊や妖怪たちが珍妙な姿のまま徘徊するようになったからだ。
 普通に殴られ蹴り飛ばされたほうがよほどマシだった。

 ヒレ肉のカツレツは実は然程難しくはない。

・一口大に切った肉を叩いて均一に伸ばす(肉に熱が入ったとき、縮み方にムラがあると衣との隙間が出来てはがれやすくなる。均一に伸ばすことで避けられる)。

・塩・コショウ(白コショウがベター、良い肉なら極少量で。コショウは完全に加熱してしまうと香りがほとんどなくなる。本来は料理完成後に少量挽きたてをかけるモノ)

・小麦粉、玉子液、パン粉を順につける(玉子液はよく混ぜて濾す。パン粉は多めが良い。両手で握るように押し付けて重ねる)。

 これにて準備は完了。

「針妙丸、手伝ってくれる?」

「はーい!」

 霊夢からようやく声がかかり転がるように駆けてきた。

「キャベツの千切りをお願いね」

「任せてっ 得意中の得意だからね!」

 カレーライス以来、キャベツの千切りは自分の仕事と張り切っている。

「早苗、サポートよろしくね」

「サー、イエッサー!」

「えー、あー、その、ソースは?」

 魔理沙が超遠慮がちに申し出る。

「今日はダイコンおろしとポン酢でどうかしら?」

 霊夢のリアクションより前にさとりが提案する。

「ヒレカツにおろしポン酢?」

 不思議そうな霊夢。

「新しい世界を見せてあげましょう、ふふ」

「大きく出たわね、期待しておくわ。ぐふふ」

(ナイスだ、さとり。これでソース問題は先送りだぜ)

「そんじゃ、揚げていくぜ」

 揚げるのも楽に構えてオーケー。火の取り扱いには注意だけどね。
 百七十から百八十度の油温、カツを入れたらしばらくはいじらない(衣が剥がれる原因だから)。いつも見かける衣の色(だいたい三分かな)になったら上げて油切り。多少火の入りが浅くとも余熱で大丈夫。揚げ過ぎより余程マシだから、思い切って早めに上げちゃえ。

「ダイコンおろし出来ましたー」

「ガー」

 お燐のいつの間にか手伝っていた。

「ポン酢ってあるのか?」

「簡単よ、見ていて」

 さとりが醤油・みりん・酢を混ぜ、スダチをギュッと絞り入れた。

「みりんってよく分かんないのよね」

 みりんは糖分たっぷりの酒。柔らかい甘みを加え、照りとツヤを出す調味料。

「だよな。使いどころが分かんないぜ」

 確かに無くても困らないが、砂糖との使い分けが出来るようになれば確実に料理の階層が一つ上がるだろう『おや? いつもと違うね』と感心されるはずだ。
 
「キャベツ、できたー!」

「よし、揃ったわね」

「盛りつけだ、ご飯もよそうぜ、早苗はとん汁だ」

「急いでよ、とん汁巫女さん」

「早苗! 文句は後だ、さっさと食べようぜ」

「この場は了解です。ふん!」

 ―――†―――†―――†――― 

 熱々とん汁はゴボウを軸とした根菜の腰の入った匂いと豚とゴマの強めの油の香りが大声で『旨いぞお、さあ食えよ! ガガっといけ!』と力強く伝えてくる。

 一方ヒレカツは上品に一口大だが『粗雑に食べないで欲しいわね、じっくり味わってみなさいな。ふふふ』と挑戦的にも見える。ダイコンおろしが滅多に着ないよそ行きの服をまとっているようでもある。

 キャベツは此度は脇役だが、マヨネーズとすりゴマを出汁でのばしたゴマドレッシングをかけることでヒレカツの完全なサポート役を演じている。

「ごちゃごちゃ細かいこたぁどうでも良いのよ。うーん、美味しそうだわねー。さあ、いただくわよっ」

「いただきまーす}×7

「ガーオ ガガー」

「アンタ、そのままで食べられるの?」

「ガ」

 ぐにょにょんぐがが

 鴉が歪んでびろーんと伸びて霊烏路空になった。

「ふーー、さーて、いただきまーす」

「ちょっとアンタ、何もなかったようにご飯を食べるって、どういうつもりなのよ」

「はへ? (もぐもぐもぐ)」

「もう食べてやがるし!」

「ねえ霊夢、今回は私に免じて勘弁してくれないかしら」

 鴉の主人が慌てて割って入った。

「そうよ、勘弁してあげなさいよ。ヒレカツ美味しいよ」

「ちょっとお空! 黙りなさいっ」

「とん汁にバター入れて良いですか? あ、バターをご飯に、バターライスやっても良いですか?」

「早苗、やるなら勝手にやれよ、止めないからさ。でも、とん汁もヒレカツも旨いぜ、今日は食べ過ぎそうだ」

「お姉ちゃんのヒレカツ、おいしーい! サクサクでジュワーだけどダイコンが酸っぱサッパリでサイコー!」

「うにゃー、油と脂、それと野菜の旨みが味噌味ってたまりませーん」

「うー、お肉は美味しいけど、コロモが固くてちょっと痛いよー、とん汁まだ熱くて飲めなーい」

 最早グダグダだが、美味しいのは間違いなさそうだ。

「針妙丸、こっちの小皿によそったとん汁を先に飲みなさい、少し冷めてるから」

 怒るはずの霊夢でさえこのザマなんだから。



       閑な少女たちの話    了
紅川です。三連投です。

「魔王軍と戦っていただきたい。その力は十分にあるはずだ」
まあ、そうなるわな。
男子三人は戦士・野伏・僧侶、女子は魔法使い・魔獣使い。
なかなかバランスが良いな、頑張ってほしい。
各自の装備が運ばれてくる。
いかにも何かが付与されてそうな上等な武具と防具。
女子高校生はあの程度のミニスカは余裕なのか、まあ良いけど。
金ピカの装飾過剰なアーマーが運ばれてきた。
ははは、ありゃスゴいな正気の沙汰じゃないよ。
「勇者どのにはこの伝説の神鎧【ゴールデン・ストロング・サンシャイン】を授ける」
待ってよ。どうしてオレんとこに持ってくんの?
勇者って……オレが勇者なの!? なぜにーーー!?

【黄金の勇者は、まんまオッサンだから色々とキツいよ】

某小説サイトで連載開始! (←ごめん、ウソです……)


紅楼夢で新刊出します。【6C き-02a,b】2コマです。
紅川寅丸
toratorapax@yahoo.co.jp
http://benikawa.official.jp/
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
ぶれのない性格付けのキャラクターたちによる掛け合い、大いに楽しませていただきました。豚汁に、にんにくの隠し味。これはぜひ試してみます。
3.無評価紅川寅丸削除
紅川寅丸
2番様:
 今回はお空と、さとりんの頑張りを御覧ください。
 ありがとうございました!