Coolier - 新生・東方創想話

褒め殺し殺し

2019/08/17 09:46:24
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 ここ数十年、鈴仙・優曇華院・イナバは褒められることに飢えていた。

 もともとかなり厳しい環境に身を置いていたのでそういった承認要求は彼女の心の中で無理やり無意識の中に押さえつけていたのだが、月から幻想郷に逃げてから環境が激変。現状の環境と自身の脳内に構築させた環境のありえないほど食い違いによって今まで抑えてきたありとあらゆる感情が爆発し、性格は百八十度ひっくり返ってしまった。そんな中でも彼女が最も好きだったのが褒めてもらうという行為である。自己肯定の究極形。なんと素晴らしいのだろう! 全く褒められ慣れてこなかった環境で長い間、過ごした彼女にこれはとんでもないほどの効果を発揮した。褒めた際の凄まじいまでの彼女の慣れてなさと喜びを顔に出さないようとする健気さを輝夜は大いに面白がり鈴仙と出会ってからというもの、彼女を嫌と言うほど褒めまくり、その反応を見て暇を潰していた。

 しかし、何を思ったのか輝夜はある日を境に鈴仙を褒めることをピタリと止めてしまったのである。

 困ったのは鈴仙である。どのような行為にも飽きというものはすべからく存在するが、欲望というものは悲しいことに際限が存在せず、むしろ満たされれば満たされるだけその容量は上昇していくのだ。主人に突然褒められなくなり、彼女はとんでもない不安にさらされることになる。何かとんでもないミスでもしてしまったのだろうか。何で私を褒めてくれないんだろう。褒めてほしいな。認めてほしいな。だがこんなことを主人に頼むこともできないので彼女はひたすら耐え忍んだ。苦痛ではなく快楽が彼女を苦しませたのだった。彼女はもはや褒められることが自然になってしまっており原因が全く予測できなかった。怒らせたなら謝罪すれば済む話だが、輝夜は全くそんなそぶりを鈴仙には見せない。肉体的苦痛に耐えることは容易だったがこういった精神的苦痛に彼女は大いに頭を悩ませた。

 この心の満たされなさもいずれは慣れるに違いない。彼女は初めのうちはそう考えていた。実際、彼女と輝夜が別々に住んでいたならばそうなっていただろう。しかし毎日嫌でも顔を合わせるのである。そう簡単に忘れられるはずもない。だがこんなふざけた理由で恩人の元から勝手に離れるわけにもいかないと彼女は考える。誰にも相談できず彼女は日に日に精神をすり減らし続けたのだった。

 長い年月が経った。彼女は純狐という神霊に異変解決の際に気に入られ、付きまとわれるようになっていった。相手はあの月を追い詰めた怪物である。ぞんざいに扱ったらどんな目にあわされるのか分かったもんじゃない。

「あら、うどんちゃん、こんなところにいたの奇遇ね」

「あら、うどんちゃん、一緒にお団子でもいかがかしら?」

「あら、うどんちゃん、お弁当作ってきたのよ」

「あら、うどんちゃん、どうして逃げるの?」

「あら、うどんちゃん、先回りしたわ、ごめんなさいね」

 鈴仙の精神は汚染されていった。寝ても覚めても輝夜と純狐に追い詰められていくのである。つらいつらい、だけどなんでつらいのかもよく分からない。自分で勝手につらくなってるのだろうか…… 鈴仙は夜も満足に寝ることができなくなっていったのだった。
 
 しかしそんな中、事態がいっぺんにひっくり返る出来事が発生する。それは鈴仙がいつものように人里で薬を売り歩いていた時のことである。

「あら、うどんちゃん、今日はとっても素敵な格好してるわね。大丈夫疲れてない? 仕事かしら? こんな暑いのに偉いわ」

鈴仙は凄まじい衝撃を受けた。久しぶりに褒められた数十年ぶりに褒められた。やっぱりすごい嬉しい。脳髄がとろけるようだ。ご主人様じゃないけど褒められた褒められた褒められた褒められた褒められた……

「うどんちゃん、大丈夫?」

「あっ、えーと大丈夫ですよ……」

純狐は少し心配になるが直ぐに何が起きたか刹那で悟ると残酷そうな笑みを一瞬浮かべ、直ぐに優しそうな表情に戻るなり、鈴仙を小一時間褒め殺しにしたのである。

 数時間後鈴仙は何事も無かったかのように帰ってくる。

「あらウドンゲ遅かったじゃない、薬は売れたの? うーん全然じゃない、まあいいわ、食事にしましょう」

「申し訳ないです……」

 次の日、その次の日、またまた次の日、純狐は鈴仙を待ち伏せし、自身が持っている知識を総動員して鈴仙を褒めて褒めて褒めまくった。端から見たらかなり危ない光景に見えたに違いない。しかし、客観と主観は違うのである。純狐は鈴仙にさえ、お世辞や皮肉だと解釈されずに尚且つ喜んでもらえれば良いのでそこだけに細心の注意をはらいつつその狂気じみた執念で鈴仙を褒めまくった。鈴仙も純狐に会えたら満たされるので内心楽しみで仕方がなかった。そして鈴仙は毎晩夢心地で家路につくのである。

 純狐さんはいつも褒めてくれる。純狐さんは私にだけいつも優しい。純狐さんだけ私を評価してくれる。いやいや待て待て、相手はご主人様の敵だぞ、心を許してはならないに決まってるじゃないか。そう許してはならない……ならない…… この恩知らずが、なんてことを考えているのだ…… 

夜の静けさの中、外では鈴虫がしとしと鳴いている。

もしも、もっと頑張ったら純狐さんもっと褒めてくれるかな……褒めてほしいな…… いや褒めてくれるに決まってる…… 純狐さんなんだから…… 褒めてほしいな純狐さん褒めてよねえ純子さん褒めてねえもっともっとまだ足りないまだ足りない……

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