Coolier - 新生・東方創想話

ゆかりんデイズ4

2019/07/29 00:09:51
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 「お嬢様方はいま外出中です」 

 上白沢慧音から託された差し入れを私から受け取り、礼を言った後、紅魔館で今もなおメイド長を務めているその女性、十六夜咲夜はそのように言った。
そして、もしよろしければ、とお茶に誘ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらう。疲れていた事もあるしね。
まだ昼間だったが、玄関のホールは少し暗い、だが外見とは裏腹によく掃除されていて埃は目立たない。応接室に案内される途中、ドアが開きっぱなしの部屋が私の目に入る。

「見苦しくてすみません、部品が足りなくて直せないのです」

部屋をちらりと覗くと、そこには誰もおらず、開かれた本の乗った簡素な机と、一脚の椅子が置かれてあった。
咲夜は誰もいないその部屋にこう呼びかけた。

「パチュリー様、ただいま紅茶をお持ちしますね」

まるで部屋にいる客人に呼びかけるような自然な発言だった。
不思議に思う私の方を振り向き、咲夜は言った。

「パチュリー様もご健在です」

私は困惑した。だがチルノはふ~んとつぶやいて疑問にも思わず、大妖精も特に何も言わなかった。第一、少なくとも危害を加えられそうな雰囲気ではない。
応接室に通されて少し待つと、簡素だが品の良い食器に入った紅茶とお菓子をもって咲夜が戻ってくる。

「どうぞお召し上がりください」
「うわあ、久しぶりのお茶とお菓子、おいしそう」
「やっぱり、咲夜さんのお茶最高だよね。いただきます」

この崩壊しかけた幻想郷で、これほどの茶葉やお菓子を作るのは相当大変に違いない。
私もこの時ばかりはゆっくり賞味させてもらう。

「メイド長、フランも出かけているだけなの? いつか帰ってくるの」

チルノが単刀直入に聞く。だが彼女は笑顔で応じる。

「ええ、きっとお嬢様たちは帰ってきます。ですからできるだけお屋敷を綺麗にしておかなければ」
「うん、いつか帰ってくるよこれは。私もフランと久しぶりに遊びたい」
「きっと喜んで下さるでしょう」
「大ちゃんもフランと弾幕ごっこしてみようよ」
「ええ~私はいいよ」

咲夜は笑顔でチルノと話している。
彼女は紅魔館の主が消えた事実を認めたくなくて現実逃避しているのではないか、といささか失礼な空想を私はしてしまいそうになる。

「主が消えたのに、それを認められない気の触れたメイドが一人で暮らしている、なんて噂を立てる人もいますわね」

どきっ

妖精たちに対してより、少しだけ厳しいトーンの声。
私は露骨にそういう顔をしていたらしい。

「いや、私はそんな風には思っていません」
「無理なさらずに、そう思うのも仕方ないです。でもお嬢様たちは消滅したのではありません、お出かけ中か、そうでなければ存在が希薄になっただけです。幻想の力が戻ればきっと戻ってこられます」
「そうだね、大ちゃんも帰ってきたし、きっと大丈夫だよ」

チルノの励ましは決して気を使ってではない、本当に信じているのだ。
私もそう思いたいが、どうだろうか。

「八雲様、ご用事が済みましたら、申し訳ありませんがこれから掃除があるのでお引き取りを願えますか。詳しいお話はまたの機会にでも」

 このまま辞去しても良かったが、思い切って聞いてみた。

「あのう、私はこの度の異変で記憶を失くしてしまったので、どうか幻想郷に何が起こったのかを教えてもらえないでしょうか」

 私は自分の身に起きた事を話した。気が付いたら力を失った状態で倒れていた事、なぜこうなったか記憶が無い事。彼女は黙って私の話を聞いていた。

「おそらく私は平行世界の幻想郷から……」

当然どかっという音がして、足元の床にナイフが突き刺さっていた。

「失礼、ゴキブリがいたものですから」 声は普通だが、表情は凍り付いている。

私は思わず声が上ずった。

「信じて、もし私がこの世界の八雲だったら、私がこんな事をするはずがないわ。幻想郷を愛しているから」
「あなたは確かに別世界の八雲様なのかも知れません。この異変には無関係なのかもしれません……でも……」

だんだん咲夜の声に怒りや悲しみの感情が混じり、早口になってゆく。

「……でも、私は失礼ながらこう思ってしまうのです。あなたが八雲様なら、異なる世界を行き来できるほどの存在なら、こうなってしまう前になにか出来る事はなかったのではないかと」

私は何も言えない。

「どうしてこれを察知するなりしてその知性で防げなかったのかと、賢者の肩書は飾りなのかと」

最後の一言にはより怒りがこもっていた。

「長く生きていたわりに無能すぎやしないかと!」

咲夜は息を切らしていた。私はただ圧倒されて聞くしかできなかった。

「すみません。あなたが嘘をついているようには見えないし、悪意も害意もないのは分かっています。でもつい言わずにいられなかったのです、お客様にとんだご無礼、申し訳ございません」
「無理もないわ、私の事はいいの。でもこの子たちが怖がってる。あれ?」
 
 チルノと大妖精の姿が消えていた。おそらく彼女が時間操作能力で移動させたのだろう。

 「それでしたら心配は無用です」

 応接室のドアを開けて二人が入ってきた。

 「いやー久しぶりの咲夜マジックだったなあ」
 「いきなり別のお部屋に飛ばされたからびっくりしちゃったよ~」

 チルノは特にこういう事に慣れているらしい。

 「八雲様、感情を吐き出してしまう事はありますが、私は絶望していません。先ほども申しましたように、お嬢様方も、パチュリー様や他の従者も消えたわけではないのです」
 「そうだよ、フランの気配があったもん」

 チルノも咲夜に同意する。私は聞き返す。

 「ええっ、その子をみたの?」
 「視界の片隅に、ちらりと七色の羽が見えたんです」

 半信半疑というより、信が2割、疑が8割に近いが、二人はそう信じているようだ。
 咲夜もそうでしょうそうでしょうとうなずいている。
 
 「八雲様、本日は食料や雑貨を届けていただいてありがとうございました。それに湖の水がよみがえったのも八雲様方のおかげだとか」
 「感謝するほどではないわ、それより、さっきので少しは気が晴れたかしら」
 「はい、吐き出せてすっきりしました、感謝します」
 「吐き出すって何を?」 とチルノ
 「こっちの話よ」
 「ふーん、じゃあまたね、咲夜」
 「いつでも歓迎いたしますわ」

 玄関へ戻る途中、私はもう一度ドアの開け放たれた部屋をのぞいてみた。
 机には読みかけの本と、咲夜が置いたらしいティーカップが置かれている。

(これが彼女の正気を繋ぎとめるために必要な物語であるのなら……)



ぱさり……



「えっ!?」


 その場を去ろうとしたとたん、ページがめくられるような音がして、思わず二度見した。窓は締め切られており、風でめくれたはずはない。
あれ、ティーカップの位置が微かにずれていないか?

 「やっと信じる気になられたようですね。このとおり私は独りではないので、ご心配には及びません」

咲夜が驚きを隠せない私に笑顔でお辞儀する。

やっぱり本当にここの住人たちは……知らない人から見たらただのホラーハウスだけどね。





お土産にクッキーをもらい、咲夜に見送られ、わかさぎ姫の小舟で岸に戻ると、岸ではにとりが鉄道の車庫から車両を出し、整備らしき事をやっていた。車両は窓のついた一両の箱型の車体で、下半分は空色、上半分はクリーム色のいわゆるツートンカラーが軽快な印象を感じさせてくれる。

「ありがとう人魚さん」
「どういたしまして、にとりさんは、早速『てつどう』という機械を直しているそうです」
「うわあ、あれなんだろう」 チルノが車両に興味を持って、大妖精を連れて走っていく。
 
 遅れて二人についていくと、にとりは車内でエンジンをいじりながら、う~んとうなっている。

「どうしたの、やっぱり、修理は難しいかしら」
「いや、修理はほとんど必要なかった、問題はエネルギーだよ」
「エネルギー?」
「うん、このエンジン、燃料タンクに燃料用アルコールを生み出すように品種改良された酒虫が泳いでいて、きれいな水を入れるだけで動いてくれる優れものなんだけど、最初に幻想的な力をこめないと動いてくれないんだ」
「どれくらいの力が必要なの?」
「私の妖力も入れたけど、まだ不十分。これ以上やるとまた存在が危うくなりそう」
「じゃあ、私がやってみる」

私はにとりに言われた位置に手をかざし、妖力をこめた。力が吸収されていく感覚がした。ちょっと疲れたなという段階で、エンジンが鳴り出した。

「おお、動いたよ、ありがとう」 早速にとりがエンジンカバーを占め、運転席に座り、私たちを乗せたまま試験走行を始めた。車内は両側の窓に沿って長いシートが取り付けられている。ごろごろと音がして動き出し、レールの継ぎ目に車輪が乗るたびにがたんごとんとリズムの良い音がした。森の入り口付近で止まり、バックして停留所へ戻る。

「これで鉄道再開のめどは立ったね」 にとりが満足そうにうなずいている。
「やっぱり、地上で人を運ぶのはにとりさんが適任ですね」 わかさぎ姫がほめた。

これで、人里から紅魔館への行き来は安全になった。互いに孤立しているよりも、何らかの結びつきを持った方が有効だろう。もし軋轢が起こったなら、その時は慧音や、私のような妖怪、この世界の博麗が動いたり調停すればいい。まだ会ってないけれど。

「ユカリ、とりあえず里に戻る?」
「うん、いったん里で休みましょう」
「大ちゃんも来る?」
「ごめんね、うれしいけど、ここの子達も心配だし、まだ私だと消えちゃう所も多いから」
「じゃあ、湖で待ってて、友達が見つかったら連れてくるから」
「元気でね、それから紫さん、チルノちゃんをよろしくお願いします」 ぺこりとお辞儀。





がたんごとんと音を立てて、魔法動力車は私たちが来た道を逆に進む。
窓を開けて肩ひじをかけ、外の景色を眺める。
乗り心地は悪くない。力が戻るまでなんどか利用すると思う。科学は弊害ももたらすが、使い方次第で私達の生活を豊かにしてくれるものでもあったのだ。
力を失って分かる事もあるんだな。

「おお、鉄道が復活した」 停車場で車両から降りると、源さんが車両を見て歓声を上げた。
「これで八意医院にも安全に行けるな。あんたがやってくれたのか」
「私や、チルノ、湖で知り合ったみんなのおかげよ」
「おお、ありがてえ。これで里のみんな、もっと健康になれるな」
「おやじ、本当は綺麗な女医さんに会いたいだけだろ」 少年が突っ込む。
「んな事あるかい、お前にはわからんだろうが、病気になった時の備えがあるってのは良いもんだ」

私は気になっていた事を聞いてみた。失礼だろうが、どうしても確かめておきたいのだ。

「あの、源さん、奥さんが亡くなられたのは、その、異変のせいでしょうか?」
「いいや、夜が長くなる異変が起きて、八意さんが現れるだいぶ前に死んだよ」
「そうですか」

ほっとしてしまう自分が恥ずかしい。この人の奥さんが亡くなったのは、平行世界の私の起こした異変のせいではないかと疑っていた。次元が違うとはいえ、自分の罪ではないかと。それが否定されてつい良かったなと思ってしまった。でもたぶん、想像した通りのケースもあったに違いない。この世界の私がどうしてこんな事をしたのか知りたい。
でも、その前に。

「仕立屋のおかみさんに服の対価を払おう」
「ええ~っ、それあげちゃうの?」 チルノがちょっとふくれる。
「さっき食べたでしょ」

仕立屋に行くと、彼女は代金代わりのクッキーを喜んで受け取ってくれた。

「あの、これでお代の足しになるでしょうか?」
「このメイドさんのクッキー美味しいのよ。ありがとうね。お代はこれで十分だよ」
「ありがとう、この服、とても動きやすくて着心地いいわ」
「ねえ、また服をつくったんだけど」

さっそく私の体形に合わせたメイド服を見せた。

「試着してみない?」
「ええっ、これはちょっと恥ずかしいな」

恥ずかしがる私に、おかみさんはふふっと悪戯を思いついたように笑っていう。

「あっ、服の代金、そういえば少し足りないような気がするなあ」
「う~ん、じゃあ試着するだけ……」
「ユカリ、いい機会じゃん、着てみなって。最悪ネタになるからいいじゃん」
「そんな無責任な」

二人は半ば強引に私を試着室に押し込んでしまった。
なんやかんやでメイド服を着て鏡を見ると、まあまあ悪くはない。
試着室から出る。おかみさんはまあ可愛い!と口を押えて感嘆した。
チルノは笑うかと思ったが、私を見るなり息をのんだ。どうしてだろう?

「あ、ああ……」

口をぱくぱくさせてどうしたの?」

「ユカリ、お嫁さんになって下さい。いや、こっちがお嫁さんでも可」 
「何を言って……やっぱ変だったかな」
「いや、すんごい綺麗」
「実際この服で働いてみない? 人気出ると思うわ」
「二人とも、何を言うんですか!」

 思わず二人から視線をそらしてしまう。
 かなりのブーイングを無視して元の服に着替え、とりあえず仮の一軒家に戻る。
 明日は永遠亭で情報収取してみようか。





「魔法の森もさびれているな」
「にゃーん」
「えっ、爆発音が聞こえたって」

どーん

 「本当だ。弾幕ごっこ……とは違う感じだな」
 「にゃあ」
 「確実に、誰かが生きていて、何かをしているんだろう。けどいったい誰が? 何を?」 
 「にゃあ」
こうまかん編でした。
とらねこ
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