Coolier - 新生・東方創想話

私達の帰還不能点

2019/06/02 20:13:01
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今日は蓮子と会う約束をしている。
「私」は何処にでもいるごく普通の大学生。人より特段優れたところがあるわけではないが、特別劣るところがあるわけでもない。平凡という文字が一番よく似合う。
「しかし遅いなぁ」
遅刻癖は相変わらずの様だ。昔から彼女は十分、十五分は遅れてきたのでもう慣れっこではある。
「ごめんね、待った?」
背後から蓮子の声がした。
「十五分オーバーよ。全く、いつもそうなんだから」
そう言いながら私は蓮子の方を見た。
すると蓮子は泣いていた。
「え……?」
「あ、あれ?な、なんで泣いてるのかな私」
それはこっちが聞きたいぐらいだ。
なんだか一ヵ月前に会った時よりかなり痩せているように見える。目の下にもくまが出来ていてとても健康的とは思えない。
「と、とりあえずどこか落ち着けるところにいこ?」
私は泣いている蓮子を引っ張りながらどこか空いていそうなファミレスを探し始めた。

「……」
ファミレスに入ったはいいがお互いに沈黙が続いてしまう。
互いにどうやって話題を切り出したらいいかわからないのだろう。こういう時は私から切り出すしかあるまい。
「ねぇ蓮子、何かあったの?」
私は回りくどいのは好きではないのでストレートに聞いてみることにした。
「ううん、別に何も」
「何も無いのに突然泣き始めるわけないじゃない」
彼女はいつもそうだ。何かあっても自分一人で抱え込んで苦労する、それで周りにはいい顔をするのだ。
「本当に何もないの?」
「そりゃあ……あ、注文したもの来たわよ!」
どうやら注文したものが届いたようだ。蓮子は急に笑顔を作り私の方に物を渡してくる。
食べ終わったら洗いざらい何があったのか吐いてもらおう……そう思いながら私も食べ始めた。

食べている間はお互いに他愛もない会話をしていた。レポートはどうだとか単位は取れそうなのかとかそういう日常的な話である。私はそれなりに真面目にこなしている方なのでレポートの心配はないが蓮子は昔から「こんなのあとであとで!」とか言うタイプなので心配だった。
案の定進捗は最悪。ここ数日大学にも顔を出していないらしく理由を聞くと「気が乗らないのよね」としか言わない。
食べ終わってファミレスを出ると蓮子は私に別れの言葉を告げ逃げるように帰ろうとした。
そんな蓮子の手を掴み私はもう一度問い詰めた。
「私は大丈夫。大丈夫だから」
笑顔で涙をこぼす彼女をこれ以上引き留める言葉を私は持ち合わせていなかったので彼女はそのまま立ち去ってしまった。



翌日私はいつもより早く大学へ行った。
理由は蓮子の足取りを辿るためである。ただ彼女はサークルを自分で立ち上げ、ある女の子と二人きりで活動していた様なので、サークルメンバーに聞くのが一番なのだがそのサークルメンバーの生徒が見つからない。
蓮子と私は同じ大学であったものの接点は殆どなかった。
「あの、宇佐見蓮子の友人なんですけど……蓮子がやってたサークルってなんて名前でした?」
近くで会った女子生徒に聞いてみると苦笑いで答えた。
「宇佐見蓮子……あぁ、秘封倶楽部のこと?」
「ひふう……くらぶ?」
名前が中々おしゃれだなぁ、なんて想像をしていると彼女は衝撃的な事を答えた。
「あの倶楽部いい噂聞かないわよ……最近一人行方不明にになったらしいし」
「え?」

その後いろいろな人に聞き込みをしたところ分かってきたことがあった。
蓮子と一緒に倶楽部活動をしていた女子生徒の名前はマエリベリー・ハーン。
そして行方不明になったのはそのマエリベリーさんの方で間違いないようだ。
「蓮子が落ち込んでいたのはマエリベリーさんが行方不明になったことで間違いないと思うけど……」
問題は何故、どうして行方不明になったのだろうか?
「アンタか、宇佐見とマエリベリーの事調べてるって変わった生徒は」
そこにいたのはスーツ姿に赤いロングヘアという少し変わった女性だった。名札を付けていたので少し見てみたらここの教授の様だ。
「蓮子の事、ご存知なんですか?」
私がそう聞くと彼女は呆れたようにため息をつき言った。
「アイツが何故大学に来ていないのかはさっぱりだがね。メリーも大学に来ないし……全く、どこまで倶楽部活動に行っているんだか」
私はこの先生なら何か知っているだろう、そう思い先生に私の知っていることをすべて話した。

「成程な。落ち込んだ宇佐見に行方不明になったマエリベリー、か」
「何かわかったのですか?」
私が食いつく様に聞くと教授は少し顔を青くしながら答えた。
「もしかしたら、マエリベリーはもうこの世にはいないかもしれないな」
「え……?」
私は突然の一言に返す言葉が無かった。
「これはあくまで仮説なのだが、おそらく宇佐見とマエリベリーはどこかオカルトスポットに出向いたのだろう。そしてそこで何らかの事故に遭い、マエリベリーは死んだ。そしてそれを自分の所為だと宇佐見は責任を感じひどく落ち込んでいる。状況から見た最悪のケースだがあり得ない話ではない」
確かに状況だけみればそういう風な仮説が立っても何ら不思議ではない。私も教授と話しながらそう思っていたところもあった。だが、私はそれを信じたくなくて目を背けていたのだ。
「最も、マエリベリーの方は警察に任せるしかないな。宇佐見の方は、どうしたものかな」
「私、蓮子の家に行ってきます!!」
「お、おい……」
私は教授に礼を言うと蓮子の家へ駆けだしていった。



「はぁ……」
蓮子の家に行ったはいいが、中から応答が無かったのだ。鍵は開いていたが、勝手に入るのも悪かったので入らなかった。
もしさっきの教授が言っていたことが全て事実だとしたら、私に出来ることはあるのだろうか?
「本当にこのままでいいの?」
え?
「今の貴女には何もできない」
何処からか声が聞こえる。聞いた事は無いが何故か懐かしい声だ。
「あ、貴女は?」
「もうすべて終わったのよ」
辺りを見ても誰も居ない。電灯が光る夜道なのもありホラー感満載である。
「もうこの件から手を引きなさい」
「で、でも」
私が反論しようとすると背後に明確な人の気配を感じた。
私は恐る恐る振り返るとそこには金髪でふわっとした帽子をかぶった女性がいた。
「もう、いいのよ」
「もういいって、何が?」
「貴女も疲れたでしょう?私の事なんか忘れて」
私の事?忘れて?何を言っているんだこの女性は。私はこの人と会ったことなんて一度も……
そこまで考えたところで頭の中が真っ白になる。

そうだ……私はこの人とオカルトスポットに行って……

そして……



私はそのあとフラフラしながらあても無く歩いた。
全て思い出した。
いや、思い出してしまった。

私の名前は「宇佐見蓮子」

私はきっと自分に起きた出来事を第三者の目から振り返っていたのだろう。
メリーはもういない。いないんだ。
私が、メリーを殺してしまったんだ。
私が、あの夜廃病院に行こうなんて言わなければ。
私が、メリーを数秒早く庇う事が出来ていれば。
そう。そしてその後私も____

死んだのだ。

俗にいう「幽霊」って奴になったのだろう私は。気づけば私はメリーと最後に行った廃病院に来ていた。
「全部思い出したのね、蓮子」
「うん」
背後にはメリーがいる。これが「お迎え」ってやつなのだろうか?
「もう全部終わったの。私が死んでこれで秘封倶楽部は終わり」
メリーは少し寂しげな顔をしながら私に言う。
「終わらないよ」
「え……?」
「何言ってんのよメリー。私だって死んだのだからこれからも一緒じゃない」
私が胸を張って言う。
するとメリーは涙を流しながら言う。
「馬鹿ッ……蓮子の馬鹿ッ!!なんでよ……何で私の後を追って」
そんなメリーを抱きしめて私は言う。
「私達は、二人で一つの秘封倶楽部でしょ?」
「……ホント、馬鹿なんだから」
その後の私達を知る者はいない。
初投稿です。昔同人サークルやってたのですがしばらく休止していたのでリハビリに小説書いてみました。
muraryo様(https://twitter.com/M82682952)の泣いている蓮子ちゃんを見てビビッと来たので書かせていただきました。(ご本人にも許可取りました)
また載せることがありましたらその時は何卒宜しくお願い致します。
残骸
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コメント



0.290簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白く引き込まれました
良かったです
5.80大豆まめ削除
わあーそう来るか。オチに驚きました
元になったイラストも素敵でした
7.100メイ=ヨトーホ=グミン削除
自分達自身がオカルトになったんですね… ミスリードを誘うとことかも有って展開の切り返しが良かったです 地獄の果てまで運命を共にしそうな感じ好きです
9.90むらう削除
よかったです
10.100ヘンプ削除
二人で一緒になるのいいですね……すきです。
面白かったです。
11.100南条削除
面白かったです
ああ秘封か、と思わせて違うの!?となってそう来たか!となりました。
立ち止まらない蓮子が蓮子らしくてよかったです。