Coolier - 新生・東方創想話

ご注文は漬けものですか

2019/05/19 00:55:44
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 スペルカードルールによれば、なんであれ、ある人物が引き起こした直接の因果をもって動いているものは、全て弾幕として認められるという。そのルールに従うなら、私は眼の前の妖、因幡てゐが作り出した弾幕に囲まれている。従わない場合、もっと露骨な面倒がやってくる。それは避けたい。すると、耐えるしかない。
 先生に言いつけてやろう、と歌いながら、童子たちは私を先導する兎と私の廻りを巡って練り歩く。
 両脇を竹林で囲われた一本道を歩いていくと、垣根と溝堀に囲われた屋敷が現れた。ひと目でみて有力者の住む家だろうとわかる。すると、突如てゐが童子達を飛び越え、
「おら、走るぞ」
 と行って門を通り抜け、屋敷に向かって走り出した。
 童子達は私を突き飛ばすように押して同じように屋敷へと駆け出した。
 ともかく転ばないように必死に合わせて走ると、気がつけば屋敷の客間の上に私は放り出されていた。このあまりに広い客間は、講堂と言っても差し支えがないものだ。
 あたりを見回していると、家の土間のあたりからか、何者かがするりと現れた。恐らく彼女が『先生』なのだろう。
「どうした、何の騒ぎだ?」
 と、彼女が客間を見渡し、私と目があった瞬間、彼女の表情が凍りついた。童子たちも唐突に静かになった。なにかまずいことが起きている?
 庭を何者かが駆けて遠ざかっていく。それはてゐの後ろ姿だった。あいつ、全力で逃げやがった。

 アレが脱兎というものか。
 そうか。許さん。

 向き直ってみると、目の前の先生は口をぽかんとあけててゐの後ろ姿を追っていた。そしてギギギギ、とぎこちなくこちらを向いて、挨拶をする。

「大変失礼致しました。稀神であられるサグメ様と御身請け致します。私、上白沢慧音と申します」

 それは異常なほど丁寧な挨拶だったし、そもそも私と面識が無いはずなのに、私が何者であるかを全く間違えずに言う。そうなれば相当の教養か知識がある人なのは間違いない。その丁寧さの理由は、私に対して明白な言葉となって突き刺さった。

「稚拙ながら、幻想郷の歴史の番人でもあります。何卒ご懇意の程をお願い申し上げます」

 丁寧に頭を下げる彼女。仮に彼女が彼女の申すとおり歴史の番人であるならば、彼女とうかつな言葉を交わしあえば幻想郷の歴史が無事では済まない、ということなのだろう。

……私はまさに彼女の天敵なのではないか。

 とても嫌な予感がする。私はただ押し黙るしかなかったし、その反対にここからどうにか事をこれ以上荒らげず逃げる方法をひたすら考えていた。

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