Coolier - 新生・東方創想話

竜巻の子のち台風

2019/05/18 11:03:29
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 竜巻は去った。皆が喜ぶ中、椛は警戒の目を緩めなかった。文は帰ってこなかった。

「文さんが逃亡! 容疑者が逃亡!」

 椛の掛け声で天狗たちがざわめく。





















『竜巻の子のち台風』






















 報告が上がる前から椛は気付いていた。にも拘らず、目を背け背き続け、今は河童を目の前に対局している。
 なんでこんなことになったんだろう。考える暇もないくらい危機的状況なのに。例えるなら、そう。寺子屋の授業中、便所に行きたいのに手を挙げるのを躊躇うような。そうしたいのも山々、椛は動けなかった。恥ずかしさ半分。情けなさ半分。とにかく動けなかった。

「次、椛の番」

 名前を呼ばれ、背筋を伸ばして将棋盤を睨み付ける。次の手を考えながらも、頭に浮かぶのは問題の報告ばかり。

「あのう、にとりさん」
「なに」
「文さん見掛けませんでした?」
「うんにゃ。そもそも天狗に会わないし」

 にとりの退屈そうな顔は平和ボケしている。頼りにならなそうだと判断して、椛は溜め息を吐いた。

「どうしたの」
「いえ」

 第一、何も知らないのであれば椛は河童に今起こっている出来事を話す訳にはいかなかった。文のことも然り。これは天狗の問題だ。
 圧力に押し潰されかけた椛が聞いたのは、轟音だった。轟音。地震だ流星だと騒ぎそうな奴らも出てきそうな音だ。しかし、妖怪の山ではよくあることだった。にとりは欠伸をしたし、椛も顔を歪ませながらも注意を払っている様子はない。何しろこれは天狗の飛ぶ音である。ぴたり、と静寂に耳が痛くなる。

「げ」

 にとりがとたんに不機嫌になる。

「げ」

 文だ。二人は河岸で対局していたわけだが、文は川を挟んで向こう側で手を振っていた。椛は冷や汗ものだ。

「どうしたんだよう、椛。探してたじゃん」
「まっまあ……」

 歯切れ悪く頷く椛をにとりは追いやった。二人はあまり面識がなかった。種族間での問題なのかは分からないが、にとりは文をよく思っていないらしい。
 にとりはミサイルの如く逃げていった。勝負のついていない将棋盤が寂しい。先生、もう限界です。手を挙げてもいいですか。

「こんにちは。お邪魔しました?」
「いえ……構いません。私もあなたに用事がありましたので」
「用事? はて、なんでしょう」

 椛は意を決して手を挙げた。心の中で。思えばにとりが逃げたのは都合が良かったのだ。文はとぼけた顔をしている。

「最近、幻想郷の各地で竜巻被害が拡がっています。農作物や家屋に被害があるようで、幸い、まだ人妖に被害はないですが」
「はあ、それは知ってますよ」
「その竜巻、人為的なものではないかという意見があります」
「大変なことになってますねえ」
「……なにか、知りませんか?」

 この切り口は椛なりに頑張った方だった。顔を覗き込む椛の姿勢は圧倒されるものだったし、ここが取調室ではないのが実に残念だった。犯人はお前なんだろう、と婉曲的に問い詰めていた。
 しかし文も流石。何処吹く風と目をぱちくりさせた。

「まさか、疑ってるんですか?」
「まさかあ。天狗には全員聞く決まりです」
「ですよね」

 文はするりと受け交わし真剣な顔をした。椛は巧い、と舌を巻かざるをえない。ここで疑っていることを直接バラせば、さらに警戒させることになる。椛も先には踏み込めない。
 実のところ、椛は文を疑っていた。天狗ならば誰でも風を起こすのは容易いが、面倒事をわざわざ起こす天狗は少ない。文は山に入り込んだ人間を時折匿っているので、椛はやりかねないと踏んでいる。

「残念ですが大した情報は何も持っていませんから、私も情報を集めておきましょう。何かあればすぐにでも伝えますよ」
「……ありがとうございます」

 文はにっこりと笑った。椛も曖昧に微笑む。

「いえお構い無く。しかし何も言わずじまいというのも悪いのでこちらを差し上げます」

 椛に差し出されたのは文々。新聞だった。文の発行している新聞だ。動きを止めた椛に、文は一つの見出しを指差す。『狸のアジト何者かが襲撃』とある。

「先日狸のアジトに襲撃があったようです。ま、狸たちは襲撃だと騒いでますが、私の見立て通りならこれも竜巻被害でしょうね」
「狸のアジトにまで……」

 こちらは天狗の報告はされていない。椛が驚く中、文は肩を上げてふん、と笑った。

「それにしてもやはり勝負は途中でしたか」

 文が将棋盤を見やる。はあ、と上の空に椛が答えた。文への取り調べが一時中断された以上、椛の興味は別に移ったのだ。
 今回の竜巻被害は軽く口にできるものではなかった。最初は妖怪の山の施設に始まり、最近では人里の外れでも被害が報告されている。直に天狗だけの問題でなくなるに違いない。それに加えそれが人為的、もっと言えば天狗の仕業ではないかと言われている。てんやわんやだ。
 椛が一番心配していたのは、この事態の前兆に気付いていたのに報告しなかったことがバレるのではないかということだった。椛は小さな竜巻の子を妖怪の山でよく見掛けていた。

「椛」
「はい」
「勝敗は」
「5対8でにとりさんの勝ち越し」
「ほう。暇ですねえ」

 当事者らしき人物は今目の前で楽しそうにメモを取っている。椛の苦労は尽きない。


 


「竜巻を消す?」
「まあね」

 文は椛への取材を終えて竹林を訪れていた。突然の告白に文は驚いていた。竜巻を消す。新聞のネタも芳しくない中、それは天の恵みのようだった。

「妹紅さん、具体的に教えてください」
「良かろう」

 庭の雑草取りに夢中になっていた妹紅が顔を上げる。

「最近、竜巻の被害が甚大なのは知ってるか」
「ええ、知ってますよ」
「なら話が早い。うちの近くや人里の外れでも被害があってな。竜巻の量が多いんで、消しちまおうかと」
「どうやって消すんですか?」
「それなんだ。色々考えてみたんだが、温めるか冷やすか、もしくは風で吹き飛ばすかしたらどうかな」
「どうかなって」

 妹紅は確実な方法を持っているわけではないらしい。気を落とした文に慌てたように妹紅が付け足す。

「温めたり冷やしたりするのは現実的に無理だ。私や氷精の力を借りてもいいが、それだと勢いが強まる可能性の方が高い」

 文は妹紅の言わんとすることが分かってきた。

「つまり、力を貸せってことですね」
「話が早くて助かる」

 妹紅は照れたように笑った。

「竜巻の仕組みは分からんが、雲を吹き飛ばすのが一番だろう」
「記事には出来そうもないですね。でも、面白そうですが」
「やるか」
「……いいでしょう」

 妹紅の顔が晴々とする。再度注意しておかねばならないのは、文は竜巻事件の第一容疑者だということだ。

「噂によると竜巻の子がそこらを蔓延っているらしい。まずはそいつらをやる」
「分かりました」

 二人は夕刻に集まることにして別れた。


 

 夕刻、迷いの竹林を抜け、妖怪の山。
 文が先導をとり、妹紅が後に続く。既に迷いの竹林から妖怪の山へ闊歩していく間に20ほどの竜巻の子が二人によって消されていた。方法は滅法簡単で上から垂直に踏み潰すだけだ。
 なお、角度を誤ると渦に足が巻き込まれてしまう。妹紅は炎を駆使して消そうとしたこともあったが、勢いが不安定になっただけのため取り止めた。
 画期的な方法を生んだのは、文だった。

「妹紅さん、来てください」
「どうしたの?」
「いい方法を思い付きました」

 得意げな文に妹紅は多くを聞かず、ほおん、と興味だけ垣間見せた。離れた所で道草を食うより竜巻を食らっていた妹紅は、文にゆっくりと近づいていく。その様子に、文は満足そうだった。

「それで、どんな方法なわけ」
「これは私限定、と言いますか天狗限定の方法なのですが」
「いいから早く見せろ」

 急かす妹紅に文は構わずゆっくり動いた。落ちていた葉っぱを手に取り、地面に対して垂直に構える。そして一振りで、小さな竜巻の子を作り出してみせた。

「ほう!」
「驚くのは早いですよ」

 文が作った竜巻の子は山に蔓延っていた竜巻たちを蹴散らして進んでいく。あっという間に3の竜巻が消えた。

「いやはや、素晴らしい」
「本当に思ってます?」
「うん、思ってる思ってる。あんたの技術を凄いと思わない奴なんて仏が三度回ってワンと言うより珍しい」

 文が苦虫を噛み潰したような顔をしたとき、何が近づいてくる音がした。妹紅が後ろを振り向くと、大きな白い筒状のものが見えた。
 言うまでもなく、竜巻だ。

「出番だぜ! ヒーロー!」

 妹紅がふざけ調子でそう言ったので、文は気を取り直した。しかし妹紅は知っている。ヒーローとは最終回で死ぬ運命にあると。ご機嫌な文がめんどくさくなった妹紅は大人しく死ねいと思った。しかし再三注意しておくが、文は第一容疑者である。


 


 霧の湖付近に竜巻が発生した。その報告を受け、妖怪の山からも天狗が派遣された。勿論、その中に椛もいた。

「はあ、なんでこんなことに」

 雲を突き破る勢いの竜巻の周りには、沢山の妖精たちが見学に来ていた。仲間の白狼天狗たちも圧倒されて見上げている。そして、その隅に何故か文も混ざっていた。脇には椛とは初対面の妹紅もいる。

「予定より早いが始めるかい」
「小手調べにはちょうどいいのでは」
「これが小手調べか。天狗は血気盛んだな」

 離れたところから会話を聞いていた椛はいぶかしんだ。文は第一容疑者。何か始めようものなら止めなければならない。
 見上げるばかりの仲間を置いて、椛は二人のもとへ急いだ。

「文さん!」
「あら椛」

 驚いた様子はない。見物客を歓迎しているようだ。

「何をするつもりですか?」
「竜巻を消すんです」
「竜巻を消す?」
「まあ見ていなさい」

 文は落ちていた葉っぱを手に取った。その時点で、椛は違和感があった。しかし続けて、文は葉っぱを地面と垂直に持って素早く振る。見事な小さな竜巻の子が出来た。

「見事だ」

 妹紅が素直に褒める。はて、この行為、椛にはどうも引っ掛かっている。しかし続けて、文はいくつか竜巻の子を作った。

「これで竜巻の力を弱めつつ、上から私が風を起こします」
「頼むよ」

 文は二人に見送られながら空を昇っていった。文が昇るのを見ながら、椛は眉をぴくりと動かす。先程の違和感はなんだろうか、と考えていた。デジャヴだろうか。
 随分高いところまでいった。それから文はごそごそと団扇を取り出し、なんの迷いもなく思い切り一振りした。竜巻は揺れに揺れた。椛の心も揺れる。

 椛はぐらぐら、何かが崩れていくのを感じていた。前髪が歓声を上げている。団扇。フラッシュバック。強烈に椛の脳裏に焼き付いているのは、文が取り出した団扇だった。文が団扇をもう一振りする。呼吸が苦しく、水の中にいるかのような感覚さえあった。一際強い風が吹いて雲がはち切れるように去り、轟音が響く。あの、天狗が空を駆ける音と似ていた。その後、空気は静まる。
 竜巻は消えた。
 隣で妹紅が歓声を上げている。白狼天狗の仲間たちも。

 ただ一人、椛は団扇を見つめている。その千里眼で。なにもかも見通している目で。何も知らない目で。

「団扇……?」

 椛は青い顔をしていた。団扇が枯れ葉の形を模しているのを見て、自然と椛が先程文が手に取った葉っぱを連想した。椛は自分の愚かさに気付いた。
 そうなのだ。なぜ文は落ちていた葉っぱを使った。なぜ使い慣れた団扇を使わなかった。
 それが便利だから。
 違う。
 そこに葉っぱがあったから。
 違う。
 そっちの方が、竜巻の子を作るのに使い慣れていたからだ。「そこに山があるから」と抜かす奴は登山家しかいない。それと同じだ。「そこに葉っぱがあるから」と言うような顔をする奴は犯人なのだ。狸のアジトの話を思い返してみると分かりやすい。彼らは葉っぱをよく使うらしいではないか。この竜巻事件が狸のアジトから始まっていたとなれば辻褄は合う。

「しまった!! 竜巻事件の犯人は──」


 


 竜巻は去った。皆が喜ぶ中、椛は警戒の目を緩めなかった。文は帰ってこなかった。

「文さんが逃亡! 容疑者が逃亡!」

 椛の掛け声で天狗たちがざわめく。


 


 文が消えてからもう一週間が経とうとしていた。相変わらずにとりと椛は対局して、今は椛が勝ち越している。暇なのだ。そして妖怪の山で時折見ることができた竜巻の子は、天狗により見つけ次第踏み潰されてきた。
 竜巻の子、可愛かったのになと椛はほんの少し思う。それに、文が消えてから巨大な竜巻は現れていない。これは文が消し去ったも同然なのではないだろうか。椛は腑に落ちない。

「竜巻を作る?」

 はい、と椛は力なく言った。庭の雑草取りに夢中になっていた妹紅が顔を上げる。幾分か驚いていた。

「なんで私に?」
「あの場にいましたよね。仲間には言えません、こんなこと」
「はあ、そうかい」

 妹紅は困ったように微笑んだ。ただそれは椛を落ち着かせる微笑みでもあった。

「なんで竜巻を作りたいの?」
「文さんなら、竜巻を消せると思うんです」
「あいつを呼び戻したいの?」
「出来るなら」

 椛はしゅんとしていた。それもそのはず、椛の一声で文の容疑は一気に強まり文の居場所を奪った。文が犯人であることはほぼ確実に思えたが、椛は次第に自信を無くしていた。
 今の妖怪の山は椛にとって暮らしにくかった。どうにか適当に河童と将棋をするだけの暮らしに戻ってほしい。余計な人間を見つけるのはもうこりごりだった。

「協力したいのは山々だけど私、風は起こせないよ」
「それはこちらで何とかします。これでも天狗の端くれですので」
「へええ、あんたも天狗なのね」
「見えませんか」
「いや」

 椛の名誉のためか本心のためか妹紅はかぶりを振った。二人は交渉を成立させ、文を呼び戻す準備を始めた。
 ところで、妖怪の山界隈ではある噂が広まっていた。なんでも、先日襲撃された狸のアジトが再び襲撃され、以前は狸一匹おらず無事だったが、今度はかなりの負傷者が出たとか。それに伴ったように、妖怪の山では再び小さな竜巻の子が姿を見せるようになった。椛は嫌な予感がしていた。

「妹紅さん、噂は耳に入ってますか」
「噂?」

 迷いの竹林では噂は囁かれていなかった。椛が噂を教えると、妹紅の顔色が曇った。

「それ、あいつの仕業なんじゃないの?」
「やっぱりそう思いますか」
「うん」

 椛と妹紅は知らないが、文は既に一度狸のアジトを襲撃している。噂の以前の襲撃と言われている部分は、文の仕業である。

「不安ですが、文さんに動きがあるのなら今のうちに手を打ちませんか」
「竜巻を作るってことか」
「ええ、あっちに先を越されてはややこしいですし」
「構わない。やろうか」

 場所は前と同じく霧の湖に決まった。条件も整いやすいためだ。妹紅と椛でなんやかんや竜巻を作る。
 因みに本物の竜巻は上昇気流を伴った積乱雲と回転のかかった風で出来ている。今回はなんちゃって竜巻だ。

「いきます!」

 椛が団扇を一振りする。もう一振りする。あの懐かしい轟音が響き、それは文への合図のようでもあった。まさにそうなのだろう。それでも亡霊に化した文の反応は芳しい。
 もう一度一振り。椛の白く柔らかな髪が浮き上がり、たんぽぽの綿毛のように舞っていく。息を吹き返した竜巻は、綿毛さえも散り散りする勢いで回転を始めた。椛の体が意図も簡単に浮き、体がちぎれてしまうのではないかと思われた。
 椛の口は確かに声を発しているのに何も聞こえなかった。その代わり、その日、久しぶりに天狗の吠える声が聞こえた。

「──じ、椛!」

 再び天狗が吠えた。懐かしい鐘の音は誰が鳴らしても同じように聞こえるのではなかったのだろうか、と椛は思った。そうではなかったのだ。竜巻の中は河童の発明した洗濯機と何ら変わらなかった。椛は体を丸め、手だけもがいている。音と肌で感じる痛みの世界。
 三度目は聞き慣れた轟音。
 強い風と共に椛は本当に音のない世界というのを知った。静寂で耳が痛くなることなどなく、風のない日の水面を見ているようだった。しばらく椛は自分が落ちていることも気が付かなかった。
 椛は落ちていく。竜巻は消えた。文は現れたのだ。竜巻を消しに。そして見事に消して見せた。一瞬で。ぎゅっと強く閉じていた瞼がくっついて離れないかと思う程だった。ゆっくりと目を開ける。

「文さん!」

 落ちていく中で懐かしい影を見た。心は跳ね上がっていた。体が落ちていく感覚とは別に上がっていくものがある。

「よおし任せろ!」

 妹紅が下で構えている。椛はろくに下も見ないで強引に妹紅の腕の中にすっぽりと収まった。打撃を食らった妹紅が腹這いになって動かない。

「すみません! 大丈夫ですか?」
「平気平気……椛は?」
「私は平気です。それより文さんが……」
「ああ、見た」

 椛は目を輝かせた。

「文さあーん!」

 遥か上空で何者かが手を振っている。勿論、文だ。文はいつものように重く唸る音を連れて、戻ってきた。目の前にもう立っている。椛に感動が襲ってきた。

「お久しぶりです」
「……お久しぶりです」

 椛は全ての言葉を押し込めてそう言った。文は一寸の陰りもない笑顔を見せていたからだ。

「びっくりしました?」
「いいえ」
「呆れました?」
「呆れました」

 ふふ、と笑った文は椛と未だに腹這いの妹紅に一枚の紙を渡した。それは文々。新聞だった。文の発行する新聞だ。初めて期待を持って読み始めた椛に、文は待ったをかける。

「私は上へ挨拶に行くついでに新聞を配りますから、しばらくお二人で楽しんでください」
「おーい、あんた。礼も無しかい」

 座り直した妹紅が言う。拗ねているわけでもなく年長者が道理を教えるような口振りだった。文はぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございました。本当に」

 現れたかと思えば去り際は清々しいほどあっさりしている。満面の笑みがいつも通りで、妹紅は気味悪く思った。しかし椛の興味は逸れることなく新聞に注がれていた。内容は大体次の通り。

『世間を騒がせた竜巻事件の真相は暴かれぬかと思いきや、事態は一週間後、動いた。白狼天狗の犬走椛と藤原妹紅が霧の湖でなにやら怪しい行動をしている。なんと、二人は竜巻を作っていたのである。一連の事件の真犯人は二人ということだ。幸い、私が駆けつけたことで被害は出なかった』

 流石速い。妹紅は思った。無事気味悪さは脳天を貫いてぶち当たった訳だ。

『最近妖怪の山で囁かれている噂をご存知だろうか。先日襲撃された狸のアジトが再び襲撃され、多数の負傷者を出している。この事件の凶器は狸の証言によると、小さな竜巻の子らしい。今日の事件との関連性が疑わしく、犯人は犬走椛と藤原妹紅ではないかと思われる』

 乾いた紙の音がする。

「ああぁぁあ……」

 椛は怒っていた。同時に疲れていた。思えば椛はずっと憂鬱だった。怒られるのではないかと言う恐怖。犯人かもしれない文との霧を掴むような問答。反省の色の見えない犯人。そのために働いたれっきとした自分の罪。
 この期に及んで文のことを理解したなど思いたくはなかったが、椛は理解しそうになっていた。
 心にある闇を、隠せはしない。

「妹紅さん……私、狸のアジト探してきます」

 妹紅は止めなかった。当の妹紅は怒る気にもなれなかった。黙って頷く。椛は狸のアジトを求めて旅立った。
 数日後、妹紅のもとにこんな噂が流れてきた。狸のアジトが再び襲撃を受け、めちゃくちゃに荒らされたと。その荒れようはまさに竜巻が通り過ぎた後のようだった。妖怪の山では文が戻ってくる前よりずっと、小さな竜巻の子を見られるようになった。妖怪の山どころではない。
 今日、竜巻の子は幻想郷中で見掛けることができる。

「妹紅さん」
「なんだよ」

 文はしつこく妹紅の家に通っていた。今のところ平和なこの幻想郷で記事になるような大した出来事はなく、一度目の天の恵みに甘えたくもなる。新聞にあることないこと書いたことはとっくに忘れている。

「何かネタありませんかね」
「ないない」

 妹紅は庭の雑草取りに夢中になったまま顔を上げない。

「じゃ、今度は台風消しましょうよ」

 今や品性の欠片も感じられない文の声は妹紅に届かない。妹紅は食べられる雑草と食べられない雑草の仕分けに忙しそうだ。それでも、一度顔を上げた。

「台風、私が作りますから」

 未だ竜巻による被害はない。
 台風はそのうちやってくる。
今日の天気は竜巻の子のち台風!
いずれも天狗にはご注意を。



慣れないことするもんじゃないな!
出直します
ひとなつ
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コメント



0.50簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
面白かった!
2.100名前が無い程度の能力削除
なんだこれ……
よく分からないけどなんだか面白かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
椛さんが物凄く……可愛かった
4.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめて良かったです
5.70保冷剤削除
ミステリ風味で様々な状況を提示しながら物語が進んでゆくのは、読んでいて楽しかったです。惜しむらくは十分に事態の背景を推測できなかったことです。
ストームチェイサーを扱った作品は見たことないので、もう少しこの点も深読みしてみたかった。そういう話でもないですが……
6.100終身削除
最初の導入でタイトルが強調される所が新鮮で面白かったです 謎の竜巻の暴れる中での混乱の感じがやりとりの中の自然な場の空気の様子に出てて臨場感が強かったです
7.80上条怜祇削除
状況が十全に理解できなかったんですけれど、キャラが生き生きしている様に見えて好きでした!
8.80モブ削除
面白いからこそ、出来ることならもう少し長い話を読みたいな、と思いたくなるお話でした。キャラがいきいきとしている(瑞々しい)のが、印象的です
10.100仲村アペンド削除
時系列や描写の流れにやや不鮮明さを感じますが、それがかえって独特の空気感を生み出しているように感じられました。面白かったです。
11.100南条削除
面白かったです
竜巻のような奴らが湧いて出て消えていったようなすがすがしさがありました
次の波乱を予感させるオチもよかったです