Coolier - 新生・東方創想話

ライフ・イズ・シークレット

2019/04/12 22:16:13
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 弾幕ごっこって、結構危険な遊びなのよね。

 よそ見しながら低空を飛べば、木にぶつかるかも知れない。
 高く飛んでも例えば、鳥にぶつかったり雷に打たれたり……。

 だけどやっぱり、一番危ないのは、被弾した時。  

「まずい、やばい。押されてる」

 大抵の場合は、煙をプスプスさせて、ゲホッ。
 服とお肌の被害から目を背ければ、まあ、それくらいで済む。

「カードはもう無い……どうする、どうする」

 でも、偶にだけど、被弾した時に不思議な感覚に襲われる事がある。
 空を飛んでいるのに、床が抜け落ちる感覚だ。

「あ、しまっ……ぶべッ!」

 他の人はどう感じているか分からないけど……この感覚があった時は、ヤバいとき。
 
 ほんのちょっとだけ。だいたい数秒くらいの間、飛ぶ力が失われてしまう。

「あれ、うそ、え、ぬわぁーッ!?」

 飛べるはずなのに、落ちてしまうのだ。
 
 





 いたた……どうにか無事みたいね。

 何とか飛ぶ力を戻せはしたけど、無事に着地するには遅すぎた。
 耐火・減菌・抗弾。一族秘伝のお椀が無ければ即死だったわ。ごめんちょっと盛った。たぶん捻挫とかだわ。

「それにしても私。確か森に落ちたハズだよね?」

 煉瓦造りの狭い空間。煤けた木と炭。どうやら暖炉の中らしい。
 空から落ちて、ピンポイントで煙突に入るってどういう確率なんだろう。
 
 いずれにせよ、早く出ないと。
 暖かくなってきたとはいえ、使う機会はあるかもしれないからね。

「ああ、着物が煤塗れ……洗うの大変なのに……」
 
 汚れをはたき落しながら、飛び込んでしまった家の中を見渡す。

 幻想郷では少数派であろう、完全洋式の内装。おそらくは居間……この場合はリビングかな?
 家主はきっとお洒落さんだろうな。大人びた、それでいて華やかな部屋だ。

「いいなぁ。こういう部屋も女子的に憧れよねぇ」

 流石に神社でこれは無理だろうから、輝針城にこういう部屋作っちゃおうかな。
 でも一つだけ、真似出来そうに無い点が一つ。

「……凄い人形の数」

 あちこちに置かれた、可愛らしい女の子の人形。
 みんな同じ青いエプロンドレス。金の髪に赤いリボン。そして、白いケープにお揃いのワッペン。
 よく見ると、それぞれ微妙に個性がある。全部自作なのかな。

 そういえば、人里で人形劇をやっていた人がいたなぁ。
 それこそ、お人形さんみたいに綺麗な女の子。もしかしたら、あの人が家主かもしれない。

「早く出た方が良いんだろうけど、ちょっとだけ。ちょっとだけ」

 不可抗力なのだから仕方が無い。せっかくだし、もう少し見て回りたい。
 ゆっくりと上昇し、テーブルの上にたどり着く。

「おっと。こんな所にも」

 ディナーベルに寄り添うように座る、やっぱり可愛いお人形さん。
 この子だけ、ケープの代わりに沢山ポケットが付いたベストを着ている。さっきの子達とは別のワッペンも。
 首からは、不釣り合いにゴツい双眼鏡を提げている。探検家みたいだ。

「まさかこの双眼鏡、ちゃんと見えるヤツなのかな……」

 双眼鏡人形を眺めていると、一瞬、その小さな手が動いた気がした。

「……気のせいか」

 操る人が居ないのに、動くわけも無い。気のせいだろう。

〈オハヨーゴザイマス〉
「あっ、おはようございます。もう昼過ぎだけど」

 そうだよね。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし。人形が勝手に動いたり喋ったりするワケ無いよね。

「……ワケ無いよね?」

 幼い少女のような、甲高い声。少なくとも、私の声じゃ無い。 

〈タリー ワン バンディット ワークナンバー 714〉
「やっぱなんか喋ってる!?」

 何を言っているのかは解らないけど、何かを言っている事は解る。
 でも、喋れるなら、会話が出来るかも知れない。ここは友好的に接しなければ。
 
「あ、あの。こんにちは。本日はお日柄も良く」
〈エネミーアタック!〉
「ひえっ」
〈ジェネラルクォーター バトルステーション!〉

 表情を変えず、叫びながら、ディナーベルをチリチリ鳴らす双眼鏡の人形。
 何を言っているかは解らないけど、友好的で無いのは解る。

「とっ、とりあえず。ここから出た方が、いいかな?」

 逡巡していると、あちこちに飾られていた人形達が動き出した。
 どこに隠していたのやら、いつの間にか武器を持ち出して。
 
 彼女たちが向かう先は、窓、暖炉、扉……出口を塞ぐつもり!?
 しかもお椀まで確保してる! 一族秘伝って言ってるでしょうが!
 
「そ、そこ封鎖しちゃダメ! 止めさせて! お椀返せ!」

 双眼鏡ちゃんに掴み掛かって抗議するが、彼女は表情一つ変えずに言い放った。

〈コッチ モ シゴト ナ モンデ〉
「真面目かッ!」

 既に出口になり得そうな場所は、武装した人形達が占拠していた。
 更にテーブルの周りも、ふわふわと浮かぶ人形達が、遠巻きに取り囲んでいる。

 人形師が居ないのに、まるで生きているかのような動きだ。凄い。
 
 でも、フフフ、甘いぞ。可愛いお人形さん。
 私はコレでも異変を起こした女傑。貴方達くらい、一瞬で蹴散らしてくれようぞ。

「いいだろう、覚悟せよ正規軍諸君! この元レジスタンスからすれば格好の餌よ!」

〈シーカー1-1 カラ ネームレス6-1 コウゲキ ヨウキュウ ワークナンバー444/6-ALL〉

「弾幕ごっこだって、妖怪達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ」

〈6-1 コピー 444/6-ALL スタンバイ〉

「あーでも、あのエスパーは苦手。完全に私をペットとして見てるもん。酷くない!? だって」

〈ファイア ファイア〉  
 
「ん? なに?」

 雰囲気が変わった気がして、演説を止めて上を見る。
 四方八方から、色とりどりの弾幕が、私を目掛けて殺到してきた。

「ぬわーッ!?」

 包囲された状態で、しかも上から! 
 テーブルに魔弾が弾け、光飛沫が舞い踊る。こういうのは外側から観るもんだよ!
 
 とにかく、ここを離れよう!

「とおっ!」 

 テーブルから飛び降りて、イスの下へと潜り込む。
 でも、ただ潜るだけじゃまた囲まれる。敵のテリトリーで隠れてもじり貧だ。
 
 反撃だ、反撃しないと。包囲を突破して脱出するんだ。
 
 出来れば、家や人形を傷つけないように。
 帰って来るであろう家主の怒りは、少しでも低く抑えたい。後が怖いから。
 
 さて人形達は、どう来る?

〈スタンバイ スタンバイ〉

 ……あれ、来ない。上の方で囲んでるのかな。

 フムン、ようし。来ないのなら、こちらから行こう。
 鋭い切っ先と、細い輪っか状の柄。縫い針では無い。一族秘伝の宝剣だ。決して縫い針では無い。

「この輝針剣の錆にしてくれよう!」
〈ワークナンバー 411/6-2 3 4〉
〈ダイブ ダイブ ダイブ〉

 意気揚々とイスの陰から出ようとした、まさにその時。
 
 人形が降ってきた。三体も。
 それぞれがビックリする程スマートに着地。青いドレスと金の髪が美しく舞い広がる様に、思わず感心してしまった。

「お見事! これ私も練習したら出来るかな……って、いやいや」

 残念ながら、そういう状況じゃない。輝針剣を、改めて握り直す。
 三人の人形達は、私の目を見据えながら、腰の長剣をすらりと抜いた。

〈チャージ!〉
〈ウーラー!〉
〈ブッコミ!〉

 切り込んで来た! しかも、速い!

「上等よ!」
 
 頭に被った、お椀の蓋を投げつける。
 フリスビーのように綺麗に飛んだ蓋が、一人目の頭を直撃。

〈イタイ!〉
 
 スッ転んだ一人目を、躊躇無く踏み越える二人目。
 低い位置からの刺突。鋭い切っ先が狙うのは、私の喉。

 輝針剣をくるりと回し、柄として用いている円輪の方を、前に突き出す。
 
「せえの……」

 迫る剣先を円輪で絡め取り、思いっきり横へとなぎ払う!
 
「それッ!」

 長剣は彼方へ吹っ飛び、よろけた人形のおでこを円輪で突いて倒す。

〈ウギュッ〉
「あと一人……そいやッ!」

 動きの止まった三人目。その長剣目掛けて、輝針剣を力任せに思いっきり振り向いた。
 またしても剣は、彼女の手を離れて遠くへ飛んだ。

 うーむ。三人不殺で仕留めるとは、私も中々やるじゃないか。
 
「よーし! 決ッ着! って、うわっ!?」
〈テヤーッ〉

 武器を失った三体目はしかし、戦意までは失っていなかった。
 そのまま突撃し、私に飛びかかって押し倒してきた。

「こ、この。どきなさい!」

 ふんぬぐぐぐ……可愛い顔して、意外と力が強いぞこの子!

〈6-4 カラ 6-1 コウゲキ ヨウキュウ ワークナンバー 444/6-ALL〉
「え? なに?」
〈6-1 コピー 444/6-ALL スタンバイ〉
「コウゲキ……って、まさか!?」

 上に居る味方に、自分ごと撃たせるつもり!?

〈ファイア ファイア〉
「どわーッ!?」

 降り注ぐ七色の弾幕。本当に撃つなんて、味方が居るのに!
 大体にしてこの子、私の上に覆い被さっているんだから、むしろ盾になってるじゃない!
 
「そういうの良くないと思いますけど!?」

 叫んでみても、6-4は答えない。

〈6-4 ヒダン 6-4 ヒダン〉
「当たり前でしょ!」

 弾が直撃しても淡々と告げるだけ。凄い力で私を押さえ続ける。

 一体この子達は何なんだろう。
 操者は居ない。付喪神にしては、自分に無頓着過ぎる。絡繰りにしては、出来る事が多すぎる。
 
「どっせい!」
〈ヌワーッ〉

 6-4の拘束をどうにか振りほどいて、転がっていたお椀の蓋を被り直し、一目散に走り出す。
 床に着弾した魔弾が弾けて、カラフルな光で目の前が舗装されていく。綺麗だけど、足を止めたら蜂の巣だ。

 とはいえ、走り続けてはいられない。そして、迂闊に飛び上がれば鴨撃ちになる。
 スペルカードも、さっきの弾幕ごっこで使い果たした。

「……暖炉に向かおう」

 あそこなら走ってそのまま行けるし、お椀も、出口もある。
 上からの攻撃も、暖炉を守る人形と混戦に持ち込めば、同士討ちを狙えるかも知れない。

「ダッシュ奪取ダーッやっぱやめ!」

 しかし、すぐに方向転換を余儀なくされる。

「何あの重装備!?」

 暖炉に陣取る人形達は、長槍と大盾を構え、その後ろには短弓を構えた人形まで居た。 
 突撃すれば、上から弾幕、正面から矢の雨を喰らいながら、槍衾を目掛けて突っ走るコトになる。

 そんなんもう自殺でしょ。
 
「……やっぱ、上のを倒さないと、かねぇ」

 人形達が自称する所の、第六部隊。
 アレをどうにかすれば、もう少し落ち着いて考えられるか。

 リビングの空には、あと九人。
 相手は犠牲を厭わない。脅しや威嚇が効かない以上、一人ずつ確実に堕とさないと。

 霊夢達を相手にした時に比べれば、随分と楽なハズだ。

「カードが無くったって……!」

 今度は、机に向けて走る。隠れる為じゃ無い、隠す為だ。

〈バンディット コンタクトロスト〉
〈リビング ヲ サイケンサク ワークナンバー……〉

 机の下に来たところで地面を蹴り、リビングの空に向けて一気に飛び出す。
 陰からの奇襲だ。いくぞ!

「まずはお前だ!」
〈タリー ワン バンディッ――〉

 一番近くを飛んでいた人形に吶喊。固まっている彼女の胸に、輝針剣を突き立てる。

「辻刺し御免!」

 何か剣先に、固いモノを刺した感覚があった。
 人形はぐったりして動かなくなり、そのまま落下していった。ごめんね。

〈6-10 ロスト バンディット クローズ ワークナンバー411/6-9〉
「次ッ!」

 長剣を抜こうとする人形に、粒弾を叩き込む。
 避けながら撃ったけど、思ったより当たった。彼女も墜落。

「なんとなーく、解ってきたぞ」

 同じように剣を抜こうとする人形へ弾幕を撃ちながら、考えをまとめる。

 前に魔理沙から、魔法使いは奴隷を操るコトが出来るといっていた。
 奴隷……この場合は、簡単な指示で動く精霊とかのコトらしい。

「それ! もういっちょ!」
〈6-7 6-12 ロスト 6-ALL ソンガイ カクダイ〉

 この子達も多分、それを応用しているんだと思う。詳しくは分からないけど。
 ただ、与えた指示の組立と調整が、もの凄く精巧なんだ。
 自分の意思で動く人形に見えるけど、実際は指示に従って動くだけの絡繰り人形なのだろう。

……この子達の主、マネージャーとかやったら超優秀なのでは。

〈バンディット クローズ ワークナンバー……〉

 この第六部隊の戦い方も至極単純。敵が遠ければ弾幕を、近ければ剣を。

 そしてこの、遠近の切り替えがあんまり早くない。
 状況の急な変化に、指示の交換が間に合わないんだ。 

「一気に近づけば、剣を抜くまでの時間で倒せる! それッ!」
〈……ナンバー……411…… 〉
〈ソンガイ カクダイ ワークナ……〉
〈…… ……〉

 広範囲に放った粒弾幕が、怒濤のトリプルヒット。
 いける、いけるぞ。
 
「あとニ人……もうちょっとだ」
〈チャージ!〉
「おおっと!」

 剣を抜こうとする人形から遠ざかり、弾幕を放つ。

〈6-8……ヒダン……〉
「よおし、ラストだ!」

 この子だけ、ケープに小さな赤い花の刺繍がある。隊長さんだろうか。

「さあ、大人しく往生せい!」
〈6-1 カラ シーカードール ――――――― ワークナンバー ――――――〉

 なんだ、今の雑音。

〈……6-1 ―――― シーカー ―――― ナンバー ――――――〉
「な、何よ。何が言いたいの」

 得体の知れない、不気味な空気。

〈――ク ナンバー 999 エラー ――― ……〉

 雑音だらけの何かを喋り、6-1はそのまま墜落してしまった。

「どういうことなの……? ほ、他の子は?」

 テーブルの上に降り立つ。座っていた筈の双眼鏡ちゃんは、横になっていた。ピクリとも動かない。
 窓や暖炉を見張っていた人形達も、みんな倒れ伏していた。

「……人形屋敷で怪奇現象とか、シャレにならないって」 
 
 で、でも。これはチャンスだ。人形達は無力化されたんだ。
 また復活しないとも限らないし、今のうちに脱出しよう。

「あの……お、おじゃましました」

 お椀を回収して、そのまま暖炉から出よう。
 何となく、そろりそろりと、忍び足をしてたところで。

 ぎしり、と音がした。

「ひっ! 今度はなに!?」

 思わず、輝針剣を取り落とした。
 振り返ると、閉ざされていたリビングの扉が、少しだけ開いている。
 
 家主、では無いだろう。
 無意識のうちに、扉の下の方を見る。

 ……人形だ。
 でもどうやら、リビングに居た子達とは別物のようだ。
 
 ドレスとリボンと金の髪は同じだけど、武器は持っていない。
 ケープには金糸の刺繍。ワッペンの柄も別物。

「えーっと、その、どちらさまで?」

事故とは言え、侵入者の台詞では無いね。

 何となく一回り強そうな彼女は、空を飛んでテーブルの上に降り立った。
 こちらに近づき、落ちた輝針剣を拾い上げ、呆と立つ私を見て言った。

「……シャンハーイ」

 これは、名乗ったのかな。

「しゃんはい、が貴方の名前?」
「正確ニハ、私タチ。大キナ街ノ名前ラシイネ」 
「ふーん……貴方なんか、他の子に比べて生っぽく喋るね」

 返し方といい、明らかに他の人形とは違う。

「ネームレス6達ハ、セミオートマトン。事前ノ指示通リニシカ動ケナイ」
「ああ、やっぱりそういう感じだったのね。最後にあの子達が止まったのって、貴方が?」
「ムシロ、貴方ダヨ。粘ッタカラ、ミンナ魔力切レ。アリス居ナイト、長ク動ケナイ」

 流石は私といった所か。いや、照れるね。

 そして、シャンハイと話して分かった。いや、感じたというべきか。
 この子が持つ、感じ慣れた魔力の質……間違いない。

「シャンハイはもしかして、小槌の魔力……付喪神になったの?」
「ヨク分カッタネ。ツイ最近、付喪神ニ」

 まあその、張本人だしね。
 でも、最近っていうのは気になる。もう小槌は回収期なのに、どうやって?

「謎ノ魔力ト、アリスノ魔力ガ、時間ヲ掛ケテ馴染ンダミタイ」

 心を読まないで欲しいけど、そういう事もあるんだなぁ

 というか、シャンハイ結構冷静だね。
 お琴の付喪神とか、わっほいわっほい言って凄いはしゃいでたのに。

「ご主人様はなんて言ってた? 喜んでくれた?」
「アリスニハ言ッテ無イノ。付喪神ニナッタコト」
「えっ、そうなの」
「マア、ソノ。私ノワガママ、トイウカ」

 少し照れたような物言いで、視線を逸らすシャンハイ。
 どうして言わないんだろう。作った人と、会話してみたいと思いそうな気がするけど。

「我が儘って、一体どういう」
「アリス相手ニ、付喪神ニナッタ事ヲ、ドコマデ隠シ通セルカナーッテ」
「なんだって?」
「結構楽シイヨ。バレナイカ、毎日ドキドキ」

 可愛らしい顔をくるくると変化させながら、楽しそうに笑うシャンハイ。
 思ってたより興奮してたわこの子。

「……怖いとか、思ったりしない? 明かした時に、もし嫌がられたら、とか」
「アリス優シイカラ、ソンナ事ハ無イヨ。古株ノ私ガ言ウンダカラ、間違イナイヨ」
「それなら良いけど……」
「貴方モ優シイネ。心配シテクレテ、アリガト」
「いやいやそんな」

 どうやら第二の人生は、今のところ安泰かな? よかったよかった。
 
「サテ、ココマデハ。付喪神トシテノ、私」

 腰に手を当てて、少し俯くシャンハイ。どういう意味だろう。

「ココカラハ、アリスノ人形トシテノ、私。ネームレス6ノ仕事ヲ引キ継グ」
「つまり?」
「侵入者ハ、排除スル。覚悟セヨ」
「ちょいちょい、ちょーい!」

 ここまで結構友好的な感じだったじゃん! どうしてそうなるの!

「わ、私はその、弾幕ごっこで撃墜されて!」
「知ッテルヨ。全部見テタカラ」
「だったら分かるでしょ? あの子達が封鎖しなきゃ、とっくに出てるもの。すぐに出てくよ」
「ソウダケド、マア、コッチモ仕事ナンデ」
「真面目揃いかッ!」

 折角の命は柔軟に使うべきだよ。今すぐに。

「ほら、見て見ぬ振りとかしよ? 目にゴミが入る嘘は? 虚空を見つめてとぼける演技もいいよ?」
「チョット何言ッテルカ、分カンナイデスネ」
「こっ、この分からず屋! アホンダラ! 貴方のご主人デーベソッ!」
「アリス ビジン ダカラネ。シット ショウガナイ」
「私だって可愛いよ!」
「アリス イズ ナンバーワン。フォーエバー」

 シャンハイは誇らしげに鼻を鳴らし、そして、ゆっくりと宙に浮いた。

「魔彩光ノ上海人形。観賞用ジャ無イッテ事ヲ、教エテアゲル」 
「私だって、ただの小人じゃ無いんだから。後悔したって遅いからね!」
「イザ尋常ニ!」
「勝負ッ!」

 ガチャリ、と音がした。
 
 まるで、扉が開いたような音が。
 恐らくは、玄関のある方向から。

「ア、ヤバ……アリス、帰ッテキタ」
「こっ、この状況は……マズいね……」

 破損し、機能停止した人形達の群れ。
 今まで気が付かなかったけれど、弾幕で壊れたであろう調度品の数々。
 
 そして小さな侵入者と、動かない筈の動く人形。

 バレたら絶対、面倒臭い事になる!

「コッチニキテ」
「合点承知」

 低空飛行で部屋を飛び、家具の後ろの微妙な隙間に滑り込む。

 家具の陰から、持っていた手鏡を使って、部屋の様子を覗き見る。
 リビングの扉が開かれた直後、人形達が飛び込んできた。
 数は五人。赤いエプロンドレスと、黒いケープ。

 次いで、金髪の女の子が入ってくる。
 青い服と白いケープがなんとなく、シャンハイやネームレス達に似ている気がする。
 いや、みんなが彼女に似ているのか。

「アリスト、ホーライ達ダ」
「やっぱり人形劇の人かぁ」

 彼女は部屋を見回し、倒れ伏すネームレス6達を拾い上げては、ソファや椅子に座らせていく。
 全員を座らせた所で、眉間を片手で押さえて小さく唸り、短くため息を吐いて呟いた。

「まったくもう……二階かしらね」

 アリスは僅かに指先を手繰ると、部屋を出て行く。
 その後をホーライ達が追う。

「行ったね」
「デモ多分、スグニ戻ッテクルヨ」
「どうするの。私をアリスに突き出す?」
「ヤメトクヨ。事故ナノハ、分カッテルシ。私モ、元ノ場所二戻ラナイト、バレチャウ」

 そう言うと彼女は、輝針剣を私に返してから、家具の裏の壁を指差す。
 よく見ると、小さな扉のような物がある。

「アレ、今ハ使ッテ無イ、人形用ノ通路。アソコカラ、外二出ラレル」
「ありがとう。色々と頑張ってね、シャンハイ」
「アリガト。今度会ウトキハ、敵ジャ無イコト、祈ッテルヨ」
「うん、私も。それじゃまた」

 笑顔で手を振るシャンハイを背に、お椀に乗り込み、扉の中へと入っていく。
 お椀も通れるサイズで助かったよ。

「しかしめっちゃ暗いわね……」

 明かりが一切無いので、視界は殆どゼロ。ゆっくりと、壁を確かめながら飛ぶしか無い。
 分岐とか有ったら終わりだぞ、これは。

 ゆっくりと慎重に暗闇を飛んでいると、行き止まりにたどり着いた。
 一瞬絶望しかけたけど、ここが出口かな?

「押してみますか。どっ、こい、せっ……開いた!」

 昼でも暗い魔法の森だけど、今はとても明るく見える。

「おっと、喜んでる場合じゃ無い。すぐに離れよう」

 心の中で、シャンハイにもう一度お礼を言ってから、私は全速力で森を後にした。







 人形屋敷の出来事からおよそ一ヶ月。
 私は博麗神社の縁側で、特に何をするでも無く、だらけていた。

「はー……良い天気ねぇ」

 あの後、魔法の森を脱出しようとしたら、どれだけ飛んでも、森から出られなかった。
 気が滅入りそうになった時、また違う家を発見した、魔理沙の家だ。

 魔理沙の力を借りることで、どうにか森を脱出できた。
 ちなみに、結構高く付いた。

「暖かくて、寝ちゃいそう……」

 あれから森には近づいていない。アリスも、勿論シャンハイも見ていない。
 まだ、バレてないのかな?

「久々に誰も来ないと思ったら、久々にあんたが来るとは」
「別にいいじゃない。ほら、おみやげ」
「あら、気が利くわね。他の奴も教育しといてよ」

 境内の掃除をしていた霊夢が、誰かと話している。
 二人は縁側の方へまっすぐ歩いてきた。
 
 金の髪に、青いドレス……。

「霊夢も人形趣味に目覚めたの? ようこそ」
「違うわよ。こいつは小人」
「……ああ、前に言ってた異変の」

 ア、アリスだ! うわっ、ヤバい。心の準備が。

「え、えーっと。初めまして? 少名針妙丸よ」
「アリス・マーガトロイド。何度か遠くから、人形劇を見てくれたわよね」
「そうだけど、よく分かったね」
「観察眼には自信があるの。で、この子は上海」

 微笑むアリスの近くに、宙に浮く人形が一人。
 彼女は流れるような動きでスカートをつまみ、挨拶をした。

 そして、アリスに見えないように。人差し指を唇に寄せ、片目を瞑って微笑んで見せた。

「……えっ」

 貴方、あの時のシャンハイか!
 でも、私が驚いたのは、そこだけじゃない。

 アリスの方だ。

 アリスもまた、人差し指を唇に寄せ、片目を瞑って微笑んでいる。
 そしてシャンハイの方を流し見ながら、声を出さずに口を動かした。

『まだナイショ』

 ……まさか、全部知ってる?
 
 シャンハイが付喪神に成ってること。
 彼女がそれを隠して、楽しんでいること。

 それどころか、まさか、あの日の侵入者が私だということも? 

「何も言わないから、仲良くしてあげてね」

 そしてこの言葉である。

「それは、ありがたい。私こそよろしくね」

 私もアリスにウインクを返す。
 そんな私を、シャンハイは怪訝な表情で見ている。

 頑張れシャンハイ。クールな印象のご主人様は、思った以上にお茶目だぞ。
「そしてこの子がネームレス6-4よ。可愛いでしょう?」
「なッ、シックスフォ……う、うん。か、可愛いね」
「アノ チョウドヒン ケッシテ ヤスクハナイ(裏声)」
「(絶対怒ってるわコレ)」


こんにちは。もしくは初めまして。もふもリストです。

ライフ・イズ・シークレット、いかがでしたでしょうか。
針妙丸とアリスの人形。ちょこまかしてて絶対可愛いと思うんですよ。

ただ私が書くとこうなってしまうので、キュートでメルヘンなお話が得意な御方、次の題材にいかがですか?(他力本願)

それでは。お読み頂き、ありがとうございました。
もふもリスト
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コメント



0.60簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
面白くとても良かったです
2.100サク_ウマ削除
良いですね。バトル書けるの凄いと思います。
>真面目か
すき
3.100終身名誉東方愚民削除
わちゃわちゃの乱闘が分かりやすく描写されてて凄いと思いました アリスとシャンハイの関係が良い感じで雰囲気の感じもとても好みです

4.100ヘンプ削除
可愛いですねぇ……戦闘描写もとても良くて、素晴らしかったです。
とても面白かったです。