Coolier - 新生・東方創想話

しるし

2019/03/31 20:41:19
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ここは、陽の光が差し込まぬ、血の錆と、放り込まれた玩具の怨嗟の声が染み付いた、幻想郷屈指の危険なスポット。足を踏み入れることができる存在は、限られている。その限られた存在でさえ、注意を払わねばならない。

なぜなら、その踏み入れられる存在でさえ、その尊厳は蔑視され、尊重されるべき命は軽視されているのだ。その名はレミリア・スカーレット。彼女こそが紅魔館の主人。しかし、力で言えば五年遅れて生まれた妹の方が及ぶ。

フランドール・スカーレット。その名を知る者は少ないが、知る者は口を揃えて言う。彼女は最初、とても理知的な印象を受けるが、それは仮初めの姿に過ぎない。彼奴の話す言葉は常人には理解できず、また、その行動も理解することはできない。皆、彼女を恐れていた。姉だけが献身的な態度で接していたが、フランドールを地下に閉じ込めたのは他ならぬ姉のレミリアであった。

最初から広い世界を知らないフランドールが、狭く古い地下室しか知らぬ彼女が広い世界へ羽ばたこうとすることはない。彼女には友達も家族も無く、あるのは壊す者、すなわちフランドール自身で、あとには壊されるものだけ。つまり、自分以外の全て。彼女にとっての正気が、他にとっての狂気だった。

そんな彼女に転機が訪れたのも束の間、あの紅白の巫女と白黒のモノクロ魔法使いがフランドールとレミリアに与えた影響は大きいが、だからどうしたという話だ。幻想郷の住民にありがちな、その場その場のテンションが彼女らのその時の気持ちを揺らしただけに過ぎず、たしかにフランドールの行動範囲は錆びた地下牢から紅魔館全体へと広がった。それだけだ。結局、人と妖は相容れぬのかも知れない。フランドールは悲しみに暮れるよりも、むしろ喜んだ。この気持ちなら、次にまた戦う時も情に動かされることはない。

豪胆な彼女であるが、一つ、悲しみを背負っていた。彼女の背から生える七色の羽は他の誰にも真似できない鮮やかな色合いをしていたが、それを見る者は「綺麗」などという感情を抱くことがなく、ただ、フランドールの「本当」と重ねて不気味だと嘯く。それがフランドールの495年生きた中で唯一抱いたささやかな絶望で、不気味だと言う者以外は何も言わなかった。

彼女は自分がおかしいと分かっていた。だけど、悲しみを抱くのは良くないことだとも分かっていた。だから、見せびらかす事はなかった。彼女の生きた495年間は人にとってはあまりに長い年月だが、フランドールにとってはまだ「物心ついた」程度の時間でしかない。

あらゆる物を破壊してストレスを発散させる彼女が、姉に与えられて唯一壊さなかったものが、姿鏡だった。フランドールには魔法があった。自分で自分を慰める魔法。誰に教わったものでもなく、ただ、悲しい心を優しい力に変えるだけの、有り触れた処世術でしか無いが、フランドールは何も映らない鏡を見て自分を慰める事が出来た。

鏡よ鏡、この世界で一番綺麗なのはだあれ?

そう呟いた刹那、フランドールは背後にあった壁を、手足を一切動かさずに打ち砕いた。フランドールと壁の間にあった物でさえこの世界から完全に消えて無くなった。この地下牢の中で、姿鏡だけが綺麗なまま残っていた。

しかし、不純物が映っている。フランドールすら映さない鏡の中に、別の世界の住民がいた。室内なのにとても大きな帽子を被っていて、それを支える頭、ないしは身体はあまりにも華奢だった。たった今、超能力とも呼べる攻撃をその身に受けたにも関わらず、帽子の子は微笑みを欠かさなかった。

この世界で一番綺麗なのは、わたしわたし!

帽子の子の笑みは「こいしだよ!」──こいしの笑みは形を崩さない。ずっと同じ笑顔だ。フランドールは彼女から不気味な気配を感じ取った。

でもね、あなたの羽もとっても綺麗ね!

フランドールが広げた掌をこいしの眼前に広げた時だった。こいしの言葉からは恐れも偽りも媚びも無い。フランドールは、これが鏡の答えなのだと解釈した。

ねえ、あなたはわたしと同じ匂いがするね。

そんなに臭うかしら?

違う違う。わたし達はきっと同類なんだ。

同じ穴の狢ってわけね。

自分の存在に、何のしるしも付けてはいけない。そんな事は、とっくの昔に分かっていた筈なのに。フランドールは、自分と対等の立場であるのだと、こいしを見て理解した。

しるしはもう、太古の昔に誰かに付けられている。人を襲う存在。人を脅かす妖怪。人を喰らう者。なら、なぜ自分は存在を許されている?この世界では、人を襲ってはいけないのに。

この実態の掴めない妖は何のためにいるのだろう。わたしは人を脅かす何かを形にするために生まれた。話すうちに、こいしが特殊な存在であることがわかってきた。

こいしは誰にも気付かれないのだと言う。誰からも関心を持たれ無いのだと言う。あなたは幸せだとも言った。幸せが何か、フランドールには分からなかった。

あなたは誰のために存在しているのかしら。

フランドールには、その言い方には語弊があるものの、人のために存在するという使命があった。では、誰からも恐れられない彼女にあるしるしとはなんだ?こいしの答えは単純だった。

わからない。

こいしは人よりも儚い存在かも知れない。人間がこの世にいる時間はとても短い。だけれど、彼女は、こいしは、恐らくは一生を消え入りそうなまま一人で生きていく。

寂しくない?

こいしは答えた。

そんな妖怪が、一匹くらいいても良いよね。

良いような気がした。こいしが納得すれば、それで良かった。誰も寂しくないなら、それは素晴らしい世界なのだ。

でも、どうして、わたしにはあんたが見えたのかしら。

言ったでしょ、同じ匂いがするって。

その言葉の意味はあまりに捉え方が多過ぎたけど、フランドールはその中から自分が納得できる解釈を選びとって、それで良しとした。こいしは姿を消し、フランドールは姿鏡の前に立った。相も変わらず、フランドールの姿は影も形もありはしない。この館の住民と自分だけが、フランドールの姿を認知する。

誰かの陰であり続ける事が、自分の存在意義だ。もとより陽の光は肌に合わない。言葉も理解されなければ、思考そのものが他者とは違う。それで良い。フランドールの中にあるしるしが、彼女にとっての勲章となった。

彼女は鏡の前に立つと、拳を固めて、そのままガラスをぶち破った。「本当」を映さない鏡など必要ない。自分の全てを映し出す鏡が、さっき手に入った。
酔った勢いです。
いびでろ
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良い世界観でした
2.100サク_ウマ削除
ひとのこいフラが読めて俺は嬉しいです。感謝しかない。
鏡よ鏡! そういうフランちゃんも良いですね。発想がとても素敵だと思いました。
3.100終身名誉東方愚民削除
他に影響されて価値観とか考えが変わる感じ個人的には大好物です
こいフラ万歳!
4.100ヘンプ削除
とても良かったです。
いつかの本当を探すことが出来たのかな、と思います。
とても面白かったです。
5.80名前が無い程度の能力削除
よかったです
6.90南条削除
面白かったです
正反対に思える2人ですが、確かにある意味同じなのかと思いました。
9.90ひとなつ削除
鏡にうつらないフランとこいし、発想が好きです