Coolier - 新生・東方創想話

2019/03/12 01:17:16
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炎。炎。炎。
怨嗟の炎がこの世界の元になるのだ。
ここは地獄──いわゆる八熱地獄と呼ばれる場所だ。八寒地獄もあるわけだが。今はそれは割愛する。
私は悲鳴をあげる罪人をただ見ているだけである。直接手を下す訳でもなく執行している鬼に時折注意などを言うのみである。
誰かが私を地獄の仏だと言った。そんな上手いことを言えと誰が言ったのだ。元は知らん。
確かに私は矜羯羅童子、もといコンガラと言う名前である。
不動明王様が直々に地獄へ監視、管理を始めろとの命で八熱地獄へと降り立ったのである。執行者たちと慣れるまでには時間ががかった訳だが。

ここには八つの地獄がある。
一つ、等生地獄
二つ、黒縄地獄
三つ、衆合地獄
四つ、叫喚地獄
五つ、大叫喚地獄
六つ、焦熱地獄
七つ、大焦熱地獄
八つ、無間地獄

下にいけば行くほど重い罪を重ねた罪人が行く地獄である。
どこに置いても怨嗟の炎は燃え上がる。
人間は浄土に行こうと思っていても何かしら罪を犯しているのだ。私はそれをずっと見てきた。
殺生を犯すもの。盗みをはたらくもの。性に対して邪なもの。酒に溺れるもの。嘘をつき続けるもの。強姦をするもの。親や聖者を殺したもの。
ああ。いかに愚かしいものであろうか。
誰しも浄土に行くことが出来れば地獄なぞ要らぬものなのに。
この光景を知っているからこそ閻魔は人間を更生させようとしている。とても良いことではあるのだが……欲深い人間がそれを聞くか。否、聞かぬであろう。
そして堕ちてから気がつくのである。閻魔の言うことを聞いていれば良かった、と。
そんなものは遅すぎるのだ。自身の罪の怨嗟の炎に焼かれて死んで生き返っては死んで。
だから地獄は悲鳴がずっと鳴り響いているのだ。自身の罪に耐えられなき者たちの怨嗟の悲鳴が。

「忌まわしい。何故人間は同じことを繰り返すのだ」
呟きながら愛刀を触る。いつの間にか持っていたものでありずっと使ってきたものである。
「コンガラ様、どうかなさいましたか?」
執行者の鬼が話しかけてきていた。
「いいや。少し思いふけっていただけだ。気にするな」
「そうですか……報告なのですが今日の刑罰は終了致しました」
私が出していたものが終わったのであろう。
「そうか。お疲れ様、各自休憩に入れ。今日は刑罰はしなくてもいいからな」
手っ取り早く言うことだけを伝える。
「分かりました。他の鬼にも伝えておきます。お言葉ですがコンガラ様疲れてませんかね。無理をなさらずに」
そう言って鬼は詰所方面に向かって歩いていくのを見た。
刑罰が終わると怨嗟の悲鳴は落ち着く。罰を受けていないということだけでなんとも気楽なものだ。それ以上の罰が待ち受けているというのに。
「少し、気を張りすぎか」
ふらり、と私は移動することにした。

 ***

無間地獄のその下、地獄の関係者の休憩所がある。
少しの娯楽と割り当てられた自室、もとい家があるのみである。
私は適当に置いてある椅子に腰掛ける。と言っても足はないのでもたれ掛かるという表現の方が良いだろう。
今日も怨嗟の声が鳴り止まない。地獄ではなく私の頭の中の怨嗟なのだろう。頭が痛いのでやめてもらいたいがそれは無理なのだろう……
そんな事にを思いながら立ち上がるように浮くと声がかかった。
「コンガラ様。今お時間よろしいでしょうか」
キクリだ。大きな円盤に身体を縛られている地獄の月。具体的に言うと身体の上半身はあるのだが、その下は私の身体くらいの大きな円の板のようなものとくっついているらしいのだ。
いつもの目を閉じているのか開けているのか分からないような緩やかな笑顔でこちらに問いかけている。言い忘れていたが一応女性……になるのだろう。私の性別は分からないが。
「ん、どうしたキクリ。何かあるのか?」
浮き上がったまま私はキクリに目をやる。
「最近の地獄の事なのですが……少しお話したいと思いまして」
ふむ。キクリも何か思うことがあるのであろう。
「分かった。思うことを言えばいい。少し話せる所に行こうか」

二人で甘味処に行く。地獄と言えど少しの娯楽がないとやっていけない。それなりに小さな所がぽつぽつとあるのである。
二人とも団子を頼み、私から話を切り出す。
「それでどうしたんた、キクリ」
店員の鬼がお茶を置いていく。ありがとうと声をかけた。
「最近の地獄をコンガラ様はどう思いますか」
これはまた……難しい質問が飛んできたな。私は少しお茶を飲みながら考える。
昔より人間が増えた。不動明王様曰く救済すべきものが増え続けているとのこと。それに伴い罪を犯す人間は全て地獄に堕ちてくる。昔よりも怨嗟の声が増えているのは確かだ。八熱地獄で罪を受け続け、そうして転生してもまた地獄へと堕ちてくるのである。堂々巡りだと個人的には思うのだ。
仏の奴僕としての意見とは言えないが人間を救済することなど難しすぎるのであろう。
「そうだな。罪を犯す人間が増えすぎだと私は思うが」
持っていた湯呑みを机に置く。キクリは少し考えているようだ。
「そう、ですね……」
「どうした、何か思うところでもあるのか」
言い淀むキクリに私は問いかける。
「私は地獄を照らす月でございますが……最近は罪人が多すぎます。罪を犯した者達ですがずっと悲鳴を上げ続けております。堕ちてきた人間の自業自得ではあるのですが。ずっと宙から見ておりますがこのままだと執行者が足りなくなるのではないのか……という心配なのでございます」
「人手が欲しいと言うことか」
確かに人手不足ではある。八熱地獄よりも上の是非曲直庁でも人手不足なのだ。こちらに回す余裕など無かろう。
「そうではあるのですが……」
「まあ、無理であろうな」
即答する。私は八熱地獄の管理も務めているので人手を持ってこれぬことなど分かっている。へカーティア殿がもう少しきちんと職務をしてくだされば……と、愚痴はいけない。
「ですよね……私の仕事を精一杯しますので」
「うむ、それがよろしい」
大きく頷いた所で頼んだ団子がやってきた。まいど、と言って鬼は置いていく。ここの団子は美味しいのである。おまけを言うと私の行きつけだ。
「それでキクリ、話はそれだけか」
「はい。それだけでございます。話を聞いてくださりありがとうございます」
「畏まらなくていいぞ……」
そう言いながら私達は団子を食したのであった。

 ~*~*~

一人、家に帰る。ただ寝るためだけの家。
ガララと何も無い部屋に入る。置いてあるのは布団も机と座布団だけだ。
寝るためだけの家と言えども六畳間の部屋に縁側がついている。
縁側に座布団を置き、座った。
自然と瞑目が始まる。

私は仏と言われる分類である。
不動明王の眷属が一人、矜羯羅童子である。
なぜ仏なのか。地獄に遣わされても人間を救うことなぞ出来ぬ。
そうして謎なのがこちらに顕界する時に角がついた事である。まるで鬼ではないか、とはじめて自分の姿を確認した時はアッと驚いたのである。
地獄の監視、管理は出来てはいる。いささか人間が増えすぎではあるが……
今していることも確かに人間を救うためのものなのだろう。それでも短き生涯を全うし、浄土に行けると思えば罪人で八熱地獄行き。閻魔ならこう言うだろう。「善行を積み重ねることこそが浄土への道なのです」と。
犯した罪は消えぬ。いかに忘れようが、それに報いる善行をしたとして、何が残るのであろうか。
否。それが犯した罪の善行となり得るのであろう……

ああ、空が紅い。
地獄は怨嗟の炎にて燃え広がる。

「あぁ!人間はなんと愚かであり、なんと素晴らしきものであろうか!」

燃え盛る炎の中で私は一人、叫んでいるのである。

二度と消えぬ怨念の炎の中で。
前作の魔理沙の火のお話を書いてから思いついたお話。
コンガラ様なら何を思うか、仏としてはどうなのか……とか。
私的には不可全燃焼気味ですね。

地獄の種類、元ネタの矜羯羅童子などはWikipedia様からお借りしました。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
ヘンプ
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コメント



0.150簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.100モブ削除
この話の何が悲しいのかというと、コンガラもキクリも外の世界がどれだけの進歩を遂げ、どれだけ人が増えているか見えていない所だと思うのです。それでもきっと彼女は何時までも叫ぶのでしょうか。それが気になります。御馳走様でした。面白かったです
6.90南条削除
面白かったです
コンガラとは珍しい
救うことなどできないと言いながらも救う気ゼロっぽくてよかったです
7.80名前が無い程度の能力削除
火の力を感じます