Coolier - 新生・東方創想話

ちかい

2019/01/02 22:27:40
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「急に言われても困ります」
 永琳が同じ言葉を発したのは半刻も前になる。普段から突発的な行動が多い輝夜のことだ。きっと今回も同じ思いつきなのだろう。
 仕事の隙を見計らって永琳の元を訪れた輝夜は、鈴仙の薬売りの仕事を手伝うと言い出した。彼女にとっては単なる報告だったようだが、永琳にとっては一大事だ。返事も聞かずに踵を返した輝夜をその場に引き留めると、その間に鈴仙を人里へ送った。
 幸い、その時こそたまたま鈴仙との時間が合わなかったと輝夜は納得したが、諦めてはいなかった。短針が右を向いた頃になって、再び永琳に持ちかけたのだ。
「どうして? 人は多い方がいいじゃない」
 竹の葉を揺らした風が、湯呑みから立つ湯気を攫った。縁側に座る四人の、膝や両手の中に収まった茶はまだ熱い。
 輝夜は喉を小さく動かすと、苦い顔をした永琳の横顔を見つめた。ねぇ、と小首を傾げても永琳は一向に頷かない。すると、輝夜の視線は永琳を越えて鈴仙に移った。
「私だと邪魔になっちゃうかしら?」
 一拍置いて、自分に話しかけられたのだと気付いた鈴仙が跳ねる。恐る恐るといった風に輝夜の方を向くと、永琳を一瞥する。そしてどこか居心地が悪そうに草臥れた耳を振った。
「邪魔だなんてそんなまさか……」
「じゃあ明日はついて行ってもいい?」
 鈴仙が永琳を見る。輝夜が腕を伸ばして鈴仙の手に触れた。今しがたまで湯呑みを持っていた指は熱い。
「永琳じゃなくて、イナバの返事が聞きたいわ」
 ニッコリと、計算か天然か読み取れない屈託のない笑み。鈴仙の視線が持ち上がりかけて、横へ流れた。
「…………はい、私で良ければお供致します」
 パッと輝夜が笑った。鈴仙の手を両手で包み、心底嬉しそうに目を細めると、鈴仙も照れ臭そうに笑った。
 二人の約束の上に、嘆息が零れ落ちる。鈴仙の硬直が輝夜に伝わった。輝夜が永琳の顔を覗き込む。
「イナバを怖がらせちゃ駄目よ」
「ウドンゲを困らせないでください」
 ムッと輝夜の頬が膨れた。鈴仙の手がするり、と輝夜の指の間を抜ける。
「あの……お茶請け取ってきます」
「わたしも」
 それまで沈黙を貫いていたてゐが先陣を切った。二匹のイナバが脱兎すると、輝夜は改めて永琳を見る。
「迷惑をかけるつもりはないわ」
 永琳が輝夜を見つめ返す。腑に落ちていなさそうな表情に輝夜は続けた。
「遊びじゃないことは分かっているもの」
 永琳が首を振った。再度ため息を吐いて眉間を抑える。
「いえ、そのことについては心配していないわ……私が心配しているのはそうじゃなくて」
 輝夜が首を捻った。永琳が小声で続ける。
「騒ぎになるでしょう?」
 永琳と目が合うと輝夜は黙り込んだ。ただし意味の分からないといった様子で、微かに柳眉が寄っている。
「……どういうこと?」
 深いため息。輝夜は焦りを滲ませながら永琳に詰め寄った。
「私、いつも何かしてしまっているの?」
 輝夜は人里を訪れることが何かと多い。人間と話したり、甘味屋を訪れたり、時々慧音の手伝いも買って出ている。しかし騒ぎを見たことなど、ただの一度もなかった。
「永琳……?」
 不安げに輝夜が永琳の肩に触れる。永琳は一瞬置いて輝夜を見た。そして、視線だけで己を見つめる輝夜と目が合うとサッと逸らす。
「こういうことは人里でもやっているの?」
「こういうこと?」
 永琳は顔を顰めた。
「……いいえ、」
「駄目よ、教えて頂戴」
 永琳が言葉を詰まらせる。輝夜はますます永琳との間合いを詰めた。
「…………一般的に見ると……少し、距離が、近いんじゃないかしら…………?」
 やんわりと、永琳が距離を取る。それに合わせて輝夜も離れた。
「他でも同じことを?」
 永琳が問うと輝夜は視線を持ち上げた。
「そんなことはないはずだけれど……あまり意識していなかったわ」
 永琳が小さく息を吐き出した。
「……快く思わない人もいるはずだから、控えた方がいいわ」
 輝夜はしゅん、と肩を竦めると頷いた。微かに安堵した様子で永琳が湯呑みを持ち上げる。陶器から口が離れると、輝夜は再度永琳を見つめた。
「永琳は?」
「え?」
「永琳とは近くても良い?」
 余った袖の中で輝夜の細い指先同士が合わさる。顔色を窺うように永琳を見上げた輝夜は、眉を垂らして微笑した。
 永琳の手が強く握られる。深く切られた爪が自身の肌に食い込むと、疼くような痛みで我に返った。永琳は肯定した。
「ええ」
 輝夜が安堵したように笑った。間を取っていた永琳を抱きしめると、思い出したように口を開く。
「ねぇ、他の人とはちゃんと距離を取るわ」
 輝夜の吐息が永琳の耳殻にかかる。輝夜が顔を上げる。そして、屈託のない笑みを浮かべてこう言った。
「だから明日、いいでしょう?」
 ゆっくりと、永琳は頷いた。
姫様は計算なんだか天然なんだか分からない魔性だと可愛いし、永琳はどちらの姫様であろうがちょろすぎると可愛い。
松宮つかさ
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気でした
2.100サク_ウマ削除
良いと思います。
3.90名前が無い程度の能力削除
好きです
5.100ラビィ・ソー削除
私との距離はもっと近くてもいいのよ、輝夜
6.100モブ削除
姫様かわいい
8.100南条削除
たじろいじゃう永琳がちょろくてかわいかったです
10.80乙子削除
心の見えない可愛らしさがありました。
11.80あああ削除
快く思わない人(永琳)
えーてるいいぞ