Coolier - 新生・東方創想話

もう障子戸なんか信じない

2018/08/16 08:16:50
最終更新
サイズ
9.24KB
ページ数
1
閲覧数
435
評価数
8/12
POINT
800
Rate
12.69

分類タグ

「こんばんは」

 掛け布団を持ち上げた私は、本来そこにはないはずの物を見た。それは決してサプライズのプレゼントなどという生温いものではなかった。生きている抱き枕だった。温かな肉の塊だった。今いるところが客室なのでは、と思われるかもしれないが客室ではない。此処は私の部屋である。二代目庭師兼剣術指南役として白玉楼に住み着くようになってからずっとこの部屋なのだ。愛着を持った部屋なのだ。目を瞑っていても戻る事ができる部屋。その部屋に敷いておいた布団の中に不審な人物がいる。しかも挨拶をされた。これはおかしいと本能が叫ぶ。
 再び布団の中を確認しようなどという勇気はない。起き上がって来ないよう、半身と枕で重石をする。挨拶をする程の礼儀正しさとなると片手で数えられるくらいだ。うん。大方狂気の兎と今時でない方の鴉天狗だな。……余計に覗きたくない。自分から面倒な事には巻き込まれたくないのだ。毎日のように面倒くさいのだから、わざわざそんな厄介ごとに足を踏み入れたくはない。
 幽々子様や紫様、藍さんや橙ちゃんを呼ぶ事も考えた。が、寝ている幽々子様を起こすと寿命が百年近く縮むし、八雲家がどこに住んでいるのかは知らない。しかも施錠をしっかりとしていたので誰かを呼ぶ事もできない。呼んでも警備が手薄になった隙を狙って金品を取られたら困る。
 そういえば、いつから布団は膨らんでいたのだろう。主人が寝入る前はまだ敷いてもいなかったし、寝たのを確認してから寝る準備をしたのだから、そんな前から入っていた訳でもないだろう。思い当たる事といえばそう、

「お屋敷の見回りをする前……」

 一通りの警備が完了したらすぐに寝ようと、事前に布団を敷いておいたのだ。この屋敷には私と幽々子様と幽霊達しかいないと信じ込んでしまっていたので、自分の部屋を開け放して廊下を歩き、ゆっくりと門を施錠しに行っていたのだ。ということは、廊下を歩いている最中に侵入されたに違いない。足音はしないに決まっている。奴らは飛ぶからだ。
 そこまで考えたものの恐怖は拭えない。知り合いにこんな変態がいるなんて信じたくない。仮に彼女らではなかったとしても、関わった者の中に変態が加わるなんて嫌すぎる。どうあがいても変態。どうあがいても絶望。逃げようのない壁にどう立ち向かえば良い?記憶の中の師匠は、こちらに苦笑いを向けてくるのみだった。

パタン。

「妖夢、どうかしたの? 」

 不意に背後で扉が開く音がした。聞き慣れた声が高鳴る胸の鼓動を落ち着かせる。

「あへっ、な、なんだ……舞か」

 舞、丁礼田舞。彼女は爾子田里乃と共に秘神・摩多羅隠岐奈に仕えている踊り子だ。隠岐奈様は幻想郷の賢者で、紫様とは旧知の仲らしい。つまり、主人の友人の友人の従者ということである。遠い縁ではあるが、里乃と舞が気軽に話しかけられる相手となると全くいないそうなので、こうして友人となっている。なんとなく里乃よりも舞の方が気が合うので、気まぐれで彼女が白玉楼を訪れた際、無断で部屋に入れてあげることもなくはないのだ。幽々子様も黙認している。つまりは背を向けずとも分かる程の仲だということ。そう思っていたかった。

「舞? 最近見ないなと思っていたら、新しい友達ができていたのね」

「え」

 奇妙な返答と声の違い。気づいて振り向けば兎の耳。薬売りの姿でなければ、制服姿でもない。私服でもない。寝間着を着、菫色の髪を纏めたその姿はどう見ても不法侵入者……鈴仙・優曇華院・イナバ。友人の一人であった。

「あ、お風呂頂いたわよー。そんなことより、舞って誰? どんな人? 」

 そんなことではない。友達の家にサプライズでお泊りに来ちゃったーふふ。みたいなノリだから許してーいつも頑張ってるの知ってるでしょー永遠亭じゃ羽伸ばせないんだからさーみたいなことだと思っているだろうがそんなことで済まされたら困る。月にいた時代は無断お泊まり会がしょっちゅうあったのかもしれないが、大分前に『私は地上の兎だから、隔たりなく接してほしい』と言ってきたなそういえば。親しき仲にも礼儀ありだろそこは弁えろ。
 というのも、鈴仙には大分前に今回の案件と同じく不意な隙を突かれて布団の中に忍び込まれ、自室に戻って掛け布団を持ち上げたらこんばんはと言われ驚かされた事があるからだ。その後言い訳を聞いたら永遠亭じゃ羽伸ばせないんだから云々が出てきたのだ。面倒くさい友人である。また同じ事を仕掛けられたのかな。真っ先にそう思ったから、鈴仙が布団の中にいるとばかり思っていたのだけど……

「妖夢? 」

 その鈴仙が今布団の外に居るのだ。いや許可なしに居られたら普通に困る。でも、これで大方誰が居るのかは分かった。種族的にも人柄的にもあまり関わりたくないけれど、先回りをして潰すのもまあ悪くはない。半霊に枕を持って行かせ、布団に一歩近づく。どう料理してやろうかと考え始めた瞬間、私の動きを制する声が掛かる。鈴仙の声だ。

「これ以上はいけないわ。何か、開けてはいけない扉を押してしまうような気が」

がばっ。

 時は既に遅し。私が一歩近づいた地点で、此方の敗北は確定していたのだった。掛け布団を背中で押し上げて、むくりと立ち上がった女性。黄色に少しの赤を混ぜたような髪色をした、麗しく、狂っているようにも見えた中国風の……

「うどんちゃぁああああああん! 」

「ひぃいいいいい純狐さんなんでこんなところにぃいいいいい!? 」

 鈴仙の知り合いだった。妙に納得した。純狐と呼ばれた女性は私ではなく鈴仙の方に近づき、抱きついて頬ずりをする。鈴仙の耳がへにょりと曲がる。良い気味だと思った事を別に悔やんでなどいない。当然の報いだとも思っている。

「そりゃあだって、ヘカーティア達が好き勝手に彷徨っているのについていくだけなのもつまらないから。冥界の木々は生の名残がよく見えると聞いて、いつか来てみたいと思っていたのよ。行って見てみたら生きてよかったと感じる事ができるかもしれないから。そう思いつつ人里を彷徨いていたら偶然目の前にうどんちゃんがいて、冥界に向かう様子だったからついてきた。主には後で直に謝っておく」

 おや、鈴仙と比べればかなり良心的なお人だった。狂気に満ちあふれていたからどうしようかと思っていたが、この人ならまだ許せる。謝ってくれるのは点数が高い。残機をくれてやってもいいだろう。

「ああ、それなら良いですよ。しかし、何故私の布団の中に居られたのでしょうか」

「うどんちゃんが入っていたからです」

「分かりました。鈴仙を好きにしても良いですよ」

「ちょっと待って妖夢ちゃん。何を怒っているの? あ、ごめん謝るから助けて」

 だが私は此処で許してあげる程優しい女ではない。悪い事をした者に対しては厳しく接すると、胸に固く誓ったのだ。後になってよく考えてみなくてもどちらもおかしいのだが、大体鈴仙が悪いのだから鈴仙が罰を受ければ良いのだ。それで合っている。私は道を違えてはいない。

「うどんちゃん、寂しかったのよ? 他の子達ともお話をしていたけれど、やっぱりどこか一線を画していたから……」

「ひぃいいいい」

 とは思っていたけれど、予想以上に五月蠅い。最悪、幽々子様が起きてしまわれる程度の音量だ。二重の意味で生命を削られるような思いをする位なら、手っ取り早く追い出してしまえば良かった。
 けれど私にはそれができない。理由は簡単だ。鈴仙が白玉楼の風呂に入り、無断で寝間着を使ったから、しかもその寝間着は私のお気に入り。追い出すということはそのお気に入りを汚す事と同じ。しかもその後鈴仙は寝間着を返し、自分の服を取りに来なければならない。その行為がもう一度白玉楼に不法侵入をする口実になりかねないのだ。それはどうしても避けたい。ならば、純狐さんを追い出すべきか。でも鈴仙には謝罪をするという心構えが足りない。今追い出してしまったら、鈴仙が調子に乗ること間違いなしだ。それも避けたい。けれど追い出さなければ、寝惚けた幽々子様に扇で殴られる。ああ、どうすれば。怯える鈴仙を眺めながら、再び師匠に聞いてみる。また苦笑いをされた。孫娘を見守ることしかできない爺さん。なんて無能。
 助けを乞うように辺りを見回す。神、それも秘神にすがりつくような思いで障子戸を見つめた。その願いをお聞きになってくださったのか、目の前の扉が開け放たれた。

「夜分遅くに失礼します。冥界の方が騒がしかったので取材をしに参りました」

 違う。障碍を司る神様とはいったけれど風神様はお呼びではない。何故よりによって鈴仙が怯えきってへたりと座り込んでいる時に限って天狗さんが此方に来るのか。ちょっと、鈴仙。助けを求めるような目でこっちを見るんじゃないよ。あと純狐さんは後ろを見てくれ。この状況の酷さを分かってくれ。今から貴女はあの鴉天狗の手によって干されようとしているのよ。

「おっとー。これはこれはまずい光景を見てしまいましたね。次号は半人半霊が薬売りと結ばれた……なんて。ふふふ」

 おいちょっと待て。この天狗は純狐さんを認識していないらしい。根本的に見えていないらしい。目の前で鈴仙の頭が純狐さんの手で撫でられているというのに、何故そちらを槍玉に挙げないのか。そのニヤけ顔をやめろ。やめてくれ。やめるんだ。胃が痛くなってきた事も露知らず、こいつらは好き勝手に行動する。

「ほーらほらほらうどんちゃん、良い子良い子」

「ふぇえ、妖夢ぅ……」

「鈴仙さんとは会話ができそうにないので、妖夢さんからお話をお聞かせいただけますか? 」

「泣かないの。うどんちゃんは強いんだから」

「妖夢ぅううううううう! 」

「あれ程乱れるという事は、相当強い薬を盛ったのですね? やだぁ。妖夢ったら破廉恥ぃ」

「私を受け入れてくれた。本当に強い子だ」

「いやぁああああああ」

「今度どんな媚薬……媚薬なんて、ふふっ。どんな惚れ薬を使ったかご教授いただいてもよろ」

「お前ら出てけ! 」

 どさっ、ぱしーん。

 どちらの私にも迷いはなかった。全身全霊を懸けて三人をまとめて庭に叩きつけ、障子戸が開かぬように木の板で細工を施した。鈴仙がどうとか自分の身が危ないとか知ったこっちゃない。ただ、もう我慢ができなかった……それだけだ。
 あるべき平穏を取り戻した私は、すぐさま布団の中に入った。もう二度とこんなことで苦しみたくない。心から強く、そう思った。
 うつ伏せで横たわっている私の背が重くなった。いきなり何事かと周囲を見回すと、寝間着姿の舞が見える。

「今日は随分とお疲れのようじゃないか。何かあったんだね」

 見抜いてやったぞ、と言いたげにこちらの瞳を見つめてくる舞の頰を人差し指で突く。ふにふに。

「ちょっと。僕のほっぺは玩具じゃないんだぞ? 」

「私の半身を玩具のように扱っている人には言われたくありませーん」

 そう投げるように言うと、うつ伏せから仰向けに姿勢を変える。それを見た舞が遅れて仰向けになる。いつもの事ではあるが、今日ばかりはとてつもない癒しとなった。ちょっとしたエクステンド。

「……それで、何があったのさ」

 返す言葉がないらしく、話題を強引に戻す。そこも可愛らしいのだが、弄るまでの元気がある訳ではないので、正直に答えた。

「もう自室には誰も入れてやらないって、決めていたところなのよ」

「!? 」
「障子戸から侵入してくる連中は追い出してやる、って事よ」

「じゃあ僕はノーカウントってことだね」

「そういうこと」

 初投稿となります。妖舞とかどうでしょう?
牡丹雪夢楽
botan.yukiyume@gmail.com
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.170簡易評価
1.100サク_ウマ削除
素晴らしいどたばたコメディでした。
2.60名前が無い程度の能力削除
妖舞はなかなか面白い発明だと思います。ラストや後書きのやりとり好きです。ただギャグが少々雑に感じました。
3.70奇声を発する程度の能力削除
楽しめました
4.70名前が無い程度の能力削除
妖舞は非常に斬新でよかったと思います。
ただ純狐さんのキャラ付けが一昔前の無能美鈴やニート姫を思わせる安直さなのがもったいない。
5.80名前が無い程度の能力削除
純狐やうどんはともかく、騒動の気配を感じてナチュラルに深夜訪ねてくる文が1番ヤバイと思った
9.90モブ削除
勢いに懐かしさを感じました。御馳走様でした
10.80名前が無い程度の能力削除
勢いは感じてよかったです。ちょっとキャラとか情報を一気に出しすぎてよくわからなくなってたりするのと、説明よりネタ詰め込んでほしかったなあと。次作に期待。
11.80仲村アペンド削除
まとまりのある文章で読みやすく、古き良きコメディのノリが楽しかったです。それだけにもっとネタが盛りだくさんならもっと良かったなぁとも……。