Coolier - 新生・東方創想話

香霖堂と二人の少女

2018/07/20 00:13:25
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プロローグ
「うー、寒い」
 私はいつものように本を読んでいたが、ここ最近寒さが続いている気がする。
今の時期は皐月の中旬、鈴奈庵の周りにも紫陽花が咲いてくる時期だ。
それなのに、まるで冬のように寒い…、どうせ妖怪が悪さをしているのかもしれないけど、それでも、誰一人退治しにいかないのは聊か不条理に覚えた。
霊夢さんも寒いから動かないのかな…こんな寒いのに出歩く人もいないわよね。
だからだろうか、この鈴奈庵にも客足は少し前よりも明らかに少なくなっていた。
まぁ…こんな時期でも来る人を私は知っているけど
「さむ…何なのよこの寒さ」
どうやら、例の人物が来たようだ
鈴の音がするのと同時に、彼女はそう呟く。
「妖怪が異変を起こしてるんじゃないの?そういうのはあんたの方が詳しいでしょ」
私は目の前の人物―九代目御阿礼の子供、稗田阿求にそう尋ねる。
「詳しいけど、それとこれとは別よ」
そう言いながら、貸していた資料をどさっと机の上に置く
「ああ、貸してたわね、返却ご苦労様」
「本当よ、か弱い女の子が運んできたのだから紅茶の一杯ぐらい出すのが礼儀ってものよ」
「はいはい、ちょっと待っててね」
私は椅子から立ち上がり、台所に向かうことにした、寒さのせいか節々が痛む。
少し体を温めるために、私も紅茶を飲むべきだろうか。
阿求は紅茶がお気に入りだ、ここに来るときも阿求はよく「紅茶を飲みたい」と言ってくる。私はあの甘いとも苦いとも言えない不思議な味が苦手だったけど、砂糖を入れるようにしてからは時折飲むようになった。
あいつからは「まだまだ子供ね」、って言われるけど、飲み物なんて美味しく飲んだほうが良いに決まっている。緑茶が渋いから水を入れるのと似たようなものだ。
そんな事を考えているうちに台所に着いた
鈴奈庵は火ではなく、でんき、を使用している。
電気がどういう原理で、どうして火のような役割かをはたしているのか私は知らない。
そういう本も流れ着かない事は無いが、アイエイチだのオームだの、見た事も無い言葉が羅列されて嫌になってしまった。
お父さんに聞いても教えてはくれなかった(恐らく分からないのだろうけど)。
それでも一つだけ教えてくれたのは、火ではないから本に引火しない、という事だ。
一度だけ興味本位で触ったことがあるが火傷した。
バカな事だとは思うけど、新聞を乗せたら焦げただけだった。
こんな謎な技術だが、とても便利なので今では手放せなくなってしまっている。
ああ、いつの間にかやかんにお湯を注ぎ終えていた、手癖になっているのだろうか。
阿求に聞いたらこれは“ぽっと”と言うらしいけど。




「あぁ、良い香り…生き返るようだわ」
かっぷに注ぎ終えるや否や茶葉の良い香りが部屋全体に染み渡る。
あぁ、良い香りだ、これが阿求の良く言っているアンティークな香りなのだろうか。
「本当ね、阿求が薦めてくれなかったら知らなかったままだったわよ」
「ふふ、私も美味しいって言ってくれる人がいて良かったわ
幻想郷は紅茶を嫌いな人が多いみたいだから」
「嫌いというか、慣れてないだけだと思うわ、花屋の子も緑茶が好きって言ってたし」
「まぁ、良いわ…って、そうじゃなかった」
「ん?」
製本の事だろうか、しかしこの前にしたばかりだ、追加で刷る必要が出来たのだろうか?
「この寒さの事、誰かに相談しなきゃ」
なんだ、そんな事か。
「別に良いんじゃない?どうせ霊夢さんが動くわよ」
「…動いてないじゃないの、もう一月近く経つわよ、紫陽花も咲いてるみたいだし」
あら、一本取られてしまった。
「…まぁ、そう言われればそうだけど、じゃあ阿求行ってきてよ」
「私にあの獣道はキツいわよ、それにここまでで疲れちゃったし」
「私もあんまり行きたく無いんだけどなぁ…あっ」
そうだ、思い出した、最近妖怪退治を始めた人間がいるじゃないか
「どうしたの?」
「霧雨魔法店って知ってる?」




 “霧雨魔法店”人間の魔法使い、霧雨魔理沙が営んでいる何でも屋だ。
妖怪退治も引き受けている、と最近人里で宣伝していたような気がする。
魔法の森にあるそうだが、博麗神社に向かうよりは近いだろう。
「ああ…そういえば聞いた事があるわ、何でも、魔法の森にあるのよね」
「どう?折角だし頼ってみない?」
「まぁ…良いけどさ、危なくないかしら?魔法の森よね?」
「それでも博麗神社よりは近いと思うわ」
「…まぁ、巫女も動かないみたいだし、試しに頼ってみようかしら」
話はまとまったようだ、私たちは早速出かける準備に取り掛かる。
「一応、マジックアイテムも護身用に持っていくわね」
「うん、頼むわ、まだ縁起を書き終えていないし」
と言っても何時もより厚着をするぐらいだけど、お金も一応は持っていこうかしら。




店番をお母さんに任せて私達は魔法の森へと向かう。
どうせ人も来ないし一人ぐらい欠けても大丈夫だろう。
「うー…寒い…」
改めて阿求を見てみるといつもの暑そうな着物を着ている、そんな分厚い着物を着ても寒いのだろうか?
それなら私なんて凍え死んでしまう。
「そんなに暑そうなのに?」
「…暑くても部屋よりは寒いのよ」
「私より暑そうなんだから我慢しなさい」
「これでも病弱なのよ、寒さは最大の敵なんだから」
本当に病弱なのか怪しい、ただ体力が無いだけでは?と邪推してしまう。
「何よその眼、疑ってるの?」
「別に―」
「まあ今年はまだ患ってないけど」
「本当に病弱なのかしら…」
なんて会話をしていると漸く魔法の森が見えてきた。
なんだか異様な雰囲気を醸し出しているのが見て取れる、こんな所に住んでいて
人間は平気なのだろうか?
「ねえ阿求、なんか…感じない?」
「まぁ、魔法の森自体がそういう所だし、仕方ないんじゃない?」
仕方ない、で済ませていいのだろうか
近くで見てみると薄暗くて、なんだか変な臭いもしてくる。
これが…死臭なのだろうか?
「え、ねえ、変な臭いしない?」
「あぁ、キノコの臭いよ、毒かもしれないから余り嗅がないでね」
古来から少量の毒は薬として用いられてきた、恐らくこの臭いも過度に摂取しなければ大丈夫だろう、もしこの程度でも危険ならばあの魔法使いは今頃動けなくなっているに違いない。それでも、体に毒が入るのは余り好ましくないから袖で口元を覆うけども。
「毒茸を食へども、つゆえはぬ人のありけるなりけり、私に毒は効かないわよ」
「それなら今度キノコ狩りをしてみようかしら、貴方でキノコの判別をさせて」
「冗談よ」
 森に一歩足を踏み入れてみる、なんだかこの世界ではないような錯覚を覚えた。
「…そういえば、場所って分かるのかしら?」
「ああ、分からないかも…どこかに看板無いかしら」
周りを見渡してみる、と森には不相応な人工的な看板が佇んでいた。
「えーっと、…阿求、これ」
「なになに…って、これ看板じゃない、これの通りに行けば着くのかしら」
「…そうよね、霧雨魔法店行きって書いてあるし…」
魔理沙さんを疑っている訳ではないが、流石に年頃の娘が二人で森に向かうのは、怖い。
主に先の見えなさと帰り道の分からなさだが。
それに、真に恐ろしいのは妖怪ではなく人間かもしれないし。
「…」
暫く阿求と顔を見合わせて、二人で考え込んでいた。
せめて帰り道でも分かれば、二つのうち一つは解決するのだが…そういえば、こんな童話を読んだ気がする…名前は…
「あっ!」
「うわ、どうしたのよ」
「このマジックアイテムを使えば、あの童話のようになるわ」
「そういえば、何を持ってきたの」
私は早速懐から手ごろなサイズの本を取り出す。
「これは、開くと書かれている文字が実在の石になるのよ」
「へー、質量保存の法則はどうなるのかしら」
「そのうち墨になるから平気よ」
早速本を開いてみる、一ページ目の文字が石となって本の上に現れた。
「これを目印にしながら、変なのが出たら投げつけましょ」



 作戦は成功だった、歩く度に石をぼとぼとと地面に落としているので帰りに迷う必要が無い。
それに、魔理沙さんはご丁寧にも看板を数多く立てていてその道なりに進んでいくと民家が見えてきた。
「ああ、漸く見えてきたわ」
「良かった、それにしても魔理沙さんって随分しっかりしてるのね、迷わないように
道しるべを作っていたし」
「本当、助かったわ」
ふと後ろを振り返ってみると石はご丁寧に一本道を描いている。
うん、大成功だ。
「歩き疲れちゃったし、早くあの家に行きましょうよ」
阿求の言う通り、慣れないけもの道を歩いたせいで足は疲労を訴えていた。
「そうね、早速入ってみましょう」
私たちはそそくさと早歩きをして民家の前に立った。
「じゃあ開けるわよ」
ギィィ、立て付けの悪い音が響く。
「すいませーん、魔理沙さんはここにいますかー?」
声は家中を反射して、山彦のように響く。
それでも、返事一つとして聞こえてこない。
「…間違ったのかな?でも、看板はここを指していたし」
「妖精の悪戯かしら?もしかして…」
妖怪の家だろうか、だとしたら不味い事になったかもしれない。
「ねえ…怖い話って聞きたい?」
「え?…あんまり、聞きたくないかも…」
多分、阿求の考えてる事と私の考えてる事は一致しているだろう。
お互いに考えうる最悪の状況は、想像するのに難くないからだ。
「うーん、じゃあ逃げましょ、今ならきっと間に合うわ」
「あー、誰かいるのか?」
家の何処かから誰かの声が聞こえてくる。
「ひっ…ねえ、小鈴…」
「…待って、これって魔理沙さんの声…かも?」
「本当?」
「多分、もう一回呼んでみるわ」
もう一度魔理沙さんに向けて大声で叫んでみる。
「あー、ちょっと待ってろ、今すぐ行く」
消え入りそうな声だが、誰かの声が聞こえてきた。
「ねえ、阿求、あの気怠そうな返事は魔理沙さんだよ」
「そうなの?私は知らないけど、あんたが言うならそうなのね」
良かった、妖怪じゃなさそうだ。
「あー、待たせたな二人とも」
家の中だと言うのに箒で飛んでくる一人の人間がいた。
「え、っと貴方が…魔理沙さん?」
「如何にも、霧雨魔法店の店主、霧雨魔理沙だぜ」






私達は魔理沙さんに案内されて椅子に座らされお茶を頂いた。
中々味が薄いお茶だったが、今の疲れた私達にはこれぐらい飲みやすいほうが有難かった。
「あー、なんだ、すまなかったな、研究に没頭してると声が聞こえないもんでな」
「研究してたんですか?」
「ああ、紅霧異変で同業者に知り合ってな、そいつの技術を真似していたんだ」


―紅霧異変―記憶にも新しい、スペルカードルールで行われた初めての異変だ。
私は阿求と親しいから、その異変の事も多少は知っている。どうやら首謀したのはレミリア、という吸血鬼で、暇つぶしに異変を起こしたらしい。。
最終的に巫女が出向いて解決したらしいが、魔理沙さんも向かっていたようだった。
余談だが、紅霧異変の時は今以上に客…まあ、阿求の事だが、が来られなくなっていた。
異変を起こすのは勝手だが、人里の影響も考えてほしいものである。


「こんな狭い家で実験出来るんですか?」
「メイドに頼んで部屋を拡張して貰ったさ」
メイドもこれからは大工作業も出来なきゃ就職先は無いかもしれない。
「なるほど、だから声が届かなかったですね」
と、阿求が納得したように返事をする。
「まあ、そんな感じだ…で、お前たちの要件はなんだ?」
「ああ、実は冬が終わらなくて…魔理沙さんも気づいてます?」
本当に冬が終わらないのか、妖怪のせいなのかは分からないけど、どちらでも寒い事には変わらないし大丈夫だろう。
「あー、そうだな、暫く寒くて外に出てないぜ」
「今日は魔理沙さんに異変を解決して貰いたくて…」
ぴくっ、と魔理沙さんは異変という言葉に反応した。
そんなに霊夢さんから仕事を奪いたいのだろうか。
「ああ、覚えててくれたんだな、有難いぜ…で、そっちのお前も同じ用事か?」
魔理沙さんは阿求の方向に向いて話し始めた。
そういえば、この二人は初対面なんだっけ、もしかしたら名前を知らないのかも。
「あ、その子は稗田阿求って言うんです」
「名前なんかに興味はないぜ、依頼主Bって所だ」
阿求は少しムッとしたようだった、当たり前かもしれない。
初対面の人間に興味はない、と言われれば誰だって怒るだろう。
「私も同じ用事ですけどね、泥棒猫さん」
「ああそうかい、良かった、私は一人しかいないから二つの依頼は同時にこなせないからな」
「って事は引き受けてくれるんですか?」
「まあ、いいぜ、私も退屈してた所だ、異変が解決したら鈴奈庵に向かうとするよ」
良かった、これで引き受けてくれなかったら骨折り損のくたびれ儲けだったわ。
「で、お前たちは今からどうするんだ?引き返すのか?」
「ええ…する事もないし…阿求はここでする事ある?」
「特にないわ、友達でもないし」
阿求は割と毒舌家な所がある、一度阿求が執筆している幻想郷縁起を読んだことが
あるのだが、妖精に対して酷い言いようで
あれを残すとなると各方面に訴えられそうな内容だった。
その事を阿求に告げたのだが、多少フィクション(誇張の事だろうか?)が入っている方が面白いと言い切られてしまった。
確かに、一度だけ特別に読ませてもらった幻想郷縁起は
読み物として非常につまらなかったけれども。
「じゃあ香霖堂にでも向かってみたらどうだ?ストーブが効いてて暖かいぜ」
ストーブとはなんのことだろう、電気の一種なのだろうか。
「香霖堂…森近霖之助が営んでいるお店ね」
「おお、詳しいな、流石は阿求だ」
「人と妖怪の事をまとめるのが私の仕事ですから」
「まあ、いいや、ほれ、箒だ」
と言いながら魔理沙さんはどこからか箒を取り出し来て私たちに押し付けてくる。
「掃除しろと?私たちに?」
「それも良いんだが、森は危ないからな、空を飛んだ方が何かと安全だ」
「でも私達飛べないわよ…ねえ、小鈴?」
「心配するな、魔力を込めてあるから跨れば飛べるようになっているゆっくり、反動をつけて行きたい方向に重心を傾ける感じだ」



早速私達と魔理沙さんは外に出て、箒に跨ってみる。
私が前で、阿求が後ろだ。
「そういえば、香霖堂はどこですか?」
「ここから南に行ったところだ、汚い店だからすぐに分かるぜ」
汚い店、はここも同じだと思うが。
「分かりました、では異変の解決お願いしますね」
そう言い残して私たちは言われたように地面を蹴ってみる、うん、飛んだ。
「ええ!?本当に浮いてる!?」
「おお、上出来だ、じゃあなちなみに降りたい時は身を屈めれば降下するぜ」
早速私と阿求は森の上空に飛んで、汚い店を探してみる。
「阿求?見つかった?」
「うーん?南を見てるけど見えないわね…もう少し南に向かってみましょう」
ふよふよ、とぼうふらのように飛んでみる、物語の魔女もこんな感じだが彼女たちも
何かを探しているのだろうか、ああ、人を探してたっけ。
「しかし凄いわね…私達こんな所を歩いていたなんて」
「本当、もしかしたら私達危ない事をしてたのかもね」
「私のマジックアイテムでも危なかったかも…ん?あれ?」
「どうしたの小鈴?」
「あれって香霖堂かしら?」
「ああ、そうね、人里にも近いし、あれが香霖堂だと思うわ」
「…以外に近かったのね」
これなら、徒歩でも来れそうだ。
「空の旅も楽しかったし、また二人で飛んでみたいわね」
「今度は博麗神社まで飛んでみない?」
私も疲れないし、阿求も安全に向えそうだ
「良いわね、私でも安全に神社に向えそうだわ」



 私たちは香霖堂の前で降下し始めた、どうでも良いけど女性が箒に乗るのは痛む。
何処とは言わないが、魔理沙さんは大丈夫なのだろうか。
「うーん…初めて見たけど霧雨魔法店みたいね…」
「とりあえず入ってみましょ」
ここも霧雨魔法店みたいな扉になっている。
案外、魔法の森は妖怪の技術が発展しているのかもしれない。
「おじゃまします…」
霖之助、という名前から男の人だろう、どんな人なのだろうか。
塩屋のおじさんみたいなのだろうか、もしかしたらお爺さん?
はたまた、子供のような見た目かもしれない…。
「いらっしゃい」
店主の落ち着いた、柔らかな声が返ってくる。
どうやら、声から判断するとそこまで年を取ってはなさそうだった。
「えっと…霖之助さんはどこですか?」
「ああ、すまない、寒いから奥にいるんだ、今からそっちに向かうとするよ」
「…なんだか、優しそうな人ね」
「霖之助…」
「どうかしたの?阿求?」
「いや…なんでも無いわ…」
そう言い残した阿求だが妙に歯切れが悪かった、過去に何かあったのだろうか。
でも阿求がここに出入りしてるなんて聞いたこともない。
「やあ、またせたね…っと君たちは…?」
目の前に眼鏡をかけた銀髪の男性が現れた。
その妖怪みたいな見た目に思わずドキッとしてしまう。
「あ、えっと、その…」
緊張のせいで上手く言葉を紡げない。
「私達は霧雨魔理沙に進められてきたんです、そっちが本居小鈴で、私が稗田阿求」
私の代わりに阿求が話してくれた、やはり初対面のようだ。
「稗田…ああ、そうか、君か…久しぶり?いや、初めまして、かな」
「どちらでも大丈夫ですよ、今の私は貴方の知識しかありませんから」
「そうかい、それで、そっちの子は?」
「私はその鈴奈庵を営んでいて…」
「ああ、確か聞いたことがあるよ、人里で本を貸し出ししているお店が出来たって
一度お会いしてみたかった」
「あ、そうだったんですか、えへへ、今度遊びに来てくださいね、お茶ぐらいは出しますよ」
「それで、君たちは客として来たのかい?それとも魔理沙のお使いか?」
「する事が無かったので、ここにストーブがあるって言われて来てみました」
「そうだね、僕も暇を持て余していた所だ、二人とも奥に来ると良い…が、その前に
上着をハンガーにかけたほうが良いと思う、中は暖かいからね」
「はんがー?」
聞いたこともない道具?の名前だ。
「あれだ、そこの棒に釣り下がっている、三角みたいなものだ」
「ああ、あれか」
私はとてとてとそこまで歩いて上着をかけた。
「君は、かけないのかい?」
「ええ、着るのも大変なので…」
「着付けするのに苦労しそうだよね、僕もなんとなく分かるよ」
かけ終わった私は二人のいる所まで戻る。
そしたら霖之助さんは歩き始めたので私も
辿って店の奥へと進んでいく、周りの商品を見渡してみたけど
初めて見る道具が沢山あった。
「ねえ、阿求…凄いね」
「うん…私も初めて見るわ」
「人里に外の世界の道具は余りないからね、恐らくここでしか扱っていないし」
「霖之助さんはこれを全部自力で集めたんですか?」
「まあ、そうなるね、何年間もコツコツと集めていたよ」
私の店の本も父と母がコツコツと集めていたのだろうか。
「ここの奥でストーブを焚いている、前は店全体を温めていたんだけど、予想外に
寒さが長引いているせいで部屋を制限したんだ」
霖之助さんが襖を開けるとそこから、暖かい風が流れ込んできた。
「え…なにこれ、お風呂?」
「いや、ストーブだ」
周りを見渡してみると真四角の檻の中に赤黒い円柱が置かれていた。
「え、何あれ?」
「あれがストーブだ、僕の能力によると部屋を暖めるのに使うらしい」
「へ、へえ…」
囲炉裏とは違って炎が見えない、それに炎よりも熱風が起きている。
外の世界の技術は、どうなっているのだろう?
「あんまり近づかないほうが良い、その檻は危険だからね」
「へえ、こんなのがあったら寒くても文字を書きやすくなるのにね」
「君がよければ、香霖堂で編纂事業をしてみたらどうだい?」
「お誘いは有難いですが、行き来で疲れそうなので遠慮します」
「そこに椅子があるだろう?座って疲れでも取ると良い、僕は飲み物を持ってくるよ」
飲み物も外の世界の物なのだろうか?虹のような味がする水とか出てくるのかなぁ。
「阿求、凄いね、ここ」
「ええ、なんか、良くわからないわよね、これが外の世界の技術…幺樂団も
この技術に触れていたのかしら」
幺樂団、というのは阿求がこよなく愛している楽団の事だ。
なんだか古臭い音楽を使っている楽団で、イマイチ私は好きになれない。
阿求邸に行くと高確率でこの音楽を聴かされるが、私には良さは分からなかった。
「それは分からないけど、あのデカい蓄音機もここにあるのかな?」
「うーん、どうなんだろ?外の世界の事だし、より小さくしてそうだけど…」
阿求は過去の出来事をほぼ覚えている。
そして幺樂団とは阿求が言う所の未来の音楽、らしい。
未来の音楽なのにすたれた技術なのもなんだか変な話だが、阿求の言う事を信じるのなら
阿求は過去と未来をつなぐ人間とも言える。
そう考えると、阿求とこうして友達なのは案外凄い事なのかもしれない。
「ねえ?聞いてる?」
「え?何が?」
「私の話よ」
「ごめん、聞いてなかったわ」
阿求の幺樂団語りは子守歌として最適だ、何一つ確証が無いのに妄想でべらべらと
まるで子供がお母さんに話すように、聞き手の事等何も考えないで話してくる。
この前は幺樂団の音楽は遊びをしながら流していたのかもしれない、
なんて話していた。
はっきり言って耳障りなだけだと思うが。勿論阿求には言わなかった。
「もう、小鈴は…今度私の家に泊まりに来たらまた聞かせてあげなくっちゃ」
「出来れば短めのコースで…」
「フルコースよ」
そんな会話をしていると、扉の近くから物音が聞こえてきた。
どうやら、霖之助さんが戻ってきたみたい、地獄に仏とはこのことだ。
「二人とも待たせたね、飲み物はこれしか無かった…すまないね
流石に、昼からお酒を飲ませるのも気が引けるのでね」
そう言って霖之助さんはガラスの容器に包まれた飲み物を持ってきた。
これが、外の世界の飲み物だろうか?
「何ですか?それ?」
「これはソーダ、と言うらしい。喉が渇いた時に喉を潤す…まあ、外の世界の飲み物だね」
「視覚的に面白いですね」
「そうだね、口の所が窄まっているのが幻想郷らしい飲み物かもしれない」
そう言いながら霖之助さんは私達にそれを渡して
商品の所の椅子を持ってきた。それは売り物なのではないか。
「その玉を下に押し込んで飲むみたいだ、なに、以前僕も飲んだから大丈夫だよ
若干刺激が強いけれども」
刺激が強い、とはどういう事なのだろう、もしかして、辛いのだろうか?
「小鈴、その玉を押してみてよ」
「う、うん」
人差し指に力を込めて、玉を押してみる。
玉は重力に従って落ちて、しゅわしゅわ、という音が広がってくる。
「君も押してみると良い」
私に続いて阿求も玉を押し込んだ。
「じゃあ、私から飲んでみますね」
奇抜な形状の入れ物をもって口元に近づける。水が飛び跳ねて口元に当たるけれど
これはもしかして酸性なのだろうか?
「あの…これ…」
「大丈夫だ、以前コーラ、というそれに似た飲み物を霊夢と魔理沙が飲んだけれど
あの二人は今でもぴんぴんしている、人体に影響は無いよ」
「う、うん、分かりました」
意を決して、それを口に含んでみる。
冷水が口に広がると同時に、口の中を火花のような痛みが襲う。
「うぇっ!」
驚いて地面に吐き出してしまった…なんなんだこれは
外の世界はあいさつ代わりに人を殺すのだろうか。
「小鈴!あんた、いったい何をしたのよ!小鈴がか弱いからって!」
阿求は私の元に駆け寄ってきた。
ああ、阿求がこうして感情的になるのは二度目かもしれない。






―今は昔、幼少期の頃、私は今よりも随分活動的な性格だった。
かくれんぼや鬼ごっこをするのは当たり前で、降霊術の花いちもんめなんかも
やっていた。
その日はかくれんぼで、私が隠れる番だったからいつものように家の影に隠れていたのだ。
今思うと、それが失敗だったのかもしれないが、その時誰かの声が聞こえて着いて行ってしまったのだ。そのまま、私は迷いの竹林に向かってしまった。
恐らく妖精か空想上の友達だろう。
あの後、私は迷いの竹林で迷ってしまって、声も聞こえなくなって夜になるまで
彷徨い、深夜まで泣きながら歩き続けた。そのうち泣き疲れていつの間にか寝てしまった。
その時妖怪に襲われた無かったのは運が良かったのかもしれない。
深夜、月の光が一段と強くなり、私は目を覚ました。その時目の前に二対の火の羽を生やした不死鳥の化身が目の前にいたのだ。
そいつは、私を人里まで送ってくれた。それが本当に妖怪なのか、夢現だったのかは分からない、それでも結果として私は家に帰ることが出来た。
次の日、その事を阿求に話して、妖怪にも良いのがいるかもしれない、と言ったら
怒られた、その時は阿求が怒るなんて思わなくて、妖怪よりも恐ろしかった。
今なら阿求の事もあの頃よりも分かっている
阿求は私の事を思っていたからこそ、そんな厳しい事を言ってくれたのかもしれない。
流石に、今から真偽を聞き出すのは恥ずかしいのでやらないけれども…






「小鈴!小鈴!」
「ん?」
「大丈夫、何だかぼーっとしてたけど…」
「うん、あの日、阿求が私に怒った日の事を思い出してて」
阿求は過去の事を忘れられない、だから、私が十数年前に経験した出来事も
一分前に経験した出来事と変わらずに思い出すことが出来る。
「ああ…あの日ね」
「小鈴、と言ったかい、一口頂くよ」
そう言って、湯飲みにとくとくとそれを注いで霖之助さんは飲み始める。
「うん…コーラと変わらないな、味は違うけれども」
「え?」
「もう少しゆっくり味わってみると良い、大丈夫、僕が保証するよ」
「う、うん」
「え、小鈴、飲んでみるの!?」
「うん…もう一度飲んで無理ならあきらめるよ」
私はもう一度口に含んでみる、口の中にまた、火花のような痛みが飛び散るが
それをグッと耐えてみた。
そうすると、不思議と涼しい気分になれた、良薬は口に苦しとはこの事かもしれない。
「小鈴?大丈夫?」
「うん、なんかね、飲み込むと涼しくなるうお」
うっ、何かが口の中に押し寄せてくる、頑張って押し殺したけれども。
私は席に戻った阿求の事を横目で見てみる、どうやら阿求も気に入ったようだ。
なんどもごくごくと飲んでみる。
「お気に召したかい?」
「うん、でも、不思議な飲み物ですね」
「外の世界は科学が発達しているからね、恐らくこれも薬と何かを混ぜたのだろう
きっと、涼しくなるのもそのお陰かもしれない」
「へ、へえ…」
「そういえば、以前霊夢がビール、と言うのが神社に来た、と言っていたな
僕も飲んだけど、それはこれに加えてお酒も混ぜてあったよ」
もしかしたら外の世界の人間は合理的に生きているのかもしれない、食事も楽しまず
飲み物も体に良いものしか飲まない、食事と薬を同時にとって体の健康を第一に考える。
それが楽しいのかは分からないが、人間は楽な方向に嫌が応でも逃げるようになっている。
例えば、中世の農業革命によって食べ物を作ることは以前よりも楽になった。
貨幣経済の発達により物に絶対的な価値を付ける事が出来た。
私はそれ以前の生活を知らないが、食べ物に苦労してお金もなく物々交換で生きていく。
そんな世界はまっぴらごめんだ、私も出来る限り楽をして生きたい。
「びーるってなんですか?依頼人びーと関係あります?」
「良くわからないが、ビールとはお酒の事だよ、苦くて、これと同じような感じだった。
色は黄色で泡も多かったけどね」
「…」
もしかしたら、外の世界は水なんていらないのかもしれない、排せつ物からすべてを作り出す事が出来る技術を確立したのかもしれない。
嫌すぎるが、合理性を追求するとそうなるのだろう…私は改めて外の世界に対しての認識を確認した。
「え、っと、…霖之助さんも眼鏡をかけてるんですね、私達も本を読む時かけますよ」
そんな汚い話はしたくなかったので私は急いで話を変えることにした。
「ん?ああ、そういえば、霖之助さんと言う呼び方は辞めてほしいな
どうもむずがゆくてね」
「そうなんですか?じゃあ店主さんって呼びます」
「ああ、有難いな、それで眼鏡だが…まあ、そうだね、 外の世界の人間は眼鏡に対して
並々ならぬ力を入れている、僕も彼らの恩恵に与る事にしたんだ。
きっと外の世界の人間は勤勉に違いない、それこそ伝説上の蓬莱国に匹敵する知恵をもっているはずだ。例えば、最近はサングラスと言うのを入荷したんだ、僕の能力ではこれを
日の光を防ぐもの、と訴えた。恐らく暑い外でも本を読めるようにする為だね。
彼らの技術はどこでも本を読むことから得ているのかもしれない」
この人の話長くない?幺樂団を語る阿求並みに長々と語っている、はっきりいってサングラスの後はほとんど聞いていなかった。
どうして、知識人は自分の知識を分かりづらくひけらかすのだろうか?
阿求の方を見てみたが、興味津々に聞いている、波長が合うのかもしれない。
「そうですね、私も長い間人間を見てきましたが、やはり彼らはどこでも勉強をしています。
例えば、露子姫なんかは虫がいれば籠から出て観察していました。彼女の本は燃やされてしまいましたが、多少は綴ってあるので少しは思い出すことが出来ます」
へー、そうなんだ、で、露子姫って誰よ?虫愛ずる姫の事かしら?
「やはり、僕もいろいろな人間を見てきたが…」




 あまりにも退屈なので二人に断って部屋から出て商品を見ていることにした。
ちなみにあの後二人は長々と語り続けている、やっぱり阿求は変人なのだ。
そういえば、サングラスは黒色の眼鏡って言ってたわね、探してみましょう。
「えーっと…どれかしら」
黒色の眼鏡なんて言っていたけど、それ以上に奇抜な物が多すぎて困ってしまう。
例えば、はかりに回せるものをくっ付けた、その上にびよびよする何かをくっ付けたもの。
四角い水晶が埋め込まれたもの。
大きな伸縮するパイプのようなものを取り付けた箒。
眼鏡なんかよりもこっちのが気になって仕方がなかった。
…って、これかしら?
縁が紙?で出来ていて、目の場所には赤と青のレンズがつけられている。
なんだ、これは…
こんなのをかけているなんてバカじゃないのか…
「え…やっぱり変わってるわね…」
こんなんで日の光を防げるのだろうか。
「ああ、見つかったかい?」
後ろから店主さんの声が聞こえてきた。私はその奇抜な眼鏡を手に取って、くるっと半回転する。
「これですか?変わってますね」
「ああ、違うよ、それは3d眼鏡と言って目の前の物を飛び出させる…」
ああ、しまった、何とかしなくては。
「ええ、っと、じゃあ探してください!」
「だから…ん?ああ、こっちに来てくれ」
私は店主さんの方まで小走りをしてから、彼の後ろについていく。
「これだ、これがサングラスだよ」
どうやら、レンズの部分が黒塗りになっているようだ。
こんな、隅の方に置かれたら分かる訳無いじゃないか。
「へえ…ちょっとかけてみますね」
私はいつものように眼鏡をかけてみる。
視界は暗く、どんよりした。見辛い事この上無い。
「うん、似合ってると思うよ」
「えへへ、そうですか?」
「ぷっ、小鈴、それ何?」
「サングラスだよ」
「なんか、全然似合ってないわ、いつもの丸眼鏡の方が可愛いわよ」
私は水晶の傍へと近づいて顔を見てみる。
…確かに、微妙だった、第一どうしてとがっているのか。危ないだろう。
彼は商売上手なのかもしれない。
「…やっぱり遠慮しておきます…」
「そうかい?残念だ」
私はサングラスを外して元あった場所へと戻す。
ん?この小さい、本みたいな大きさのはなんだろう。
「これ、何ですか?」
「ああ、それかい?それはキンドレズと言って、僕の能力によると無限に近い数の本を
収納できる、そうだ」
「はぁ!?」
こんな小さいのに無限大の本を収納できるのだろうか?
そもそも、その能力は信用出来るのだろうか。。。
「驚くのも無理はない、僕も能力を疑ったからね、本当にそんな事が出来るのなら
君の店も必要無くなるだろうし」
「付け加えて、私の縁起も要らないわね」
「え、っと、どうやって使うんですか?」
私はそれを手に取って持つ、なんだか不気味な触り心地だ。
水晶の部分は滑りにくいし、なんだかツルツルしている。
私はこんな物を今まで触ったことが無かった。
「それが分からないんだ、恐らく側面にあるスイッチで起動させると思うのだが
うんともすんとも言わなくてね」
確かに、側面にはボタンがあった、押しても何にも反応は無い。
「もしかしたら、開くのかと思ったが、あまりにも薄すぎて開く事も出来ないしね」
「ねえ、あなたの能力本当に信用できるの?」
ズブリ、と鋭い阿求の言葉が店主さんに向けて突き刺さる。
「一応、信用出来るはずだが如何せん使い方しか教えてくれないものでね。
もしかしたら、外の世界の本は既に本の体を成していないのかもしれない。」
「阿求、触ってみる?」
「ええ、貸してもらうわ」
私は落とさないように阿求へと手渡す、本の大きさだからすんなりと渡せた。
「へー、こんなもんにね、私なんかよりも知識があるなんて…え!?」
「どうしたの阿求?」
「この後ろに彫られているKINDLESって文字、あの文字に類似しているわ、というか、この文字は…」
「見た事あるの!?」




 阿求邸には、阿求以外が所持していたものも数多くある。
その多くは門外不出だが、ある時私は特別に見せてもらった。
触る事は禁止だし、口外するのも禁止だったが、阿求が私を信用してくれて
いるような気がしてとても嬉しかった。
そう、阿求が言ってるのはそこにあった…一つの紙きれの事だった。
「君はこの文字を見たことがあるのかい?」
「ええ、私の先代が所持していた物に、その最後のSと同じものがありました。
それは一切れの紙きれでしたが、今からすべてを書き起こしてみます」


――

夜の竹林ってこんなに迷うものだったかしら?
携帯電話も繋がる気配は無いし、GPSも効かないし、珍しい天然の筍も手に入ったし、
今日はこの辺で休もうかな……って今は夢の中だったっけ?
しょうがないわ、もう少し歩き回ってみようかしら。

それにしても満天の星空ねえ。
未開っぷりといい、澄んだ空といい、大昔の日本みたいだなあ。
タイムスリップしている?ホーキングの時間の矢逆転は本当だった?
これで妖怪がいなければもっと楽しいんだけどね。

そうか、もしかしたら、夢の世界とは魂の構成物質の記憶かもしれないわ。
妖怪は恐怖の記憶の象徴で。
うーん、新説だわ。
目が覚めたら蓮子に言おうっと。
さて、そろそろまた彷徨い始めようかな。

――

毎度ながら、阿求の能力は凄い、一字一句書きだすことが出来るのだ。
それこそこのキンドレ、と言われるものに匹敵するぐらいに。
私も何か、能力に目覚めたい、今年の七夕は切に願うばかりである。


「ふむ…GPSという単語だね、確かに、これとそっくりだ」
「何か、分かりますか?」
「いや、まったく…だが、君の内容もこの道具も、そして外の世界の物には
これと似た文字が彫られている、例えばストーブにはCAUTIONという文字が
彫られている、これもIが一致しているから同じような言語だろう」
「外の世界は言葉が変わった、のでしょうか?」
「いや、形こそ変わっているが、外の道具の多くは僕たちのととても似た言語も使われている、だから、無くなった事なんてありえない…ああ、ちょっと待っていてくれ」
「どうかしましたか?」
「確か、以前にラテン語の本だったかな、そんな物を拾ったんだ、持ってくるよ」
そう言い残して店主さんはまた部屋の奥へと向かった、ラテン語とはなんだろう?
サテンなら知っているのだが。
「阿求、あのメモって何?」
「分からないけど…外の世界の人間が迷い込んだことには間違いないわ。
未解決資料として私の代は縁起に乗せるつもりだけど…」
「しかし阿求の記憶力って凄いわねえ」
「ええ、中々便利よ、貴方との会話も一字一句覚えているわ」
「嘘だー、じゃあ一週間前に話した内容は?」
「嘘よ、覚えてないわ」
阿求はそう言っているが覚えている、忘れる事なんてありえないからだ。
「私は覚えているのに?」
「じゃあ、稗田家もここで交代かしら…そんな事より、疲れちゃったわ、そろそろ
座りたいわ」
「確かに、部屋の中で考察しましょ」
私達は阿求の書いたメモを手に取りつつ、ストーブの効いた部屋に戻ったのであった。




「ああ、戻ってきたのかい?すまないね、ちょっと取りづらくて」
「いや、立つのも疲れたので」
「ああ、そういう事かい、じゃあ、そこに座ってると言い、まだソーダも残っているだろう」
私達は元居た場所に腰掛けつつ、ソーダを飲むことにした。
そういえばこれ、一升瓶でお酒を飲むのと似ているかもしれない。
ちなみに私はまだお酒はあんまり飲めない、阿求は飲めるだけに残念である。
「ようやく取り出せたよ、これだこれ」
彼の手元にあるのは古びた汚い本だった。
「開いてみて良いですか?」
「ああ、どうぞ」
一ページ目を開いてみると、そこには文字列があった
「ABCDEFZHIKLMNOPQRSTVX…発音は分からないですが、これが全部ですかね」
「いや、どうやら、その下に小さいのもある、僕たちの真名仮名と似た感じだろう、今後大きいほうを真名、小さいほうを仮名と仮定しよう」
「これを組み合わせて文字を作るのかしら?」
「それは分からないが…一つ奇妙な事を感じないかい?」
「何ですか?」
「僕たちの…そうだな、ストーブに刻まれた物、君のメモ、そして機械のそれ、全てに真名しか使われていない、どこにも仮名は使われていないんだ」
言われれば確かに、パラパラと本をめくってみる、だがそこでさらに奇妙な事に気づいた。
「店主さん、これ…仮名しか使われていません」


 びっしりと何なのか分からない単語が書かれており、その下にはより小さい仮名で埋め尽くされている。
「うーん、確かに…あ、ねえ見て小鈴」
「ん?どうしたの阿求?」
「Gの文字が無いわ、これもしかして似た言語だけど全く違うんじゃ…」
「いやいや、もう少し考えてみよう、僕はこう思うな。
真名は、主しか使えないのかもしれない、例えば…そうだな、本に名前を書こうとする
それは、本に主従関係を与える、という事だ。その時道具に名前を刻む事で、どちらが上かをはっきりさせる事が出来る、例えば真名で名前を彫ればそいつが主に、仮名で名前を彫ればそいつは奴隷になる訳だ」
「面白いけど、Gの単語は?」
「恐らくそれは書き手の癖で、Cを書きたかったんじゃないか、急いでいて続け字になって
しまったのかもしれない」
「じゃあ、CAUTIONは?Uの単語は無いし、落ち着いて書かれているから続け字って事もなさそうよ」
「それは恐らく、不等号の事だろう、時代が進む事で何人とも契約するようになったのかもしれない、この場合はCA大なりTIONだね、CAという主とTIONの二人の人物…だが、CAの方が立場が上、って事ではないかな」
「へーそうなのかなー」
「これはあくまで僕の考えだ、君の言う通り、この本には真名は使われていない、だが、僕の商品の中には真名と仮名が混ざっているものもある、恐らく、これらは時代が違うのだろう、幻想入りした道具と現代から流れ着いた道具、それらが混じっているはずだ」
「なるほど…つまり、は?」
「真名だけで彫られているものは古い、と言うことだ、僕の所持しているストーブも、そのキンドレズも、それ以上の物があるはずに違いない、きっとそれらは、もうすたれている過去の技術なんだ」
なんとも驚くべき結論である、無限の本を収容できるそれ以上とは、どんな物なのだろうか。
もしかしたら、外の世界の人間は脳に直接埋め込むのかもしれない、そうだとしたらこんなものも要らないはずだ、幻想郷に流れ着くのも無理はない。
だが、いつの時代も古いものが悪とは限らない、それらが多く流れ着かないのは、今でも本を読むことに固執する人間が多くいるからだろう。
「でもGPSも効かないって言い方はおかしくない?阿求も効かない、とは言わないわ」
確かに、阿求の言う通りだ、私は話についていけないが。
「薬が効く、と言うように外の世界ではGPSという何かがあるのかもしれない、例えば、強制的に別世界へと飛ぶ何かが、GPSを使って夢の世界から抜け出そうとしたのかも」
「そう考えると僕の考察はいささか間違っていたかもしれない、時代がたつにつれ
物にも人権が与えられ、真名が降られた…とも考えるべきか、この書いてる主がどの時代の人間かは分からないが、この時代は物とも意思疎通が出来るのかもしれない」
「物に向けて話しかけるの?笑っちゃうわ」
「いやいや、そんな事は無い、ここに書いてある携帯電話…携帯とは分からないが、電話は僕の商品にある、なんでもそれは遠くの人間と話すことが出来るみたいだ、ただ、そんな事はありえないからこの道具が遠くまで使いまわされるんじゃないか?」
「はー、なるほどねー」
「小鈴…君は本当に分かっているのか?」
「分かる訳無いじゃない、こんな解説を誰に聞かせても誰もわからないわ」
そう言って阿求の顔をちらりと見る、彼女の眼は幺樂団を語るときの眼と同じだった。
阿求はきっと分かっているのだろう、私にはさっぱりだ。
そもそも、何もわからないのに文字だけで判別するなんてバカバカしい。無謀に近い事だ。
彼らのしている事は匂いで煮込んでいる食べ物を理解しようとすることに限りなく近い。
そんなもの、匂いがしない食べ物もあるんだから分かりようがない。
彼らは、そんな事を意気揚々とやっているのだ。
だが、あの人…そう、稀代の天才作家、アガサクリスティならどう考えるだろう。
彼女なら私の事をばからしいと思うのだろうか?
もしも会うことが出来たのなら、この考察をその人に聞かせたい。
どちらが間違っているか、白黒ハッキリつけてほしいからだ。



…阿求は余り疲れていなそうだが、私は疲れたので帰ろうと阿求に促した。
ふと、外を見渡してみるとすっかり黄金色が辺りを照らしていた。
 すっかり、辺りを夕日が照らす時間になってしまった。
夕方というのは昼でも夜でもない、妖怪と人間がまじりあう唯一の時間だ。
恐らく、そろそろ妖怪たちも動き出すのだろう、あまり暗くならないうちに家に帰らなくては。
「そうだ、これを持っていくといい」
そう言うと店主さんは、ハンカチのようなものを私達に手渡してきた。
「え、汗でもふけって事ですか?」
「いや、それはカイロと言って、触れている者を温める事が出来る道具だ」
回路?私はその単語をかつて見たことがある、確か、電気について調べていた時に
オーム等という単語と共に出てきた単語だった。
「これを持ち帰れって事ですか?」
「外も十分寒くなってきている、得に君たちにとって指は大切な商売道具だろう。
これに触れていれば多少は…そう、霜焼け程度なら防げるだろうからね」
店主さんも中々優しい所がある、これで長々しい話が無ければ私の理想的な方なのだが。
「ありがとうございます、私は縁起を書かなきゃいけないので指を痛めると少々…」
私はそんな阿求を後目にハンガーにかけていた上着を外し、体に覆う。
「ああ暫く振っていないと暖かくならないから、そこだけは気を付けてくれ」
「ええ、じゃあ、箒で帰りましょ、阿求」
「ああ、それだが、僕が預かっておくよ、それにはここの魔力が込められている、妖怪達が
もしかしたら君の所に向ってしまうかもしれないからね」
「そうなんですか?じゃあ歩いて帰るのかー…」
「少し歩けば人里が見える、この時間帯ならその道も安全だろう」
「あ、そうだったんですか?」
「ああ、それでも人は余り来ないけれどね…」
私達は店主さんから一つずつ回路を受け取り、あいさつをしてドアを開けた。
その回路は私達の指先にじんわりと温かさを伝えてくれた。
なるほど、電気が温かくなるのも中にこれが入っているからなのか。
「しかし、凄かったわね、特にメモの内容がわかったのは凄く良かったわ」
「ああ、そうね」
あれで分かったのか、妄想で語っていたし解決していないようにも思えるが。
「ねえ、また今度も来てみない?案外人里の近くだし」
「ええ、考えておくわ」

エピローグ
 あの後私は疲れてご飯を食べて寝てしまった。
起きた後、外はいつもより暖かかった気がする、魔理沙さんが解決してくれたのだろう。
なんだかんだ、妖怪退治の腕は本物なのかもしれない。
起きた私は、電気についての本を読んでいた、私なりにも一つの結論を出そうと思ったのだ、
二人が理解したまま、私だけ取り残されるのは余り良い気分でないからだ。
第一、 あの二人は難しく考えすぎている、私ならもっと簡潔に結論を下すだろう。
私の結論だが、
恐らく、あれは、別の種族の言語だろう、外の世界では多種多様な人間、人に近い何か、もしかしたら宇宙人が折り入って生活しているのだろう。
そこで、彼らにも通じるように、その言語で注意書きを書いた、あのメモは人名でも無ければ物名でも無い、そういう単語なのだ、幻想郷でも理解もしていないのに難しい単語を使いたがる人間は数多くいる。
ホーキング、と蓮子、は真名仮名の関係だし、向こうの世界では宇宙人に対して似た単語で仮名を割り振っているのかもしれない。
こんな所だろうか?これを第三者に語るつもり等無い、下手に話せばまた会話が長引いてしまうだろう。
そうそう、回路と言えばすぐに冷えてしまった、もう擦っても温かくはならない。
お金を払ってなかったし、安いものだったのだろう。
チリンッ
「いらっしゃいませ」
どうやら、客が来たようだ、やはり暖かくなったから客も来るようになったのだろう。
「急に暖かくなって困るわ」
「って阿求かい、」
「私じゃ不満な訳?」
「いや、お客さんが戻るかなーって…」
「私も客として来たのだけど?新しい小説が連載してるんだってね、感想を聞きたくて」
チリンッ
今度は誰だろうか、今度こそ客だろう。
「おい、小鈴、無事に退治してきたぜ」
「って今度は魔理沙さんなのね…」
「私じゃ不満か?依頼は無事に達成出来なかったぜ、運悪く霊夢と鉢合わせしてな、負けたんであいつに譲ってきた」
「ああ、結局解決するのは博麗の巫女なのね…」
阿求は残念そうに、そう話す。
「あー?私に期待してくれてたのか?」
「スペルカードルールは誰でも戦えるって例で貴方の事も書きたかったのよ」
「ああ、すまないな、代りと言っては何だが四人で宴会でもしないか?今から霊夢の所でさ」
「んー良いわね、こんなに暖かいし、桜も咲いてるわよね、小鈴っ」
「ええ、花見酒と行こうかしら」
「決まりだな、それじゃ、ちょっと飛ばしていくか」


 魔理沙さんの箒にしがみついて私たちは博麗神社へと着いた。
やはり空を飛べるのは楽だ。
「えー?あんた達も来たの?」
「えー、とはなんだ?わざわざ人里から来てくれたんだぜ」
「それもそうだけど、幽霊とか、レプリカとかも来てるのよ」
「レミリアですわ、そんな偽物みたいな名前じゃないわ」
どうやら、様々な人?妖怪?も集まっていた、一人は大きな剣を持っていて、強盗みたいに見える、一人はメイドで一人は羽が生えていた…ってこの二人、紅魔館の二人!?
「ちょっと阿求、どういう事よ!」
「私に言われても困るわよ…え、っと、霊夢さん?」
「あー気にしないで、ここにいる分には危害を加えないわ、危害を加えたら退治するわよ」
危害を加えない…と言われてもそこに妖怪がいるのだ、恐れないほうが難しいだろう。
「気にするな、話してみれば案外面白いやつかもしれないぜ」
「ねえ、私の事無視してません?」
「こんにちは、私がレミリアよ」
その私よりも小さい少女は私に向けて握手を求めてきた。握手して大丈夫だろうか?
「貴方、お嬢様が差し伸べてるのよ?本来は貴方から差し伸べるのよ」
「咲夜、そんなんだから貴方は人間と仲良くなれないのよ」





 話してみると、皆良い人だった、阿求は終始警戒していたが、お酒を飲むにつれ少しずつだが打ち解けていったようだった。
私はお酒を余り飲めないのでお水で薄めながら飲んでいたけど。
そうそう、レミリア様は外の世界の知識を多く持っていた、電気についても分かりやすく教えてくれ、あの単語の意味も教えてくれた。
なんでも、あれはレミリア様達の母国語らしい、今度紅魔館に来れば詳しく教えてくれるそうだ。
私は、今まで阿求の口からでしか妖怪を知ることが出来なかったが、この一件を通じて妖怪も悪くないな、と再び思うようになったのだ














文中の考察は割と頑張って書いてみました、霖之助っぽく書くのは本当に難しいです。
また、内容にキンドルらしき物が出てきますが一切関係はありません。
山茶花
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コメント



0.簡易評価なし
1.80名前が無い程度の能力削除
妖々夢あたりの話なのかな
小鈴から見た異変や文字についての考察が、それぞれのキャラらしくて面白かったです
誤字?報告です
阿求廷→阿求邸?
2.無評価山茶花削除
感想ありがとうございます。
一応概要に書きましたが、これからは背景を最初に書いた方が良いかもしれないですね
お手数おかけして申し訳ありません、直しておきました。