Coolier - 新生・東方創想話

さまよう正邪

2018/07/07 13:05:09
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「わああああ!」

寺前で掃き掃除をしていた幽谷響子の命蓮寺を倒壊させそうなほどの叫びに。それを聞いても寺にいる連中は呑気なもので、面倒見のいい一輪だけが響子のところまで駆けつけてきた。

「どうしたの、響子ちゃん!」

「あわわわわわ…」

響子は尻餅をつきながらも一輪の方へ這って行った。大事にしている箒を投げ出してしまうほどの事態に襲われたらしい。一輪は雲山に目配せして、何が迫ってきても良いように戦闘の態勢を取る。

その時だった。倒れた箒の影から、また影──それは口に出すにも恐ろしい「奴」だった。

「ひっ!う、雲山!」

思わず抱きつかれてしまい、なんとなくほんわかした雲山であったが、それはそれ。視線で必死に「あいつを叩き潰してこい」と訴える一輪を、雲山は蔑ろにしなくてはならなかった。

「あー!こっち、こっち来る!」

カサカサと不気味な足音を立てて近づくゴキブリに3人は成すすべがなかった。万事休す、命蓮寺もここまでか──その時である。

空から現れたのは、小さな角を持ち、小柄な体型を大きく見せようとしているのか下駄を履いた、人呼んで天邪鬼。

「正邪ぁ!」

颯爽と現れた正邪は、か弱き2人の乙女に向かって身体を汚してやろうと企む不逞な輩を躊躇いなく踏み潰した。が、踏みつけられたのは身体だけで、頭だけが残ってしまう。

「うわ、きったね…」

下駄についたゴキブリの体液を指の先でピッと弾き、正邪は2人に向き直る。その顔は、天邪鬼らしからぬステキな笑顔をたたえていた。

「正邪さん!ありがとうございます!」響子は泣きながら正邪に向かってこれでもかと礼を言った。

「いや、その…」

「ありがとう、正邪!正邪が寺にいてくれて良かったわー!」

「…」

頭を抱えずにはいられない。この私が人にいいことをして、感謝されるなんて!なんなら頭だけになったゴキブリの野郎から恨み言でも聞いた方がマシだったが、そのゴキブリの野郎はしぶとく、頭だけになっても餌を求めて寺の方へ駆けて行った。

私にもあんなハングリーな時代があった。どこか感慨深く、正邪は過去に触れてみる。

正邪は何処の組織にも属さない弱小妖怪だった。愚連隊にすら入らぬ生粋のひねくれ者で、慎ましく生きようとする他の雑魚妖怪と違ったのは彼女が野心家だったというところだ。

正邪は生きるために泥を啜り、その辺に生えてる草を胃に詰め、耐え難きを耐えて生きてきた。そして転機は訪れたのである。

それが打ち出の小槌と小人を巡った異変で、あと少しで幻想郷の転覆を狙えたのだが、すんでのところで人間たちに止められてしまった。小人という協力者を失ってしまった正邪は、悔しがる暇もなく逃亡生活を余儀なくされた。この幻想郷で本格的に命を狙われることになってしまったのだ。

1週間くらいは各所で盗んだインチキアイテムで難を逃れていたのだが、食料や水が尽きてあばらが浮きはじめたころ、正邪は観念こそしてないがついに御用となった。が、痩せこけた正邪を憐れに思った寺の住職、人間に大阿闍梨と呼ばれる聖白蓮に強制的に入寺させられ、本人の望む望まないに関係なく修行や手伝いをさせられているのだ。

曰く、誰だって更生の余地はある。はっ!私を更生させるくらいなら、明日の天気を操る方がまだ簡単だぜ。

とはいえ、寺の全員から目をつけられている正邪はこの寺から逃げられない。夜中に一度抜け出そうとしたのだが、墓場にいた幽霊みたいな女に出会い頭に衝突して、恐怖のあまり失神してしまった。その後にその女が、墓場で涼んでいた村紗水蜜だと知ったのだが、正邪は本気でお経を習おうかと思ったほどだった。

それがトラウマで、今は真面目に働いて出所──もとい、解放させられる方向にしているのである。

だが、天邪鬼的にそれは耐え難き、どころでなく耐えられない。

「本当に薄情な奴らよねー。響子ちゃんが助けを求めてるってのに、だーれも来やしないんだから。それに比べて正邪はえらいわぁ。ちゃんと助けてくれるんだもん」

一輪の本音なのか馬鹿にしてるだけなのか分からない褒め言葉は、幻想郷を一周しても止まりそうにない。

「本当ですよ!正邪さんがいなかったら、今頃私は…」

何を想像しているかはわからないが、正邪にとってはその想像していることが起きた方が楽しかったに違いない。

「正邪さんは!すごい!」

「正邪ありがとう!」

「正邪!」「正邪さん!」「※※※」「※※※!」

限界だ。正邪は発狂して寺へと駆けて行った。途中にゴキブリの頭があったので、力一杯、寺の方へ蹴っ飛ばした。



食事は本来当番制なのだが、正邪が来てからは正邪が作らされていた。いったい、なんだってこんな悲劇に見舞われてんだ?

とにかく正邪は着なれない割烹着を着せられ、炊いたこともない飯を炊き、生で食えば良いのにとボヤきながら魚を焼く。正邪から言わせれば、食事だって修行のうちだ。こんな栄養のあるもんばっか食ったら、いざって時に困るんだよ。

正邪にとっての「いざ」が寺での食事で、寺の連中にとっての「いざ」は正邪の過去の事だ。正邪はいざという時に、目の前にいるありとあらゆる食えそうな物体を食った。

不味いものばかりを口にして来た正邪にとって、美味しい寺の料理は毒に近かった。天邪鬼だから美味いもんが不味いのではなく、単純に飯が美味すぎて胃袋のやつが驚いたのだ。その際、周りにいた奴から心配されて、余計に吐き気が増した。

正邪は与えられた献立を作り終えて、部屋に運ぶ。そこには正邪とは無縁な団欒の時間が流れていた。

くそっ!こんなとこで食事を取れなんて拷問だろ!肥溜めの目の前で食った方がどれだけマシかわからない。

「ん、なかなか上手くなってきたのお、正邪のごはん」

マミゾウとか言う奴は幻想郷では新参者な癖してでかい面しているのがムカつく。

「どうもありがとうございますぅ」

慣れない表情とお礼の言葉に腹を立てながらも、正邪はこの場の空気を壊すまいと頑張り続けた。

「ははっ!ございますぅ、ってあんた!ははは!」

正邪の血管をブチギレさせようとするのは、寺の居候妖怪、封獣ぬえだ。残念ながら力ではこれっぽっちも及ばないので、正邪はへーこらするしか無かった。

「ははは!変ですかね、ははは!」

「変よあんた!ははは!」

「ははははははは!」

正邪たちの様子を見て、心底和んでいる聖。どうせこの事も布教活動に利用するんだろうぜ!「私の寺に入った者はみな、正しい道を歩むのです」ってな具合にな!

「なんかしょっぱくないです?」

そりゃそうだ、水蜜さんよ。あんたの料理にだけ塩を特別盛ってやってんだ!正邪の料理に水を差した水蜜が他の奴らから白い目で見られたのが、この食卓で起きた正邪にとっての唯一の良いことだった。

こうして地獄の責め苦を耐え抜き、手伝わなくてもいいのに手伝ってくる奴らと一緒に食器を洗い、それから坐禅を組まされたりして、正邪の1日は終わる。

どうか、明日にでも流れ星が寺に落ちてきて鼻持ちならない奴らごと木っ端微塵にしてくれますように。



我が竹馬の友(という建前で一緒に行動した)、針妙丸が各地で戦っているのを見た。

なんでも、今巷で流行っている都市伝説異変とかいうのに巻き込まれているらしい。この勢いで命蓮寺の存在を都市伝説にしてくれ、と正邪は持ってもいないオカルトボールに祈った。

正邪の祈りは完全に無視され、何故かオカルトボールを持つ一輪の戦いの訓練に付き合わされる事になった。

「行けっ雲山!って、あれ?」

正邪は自身に突っ込んでくる雲山に能力を行使し、逆に一輪の方へ向かわせた。

「わー!?」

雲山にぶん殴られた一輪は寺の上を通過してそのまま幻想郷に映る星となった。なんだ、戦いの訓練は楽しいじゃないか。鼻持ちならない奴らを正当にぶっ飛ばせるなんて!オカルトボール万歳!

「や、やるわね…」

幸運にも無事に帰ってきた一輪だった。

「そんなに凄い能力を持っているのに、何であんな小者臭いことやってたのよ」

「…」

正邪は一際鋭く一輪を睨んだ。一輪も地雷を踏んだと思わず口を手で塞いで、ごめんなさい、と小さく謝罪した。

「気にせんでください。確かに小者ですよ、私は」

そんな事ないよ、とは口が裂けても言えない一輪だった。

「弱者のために幻想郷を転覆するつもりが、簡単に阻まれてこの有様ですよ。私はいったい何のために生きてきたんですかねえ」

悲観に暮れる天邪鬼にかける言葉を一輪は持ち合わせていなかった。ある意味で救世主的な登場をしたのは、悪戯に微笑む大妖怪、封獣ぬえ。

「何のためにって、妖怪なんだから人を脅かすために決まってんでしょ」

「ぬえ…さん」

「でも、天邪鬼って不便よねえ。人を脅かせるのに、そんな大層な野望を持たないと行けないなんて」

「ぬえさんみたいな単純で強力な能力じゃないですしね。っていうか、能力より性格なんですけど」

「ふーん…」

ぬえはジロジロ正邪の顔を覗き、一輪をビビらせた。が、一輪の予想に反して正邪の表情は緩くなっていく。

「ま、どこかにあるんじゃない?」ぬえは、雑魚妖怪の願望などクソどうでもいい、と言わんばかりの関心の無さ加減で言った。「弱者が虐げられない世界が」

そう言うと、ぬえは何処かへ飛び去って行った。一輪もホッと胸を撫で下ろし、正邪を1人にするために何処かへ行った。

「…そんなもんが初めからあったら、私いらないじゃん」



そして時は巡り、氷の妖精も凍っちまいそうな寒い冬が訪れた。こんな季節に坐禅だの修行だのやる奴は底なしの馬鹿か、よっぽど信仰心のある奴くらいのもので、寺にいる輩はそのどちらでも無かった。広間に出た炬燵は、あらゆる快楽よりも優先して連中を引き込んだ。

誰もが炬燵の魔力に溶かされる中、正邪だけは考え事をしていた。自分の存在意義について、考えるまでもない事を夏から考え続けてきた。

もう、幻想郷の転覆なんて無理だ。打ち出の小槌も無いし、協力者もいない。なら、このまま寺に永住するのも…悪いな。もちろん此処にいる連中に対して迷惑がかかる、という意味ではなく、正邪にとっての具合が悪い、という意味で。

柄にもなくため息をつく正邪を、檻の外から動物を観察するみたいな物珍しさで眺める連中。冬でなければいくらでもからかってやったのに、と言わんばかりにぬえが馬鹿にした笑みを浮かべている。

ムカつく視線から逃げるように、正邪は部屋を出て縁側に座る。血液まで凍ってしまいそうな雪の下で、氷の妖精は案の定元気にしていた。

ここなら美味い飯だって食える(最近ようやく慣れてきた)。屋根もあるし、ムカつく連中さえいなければ天国のような所だ。

でも、虐げられてきたこれまでの事を考えると、あんな連中なんぼのもんだってんだ?別にいたっていいだろう。ゴキブリみたいなもんで、どこにでもいるんだから、ああいうのは。もちろん、正邪が嫌いだというだけで、別に連中がゴキブリみたいな扱いを受けているわけでは無い。。

白い息を吐き出す正邪の隣に、いつの間にか水蜜が立っているのに気づき、正邪はびっくりして吹っ飛んで、雪の中に頭から突っ込んだ。

「いるなら言えよ!」もはやタメ語も辞さなかった。「死ぬほどびっくりしたぞ!」

「すいません、影が薄いもので」

「い、いや…」

「気を使ってくれてるの?」

口籠ったのを影が薄いという点を否定してくれたのかと勘違いしたらしいが、 寒くて口が動かないだけだった。本当だ。

「だったら、料理に入れる塩の分量をちゃんと守ってほしいんだけどもね」

水蜜はお茶を持ってきていて、正邪の分も入れていた。水蜜はそれを、噴火の前兆みたいに震える正邪に渡してやる。

「へっ」お茶を一啜り。「はやく成仏できるように清めてやってんだ」

「天邪鬼なりの気遣いってところね」

「わかってるじゃん」

2人はしばらくお茶を飲み、降り積もる雪を眺めた。暖かいお茶に、冷たい雪。相反する2つの要素は、まさに天邪鬼的だ、と正邪は思った。

「ねえ」藪から棒に水蜜が切り出す。

「ん?」

「いつまで寺にいるのです?」

「…」

「あ、いえ…別にいつまでいてもいいんですけど、私が決められる事ではありませんけどね。ただ、天邪鬼のあなたが、なぜ大人しく寺に居着いているのかが気になって」

「さあな」正邪は雪玉を作って、妖精達に向かってぶん投げた。はずれ。

「わからないの?」

「わかってたら、とっとと抜け出すかなんか、するさ」今度は2個作って投げる。惜しい。

「…聖は弱者の味方です。ここがあなたの正しい場所なのかもしれません」

「正しい場所?」持っていた雪玉をつい落としてしまう。

「ええ。誰にでも正しい場所があり、誰もがそこを目指している。私はこの寺こそが私の場所だと思っていたのですが、どうでしょう。私は今でも何かを沈めなくては落ち着かないのです」

正邪は正邪にしかわからない理由で笑った。

「それに血の池地獄…あれは良いものですよ」

「誘ってるのか?」

「いいえ。ただ、私にとって正しい場所は別にあるのに、私は寺に居心地の良さを感じている。でも、ここが私にとっての正しい場所だとは思えないのです」

「うーん…」

正邪が考えている間に、水蜜はお茶を注いでやった。

「私もこの寺にいたくない。ここにいる奴らは鬱陶しいし、1人の方が似合ってるし好きだ。でも、そう考えてるうちは正しい場所なんて見つからないかもしれないな」

「弱者が救われる場所が正しい場所なのでは?」

「どうだかな…考えてるうちに、きっと、そこでも弱者の間で強者が生まれて、またヒエラルキーが生じてしまうんじゃないかと思えてきた。結局、私が求める弱者の救われる場所なんか、無いんじゃないかってな」

水蜜はお茶を飲んで、正邪の言葉を1つ1つ噛みしめるように聞いた。それが相手を支配しているみたいで楽しくて、正邪は口を弾ませた。

「でも」また唐突に、水蜜は口を開く。「やっぱり、聖ならあなたを正しい場所に連れて行ってくれるかもしれない」

「お前も連れてってもらえよ」

「私は無理ですよ。聖と思想は同じくしても、やはり、行き着く先は聖の忌み嫌う地獄なんですもの。私は結局、私欲のためにしか動けていない」

「私は違うってのか?」

「弱者のために異変を起こしてみせたあなたは」水蜜は幽霊らしからぬ爽やかな笑顔を覗かせた。「聖に近いのかもしれません」

正邪はたまらなく気持ち悪くなった。あの聖人に私が近いだと?最大級の罵倒だ、そりゃ。私は私だけの理由で動いてるんだぞ。誰だって、私の事を理解させるもんか!

水蜜はそれだけ行って、みんながいる部屋へ戻って行った。部屋から堕落した連中を叱る聖の声が聞こえてきて、余計に嫌な気持ちになる。

私があいつに近い…?

「クソッタレ!」

破茶滅茶にムカついた正邪は、腹いせに氷の妖精まで近づいてって、渾身の力で握りしめてガチガチになった雪玉をぶつけてやった。それから壮絶な雪合戦が始まり、正邪は妖精と良い勝負を繰り広げた。



太陽が役目を忘れたんじゃないかってくらいの寒さの中、正邪が買い出しに行っているのは、公平にじゃんけんをして正邪が負けてしまったからだ。が、以前なら問答無用で行かされたことを考えると、正邪の寺での立場もだいぶ良くなったと言える。別に嬉しくはなかったが。

しかし、服はともかく角を隠さなくてはならないのが気に入らない。聖曰く、「あなたを守るためでもあるのですよ」じゃあ、お前が買い出しに行け。

ブツクサ言いながらも買い物を終えて、正邪は寺へと戻ろうとする。その時だった。雪が降るほどの寒さなのに厚着もせず、洟を垂らしながら地面をじっと見つめるガキがいた。この寒さに反発して敢えてあんな格好をしてるってんなら、ありゃあとんでもない天邪鬼だぜ。もしくは天性の物乞いだろう。

「どうした?」声をかけずにはいられない。「お家、無いのか?」

「…」

「何見てんだよ」

少年が見ている方を正邪は覗き込む。大量の蟻がカマキリを囲んで運んでいる最中だった。

「蟻さんはこんなに小さいのに、こんなに大きなカマキリさんを運んでる」

「そうだな」

「僕も、蟻さんみたいな力持ちだったら…」

少年は泣き出した。

「いじめられてんのか?」

少年は頷かなかったが、いじめられてるものとして話を進めることにする。

「なあ、いじめられてんの、何でだと思う?」

「え…」

「たぶん、そこがお前の正しい場所じゃないんだよ」

「わけわからないよ」

「お前や、お前みたいなのがいじめられない世界が、きっと何処かにあるはずだ。それか、お前が作れ」

「…どうやって?」

「知るか、ボケ。でも、作れたら私も入れてくれよな」正邪は踵を返して、寺への道を歩き出す。「みんながみんな、蟻さんの世界をな」



正邪は聖と同じ部屋にいた。聖が話があると呼びかけたので、正邪が天邪鬼にあるまじき素直さを発揮してやって来たのである。

「正邪や。何かしたいことはないのですか?」

「はい?」 真っ先に幻想郷の支配という言葉が浮かぶ。「いや…特に。なぜ?」

「もう寺を出ても構いませんよ」

「…」

「また悪さをしたら、その時はまた連れ戻します」

「ちょ、ちょっと待って。それって私が寺にいちゃダメってことなのか?」

「え?」

自分でも何を言っているかわからなかった。あんなに寺を出たがってたのに、寺にいちゃダメ、だと?ちゃんちゃらおかしいや!

「正邪?」

「いや、その…」

「正邪が望むならいつまでもいて構いませんが」

「望んじゃいねえ!けど…その…」

聖が嬉しそうに微笑む。なんなんだ?本当に私は何を抜かしてんだ?こんな寺とっとと抜け出して、さっさと次の幻想郷支配の計画でも建てようぜ!

まるで、天邪鬼と「正邪」が分離して、天邪鬼の部分が正邪に呼びかけているみたいだった。正邪の望む場所と、天邪鬼が望む場所。その相入れなさもまた天邪鬼的だなあとか正邪は思ったが、じゃあ今のは誰だよとツッコミを入れる。

「正邪?」

「…すいません。ちょっと、出かけて来てもいいですか…」

「それは構いませんが…」

正邪はフラつきながら部屋を出て、寺を出て、空へ向かった。気持ちがいいほどの晴天だ。いっそ、このまま吸い込まれて空と一体化出来ればいいのにとも思う。

やがて見えてきた、逆さの城。輝針城だ。そこにいるはずだ。あいつが。

正邪は適当に壁に穴をぶち抜いて、そこから中に入る。ビンゴ、そこには突然開いた穴にぶったまげて逆さになってる針妙丸がいた。

「な、なんだあー!?」

「ご無沙汰ですね、姫」

ズカズカと土足で踏み込むなり、適当に座り込む。針妙丸はいまだにわけわかんないと混乱していたので、近くにあった急須の中身が冷茶であるのを確認してから、それをぶっかけてやった。

「ええー!?」

「落ち着け」

「あ、うん…って、正邪!?」

ああ、この傍若無人な感じ。いつもの私な気がする。正邪は感動していた。

「ご無沙汰ですね」

「そ、そうですね…?」

訝しげに自分を見つめてくる針妙丸に、背徳感をくすぐられずにはいられない。相変わらず面白い奴だなあ…。

「何しに来たの?」

「いや…」

正邪はどう語るべきか迷って、しばらくして、かつて針妙丸を誑かした時と同じように語り始める。

「私は自分というものがわからなくなってしまったのです」

「ほ、ほお」

「天邪鬼である自分が望む物。正邪である自分が望む物」或いはその2人を客観的に見る者が望む物。「で、結局、私が何を望んでんのかなあーって思って、気がついたらここにいました」

「ふーん。正邪もそんな事考えるんだ」鬼の首を取ったように不敵に笑みを浮かべる。

「まあね…寺にいたら、退屈で考える時間が増えるんですよ」

「そうなんだ」

「ええ。それでね、ここに来た理由ってのはたぶん、あんたが欲しかったんだろうなって」

「え!?」

正邪はビショビショになった自分の身体を抱き締める。そういえば、最近ジョシコーセーとか言うのにも狙われているのだが──まさか、その差し金か!?

「いや違いますよ」腰に携えた輝針剣に手が伸びかけたのを見て、正邪は大して慌てもせずに言い換えた。「あんたみたいな人って事です」

「私みたいな?」

「ええ。私より雑魚い奴」

「…」

「私、今、凄い楽しいんですよ。姫をいじれて」

「何言ってんの…」

「寺って私より強い奴ばっかなんですよね。だからかなあ、絆されて、生温い生き方ばっかしちゃってました」

「それでいいんじゃないの?」

「良いわけねえだろ!私は天邪鬼なんだぞ」

「つまり」ため息をつく。「どうしたいのさ?」

「姫と一緒にいたら、私は私らしくいられるのさ。だから、これからよろしく頼みますよ」

「一緒に暮らせって事?」

「んなわけねえだろ、このバカ!寺にいりゃ美味いもん食えるんだからな。あまり自惚れるなよ」

「ひどいわー。なんでこんな奴に騙されたりしたんだろー」

「たまに遊びに来てやるからな」

そう言って、正邪は針妙丸の頭を指で撫でて、城を飛び出た。

何も自分の居場所は1つじゃなくていい。正邪である自分も、天邪鬼である自分にも、それぞれ安らぎの場所が必要だ。片方が姫の側で、片方が寺ってだけで。あの幽霊女だって、そう考えりゃいいのにな。

「戻ったら教えてやるか」

どうか、この先も美味い飯が食えて、尚且つ私の心が落ち着く場所がこれからも存続して、いつかは奴らの鼻を明かせる日が来ますように。
正邪ちゃん東方で一番好きです。
いびでろ
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コメント



0.180簡易評価
4.90南条削除
面白かったです
ストーリーの構成がしっかりしていてすんなり読めました
ただ、寺の生活のどの部分が正邪に影響を与えたのかよくわからなかったのが残念でした
さまよいながらもちょっとだけ前に進んだ正邪が前向きでよかったです
5.90KoCyan64削除
もうちょっと一つ一つをあっさり作らずじっくり作るともっと面白くなりそうと思いました。
村紗と蟻さんのくだり好きです。
7.100名前が無い程度の能力削除
どっちの自分も満たすためにどっちも選ぶ正邪がすき
後、村紗いい味だしてる