Coolier - 新生・東方創想話

まつりにひとり

2018/07/06 14:22:26
最終更新
サイズ
4.22KB
ページ数
1
閲覧数
479
評価数
6/12
POINT
730
Rate
11.62

分類タグ

私は川を流れていた。
夏の日差しは強く、水の冷たさが心地いい。
私はそのまま、流され続けた。

「おい、はやくしないと。食べ物はみんな売れちゃうぜ」
「そんなに急がなくても。食べ物がみんな売れちゃうなんて、あるかい、そんなこと」
「いいから、はやくはやく」

夕暮れ、人里近くの橋の下まで流れた頃、そんな会話が耳に飛び込んで来た。
人間の親子の会話だった。
どうやら、里で縁日かなにかやるらしい。
いつもなら、こんなかき入れ時に店を出さないなんてあり得ないのだが、今年はなんとなーく、気が乗らなかったので出店するのはやめにしたのだ。
自分に実入りのない縁日なんて、大して興味もなかったが、私はなんとなーく、人里へ向かったのだった。

人里に着く頃には、空はとっぷり暮れていた。藍色に乗っかられた橙が、今にも押し潰されそうな、そんな空の色だった。
人里では、予想通り縁日が開かれていた。

通りを行き交う人々は、まるで増水した川のようで、今にも溢れそうだった。
またしても、私は川を流れていた。
川の流れに従いながら、気づけば私の両手には、綿菓子やらりんご飴、それらがしっかりと握り込まれているのだった。

甘味を舌で遊ばせて、私は川を流れていった。

……。

「珍しいな、河童がいるぜ。河童の、河城にとりがいるぜ。まさか、縁日で客のお前が見られるとはな」
「それにしても、右手に綿菓子、左手にりんご飴。腕に袋までかけてると来た。袋の中身が気になるところだが、生憎、私は向こうから来たんでな」

……。

人の川に押し流されながら、その中で白黒の人間の声を聞いた気がしたが、川の流れは私をそのまま押し流すのだった。

ガヤガヤと、音を立てて流れてゆく人の川。どこか遠くで、祭囃子の笛の音が響く。

ぴーひゃらら ぴーひゃらら

……。

「あやや?河童の河城にとりさんじゃないですか。あなたがお客さんだなんて、珍しいこともあるんですねぇ」
「ところで、椛をみかけませんでしたか?一緒に来ていたはずなんですけどねぇ」

……。

ドーン、ドーン、と、太鼓の音が遠くで響く。川の流れのピークは迎えていた。
大量の足音と、太鼓の音と、喧騒が、ただなんとなく歩いているだけの私の心を震わせる。なんだか妙に、顔が熱い。

……。

「わ、にとりさん!びっくりしました?私です、椛ですよ。一人で歩いてるから驚かしてしまいました、ふふふ」
「そうだ、文さんを見ませんでしたか?今日は文さんと来ていたんですけど、ふいに見失ってしまいましてね。迷ったら演し物の場所に集合するよう決めたんです」
「にとりさんは、演し物みないんですか?」

……。

ドーン、ドーン、ドーン。
太鼓の音が、徐々に鳴り止む。
段々と、人通りが疎らになってきた。
あんなに溢れそうなほどの人々が、一体どこへ消えてしまうと言うのだろう。

団子の串や割り箸が、地面のあちこちに散らかっている。

……。

「おや、にとりじゃないか。まさか一人で来ていたとは。いや、少し前に魔理沙と会ってね。君が楽しそうに歩いてるのをみたぜ、なんて言ってたものだから、てっきり誰かときているのかと思い込んでいたのさ」
「ところで、頼んでいた修理は終わったかい?いや、急ぎじゃないんだ。ただ、あれを店に置くのが楽しみでね」

……。

「え?魔理沙かい?魔理沙なら演し物を見終わってすぐ、満足気に帰っていったよ。一人でまわる縁日も乙なもんだな、なんて、言ってたっけな」

……。

ジリジリ、ジリジリ。
蝉の鳴き声が夜に響く。
人の川は、もうすっかりどこかへきえてしまった。
夏特有のじんわりとした寂しい涼しさが、体に纏わり付いた祭りの熱気を攫っていく。
出店の主人たちが店じまいをする音。
川に取り残された僅かな人々の、かすかな話し声。

ジリジリ、ジリジリと、夜に響く、蝉の声。
そろそろ帰ってしまおうか。

私は人里近くの川辺にやって来た。
川辺が私の帰路だった。

道中、手持ちの花火を囲む四人組を見つけた。
線香花火を真剣な面持ちで握りしめるもの。
火花が噴出するような手持ち花火で、空に軌道を描くもの。
ただ眺めているだけのもの。
そんな風景をカメラで撮っているもの。
一瞬、見知った奴らかと思ったが、全員、全くの別人だった。

紺色の空の下、木々に囲まれた砂利道を、さーっと風が吹き抜ける。
川辺のひんやりとした気温は、祭りの後の寂しさに浸った私の心とよく似ていた。
それは、子供の頃に好きだった、絵本のような寂しさ。悲しみのない、きれいなだけの寂しさ。

そんな寂しさを抱えて歩く私の心の中には、ひとつ、淡い光が灯っていた。
それは暗闇の中、儚く光る火花のような光だった。私はその光を思うと、なんだか胸が締め付けられるような気がして、一人で照れ笑いを浮かべていた。

一人、川辺を歩きながらニヤついている自分を俯瞰すると、私はさらに決まりの悪い気分に陥った。
途端に、さっきまで感じていた寂しさも、今感じている面映ゆさも、全てがちゃちに思えてくる。

あーあ。と、私は小石を蹴りつけ、少し笑う。
すると私は、不意に、どこか遠くの方で、祭囃子の笛の音が響くのを聞くのだった。
精進します。
kodai
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.220簡易評価
1.100いびでろ削除
こういう、細かい風景の描写とか仕草とか読むの大好きです。なんか寂しくなるんですけど、それが気持ちいいというか
2.100モブ削除
とても丁寧で、綺麗な作品だと感じます。御馳走様でした
3.90南条削除
面白かったです
魔理沙とすれ違ってそのまま流れていくところが特によかったです
4.60KoCyan64削除
1人1人会う展開は良かったのですが特に何も無く終わってしまったという印象です。にとりの心理描写がもっとあっても良かったなと感じました。
6.70奇声を発する程度の能力削除
良かったです
7.90名前が無い程度の能力削除
何となく昔の文豪っぽい作品やなあ
文章から想像できる風景から懐かしさを感じる