Coolier - 新生・東方創想話

もう一つの自分 魔理沙・ミスティアの場合

2005/12/10 09:13:30
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~ドッペルゲンガー~

自らと同じ形、同じ能力を持つ最上級の魔物

人妖霊を含め、万物ありとあらゆる『存在』に姿を見せる

謎に包まれ真実の姿を見た者は居ないとされている

また、諸説の一つに

「ドッペルゲンガーを見た者はドッペルゲンガーに存在を喰われる」

といったものがある




~ヴワル魔法図書館・幻魔の書 24ページより抜粋~


















~ 某日 魔法の森のとある場所 ~

深緑に包まれた森のとある場所

そこにやや古風な一軒屋が建っていた

その一軒屋の中では、一人の少女が魔導書と文字通り『格闘』していた


「このっ!いい加減っ!お縄にっ!つきやがっ!れっ!」


白黒の服を着た少女が空を飛翔する魔導書に向けて必死に手やら箒やらを振り回している


ドドドドドド・・・・・


そしてまた雪崩が起きる。いや、雪ではないから本崩だろうか

魔導書はそんな少女を嘲笑うかの様にヒラヒラと手をすり抜ける

ちなみにかれこれ時間経過は4時間ほど経っていた





「やれやれ、やっと捕まえたぜ」


やり遂げた達成感を噛締めているが、周りは既に形容し難いほどの汚さになっている

あ、また崩れた


「まさか自己防衛が『臆病(チキン)』のタイプだったとは、我ながら迂闊だったな」


魔導書には稀にだが自分で意識を持つことがある

それを大別すると
相手が諦めるまで攻撃を放ち続ける『闘士(ファイター)』
術を使い、幻覚を見せてやり過ごす『虚無(ダミー)』など

その本が自らを保身するために行動するのだ

そういった書物は大抵、何か特別な事が書かれているのである

少女が捕まえた本には【空間の操作】と背表紙に書かれていた

本の沈静、及び説得若しくは屈服の儀をすませた少女は机に向かい、本を読み始める

ちなみに空間操作を求めた理由は「そろそろ家が蒐集品で埋まりそうだから」だそうだ。整頓する気は無いらしい


『はぁ、いい加減自分の考えを改めてもらいたいぜ』


少女が声に反応して後ろを振り向く
そこに居たのは・・・



















髪の色と着ている物の色が少々違うようだが
見間違う事も無い、自分自身だった

















『久しぶりだな』
「久しぶりだぜ」

まるでごく自然の事柄の様に少女は会話を始める

「こう見えても一応近いうちに整頓する気はあるが?」
『その方法が空間操作の研究成果ってんなら、自分に嘘をつくのはやめたほうが良いぜ』
「ありゃ。やっぱ自分にゃ嘘はつけないか」
『嘘つきは泥棒の始まりだぜ?』

二人とも、ニヤニヤと笑いながら会話を続ける


『さて、お喋りはこれくらいにして、本題に入るぜ』




『彼女』が真剣な表情になる




『努力に勝る才能は無い。誰だったかがこんな事を言っていたな』

「ああ、そうだな」

『先に進んでる相手が居ても、努力を重ねに重ねれば確実に追いつくことが出来る。そうだよな?』

「ああ」

『だが、心の底では「努力にも限界があり、追いつけない相手にはどう足掻いても追いつけない」そう考えてるんだろ?』

「・・・・・・」

『自分が努力しているのと同等に、相手も努力している。もしくは努力を上回って有り余る才能がある
 いくら差を詰めようとしても、誰も待っていてくれない。だから自分の行動が正しいのか迷っている。そうだろ?』

「そこまで詳しく言われたら、私が話す事がないじゃないか。・・・正直な、無駄な足掻きに思えてきちまったんだ
 どれだけ私が頑張っても、霊夢の奴は待っちゃくれない。どれだけ私が走っても、他の奴も一緒に走ってきて何時の間にか追い抜いちまう」


無意識の内に、少女の拳が堅く握られる

その手は良くみれば無数に傷跡があり、肌が荒れ、相当ボロボロになっているのが分かる

それは少女にとって自分の努力の証であり、今の自分はその結果といったところだろうか

だがしかし、それでも博麗の巫女には追いつかず、それ故自分は置いてかれていると感じているのだろう


「空間操作だって、整頓が目的なわけじゃない。・・・副産物として使うかもしれないが
 霊夢の奴が相手じゃあこれくらいの手を使わないと。いや、使っても勝てないんだ!」


それは悲痛な言葉だった

あまりに理不尽なまでの差。それは確実に少女を追い詰めていた

例えその当人が自覚をしていなくても、だ

『彼女』は暫し目を瞑り、そして少女に言い放った


『誰にも適わなくなって、同じ場所に立てなくなって、それで置いてかれる。本当にそうかな?
 私達の知ってる奴等の中には、置いてかれても自分を信じて、息を切らさず走ってる奴がいるはずだぜ?』

「む・・・」

『今のお前は立ち止まって泣く寸前の状態だ。でもそいつは息を切らさずこっちに向かってくる
 このまま泣いちまうのは悔しいだろ?』

「そうだな・・・。確かに泣くなんてのは私らしくないぜ」

『泣くのが嫌なら立ち止まらず歩く。歩いても追いつかないなら走る。走っても追いつかないならペースを上げる
 元に戻っちまったけど、用は気負いの問題だ。追いついて一緒の場所に居るんじゃない、いっそ追い抜かしてやるってくらいで走るんだ
 そうするだけでも相当の違いがあるんだぜ?』


言いながら『彼女』は三角帽子を手に持ち、クルクルと回している


『それに』


コンコン
玄関の扉を叩く音が聞こえる


『今のお前には』


コンコン
魔理沙ー、居ないのー?


『一緒のペースで走ってくれるお節介焼きが居るじゃないか』


コンコン
まーりーさー。居ーるーのー?


『そいつが居る限りは置いてかれることは無いと私は思うぜ』


そう言いながら『彼女』は三角帽子を上に投げる


『精々頑張りな、わ・た・し♪』


そう言うと『彼女』は居なくなり、自分の帽子とは色合いが違う三角帽子が床に落ちていた


「追い抜かしてやる気負いで・・・か。それもそうだな、追いつくだけで満足するのは早い早い
 ・・・見てろよ霊夢、いつになるかは分からんが、絶対に足元をすくってやるぜ!」


バゴォン!

少女が決意を新たにしたのと、扉が吹っ飛び、蒼い服を着た少女が入ってきたのはほぼ同時だった


「何だ魔理沙、居るんじゃないの。てっきり実験に失敗して死にかけてると思ったけど、そうでもないみたいだし」

「失敬な。失敗するような実験は私一人じゃやらないぜ?」

「三日前にうっかり魔力制御に失敗して家を壊しかけたのはどこの誰だったかしら?」

「う゛・・・・」

「まぁいいわ、今に始まったことじゃないし。それで、今日は何の用事?」

「ん、ちょいと薬の材料集めを手伝ってもらおうと思ってな」

「あんた、私を雑用係か何かと勘違いしてない?」

「滅相も無い、何だかんだ文句を言いながらも最終的には了承してくれる良い友人としか思ってないぜ」

「はぁ・・・、自分で自分の性格が悲しくなってくるわ・・・。行くなら行くでさっさと準備しなさいよ」


そう言いながら蒼い服の少女は自らが蹴破った玄関から外へと向かう


「なぁ、アリス」


白黒の服の少女は出て行こうとした蒼い服の少女を呼び止める


「何?早くしないと時間なんて直ぐ経っちゃうわよ?」

「いつもありがとうな」

「・・・へ?」


白黒の服の少女は言ってから恥ずかしさがこみ上げてきたのか、少し顔を赤らめながらポリポリと頭を掻いている

蒼い服の少女は、何度か言われた言葉を思い出しては反芻している。照れはじめたのか少し顔が赤い


「ば、馬鹿言ってないでさっさと準備する!早くしないと置いてっちゃうわよ!」


蒼い服の少女は慌ててそう言うと外へと出て行った


「おいおいアリス、集める材料も聞かないで行っても二度手間にしかならないぜ」


そう言いながら準備をし始める。だが白黒の少女は知っていた

あの様な事を言っていても、蒼い少女が必ず自分のすぐ手の届く範囲で待っていてくれる事に

















「ところでアリス、ちゃんと扉は修理してから帰って行けよ」

「はいはい。それはそれとして、何で私のスカートの裾を掴んでるわけ?」

「そこはいわゆる企業秘密って奴だぜ」






















~ 某日 ある人間の里の近く~

どこからだろうか、まるで心に語りかけるような、そんな詩が聞こえてくる

里の丁度入り口にあたる場所に、その詩の発信源が居た





も~うこ~のまま変わらない~♪

たいせ~つなわ~たしの ふ~る~さ~と~♪




「んー、今日も快調!喉が空気に良く映える!」


思いっきり手足を伸ばしながら呟く夜雀の少女
朝に啼いても夜雀とはこれ如何に?

冬も近づき、朝の空気が何か張り詰めたような、しかし澄んだような感覚を思わせる

夜雀の少女はそんな朝の空気が好きだった

夜雀の歌、それは人を狂わせる世迷いの歌。しかしそれはあくまで夜に限る

今のように早朝だったりした場合、それは世迷いの歌から惹き付ける詩へと変化する

少女にとって、どちらも同じ歌には変わらない。ただ、人間達が喜んで聞いてくれるのは嬉しい事だと思っている

元々彼女は妖怪である。故に、人間は食料であると言う認識が強い

だが何事にも例外と言うものがあるように、人間と友好関係を築いている妖怪も少なくは無い

夜雀の少女はその例外に属する妖怪であった




薄れていく頬の紅 差し出すものは♪

胸に刻む 禁じられた契約 誰もそれを知らない♪



どこからか、歌が聞こえてくる。早朝だと言うのに、世迷いの歌が

そして少女は、この歌声に聞き覚えがあった

















他ならぬ自分の歌声なのだから












「あら、御機嫌よう。もう一人の私」

『久しぶりね、もう一人の私』


同じ顔をした少女が軽い挨拶を交わす。この妖怪もまた、当たり前のように目の前の存在を認知している


『私が居るって事は、またどうするか見失っちゃってるのかな?』

「うん・・・実は・・・」

『言わなくても分かるわ、私は貴女なんだもの。妖としての本能が自分の理性を侵食し始めた、そうでしょ?』

「うん。私は人間がとても食べたい。でも、私は人間を食べたくない」


妖の本能として、人の血肉は子供一人分食べるだけでも全身に力を満たせるエネルギーがある事を生まれつき知っている

それが妖としての理であり、当たり前なのだ

それを抑制するとどうなるか?

ある者は発狂し、ある者は抑制の反動が出る。場合によっては命を失う

夜雀の少女は種族の中では類に稀を見る高い力と知恵を持っていた。だからこそ例外となり得たのだろう

そして今、その例外に少しばかりの綻びが生じていたのだ


「里の子供達と遊んで、皆に詩を聞かせて。喜んでる私が居る
 その裏で、切り裂いて、血肉を喰らいたがる貴女が居る。だから私はどちらに従うべきか迷っている」


淡々と自分の意思を語り、少女は楽になろうとする




だが





『その答えは、今この時が全て。貴女がそこに居て私がここに居る
 つまり貴女は人間との共存を望んでいる。腹立たしいけどね』

「あ・・・」

『そして貴女はその意思を確定するために、私と戦わなくちゃならない
 貴女が私に勝てば、その本能は完全に消えるわよ』

「もし貴女が勝ったら?」

『人間との共存を望む貴女が完全に消え、本能である私が残るわ。そうなったときの結果は・・・・分かるよね』



無償で楽になる事はあり得る事ではない

何らかのリスクを背負い、それらを解消することができる

少女にとってのリスク、それは『理性』の消失だった



『それじゃあ行くよ?精々自分の意思をしっかりと持つことね!』


『彼女』は距離を取りながら使い魔を放つ


「絶対に乗り越えてあげる、たとえどんな弾幕でもね!」


少女はそれに呼応するかのように、迎撃を始めた











「・・・あー、ミスティア。何があったかは聞かないが、そんな所で寝てるとどこぞの亡霊に食べられるぞ」

「こういう時って普通『大丈夫かミスティア!誰にやられたんだ!?』とかってならない?」

「大丈夫かミスティア!誰にやられたんだ!?」

「そんな取って付けたように言われても・・・」


村の入り口にボロボロになって横たわる夜雀の少女に、青い帽子をかぶった少女が語りかける

既に太陽は山々の間から抜け出し、辺りに暖気を振りまいている


「まぁ何でも良いが、あまり長々と寝ないようにな。通行の邪魔になる」

「動けない、おぶって」

「私は人間は好きだが我侭な妖怪は好きではないな」

「いーじゃない。いつも手伝ってあげてるんだから、色々と」

「その代わり衣食を提供しているのは誰だったかな?」

「うぅー・・・」


意地の悪い笑みを浮かべる青い帽子の少女

結局、やれやれといった表情をしながらも夜雀の少女を背負い、村の中へと向かった


「ねぇ、慧音」

「ん?どうした?」


名前を呼ばれ、青い帽子の少女が足を止める


「私ね・・・勝ったよ・・・」


ポツリと夜雀の少女が呟く

青い帽子の少女は「そうか」と答えると、再び足を進め始めた

その顔には、優しい笑顔が浮かんでいた

















「それにしてももうちょっと好き嫌いを無くした方がいいと思うぞ?」

「へ?何で?」

「私くらいのボリュームにしたかったらそういう努力はした方がいいと言う事だ」

ゴスッ

「何をするミスティア、痛いじゃないか」

「五月蝿い、余計なお世話よ」





















~ドッペルゲンガー~

自らと同じ形、同じ能力を持つ最上級の魔物

諸説の一つに

「ドッペルゲンガーを見た者はドッペルゲンガーに存在を喰われる」

といったものがある

そして諸説にもう一つ

「ドッペルゲンガーはもう一人の自分。自分の悩み、迷い等を映し出す鏡
 鏡に曇りが現れた時、曇りを晴らすために現れる自らの心の具現である」

また、幻想卿に関しては特に表れる傾向が強いが、居なくなる人妖が居ない事から後者の説が最有力である




~ヴワル魔法図書館・幻魔の書 24ページ~25ページより抜粋~



























ここでは初書きのARBですコンチクショウ・・・じゃなかった、コンニチハ
勢いと行き当たりバッタリで書いてしまったので自分でもどんな作品になってるやら・・・(ぉ
まぁ大丈夫としておこう


ドッペルゲンガーは良く出会うと死ぬと聞きますが
実は「それまでの自分」と言う意味で死んでしまい、残るのは「新しい自分」じゃないかと考えてました

更に 自分と同じ姿してるんだよな。じゃあ鏡か?自分で生み出せるのか?ああ、何かありそうだ とか
そういえば花映塚とかで色変えとか2Pカラーあるって言ってたっけな。じゃあそれって同キャラ対戦だとドッペルじゃね? とか

そんな安直な考えからこの作品のドッペルさんは生まれています


ちなみに悲しいかなあれらの服の名前がよくわからないので白黒の服の少女他の表記になっちゃってます
しかもめんどくさいと言う理由で2Pカラーを調べない始末。 ああ、石を投げないで

できることなら今度はギャグを書いてみたいなぁ

最後になりましたがここまで読んで頂いて真に有難う御座いました、お客様は神様です
ARB
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コメント



0.3720簡易評価
4.100毛玉削除
深いな・・・
19.90無名剣削除
正直、ドッペルゲンガーは怖いイメージしか持っていなかったのですが、
この作品を読んで、もう一つの形が見えました。
存在を喰う、成る程、そういうことですか。
こういう物語、とても好きです。できれば私の前にもドッペルg(ry
39.100名前が無い程度の能力削除
「鏡は悟りの具にあらず、迷いの具なり」との言葉もありますが、この作品のドッペルゲンガーがそうであるように、迷いは不必要なものではなく自己を知り、進歩するための糧となるものでしょう。
42.70れふぃ軍曹削除
前書きの諸説を見て、結構重い話しなのかなと想って読めば…。

いやはや意外な展開にびっくり&にや~り(にた~り?)させて貰えました。

普段向こう見ずそうなこの二人にも、生きていく以上悩みはありますよね。
「私…勝ったよ」
この台詞に、じ~んと来ました。
44.80まんぼう削除
なるほど……『存在』という事ですか。
良く考えてみると、もう一人の自分って誰にでもいる様な物ですしね。
外には出せないもう一人の自分。
それを外に出す事は自分にとって結果的に幸せなのか幸せじゃないのか。
楽しませていただきました、ありがとうございます。
46.無評価名前が無い程度の能力削除
もう一人の自分
弱音を吐くとき 間違いなく傍にいる存在
越えるべき目標を教えてくれる存在
そんなイメージを持ちました。

何言ってるか分かりませんね。すいません。
まあ何が言いたいかというと、さらっと天然なけー姉萌え。
47.80名前が無い程度の能力削除
そして天然な自分に自己嫌悪。ぶろーくんじゃぱにーず。
点数忘れました。すいません。
54.60Mya削除
 ドッペルゲンガー、見たことありますー。夜半、裏口から外に出ようとして扉を開けたら、薄明かりの下にぬらりとした表情でにやりと笑ってそいつが目の前に立っていました。対峙した瞬間に得体の知れない恐怖に駆られて、肺腑に目一杯、息を吸い込んだ所で意識が暗転して、その一瞬後には、そこには見慣れた裏手の風景しか在りませんでした。
 当初は本当に、ああ、私って本当に近いうち、死ぬのかなーと思っておりましたが、あれから結構な歳月が経った今でも何とか存命しております。私のドッペルさんも、消えずに語りかけてくれれば不安も残らなかったのですが。
 今度は死者の葬送行列に自分の姿がないことを祈って。
56.100名前が無い程度の能力削除
きっとこれなら他の方にもドッペルゲンガーが現れるんだろうなぁ
悩みが無いと言い切ったアリスや亡霊の幽々子様にどんなドッペルゲンガーが現れるのか気になるところです
89.90名前が無い程度の能力削除
けーね結構いい性格してるなwww
90.90名前が無い程度の能力削除
面白かった
97.無評価絶望を司る程度の能力削除
ミスティアの最後の一言に撃ち落とされました。