Coolier - 新生・東方創想話

いいから飲め、飲めばわかる

2005/11/28 09:31:13
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「……うぇぇ、気分悪ぅ……」
 目を覚ますと激しい頭痛。爽やかな朝の光が黄色く網膜を焼く。
 口はカラカラに乾き、舌はザラザラ。激しい胸やけが吐き気を起こさせる。
 寝床代わりの岩の上、ごろりと横になれば襲い来る頭痛。
 とてもじゃないが動けそうにない。
 気力を振り絞り、立ち上がる。歩く毎に襲い来る頭痛。
 歯を食いしばって耐え、側の泉まで辿りつき、顔ごと水面に突っ込み喉を鳴らして水を飲む。
「……ぷっはぁー!」
 とりあえず満足するまで水を飲み、顔を上げる。
 頭痛や吐き気は幾分かマシになったものの、依然として体は絶不調。
「……これが世に言う二日酔いってやつね」
 伊吹萃香、この世に生を受けて初の二日酔い体験である。


 昨晩、博麗神社の宴会で飲みすぎたせいだろうか。
 ……ちくしょう、あの天狗の挑発になんか乗るんじゃなかった。
 今度あったら、問答無用でどつき倒そう。そう心に誓う。
「しかし、きついよ~」
 さっきから泉の側で、寝転がったままである。体を動かすのがひどく億劫だ。
「こんな時は、やっぱり迎え酒よね……」
 胡散臭いスキマ妖怪や腋巫女がやっていたように、自分も飲むとしよう。
「さてさて、迎え酒はどんなお味かな…………って、あれ?」
 無い。
 そこにあるはずの感触が無い。
 いつでもどこでも手放せない。無限に酒の涌く鬼の瓢箪。
 それが、無い。
 思わずスッパになって、スカートとドロワーズを逆さにして振ってみたりもした。
 が、見つからない。
 辺りを見渡してみるものの、転がっているはずもなく。
 寝ている間に動物にが持っていった?いやいや、これでも鬼の端くれ。どれだけ前後不覚であろうと、気づくはずだ。
 落ち着け、落ち着け伊吹萃香。思い出せ、昨晩どこで何をやっていたか……!
「えーと、確か霊夢のとこで宴会参加した時はあったんだよね……」
 毎度毎度の神社での宴会。確か昨日は永遠亭の面子も参加していて、いつになく大所帯だった。
 その中で尽きることのない萃香の瓢箪酒は常に誰かの手にあった気がする。
「ああ……、いい気になって貸し回したりするんじゃなかった……」
 後悔先に立たず。
 おそらく、その間に行方がわからなくなったに違いない。
 天狗との飲み比べに夢中になった自分も悪いのだが。
「とりあえず、霊夢のとこいってみよ……。忘れてるなら保管しててくれるはずよね」
 よっこいせと立ち上がる。紫からババ臭いと言われているが今更どうでもいい。
「ぐぁ……。」
 が、立ち上がった瞬間、頭痛が襲う。歩く振動で吐き気を催す。
「…思ったより……きついね、こりゃ……」
 幸い、ここは博麗神社の近くだ。気合を振り絞って歩き出す。
「霊夢のとこ着いたら、昨日の残ってるお酒もらお……」
 萃香はね、アルコールが無くなると死んじゃうんだよ。
 そんなアホな言葉が頭をよぎった。





……
………




 午前中の博麗神社を霊夢が掃除している。
 昨日の宴会の片付けはあらかた終わり、今はまったりと箒で掃いている。
「まったく……、宴会するのはいいけど、誰もちっとも片付けないんだから」
 が、その宴会のおかげで自らの食卓事情が多少なりとも改善されているのだから複雑である。
 表現しがたい微妙な気持ちで掃除している霊夢の背に、傍の茂みから声がかかる。
「……れいむぅぅ~」
 地獄の底から響いてくるような声に思わず札を取り出し身構える。
「誰!!……って萃香じゃない。」
 茂みから出てきたのは、二日酔いの苦しみに耐え、ここまでやってきた萃香であった。
「ちょっと……あんたどうしたのよ、その顔。随分苦しそうよ?」
 普段とはあまりにも違う、かけ離れた状態の萃香にさしもの霊夢も驚く。
 茂みから出てきた時は、新手の妖怪かと思ったほどだ。
 その萃香は、ふらふらと霊夢の前まで歩いてきたところでばったりと倒れる。
 端から見ても二日酔いであることは歴然だった。
「……こんなところで死なれても迷惑なんだけどー?」
 箒で汚い物でも触るかのようにつつく。
「うぅ、うっ……ううう……、れいむぅ~」
「何よ」
「おさけ……ちょうだい……」
 今度は手加減なしで箒が振り下ろされた。


「ぷは~~~!! ああ、生き返る~!」
 社務所の中に纏められていた残り酒を飲んで人心地つく萃香。
「これが迎え酒ってやつね~。頭痛の痛みによく効くわー」
「で、あんたは酒飲む為にわざわざ来たの?」
 自分の分もちゃっかり確保しつつ、呆れ顔で霊夢が聞く。
「そうそう。霊夢、私の瓢箪知らない? どうも昨日の宴会の最中に無くしちゃったみたいなんだけど」
 酒を飲んで落ち着いたのか、萃香が聞く。
「瓢箪ってあのお酒が出てくるやつでしょ? 片付けしたけどそんなのなかったわよ。」
「えええええええ!!」
 落胆の声をあげる萃香、が即自分のあげた声で頭痛に苛まれる。
「ていうか、あんたの能力で幻想郷中に広がればすぐにわかるんじゃないの?」
 当然の疑問を口にする。
「何言ってるのよ!そんなことしたら体内のアルコールまで分解されちゃうじゃない!」
 大真面目に萃香が答える。
「……あっそぅ。とにかく、ここには無いわ。宴会で無くしたのが確かなら、参加してた誰かが持って帰ったんじゃない?酒好きいっぱいし」
 まるで⑨を見るかのような目で見つめる霊夢。
「ん、んふふふふ。そうね、もう虱潰ししかないよねぇ。紅魔館に永遠亭、白玉楼、あとどこだっけね……」
 笑い声が響くのか、頭を抑えつつ萃香は黒い笑いを浮かべる。
 普段の萃香なら気づいたろう。一見無表情の霊夢の、その目が笑っていることを。
「そうそう、あいつらならやりかねないわ」
 実は瓢箪は霊夢が忘れ物として保管していたし、さっきまで返す気にはなっていたのだ。
 だが、この展開は千載一遇の好機。
 いつもいつも片付けしない連中に天罰だ。いつもいつも私一人で片付けているんだし、これくらい問題ないわよね。
「さて、そうと決まれば、まずはあの吸血鬼のところかな……」
 ふらりと幽鬼のように立ち上がる。
「これもらっていくね。お酒飲んでると頭痛とかマシになるのよ」
 側にあった一升瓶を片手に、萃香は紅魔館の方向へフラフラと飛び去っていく。
「――あいつの血液はホントに酒でできてんじゃないのかしら」
 懐から瓢箪を取り出し、杯に中身を注ぎながらそんな事を考えた。





……
………




 湖上の紅い屋敷、紅魔館。
 今日も今日とて、素直に門番、紅美鈴。
「今日も平和ねぇ……、ふわあぁぁ。」
 大口開けて欠伸する。普段ならここでメイド長のナイフが飛んでくるのところなのだが。
「昨日の宴会疲れで、咲夜さんは寝てるから平気平気」
 昨晩、寝ているお嬢様を抱えて帰ってきたメイド長は、疲労困憊の様子だった。
 なんでも、お嬢様が大暴れして宥めるのに大変だったとか。
「ま、紅魔館は昼が夜だし、ゆっくり休ませてあげないとねー」
 そういう時に限って、厄介ごとがやってくる。
 空に浮かんだ人影が、ふらふらとこっちにやってくる。
 いつもの黒白かと思ったが違う。あの横に伸びた特徴ある角。
 いつぞやの宴会騒ぎの主犯の鬼、確か名前は……、
「血飛沫萃香だっけ?」
「伊吹萃香よ、この中国」
「中国じゃない!紅美鈴!」
 あまりの萃香の言い草に思わず叫び返すと、萃香が頭を押さえて蹲る。
「ううう、大声出さないでよ……」
「なに、あんた二日酔いなの?」
 この常時酔っ払っているような飲ん兵衛が珍しいと思う。
 それに手に持っているのは瓢箪ではなく、宮城県産の銘酒伯楽星。
「あんた何時もの瓢箪はどうしたの?」
「その件でここに来たのよ、ちょっとお嬢様に会わせてくれる?」
「だめよ、お嬢様はただ今就寝中でございます。また後ほどご来訪くださいませ」
 わざと仰々しく返答する。なんせこいつは一度はお嬢様を倒しているのだ。そんな輩を通すわけにはいかない。
「なら、力ずくね」
 手の酒をごくりと呷り、萃香が右手を回転させ始める。
 回転している腕に吸い寄せられるように、辺りの瓦礫や石が萃香の腕へ集まり巨大な岩と化す。
「そぉぉりゃぁぁぁ!」
 瓦礫の岩を力任せに美鈴に投げつける。
 構えたまま、微動だにしない美鈴。
 まさに直撃せんとするその刹那、地面を叩き割れとばかりの震脚と同時に、美鈴の腕が突き出される。
「――――噴!!」
 気合一閃が一球入魂を打ち砕く。
 二投目に備えて構え直す。が、二投目が来ない。
 いぶかしんでよく見れば、萃香は頭を押さえて倒れていた。


「そりゃ、二日酔いであれだけ暴れりゃ倒れもするわ……」
 門番の詰め所。ソファーに萃香を寝かせ看病する美鈴。
「うう、恩に着るわ中国」
「……耳元で大声だすわよ?」
「大声やめて大声」
 これ以上は堪らないとばかりに、萃香が謝る。
「とりあえず、ここに瓢箪は無いわ。昨晩、お嬢様達が帰って来たときは手に何も持っていなかったもの」
「そっかー、じゃ次行かないとねぇ」
 起き上がり、詰め所を出ようとする萃香を慌てて制止する。
「これ飲んでいきなさい。二日酔いの薬よ。それと老酒。お酒がないとだめなんでしょ?」
 手渡された錠剤を老酒で飲み込む。
「なにからなにまでありがとね。今度何かお礼させてもらうわ」
 そういって萃香は詰め所から出て、飛び去っていく。
「期待しないで待ってるわ」
 後日、美鈴の元に大量の老酒が届けられたが、すべて没収されたのは関係ない話。





……
………




 妖夢が剣を振るう度、枝葉がはらりと舞い落ちる。
 ここは白玉楼、二百由旬の庭。白楼剣と楼観剣で庭木を裁定していく。
 名刀二本をそんな事に使っていいのか、という突っ込みはこの際無視しておく。
「これじゃ幾らやってもきりがない……」
「猫のお手手も借りたいの?」
「そうね、この際なんでもいいわ」
「そーれ、今日のマサオ君ー!」
「ぽちたま!? しかもそれは犬!ってほんとに猫が降ってきた!うわぁ子猫だ、可愛いなぁ!」
「二百由旬の猫の亡霊、すべてここに集めてみましたー」
「やめて庭木で爪とぎしないでー! ってよく見りゃお前は伊吹の萃香! ええい、ここで叩っ斬る!」
「にゃーにゃーにゃーにゃー」
「なんで幽々子様までいるんですかー!? しかも律儀に猫耳まで!」
 閑話休題。
「瓢箪なんて知りませんよぅ……」
 猫の亡霊を小一時間かけて追い散らしてきた妖夢が肩を落としていう。
「うにゃあああああ、助けてぇぇぇぇ!」
 庭の彼方から声が響いてくる。
 奥から駆けてくるのは、プリズムリバー三姉妹の次女、メルラン・プリズムリバー。
 何故か全身猫だらけだ。目の前まで駆けてきたところで、すっ転んで猫に埋もれる。
「うぇぇぇん。毛が……毛が……、やめて服の中に入らないでぇ~」
 見かねた妖夢が、一喝して猫を追い払う。
「うう……、ありがとう妖夢ちゃん」
 メルランは服をはたいて、毛を落としながら礼を言う。
「いえ、大した事はしてませんので……。あとちゃん付けはやめてください」
 ふと、メルランと萃香で視線が合う。
「あれー、白玉楼にこんな子いたんだ~、可愛い~。ナデナデナデ」
「ちょっとー、頭撫でないでくれる~?これでもれっきとした鬼よ、鬼!つうか角みて気づけ」
「この角ゴボウみたい~、あ、今日の晩御飯はゴボウ巻きにしようっと」
「だから、抱き上げるな抱き締めるな角をしごくなー!」
「あぁん、可愛いのに~」
 メルランの抱擁から逃れる萃香。
「そんなことより貴方達、昨日の宴会の後、うちの瓢箪見なかった?」
「ひょうたんですか……?そういえば、永遠亭のうさぎがこれを使えば大金持ちだとかなんとか言っていたような……」
「ちょ、それほんと!?」
「ええ、私は酔い潰れてましたけど、半霊を通じてそんな事を言っていたのを憶えているわ」
 その時の事を思い出したのか、落ち込む妖夢。
「そうか、瓢箪からは酒が無限に出るものだし、あの兎ならそんな事考えても不思議じゃないわね。」
 紅魔館から持ってきた老酒をグイグイやりつつ、萃香は次の行き先を決めた。
「それじゃ永遠亭いってくるねー!」
 そういって萃香は霧となって消える。
「ああ~、萃香ちゃんうちにも一匹欲しいなぁ」
 指を咥えて見送るメルラン。
「あの子細かく何体にも分離できたはずだから、隙を見て捕まえちゃいなさいな」
「そんなことはどうでもいいですから、幽々子様は頭の猫耳を外してください」
「あらあらまぁまぁ」





……
………




「あー、大分楽になったわ。さすが中国四千年、酒の質も伊達じゃないわね」
 竹林を飛びながらそんな事を思う。
「永遠亭かー。そこは結構めんどくさいのが揃ってるのよねぇ」
 不死人二人に狂気の瞳を持つ月兎。
 さすがに正面からいくのは骨が折れそうだ。
「負ける、とは言わないけどね~」
 永遠亭が見えたところで停止し、策を考える。
 ケンカは最初の一発が肝心。相手の度肝を抜くようなそんな策はないものか。
 しばし考え、結論がでる。
「罠に嵌って踏み潰す! うん、これで行こう」
 それは作戦というのだろうか、と突っ込む相手はいなかった。


 その頃、永遠亭ではてゐが輝夜の肩を揉んでいた。
 普段なら鈴仙なり永琳なりが揉むのだが、今日も二人は鈴蘭の園へ行ってしまった。
 必然的にてゐが輝夜の身の回りの世話をすることになる。
「因幡、もうちょい右」
「はいはい~」
 いい加減名前くらい覚えろこの引き篭もりめ。そんな気持ちが揉む力に出ないよう慎重に揉んでいく。
「……? 因幡、何か聞こえなかった?」
 何も聞こえねぇよ、という心の声を押しつぶす。
「何も聞こえませんよ?」
 耳が大きいからって聴力いいわけじゃねぇんだよダラズ。
 その時だった。
 天井を突き破り、床下を突き破った巨大な足が、轟音と共に座敷中央に突き刺さる。
 「おらー、瓢箪返せー!」
 竹林全てに響き渡らんとばかりに叫ぶ。
 巨大化した萃香はそのまま永遠亭を踏み荒らしていく。
 逃げ惑うイナバ達。
 萃香が歩くたびに、地面が揺れ瓦礫が落ちる。
 巨大な萃香には弾幕も通じず逃げ惑うイナバ達。
 その様はまさにシムシティの怪獣襲来。

 響いてくる地響きに、あまりの出来事で放心していたてゐが我に帰る。
「……はっ! 姫様なんとかしてくださいよ!!」
 てゐが輝夜に声をかけるが、返事がない。
「って、姫の頭が変な方向に曲がってるー!!」
 側に大きい瓦礫が落ちている。肩をてゐが掴んでいた為に逃げられなかったのだろう。
 完全に首の骨が折れているなら、蓬莱の薬の効果ですぐ復活するのだろうが、運の悪いことに微妙に折れきっていないようだ。
 更に痛みとショックで気絶している。泣きっ面に蜂とはこのことか。
 てゐは頭の詐欺回路をフル回転させて考える。
 どうする、どうする、どうする、君ならどうする。いっそ姫にトドメを刺して復活してもらうか?
 でも、復活させる為とはいえ永琳にばれたら、なにをされるかわからない。
 かといって、暴れる萃香をほっぽり出して逃げても同じだろう。
 無論、萃香の瓢箪なんてあるわけがない。
 進むも地獄、引くも地獄。
 その時、ふと昨晩の様子を思い出す。
 確か、その瓢箪は最後に――――。


 意を決して立ち上がる。
 今、永遠亭を守れるのは私しかいないんだ。
 振ってくる瓦礫を避けながら、萃香の足元まで進む。大丈夫、こんなの普段の弾幕に比べたら屁みたいなものだ。
 萃香の足元で声を限りに叫ぶ。
「こらーー! 鬼ーーー!!」
 その声が聞こえたのか、しゅるしゅると天井くらいまでの高さに縮む萃香。
「お、真犯人はっけーん。さぁさぁ瓢箪を返してもらいましょうか」
 おもわず萎縮しそうになるが、歯を食いしばって耐える。
「あんたの探してる瓢箪はここにはないわよ! 瓢箪は博麗の巫女が持ってるわ!!」
「霊夢んトコには真っ先に行ったよ。それで持ってなかった。いい加減な嘘言うと耳引っこ抜くわよ?」
「嘘なんかじゃないわよ。いい、昨晩の事を説明してあげる」

 昨晩、宴会の最中に萃香の瓢箪を手に入れたてゐは、これで一儲けできると画策していた。
 が、宴会も終わり、思い思いに帰る中霊夢によって奪われたのだ。
 その時の霊夢のセリフが思い浮かぶ。 
 ――ろくに片付けもしないのにいい思いしようなんて甘いのよ。

「よく考えなさい、霊夢は片付けしない私達に恨みがある。そこで貴方を利用して一泡吹かせてやろうと考えても不思議じゃない」
 事情を説明し終えたてゐに萃香は、
「でもね、霊夢と詐欺兎じゃどっちが信用あるかわかる?」 
 痛いところを突いて来る。が、てゐには秘策があった。
「わかってるわよ、信用が無いことくらい。嘘だったその時は、耳を毟るなり、皮を剥ぐなりしてくれて構わないわ」 
「いい覚悟だね。信用してもいいのかもしれない」
「信用してくれてありがとう。そうそう、信頼の証に永遠亭秘蔵のお酒を上げるわ。」
「へぇ……、そんなのが永遠亭にあったんだ。くれるというんならもらっておこうかな」
「わかったわ、ちょっと待ってて」
 屋敷の奥へ消えていくてゐ。
 この時点で、萃香はてゐを信用する事にした。
 鬼である自分に対して、あそこまで啖呵を切ったのだ。その勇気は賞賛に値する。
 なにより、秘蔵の酒とやらを拝んでみたかったのだ。
「ほら、持ってきたわよ」
 てゐの手には400mlくらい入りそうな小瓶。
 中には透明な液体が詰まっていた。
「随分、量が少なくない?」
「当たり前よ、秘蔵中の秘蔵よ?大量生産できないからこそ秘蔵なのよ」
 確かに言っている事には筋が通っている。
 なら、酒が旨ければ100%信用する。まずかったら死刑。
 そう決めて、萃香は瓶を受け取り一気に飲み干した。
「くあぁ~~~~、こいつはキクねぇ」
 このあいだ呑んだウォッカとかいうのより更にきつい。
 風味も今まで味わったことのないものだ。
「へへ、これなら合格。いいわ、あなたを信用してあげる」
 ほっと息を着くてゐ。
「じゃ、ちょっと霊夢のとこ行って来ようかな。お酒ありがとね~」
 飛び去っていく萃香。
「ふう、なんとか危機を回避することが……」
 あたりを見回して愕然とする。
 倒れ付しているイナバ達。突き破られた天井。とどめに気絶している姫。
 永琳が戻ってくれば確実に御仕置きされる。
 なんとか責任追求を逃れなければ!!
 もう、この手しか残されていない……!
 覚悟を決めたてゐはそこらへんの瓦礫を両手に掴み、思い切り自分の頭を叩きつけて、気を失った。





……
………




 そして、再び博麗神社。
「れ~~~~~い~~~~~む~~~~!!」
 返事も待たずにドカドカとあがり込む。
「真実は常に一つ!犯人はおまえだ!!」
 居間への障子を開けると同時に、啖呵を切る萃香。
「いきなり上がりこんできて人を犯人扱いか!」
「あら、あなたが犯人じゃない」
 虚空から声がしたかと思うと、中空に線が浮かび、ぬるりと八雲紫が出てくる。
「へぇ……、あんたが一番怪しいと思ってたんだけど? そもそも私が犯人なら証拠出してもらいましょうか?」
 驚きもせずに霊夢が半眼で紫を睨む。
「永遠亭のてゐから聞いたわよ。空き瓶と一緒に瓢箪片付けてたって」
 ちっ、てゐめ。ちゃっかり憶えていたのか。が、思ってもそんな事はおくびにも出さない
「私が犯人としても瓢箪はどこよ。私はもってないわよ?」
「あら、瓢箪ならそこにあるじゃない」
 紫が霊夢の巫女服の袖を指刺す。
「何言ってるのよ、こんなとこに…………なんであるのよ」
 袖をまさぐり青くなる霊夢。
「んっふっふ、霊夢ぅ……覚悟はいいわねぇ……ってあれ?うわ何これ、目がものすごく痛い!」
 突如、目を押さえて苦しみだした萃香に唖然とする二人。
「萃香、あなた何飲んだの?」
 紫が萃香の足元に転がっていた小瓶を拾い上げる。
「これ、メチルアルコールじゃない。萃香、早く能力で酒気を抜きなさい。でないと目が潰れるわよ?」
「えっ!うわなにそれ、あの兎に騙された!!」
 あわてて疎の能力で目の酒気を抜き取る。
「危ない危ない、間一髪だったわ。ありがとう、紫」
「いえいえ、どういたしまして。まぁそれよりも……」
 この隙に逃げようとしていた霊夢を、萃香の鎖が縛りつける。
「ちょ、時に落ち着きなさい萃香! これがてゐの策略だってわかんないの!?」
 必死に弁解する。が、
「証拠ならここにありますよ!!」
 襖を開けて乱入してくる第三の人物。
「お天道様は騙せても、この幻想郷随一のブン屋、射命丸文の目は騙せませんよー!!」
「あんた、昨日の宴会参加して無いじゃない。紫に幾ら積まれたか知らないけど、捏造はやめてもらえる?」
「何言ってるんですか、宴会となれば普段出てこないディープなネタがあるかもしれないんですよ!? ちゃぁんと、茂みに隠れて色々取材していたに決まってるじゃないですか!」
 人、それを盗撮盗み聞きと言う。
「証拠があるっていったよね?どんな証拠なの?」
 萃香が辛抱できずに問いかける。
 文が懐から数枚の写真を取り出す。
「じゃーん。霊夢さんが瓢箪を回収して、賽銭箱に隠す決定的瞬間です!」
 その写真には霊夢が瓢箪を拾い上げるところ、それを賽銭箱に隠す瞬間等が撮られていた。
「普通の賽銭箱なら、お金が邪魔をして入らないところですが、博麗神社の賽銭箱は常に空です!そこに着目した霊夢さんはさすがというべきでしょうか!?」
 いつの間に撮られていたというのか。
 霊夢には賽銭が無いと言われても、文句を言う余裕すら無くなっている。
「証拠は出揃ったわね。覚悟はいい、霊夢?」
 不敵な笑いともに、萃香の横に詰まれる白い山。
「そ、それは、私が年末年始を過ごす為にこつこつ雀から奪っておいたお米!!」
「あなた、そんな事してたの……?」
 紫が呆れている。
「ま、幾らなんでもこれを捨てるなんて悪辣非道な真似、私はしないよ」
「それじゃあ……」
 霊夢の顔に希望の灯が点る。
「でもね、この家中にはブチ撒けようかな」
 小さな希望の灯に津波にが襲い掛かる。
 言うが早いか米の山は掻き消え、あたりに白い米粒が散乱する。
「ぎゃああああああああああ」
 真っ白に燃え尽き、崩れ落ちる霊夢。
 それをあらゆる角度から激写している文。
「ま、鬼を怒らせるとこういう目にあうのは基本よねぇ」
 霊夢の袖から瓢箪を回収する萃香。
「んぐんぐんぐ……やっぱこの濁酒が一番おいしいわ~」
 喜色満面の笑顔で瓢箪の酒を飲む。
 伊吹萃香とこの瓢箪は切っても切れないものなのだ。







その後、昼夜を問わず米を拾い続ける霊夢が、魔理沙によって目撃されたとかされないとか。


クリスマス用のSSを書いていたはずなのに、何故萃香のSSを書いているんだろう。
こんなこともありますよね、新角です。

萃香を二日酔いさせるとこから思いついたSS、楽しんで頂けたら幸いです。
新角
[email protected]
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コメント



0.3350簡易評価
1.70低速回線削除
二日酔いに悩む萃香が可愛い。
ただそれに尽きる。
2.70低速回線削除
二日酔いに悩む萃香が可愛い。
それに尽きる。
3.無評価低速回線削除
あれ?名にやってんの俺('A`)
二重投稿……よりによって……っ
4.50床間たろひ削除
メチルは死ぬだろ!
いやあの酔いどれ幼女なら、いずれはそれに耐えうるやも知れん。
いずれにせよ、飲み過ぎには注意♪
5.40まんぼう削除
責任追及から逃れるために自傷するてゐに笑いましたw
8.70名前が無い程度の能力削除
てゐワロスw

にしても。
ゆゆ様のネコミミ(*゚Д゚)
23.60no削除
内容自体はありがちかなと思うのですが、
なんかメルランが異様にかわいいというか。
24.60名前が無い程度の能力削除
シムシティ懐かし
竹林を整地しないと火事が広がりますなw
29.無評価名前が無い程度の能力削除
>どうする、どうする、どうする、君ならどうする。

デンジマンのED?
30.90名前が無い程度の能力削除
体は酒で出来ている
血潮も酒で 心はおやじ
幾たびの宴会を越えて不敗
(ネタが思いつかないので中略)
酒瓶の丘で酒を飲む
ならば 酒の銘柄に意味は不要ず
この体は無限の酒で出来ていた
40.60おやつ削除
美鈴に負ける萃香萌え、
ぬこ耳ゆゆ様さらに萌え、
でも一番来たのは天然っぽいメルポかも知んないw
41.無評価ちょこ削除
萃香でも二日酔い…萌えwてかメチルアルコールって;;;
ネタで飲もうとして必死に友達に止められたのはこれのためか;;;
44.50銀の夢削除
メチルアルコールって……劇物では……
それに何より、猫耳なゆゆさまをあんなあっさりと一言で片付けていいものか!

とりあえず、『!』や『?』の後はスペースを1つ空ける(人によっては半角スペースみたいですが)のは、現代における文章作法の基本、とかこの間聞いたようなそうでないような。もろもろ思うことがあるにつけても、とても笑いました。お見事。
46.80名前が無い程度の能力削除
萃香かわいいよ萃香!
オチの巫女もいいかんじで因果応報ですね。
これぞ正しい勧善懲悪(本当か?)
47.60名無し参拝客削除
>萃香はね、アルコールが無くなると死んじゃうんだよ。
ダブルブ○ッド!!(笑
49.60bernerd削除
「どうして萃香、酒を飲まないと死んでしまうん?」

タイトルで吹きました。
そのままの勢いで気持ちよく読ませていただきました。
50.80まっぴー削除
>ちょこ氏
死ぬ気ですか!?

銀氏の言うとおりメチルアルコールは食用アルコール(エチルアルコール)とは違います。
飲めばもれなく萃香みたいになりますよ?

まあ、てゐは後でえーりんに半殺し(という名のお仕置き)されたでしょうね。
あ、逆か。
67.90空欄削除
ワンポイント知識。
・メチルアルコール……体内でホルムアルデヒドやら蟻酸やらになる程度の能力。
・ホルマリン……ホルムアルデヒドの水溶液
要はメチル飲むと体内からホルマリン漬けかつ蟻酸漬け。

400も飲んだら確実に
ねこみみゆゆさまと似た体になる→こまっちゃんに有り金払う→ザナたんに説教食らう
「貴方はメチルアルコールを飲みすぎる」
ルート確定なので絶対に(てゐのも萃香のも)真似するな!
68.80名前が無い程度の能力削除
てゐ、まじ策士!
暗黒の昭和時代じゃあるまいし爆弾焼酎なんて飲むなよ!
あー笑いましたw
85.70SSを読む程度の能力削除
ごちそうさまでした
92.60自転車で流鏑馬削除
死に掛けNEETワロス