Coolier - 新生・東方創想話

イマジナリーフレンドがいなくなるとき

2018/05/16 07:37:28
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何度も何度も飽きることもなく、性懲りもなく繰り返しているのだから、そろそろ慣れてもいい頃ではあると思うのですけれど。
「今日はさ、里の外まで行ってみようよ!」
それでも私は、少年の言葉を聞いて、ああ遂にこの日が来てしまったのかと嘆かざるを得ないのでした。

「この道は人通りが少ないよね」
「でもそれ、外までは繋がってないじゃんか」
なんだったかの大きな店の、そのお屋敷の裏庭で。
里の子供たちは集まって、地図を広げて、作戦会議をしているのでした。
集まっているのは十人弱。私は物覚えが悪いので一人も名前を知りませんが、いつも仲良しのやんちゃグループです。
もちろん私が口出ししたらみんなの興が削がれるので、私はあくまで座ってにこにこしているだけです。最初のころこそみんな不思議な顔をしていたのですが、今ではもうみんなすっかり慣れてしまっていますから、なにも問題はありません。
「だからこれを伝って大通りの傍まで行ってさ」
「遠回りじゃん」
「分かんないかなあ、攪乱だよ攪乱」
「それよりは短めのルート通った方がいいと思うんだけど」
会議を引っ張っているのは、リーダー格の2人の少年。口下手な方と、単純な方。
2人とも頭が回るのは間違いないんですけど、でもやっぱり発想は子供だなあというのが正直なところで。
でもちょっと間の抜けたこんな会話も今日でとうとう見納めかあ、なんて思うと、ちょっと残念な気分で。
「おねーちゃん、今日はずいぶん浮かない顔だけどさ、何かあったの?」
そんなことを思っているのが顔に出ていたのか、少年の1人が私に心配そうに声をかけてきたのでした。
「まさか、怖気づいちゃった?」
前言撤回、からかうように声をかけてきたのでした。
「ううん、そんなことはないよ」
当然です。里の外なんて私はいつも行ってますし、それにそんなところより旧地獄の方がずっと治安は悪いです。
ただ、ここで本当のことを言ったって起こることは変わらないのです。むしろずっと悪いことになるだけです。
「ちょっと元気でいいなあなんて思っただけ」
だから、私はそんなことを言って本心をごまかすのでした。
「おねーちゃんたらおばあちゃんみたいなことを言うのね、そんなんじゃ心がよぼよぼになっちゃうよ」
笑われましたけど。


結局のところ、今回は遠回りするルートに決まりました。
実際、私がいるからには堂々と大通りの真ん中を突っ切って行っても気づかれることなどないのですが、勿論それは私だけの秘密。
子供たちはいたって真面目に息をひそめて物陰に隠れ、人の途切れるのを待っています。
「大丈夫かな・・・」
そう不安げに漏らしたのは、最年少の子だったかしら。
不安になるのはわかりますが、信じている限りは大丈夫。
そんな言葉を内に秘めつつ、私は「大丈夫だよ」と優しく声をかけました。
そのままじっとすること数分。
「今だ!」
リーダー格の少年のささやき声に合わせて、ばっと門を飛び出す子供たち。
入口の見張りの人は私たちに一瞥もくれることはなく。
「ほら急いで離れるよ!」
そのことに不思議そうな顔をする年少の子たちを年長の子たちが叱咤しながら、私たちは里を飛び出したのでした。


里を飛び出して二十分ほど。
林に駆け込んで一息ついて、さてこれからどうするかという話になって。
とりあえず適当に散策しようという、いかにも子供らしい無計画な結論に達して。
年少の子たちに合わせ、私たちはのんびり歩きまわっているのでした。
「おねーちゃん、また例のよく分からない話してよ」
作戦会議中に私を煽ってきた少年が言いました。
なにやら子供たちにとっては私の話はなかなか刺激的なようで、よくこうして話を聞かせてとせがまれるのです。
「んーじゃあ、どんな話がいいとかのリクエストはある?」
「妖怪のはなし!」
答えたのはリーダー格の単純な方。
周囲から「勘弁してよ」とブーイングが聞こえますが、少年はどこ吹く風。「雰囲気が出ていいじゃん」などと自慢げですらあります。
「じゃあ、今日は妖怪の話の中でも、いちばん抽象的なはなしをしようかな」
「ちゅうしょうてき?」
「難しいってこと」
まあ、かなりかみ砕いて話すんですけどね。
その言葉は、子供たちのきらきらした目をかき消さないように飲み込んで。
私はゆっくり、話し始めるのでした。


「まずは問題。妖怪ってどうやって生まれると思う?」
「女性のおまた」
顔を赤くした隣の少女から頭をはたかれた少年に、笑いながら私は言葉を返します。
「ませてるね。でも残念、不正解」
「じゃあ、卵?」
「違うなー。正解はね、人の心」
私の言葉に困惑した表情を返す子供たちに、私は言葉を続けます。
「山に向かって大声を出すと、声が返ってくるでしょ?それを昔の人が、妖怪の仕業かも?って思った瞬間に、やまびこって妖怪が生まれたの」
「あ、それなら聞いたことがあるかも」
お話をねだってきた少年がそう声を上げたのに頷いて、博識ねと声をかけます。
「でも、俺が聞いたときは、言葉って言われた気がするんだけど」
「言葉も心も似たようなものよ。言葉は心から漏れ、心は言葉で定着する。だからどちらも正解」
私はさらに話を続けます。
「それで、妖怪が生じさせるのが人の心なら、妖怪を成長させるのも」
「人の心?」
そう答えたのは、リーダー格の単純な方でした。
「御名答。だから天狗は子供を攫うし、河童は尻子玉を抜きたがるし、定期的に妖怪の噂が流行るのよ」
へーとざわめきが広がったところで、私は手を叩いて、今回のお話はこれでおしまいと締めくくったのでした。


私の話が終わった後も、子供たちの散策は続きました。
途中でいきなり鬼ごっこが始まったり、少し座ってお菓子を食べたり、はたまたこのまえ貸本屋に入った新しい小説について話したり。
その様子はまるで里の中にいるときと変わりなく、その中に私が混ざれていることが心地よく、そしてだからこそもうすぐ訪れる破局を考えると余計に辛くてたまらないのでした。


里を出てから2時間ほど。
さすがに年長の子供たちも疲れてきたころに、突然林が開け、目の前に草原が広がりました。
疲れていてもやはり子供は正直なもので、みんな思わず駆け出して、転げ回って、そして誰ともなしにけらけらと笑い出しました。
それを見て私はああ子供はやっぱり見ていて楽しいなあなんて思いましたが、よくよく考えてみると私も子供たちと一緒になって駆け出し、転げ回り、そしてけらけらと笑っていたのですから、まったくひとごとではないのでした。


よく分からないハイテンションも収まったところで、リーダー格の口下手な方が、今回はここいらで折り返さないかと提案しました。
「でもまだ日は高いよ?」
「問題はそこじゃなくて、えーっと」
「あ、もしかして年少の子たちのこと?」
「そう。これ以上行ったら厳しいんじゃないかなって」
「確かに」
確かにその通りなのでした。
いくら子供は元気とはいえ、年少の子たちは体力もそこまで有り余っているわけではありません。
現に1人などはすでにふらふらになっていますし、このままもう少しばかり進んだならば、帰りの途中で脱落してしまうやもしれません。
「だからこのあたりでしばらく遊んで、そしたら来た道を戻ろう」
その2人のリーダーの提案に、皆揃って賛同しました。

そしてそれからすぐ、私の憂いていたことが起こったのでした。


最初は微かな音でした。
それは少しづつ音量を増していき、それとともに地面が揺れていることもだんだんと感じられてくるのでした。
なんだろうと子供たちは顔を見合わせ、そして唯一原因を察した私はそっとため息をつきました。
「みんな、ちょっと集まってくれる?」
私の言葉に、皆きょとんとした顔を私の方へ向けました。
「何をいきなり」
リーダー格の口下手な方が、近くに座りつつ尋ねました。
あまり深い意味はありません。ただ集まってくれた方が巻き込む可能性も少ないし、狙いもつけやすいのです。
などと言っても余計に混乱させるだけですから、代わりに私は、姿を現した地響きの元凶を指さしました。
「・・・っ!?」
子供たちの息を呑む声が聞こえました。
それも当然です。それは、彼ら彼女らにとって、初めて見る妖怪らしい妖怪なのですから。


それは、猪でした。
それはしかし、猪と呼ぶには些か大きすぎましたし、また明らかにその牙は殺傷を目的として歪に変化していました。
それは、その化け猪は、その人間の恐怖から生まれた動物のような妖怪は、子供たちの騒ぎ声を敏感に察知して、これを襲わんとしてこちらへ駆けてきたのでした。


「に、逃げ、」
「逃げられると思う?」
私は震える少年の言葉に割り込みました。
「あんなに足が速いものから、逃げ切れるとは思えないなー」
ひっと悲鳴をかみ殺した子供たちに、言葉選びが下手でごめんね、言い方が下手でごめんね、怖がらせちゃってごめんねなんて心の中で呟きながら、私は微笑みを投げかけました。
「大丈夫、みんなは私が守るから」
そう言いながら、私は巾着袋を開きます。
そこから出てきたのは青紫色の球体―――私の第三の目(サードアイ)
閉じた瞳からコードを展開して、四肢に接続すれば、それが私の本来の姿。

驚いた様子の子供たちから軽く目を逸らしながら、私は袖先から勢いよく、薔薇の蔓を伸ばします。


―――「サブタレニアンローズ」―――


左手の蔓からは青い薔薇。
右手の蔓からは赤い薔薇。
二房の蔓は互いに絡んでは離れ、絡んでは離れ、螺旋を描いて化け猪に殺到します。
そして先端から薔薇の花が開いては、すぐに枯れることを繰り返し。
避ける暇もなく蔓に縛られ、開花の激しい殴打をもろに食らった化け猪は、すぐにその動きを止めることになったのでした。


「・・・あのさ、おねーちゃんって、いったい何者?」
おずおずと私に尋ねてきたのは、リーダー格の、単純な方の少年でした。
「私は、古明地こいし」
この会話は、何度も何度も繰り返しているのに、未だに舌になじみません。
必ず私の覚えていたくもない記憶と結び付けられているから、無意識に忌避しているのかもしれないなんてひどくどうでもいいことを考えながら、私は言葉を紡ぎました。
眼を閉じたサトリ(さとらず)大人に見えない不思議な友達(イマジナリーフレンド)。座敷童なんて呼ばれたこともあったっけ」
「ってことは」
「そう、私は実は妖怪なの。今まで隠していてごめんね」
リーダー格の、口下手な方の少年の言葉を遮り、私は顔を帽子で隠してそう言いました。


しばし、沈黙が降りました。


これも、毎回繰り返していること。


こうしてこの里で子供たちと遊ぶようになってから、たぶんだいたい、はや百年。
これまで様々な子供たちの、様々なグループに混ぜてもらってきましたが、その別れは大抵いつも版を押したようにそっくりでした。


外に行こうという話になって。
途中で妖怪に襲われて。
それを私が助けに入って。
私の正体を教えて。
そして、訣別。


「殺さないで、許して、里に返して」と懇願されたこと。
悲鳴を残して、死に物狂いで逃げ帰られてしまったこと。
「お前のせいで」と叫ばれたこと。
石を投げつけられたこと。
「偽物」と罵られたこと。


その度に私は傷ついて、そして相手が苦しんでいることを悲しんで、そして彼ら彼女らが二度と私で傷つかないように、私にまつわる記憶をすべて無意識の底へと沈めるのでした。


ですから、この静寂は私にとって、死刑宣告を待つのにも等しい、辛く苦しい時間だったのでした。


だから。


「で、でもおねーちゃんは、いい妖怪なんでしょ?」

「・・・え?」


その言葉の意味をすぐさま理解できなかったのは、当然のことでした。


ぽかんとしている私に対して、少年はさらに言葉を紡ぎました。
「だって、俺たちを助けてくれたし、いろいろ教えてくれたし、それにほら、里に自由に出入りすることができるんだし、・・・」
里での作戦会議で私をからかってきていたその少年は、最初の勢いこそ尻すぼみになりながらも、私をしっかりと見つながら言いました。
「だから、俺たちを食べたりしないでしょ?」
「・・・ふふ」
「な、なんで笑うんだよ」
「人を食べなければいい妖怪なの?それだったら、恥ずかしい秘密を広めてしまう意地悪なサトリ妖怪だっていい妖怪になっちゃうけれど」
「うっ」
思わず茶々をいれてみると、どうやら失念していたらしく、少年は見事に渋い顔になりました。
「冗談よ。大丈夫、私は妖精よりも無害だから」
そう言って皆を見渡すと、全員ほっと安堵した様子で、でも一番安心したのは恐らく私なのでしょう。
「だから、これからもこのグループに混ぜてもらっていい?」
「もちろん!」
どうやら私は、もうしばらくのあいだ、この子供たちと遊んでいられるようでした。
こいしの日遅刻組です。どうぞ笑ってやってください。メモ帳が落ちてデータが半分ふっとんだ上、そもそも着手したのが昨日の昼だったので・・・。
ほんとはもうちょっと、帰った後の子供たちの会話とか、なぜ今回だけ受け入れてもらえたのかとかいろいろ書こうとしたんですけどちょっとうまく入らなかったので今回は断念です。くやしい。
サク_ウマ
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コメント



0.350簡易評価
5.100南条削除
面白かったです
剣呑な雰囲気でしたが思いの外良い話にまとまっていて良かったです
6.70仲村アペンド削除
前半の牧歌的だけどどこか悲劇を思わせる雰囲気が好みでした。それだけに後半が駆け足気味だったのは少し残念です。
7.60KoCyan64削除
こいしが言葉を紡ぐシーンと妖怪の話を最後に繋げるシーンは良いと思いました。
しかし、その割にあっさり子供達が受け入れてしまったので、その辺にもっと動機付けが欲しいと思いました。
次回作、楽しみにしています。それと文章を書くならEverNoteを使うと良いでしょう。
8.60スベスベマンジュウガニ削除
良かったです
9.70奇声を発する程度の能力削除
良かったです
12.60名前が無い程度の能力削除
後半が弱いけどよかった
13.100とらねこ削除
そんな超高速でここまで仕上げるとは。人と妖怪の関係が穏やかになっていくというのは誰かの大改革とかじゃなく、こういう小さな変化の積み重ねなんでしょうね。
こいしの重い過去を想起させながら、ほっこりしたラストが良かったです。