Coolier - 新生・東方創想話

【贈り物に愛を込めて】

2018/05/13 17:55:38
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* * *
咲夜が部屋を出ていってからしばらくすると、レミリアはベルを二三度打ち鳴らした。
甲高い陶器の音が響くと、ややあってから、四度規則正しいノック音がした。
「お嬢様。お呼びでございましょうか?」
「ああ、入ってくれ」
一声かけると、すぐに一人のメイドが部屋に入ってきた。肩まで伸びた濡れ羽色の髪に、緑青のような瞳を持つメイドだ。
人間で言えば二十代の半ばといった所だが、背中の黒い翼が彼女が人外である事を如実に示していた。
「仕事が一区切りついたから、何か落ち着けるお茶を淹れてくれないか?」
「かしこまりました。すぐに用意いたします」
そつなくメイドは一礼をすると、そのまま無駄口も挟まず部屋を出ようとした。
「――そういえば、例の幻想郷で動きがあったようだ」
退出しようとしたメイドを、レミリアは何気なく呼び止めた。
「動き、でございますか?」
「ああ。例の管理者――巫女が代替わりしたそうだ」
レミリアはそう言うと、ヒラヒラと今まで読んでいた書類を摘み上げた。
「おまけにそいつは、咲夜とそう変わらないぐらいの子供だっていうじゃないか」
その言葉に、メイドはわずかに眉を上げた。
「……それは幼いですね。彼の地では、そこまで人材不足なのでしょうか」
「あるいは余程規格外な代物なのか」
バサリと書類を放り出した。
パチュリーを紅魔館に招き入れた頃から、幻想郷という地の噂は聴いていた。長い事今いる世界とは隔絶した世界に住む隠れ里。
そこでは長年妖怪による奇妙な平和が保たれてきたのだという。
「……まあ、いずれにしても、今は様子見だな。肝心のパチェが動けそうにないからな」
「では、他の者にもそのように伝えます」
スッと一礼したメイドに、書類を片付けるに頼むと、レミリアは椅子に凭れ掛かった。
「そういえば、さっき咲夜が来たんだ」
「咲夜が、ですか?」
不意な話だったのだろう。書類を片付けていたメイドの手が束の間止まった。
「……申し訳ございません。執務の妨げになられたのでは?」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるメイドに、レミリアは苦笑を浮かべた。
このメイドは優秀ではあったが、やや頭が固いところがあるのが欠点だった。
「いや。寧ろちょうどいい息抜きになったよ。その花も活けてきてくれたんだ」
「ツリーマロウの花ですか」
メイドは思案するように花瓶に目を凝らしていたが、やがて閃いた様に目を見開かせた。
「そういえば、今日はそのような日でございましたね」
「ついつい人間の習慣は忘れがちになるけどな」
「何やら、感慨深いですね」
メイドの言葉には答えず、レミリアは暦見を眺めた。
不意に初めて咲夜と出会った夜の日の事が頭を過った。
その当時、まだ十六夜咲夜という名ではなかった少女は、その幼い身には過酷なほどの迫害を受けていた。
人間でありながら、人ならざる能力を持っていたが故に、周囲からは化け物としか見做されてこなかったからだ。
紅魔館に迎え入れたばかりの頃の、十足らずの少女には似つかわしくないほどの鬱屈した暗い眼差しは今でもはっきり思い出せる。
ツリーマロウの花に目を向ける。
紫の小柄な花には、薔薇のような派手さはない。だが、素朴な中にも凛とする姿には好ましいものがあった。

――レミリアさま。

「お嬢様?」
「……私は、あの子の名付け親だからな」
ポツリとそう呟くと、メイドは束の間困惑したような表情を浮かべた。が、すぐに答えを求めるのをやめて、元の静謐な従者のそれに立ち返った。
束ねた書類を携えると、主人であるレミリアに一礼した。
「お嬢様。すぐにお茶をお持ちいたしますので今しばらくお待ちください」
「ああ、頼むよ」
「――咲夜の焼き菓子によく合う物をお淹れいたしますね」
「お前の分も、焼いておいてくれたようだから、一緒にどうだ?」
レミリアの言葉に、初めてメイドの口角が持ち上がった。
「恐悦でございます。お嬢様」
それだけ告げると、メイドは音もなく部屋を出ていった。
再びレミリア一人になって部屋が静まり返った。

そっと花に手を伸ばし、そっと触れた。
揺らりゆらりと、微かに揺れてそっと手を引いた。
少しでも力を込めれば壊れてしまいそうな程華奢な姿なのに、それでもしっかりと息づいている。
レミリアはその花を、――咲夜の想いが込められたそれを、長い事目を逸らさずに見つめ続けた。

FIN

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