Coolier - 新生・東方創想話

こいしちゃんのデート

2018/05/03 15:00:15
最終更新
サイズ
28.08KB
ページ数
1
閲覧数
658
評価数
1/2
POINT
90
Rate
7.67

分類タグ

「おーーい!! こいしーーーーっ!!!!」

早朝。べらぼう極まる大声がこいしの部屋に飛び込んだ。

「来た!」
その大声を耳に受け、こいしはちょこまか動き出す。
髪をブラシでぐいぐい梳かし、服を隅まできちんと正し、ふわりと鏡に一回転。続けてナイフとランプとふた切れのパンを、肩掛け鞄に詰め込んで、最後に帽子をしっかり被る。
これで出掛ける準備は万端。

「行ってきまーす!」

こいしは部屋を飛び出した。


…………


…………


玄関扉をドカンと開けると外にはこころが立っていた。
「えへへ、おまたせ」
こいしは扉を閉めながら、ニィと歯を見せ笑いかける。
「相変わらず呑気なやつめ……。ここまで大変だったんだぞ」
悪びれるそぶりも見せない彼女に、こころは舌打ちをする。かなりイライラしているようだった。
「いいじゃない。いっぺんうちまで迎えに来てほしかったの。夢が叶ったわー」
二人は今日、地霊殿で会う約束をしていた。これからどこかにお出掛けするのだ。
こいしはそのことをデートと言って冗談ぽく笑っている。
「ふん……」
暇だから付き合っただけだと言うこころも、機嫌は悪いがちゃんとここに来たし、今もいる。
二人ともお出掛けするのが好きだった。
「で、どこ行くの?」
「あのね、大ナマズが釣れるって噂を聞いたの」
「…………」
答えになっていないこいしの言葉に、こころは被る面が見つからなかった。ここまでの疲れをどっと感じて肩を落とす。
「いや……どこでか言ってよ……」
「人里よー」
「人里でナマズが釣れるの!?」
「何言ってるの? ナマズが釣れるのは湖よー」
「クソッ!」
こころはイラつきのあまり地霊殿の壁を蹴っ飛ばした。
「こーんなに大きいナマズなんだって。もしも釣れたらね、ナマズ丼にして食べるの」
そんなことは気にもせず、こいしは目をまん丸に見開き両手を広げ、嬉しそうに笑っている。
彼女の中で既にデートプランは完成しているようだ。
「えっ? ナマズ丼かあ……じゅるり」
ナマズ丼。そのフレーズでこころはコロッと一変、美味なる想像によだれを垂らす。
「俄然やる気が出てきた。その湖とやらへ案内しろ」
「じゃあ出発ー」

ここまでの苦労はどこへやら。こころはこいしに連れられて、ルンルン気分で地上への道を辿っていった。


…………


…………


…………


「まずは釣竿がないと話にならないわ」

釣りをするためには釣竿を手に入れなくてはならない。その為にこいし達はある場所へ向かっていた。
道中、地底の屋台で買い食いしたり、地上で見かけた古道具屋に立ち寄ってみたりして、時刻は既に昼過ぎ。

「……おい、ここがナマズの釣れる湖なんだろ? どこなんだ? 釣竿を借りれる場所ってのは」
こころはこいしに問い掛ける。
結局二人が着いたのは本来の目的地である"霧の湖"だった。
濃厚な霧が辺りに立ち込めていて、一見釣竿屋も釣り堀も見当たらない。
「湖の浮き島にあるの。霧を抜けるからはぐれないでね」
「そういうことか。判った」

二人は手を繋ぎ、霧中に消えた。


…………


…………


「なんだこの釣竿屋!? とんでもなくでけェぞ!? それに赤ェ!」

霧を抜けた途端、こころが声を上げた。
辿り着いた場所は紅魔館。彼女は見るのが初めてだった。とにかくでかい地霊殿とはまた違う、色彩の迫力にぶったまげる。
「釣竿屋さんってわけじゃないよー。ここはね、紅魔館っておやし――
「面白そうだ。入ってみよう!」
ワクワクに駆られたこころは飛びつくように門を開け、館の敷地に踏み込んでいく。
「あーん待ってよー」

二人の侵入を止めるものはいなかった。

「こんちはー……おおー」
挨拶とともに扉を開け、館の中へ。
だが外観以上に紅く煌びやかなエントランスホールがこころを迎えるだけで、応接はなかった。
「あ、誰かいるわ」
すると、後から来たこいしが、ホールの奥にある二人を見つけた。
「ほんとだ。おーい!」
こころは声を上げて呼び掛ける。

「……!」
「!」

銀髪の女性と赤髪の女性だった。
何かの相談事をしていたらしい二人は、こころ達を見て一瞬ためらうと、再度言葉を交わしてから別々に動き出した。
赤髪の女性は館の奥へ。
銀髪の女性は、こころ達の方へ、二人の前までやってくる。
その表情に敵意はないが、どこか強張っていて、余裕がなさそうだった。

「……こんにちは。私はここのメイド長、十六夜咲夜。貴方達は?」
声色もどこか暗い。そう感じていたこころを差し置き、まずこいしが咲夜に応じた。
「こんにちは。突然お邪魔してすみません。私は古明地こいし、今日は釣竿を貸してもらいたくて遥々来ました」
柔らかなお辞儀をして、微笑みかける。
「え、釣竿……? あったかしら……」
存外丁寧な客人に、咲夜の表情はいくらか和らいだ。とはいえ余裕は見せぬまま、視線を落として考え込む。
「…………」
そして決断は下された。
彼女は屈み、こいしに目線を合わせてから話し始めた。
「……ごめんね、せっかく来てくれたのに悪いけど、他を当たってもらえる?」
「えー、どうしてー?」
悲しそうな顔をするこいしに、咲夜も困った様子で答える。
「ちょっとしたすれ違い、なのかしらね……? 今この館は危険なの」
「ふーん」
「貴方達を危ない目に遭わせる訳にはいかないし、私達もトラブルに対処しなくてはいけない。正直倉庫を探している余裕もないのよ」
「そうなんだー。どうしよう?」
「決まってる。ここまで来て引き返す馬鹿がいるか。行くぞこいしっ」
そこはやはり妖怪。言葉での警告にはちっともひるまず、またもやこころが先行した。こいしの腕をぐいっと引っ張り、廊下に繋がる扉へと向かっていく。
「わあ、強引なんだからー」
「話していても時間の無駄だ。あいつ、もとより私達を入れるつもりなんかないぞ」
「そうなの?」

「こ、こらっ、そっちはだめ!」
すると、咲夜が声をあげた。
こころは無視して廊下に飛び出る。
「ちょっと……! 止まりなさい!」
今度は青ざめる咲夜。そしてすぐさまナイフを投げた。
「うわっ!? 危ねェ! ナイフだ!」
真っ直ぐに飛ぶナイフは、走るこころの足元へ、狙い通りに突き刺さる。
「それ以上行ってはダメよ! いいわね!」
これは咲夜の警告だった。だが、こころに対しては逆効果。
「あそこだ! あの部屋に避難するぞ!」
「あはは、スリルあるねー」
こころは止まることなく、楽しそうに笑っているこいしを引っ張ってある一室に逃げ込んでいった。

「ま、待ちなさいったらーっ!!!」
咲夜の切羽詰まった声が廊下に響いた。


…………


部屋に飛び込んだこころとこいしは、即座に扉を閉め、その両サイドへと張り付く。
「ふう。さてこいし、ここからどうする?」
「決まってるわ、邪魔者は潰すだけよ。あのお姉さんが入ってきたら私のナイフで刺し殺すの。あのお姉さんは自分の得物で胸を抉られて死ぬの」
こいしはナイフを装備して、得意げに笑ってみせた。
「ふっふっふ、それはいい」
笑い返すこころ。
二人の待ち伏せ作戦が始まった。息を潜め、咲夜の訪室をじっと待つ。

だが、待つこと数分。
「あれー? あのお姉さん、追ってこないわ」
作戦は中止となった。
こいしは残念そうに口を尖らせ、ナイフの切っ先をツンツンいじる。
「拍子抜けだなぁ。まあいいや」
こころは早速探索に。ぐるっと部屋を見回す。

「ん? なんだ? ここは地下室に繋がっていたのか」
そしてすぐに、地下室への扉を発見した。

「ほんとね。なにがあるのかな?」
階段を降りた先にあるその扉は、僅かばかり開いていた。隙間から見えるのは真っ黒な闇だけで、一寸先も見通すことはできない。
「入ってみよう、倉庫かもしれない」
「探検みたいで楽しいね」
とはいえただの闇を妖怪が恐怖するはずもなく、こころは数段飛ばしで階段を駆け降り、扉を開ける。
こいしもその後を楽しげなスキップを踏みながらついていった。

二人は闇に消えた。


…………


真っ暗な通路を壁伝いに進むと、すぐにまた扉があった。だがそこを開けても闇が続いていた。
「うーん……流石に暗いなぁ」
こころがぼやいた。
ここまで明かりはなく、この先にもありそうになかった。これでは釣竿探しもままならない。
「そういえばランプがあったわ。ちょっと待っててね」
こいしは鞄を漁り始めた。こころもその方に向いて、点灯を待つ。

そして、ランプが灯った。
「えへへ、どう? 明るくなったでしょ」
灯った明かりを嬉しそうに眺めるこいしを見て、こころも礼を言いつつ向き直る。
「うん、ありがと――

四体の悪魔が、すぐ目の前にいた。

「なっ!? ――うげぁっ!!!」
次の瞬間、こころとこいしの首に、長くいびつな鉄の杖が突き込まれた。
「動くな」
悪魔はそう言った。
「うぐ……!」
振り向きざまに受けたこころは、躱すことができなかった。杖で壁に押し付けられ、身動きが取れなくなる。
「あんたもよ」
こいしは無意識の超反応を見せ、間一髪杖を防ぎ止めていた。だがもう一体の悪魔から同じように差し向けられると、大人しくナイフを下ろした。
「ちっ、ちくしょう! 離せ!」
こころは首に食い込んだ杖を掴み、引き離そうと必死に力む。だが信じられないほど強い力で押し返され、もがけばもがくほどメキメキと潰れていく。
「うげあああああ!?!?」

「…………」
抵抗をやめたこいしは、杖を突き付けられたまま、ギョロギョロと観察されている。
「あんた達何者? よくここに来れたわね」
四体の悪魔は全員、全く同じ姿をしていた。こころとこいしを抑える三体と、観ている一体。
「……妖怪ね? ちょうど良かった。私はフランドール。今すごくムシャクシャしてるの。ストレス解消のために、遊びに付き合ってくれない?」
ここは倉庫なんかではなく、吸血鬼フランドール・スカーレットの部屋だった。迂闊に踏み入った二人は、彼女の遊び相手に任命される。
「こんにちわフランドール。私は古明地こいしよ。 遊びって、なにをしたらいいの?」
こいしは臆することなく返した。杖の力が少し緩む。
「よろしくこいし。そうね、狂うくらいに激しくて、刺激的な弾幕ごっ――
「クソッ! やめろってのに! 私達は遊んでるヒマなんかないんだ!」
首を半分潰されてても、こころはぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる。
それが、フランドールの反感を買った。
「……貴方、うるさいわ」
彼女はさらに力を込める。こころの首にめり込んでいた杖が、炎を纏い、レーヴァテインに変化した。
「ぎゃああああああ!?」
「気が変わったわ。貴方をいじめて遊ぶことにする」
「そ、そんなァ!」
フランドールの矛先は、完全にこころへ向いた。


…………


…………


「変わったスカートね」
「ひいいいい! 足がもげるうううう!」

フランドールの興味が向くままに、こころは弄ばれていた。体をフランドールの分身に押さえられ、身動きが取れない状態で。
隅っこに追いやられたこいしはそれを黙って眺めている。

「やめてええええ!!」
今のこころはスカートを剥ぐられ、片足を限界まで引き伸ばされている真っ最中。
「痛いいいいいい!!!」
「ぎゃーぎゃーうるさいわよ。いい加減っ……」
やたら大きい悲鳴がフランドールの神経を逆撫でする。
その悲鳴を断ち切るように、彼女の赤く尖った爪が、白くぷっくりとしたこころの下っ腹に振り下ろされた。
バヅンと鈍い音が響き、肉が裂ける。
「嫌アアアアアアアアア!!!!」
中まで達した傷口から、青い霊気が一気に噴き出た。
「へえ? 血が出ないのね。どうなってるのかしら」
「やめてえええええ!! 体が千切れちゃうよおおおお!!」
興味を覚えたフランドールは止まらない。爪は容赦無く振り下ろされる。
腹から侵攻した爪は、とうとう背にまで達した。
「アアアア……そんなァ……わ、私の脚がァァ……私の下半身がなくなっちゃったァァ…………」
悲鳴にやかましさが失せた。
「やっと静かになったわね」
満足したフランドールは切り裂いた下半身を持ち上げ、何食わぬ顔で観察している。
「あああ~私の下半身ンン………」
こころは泣くような声を出しながら、項垂れ呟いている。
「貴方は幽霊なの? それにしてはやたらイキイキしてるし、血色もいいし……」
「う~~下半身~……下半身~~……」
ヨヨヨと泣き言を漏らし続けているこころ。フランドールの言葉はまるで届いていないようだ。
「聞いてるの?」
それがまた気に障ったフランドールは、垂れた頭を掴み上げようと手を伸ばした。瞬間――

「……喰らってくたばれ!!!」

――こころが叫んだ。
フランドールの手にあった下半身が、イキナリ爆発した。
「キャアアアアアア!?」
至近距離で受けたフランドールはたまらず仰け反り、顔面をおさえながら倒れ込む。同時に彼女の分身も掻き消えた。
「わはははははは! 作戦大成功!」
それを見たこころは上機嫌に上半身で大笑い。
さらに下腹部から溢れ出る霊気が、腰を、脚を、スカートを形成し、元の姿を修復していく。
「大丈夫なの?」
「どうってことない。早くここを出よう!」
戻ったこころはこいしを連れて、部屋の出口へ一目散。

「ガアアアアアアアアアア!!!!」

そんな二人の背中を吸血鬼の咆哮が突いて押した。
「アハハ怒ってる怒ってる」
「ほんとほんと、やーんこわーい」
ただ二人ともそれくらいではびびらない。
こころに至っては、フランドールに向いてアッカンベーを返すほど。
「ウガァッ!!!」
そこへマジギレ吸血鬼が振り下ろす、紅蓮の極太レーヴァテインが。
「えっ?」
こころは避ける間もなく押し潰れる。
「ぐわああああーーッ!?」
一瞬で全身がひしゃげ、激しくバウンドした。
「ひ~~~っ!」
硬く冷たい床にブッ倒れ、手負いミミズのようにのたうちまわる。
辛うじてお面は無傷だったが、かなりのダメージを受けたようだ。
「大丈夫?」
「痛いよぅ……」
「こんなとこ早く出て釣竿探しましょ」
「う、うんっ」
だが火属性は弱点でなかったため、なんとか耐えることができた。
咄嗟に壁に張り付いて難を逃れていたこいしに手を引かれ、今度は地上への出口を目指す。

「待てええええーーーーッ!!!!」

フランドールの怒りに満ちた叫びが、地下室に響き渡った。


…………


…………


「その触手、はみ出てない……? っ」
「大丈夫よ。静かにしないと見つかっちゃう……」


二人は地下室近くの部屋に逃げ、クローゼットにぎゅうぎゅう詰めになって隠れていた。

「…………」「っふ…………」

そうすること数分。なんとかフランドールを撒くことができたようだ。
「ドキドキしたわー。助かったねー」
「く…………」
だがこいしを抱え込んでいるこころは、自分の顔にコチョコチョ当たるサードアイの触手で、もう頭がいっぱいだった。
「ああもう! くすぐったいぞっ」
辛抱ならず、触手が伸びているサードアイをひっ掴み、ぐにぐにいじる。
「あっ、やめてよ。そこ触んないで」
こいしはイヤイヤと声を出し、振りほどこうともがき出す。だが狭いクローゼットの中、しかも抱き締められた状態ではそうもいかない。
「そこってどこのこと? ここか?」
しめたと思ったこころは手を止めない。今度はサードアイの瞼が伸ばされる。
「ちょっとー」
「あははは、お前の嫌がる顔が見にくくて残念だなー」
「やめろって言ってんのよー!」
こいしはナイフを振り上げ、固ーい柄でこころの鼻っ面を叩き潰した。
「うっぎゃあ!! や、やったな!!!」
「やったわ。今度はキレイに削ぎ取ってあげる」
「上等だ! 目玉をほじくってやる!」

史上初、密着状態での決闘が、突如始まった。


…………


――外から見て、ゴソゴソ音のしていたクローゼットは、イキナリ爆散した。


「死ね~! このやろう! 死ねえええ!」
とっ散らかった破片の中で、こいしこころが取っ組み合う。激しく音を立てながら、床を転げまわっている。
戦況は、こころの方がやや劣勢。触手で全身締め付けられ、ナイフでドスドス滅多刺し。
「やろぉおっ! 殺してやる! 叩っ殺してやる! 喰ってやるっ!」
負けじとこいしの頭をロックして、ひたすらパンチを叩っ込む。
「あーん!」
髪も衣服もみんな乱してもみくちゃになっていると、何かにぶつかり二人は止まる。
「!?」

そこには、紅魔館の当主レミリア・スカーレットがいた。
「お前達か…………」
顔を険しく、二人を見下ろしている。

「吸血鬼……!?」
これだけ(こころが)叫んで暴れれば気付かれるのも当然である。
「く、くそ……こいし、やれるか?」
「私はへっちゃらよ。貴方の方こそ大丈夫なの?」
「コウモリを追い払うくらいの力は残ってる……」
呉越同舟共同戦線。二人は並んでレミリアと向かい合った。
「…………」
対するレミリアは、鼻でため息を吐くと、ばつが悪そうに言った。
「あー……その、なんだ、すまなかったな、私の妹が。今日は虫の居所が悪くてね……かなり」
そういう彼女も、ひどくやつれた顔をしていて、機嫌はかなり悪そうだった。とはいえこころ達に当たるつもりはないらしい。
「釣竿を借りたいと聞いた。二人分でいいか? 用意させるから、エントランスで待っててくれ……」
ぽかんと立っている二人に、思ってもみない言葉が告げれた。

「「…………」」
二人は顔を見合わせる。

「「やったー!!」」
そして手を取り合い、喜びに踊った。


…………


「釣竿を手に入れたぞ!!!」
「わーい」
釣竿をいっぱいに掲げ、歓声を上げるこころ。その喜びぶりたるや、釣竿に後光が差し、晴々しいファンファーレが流れてきそうなほど。
こいしも釣竿を大事そうに抱き締めルンルン笑顔。
「よし早速湖に行って釣竿を使いナマズを亡き者にしようぜ」
「うん! 行こいこー!」

ついに二人は出発進行。
ナマズを釣りに、湖のほとりに向かうのだった。

…………


…………


「…………」
「…………」

二人は岸辺で並んで座る。
硬くなったパンをエサに、ヒットを待っていた。
「くそー……遅いなぁ……ナマズは何モタモタしてるんだ……」
だが三十分もしないうちにこころがぼやく。据わった瞳は浮き一点。開けっ放しの口からは、ブツブツ言葉が漏れている。
「早くこい……早くこい……」
そんなことをしていても、獲物がかかるはずもなかった。

「ひょっとして釣り糸垂らせば釣れるもんだと思ってた? そんな簡単にはいかないよ」
隣のこいしは呆れ顔。横目でこころをたしなめる。
「むむむむむ……」
「短気なんだから。釣りってのは忍耐なのよー」
「…………大体本当に釣れるんだろうな?」
「本当だと思うよ? 聞いたもん」
「どうだか……。もし釣れなかったら、お前をどんぶりにして喰ってやるから」
「あはは、無理よ。だって私、貴方より強いもん」
「なんだとぉ!? 試してみるか!?!?」
釣りで溜まった鬱憤がこいしの言葉で爆発した。
プッツンこころは立ち上がり、バケツを蹴って飛び上がる。
「もー、せっかち。なら貴方の死体をバラバラに砕いてナマズのエサにするわ。そうすればきっとすぐに釣れるはずよ!」
湖の岸辺で、デートプランにはない予定外の決闘が始まろうとしていた。
「…………」
「…………」
二人は睨み合う。もっともこいしはいつも通りの様子で立っているだけ。
一方こころは大地を踏みしめ大股に、強く力んで構えをとる。
「はあっ!!!」
そして掛け声と同時に、全身から青々とした霊気が溢れ出た。その奔流は滾り、盛り、炎のように体を包んでいる。
「すごいすごい。どこまでいくかな?」
「ふん……! 今のうちにそうやってニヤニヤ笑っていろ、後悔させてやるぞ…………ぬうううううっ!」
こころのパワーはグングン高まっていく。
周囲の草木はざわざわ揺れ、砂埃が舞い、湖にも波紋が走る。
「わわわ」
ついには地面まで揺れ動き、重々しい地響きが轟く。
「うおりゃーーーっ!!!」
こころの一際大きな絶叫で、パワーアップが完了した。
舞い上がった砂埃はサッパリ吹き飛び、草木も静まる。
「ふー……! どうだ、これからお前をギタギタのメタメタのケチョンケチョンに――

だが、地響きは続いていた。
「あら?」
波紋も消えてはいなかった。
「えっ?」

二人が異変に気付いた時、湖の水面が大きく高く、膨れ上がる。
そして、爆発する。
『オオオオオォォォォォ!!!!!』
ナマズが、鼓膜を押し伸ばすような低い唸り声をあげながら姿を現した。
「うわー!?」
「きゃー!」
見えるだけでも十メートルは超えるその巨体。大量の水が、岸に氾濫する。
どうやらこころの霊力に引かれて姿を現したようだった。
『…………』
ナマズはしずくをボタボタ頭を垂らしてこころを見ると、両頬から伸びた長~いヒゲをくねらせる。
「う、なんだっ?」
次の瞬間、こころに向いたヒゲの先端から、電撃が放たれた。
「ぎゃあああああ!!??」
脳天直撃。ずぶ濡れ地面へ体を通じて突き抜ける。
こころは意識が飛びかけて、その場へびしゃりと倒れ込んだ。水たまりに顔沈めたまま、ピクリとも動かない。
「大丈夫? ナマズが電気で攻撃してくるなんて聞いたことないわー」
そこへこいしが浮遊しながら近付き、こころをツンツン生存確認。

『ウオオオオッ』
するとナマズは、顎をがま口のようにがっぽり開き、二人に向かって突撃する。
「わー!」
慌ててこころをおんぶして、こいしはふわっと飛び上がる。
直後にナマズの食い付きが岸を抉り取った。
『オググ……』
その口はなにも捕らえることはなかった。あのままいたら、二人は間違いなく飲み込まれていただろう。
「うぐ……こ、こいつ私を食べるつもりか」
「ナマズって妖怪も食べるの?」
「妖怪……。そうか、判ったぞ! こいつも妖怪なんだ! だからこんなにでかいんだ!」
「妖怪ナマズってことね。こりゃあますます釣りがいがあるってもんよ!」
「こうなりゃ生存競争だ! 喰うか喰われるか、勝負だナマズ野郎!」
なんとか意識を持ち直したこころは、ナマズに指差し啖呵を切る、おんぶされたまま。
『……』
ナマズは短い沈黙と、電撃でもって応えた。
強い力を発するこころがご馳走に見えるようだ。こいしは無視して仕留めにかかっている。
「うわ! 避けろ避けろ!」
「いい加減降りてよー」
電撃が二人を分断する。こころは右へ、こいしは左。
ナマズはすぐさま右へ向いた。ヒゲから交互に電撃が繰り返される。
「ふん! そんな攻撃目を瞑っていたって避けれるぜ!」
だが自機狙いの単調な攻撃など、身構えたこころの問題ではない。体を捻り、飛び回り、悠々と躱していく。
「えーい!」
その隙にナマズへ肉薄したこいしは、エラをナイフで斬りつけた。
スカッと素早い太刀筋が、分厚い表皮に切れ込みを入れた。じわりと体液が流れ出る。
『……?』
だがナマズからしたらほんのかすり傷のようで、まるで意に介していなかった。
「あらら、ちっとも手応えがないわー」
「馬鹿め! そんなチンケなナイフが効くもんか! 私が手本を見せてやる!」
こころは右手をグンと掲げた。すぐに青い霊気が集まり、普段の何倍も大きい薙刀が形成されていく。
「おりゃっ!!!」
それを思い切り振りかぶり、ナマズの腹に向かって投げつけた。
『!?』
薙刀は内臓深くに突き刺さった。さらに次の瞬間爆裂し、より深くを傷付ける。
『オォォォォォォ!!!』
このダメージは流石に無視できなかったナマズは身をよじらせて悲鳴を上げた。
「ガハハハハ! もがけ苦しめ!!!」
気分良く馬鹿笑いしていたこころは、倒れてくるナマズの巨体を躱せなかった。
「あ、ギュッ!?」
ナマズは岸にもたれかかって沈黙。次第に湖へズルズル沈んでいく。
「あれー? 沈んでっちゃったわ。案外弱っちいのね」
こいしは岸辺に駆け寄って湖を覗き込む。
ナマズは湖底まで行ってしまったようだ。
「げは……ざ、ざまあみろ!」
潰れていたこころも起き上がった。ダメージを誤魔化すように、空元気で強がりを並べる。
「ふ、はっはっはー。私の力に怖気付いて逃げたか。そりゃそうだ、ナマズごときがこの私に敵うはず
突如、湖の水面から、ナマズのヒゲが飛び出した。
「うわあ!?」
「きゃ!」
しかし体は湖中のまま。水上でヒゲだけがくねってこころに狙いを定める。
「……水に隠れながら戦うつもりか!」
「ナマズのくせに賢いねー」
二人が思った通り、ナマズの本体は現れず、そのままヒゲから電撃が発射された。
「ほっ! はっ!」
とはいえ電撃そのものに変わりはない。
こころは既に、この攻撃に順応していた。難なくスイスイ避けていく。
「だから言ったろう! そんな攻撃、目を瞑っていたって!」
そうのたまいながら、ほんとに目を瞑って躱していたこころの胴体に、ナマズのヒゲが巻き付いた。
「し、しまっ
間髪入れず、直接電撃が送り込まれた。
「ふぉおおおおあああああああああぁぁぁ!?!?!?」
「あらら、よく焼けてるー」
強烈な電撃が全身を駆け巡り、髪や衣服がバチバチ焦げる。
「げふ……」
しばらく続いた電流が止むと、ウェルダンこころは煙を吐いて動かなくなった。
ナマズはしめたと思ったか、すぐさま湖中へと引きずっていく。
「わ、私を喰べてパワーアップするつもりか……そうはいか
こころは地面に爪を立てて逆らった。途端に電流が駆け巡る。
「んぎぎ……! っもう効かないぞ!」
彼女には雷属性の耐性がついてきていた。電気を注がれながらも、巻き付いたヒゲを片手に一本、もう片手に一本握りしめる。そしてどっしり立ち上がり、逆にグイグイ引っ張り返す。
「そおらっ! お返しをしてやる!」
さらには自身に流れる電流を、気合の雄叫びとともにヒゲへ、ナマズへと流し返した。
どうやったのか、それはこころだけにしか判らない。恐るべきは付喪神パワー。

『!?!?』

逆流して体内回路をブチ抜いた電熱は、妖怪ナマズの内臓を焼き焦がした。
『ギョオオォォォォォォ!!??』
ナマズのおぞましい悲鳴が湖底からでも聞こえた。
その心地よさにこころはすっかり上機嫌。
「はーっはっはっは! 自分の電撃に焼かれた気分はどうだ! そら!」
溢れるパワーに任せてヒゲを引きちぎる。これで電流攻撃は完全に封じられた。
「よーし! どう料理してやろうか!」
もう勝ったも同然。こころはえっへんと腕を組み、次の攻め手を考えている、ところで――
「ん?」
――首筋にむず痒さを感じた。彼女はすぐに振り返る。
「こいし? なにしてるの?」
「えへへ~」
釣竿を持ったこいしが、こころの襟に釣り針を引っ掛けていた。
「え?」
抵抗する余地なく、こいしの袖から触手が一本、螺旋を描きながら釣竿から釣り糸に、こころに巻き付いていく。
「えー!?」
完全に身動きがとれなくなったこころは、その場で棒立ち、あわあわとこいしの方に向こうとする。
彼女がなにをするつもりか、判ったようだ。
「いくよー! せーの!」
こいしが右脚を後ろへ引く。
「わーっ! わーっ! やめろ~~~っ!!!」
「それー!」
そして、こころのお尻を思い切り蹴っ飛ばした。
「うわああああ~~~~っ!!!!」
遠くの方まで飛んでいったこころは、ドブンと良い音を立てて着水。ぐんぐん湖底へ沈んでいく。
「ごぼごぼ! ……!」

「うふふ、釣れるかな?」
こいしは、最初と同じように岸辺へ座り、お行儀良くヒットを待った。


数分して……。


グン!!! と強い力が、釣竿を持つ手に伝わった。
「かかった!」
こいしは笑顔を輝かせた。勢い良く立ち上がり、一生懸命釣り糸を、触手を巻く。
「えーい!」
最後の一巻き。思い切り腕を振り上げた。
すると、水面が盛り上がる。

『グーーーーッ!!??』

大爆音とともに、エサに食いついたナマズが釣り上がった。
その勢いでナマズはこいしの頭上を通り越し、湖から反対の森付近に落ちた。
釣れたのは三十メートルはある超大物。もちろん、さっきこころが痛めつけたナマズだった。跳ねるたびにそばの木々が軋み、なぎ倒れていく。
「わーい! 釣れた釣れたー!」
とびっきりの釣果にこいしはぴょんぴょん大喜び。
「でもこんな大物が釣れるなんて思ってもみなかったわー。バケツには入りっこないし、どうしよう?」
触手をナマズの口から外し、どう運んだものか考えあぐねている。

すると。

ボゴン、ボゴンと、ナマズの口内から爆発音が響く。その度に、ナマズが激しく苦しみもがく。
そして三回目の音で、動かなくなった。
「うおらあああああああっ!!!」
こころが絶叫しながら頬を突き破り、飛び出てきた。勢いはそのまま、まっさきにこいしへ掴みかかる。
「てめーーーっ!!!」
「きゃあー! あははははは!」
「よくもっ!」
「あはは、もっと喜んで? 貴方のおかげで釣れたんだから」
「…………じゃ、トドメを刺したのは私だから、私が獲ったわけだ」
「あら、釣ったのは私よ?」
「なにー!?」

またひとトラブルおっぱじめそうな時、湖から控えめな水音が。

「あの……」
淡水に棲む人魚わかさぎ姫が、湖から顔を出して二人を見つめていた。

「…………!?」
人魚を初めて見るこころは唖然としている。もうわかさぎ姫に興味津々。
こいしは一層笑顔になって、予期せぬ獲物に舞い上がっている。
「わあ! なんてついてるのかしら。 あれって人魚よ人魚!」
「へーあれがか。ちょうど小腹が空いたところだ、ナマズ丼の前菜にしよう。刺身がいいか、天ぷらがいいか……じゅるり」
「えーだめよ。生け捕りにしてうちで飼うの。血の池を泳ぐ人魚なんて素敵じゃない?」
「なにー!?」
またまた喧嘩が始まりかける。
「ひぃ……!」
二人の物騒であんまりな物言いに青ざめるわかさぎ姫。だが逃げはしない。
「い、いや、私は食べられないし、飼われもしないわ! 貴方達にお礼が言いたくて出て来たの!」
岸から距離をとったまま、かぶりを振って声を上げた。
「お礼?」
「はい。あのナマズを倒してくれたからですよ。あいつが現れてから肩身が狭いのなんの……ありがとう!」
どうやら、わかさぎ姫は最近現れた妖怪ナマズの横暴に困っていたという。
そのナマズを釣り上げ仕留めてくれた二人はまさにヒーロー。一言お礼を述べようと、こうして姿を現したというわけだった。
「ふーん、どういたしましてー」
「釣りをしてお礼を言われるとは思わなかった」
「あ! あと、湖畔のお屋敷はご存知!?」
わかさぎ姫がふと思い出したように、ぱちゃぱちゃと二人に寄ってくる。
「紅魔館のことね? これから訪ねようと思ってるわ」
「そう! なら、そこに住むレミリアのお嬢様に、"この湖の異変に妹さんは全く無関係"って、伝えてくださらない?」
「レミリアお嬢様に、妹? 吸血鬼どものことか?」
「ええ、妹のフランさん、よく遊びに来てくれてたんだけど、ナマズの噂が広まってからちっとも来なくなっちゃって……。なんだが嫌な予感がしているの」
「判ったわ、伝えてあげる」
「よかった! ほんとうにありがとう! 貴方達は湖の英雄よ!」

わかさぎ姫はなんどもお礼を言いながら、平和が戻った湖へと帰っていった。

「……生け捕りはできなかったけど、珍しいものが見れてよかったね」
「うん……」
こいしとこころは二人並んで、その様子を最後まで眺めていた。


…………


…………


二人はこの後、釣竿を返しに紅魔館を訪ねた。同時に暴れたことを謝って、釣ったナマズを持ち込んだ。
突然やってきた大ナマズに館の皆はびっくり仰天。さらにわかさぎ姫の伝言で、レミリア達も大層喜んだ。
フランドールも機嫌を直し、最後はこころ達とお互いが謝る形で仲直りした。

そして……。

「くっくっく、今宵は良い月になりそうだな……では乾杯!」
レミリア嬢の一声。
「「乾杯!!」」
夕日に照らされた紅魔館で、前代未聞のナマズパーティーが始まった。

こいしがこころで釣り上げたナマズは、料理上手の咲夜が調理したこともあって、とても美味しかった。館のみんなでたらふく食べても、まだ余るくらいだった。
「あはは! 楽しいね!」
「うん、ナマズうまいなー」
「こいし! こころ! こっちで踊りましょ!」
「聞いた? 行こいこ!」
「よーし、フランドールに私の暗黒能楽を見せてやる」

よく食べよく飲みよく踊り、パーティーは夜中まで続いた。


…………


…………


パーティーは終わり、二人は紅魔館のみんなとお別れして帰路を辿っていた。
「ああ楽しかった」
「…………」
「ね、うちまで送ってくれる?」
「……いや、ちょっときて」
だが途中、こころがこいしの手を引いて、道を外れる。
「わっ、なになに?」

辿り着いたのは、誰もいない草原。
「こんなところに連れてきて、どうするつもり?」
少しの沈黙の後、こころが話す。
「……お腹は膨れたが、私はまだ足りてない」
それを聞いて、こいしはくすくす笑い出した。目を細め、肩をすくめ、こころを見つめる。
「うふふ……そういえば、昼間はし損ねちゃったもんね。 こっちでも満足させてくれるの?」
「させてやるとも、嫌という程な……!」
お互い弾かれたように離れてから、一気に距離を縮める。
「「勝負!!」」
二人の拳がカチ合った。

このルール無視の密かな決闘は、誰にも気付かれることはなかった。

「あれー、もう立てないの? 終わりにする?」
「ち、ちくしょう……。ぐふっ……!」
やがて勝敗がついたときには、もう深夜を回っていた。


…………


…………


地霊殿。

「すっかり遅くなっちゃった。お姉ちゃんは寝てるかな?」
「…………」
「今日はありがとう。おかげで楽しかったわー」
「ふん……」
「また遊ぼうね。行きたいところたくさんあるの」
「……もうここまで来るのはごめんだ。今度はお前がこっちに来るんだぞ」
「うん! またねー!」
こいしは地霊殿に帰っていった、朝と変わらぬ満面の笑顔で。
すぐに中から、「ただいまー!」と声が聞こえてくる。

「…………」

こいしを見送ってしばらく、こころが首を回すと割れるようにゴキゴキ鳴った。
ゴボリと上がってきた唾を吐くと、煙と血反吐も一緒に出てきた。
「くそ……早く帰って休息をとらないと……」
こんな時は静かな蔵で霊力を回復させるに限る。こころはヨタヨタ歩きだす。

そうして彼女が帰り着き、瞑想を始めた頃には、もう朝日が昇っていた。


「もしもーし! 遊びに来たよー!」


翌朝。元気いっぱいハツラツな声がこころの蔵に飛び込んだ。


おしまい
こいしちゃんとこころちゃんのお話でした。
白梅
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.10簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
案外、妖怪たちの日常はこんな感じなのかもしれませんね。御馳走様でした