Coolier - 新生・東方創想話

嬢ちゃん

2018/04/21 01:00:32
最終更新
サイズ
8.07KB
ページ数
1
閲覧数
335
評価数
0/4
POINT
120
Rate
5.80

分類タグ







「つーかまーえた、ッ!?」
爆発。
わけもわからず吹き飛ばされる。いや、そんな生やさしいものじゃない。腹に喰らったと思ったら、自分の手足だけが真下に転がっていた。体があったはずの草原には濁った赤の飛沫が飛び散っていて、ぼたぼたと鈍く降り注ぐ血の雨を浴びて淡い色の幼女が笑っていた。月明かりに照らされて朧に光っている。口の端に垂れ落ちた鮮血が丸っこい牙にかかり、ほんの少しのそれをさも旨そうに舐め取っている。たった一瞬のはずなのに、やけにじっくりと眺められる。首が飛んだのか。死んだな、こりゃ。
そこで蘇った。血の花の代わりに砕けた地蔵が散らばっている。心臓は割れそうに高鳴っている。今の一瞬で理解させられた。普通にこれには勝てない。
これがレミリア・スカーレットか。
僧やら道士やら天人やら、いるだけで偉そうなやつらの鼻を明かしつつ馬鹿にしつつ、ひみつ道具の力でなんとかやり過ごしてきた。魔法の森のほど近く、うら寂びた草原に逃げ延びて一息吐いたらこれだ。
眠たげな魔女の忠告が頭をよぎる。面白いところを見せれば満足して帰る、だっけか。無茶言うなよな。
「あら? 確かにぷちっと潰したはずだったんだけど……」
緩やかにこちらを向く。猫みたいに縦長の瞳で、しかしごろにゃんとかわいがれるようなものでは全くなかった。緩やかに弧を描いた口角が、幸か不幸かこちらに興味を持ったことを知らせていた。
「潰しても死なないのが私以外にもいるなんてね。何回までなら大丈夫なのかしら?」
「もう無理だよばーか。十分だろ。早く帰ってくれ」
手元に布を用意する。ひらりと翻した瞬間、暴風が突っ切った。にやにや笑いの残像が消える。気付けば、吸血鬼は真後ろの木にぶつかっていた。哀れな木は半ばで折れ、メシパキと音を立てて傾いていく。
「あら、あらあら。今度は当たらなかったわね?」
でかい瞳でじいっとこちらをねめつけてくる。その動作はやはり、部屋の角を見つめる猫のようだった。あるいは、目の前で猫じゃらしを振られたような。当然、次には手が出る。
「あら?」
その手が、あらぬ方向へ叩きつけられる。余波で旋風が巻き起こり、哀れな草が舞い飛んでいった。
草原に、真っ赤な呪いの人形が首を折られて転がる。マタドールを前にしたように、誰もがそれを痛めつけずにはいられない。吸血鬼であってもそれは同じだ。もう一発、今度は完全に叩き潰した。あの人形、また再生できんのかね。まだもはや人形の残骸というよりぼろくずの寄せ集めになったそれに、吸血鬼が突撃する。爆発。人形だったものが粉々の塵になって舞う。今度こそ成仏できたんじゃないか?
粉塵にまみれて、吸血鬼はぼんやり立っている。心なしか目を細めている。こういうのにじっくり考えさせるとまずい。慌てて吸血鬼目がけて弾幕を放つ。当たってはいるが、ダメージがある様子は一切見えない。ただでさえここまで歴然とした力の差があるのに、戦略を練られたらどうあがいても勝てない。不可能だということはひっくり返せるはずなんだが、読み合った上ではまるで勝てる気がしない。全くイメージもつかないものに頼るわけにはいかない。少しでも気を散らせるよう、顔を目がけて弾を撃ち続ける。ぶんぶんと顔を振る。少しは鬱陶しいみたいだ。
弾幕を振り払うかのように、またも突撃してくる。傘を開き、スキマへ逃げる。出たとこ勝負だ。瞬間移動しても、出た瞬間捕捉され追撃される。傘はほとんど開きっぱなしで、次から次へとめまぐるしく景色が変わる。当たろうが当たるまいが、弾幕を放ち続ける。
攻撃を受け流すだけでは勝てない。さりとて蚊の刺すような弾を当てるだけでは意味がない。何か一つでかいのでぶん殴ってやらねば。
懐の小槌に手をかける。意識が逸れた、瞬間。
「やっべ」
慌ててスキマへ入ったが、ほんの少しだけ遅かった。移動しきる前の体を撃ち抜かれてごろごろと転がる。スキマから出るというより吹き飛ばされ、大木の幹で漸く止まった。傘もどこかへ消えてった。左足の付け根がじんじん痛む。幸い、足はまだついている。取れる様子もない。奇しくも、入ったばかりのスキマが衝撃を受け流したようだ。痛みに耐え、歯を食いしばりながら立ち上がる。大きく息を吸う。空気中の魔力が濃い。見上げれば、森に入ったところだというのに空も見えぬほど鬱蒼と茂っている。
魔法の森だ。ここまで吹き飛ばされたとは。
ゆっくりと、吸血鬼が歩いてくる。
「鬼ごっこはもう終わりかしら? ああ、タッチしたから今はあなたが鬼ね」
その姿はいっそ優雅ですらあった。
「でも、あなたが私を追いかけてもねえ。何がいいかしら」
つまり、こちらを舐めているということだ。
「ああ、あれがちょうどいいわね。だるまさんが転んだ」
目をつぶって頭を抱えて、本当に遊びを続けるつもりらしい。お高くとまりやがって。
お望みに通りにぶん殴ってやるため駆け出すと、ゆっくりと数える声が聞こえ始めた。声に合わせて、鋭く尖ったナイフのような弾幕が撒き散らされる。すかすかじゃねえか。わけもなくかいくぐって、近寄る間に密度が増す。手拍子だったのが雨音になり、遂には削岩機もかくやと轟音が響く。辺り一面にナイフが突き立つ。たまらずカメラで弾幕を撮影するが焼け石に水だ。フィルムも焼き切れんばかりに連続撮影をかまし、全速力で後退する。木の根に足をとられ、走馬灯。
このカメラを構えて、メイドのナイフも狸が飛ばしてくる鳥も神様の蛙だって、うようよと湧いてくるやつらは全部消し飛ばしてきた。たった一人のレジスタンスを始めてから、片時も離れず戦い抜いてきた。ファインダー越しに覗いた景色はいつだってさっぱりしていた。けれど今、そのレンズがナイフに撃ち抜かれ、
「転んだっ!」
すっころんだままその声を聞いた。吹き飛ばされてぶつかった大木まで戻っている。彼我の距離は依然縮まらず。私は動けない。立ち上がった吸血鬼はにまにまと笑う。
「手足をもがれて達磨ってわけじゃないんだから、少しは動いたっていいのよ?」
「様子見だよ。後の先って言うだろ」
四尺玉ばらまいて、攪乱してる間に提灯振りかざして森の中へ。運が良ければ逃げられるか?
「じゃあもう一回行くわよ。……ああそうだ、逃げるなんて興醒めなことはやめてよね。おもちゃは壊さないタイプなの。私はね」
「お節介なことで」
背水の陣を強いられる。強制されると抗いたくなるのが天邪鬼というものである。
だーるーまー、と悠長に唱える声が響く。散発的な弾を避け続ける。吸血鬼に近付く。密度が濃くなる。一つ二つが服をかすめ、皮膚に裂け目をつけていく。痛みすら感じる間もない。タイミングが命だ。
これ以上は貫かれる、という瞬間に提灯を振りかざした。
体が透け、全てをすり抜ける。
漸く、少しは観察できる。頭を抱えてしゃがんだ吸血鬼は小さく丸い。全方位に弾をばらまいている。更に近付くと、ほんの少しだけ足下に安全地帯。
そりゃ、あの調子で下向きに撃ち続けたら埋まっちまうわな。
悠長にしている時間はない。提灯があとどれだけ持つか。
すれ違いざまに、吸血鬼の足下へありったけの四尺玉を転がした。点火。
提灯の火が今にも消え落ちそうだ。そろそろと、しかし全速力で離れる。森を出て、草原の方へ。月明かりが亡霊となったこの身を照らす。
四尺玉はまだ弾けない。弾も未だ出続ける。まじかよまだかよ。撃ち続けてもうどれくらいだ、吸血鬼の体力は無尽蔵か? 提灯は風前の灯だ。
できるだけ離れなければ。四尺玉は魔法の花火だ。導火線は中まで伸びて、封じ込められた魔力に火を点ける。魔力は指向性のないエネルギーの塊だ。四尺玉の中で火という形を与えられ、一気に弾け飛ぶ。そしてここは魔法の森。魔力はそこら中に溢れてる……!
「転んだ、ッ!?」
轟音。
たまらず吹き飛ばされる。提灯の火も最早潰えた。粉塵が舞い飛ぶ。
魔法の森が欠けていた。草原と森の境目が、一カ所だけへこんでいる。
爆心地に吸血鬼が立っている。着ている服はぼろぼろで、肌も煤けているが、瞳は爛々と輝いている。悪夢かよ。
「なかなかやるじゃない! それからそれから? 他にはどうするの!?」
呵々と大笑いする。
そして、当然のようにこちらへ駆け出す。固く手を握りしめる。目にもとまらぬ速度で突っ込んできて、
「!?」
そのまま立ち尽くした。最早そこには誰もいない。
血に餓えた陰陽玉は、使うと相手の目の前に躍り出る。速過ぎる吸血鬼は、それすらも追い越して駆け抜ける。一瞬の後、私が出た。振りかぶる。
「うおおおおおおりゃあっ!!」
立ち尽くす吸血鬼を、小槌で後ろから殴り飛ばした。
ダンッと小気味よい音がする。
吸血鬼の上半身が、弾け飛んだ。
そのまま着地しきれず倒れ込む。
左足が痛い。もう取れるんじゃないかってくらいに痛い。
ばさばさと耳障りな音が鳴り止まない。耳までいかれたか。
それでも、今晩の月は綺麗だった。
ああ、今日も生き延びた。
























月明かりを遮るように、吸血鬼が覗き込んでくる。
屈託のない、幼女のような笑顔だった。
「あなた、面白いわね」
「もう無理だよ。勘弁してくれ」
これ以上はもうなにもできやしない。手元に残ったのはこの小槌だけだ。私自身の力などたかがしれている。今日が命日か。
「何を勘違いしているのか知らないけれど」
吸血鬼がしゃがみこむ。何が面白いのか、鼻の頭をつついてくる。顔面を潰されるかと思った。些細な力でも、つつかれると視界が歪む。
「あなたの勝ちよ。だるまさんが転んだ。あなた、私に触れたもの」
吸血鬼は服まで綺麗に戻っている。一体どんな手品を使ったのやら。
それじゃあね、などと言って夜の闇に溶け込んでいった。
相変わらず左足が痛い。擦り傷は数え切れない。服だってぼろぼろだ。
だけど生きてる。
「うれしいなうれしいなあ、はは……」
見逃されて生きている。
悔しくって涙が出た。
たった一つ、偽物の小槌を握りしめた。
[2018 04/01 481:00]
阿吹
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.120簡易評価
0. コメントなし