Coolier - 新生・東方創想話

嬢ちゃん

2018/04/06 00:35:38
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今までのあらすじ:天に浮かぶ逆さ城はあえなく潰えた。持てるだけの不思議道具をかき集め、鬼人正邪は野に下った。未だ下克上を諦めてはいない。打ち出の小槌はなくとも、抑圧されたものは幻想郷中にいる。森に、山に、地底に。彼らを集めて決起すれば、幻想郷は変わらざるを得ない。弱者がものをいう時代が来るのだ。霧の湖のほど近く、かつての潜伏先で構想を練っていた正邪の下に、一通の手紙が来た。図書館の魔女からだった。虎穴に入らずんば虎児を得ず。今は少しでも力が欲しい。


「それで。こんな湿った土みたいにかび臭いところに呼びつけて、一体どういう用なんだか。今度こそ魔道書の一つでもくれるのか?」
呼ばれて行ったら捕まった、などという事態は避けたい。その思いから傘やら布やらで武装していったが、なんのことはない杞憂だった。大人しそうな赤毛の小悪魔に案内され、魔女の前で優雅に茶を傾けている。茶請けは固くて丸い洋菓子だった。囓る度ぼろぼろこぼれるが、本を汚す心配はしないのだろうか。魔女は相変わらずロッキングチェアに揺られている。気怠げに半分閉じたまぶたからは、何の感情も読み取れない。その視線は微妙に下方に固定されて、決して目が合うことはない。
「本はあげないわ。代わりに情報をあげる」
「もらえるもんは全部もらうけど。何が望みだよ」
「屋敷の主人が面白い物好きでね。いつだって目新しい事件に飢えてるのよ。居候の身としては、たまには大家のご機嫌を取らなきゃね」
こういう口ぶりは得てして嘘である。自分が何度も口にしてきたからよくわかる。さりとて、何が本当なのかは全く見当も付かないのであった。少しは表情筋を動かせ。
「弱者が群れ集って下克上を志して。それが面白いか?」
「別に面白くはないわね。抑圧している側だもの。わざわざ石をひっくり返して裏の虫を眺めたくはないわ。蠢いているのならなおさらよ」
「虫けら扱いとはね。言ってくれるじゃないか」
ますます解せん。望みがわからん相手は口車に乗せようもない。こちらの舌先三寸を警戒してごまかした物言いをしているというのなら、それは天邪鬼冥利に尽きるというものだが。この魔女ならそれくらい読み取れそうなものではある。
「あなた、まだ下克上を諦めていないんでしょう」
「そんなに噂になってるか? まだ誰にも声をかけちゃいないんだがな」
「虫や獣の声を聞けるものもいれば、そこら中に妖精だっている。適切に伝手さえたどれれば、幻想郷のどこにいたってそうそう隠れられはしないわ。ましてあなたは目立つもの。博麗の巫女に退治されたというのに、少しも大人しくしている気配がないんだから」
「叱られてごめんなさいして、万事収まるのは夢物語だろうよ。ましてこちとら天邪鬼だ。抑え付けられたら毘沙門天だってはねのけたくなっちまう」
「元気なのは結構だけど、元気すぎたわね。あなた、本格的にお尋ね者になったみたい。幻想郷を安定させたい輩やら、それに恩を売りたい輩やら、個人的な恨みを持った輩やら。色々集まって、「なんでもあり」になりそうよ」
「なんだそりゃ。もとよりここらは幻想郷、人の世に混じらぬ夢の郷。端からなんでもありの天外魔境じゃないか」
「これでも一応、スペルカードバトルという抑止力があったのよ。ここ最近の話だけどね。この狭い幻想郷、むやみやたらに死人を出してちゃ空気が淀むもの。でもみんなが恨みを持っているなら、そいつが死んで弔い合戦なんて事態にならないようなら、まあそこまで配慮する必要はないわね」
「するってえとお前さん、降伏勧告でもしているのか? 天邪鬼に?」
「まさか」
しゃべりすぎたか、魔女は茶を一口すすった。全く音も立てやがらない。育ちの良さを誇示しているのか。
「私ね。あなたのファンなのよ」
「は?」
相変わらずの鉄面皮は、眠そうな半目は全く動かないまま口にする。目が合うこともない。
「その命を燃やして抗う生き方が、太陽を射落とさんとばかりに突き進む在り方が、地下に籠もりきりの私には少しばかり眩しかったのよ。目も眩むほどに」
「はあ……」
自慢じゃないが天邪鬼だから、けなされこそすれ褒められたことなどない。騙されたあいつは無邪気に語らってきたが、それでも褒められるような間柄ではなかった。覚えのある限りでは、初めて褒められたんじゃなかろうか。褒められるとこんなに居心地が悪いとは。天邪鬼だからか。
「だからね。教えておいてあげるわ。レミリア・スカーレットには勝てない。特に、なんでもありならね。外での吸血鬼伝説の流行を受けて、今ならそんじょそこらの神様より強いんじゃないかしら。でも、物好きだからね。面白いところを見せれば、満足して見逃してくれるんじゃないかしら。そもそも、面白そうだからってこの捕り物に参加するつもりなんだから」
呆れてものも言えない。忠告を受けて、それを容れるようなら天邪鬼の終わりだ。
「ま、そうかい。そいつは恐ろしいね。これでも起業に忙しい身なんだ。ここいらで失礼するよ」
まあ、ただ飯を喰らいに来たと考えれば収穫だった。これで暫くは凌げるだろう。辛気くさい顔も見納めである。その時。しゃべっていてもほとんど動かなかった口元が、いやらしく吊り上がった。
「楽しみにしているわ。私もね」
なるほど。魔女に違いない。


■ ■ ■

「ああ、さとり? ええ。今出て行ったわ。そう。やっぱり眩しいわね。あなたも私も、本みたいな生き方をしてるから。あなたほどじゃないわ。ああでも、最近は地上にも足を伸ばしてるんだっけ? そう。そうね。本当に。彼女には、彼女の人生を生きてほしいものだわ。それこそ、物語られるような。え、違うわよ。物書きはあなたに任せるわ。ええ。ええ。じゃあまた」

みんな嘘です[2018 04/01 120:35]
阿吹
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