Coolier - 新生・東方創想話

嬢ちゃん

2018/04/03 23:35:38
最終更新
サイズ
5.74KB
ページ数
1
閲覧数
325
評価数
0/3
POINT
120
Rate
7.25

分類タグ

今までのあらすじ:天に浮かぶ逆さ城はあえなく潰えた。レジスタンスの頭目、打ち出の小槌を掲げた小人族、少名針妙丸は博麗の巫女に退治され、そのまま博麗神社で暮らしている。初めの頃こそ虫かごの住居に甘んじたが、今では立派な小人御殿である。どうも他に手頃な箱が無かったらしい。一方、鬼人正邪は何処へ行ったやらとんと見当も付かぬ。城が崩れた跡から、いくつかの道具がなくなっていることだけがわかっている。

あなたにはこの花が似合うと言われ、かんざしにつけられたのが椿だった。まだ逆さ城が空に飛び上がる前の話だ。地底から出て、生まれて始めて自由の身、抜けるほどに広がる青空。全てが新鮮で、目に映るもの全てが輝いて見えた。人の高さほどに伸び葉を繁らせた木に、大輪の真っ赤な花がいくつも咲いていた。その花を一つ摘んでは、かんざしにつけてくれた。その時のあいつがどんな顔をしていたのかは、よく覚えていない。くすぐったくて、目をつむってしまったから。

博麗神社の縁側から見える椿の花が、まるで首を落とされたみたいに庭の端に転がっていた。まだ残っている雪の白さに、その赤は目立っていた。天に浮かぶ逆さ城からここまで落ちてきた私みたいだと思った。そのこと自体は、もうすっかり受け入れているけれど。あいつは今どこでどうしているのだろうか。路傍で寒さに震えてはいないだろうか。
「辛気くさい顔してるわね。ペットは能天気であるものよ」
「誰がペットよ。小人にだって人権はあるわ。内心の自由!」
「はいはい」
霊夢はすっかり怠惰になって、暇な時間はほとんど炬燵と同化している。冬も深まり客の訪れも少なくなってきたせいか、お茶を入れる手間すら惜しんで布団とのふれあいを楽しんでいる。その姿は、輝針城を身一つで追い落とした巫女と同じ人とはまるで思われない。まあ、あの時は凶暴なお祓い棒につられて粗暴になっていたはずであるが。
霊夢がこんななので、私はしみじみと物思いに耽ることができるのだった。外に出られない以上、針仕事をしながら物思いに耽るより他にないのである。小槌を使いすぎたせいか、元より更に小さくなってしまったせいで、外界は危険がいっぱいなのだ。今なら猫にだって食われかねない。来たるべき冬に備えて住居の防寒を目論む必要もあることだし、大人しくちくちくとやっているのであった。
するうち、魔理沙が来た。二日にいっぺんは来る。大方暇なのであろう。魔理沙が来ると流石の霊夢も茶を淹れ始める。相伴に預かる。魔理沙様々である。
「針妙丸よ。お前はいつ見てもちくちくやっているようだが、一体何をそんなに作っているんだ? もう虫かごもすっかり覆ってしまったじゃないか」
「寒いからまず外を覆ったんだけどね。最近はそれだけじゃ足りないから、今はお布団を厚くしているのよ。綿なんてたいそうなものはないから、ぼろ布を集めて詰めたりしてね」
「ははあ、難儀なものだな。今度うちで余り布がないか探してみようか」
「ありがとね」
客はいつも優しいものである。
しばし、黙々とちくちくやっていた。元来、人と話すのは得意ではない。鬼の下で飼い殺されていた私には、ほとんど話し相手もいなかったから。話をしたといえば、地底を出てから半年ほどは、正邪と二人で解放の夢を語り合ったくらいだ。輝かしい日々。美しい記憶。今になっても、あの頃の正邪の言葉が全て嘘だったとは、未だに信じ切れないのだ。確かに私を利用しようとしたのだろう。打ち出の小槌が、奇跡の力が必要だったのだろう。それでも、反逆を語ったあの声が、「さあ、弱者が見捨てられない楽園を築くのだ!」と叫んだあの言葉が。本当に全部嘘だったのだろうか。
一度、霊夢に打ち明けたことがある。未だにあいつを疑いきれないのだと。悩むのもばからしいという顔をした霊夢は、「あんたをそそのかして異変を起こしたこと。それが失敗したら雲隠れして未だに顔も見せないこと。それが全てよ」などと言っては取り合ってくれなかった。多分、それが正しいのだろう。博麗霊夢はいつだって正しい。幻想郷は霊夢を中心に回っているみたいだ。それでも、なんでもそうやって白黒割り切れるものではないのだった。生まれてこの方親しんだ縫い針は、心を余所に規則正しく動いている。
「浮かない顔をしているな。心ここにあらずといった風情だ」
「針仕事は真面目にやらなきゃ怪我するからね」
「そういうものか」
んー、と魔理沙はうなった。いつも竹を割ったような魔理沙にしては珍しい。
「そういえば、な。正邪について、知ってるか」
指を刺す前に針を止めた。
「……何を?」
「その様子じゃ、知らなさそうだな。いや私も風の噂で聞いただけなんだが。どうもあいつ、まだ下克上を諦めてないみたいなんだ。小槌の魔力が残った道具を後生大事に抱えて、あっちゃこっちゃで細々と騒ぎを起こしているらしい。そのうち討伐隊も出るんじゃないかって噂だ」
一体今はどこにいるのか。私がいったら止められる。そんな自惚れを吐くには、私は正邪を知りすぎてしまっていた。きっと、孤軍奮闘で四面楚歌だからこそ、正邪は戦い続けているのだろう。そして私も、もう一度彼女と下克上を目指そうとは思えないほどには、幻想郷を知りすぎてしまった。それでも。
「魔理沙。私出てくるわ。大丈夫、ちょっと縁側を歩いてくるだけだから」
「お、おい」
ほんの少し襖と障子を開けて、縁側に出る。雪こそ降ってはいないが、つま先から冷えが立ち上ってくる。それを振り払うほどに、足を動かした。歩調を速め、しまいには駆けだした。気持ちまで振り払ってしまうほどに。
あいつの下克上には、私は必要ではなかったのだ。あいつは一人でも立っていられた。
着物の裾を踏んづけて転んだ。とっさに丸まってころころと転がる。そのまま、縁側で倒れ込んだ。椿の花は今も雪の上に一つきり転がっている。逆さ城を落ちた私みたいに。
遅れて、魔理沙も縁側に出てきた。転がったまま動かないでいる私を見ると、安心したように息を吐いて、それから黙ってやってきてすぐそばに腰を下ろした。本当に優しいやつだ。
魔理沙はしばらく雪がまだ残る庭先を見ていた。私はじっと雪に落ちた椿を見ていた。
「雪上の椿とは、また風雅だな」
「色は確かに綺麗かもしれないけどね。たった一つぽつんと落ちているのは、なんだかさみしいよ」
「そうかねえ。ほら、椿はさ。花がまるごと落ちるじゃないか。私はあれが好きなんだよ。花びらが離れるでもなく、なにもなくさないまま落ちるのがさ。場所が変わろうが、花は花なんだと思わせてくれるからかな」
「そういうもんかい」
「そういうもんだよ」
下手な慰めは、しかし確かに慰めだった。そのまま、魔理沙は私をつまみ上げると頭に乗せた。落ちないよう、髪にゆるくしがみつく。
「寒いから入ろうや」
障子と襖を抜け、霊夢の寄生するこたつに戻る。魔理沙の頭上に陣取った私をみて、霊夢は吹き出すでもなく顔をゆがめた。馬鹿にしているような、慈しむような、微妙な顔だった。
あの時、あいつもこんな顔をしていたのだったか。思い出せないから、そういうことにした。

これも嘘です[2018 04/01 71:35]
阿吹
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.120簡易評価
0. コメントなし