Coolier - 新生・東方創想話

こたえ

2018/03/08 22:14:04
最終更新
サイズ
3.81KB
ページ数
1
閲覧数
1147
評価数
9/10
POINT
750
Rate
14.09

分類タグ

 冬の厳しい寒さを乗り越え、春の訪れを感じ始めた幻想郷。春にしては気温の高い今日は、夜の気温も高く、少し暑苦しさを感じるほどだった。

 そのせいか、蓬莱山輝夜はなかなか寝つけぬ夜を過ごしていた。
  
 少し夜風を浴びて涼もう、襖を滑らせ縁側に座る。
 
 夜空を見上げると雲一つなく、ただ唯一輝く月がのぼっていた。満月だろうか、いや違う、よくみると、ほんの少しだけ欠けている。明日が満月だろう。
 
 月を見るたびに昔のことを思い出す。楽しいこと、嬉しいこと。思い出すだけで一人クツクツと笑ってしまう。もちろん、悲しいこと、嫌な思い出もたくさんある。今やそれも懐かしい。
 
 ふと、一度だけ恋文をもらったことを思い出す。楽しい思い出の一つだ。その恋文はもう手元に無いし、内容も殆ど覚えていない。ただとてもとても甘々で、どんな砂糖菓子よりも甘い文章だった。恋文を書いた本人もその甘さにもがき苦しんだに違いない。
 
 他に覚えていることは、字を書くことに慣れていないのか、とても下手な字だった。もっとも時間を掛けて丁寧に書かれたであろうことは字から伝わったのでそれもまた可笑しかった。
 
 それに、その恋文には名前が書かれていなかった。恋文を出す恥ずかしさのあまり書き忘れたのだろうか、それとも単に書き忘れてしまったお茶目さんなのか、どちらもありえそうだ。もしくは、どちらもだ。
 
 果たしてあの恋文の差出人は誰なのだろうか、一度はあってみたいと思っていた。

 月を去った今は叶わぬ夢だ。それでもいつか、また会えると信じて
 
 時間はいくらでもあるのだから


 ◆

 
 身体が冷えてきた。寝室に戻ろうと振り返ると奥の部屋から灯りが漏れている。はて、あそこは鈴仙の部屋だ。夜遅くまで何をしているのだろうか、音を立てぬようそろりそろりと灯りのもとへ近づく。

 もっとも予想はついている。鈴仙がこんな時間まで起きている時は、永琳に提出すべき書類を慌てて纏めている時だ。襖をそっと開けると円卓に鈴仙が突っ伏していた。全く、今日は暖かいが、春先で朝はまだ冷える。風邪でも引いたら大変だ。既に敷いてあった布団を掴み、鈴仙が起きぬように掛けてあげる。机をみると、予想通り薬売りの帳簿だった。
 
 帳簿ぐらい明日でも良いのに、そう思ったが帳簿は数週間前から始まっており、今まで溜めていたものを急いで纏めていたのだろう。
 
 こんな光景はもう何度も見ている。定期的に永琳に提出する帳簿の記載を怠り、夜通しで記入する。そろそろ学んで欲しいと思う反面、そのお茶目さこそが永遠亭に賑わいを運んでくれるだけに治して欲しくない。鈴仙の良いところだ。
 
 鈴仙はお茶目なだけでは無い。兵士上がりの鈴仙は字を書くこと機会が無かった。そのためか永遠亭に訪れた当時は字が汚く読めたものではなく、私が手取り足取り教えることとなった。ひらがなから漢字まで、私のお手本通りに近づくよう鈴仙は必死で努力していた。今日のように夜通しで練習して寝ていた鈴仙に布団を掛けた覚えがある。その努力も実ってか、今は昔の面影も感じさせぬ、とても綺麗な字を書く。そんな頑張りやさんな面もあるのだ。
 
 お茶目で頑張りやさんで、今や鈴仙は永遠亭に欠かせぬ存在だ。私も永琳も、彼女を手放せない。

 布団を掛け、改めて綺麗になった鈴仙の字を眺めると、あの恋文を思い出した。ほんのすこしだが、あの時の恋文の字と少し似ている気がする。下手だった頃の字になんとなく既視感は感じていた。まさかそんなわけが、しかし、あの恋文を貰ってから、私に関わる人に探りを入れても恋文を出した素振りは見受けられなかった。きっと私の知らぬ人が外から置いた恋文だとは思っていた。
 
 そもそも私に恋文を渡すことは容易ではない。そこらの人が近づける訳もなく、私が関わる人も限られている。にも拘わらずいつの間にか部屋にこっそり置かれていた。どのような手を使ったのだろうか、私と距離の近い人では無い限りは不可能に近い。もし、それ以外だとしたら、とても苦労したに違いない。
 
 もしかしたら、お茶目で頑張りやさんな鈴仙なら、私の部屋に何とかして恋文を置き、恥ずかしさのあまり名前を書かない、もしくは忘れる。そのどちらも、鈴仙ならやってしまいそうだ。
 
 当てにならぬ推測だ。証拠も無い。きっと私の思い過ごしだ。

 それでもあの恋文の差出人が鈴仙だとしたら―――――
 
 鈴仙が起きぬよう、ゆっくりと額に唇を近づけ軽く触れさせた。
 
 とても小さくて今にも消えそうな声で「おやすみ鈴仙」とつぶやく
 
 ろうそくの灯りを消し、音を立てぬよう襖をしめ、部屋を後にした。
たぶん姫うどんです。もっと長いお話で書いてみたい(願望)
KoCyan64
http://twitter.com/KoCyan64
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.50簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
お茶目で頑張り屋なうどんげが可愛かったです
2.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良くて面白かったです
3.70ばかのひ削除
もう少し何かが欲しかったですが
雰囲気が良かったです
4.90南条削除
面白かったです
鈴仙の健気さが良かったです
タイトルがイカしてました
5.90kad削除
ほのぼのとしてて文章の流れが良くニッコリなりました、ごちそうさまです。
-10減点したのは輝夜は昔お題を出して結婚相手を厳選するくらいモテモテだったので、恋文は沢山貰ってたんじゃないかとちょっと気になりました。
7.100電動ドリル削除
姫うどん!姫うどん!
こっそり片想い姫うどん!こっそり返す姫うどん!
癒やされ和みほんわか
8.80あの人削除
慣れない事に悪戦苦闘しながらも頑張って恋文をしたためた
そんな鈴仙の姿を想像すると実に微笑ましいです
9.90名前が無い程度の能力削除
姫うどんいいぞぉもっとやれ(おねがいします)
こんな鈴仙だから姫様も可愛がりたくなるに違いない
10.10名前が無い程度の能力削除
ルール上問題はなくても俺からすると失格かな。