Coolier - 新生・東方創想話

【海路の旅人】

2018/01/07 00:05:06
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 木々の香りがそっと顔を撫でて、夢は終わりを迎えた。
 微かに開いた障子戸から忍び込んだそれが現実を明かしてくれる。
 外ではちょうど陽射しが昇ったぐらいだろう。微かに白い光が障子を照らしている。
 アリスはそっと起き上がると、そっと上海にお茶を淹れるよう伝えた。
 隣で眠っている霊夢を起こすべきか思案してると、んん、と霊夢は目蓋を震わし目を開けた。
「おはよう」
「……おはよう。どうやら、ちゃんと戻ってこれたわね」
「今、上海がお茶持ってくるから少し待ってて」
「う~」
 まだ眠気が取れないのか、霊夢はどこぞの半霊のような返事を返した。
「……なんか、本当に旅してたみたい」
 意識が定まってきたのか、枕に頭を乗せたまま霊夢はポツンと言った。
「そういう魔法だからね」
 夢見の魔法。
 それは魔界で研究が盛んな魔術の一つで、難度が高い分、上手く使えば今回の様に夢の中で特定の場所に行く事だって可能な代物だ。
「でも、やっぱり夢から覚めてしまうとあっけないわね」
 物惜しそうな霊夢にアリスは笑みを浮かべた。
「でも、何も得なかったわけじゃないでしょ?」
 夢見の魔法は胡蝶の夢。宙を漂う蝶のように儚い物だ。
だけど、その術のおかげでアリスも霊夢も幻想郷には無い海を見れた。
その潮風を、その凪を、その営みの一部を、垣間見る事が出来た。
「それに、改めて世界の広さって物を思い出せたしね」
 そう、世界はどこまでも広い。そんな当たり前な事でも、ふとした折に忘れがちになりがちだ。
その意味では、今回の旅でその事を再確認できた。
 そんな感慨混じりのアリスの言葉に、どこか上の空で霊夢は頷いた。
 そのまましばらく、霊夢はぼうっとしていたが、上海がお茶を淹れてきて、アリスがその湯呑に口を付けようとすると、声を掛けてきた。
「……ねえ、アリス」
「なあに、霊夢」
「―――――」
「え? もう一度言ってもらえる?」
 猫のように布団で丸くなっている霊夢が、ぼそぼそと何か呟いたが聞き取れない。
「…………魔界の海。アンタがよければ、いつか連れてってくれない?」
 ふいな霊夢の申し出に、アリスは思わずその顔を見返した。
 蒲団に埋めている霊夢の顔が朝の陽射しに照らされて、ほんのりと赤くなっている。
「……アンタは幻想郷中巡ってるのに、私は魔界の一部しか行ってない。――不公平よ」
 霊夢の物言いはぶっきらぼうで、どこか不機嫌そうな響きだったが、知らず知らずアリスは口元を緩め、旧友に微笑んでいた。
「……そうね。霊夢がよければ喜んで」
 その笑みのまま、空に目を移す。
 朝の空は、あの海のように澄んだ色をしていた。

                                                                                     fin
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コメント



0.510簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
アリスと霊夢の組み合わせは昔なら良く見たものだけれど今は見なくなってて、正直懐かしく思いました。
面白かったです。
5.100奇声を発する程度の能力削除
良いですね、面白かったです
6.100名前が無い程度の能力削除
実に良かった
ありがとうございます
7.90名前が無い程度の能力削除
縦書きでページ割で、この上なく読みにくかったけど、内容は面白かった
9.100名前が無い程度の能力削除
メルヘンな感じでよかったですね
昔のそそわを思い出しました
11.80kosian64削除
とても綺麗な文章と霊夢とアリスの会話でほっこりしました。
最後に霊夢が嫉妬するのも好きです
12.70名前が図書程度の能力削除
小旅行というかPVのような、映像的な作品でした
13.100南条削除
面白かったです
旅を経て2人の仲も少し進んだように感じられて良かったです
14.100yuya削除
2018年になってレイアリを書き始める人がいるとは思ってませんでした。感謝しかない。綺麗な情景が浮かぶいい雰囲気のお話でした。
また別のお話というのも読んでみたいです
16.100名前が無い程度の能力削除
こういう旅を題材にした作品というのは実に良いものですね
登場人物達と一緒に自分も旅をしているような気になって
とても心がワクワクします
その旅先に美しい景色が広がっていれば尚更に

ともあれ、とても面白かったです
19.80大豆まめ削除
電車は明らかに幻想郷にないアイテムなのに、幻想少女たちを乗せるとなぜか絵になるし、話になる。
ノスタルジーでメルヘンな素敵なお話でした。