Coolier - 新生・東方創想話

【海路の旅人】

2018/01/07 00:05:06
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「ねえ。さっきから何見てるの?」
 昼下がりの博麗神社で、外からの絵葉書を見ていると霊夢にそう尋ねられた。
「ルイズ姉さんから葉書が来たの。ちょうど今、外の世界にいるらしくて」
 アリスはそう答え、霊夢に葉書を手渡す。
 二番目の姉のルイズは、長女の夢子と異なりかなりの自由人だ。
 一年のほとんどを外の世界で過ごしており、魔界に戻ってくるのが年で片手の指で足りる頃もあった。
 ただ、定期的に旅先から手紙が届けられており、馴染みのない外の写真はアリスの密かな楽しみでもある。
「ふうん。同じ姉妹でも、いろいろいるのねえ」
 霊夢は気のない返事をすると、絵葉書を写真の方に裏返した。
「今は、ヴェニスっていう外の街にいるらしくて、しばらくそこにいるみたい」
「…………」
 そう付け加えたが、霊夢の返事は戻ってこなかった。
 見ると、霊夢はポカンと呆気にとられた様に写真を眺めていた。
 そこには空の色とまったく同じぐらいに蒼い水に浮かぶ西洋の街並みが写っている。
「……ねえ、この街湖に浮かんでるの? それとも外にある河童の街?」
 霊夢は目を瞠っていた。
「どちらも違うわ。これは海で、海の都って呼ばれてるんだって」
 へえ、と霊夢は声を漏らすと、更に食入る様に写真を覗き込む。
「――アリスは、海を見た事あるの?」
「一度だけ。魔界にある海だったんだけどね」
 小さい頃、母と姉に連れられ見に行った時の話だ。
 ただ、その時見た海は写真のような穏やかな物ではなく、風に巻き上げられ、波が背を越える程の高さまで絶えず押し寄せていた。
 高台にいても飛んでくる飛沫や波に、当時はただただ圧倒されていたのを思い出す。
「ふうん。私も月で一度見たけど、こんな感じじゃなかったわね」
 絵葉書を卓袱台の上に置くと、霊夢はすっと目を細めた。
 海のない幻想郷では見られない世界。その事に思いを馳せているのだろう。
「霊夢は海、見たいの?」
「見たいといえば見に行きたいけど――」
「……」
「アリス?」
 急に考え込む仕草をしたアリスに、霊夢は首を傾げる。
「なら、今夜一緒に海を見に行かない?」
 その提案に霊夢はえっ、と意外そうな顔を向けた。

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