Coolier - 新生・東方創想話

第一回幻想郷ドッジボール大会

2017/12/13 21:41:12
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幻想郷第一回ドッジボール大会 一回戦 第三試合 
アンリミテッドパワーズ VS ヒロインユニオンズ

 頬を叩いて気合を入れる。さっきの第二試合はひどい内容だった。誰一人として幽香の暴走を止めることができずに仙人チームが大惨敗を喫したのだ。博麗の巫女として気を引き締めなければならない。
「おいおい、霊夢にしちゃ気合入りすぎじゃないか?」
「はん、私にしたらこれがいつも通りよ」
 魔理沙が両手を広げて“それはどうだか”とあからさまな態度だ。
 試合会場はメディスンがモウセンゴケにハエトリグサの毒をすべて抜いてようやく沈静化しつつある。
 今現在、自分のチームの妹紅が食獣植物を焼き払っているところだ。草の始末が終われば諏訪子がコートを元に戻す。
 第三試合が開始されるまであと十分ぐらいだろう。
 視界の端には萃香が映る。酒を片手に上機嫌なご様子だ。相手のチームは勇儀に萃香に、射命丸、白狼の……椛だ。あと……誰だ、五人目は? 姿が見えない。
「ねえ、魔理沙。相手チームの五人目って誰だかわかる?」
「あー……、はたてだよ。今、医務室で寝てる」
「? どういうこと?」
「多分だが、勇儀と萃香がつぶしたんじゃないか? めちゃくちゃ酒の匂いがしてたぞ」
 不意に視界が陰る。そして風が吹き抜ける。こいつは天狗の射命丸だ。
「やあやあ、お二人さん。私たちのチームのお話ですか? 良ければ情報提供しますよ?」
 白けた目で射命丸を見る。魔理沙はニカッと笑っている。私たちのチームの意見を代表してくれたのは魔理沙だ。
「敵の塩はいらないぜ? 知りたいことは自分で知る。お前もそうだろ?」
「あややややややや、残念です。等価交換でそちらのチームのことを聞きたかったんですがね」
「お前の情報料は高すぎだぜ? こっちはお前たちのチームで知りたいことなんてないんだからな」
 魔理沙の言葉に笑顔で答える射命丸。
 一瞬、目を細めると、瞬間移動の如く魔理沙の目の前に移動する。意識の隙をつくとかじゃない。ぶっちぎりの幻想郷最速のスピードだ。
「魔理沙さん、楽しみにしています。速い方がボールを取る。単純明快な勝負ですからね」
 瞬く間に翼を翻して目の前から消える。
 最速のあいつに速さを意識されたせいか魔理沙が震えている。
 開幕直後にボールの早取り競争をしましょうと言われたのと同じだからだ。
「霊夢、絶対に手を出すなよ? 私の勝負だぜ?」
「わかってるわよ」
 私は視線を相手チームに向ける。射命丸の指示で椛が救急所に走っていった。
 いよいよ第三試合が開幕する。
 自分のチームの面々を確認する。天子、妹紅、アリス、魔理沙、そして私……体調は万全、策は十分、ただし気持ちは高鳴っている。
 相手チームの萃香と勇儀は上機嫌、射命丸は不敵に笑い、椛は呆れていて、椛に背負われたはたては完璧にくたばっている。
 両チームがコートに入場する。
 地面を見る。結界を見る。ボールをみて、相手を見る。視線が合ったのは敵の主将、伊吹萃香だ。
「霊夢、いい顔するじゃん」
「萃香、無駄なおしゃべりはいらないでしょ」
 入念に足場を確認する。第二試合の影響は皆無だ。
 鬼たちが「早く始めろ」と審判をせかす。
「チーム、ヒロインユニオンズ良いか?」「O.K!!!」
「チーム、アンリミテッドパワーズ良いか?」「来いやあ!!!」
 審判が息を吸ってホイッスルをくわえる。笛が鳴ったら試合開始だ。
 審判の笛を吹く動作がゆっくりに感じるほどに集中する。 
 勝敗は一瞬、コンマ以下の時間で魔理沙が敗退する可能性がある。私には介入不能の戦いが始まる。
 笛の音を聞いた時には二つの影がボールに突進していた。
 相手チームは絶対に射命丸。こちらのチームは魔理沙に決まっている。
 魔理沙は自分の足で八卦炉を使った。マスタースパークの反動を使って瞬時に距離を詰める。射命丸は天狗の秘術だろう。
 ボールに近いのは射命丸か? 
 二人とも減速なんてしない。最大速度でボールに突っ込んだ。鈍い音が響く。
 ボールを奪い取ったのは魔理沙だ。ボールを高々と掲げて勝利を示す。
 射命丸を見れば額から血が出ている。
 そしてそのまま魔理沙があおむけに転倒した。魔理沙も額から血が出ている。
 即座に審判にタイムを申告する。
 この間実に二秒!
「ちょ、ちょっと魔理沙大丈夫!?」
「あ~、やったぞ霊夢、射命丸に勝ったぞ」
「いいから! おとなしく救急所に行きなさい」
「は~い」
 だいぶ魔理沙の言葉がおかしい。額をぶつけた衝撃で昏倒寸前のようだ。射命丸を見れば流石に天狗、悔しそうな顔で地面をたたいている。
「私のほうが速かったのに!! 到達速度なら勝っていたのに!!」
「言うな。魔理沙の本職は盗賊だろう? 物を盗る技術で負けたんだ。別に悔しがることじゃないさ」
 勇儀は詳細が見えていたらしい。射命丸をなだめている。
「獲物を前にした魔理沙の顔すごかったねぇ。お前は確かに移動速度なら勝っていたよ。ただ最後に、お前は速さで勝って安心したよな? 全身全霊でボールに手を伸ばした魔理沙の勝ちさ」
 射命丸の瞳に悔し涙が浮かんでいる。単純なロケットスタートだけなら射命丸が勝っていた。ただその速度の最中、目標に向かって手を伸ばす技術がなかった。
 勇儀が優しく背中を押して救急所へ促す。
 審判の裁定は、ボールはヒロインユニオンズ、魔理沙と射命丸が復帰するまで試合は一時中断している。
 こっちではボールの扱いについて話し合いが行われる。
 やる気になったのは妹紅だ。
「霊夢、ボールをかしてくれ。私が鳳・翼・天・翔で一網打尽にする」
「……ピチュらせたら失格なんだけど……まあ、萃香なら平気か、魔理沙がボールをくれたらいいわよ。ボールを取ってくれたの魔理沙だし、ボールの優先権は魔理沙にあるのよ。私は代理で預かっているだけ」
 十分もして意気揚々と魔理沙が戻ってきた。射命丸も……だが、完全に顔が死んでいる。
「おう、霊夢。試合はどうなった?」
「あんたが戻ってくるまで中断、魔理沙、妹紅が投げたがってるんだけど任せていい?」
「いいぜ。妹紅、一発ぶちかましてやれ」
 ボールを受け取ると妹紅がその気で燃え上がる。
 審判が試合再開を宣言し、決戦が始まる。
 妹紅の視線の先は……鬼の萃香!
「いくぜぇ、鳳・翼・天・翔!」
 燃え上がる炎でボールを打ち放つ。炎は十分にボールに染み込んでいる。着弾と同時にフジヤマヴォルケイノが発動する。普通なら取れない。そしてよけるのすら困難なスピードだ。
 萃香が炎をものともせずにがっしり押さえつける。その時すでに天狗の三人組ははるか上空に退避済み。反射神経ですら天狗はけた外れだ。
 鬼が二人で噴火の直撃を浴びる。
 相手コート全面が炎の海だ。
 妹紅がガッツポーズを決めている。
「やりぃ! これで――」
「これで?」
 相手コートからの声かけに妹紅が驚いている。
「で? なんだ? ふじわらの? いいボールだったけど、まさか取れないなんて思ってねぇだろうな?」
 爆心点から声がする。
 酒臭い吐息をあたり一面に吹き付けて炎を吹き消す。
 鬼の頭領、伊吹萃香である。簡単には倒せない。
「まあまあだ。人間にしたら上出来じゃないかな?」
 妹紅の顔に冷汗が滴る。伊吹萃香が振りかぶった。
「鬼の強さ見せてやるよ」
 決して全身を躍動させたわけではない。肩から先を振り抜いただけ……体重の乗ってない。いわゆる手投げって奴だ。
 妹紅が瞬時に壁にたたきつけられる。
 こちらが声を上げる暇すらない。
 妹紅を心配しているのはむしろ勇儀、それだって優しいからじゃない。
「お、おい萃香、いくらなんでもありゃもったいないぞ。まだ私は直撃されてないんだからな」
「いいじゃねぇか。今、気分が乗った。それだけの話だろ?」
 舌打ちしている勇儀をよそにこっちはおおあらわで妹紅を助け起こそうとする。
 体をアリスに拘束されて目隠しされた。天子が岩を屹立させて妹紅を隠す。
「ちょっと待って二人共、多分、あんたたち人間には刺激が強い」
 岩の隙間から炎が漏れる。
「フェニックス再誕」
 妹紅が岩をぶち砕いて出現する。
 ボールは……炎で浄化したらしい。
「萃香、お前は……」
「わかってるよ。霊夢と魔理沙、アリスには加減するさ」
 その言葉を聞いて、舌打ちすると妹紅はポケットに手を突っ込んでぶっきらぼうに試合場から出ていく。
 ボールは天子が持っている。不良天人とはいえ、実力なら人間の及ぶところではない。
 それを見て嬉々として前に出ていく奴がいる。星熊勇儀だ。
「今度は天人様か……今度はこの星熊勇儀を狙ってみな。損はさせないよ?」
 見るからにパワー系、横に立つ鬼の頭領ですら腕力の一点なら勇儀には及ばない。
 そいつが試合場の真ん中に進み出て自分を指さしている。
 天子はそれにこたえるようだ。持ってきた要石と持前の能力で自陣コートの地形を変える。
 天子が変えた地形を簡単に言えば専用のロケット発射台のようなもの……もちろん射出するロケットはボールを持った比那名居天子で目標は足を踏ん張った星熊勇儀だ。
「ははははは、いくら鬼が頑丈、とはいえ天人パワーと、要石の自然の力には勝てないだろうな」
「いいから早く来な。まちどおしいじゃないか」
 地面にためたエネルギーを天子の足元で解放する。ボールは投げてない。ボールで直接ぶんなぐってアウトにする気だ。
「アースロケットナックル!!!」
 もはやそれは球技ではない。流石に不良天人、ボールを持ったまま殴り掛かるとか、普通の人間なら思いつかない。でも相手は星熊勇儀だった。
 比那名居の腕をつかむとボールを胸に押し付けて振り抜かせない。アースロケットの威力で自分のコートの中央まで押されたものの完全に取り押さえてしまった。
「いいねぇ、さあ、今度は私の番だな」
 片手で天子の腕をつかんだまま、腕力でボールを奪い取ると、すぐに振りかぶっている。
「えっ!? ちょっとタンマ――」
「勝負は待ったなしさ」
 おなかにボールが直撃した状態で天子が返ってくる。そのままの姿勢で結界にたたきつけられた。そして、うつぶせに倒れる。
「ははは、これでツーアウトかな」
 天子はおなかを抑えたままうずくまっている。またも試合中断、天子が自力でコートを出ていくまで五分ほど試合が止まった。
 勇儀と萃香が審判から説教を受けている。
「次、同じことをしたらチームごと失格処分にします」
「お、おいっ、そりゃないぜ。これだって浮かれそうな気分を抑えて、だいぶ手加減してるんだ」
「あれが手加減? あんなのは手加減とは呼びません!! 鬼を基準に考えているようですが、人間や妖精を基準にできないのなら参加資格なしです。理解できませんか?」
 勇儀と萃香が悔しそうな顔をしている。
 二人共、優しくアウトを取ることを誓わされている。
 ようやく試合が再開する。
 ボールはヒロインユニオンズ……だが、主力メンバーが早々に鬼に喧嘩を売ってリタイアした。もはや、打つ手なしか?
「ボールを貸しなさい。ドッジボールだって頭脳戦よ」
 アリスが人形を飛ばす、人形は手持ちの武器で地面を、結界を突き刺して四方八方に固定される。
注力「トリップワイヤー」
 アリスは人形にワイヤ―を取り付けている。そのワイヤーを操作しながらボールを投げる。
 ボールが空中でバウンドする。ワイヤーによって立体的な動きを生み出している。
「さあ、アウトになりたい奴は誰かしら?」
 言葉で鬼を挑発する。
「背中を狙ってほしい? それともつま先? お尻なんてどうでしょうかね?」
 鬼はゲラゲラと笑っている。
「おい萃香、尻を狙われたのはいつ以来だ?」
「今が初めてだ」
 アリスは言葉尻をとらえられて顔が真っ赤になっている。
「揚げ足を取るな!!」
 ワイヤーが跳ねる。ボールに当たったのは天狗の椛だ。はたてを背負っていた分、動きが鈍かった。
「椛選手アウトです」
 鬼に頭を下げて椛が退場する。
 ボールはアリスが人形を使って即座に回収している。
「どうよ、鬼に注目を集めておいて油断している奴をアウトにする。これが頭脳プレーって奴よ」
 鬼が爆笑している。
「アリス、悪いけど、天狗を片付けたところで萃香と勇儀どうすんのよ」
「こっちには三人いるでしょうが。試合時間まで逃げ切れば三対二でこっちの勝ちよ。よけるのは得意でしょ?」
 アリスが試合再開と同時に倒れているはたてをアウトにする。ボールはまたもアリスが回収した。
「何? あいつ、試合開始からほとんど動いてないんだけど?」
「萃香と勇儀が酒でつぶしたんじゃないかって言われたけど?」
 勇儀が笑って「萃香がやった」と告白する。萃香は萃香で「文と椛が来ないのが悪い」と断言している。
 これで、三対三……しかしここからの難易度は壮絶極まる。幻想郷最強腕力コンビと最速が相手になる。気を引き締めなおさなければならない。
「狙いは射命丸で行くわよ」
 この言葉が誘いなのか、嘘なのか、事実であるかすらわからない。アリスの不敵な笑みは誰を狙ったものかすら読ませない。
 アリスが投げたボールはまたもワイヤーアクションで立体軌道をえがいて飛ぶ。
「やられっぱなしはよくないか。そろそろ本気出すかな」
 勇儀が一つのワイヤーに手をかけて軽く引く。あっという間にアリスが体勢を崩す。萃香も両手で疎と密を操る能力を発動してワイヤーを手元に収束させてしまう。
 空中で制御を失ったボールは射命丸が抑えた。
「アリス、すぐにワイヤ―を手放して!!!」
 手放したのを見計らって勇儀と萃香がワイヤーを引く。アリスの繰り出した人形がすべて相手コートに集結する。
「本当ならワイヤーで綱引きしたかったんだが……ま、アリスじゃ話にならんな」
 ぞっとする話だ。そんなことされたら体を持っていかれてしまう。
「さて、ボールは頂いたし、アリスを仕留めて三対二の作戦もいただこうか」
 この言葉にアリスが怒った。
「綱引き……やってあげようじゃない」
 アリスのとっておき、ゴリアテ人形が召喚される。見上げるほど大きい、重量もそれなりにある。
 鬼が思わず感嘆の声を上げた。射命丸にボールを相手に渡すように指示している。
 アリスの手元にボールが移るが……なめられていると感じたらしい。鋼線ワイヤーを巻き付けて鬼に投げ返す。綱の持ち手はゴリアテと勇儀。
 勝手に綱引きを始めた連中に審判は呆れているが「合図!!」と言われて掛け声かけているあたり、早く終わってほしいのかもしれない。
 勝負結果は想像の通り。勇儀が片手でゴリアテ人形を引き倒した。
 ゴリアテ人形の転倒に巻き込まれてアリスまでもひっくり返っている。
 そして、目の前で鋼線ワイヤーを引きちぎってボールを射命丸に渡した。
「鬼は鬼ですねぇ」
 のどかな声をかけながらも射命丸が倒れたアリスの足を狙ってアウトを取る。
 アリスが握り拳を作って悔しがっている。
 ボールは魔理沙が抑えた。


「アリス、待ってな。仇は取ってやるからさ」
 魔理沙がボールを取るなら射命丸が前に出る。
 射命丸は中央ラインぎりぎりまで前進する。
「勇儀様、魔理沙は私がもらいます。良いですよね?」
 勇儀が笑って射命丸に手を振る。それを了承と見て取った射命丸の目が輝いている。
「魔理沙さん、第二ラウンドです。最速の動きについてこられますかね?」
 射命丸の挑発に魔理沙が乗る。ボールを持ったまま中央ラインに接近する。
 天狗史上、最速の射命丸を相手に人間が挑む。天狗の仲間だってはだしで逃げ出す最速勝負だ。
 二人共つま先は中央ラインを踏んでいる。
「魔理沙さん。お得意の早撃ちでどうぞ」
「なめすぎだぜ?」
「相手の得意分野(早撃ち)で徹底的に圧勝する。そうでなければ最速のプライドは取り戻せません」
 天狗の射命丸が翼を広げて集中をする。
「一掠りで負けを認めますよ」
「これはドッジボールだぜ?」
 言葉とは裏腹に魔理沙は背にボールを隠してマジックミサイルの粉を振りかける。隠し玉にするのだ。
「合図は?」
「お好きなように、どうぞ」
 魔理沙も集中する。目の前にいるのは史上最速……生中な手では出し抜けない。
 魔理沙の右手が動く。
 瞬間、射命丸の左手が逃さずつかむ。
 魔理沙の口の端がゆがむと同時に左手が動く。それをわずかな筋肉の動きだけで感知して射命丸が右手で抑える。
 ここで魔理沙は同時に右のかかとで背中のボールをけり上げている。サッカーで言うならヒールリフト。一瞬足元を意識させておいて、真上からマジックミサイルでぶち抜く!
 その作戦を、魔理沙の余裕の表情から感知する。
 感覚を研ぎ澄ませた天才は、並大抵のレベルではない。
 射命丸がボールに感づく。見上げると同時に魔理沙が魔法を発動する。
「マジックミサイル!」
 魔理沙からすれば驚異の反応、至近距離からの不意を突いたはずの高速のマジックミサイルを体を仰向けにひねるだけでよける。
 直感で足を延ばした。ちょうどヒールリフトで目の前に来たボールをけり上げるような格好だ。
 熱いし痛い、でもそれ以上に勝ちたい。
 けり上げたボールが射命丸の胸に直撃する。
 そのまま、射命丸が倒れた。
 本日二回目のガッツポーズ、寝たままの射命丸が呆れて笑っている。
「四段フェイントですか?」
「いいや、四段目で仕留める気だった。五段目は直感の偶然さ」
 射命丸が笑顔でお手上げしている。
「目標は高いほうが超える価値があります。今日は負けを認めますよ」
 射命丸が口に手を当てると翼でボールをはじいてこっちのコートに転がしてくれた。
「是非、勝ち残ってください」
 アウト宣告の後、射命丸がコートを出ていく。これでようやく二対二……残りは射命丸以上の怪物だ。
 ここからせめてアウト一つを取らないと勝てない。それでもってこっちがアウトを取られたら致命傷になる。
 これからが本番ってことだ。
 射命丸がくれたこのチャンスを絶対にものにしたい。


「魔理沙、一球だけ任せてくれない?」
「いいぜ。霊夢、ぶちかましてやれ」
 ボールを受け取ればやることは決まっている。
霊符「夢想封印」
 ボールが輝き始める。そして複数の陰陽玉が現れて同じように輝きだした。
 すさまじい速さでシャッフルする。
「……勇儀悪いけどあんたを仕留めるわ」
「おお、私か~。良いぜ、来いよ」
 霊夢の考えでは流石の夢想封印でも萃香なら一か所に集めてしまう。おそらく通じない。
 ならば狙いは星熊勇儀、六方位からの同時アタックなら、手足が四本しかない以上理論的に取れないはずだ。
 確率六分の二……こんな比率で勇儀をアウトにできるなら上出来だろう。
「最強のホーミング弾よ! 絶対命中! いっけぇ~!」
 六つの光の球を操作する。高速でかつランダムな動きのボールで勇儀の周囲を取り囲む。
「うっは、きたきた。さあてどれが本物かな~」
 手をすり合わせて、舌なめずりしている勇儀は楽しそうだ。
「行け! 全発同時着弾!! 爆!!!」
 手で印を切ってボールを接触させる。そして同時に力の開放、爆風でボールを吹っ飛ばす。
 これならアウトになるはずだ。アウトに……くそっ、できなかった。
 勇儀ではなく萃香がボールを持っている。
「萃香~、誰がカバーしてくれって言ったんだ?」
「言うな。残った私が興奮したら誰が抑えてくれるんだ?」
 萃香が爆風で飛んだボールを回収してしまった。
 その手法は呆れるしかない。自分を霧状にしてコート全域をカバーし、爆風で飛んだボールを中心に結集する。どうやってアウトにしろというのだ?
「そらよ。悪かったな」
 萃香がとったはずのボールを転がしてこちらに渡してきた。
 ボールは魔理沙が拾う。小声で話しかけてくる。
「霊夢……何か手はないか?」
「……あとは、亜空穴で背中にボールを落とすとかかな」
「馬鹿か? 聞こえてんぞ」
 萃香が自分の耳を指している。計画はパァだ。
 仕方なしにさらに小さい声で魔理沙が“私がやる”と言った。
 コート中央でボールを浮かべる。ボールの後ろに回って、八卦炉を両手で構える。
「ふふん、元から小技になんて期待してないぜ。食らいやがれ! これが私の全力!!
 恋符、マスタァーーースパァークー!!!」
 叫び声とともに強烈な光が放たれる。その直線上には萃香がいる。
 両手を広げて捕球の体勢、顔には強烈な笑み。ボールを抱きかかえると同時に光に飲まれる。
「―――はぁ、はぁ、どうだ。これなら」
「カフッ、煙吸い込んじまった。ゲッフ、いや、実にいいね。素敵な一撃だ」
 魔理沙が言葉を失う。“直撃さえすれば”なんてそんな考えを頭からねじ伏せてしまう。人間じゃどうあっても届かない、簡単に言ってしまえば絶望を押し付けてくる。
 鬼の頭領である。ダメージなんてほとんどない。光に飲まれて発熱した体が蒸気を噴き上げているだけだ。
「魔理沙、もう一回だ。今度はアウトが取れるかもしれないぞ」
 余裕でボールをこちらに転がしてくる。
 開いた口が塞がらない。どうやって倒せと? こんなバケモノを。
 魔理沙があまりの現実に膝をついている。ボールは私が止めた。
 試合時間は休憩を除いても十分を超える。あと少しでタイムアップ、そうなれば萃香とのタイマン勝負になる。夢想天生なら……ダメだな、存在がある以上は貫通判定になるはずだ。
 今この場で、勇儀か萃香のどちらかを倒さなければ勝ち目がない。
 魔理沙と二人でなければだめなんだ。
 必死に考える。
 あと私にできる技はないのか? ボール転送……威力が低すぎて萃香の能力に勝てない。
 夢想封印の乱れ撃ち……霧化した萃香に止められてしまう。結界……連中なら腕力で破れる。拘束にならない。
 魔理沙の技もブレイジングスターにサングレイザーでは無理だろう。直接殴れるならともかく、ボールを介している時点で威力が落ちすぎる。大体連中は直撃を笑顔で済ませるほどの馬鹿力だ。
 もはや打つ手なし。
「どうした? 人間のくせにあきらめる気か? 悪あがきはしないのか? しぶとく工夫を凝らしてかかって来いよ。まだまだ勝負はこれからだろうが」
 萃香に“悪あがきをしろ”と言われても何も思いつかない。私はこういうところがダメだと思う。工夫の仕方を知らない。直感が先走りすぎてこの先が読めてしまう。
 すっくと魔理沙が立ち上がる。
「クッソ、こうなったらヤケだ! 霊夢力を貸せ!!」
 目でどうするのかと問う。
「あれだ、封魔陣。あれでボールと八卦炉を閉じ込めろ!! 私が八卦炉の力を全開にする!!!」
 ピンときた。流石、魔理沙だ。努力の仕方を、工夫のやり方を知っている。
 拡散しがちなマスタースパークの威力を結界の力で漏らさず使えれば? 行ける! これしかない!!
 即座に魔理沙の後ろにまわる。
 ボールを手渡すと魔理沙が有無を言わさずに構える。私はそれに合わせるだけだ。八卦炉の大きさぴったりの八角柱の結界をボールに接続する。
「魔理沙、狙いは?」
「萃香に決まってるぜ」
 八卦炉にとんでもない魔力が集積していく。狙いを定められた萃香は口元がにやけて止まらない。
「ボールにも今筒状の結界をかぶせたわ、二重パイプみたいになってるからマスタースパークの力は全部ボールに伝わるわよ」
「ちっちっち、霊夢、マスタースパークじゃない。撃つのは魔砲「ファイナルスパーク」だぜ」
 呆れた。工夫も最大限に行う気か……途中で結界が壊れたら私の力不足なのかな……面白いじゃない、全力であなたの技についていってあげる。
 二人の意思をそろえて萃香に向ける。萃香はもう待ちきれない様子だ。
「さあ! 来い!」
「とれるもんなら取ってみやがれ!
 魔砲「ファイナルスパーク」!!
 これできまりだあぁ!!!」
 強烈な光をレーザーの様に収束させてぶっぱなす。力はまき散らされずに一直線にボールを押す。まっすぐ、あまりに速く、そしてまばゆい。
 弾道上の萃香に直撃する。
 萃香は両手で抑え込んだ姿勢のまま後ろに吹っ飛んでいく。
 如意棒の様にまっすぐ伸びた光の筋が相手陣地の結界まで伸びる。
 輝きはますます強くなる。
 ……魔理沙、いくら何でも魔力をぶち込みすぎじゃない? 
 力を抑え込んでいた結界に限界が来る。
 ひびが入った段階で魔理沙を抱きかかえた。次の瞬間には亜空穴ではるか上空に瞬間移動……制御を失った力が眼下で炸裂している。あまりの余波に二人とも巻き込まれた。


 ……目を開ける。ちょっと気絶していたらしい。
 横では魔理沙が同じように伸びている。
 こっちを心配そうにのぞき込んでいるのは勇儀だ。
「おお、霊夢は起きたか」
「頭痛い……萃香は?」
「あ~、あいつはあそこだ」
 勇儀が指さす先には、射命丸に酒を注がせている萃香の姿があった。
「お~、霊夢起きたか? 無事で何よりだ」
 萃香はコートの外……っということは?
 勢いよく跳ね起きる。あたりを見まわす。相手コートは勇儀だけだ。
 萃香に再び視線を送る。
「参った。手が滑ってはじいちまったよ。私はアウトだ」
 ぐっと手を握る。鬼の萃香が陥落、残りは勇儀のみ。
「お前たちが気絶してる間はタイムがかかってる。魔理沙が起きたら、残り時間二分で試合再開だ」
 ようやく魔理沙の目がうっすらと開く。
 手をついてふらふらと上半身を起こす。なんだか頼りない。全部の力を使い切ってしまったのだから無理もないか。
 背中をさすって様子を見る。
「れいむ、ごめ、っぶ、 はぁ~。……ごめん。続けられない。私はここでリタイアだ。あちこち痛い」
 手を貸して立ち上がらせる。私もダメージは抜けきってない。体重を預けられてひっくり返りそうになった。
 審判に魔理沙のギブアップを告げて救急所に連れて行ってもらう。
 それを見ていた勇儀が残念そうにしている。
「残念だねぇ……私もさっきの技を受けてみたかった。まあ、仕方ないかな。
……よっし、じゃあ試合再開しようか」
 この鬼は化け物だ。あれだけのエネルギーの余波の直撃を受けて全く動じていない。こっちはあおりを受けただけで体ががたがたなのに……?
 そういえば地面に落ちた時の記憶がない。起きたときは土の上だった。そんなに低く亜空穴で移動したわけではないのだが?
 余波を受けて結界にたたきつけられたところまでしか記憶がない。
 ボールはこっちのコートに落ちている。……おかしい。ボールはエネルギーの余波であちこち跳ねまわったはずだ。都合よくこっちのコートに落ちていることがあり得ない。さらに言うならちょうどこっちのコートの真ん中だ。
 ……勇儀、こっちのコートにわざわざボールを置いたな? ってことは?
 思わず萃香をにらみつける。
 どうしようもない巫女としての直感だ。
「萃香、あんたまさか、私たちを助けてないでしょうね?」
 萃香がきょとんとしている。“どこでばれた?“って顔だ。
 ……呆れた。こいつら捕球もそこそこに、こっちの救助活動をしていたのか?
「勇儀、私をキャッチしたのはあんた?」
 勇儀が質問した私じゃなくて萃香を見ている。二人で視線をかわして肩をすくめる。
「ああ、私だ。流石に気絶したまま頭から落ちたらまずいからな」
 同時に魔理沙のダメージがでかかったのも納得がいく。萃香がキャッチしたのだ。勇儀は体がでかい分やわらかく受け止めることができる。だから私のダメージが比較的少なかった。
 ……つまりこいつらは、気絶した私たちの救助活動をして、ボールまでおいていったわけだ。普通なら馬鹿にされていると思うだろうが……この連中は馬鹿にしているわけではないだろう。……私たちの力を認めて、終わるのが惜しいと思ったからだろうな。
 連中は力比べ至上主義といったらいいだろうか? 力を受けてそれをねじ伏せる。そんなことを喜びとしている連中だ。だから本気でボールをぶん投げるのが連中に対する礼儀なのだろうが……私は人間だ。
 助けられたことを無視して攻撃をすることなんてできない。恩人にボールをぶつけて、勝利宣言できるほど神経が太くない。
 勇儀であれば夢想封印で恐らく撃ち取れる。だけど、気絶して地面にたたきつけられる前に抱き留めてくれた相手を、そっと寝かして起きるまで待っていてくれた奴を撃ち取ることができない。
 完全に戦意がうせてしまった。
「……無理、戦う気がなくなっちゃった。
 審判、ギブアップ。降参する。
 勇儀、萃香、次は絶対に迷惑かけないように遊んであげるから、今日は見逃して」
 勇儀が頭を掻いている。
「霊夢、助けたことなら別に気にすることはないんだけど」
「……鬼基準ならそうなんだろうけど、私は人間なのよ。心が乗らない。ごめんなさいね。あと助けてくれてありがとう。
 審判、早く。勝者にコールを」
 霊夢にせかされて映姫が勝利コールを行う。
 試合は大バトルが行われた割にはあっさり幕引きが行われた。
 勇儀が渋々片手をあげて勝利をアピールする。全くをもって本意ではない勝ち方という感じを受ける。


「あ~あ、惜しかったなぁ。私も霊夢と魔理沙の合体技を味わってみたかった」
「いうな。魔理沙の体をもっと私が優しく捕まえていたならな、こんなことにはならなかったのにな」
「……助けた時点であの二人は戦意をなくしますよ」
 二人の会話に射命丸が割って入る。射命丸が指差した先ではヒロインユニオンズが霊夢の英断を温かい拍手で迎えていた。
「あれが人間か」
「甘いんじゃないのか? 優しいとは言わねぇぞ」
「それは鬼が基準だからですよ。私は付き合いが長いから少しはわかります。恩を仇で返すわけにはいかないんでしょうよ」
「恩は力で返してくれればいいのに」
 口惜しそうな勇儀を見て射命丸が呆れている。まあ、相手は旧都最強の鬼だ。普通の考えは通用しない。二人の意思を次に向けてしまおう。
「それより、お二人共、次は人間じゃありませんから。楽しめそうですよ」
 射命丸の言葉に誘われて視線を観客席側に向ける。
 妖怪観客席の最前線、各チームの集団の中、こちらに闘志をぶつける一団……チーム紅魔……吸血鬼姉妹率いる次戦の相手だ。
 視線の先でフランドールが早く早くと訴えている。
 勇儀と萃香はそれで気が変わった。
「勇儀よ、こう考えないか? 霊夢は第二戦を譲ってくれたってな」
「ああ、そうだな。助けた代わりに次の相手を用意してくれた……十分だ」
 勇儀が吸血鬼姉妹を手招きしている。それでフランドールが跳ね上がるが、レミリアが押さえつける。
 今にも暴発しそうなフランドールを見て鬼が笑う。
 第二回戦、第三試合は壮絶な撃ち合いになる。射命丸にはただあきれることしかできなかった。

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