Coolier - 新生・東方創想話

貴方の月は、綺麗ですか?

2017/10/08 17:35:41
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「いやぁ、いい月ね」
「ん。そうだな」
 時は流れて、日が沈み。霊夢と魔理沙は、そろって縁側に腰かけていた。握り拳数個分ほど空いた二人の隙間には、団子と徳利、それぞれのお猪口が置かれていた。
 昼間から天気は変わらず、雲はほとんどなく。およそ月見には最高と言えるであろう空が広がっていた。
「たまには、こうやって二人でゆっくり飲むのも、悪くないでしょ?」
 徳利からお猪口に酒を注ぎつつ、霊夢はそう言った。
「うん、悪くない。ほんとに昔を思い出すぜ」
 魔理沙は、自分のお猪口に注ぎ終えた霊夢に、ん、とお猪口を差し出す。そのくらい自分でやりなさいよ、そっちこそこれくらいいいじゃないか、と言うやり取りの末、霊夢は魔理沙のお猪口にも酒を注ぐ。
「団子も酒もうまいし、月も完璧に見えてる。言うことなしだな!」
 くいっと酒をあおりつつ、魔理沙はしみじみと言う。
「いつだったかの月の兎の店、ほんとに美味しいわね。また買ってやってもいいかも」
「まさか、あいつらが地球に住み着くとはなぁ」
「ほんとに」
 そう霊夢が呟いたのを最後に、しばらく静寂が訪れる。
 二人は、黙って月を見上げていた。
「ほんと、昔を思い出すぜ」
 心地の良い静寂を破ったのは、そんな魔理沙の呟きだった。
「そうね。あの頃は、私とあんたしかいなかったもの」
「そうそう。しかも、私が来るまでは、霊夢一人だったしな!友達もいなくて独りぼっちで寂しそうな霊夢を助けてやったのが、この魔理沙さんってわけだ」
「あんただって友達いなかったんでしょ?さも私が助けられただけみたいに言わないでちょうだい」
「うっ……いや、それはそうだけど!ぐっ……言い返せない……」
 魔理沙は、頭を抱えて唸る。
 プッと。昼とは違い、今度は霊夢が吹き出した。
 腹を抱え、盛大に笑う霊夢に、うんうん言っていた魔理沙も、つられて笑いだす。
 二人でひとしきり笑い、そろそろ収まってきた頃。もう一度月を見上げ、笑いすぎた涙を払いながら、霊夢は言う。
「でも、やっぱりあんたには感謝してるわ。もしあんたがあの時、神社に来てくれなかったら、私、今みたいに、楽しく月を見ることなんてできなかったかもしれないし」
「それは私だって同じだ。もし私があの時、神社でお前を見つけてなかったら、こんなに美味い酒を飲む事なんて、出来てなかったかもしれない」
「あら、お酒の味は変わらないじゃない」
「お前みたいに、気の知れた奴と飲むから美味いんだよ。わかってて茶化すな」
 顔を見合わせ、また笑う。
 二人とも月に視線を戻し、ゆったりとした時間を楽しむ。
「ねえ、魔理沙」
「なんだ?」
「本当に、月が綺麗ね」
「えっ」
 霊夢が何気なく呟いた一言に、魔理沙は小さく声を上げて固まったかと思うと、見る見るうちに顔を紅く染めた。
「魔理沙?何赤くなってるのよ」
 そんな魔理沙を不思議に思い、霊夢は魔理沙の方を見る。しかし、魔理沙は目線を合わせようとしない。
「霊夢、お前、それ、分かって言ってんのか……?」
「何がよ」
「いや、その、なんだ。知らないならいいんだ」
 魔理沙は落ち着いたように、しかし、少し残念そうに、ふぅと息を吐いた。
「なんなのよ。気持ち悪いから教えなさいよ」
「嫌だぜ。お前も多分、聞かない方がいいぞ」
「いいから教えなさいって。あんただけ分かった風にしてるの、気に食わないのよ」
 魔理沙は、はぁとおおきく息を吐くと、恥ずかしさを、紛らわせるためか、月を見上げながら観念した様に口を開く。
「わかったわかった。聞いてからなんで教えたんだ、なんて言うなよ?
「当たり前じゃない」
 馬鹿なこと言うわね、と言わんばかりの表情をする霊夢に、一つ苦笑い。魔理沙は、話しなじめる。
「昔の、有名な小説家がな?寺子屋みたいなところで英語を教えてた時に、『あいらぶゆー』を、『我君ヲ愛ス』って訳したらしいんだ。でも、その時にその小説家は、『日本人がそんなこと言うわけがない。訳すなら、月が綺麗ですねとでも訳しておけ。それで伝わるものだから』って言ったらしいんだ。まあ、その話自体、後から作られた逸話だって話なんだけど……って、霊夢……?」
 途中から反応が無くなったのを不審に思い、魔理沙が霊夢の方を見ると、霊夢は先ほどの魔理沙と同様に、顔を真っ赤に染めていた。
「なんで……」
「なんで?」
「なんでそんなこと、今教えたのよ!!」
「ほら見たことか!!だから、私はやめた方がいいって言ったんだ!!」
 霊夢は、恥ずかしさのあまり、例として辞書に乗せたいほどの逆切れを始める。
「だったら何よ!!私は、昔の話をして、お互いに感謝しあってる事を確認して、なんかいい雰囲気の中、二人で月を見上げてる時に、いきなり愛の告白をしたって事!?馬鹿じゃないの!って言うか、何言わせるのよ!!」
「うるせぇ!お前が全部勝手にしゃべってるんだろ!」
「あ~~!こっち見ないで!恥ずかしすぎてあんたの顔なんて見れたもんじゃないわ!!」
「お前もう黙れ!!こっちまで恥ずかしくなって来るだろ!!」
 ぎゃあぎゃあという叫び合いが終わったかと思うと、霊夢は顔を抑えながら上半身を前に倒し、魔理沙は頭を抱えてうつ伏せで寝転がっていた。
 しばらくそんな奇妙な光景が続き、沈黙が場を支配する。
「ねえ」
「んだよ」
 沈黙が、霊夢の声かけによって終わりを告げる。
 霊夢は上半身を起こし、魔理沙は起き上がる。団子と徳利、お猪口が、二人の間に無い事を覗けば、最初の状態に戻った形だ。
 ――最も。二人の頬の紅潮は、隠しようも無かったが。
「あんたはどうなのよ」
「どうって?」
「あんたが見てる月は、綺麗なのかって聞いてるのよ。みなまで言わせないでよバカ」
 ふむ、と。魔理沙は顎に手を添えて、少し考える。
「そうだな……」
 魔理沙は、ぽっかりと空に浮かぶ、美しい月を見上げて言う。
「月が……すごく、すごく綺麗だな、霊夢」
 それを聞いた霊夢の顔は、今まで魔理沙が見た事も無いほどに、赤く、赤く、染まっていた。言った魔理沙の顔も、紅で染めたかと思うほどに、赤くなっている。
「……ふうん。そう」
 みたび、およそ人が立てるであろう音の存在しない時が訪れる。
「……」
 月を見上げたまま、霊夢が、黙って拳数個分だけ魔理沙の方に寄る。
「……」
それに気がついた魔理沙も、同様に拳数個分だけ霊夢の方に寄る。
団子と酒が置かれていたはずの隙間は、いまや毛ほども存在していない。
霊夢が目を閉じて、魔理沙の肩に頭を預ける。
魔理沙は、それを振り払う事も無く、空を見上げながら静かに受け入れる。
四度目の沈黙、静寂が訪れる。
その静けさを破るような無粋な物は、そこには存在していなかった。
アクタです。
モチベが高かったので、創想話における二作目を投稿させていただきました。
お楽しみいただけたのなら幸いです。

https://twitter.com/akuta_0815
アクタ
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コメント



0.210簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
また月が綺麗ネタ!?
どんだけ流行ってんのマジで……
4.無評価名前が無い程度の能力削除
これ使いたがる人って大抵読んでないんですよね。だから個人的な印象みたいなことを言えずにみんな同じ事しか言わない。
6.無評価アクタ削除
>また月が綺麗ネタ
 私は流行りとか無視して思いついたものを書くのですが、十五夜で思いついたため、時期的に多くと被ってしまったようです。

>大抵読んでない
 私が浅学なのは事実です。
 「使いたがる人って大抵読んでない」とは、何を読んでいないという事でしょうか?もし、夏目漱石の『月が綺麗ですね』についての物だとすれば、今後のためにも読んでおきたいので、教えて頂ければ幸いです。
7.80名前が無い程度の能力削除
規約を破ってる訳でもあるまいし、あんまり気にすることはないよ。
作者の好きなように東方の二次創作を楽しめば良いと思う。

魔理沙が『月が綺麗ですね』の意味を教えた後、
恥ずかしさで一度、ひと悶着起こすところが、
昔馴染み同士のレイマリっぽい展開で良いと思ったよ。
ご馳走様でした。
8.60名前が無い程度の能力削除
ここが栄えてた時みたいに叩かれて伸びる人も少ないし投稿する人も
少ないんだから大事にしなきゃ。あんまり行き過ぎてるのはアレだが。

面白かったです。読後も爽やかだし、また書いて下さいねー