Coolier - 新生・東方創想話

汝の夢はなんなりや?

2017/10/08 00:44:44
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 とある昼下がりの博麗神社。そこには、黙って本を読んでいる霧雨魔理沙、暇になってとりあえず訪れた東風谷早苗、そんな二人に、しぶしぶお茶とお菓子を出す博麗霊夢と言う、いつも通りの風景が広がっていた。
「霊夢さんって、将来の夢とかあるんですか?」
 早苗は、パリッと煎餅を齧りながら、ふと思い浮かんだ疑問を口にした。
「無いわよ」
 問いを投げかけられた霊夢は、茶を啜りながらそう答える。
「私は博麗の巫女だもの。特にこれ以上になりたいものなんてないわ」
 そんなそっけない回答に、早苗は詰まらなさそうに口をとがらせる。
「それじゃあ、小さい頃は何か無かったんですか?私がまだ小さくて、外の世界に居た頃には、あれになりたい、これになりたいって、色んな職業を夢見たものですけど」
「無いわ。生まれた時から、博麗の巫女の後継ぎとして育てられたし……巫女として働く母さんの背中を見て成長してきたから、他の職業を知らないってのもあるかもしれないわね」
 そう言って、霊夢は顎に手をやりながら少し考える。
「まあ、でも……巫女の家に生まれていなかったとしたら、何になろうとしてたのかしら……」
「そうそう!想像してみてください!イマジネーションですよ!」
「……って言っても、よ。外の世界は違うのかもしれないけれど、幻想郷ではほとんどの子供は、親の仕事を継ぐわよ?」
 顎から手を放すと、霊夢はそう呟いた。
「確かに、言われてみればそうですね……」
早苗は、がっかりした様に肩を落とす。
「小さい頃の霊夢さんのことが分かると思ったのになぁ……」
 そんな早苗の様子を見て、霊夢はニヤニヤと笑う。
「目論見が外れて、残念だったわね。逆に、あんたの小さい頃の夢はなんだったのよ」
「うーん……あんまり詳しく覚えてはないんですよ……確か、学校の先生とか、お医者さんとか、そう言うありふれた物だった気はしますけどね」
 腕を組み、軽く首を捻りながら、早苗はそう言う。
「学校って言うと……外の世界の寺子屋だったかしら?ってか、ありふれたって言われても、外の世界でありふれてるかどうかなんて、私が知るわけないじゃない」
 そう言いながら、霊夢は魔理沙の方に顔を向ける。
「そう言えば、魔理沙はどうなのよ?あんたは将来の夢、何かあった?」
「魔理沙さんのも気になりますね……!」
 二人の興味が魔理沙に移るが、本に没頭しているらしい魔理沙本人は、半ばうわの空で返事をする。
「あー?将来の夢ぇ?お嫁さんかなぁ」
 そんな魔理沙の発言に、霊夢と早苗は、少しの間きょとんと顔を見合わせる。
「……ん?あれっ……?」
 そんな沈黙の中、魔理沙が本から顔を上げ、そんな声を漏らしたかと思うと、その顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
「いや、その、ちがっ!」
「何よ魔理沙ぁ、お嫁さんになりたいだなんて、あんたも可愛いところあったんじゃない」
「小さい頃の魔理沙さんは、普通のかわいい女の子だったんですね?」
 霊夢と早苗が、ニヤニヤとした笑いを隠そうとする事も無く、声をかける。
「ち、違う!!私は何も言ってないからな!!」
 耳まで真っ赤になりながら、魔理沙は叫ぶ。しかし、二人からの生暖かい目は止まることは無い。
「恥ずかしがる魔理沙さんなんて、珍しいですね」
「でも、別に恥ずかしがることも無いじゃない?小さいころの夢がお嫁さんなんて、そう珍しい事でもないでしょうよ」
「うるせぇ!」
 そうとだけ言い、魔理沙は帽子を目深に被り、そっぽを向いて読書を再開した。
 横顔から覗く頬の赤さを見て、霊夢と早苗は黙って目を合わせると、クスリと笑った。
「なかなか楽しかったわ。早苗、やるじゃない」
「ええ、思っていた以上の収穫がありましたね」
 そんな二人の会話を聞きながら、魔理沙は努めて読書に集中しようと努力していた。
「さて、面白いものを堪能できたし、夕飯の買い物にでも行きますか」
 未だ、顔のほてりの治まらない魔理沙を気遣ってか――いや、そんな気は毛ほどもなさそうであるが、そう言って霊夢は立ちあがる。
「あ、私も着いていっていいですか?今日の食事当番、私なんですよ」
「食事当番って……あんた、自分が信仰してる神に、ご飯作らせてるの……?」
「だって、お二柱とも、家族みたいなものですし……って言うか、自分がどんな神様を信仰してるか分かっていない霊夢さんには言われたくないですよ!」
そんな会話を交わしながら、二人は部屋を出ていく。
 二人の行ってきますと言う声に、魔理沙は本に目を落としたまま、適当に片手を振る。
 胡坐をかいていた足を一度解き、座りなおして、魔理沙は本に集中する。触らずとも熱を持っていると分かる、自分の頬を気にしないようにしながら。

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