Coolier - 新生・東方創想話

かつ丼を愛したツェペシュの末裔

2017/08/20 14:48:04
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7.いつか ~レミリア・スカーレット



 ぼんやりと目線をとろけさせグラスを傾けた。
 グラスの中の赤い液体が私の五感を刺激する。
 甘美な香りが八重歯の隙間からくくくと漏れた。
 夜は私の時間。私はその夜を楽しむこと、更に楽しんでいる自分が居ることに楽しさを感じている。
 ナプキンで口を拭き、メイドが用意してくれた……禁じられた魅惑の肉。
 それをひと思いにがぶりとやった。
 禁じられたこの食物を遠慮なく堪能できる私は、まさに夜の王にふさわしいだろう。
 もにゃもにゃと禁肉(きんにく)を咀嚼していると、キッチンからとてもいい匂いが漂ってきた

 考えるまでもない。行かなくては。
 今は夜、私は優雅にスカーレットウォークでキッチンへと向かった。


「フランドール、今日の晩ごはんなにー?」
「牛丼。お姉様はにんにく入りだっけ?」
「おいおいフランドール、そんなの食べたらにんにく臭くなっちゃうよ」
「その程度かよ」

 少しだけ口の悪いフランドールはせっせとキッチンを走り回っている。
 あの一件以降、フランドールは一ヶ月に一回程度、キッチンに立つようになった。
 咲夜のレシピ本を受け継ぎ、色々と作ってみたいそうなので、好きにやらせている。
 ……私としては、お手てが荒れるのが心配なんだけど。大丈夫かなあ。
 私も手伝いたいんだけど。
 
「フランドール、私ももうちょっと上手くなったら手伝うからね」
「邪魔だからどっかいって」

 ……今のままでは、力不足。
 フランドールの言うとおり、どっかに行くことにした。




 濃縮三倍ぶどう味を持って、庭に出た。
 咲夜の墓石までゆっくりと夜を感じながら歩いて向かう。
 歩きながら食べるビッグカツは四枚目。
 ふっふっふ。咲夜が居ないから自由に食べられるぞ。
 うひひ、文句言えるなら言ってみろ。
 私は止まらない。

「とかそういうのは置いといて」

 先ほどキッチンでかっぱらってきたクッキーを数枚置いて、手を合わせた。
 こういう甘ったるいやつ、咲夜は好きだったから。
 あ、ビッグカツはやらない。これは私のだ。
 
「おばあちゃん。あれから普通に過ごせてるよ。メイド妖精も文句なしに働いてる。
 フランドールの料理が美味いんだ。最近小言が多いのがちょっとなあ。肩身が狭くなった気がする。姉の威厳も」

 元からあったんですか? みたいなことを言われた気がする。
 いや、気のせいだ。
 今まで陽気にからかってきたメイドが居ない分
 寂しくなくて良いような気もする。
 
「お前はそっちの暮らしに慣れたか?」

 まああのふてぶてしいおばあちゃんならどこでもやってけそうだけど。
 一息ついて、手をなおした。
 咲夜が死んでから何ヶ月経った?
 もう結構経った気がするけど……
 ええと前回が天丼(かきあげ丼)で、前々回が親子丼だっけ?
 三ヶ月か四ヶ月くらいかな。
 まだそんなものなのか。
 
 ……この墓石に『ありがとね』とか言いながらワインをぶっかけたら感動小説の落ちっぽくなるかな。

「この墓石に『ありがとね』とか言いながらワインをぶっかけたら感動小説の落ちっぽくなるかな。
 ……とか、考えてないかしら」
「ぎくり考えてないぞ。……あれパチェ。珍しいな。咲夜に会いに来たのか」
「別に。いい夜だから外に出ただけよ。ついでに咲夜に手をあわせてやろうと思って」
「ほんとにー? 素直じゃないなあ」
「月命日に毎回来るあんたと違って私は忙しいの」

 それを知っているということはお前も毎回来てるってことだろうに。
 可愛い奴め。

「正直、私が心配だったのはね」
「うん?」
「メイド妖精の暴走じゃない。妹様の暴走だったのよ」
「……そうか」
「ただね。咲夜が死ぬちょっと前、妹様は本の感想を言ったのよ」
「うん?」
「咲夜と同じ本を読んで、感想を言い合ってた。咲夜の自分のと違う意見を無下にせず『咲夜の別の意見』として
 納得して面白がっていた。こんなこと昔の妹様からしたら考えられない。
 咲夜の賜物ね。それ見て安心した。子供子供だと思ってたけど、少しだけ大人になったのかもね」
「ふふん、私のメイドは優秀だろう?」
「主人と違ってね」

 パチェのやるウインクは決してばちこんとはいっていなかったけど
 誰かを想起するのは簡単だった。
 
 ……ああ、いい匂いがしてきた。
 そろそろごはんの時間だ。
 咲夜の面影が残る、愛しい妹の料理を堪能するとしよう。

 咲夜はきっと、こうして紅魔館に残り続ける。
 私に、フランドールに、パチュリーに美鈴に小悪魔にメイド妖精に。
 姿形は無いけれど、きっとずっと、私達の胸に残り続けるのだ。
 
 これからも、ずっと。
 私達の中に。




































「お嬢様、感動系小説の締めっぽくしてる所すみません。ちょっと良いですか」
「ああもう! お前も大概咲夜に似てるな!」

 荷物を両手で抱えた美鈴がやってきた。
 なぜ私の従者は私が格好つけるのを見計らい邪魔するのだろう。
 完全に締めの気分だったのに。
 すごくいい感じで格好いい終わり方だったのに。

「お嬢様、いずれは妹様のお手伝いするんですよね?」
「うん、フランドールに認めてもらえるくらいの腕になったら」
「練習する際、背丈が足りないから台が欲しいって言ってたじゃないですか」
「うん欲しい。キッチン高いんもん。背伸びするのも飛ぶのも疲れるんだよねー」
「買うのも勿体無いので再思の道に落ちてないかなーって探してたんですけど」
「お前主人が使うものを『勿体無い』って……」
「それで探してたら、こんなん落ちてたんでついでに拾ってきました」
「なにこれ」

 美鈴は両手に抱えていた荷物を私の目線の高さまで持ってきた。
 ふむ。

「ねえ美鈴、これって」
「お察しの通り。キューピー人形じゃないですよ」
「だよね」
「お嬢様、これ、もしやと思うんですが」
「そうかも」
「あー居た。ねえもうごはん何だけど。お姉様もパチュリーも美鈴も……って何してんの?」
「フランドール、ちょうどいい。ほらこれ見て」
「ありゃま」

 笑いが漏れた。
 そして少し安心した。
 もう十年もすれば、私とフランドールのキッチン係も解雇されるであろう。
 良かった、主人とその妹が従者達の料理作るとかわけわかんないからな。
 
 私とフランドールは美鈴の手元を覗き込み、「そいつ」をつんつんとつついてやった。
 そいつは「ふえ」と鳴いて私とフランドールの手をはらってきやがった。
 おーおー生意気そうなやつめ。
 だけど、そうじゃなくちゃな。
 うちのメイドはそのくらい生意気じゃないとつとまらないんだ。

「フランドール、今日はパーティだ。パーティバーレルのクーポンは?」
「咲夜がとっといてたの、余ってるよ!」
「よし、パチェ。魔法で看板作って。フォントサイズ1024くらいのでかい奴」
「はいはい」
「美鈴、そいつに豪華な服着させてあげて」
「わかりました!」

 さて、大変だ。今からパーティの準備だぞ。
 お別れパーティよりもっと盛大にやらなきゃいけない。
 だが、その分腕がなる。
 次期メイド長の誕生パーティだ。
 ここらで一丁、派手にやるぞ!
 

























 それにしても咲夜、輪廻るのちょっと早すぎじゃない?

 







『かつ丼を愛したツェペシュの末裔』
おわり


ここまでお読み頂き、大変有難うございました。
実は、前回(半年も前なんですけど)で創想話に投稿し始めて五年、投稿作が五十作にもなっていました。
これは決して大げさでもテンプレでもないんですけど、皆様にお読み頂き、感想を頂いた結果だと思っております。
そんな節目になりますので、初めて100kbを超える作品をかたかたと打ってみました。
しかも、この時代に「咲夜さんが寿命で死ぬ話」。ひねくれ具合が垣間見えてしまいますね。
ともあれ、これからも宜しくお願い致します。
では、次の作品で。

2017/08/25 23:44 誤字修正しました。ご報告頂き有難うございます!
ばかのひ
http://blog.atainchi.com/?eid=1126
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コメント



0.680簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
50作目、おめでとうございます
そしてこの作品、大変面白かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
とても面白かったです!
3.80奇声を発する程度の能力削除
良かったです
5.90名前が無い程度の能力削除
姉ちゃん達のIDきめぇwww
キッチン妖精はひどいイヤガラセを受けたなと思ったが酢昆布をさんざ拒否されてるのにそれ以降もかたくなに酢昆布出してる辺り謎です
サムスンのスマホは幻想入りしたんですね…まあ爆弾持ち歩いてるようなもんだしそりゃ廃れるわ

それにしても転生早すぎィ!
メタメタしいネタ多めな今作において、そう言う意味では昨今のライトノベルブームにもかかったネタなのかも
6.100ふつん削除
たくさんの素晴らしい作品をありがとうございます。
皺くちゃの笑顔でばちこんとかしちゃうお茶目おばあちゃんな咲夜さんがとてもとても愛おしかったです。
ニヤニヤしたりクスリとする場面がいっぱい詰まってて大変楽しませて頂きました。
冒頭であれだけ散々茶化しておいて終盤でしっかり泣かせられるのはもうすごいとしか言いようがない
8.100名前がない程度の能力削除
50作おめでとうございます
今作は咲夜の死という重いテーマでしたがすらすらと読ませていただきました
面白かったです
9.100名前が無い程度の能力削除
誤字報告。七ページ目:言われて気がする。

前半すごく笑いましたが、フランドールの想いに最終的に泣かされました。
最後の伏線回収はいい。
10.90名前が無い程度の能力削除
紅魔館の絆を感じる素晴らしい作品でした。
それにしても咲夜おばあちゃんの可愛らしいこと!
11.100さくらの削除
最高です。こんな紅魔館が大好きだ。
12.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい紅魔館でした
面白かったです
16.90名前が無い程度の能力削除
いつも感心させられます。現在では数少ない優良作者様ゆえ、のんびりとでいいので投稿続けて下さい。応援しています。
17.100怠惰流波削除
最高でした。
どこか懐かしい気持ちで読んでいました。寿命ネタっていう使い古されたものでも、やっぱり料理人が違えばいつも新しい気分で読める…なのに十年前の二次創作を読んでるような気持ちにもなる…なんですかこれ、おふくろの味ですか。

年老いても天然な咲夜さんも、ブレイクしつつカリスマなお嬢様も、真っ直ぐな妹様も、石像みたいなパチェも、なんだかんだで器用な役回りの美鈴も、パンチラしながら在庫整理してる小悪魔も、それぞれが語り部になって、紅魔館の暖かい絆が繋がっていました。100KBなのに長さが気にならないのはやっぱり、面白いからなんですよね。やっぱり紅魔はいいなぁ。
18.100名前が無い程度の能力削除
おもろー
19.100名前が無い程度の能力削除
良い話でした
20.100名前が無い程度の能力削除
こういうオチは好きです
21.100名前が無い程度の能力削除
大作お疲れ様でした。よかったです。
22.100名前が無い程度の能力削除
咲夜の死という ある意味では古典的なネタをきれいに消化していて とてもすばらしかった
24.100名前が無い程度の能力削除
なんと素敵な紅魔館!

昔の二次創作ネタをふんだんに使っていて面白かったです。
25.90名前が無い程度の能力削除
ギャグもシリアスも素晴らしい作品でした
26.90仲村アペンド削除
楽しく、愛に溢れ、そして存分にひねくれた作品ですね。
所々に謎い改行が混ざってるのが少しもったいないですが、素晴らしかったです。
27.90名前が無い程度の能力削除
カツ丼はじめ、たくさんの小道具が身近さ、日常の雰囲気を作り出していて、大変良かったです。
28.100けう削除
50作目、おめでとうございます。自分自身創想話で小説を読むのが初めてであり、そのきっかけを作ってくださったばかのひさんに感謝です。地の文から滲み出てくるほんわかとした何かと、メタメタしい鋭さみたいなものがいい感じのバランスで、読んでいて楽しかったです。ひねくれた王道感があり、オチの予想がつきにくくてハラハラさせられました。これからも貴方の作品を楽しみにしています。
29.100名前が無い程度の能力削除
 とても楽しめました。
32.100名前が無い程度の能力削除
素敵な紅魔館でした。
34.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
35.100名前が無い程度の能力削除
散々10年前の感動系小説をネタにしてる癖にそれら名作と同じように決めるとこ決めて泣かせてくるの、ずるいと思うの……
題材の重さに対して雰囲気は重くなりすぎず軽やかで随所に挟まれたネタも効いていて、だからこその切なさも感じられ、とても良かったです。
みんな愛しくて素敵な紅魔館、最高です。素晴らしい作品をありがとうございました。