Coolier - 新生・東方創想話

かつ丼を愛したツェペシュの末裔

2017/08/20 14:48:04
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4.一日前 ~パチュリー・ノーレッジ


「あれは私がお嬢様と初めて出会った時のことです」

 咲夜はそう語り始めた。
 この図書館に咲夜だけの声が響くなんて非常に新鮮。
 この図書館は私の図書館。
 ここにある全ての本はもちろん、小物、家具、空気までもが私のものだ。
 それは当然。私の図書館だから全て私に所有権がある。
 しかし、ここの空間だけは別だ。私が作り出しているものではない。

 物理的に存在する物体は、当然ながら増えれば増えるほど不便になる傾向がある。
 いくら整理整頓を行ったとしても数十メートル先の本を取り出すのに時間がかかるようではだめだ。
 私の脳の引き出しは瞬間的に情報を取り出せるのに
 私の図書館が瞬間的に情報を取り出せないのは正直……ダサい。
 駄目なのだ。魔女としてこれじゃあ駄目だ。
 そんな私の悩みを解決してくれたのが咲夜だった。
 レミィから話を聞いたのか、まだ幼かった頃……
 あれは、例の件を解決してやったすぐ後だろうか。
 その恩返しかどうかは知らないが、咲夜は恐る恐る図書館のクソ重い扉を開けて私にこう言い放ったのだ。

「あ、あの。パチュリー様。物が多くて悩んでいるのであれば、こう、空間をぐにゃっとして効率化してはいかがでしょうか」

 何言ってんだこいつ。
 そう思った。しかし、その思いは一瞬で砕け散った。
 咲夜は私の目の前で空間をねじってくねってぐしゃぐしゃどーんとしたのだ。
 詳細は省くが、咲夜はこのよくわからない空間の効率化を「勘」でやったのだという。
 その頃の私は咲夜に大変興味が湧いた。
 いち人間がここまでのこと、そうそう出来るものではない。
 しかし、その興味は一気に薄れることになる。
 なぜかって?
 咲夜は天然だからだ。
 先程の効率化は本当に、何もわからず「できるかなーできるかなーこわいなーできるかなーあーできたー」という思いでやっているのだ。
 この非ロジカルのいかれた思考は正直理解できる気がしない。
 それを知って、私は咲夜に対する興味を失った。
 というか、失わざるを得なかった。
 仕方ない、天然なんだもん。
 それでいて咲夜はおちゃめな部分もあるから手がつけられない。
 「そういう興味」は無くなったが、咲夜は大変魅力的だと感じる。
 レミィが気に入るのもわかる。
 小さい頃はそんな咲夜が面白くて、美鈴と一緒になってからかったりしたものの
 最近は私も美鈴も手玉に取られることが多い。
 特に美鈴は人の良さもあいまって、よく咲夜にからかわれている。
 
 ……話が逸れた。
 まあともかく、私が言いたいのは、咲夜は天然で優秀であるということ。
 おちゃめであるということ。
 そして。

「ということで、スカイフィッシュはツバメの六倍早く動くのです。
 つまりツバメ返しという技は一瞬で相手を二回切る技。
 そしてスカイフィッシュ返しは相手をその六倍、一瞬で十二回も切る技なんです」
「……ん?」
「なに?」
「…………ん?」
「なに?」

 先程のような思わせぶりに話をする時は、基本的にボケたい時だということだと。

「………………ん?」
「さっきからどうしたの美鈴」
「……今、かつ丼にまつわる感動に繋がりそうなエピソードを話す場面じゃなかったんですか?
 なんでスカイフィッシュの話になってるんですか?」
「そうなの?」
「いや、え、そうじゃないんですか?」
「かつ丼にまつわる感動に繋がりそうなエピソードって何? 美鈴」
「私が聞いているんですけど」
「そうなの?」

 二人のやりとりがおかしくて吹き出しそうになるのをカップを口に押し付け我慢した。
 美鈴が手玉に取られている。
 美鈴のことだから、気を遣って真剣に聞いてただろうに。
 面白い。

「パチュリー様」
「……何よ」
「かつ丼にまつわる感動に繋がりそうなエピソードってなんでしょう」
「んぶふ」

 我慢できなかった。
 私が吹き出したのではっとしたのか、美鈴がからかわれていたのに気付いたようだ。
 少しだけ顔を赤くして、まったくもうの表情でため息を一つ吐いた。

「またからかわれた……」
「美鈴、あんたも長いんだからいい加減気づきなさい」
「パチュリー様は最初から気付いてたんですか?」
「うんにゃ。途中までわりと真剣だった。かつ丼にまつわる感動に繋がりそうなエピソードが聞けると思ってた。だけど途中で藤岡弘がどうのってところで気づいた」
「結構終盤じゃないですか」

 咲夜は話が上手いから仕方がない。
 それに、年を取ってからか、その落ち着きのある低音は人を「聞かなければいけない」という
 気持ちにさせる。
 自分が年寄りだということを利用したマジシャンみたいな手法だ。
 人間のくせに……いや、人間だからか。こずるい奴め。

「ふう、今日はいっぱい体を動かしていっぱい喋りました。満足です。これで悔いなくおっちねそうです」
「おっちぬて」
「少し聞きたかったのだけど、咲夜は意外に悔いとかないのね」
「もちろんですよ。楽しかったです」

 なら良いんだけど。
 それが本心なら。

 少し聞いてみようかと口を開いたが、それは叶わなかった。
 図書館の外から突然
 大きな爆発音がした。皆は驚いて振り返った。

「……」
「……」
「……」
「レミィか」
「お嬢様ですね」
「お嬢様ね」

 音の出処がキッチンだと気づいた時に、三人の思いは一つになった。
 キッチンを爆発させるなんて、料理下手にありがちなことをして、全く。

 誰もが面倒だと思ったが、流石に確認はしないといけないのでじゃんけんで担当を決めた。
 見事に一発で美鈴に決まった。
 が、私は気付いてしまった。
 美鈴が面倒くさそうにあたまをぽりぽりして図書館をあとにするのを確認してから
 私は咲夜に投げかけた。

「何息切れしてんのよ」
「久しぶりに時止めると疲れますね」
「阿呆かあんたは」

 こいつ、行きたくないからって老体に鞭打って能力使いやがった。
 どれだけだよ。そしてレミィはどれだけ従者に面倒だと思われてるのよ。
 
「疲れたんで朝ごはんいっぱい食べないと今日死んじゃいますね」
「冗談に聞こえないからやめて」

 捨て身のギャグはもういい。
 まあ、ちょうどいい。少し確かめたいことがあった。
 咲夜がどこまで気付いているかだ。
 きっとこいつのことだから、レミィの思惑までは気付いているだろうに。

「ねえ、レミィは料理上手くなると思う?」
「思いません」

 笑顔でそう答えた。
 ああ、これが咲夜だ。

「心配じゃないのかしら。また妖精大暴走が起きたら、とか」
「あら珍しい。パチュリー様、心配なんですか?」
「うんにゃ。全然」
「そですか」
「心配なのは、他にある。まあ大丈夫でしょ」
「何ですか意味深なこと言って。伏線でも立ててるんですか?」
「むきゅー」
「まあ私は不安じゃないですよ。何をするかは検討もつきませんが、お嬢様のことですから」
「大した忠誠心ねえ」
「お嬢様が今まで間違ったことって有りましたっけ?」
「有りすぎて覚えてないわ」
「じゃあ無いのと一緒ですね」

 そうだ。それなら無いのと一緒。
 当人達が気にしてなければ無いものと一緒だ。
 いやしかし、咲夜も大人になったものだ。
 大人……面白くもつまらない大人に。

「心は子供のままで御座います」
「ナチュラルに心を読むのは置いといて。咲夜、いいじゃないの。
 レミィ、美鈴、妹様。そして私。誰でもいいから子供みたく甘えなさいな」
「いいえ、私は一生死ぬ人間。そして死ぬまで従者です。子供に従者は務まりません」
「あっそ。あんたがいいならいいんだけど」

 だけど、他の子供がそれを許さないかもしれないのには、まだ気づかなくて良い。

 さて、たくさん話したのでそろそろ何か口に入れたい気分だ。
 ハニートーストでもいいしフレンチトーストでも良い。
 クリームを阿呆みたいに乗せたパンケーキも今なら助かる。
 魔女たるもの、脳に糖を入れるのは大事だ。
 ココアで口をごまかしていると、メイドがよく転がしてくる銀色のあれに朝食を乗せて美鈴が戻ってきた。
 何かな。何かな。
 
「爆発はやっぱりお嬢様でした。小麦粉ぶちまけて粉塵爆発を起こしたようで」
「紅魔館だからって爆発させときゃいいってのはもう思考の停止よね」

 咲夜の厳しい一言、レミィに言ってやりたい。
 まあいい。私は朝食が何か楽しみで仕方がないんだ。
 昨日はコーンフロスティだったから、今日はがっつりいきたい気分だ。
 美鈴がトレイに載せるあの銀色の阿呆みたいにでかい蓋みたいなのを取る。
 そこに出てきたのは。

「今日の朝食はシスコーンですよ」
「…………うーん」


 ああ、チキンラーメン現象。


 

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