Coolier - 新生・東方創想話

かつ丼を愛したツェペシュの末裔

2017/08/20 14:48:04
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2.二日前 ~フランドール・スカーレット


 咲夜の部屋にノックをすると、どうぞーと間延びしたいつもと変わらない声で返答がきた。
 ドアを開けると咲夜は何やら机に向かってペンを走らせている。……死ぬ前の身辺整理、とかだろうか。
 悪いだろうと思って、咲夜の手元は見ずにベッドに腰掛けて放り投げてあった
 酷くボロボロの付箋がいっぱい張ってある料理雑誌を開いた。
 そういえばこれは昔からあるな。咲夜の愛読書なのだろうか。

 ちらりと咲夜を見やると、真剣そうな横顔が見える。
 咲夜とはしばらく前から、こういう仲だ。
 従者とか、主人の妹とかそういうのじゃなくて、お友達みたいな、部屋に入り浸って何気ない時間を過ごすような、そんな仲。
 ちょっと前に聞いたけど、始めは私の社交性とかを考えて仲のいい友達役を、という姉が考えた気遣いだったらしい。
 ふん。いらんお世話だ。しね。
 でも、最近の咲夜はそういう命令だからってわけじゃなく
 わりと自然体で過ごしているようだ。
 この前もお姉様の秘密のおやつを悪そうな顔で盗んできて「親方、これ見つけてきたので食いましょうぜ!」って
 盗賊のはしくれみたいなこと言ってたし、やっと友達になれたってことかな。
 この時間がもう無くなると思うと少し……いや、結構心にくるものがあった。
 咲夜も同じ気持ちなのかなあ。

「咲夜、お仕事は?」
「もうしなくていいと言われました。なので昼間なのに部屋に引き篭もっているのです。
 私は最後まで働きたかったんですが、お嬢様が休めと言うので仕方なく」
「そっか。あの……それ大事なお手紙? 私もしかして邪魔?」
「いえ、クロスワードパズルやってるだけなので大丈夫ですよ」
「あと数日で死ぬって聞かされてそんな暇潰しみたいなことやってると思わなかった」

 咲夜は相変わらずだった。思わず笑いが溢れる。安心もしたし心配もした。
 人間にとって死とはそんなに軽いものなのだろうか。
 いや、霊夢の時にはもっと大仰だった。大げさだった。
 人間はそういうしきたりなどを大事にするので、咲夜も例にはもれないと思う。
 それが例え、悪魔の犬であっても。咲夜はいつまでも死ぬ人間なのだ。
 ……その事を、お姉さまも、パチュリーも、美鈴も、咲夜自身も。
 皆それほど大げさじゃないと思ってそう。
 本当にそう思っているのかな。
 私だけが子供みたいな考えをしているのかな。
 わかんない。

「妹様、南極に居る飛べない鳥ってなんですか?」
「何突然? あ、クロスワードか。……ええと、ぺんぎんかな」
「ぺ、ん、ぎ、ん。では砂漠に生えるちくちく、とは」
「サボテン?」
「あ、サボテン。流石妹様ですね。博識です」
「へへん、伊達にパチュリーの所に入り浸ってないよ。わかんないとこあったら答えるよ」
「では……冷凍庫に入れた水とお湯、お湯のほうが先に凍る現象をなんという?」
「一気に難易度上がったね。ムペンバ効果」
「精神的なショックを受けた時や冷たいものを触った時に指が白くなる現象は」
「レイノー現象」
「どんな贅沢な食べ物でも二日連続だと飽きる現象とは」
「チキンラーメン現象」
「普段活発な女性にスキンシップを受けるよりも、普段は奥手な女性が頑張って
 積極的なスキンシップを受けた時の方が興奮する現象は」
「ギャップ萌え現象」
「……ギャップ萌え、と。出来ました! 妹様のお陰で死ぬ前に完成しました。良かったです。心残りだったんです」
「そか。ねえ咲夜」
「なんでしょう妹様」

 無邪気にしわを作って笑う咲夜は、いつも通りすぎて
 私はこの部屋に来る前に考えていた心配事なんて、すっかり忘れてしまった。
 いっぱい聞くはずだったんだけど。
 怖くない? 
 悲しくない?
 寂しくない?
 不安じゃない? 
 今まで楽しかった?
 私は咲夜を、楽しませることが出来た?
 とか。いっぱい。
 でも、そんなの、愚問なんだなあ、って今の咲夜を見てたら思う。
 なので、私が咲夜にした質問は、自分でもびっくりするくらい変なものだった。

「あの、えと。何か食べたいものある?」

 咲夜のために何かしてあげたい、そういう思いからか、何故かこんな質問。
 大丈夫、こういう時のためにおだちんはとっといてる。
 血の滴るステーキでも、高級なフルーツパフェでも、人魚のお刺身でも、直ぐに買いにいけるお金はある。

「……食べたいもの、ですか。あれ、食べたい者ですか?」
「あんたは吸血鬼じゃないでしょ。人間食べないでしょ」
「そうでがんす」
「それ違うやつだから」

 咲夜は真剣に考えてるんだか真剣じゃないんだかよくわからない反応で首をひねる。
 そういえば、咲夜って好きなものあるのかしら。
 なんでももりもり食べるので、嫌いなものは無いってくらいしか知らないかも。

「確かに嫌いなものはありませんが、これといって好きなものも無いですね」
「今ナチュラルに心読んだ?」
「こういう仕事ですから、出されたものは全部美味しく頂く。それが私なんですよ」
「むーん、つまらない答え。でも、強いて言うなら?」
「そうですね……強いて言うなら」

 咲夜はひねりにひねった首を元に戻し、真剣な表情で口を開いた。

「美味しいものです」

 そりゃそうだ。

「私の事は結構ですよ妹様。それに、私からも言いたいことがあります」
「え、なあに?」
「妹様のおすすめの本、紹介して下さい」
「本? なんでまた」

 そういうのはパチュリーに聞くのが一番いいんじゃないのかな。
 私の本の嗜好なんて凄く偏ってるし、子供っぽいお話とか好きだし。

「今思うと本を読む時間なんてあまり取れなかったので。
 妹様のおすすめが良いんです。そうですね、絵本が良いですね。すぐ読めますし」
「ふうん、まあいいよ。でも条件」
「なんでしょう」
「いい加減『妹様』やめて。名前で呼んで」
「わかりましたフランちゃん」
「急!」
「冗談ですフランドール様」

 おちゃめなおばあちゃんの手を引いて、私は図書館へ向かった。
 こうやってふざけた話をするのも、あとちょっとなんだなあ。
 そう思うと、咲夜の手を引く私の手に、少し力が入ったのが自分でもわかった。


--

 
 魔女という生物は知識を食べて生きている。
 いつだったか魔理沙がそんな事を言っていた気がする。
 うちに住んでいる身近な魔女を見ると、なるほどそうだなあ、と納得する。
 
 私が本をよむ理由は生きるためではなく死ぬまで暇だから読んでいるのであって
 その情熱はパチュリーのそれとは天と地の差である。
 普段、パチュリーが真剣に本を読んでいる間、私はパチュリーの膝を枕にしてお昼寝したりするのだけど
 起きてもパチュリーの体勢は変わらず、変わっているのは手元の本だけだったりする。
 「適当に積んどけば勝手に読むのでこんな楽な仕事は無い」と言っていた小悪魔は
 そこらでパンチラしながらせっせと本を整理しているのだけど
 図書館の音というのはそれくらいなので、私は「ああ、これが『動かない』ということなんだな」と納得したりする。
 無音、無振動、つまり静かで動かない。
 それが動かない図書館の正体だと、私は考える。

 前置きが長くなったけど、その無振動、私は好きだったりする。
 変化があってこその世界にある無変化。静かな場所が身近にあることの嬉しさは
 現代を生きる読者諸氏にも心あたりがあるだろう。
 忙しない都会を離れ、癒やしを求めに旅行に行ったりとか。

 さて、それでそんな魔女の回りの無変化で無振動な心地よい場所が騒がしく動く時。
 それは大抵、吸血鬼が関わっている。
 吸血鬼というのは大体が騒がしくて姦しいやつらだ。
 まあ、私は自分と姉くらいしか吸血鬼の存在を知らないのだけど。
 私の好きな無振動の環境を、私自身が壊す時というのは限られている。
 それは、文字の意味とかニュアンスをパチュリーに尋ねる時である。
 殆どは辞書で済ませたりするんだけど
 私はいわゆる「読書家と呼ばれる存在しか知り得ない、感覚まがいの読み方」
 というものの理解をまだ出来ないため、仕方がなくパチュリーを利用する。
 一文、単語でその文章の奥底から意味を見出すその能力は、もはや変わり者。
 奇人の能力と言っても良い。
 パチュリーやアリス、あとは魔理沙あたりがそれを持っているように思える。
 「作者の気持ち」なんか知るか!

 なんか、話が脱線してしまった。
 ええと、そうだ。これはモノローグ。
 私が言いたいのは、パチュリーはその言葉の「奥底の意味」を知れるほど賢いということ。
 それと、この場所が動く時は大体吸血鬼が関わっている、ということだ。
 私が質問するときとか、お姉様がはちゃめちゃなことを言う時とか。
 今回みたいに、パチュリーにどんな本をおすすめすればいいか聞く時とか。

「そんなもの、妹様の好きなものを紹介すればいいじゃないの」

 やっと動いた動かない図書館は口をぎぎぎと開けて、面倒くさそうにその台詞を吐いた。
 多分気のせいだけど、その台詞とともにホコリやカビも一緒に出たように見えた。伊達に動いていないだけ有る。けほけほ。
 でも知ってる。これは不機嫌なんじゃなくて、この魔女は普段の顔がこういう顔なのだと。

「そうですよ。私もフランドール様のおすすめが読みたいです」

 咲夜もそう言うが、それでも私は緊張しちゃう。
 だって、そのおすすめが、咲夜の読む最後の本になるかもしれないんだもの。

「そんな大げさに考えなくても。最近読んだ中で良かったものでも良いですし」
「うーん……」
「妹様、この間読んでた『オオカミと少年』は? 地霊出版が改変してボロクソに叩かれてたやつ」
「ああ、あれ! あれ私好きなの。ありがとパチュリー。あれにする」
「ん。静かに読みなさいよ」
「はーい」
「はーい」

 動いていた動かない図書館は再び石像となり。
 無振動と無音に包まれ読書を再開した。
 咲夜と元気な返事を最後に、あとはこしょこしょ話で小悪魔にオオカミと少年をお願いした。
 小悪魔はいつもどこに何があるか把握してて凄いなあ。

「咲夜、オオカミと少年は知ってる?」
「ええ、あの、あれですよね。まず人が出てきて、……なんか喋ったりするやつですよね」
「この世の絵本の大半がそうだと思うけど……まあいいや。読んでみて」

 咲夜が読んでいる間、私は図書館をこっそりと抜け出し紅茶を淹れにキッチンへ向かった。
 飲む? って聞くと、咲夜のことだから時を止めて自分で用意しちゃうかもしれないから。
 おばあちゃんなんだから、そういうの甘えてもいいのにね。
 お年寄りは大切に。

「お年寄りじゃないですよ」
「だから心を読まないでって」


 
--



「何してるんですかお嬢様!」

 キッチンに着くやいなや、美鈴の大きな声が聞こえてきて羽がぴきーんと伸びてしまった。
 びっくりした。こんな大きな美鈴の声を聞いたのは初めてだ。

「え、パン粉を付けてるんだけど……」
「小麦粉と卵液も付けないとパン粉も上手くつかないでしょう」
「そ、そうだっけ。忘れてた……凡ミス、凡ミス……えへへ」

 どうやら料理の特訓中のようだ。
 結局あの馬鹿姉は美鈴に頼ってかつ丼を作ろうとしている。
 最初からそうすればいいのに。変に格好つけるからプライドを傷つけるんだ。
 美鈴も、もっと強く言っちゃえ! スパルタだー!

「お嬢様、油の温度が高すぎます!」
「え、あ、えーとじゃあ、水、水」
「油に水を入れても温度は下がりません! 子供でもわかる事注意させないで下さい。
 ばかなんですか?」
「……ば、ばかじゃないもん」

「美鈴、タレ作ってみた」
「これ、タレの味見しました?」
「え、してない」
「味見していない料理を出すなんて
 テストしていないプログラムを納品するのと同じですよ?
 やり直しです。はあ、新人プログラマじゃないんだから……これだからゆとりは」
「そんな現代風に例えられてもわからないわよ!」

「とじる用の卵、混ぜすぎです。これでは白身が固まって熱さられた時、ぷくーっとなる『白身の風船』がおがめませんよ。
 ちゃんと考えてます? 脳みそ入ってます? プリンでも詰まってるんじゃないですか?」
「ち、ちゃんと入ってるし……」

「よ、よし! 何とか形になった! 美鈴、食べて食べて」
「……もぐもぐ、うん。ではお嬢様も食べてみて下さい」
「もぐもぐ」
「美味しいですか?」
「あんまり……でもほら、気持ちはこめたから!」
「気持ちをこめたらそれでいいとでも? 阿呆なんですか?」
「……」
「どうしました? 何か言ったらどうですか」
「……ごべんばざい」
「泣いたってうまくなりませんよ?」

「……」



 これ見ないほうが良い。
 私のデスティニーセンサーがそう告げていた。(そんなださい能力ないけど)
 うん、さっさと用をすまそう。
 なんかもう、主従とかそういう、それが……
 私は二人に見つからないようにこっそり紅茶を淹れて、抜き足差し足図書館へ向かうことにした。
 さっきはああ言ったけど、ちょっとスパルタすぎる気がする。
 美鈴って実は怖いんだなあ……

 そんな時、キッチンの隅の方に無造作に置いてあったスマートフォンがぴろんと鳴った。
 あの爆発寸前に膨れ上がっているスマートフォンはお姉様のだ。
 知らせようかな、と思ったけど少なくとも今のあの二人に話しかる勇気は私には無い。
 まあともかく、姉のプライベートなんて私にとって、あってないようなものだから
 通知を見てやることにした。緊急の用事だったら大変だもんね。なんて優しい私。
 ちなみにパスワードは能力を使って破壊した。

「なにこれ……妹にきゅんきゅんする会議? き、きも……」

 そして心底後悔した。
 姉のプライベートなんて見るもんじゃない。生生しすぎて吐きそうだ。

「しかもなんかキモいこと言ってる……妹の作った生ゴミ食べたがってる……いかれてる……」

 狂気の妹なんて二つ名、恥ずかしすぎる。
 狂気は姉の方だった。
 過去のやりとりを見ると、ぞわりと全身に鳥肌が立ってくる。
 それにしても。

「『食べてもらう人のことを考えて愛情を込めて』ねえ。
 それで料理が上手くなるほど簡単じゃないと思うけど。あ、でも最後にこのルナピッピって人が良いこと言ってる」

 ともかく、こんな気持ち悪いものはもう見るのはやめよう。
 幻想郷の闇はここにあった。
 幻想郷の姉は総じてキモい。もう嫌になってきた。
 早く紅茶を持って咲夜の所に戻ろう。
 きっともう、読み終わってるはずだから。


lunapippi_marlyrichucchu
わたしは
あいじょう、こめるのも、
だいじだと、おもうけど
おいしいのがいちばんいいな
れみりあさん、みてる?
                





「咲夜、紅茶淹れたよ。飲む?」
「あらあらまあまあ。そんなそんなお気を使わずに」
「いらない?」
「ちょう飲みますけど」
「そ。パチュリーは?」
「……」
「パチュリー集中してるから二人で飲も」
「はい」

 お茶菓子のチョコチップクッキーを拾ってきたからそれも一緒に。
 なんだかんだ、咲夜はいくつになってもこういうお菓子をよく食べてた気がする。
 お姉様も私も少食だから、余ってたのを食べ余ってたのを食べ。

「それで、どうだった?」
「この絵本、面白かったです。オオカミと少年ってこういう話だったんですね。
 うろ覚えだったことを自覚しました」
「ううん、オオカミと少年はそんな話じゃないよ」
「ばりばりどういうことですぐびぐび?」

 咲夜は言ったとおり私の紅茶をぐびぐび飲んでクッキーをばりばりしながら首を傾げた。
 良い食べっぷりだ。
 咲夜、こんなんなのに、ほんとにもう死ぬの?

「これを書いた著者は『こいぺろさとりん』っていう人なんだけど」
「何か酷く酷い名前ですね」
「この作者、ハッピーエンド至上主義者なの。だから本当のオオカミと少年の本来のオチとは違う。
 最後の方を少し改変してるの」

 オオカミと少年は本来「オオカミが出た」が出たという嘘をついて周りの人間を困らせ楽しんでいた少年が
 本当にオオカミが出た時に誰にも信用されず、損をしてしまうという話だ。
 そこから「常に正直であれ」とか「普段嘘をつくと信用されなくなるぞ」とかを教訓にする寓話だったはず。
 だけどこの地霊出版のオチは違う。
 何度も嘘をついた少年が、本当にオオカミが出た時に誰にも信用されなくなるところまでは同じ。
 違うのは、最後まで少年を信じていた少女が居るこということ。
 少女は少年に恋心を抱いているから少年のためになりたかった。
 その少女は周りの人を懸命に説得し、少年の話を真実だとわからせて
 結局少年は損をすることなく終わる。
 少年はそれに懲りて「もう嘘をつくのは辞めるよ」と反省し、少女と笑い合って幕は閉じる。
 
「それでハッピーエンド。『結局困ったときには誰かが助けてくれるという甘い考えを子供に植え付ける』って
 地底ピーテーエーとかいう悪の組織が騒いだせいであんまり評判が良くないの。
 地底アマゾンのレビュー欄も荒らされてたし」
「どんなものでも文句を言う人は居るんですねえ」
「うん。でもね、これ私は好き。
 多分この後少年と少女はこれをきっかけにつたない恋心を育んでくんだろうなあとか考えてわくわくしちゃう。
 それに私は希望が見えるお話が好きなの。
 いくらいたずらで『オオカミが出た』って言っても本心は構ってちゃんなだけだと思うのよね。
 なんか、少年も純粋な悪とは言えないし、こういうオチもおもしろいなーって。
 これで少年が更生するんなら、全然悪い話じゃないと思う」
「なるほど、フランドール様らしい書評ですね。興味深いです」
「そう?」

 咲夜は二十六杯目の紅茶を流し込んでにこりと笑った。
 良かった。気に入ってくれて。
 本も紅茶も。

「でも、私はフランドール様と少しだけ意見は違います」
「え?」
「少年は、もう少し自分で努力した成果を見せてほしかったですね。
 この少女のような、いわゆるスーパーマンが助けてくれるのはお話としては面白いです。
 ただ、私が少年だったらと考えると、もう少し考えて少女が居なくても理解してもらえるよう努めます。
 厳しい意見かもしれませんが、時にがむしゃらになることも大事かと」
「ほーそっかー」

 なるほど、咲夜の意見も面白い。思えば、こうやってお話を読んで誰かと感想を言い合うなんて
 初めてだったかもしれない。
 パチュリーはもう完成された世界を持っているし、美鈴とお姉さまは漫画しか読まないし。
 そんなことを思っていると、再びぎぎぎという音が聞こえた。
 ホコリとカビが舞う。

「咲夜がそんな風に意見を言うのも、新鮮ね」

 動かない図書館がそう言った。

「パチュリー様、私そうでしたか?」
「従者だもんね。意見は主人の通り、が正解だもの。いいと思うわ。妹様とは違う大人な意見」
「むう。何よパチュリー、私が子供だって言うの」
「子供だって言うの。ま、それは良いんだけど。
 咲夜、まだ生きているんだから、『そうでしたか?』はやめなさい。
 『そうですか?』なら使っていい」

 そう言って、再び図書館は静寂に落ちた。
 音のない世界は私と咲夜を包みこみ、きんとした空気を肌で感じるほどの煩さを伴って少しの疲労を誘ってきた。

「フランドール様、私はいっぱい食べていっぱい飲んで少し疲れたので横になります」
「ああ、うん。えっと……」
「部屋に来ますか?」
「……うん!」

 少しだけ咲夜と横になろう。
 横で手を握って呼吸を感じよう。
 私はそう思い、さっきと同じ様におばあちゃんの手を引いて、部屋に戻った。
 途中に咲夜は「お別れパーティ楽しみですね」と言った。
 私は途端に悲しくなってしまった。
 せっかく今日、楽しみを見つけたのに。咲夜と本を読んで、感想を言い合って、お互いの思う所を話せて。
 それはきっと面白いことだ。
 だけど、それは叶わない。咲夜は死んじゃうから。
 悲しい。
 悲しい。
 咲夜は悲しくないの?
 振り返って咲夜の顔を見た。
 咲夜は私の顔を見て、ふっと笑った。 

「フランドール様、パーティバーレルが来ますよ。チキンとポテト、あとビスケットもたっぷりの」

 私は揚げたてのチキンとポテト、さくさくのビスケットにメープルシロップをかける所を想像した。
 じゅるる。楽しみになってきた。
 ああ、単純。
 私はとても単純。
 私はこんなに単純なのに。

「なので楽しみですね。パーティ」
 
 咲夜のことはわからない。
 何を思っているんだろう。この笑顔はどこまで私に笑いかけているのだろう。
 咲夜は死ぬまで何を思うんだろう。
 パーティ、本当に楽しみなの?
 悲しくないの?

 ……私にそれはわからないけど、きっと咲夜は私がわからない事をわかっている。
 だから笑っているんだ。ずるいおばあちゃん。
 ずるくて賢いおばあちゃん。
 ずるくて賢くて……愛しいおばあちゃん。
 本当は凄く悲しいけど、貴方がそれを隠すなら。
 私はやっぱりパーティを楽しみにしなくちゃいけないの?
 皆と違って私は子供なの?
 大人にならなきゃいけないの?

「ところで妹様」

 ごくりと唾を飲み込んで、悟られないように表情を作って振り向いた。

「なあに?」
「勝手に人のスマートフォンを覗いてはいけませんよ」
「……なんで知ってんのよ」

 ばちこんとウインクするおばあちゃん。
 やっぱり咲夜は不思議なおばあちゃん。
 そうだなあ……
 私はやっぱり、子供でいいかも。
 咲夜の笑顔を見て、そう思った。


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