Coolier - 新生・東方創想話

どきどきっ、うどみょんひと夏のアバンチュールっ!!

2017/08/17 23:22:06
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◇◇◇ part 0

 それはまだ、私が月の都にいた頃で、かつ綿月様の所に所属していなかった頃の話だ。

「あのねぇ、鈴仙。部屋に入る時は失礼しますって言わなくても良いからせめてノックくらいして欲しい」
「……はあ、そうですか。いや、そっちから呼び出しておいて何を文句なんか言ってるんです?」

 ある日そんな感じで、上からの呼び出しを受けたのだった。
 その幼い少女は、ごちゃごちゃした徽章とフリル飾りの付いたミリロリ衣裳──軍服ワンピースに身を包み、面倒そうな顔で執務机に頬杖を突いていた。
 最古参の玉兎。
 いかに幼く見えようと、幽閉されている嫦娥に代わって玉兎関係の全権を握る、それなりに偉い月の兎だった。もっとも、本当に偉い連中は仕事なんて何もしていないので、それなりの役職に付いている事自体が、あんまり偉くないことの証明でもあった。その幼女が、つまらなそうに言う。
「鈴仙は、明日から綿月様の屋敷に通ってね」
 私にとっても、あまり面白くない話であった。
 綿月の屋敷の評判は知っている。素行の悪い兎を連れて行き、兵士として教育することもやっているそこは、端的に言って、さながら再教育の場といった感じ。
「何故です?」
「分からない? 教育が必要だと判断されたからだよ?」
 どこか小馬鹿にしたように、幼女。
 確かに、今の職場で揉め事に巻き込まれた覚えはあった。だが、私に落ち度は無いはずだ。
「報告の内容は精査した。私が書類を通して、姫様がハンコを押した。貴方に拒否権は無いけど、拒否するのは自由。ただしその場合、より重い処分が下るけどね。反省文を原稿用紙に何枚になるのかな」
 聞き流しながら、姫様とは嫦娥のことだろうかと考えていた。
 大罪人と聞いているが、姫様と呼び慕うなんて、いったいどのような了見なのか。
「分かりました。納得がいきません」
 答えは決まっていた。
 微かに愉快そうに、幼女は目を細めた。
「では、どうするのかな?」
「明日から、ですよね。じゃあ、一日だけ考えさせてください」

 ともあれ、不名誉な連行は不愉快だ。
 私は約束通りその日の内に、入隊希望の志願書を彼女の執務机に叩き付けるようにして提出した。



「そう言えば、鈴仙の学校生活はどうだったの?」
 昔のことを思い出していたのは、その一言が切っ掛けだった。
 月の都での生活は、今にして思えば総じて理不尽なものだった。地上での生活も理不尽ではあるが、それは有機的な理不尽さだ。機械的に成績を判断されるようなことは無い。
 地上は良い。毛嫌いしていた時期もあったのが嘘のようだ。
 変化は心地良く、多少のストレスは娯楽の種になる。
「まあ、私も成長したってことかな」
「まさか。鈴仙は全く成長してないよね」
 この幼い少女は、リボンの飾りの付いたワンピースドレスに身を包み、縁側に座って足をぶらぶらと振っていた。足首に巻き付けられたリボンも、ひらひらと尾を引くように揺れている。
 この幼女、幼く見えるが、神様の時代から生きているらしい。
 ついでに言うと、回想が学校生活一歩手前になったのは、この幼女の容姿のせいだ。記憶が曖昧なせいもあって、回想の中のあの気に入らない幼女の顔は、てゐと瓜二つだった。もっともこちらの幼女は、玉兎の始祖であるあちらの幼女から見ても更にご先祖様に当たるくらいの、とんでもない年齢だろうけれど。
「今更、何も言わないけどね」
 どこか小馬鹿にしたように、幼女もとい、因幡てゐ。
「でも、面白いものだよね。鈴仙はどうしてそんな性格になったのかな。拗れていくには月の都のつまらない環境もあったんだろうけど、月の兎がみんな鈴仙みたいな性格をしてるわけじゃないもんね。似たような傾向はあっても、鈴仙は群を抜いている」
「そうね。あの子達は自分達が選民だって勘違いしてるのよ。だから、調子にも乗るし、平気で地上を見下す。その選民思想は勘違いなのにね。いや、あんたらはただ月に生まれただけで、何も優れていないだろう、っての、まったく」
「鈴仙はすごいね。よくもまあ、そこまで言えるよね」
 微かに愉快そうに、てゐは目を細めた。
「……その性格は、生まれ付き?」
「物心付いた時から、私は私よ」
 価値観は変化していると思う。でも、基本的な考え方と言うか、難しく言えば私という主体は、さほどの変化はしていないだろう。
 確たる自我。これがなければ自立は始まらない。
 私は私。それ以上でもそれ以下でもない。
「あ、そう。なにはともあれ、精々楽しんでね」
 そう言って、てゐはぴょんと縁側から跳ねると、そのまま振り返りもせずにどこかに行ってしまった。
 しかしそれにしても、楽しんで、って。てゐも無茶を言ってくれる。
 気軽に楽しめるほど、私の日常は甘くないのである。
「ウドンゲー、ちょっと来てー。頼みたいことがあるのよ」
 ほら、私を呼ぶ声がする。今度はどんな無理難題を押し付けられるのやら。
 はあ、やれやれだ。まったく、地上の生活は楽じゃありませんね。


◇◇◇ Part 1

 それは唐突で、抗い難い出来事だった。

 誰も通らない細々とした道の途中に、誰からも忘れられた石ころが転がっていた。
 大きさは、片手で持つには少し重いくらい。小さいとも大きいとも言えないような半端な石は、すっかり風化して石ころと変わらなくなった古い道祖神だった。苔むした石の表面には辛うじて、彫られた仏様らしき輪郭が窺えるといったところ。
 枝分かれした道の、木の俣に当たる部分に、枯れた下草に埋もれるようにして、ひっそりと鎮座している。通り掛かる者がいるとしても、誰も気に留めない。しかし、その石は通行人を見ている。見ているだけで、何も言わない。石のように黙っている。

 そんな道の途中で声を掛けられたものだから、魂魄妖夢は思わず飛び上がるくらいに驚いた。
「あら、おどかし甲斐があるわね。おどかしてないけど」
 古い道祖神の隣に、ラフでパンキッシュな恰好をした女が正座を崩したような体勢で座っていた。
 寂び果てた道には似合わない目立つ容姿の女だったが、その姿は奇妙に景色に馴染んでいる。
「そんなに驚くってことは、つまりあれね、後ろめたいことがあるのね」
「……な、ないですよ。そんなの」
 おどおど。きょろきょろ。
「難癖付けないでください。斬りますよ……?」
 なんか堅そうだけど。
「……さて、ね」
 女は何か考え込むような仕草を見せる。
「仏教説話では、身分の高い神格が貧者に身を窶して衆生を試すというのは定番だったはずだけど」
 海外産のようだが、東洋の事情にも通じているようだ。
「それ、言っちゃって良いんですか?」
「言っちゃって良いのです。私の名前はヘカテンピース。しがない辻の女神──お地蔵様みたいなものよ」
「はあ」
 ふざけた名前はともかく、その言葉に嘘は無いように思えた。
 もしもこの女が恐ろしい存在なら、そこに転がっている石ころが黙っていないだろう。むしろお地蔵様とパンキッシュな女は、お互いに気安く肩を並べているようだった。
「親しみを込めて、ヘカ様と呼びなさい」
 寡黙なお地蔵様と違って、変な人だけど。
「それでヘカ様が私に何の御用でしょう」
「用があるかどうかはこれから決める。少し話に付き合ってね」
「話、ですか」
 頷くと、ヘカ様は喜んで話を始めた。
「日本のお地蔵様って、これが結構面白いのよね。貴方も冥界の使用人なら、地蔵菩薩の由来がサンスクリットのクシティ・ガルバにあることは、もちろん知っているわよね」
「もちろんです」
 もちろん、知らない。
 妖夢は嘘を吐いたことなど感じさせない涼しい表情で頷いた。多分バレてる。あまりにも見え透いた嘘は嘘ではなく冗談の一種だった。
「けど、もうそんなものは関係なくなっているような……」
 関係あったら妖夢でも知っているだろう。
「そうそう、そうなのよ。道祖神と習合した地蔵菩薩は、“お地蔵様”っていう日本固有にものに変わっているのよ。民間に親しむ、良い神様として」
 妖夢の知る地獄の事情を絡めて言うのなら、たしか、ある時に増加した人口の増加に伴って地獄の役人に駆り出されたのが、各地のお地蔵様で、楽園の閻魔こと四季映姫もその一つだったはずだ。
「道、特に道と道とが交わる辻は、魔物に出遭いやすい場所とされた。だから、守り神を置く。元の意味からして人を守るものだったのよ」
 日本でもそういう風習はあった。海外でもそうなのか、と妖夢はなんとなく頷く。
「……お饅頭、食べます? どこのお地蔵様かは存じませんが、ここは一つ」
「あら、黒饅頭とは気が利くわね」
「銘菓だそうですよ」
 人里で購入した品だった。主人の茶菓子は減るが、お地蔵様へのお供えなら文句は言うまい。
 まあ、駄々は捏ねるかも知れないですけどね。
 その様を想像して、ちょっと笑ってちょっと呆れる。主人の元に帰りたくなった。
「それで、話って、お地蔵様の授業ですか?」
 このまま続くようなら、足を止めるのは遠慮したいというのが本音だった。お饅頭一つで見逃して欲しい。
「ううん、どうでもいい」
 ならば何故この話が始まった。
 言いたい気持ちを、ぐっと堪える。
「貴方が良い子だって、分かったから。手渡しで受け取るお供え物なんて、いつ以来かしらね」
「笠を返しに来てくれても良いのですよ」
「考えておくわ」
 別に期待していなかったのだけど。むしろ、話の間を繋ぐために差し出したお饅頭で恩返しとかされたら、ちょっと居心地が悪いくらいだ。
「でも、そうね」
 ヘカ様が微笑む。少しだけ、申し訳無さそうな表情。
 妖夢はきょとんとして、その手が目の前に翳されても、まだ危機感を覚えずにいられた。
「私が持っている月の魔力をあげましょう。勝手な言い草だけど、素敵な結末を祈っているわ」
 抵抗はおろか返事すらできなかった。
 度数の高過ぎるアルコールを摂取するよりずっと酷い眩暈に襲われて、妖夢はしばらく気を失っていた。

 …………
 ……………………

 後日。永遠亭にて。
「前と同じね。経過観察しつつ、放っておけば治るわ」
 また、いつだったかの時のように目が赤くなった。前は巨大な月を見てこうなったのだが、今回は違う。そしていつだったかと同じように薬の先生に診察してもらい、瞼を押し広げて一目見た薬の先生こと八意永琳は、何て事など無いように、そう結論したのだった。
「それで大丈夫なんですか?」
 簡単過ぎる一言に、ついつい問い質してしまう。
 眩暈、その他の異常も無い。上等なリキュールのように、体に残らないタイプのアルコールだったのかも知れない。しかし変化は残っている。
「ええ、むしろ前の時より安定してるわ」
「いや、この状態で安定しては困ります」
 なにせ鏡を見る度に、びくってなる。
 暗い所でペカーッて光るのだ。こわいのだ。
 ふとした瞬間に、赤いセロハンを透かして見るような光景が、現実の視界と重なることもあった。困る。
「ふぅん、そうなの」
 初めて聞いた、という表情で首を傾げる永琳。
 腕は間違いないのだろうけど、どうにも話が噛み合っていないような気がする。
 大体にして、どうしてこんなことになっているのか、とか確認しておかなくて良いのだろうか。いや、八意永琳ほどの者になれば確認するまでもないのか。
「……あのですね、なんか、良くない神様に出くわしちゃったみたいなんですけど」
 悪い、と言わなかったのは、悪い神様だとは確信できなかったからだが、とは言え結果的に良くないと言ってしまい、妖夢の歯切れはあまりよろしくないことになる。
「ふぅん、そうなの」
 永琳先生は、あまり表情が変わらない。
「何か、関係あるんでしょうか」
「成る程。そうとも考えられるわね」
 その点に初めて気付いた、というような顔だった。この先生、大丈夫だろうか。
「それで、どうしたいの?」
 きょとん、と。ある意味では根本的とも言える質問だった。
 彼女は下々の者とは思考の地平が違うらしかった。無駄の無い、簡潔で正しい思考だ。
「治りますか?」
「治るわ」
 打てば響く即答。きっちり質問にだけ答えが返ってくる。
 恐らくは、今すぐ治してくださいと言えば、今すぐ治してもらえるのだろう。ただ、放っておけば治ると言われたものを今すぐ治して欲しいとも思わなかった。
 どうしたいのかという問いにどうしたいか答えれば、その通りになったことだろう。それが少しだけ、怖い。
「じゃあ、もういいです」
「そう。良かったわ」
 なんだか、最後まで話が噛み合わなかったような気がするけれど。
 とは言え自分側の問題なのだろうと妖夢には分かっていた。自分が、この装置を使いこなせていないだけだ、と。ハイテク機械は苦手なのだ。
「えっと、ありがとうございます」
 ぺこり。
「大したことないわ」
 本当に最後まで、生き物と話をしているという感じがしなかった。



 他所の家というのはどうにも落ち着かない。
 庭に面した明るい廊下を足早に歩きながらも、妖夢はふと、ヘカ様について何か分かることがあるか訊ねてみれば良かったかなと、ささやかに後悔していた。が、踵を返す程のことでもない。

「あ、そう。なにはともあれ、精々楽しんでね」
 縁側で、鈴仙とてゐの二人が話していた。
 丁度、話は終わりのようで、てゐの方は妖夢の方をちらりと見てから含みありげに微笑むと、そのまま振り返りもせずにどこかに去って行った。折角だから、鈴仙に声を掛けよう。そう思った所、
「ウドンゲー、ちょっと来てー。頼みたいことがあるのよ」
 後ろから、八意永琳の声。
 鈴仙は、絶妙な顔の角度でポーズを取り、やれやれとこれ見よがしな溜め息を吐いた。誰に見せているのか分からないが、中々どうして堂に入っている。舞台の上に立てば、黄色い歓声が湧くのではないか。妖夢としても少しドキリとして、躊躇うものがあった。
 しかし永琳の元から歩いて来た妖夢と、これから永琳の元に向かう鈴仙が廊下の途中で鉢合わせるのは当たり前だった。
 夏だからか、涼しそうな夏服の颯爽とした立ち姿。整った顔。印象が変わったのは気のせいではないだろう。地に足を据えたと言うか、箔が付いたと言うか、自信に裏打ちされた表情が以前にも増している。
「こんにちは、です」
 ぺこり再び。
「あら、妖夢ね」
 目、どうしたの? そう訊かれるかと思ったけれど、その質問は無かった。
「お師匠様に呼ばれていますよ」
「困ったものね。それじゃあ、また」
 手をひらひらと振って別れてしまった。
 会話が少なくて、なんとなく寂しい。悪いとは思ったけど、少し考えてから追いかけてみることにした。さっきの声は、ちょっと戸棚の高い所の物を取るから椅子を押さえてて頂戴みたいな軽い感じだったけれど、十中八九、そんな用件じゃないだろう。妖夢の所もそうだから分かる。お饅頭買って来て、その一言でどれだけ里内を練り歩く憂き目に遭ったことか。
「成る程。つまりいつも通り、私に拒否権は無いということですね」
 案の定、先と同じ部屋から鈴仙の溜め息混じりの声が聴こえた。
「失礼します」
 無作法は承知しつつ、乱入する形で部屋に入る。
「何かあったんですか? 目のことでお世話になりますし、私にも手伝えることがあれば、使ってください」
 出て行きなさいと言われる前に捲し立てた。
「そう」
 と、永琳。
「月絡みで問題が起きたみたいなの」
「師匠……?」
 余り他人に聞かせたくない話であることは察しが付いた。にも関わらず請われるままに説明を始めた永琳に鈴仙が眉根を寄せる。
「その問題は、私の目の異常と関係がありますか?」
 妖夢自身、自分の頭があまり冴えているとは露ほども思わないが、これは流石に気になった。このタイミングで起きる問題は、偶然なのか。
「私は知らないわ」
「そうですか。変なことお訊ねしてごめんなさい」
 賭けても良いが、八意永琳に嘘を吐くという発想は無い、本気で言っている。本当に関知していないのだろう。
「質問はもう良い?」
 折角の好意だけれど、思い付くものは無かった。勿体ないかな、とは思う。上手く質問を重ねれば全ての疑問は氷解するだろうに。
「それじゃあ二人とも、よろしく頼むわね」
 それで話は終わりだった。たった今気付いたが、妖夢は問題と依頼の詳細を聞いていない。鈴仙が聞いているから困らないはずだけど、これだとおっちょこちょいと言われても、むぅと唸るしかない。

「ねぇ妖夢。なんでわざわざ首を突っ込むの?」
「義理人情です」
「成る程。分かるわ」
 鈴仙は平然と分かると口にした。
「あと、鈴仙さんと一緒に行動するのも、久し振りですから」
「そう言えば、そうね」
 理由は三つ。理由ごとの比重は、診察のお礼としての義理がほとんど、普通に言ってしまったけれど鈴仙に着いていきたいというナイショの気持ちが無いこともない。と言うのは嘘で、これが本音かも知れない。
 三つ目に、予感。
 月絡みの案件なら、月の魔力を授かった妖夢の目は、きっと役に立つだろう。



 最初は、肝心な部分を話してくれない困った主人を持つという共感で。
 似たような立場から親しくなっていき、折に触れて、彼女の颯爽とした態度を見ることになった。
 未熟者の妖夢からは、常に自信に満ち溢れた鈴仙のことが、格好良く見えた。

 共感。憧れ。
 恋慕にも似た感情。

 だから妖夢は実の所、鈴仙と一緒にいられる時間を、こっそりと内心で喜んでいた。

 いたのだけれど……
「……うちの師匠は、軽い口調で何てことを頼んでくれやがる」
「それは、同意します」
「暑いわね」
「はい、本当に暑いです」
 鈴仙の夏服が汗で透けていて目のやり場に困る。

 蝉時雨とは、よく言ったものだ。
 言葉の印象からは風情を感じるが、とんでもない。その実態は、頭上から雨のように叩き付けられる蝉の鳴き声……成る程、蝉時雨である。夏の炎天下、うるさいほどの蝉の鳴き声に打たれながら歩くのは、これだけでも結構な苦行だった。
 やがて、濃い緑の木立も途切れ途切れになり、蝉の声も遠くなる。だが、それで体感温度が下がるわけでもない。むしろ逆に、今度は直射日光が突き刺さる。
 永琳に指定された場所は、人里から離れた、乾いた地面が続くばかりの一帯。様々な自然環境の様相を見せる幻想郷では逆に珍しい、ほとんど何も無い不毛な空き地だった。当然、遮蔽物など何も無い。
 手で庇を作って顔に影を作り、若干意識を彼方へやりながらそれでも前へと進んで行くと、ようやく目当ての物を見付けた。
 他に特徴的な物は無い。これだ。

 一見して、花だった。

 しかし普通に見かけるどんな花とも違う。大きさは蘭ほどもあるが、立派とは言い難い。妖夢が見付けた時には既に枯れていて、原型を留めておらず、元の形は分からない。分厚い花弁は、干からびて皺々になり、汚く黄ばんでいた。花弁、茎のあちこちに、醜い瘤状に隆起している箇所があった。一部が裂けた瘤からは、薄めた血のような粘液が溢れている。
 少し、残念でもある。
 真面目な朴念仁の類いである妖夢だけれど、剣の次くらいには植物を好む。月絡み、かつ花と来れば、実は内心で輝ける花を期待していた。優曇華みたいな。
 あるいは夜になれば、月光の下で見違えるのだろうか。そうとは思えないが。
「鈴仙さん、これは何なんでしょう。詳しい話を聞かせてもらえますか?」
「異常の内容は簡潔よ。偶然ここの上空を通りかかった妖怪が、何かの呻き声ないし、啜り泣きを聞いた。その発生源が、これらしい。だったかしら」
 一瞬、鬱陶しそうに振り返ったが、鈴仙は結局そう説明してくれた。
「八意先生はどういう方法でそれを知ったのでしょうね」
「気になるなら、質問しておけば良かったんじゃない?」
 それもそうだ。
「この花を採取して持ち帰るだけ。なんだ、ただの雑用ね。炎天下じゃなければ楽な仕事だったわ」
「まったくですね」
 簡単だった。しかし同時に、こうも思う。こんなに簡単で良いのか?
 このみすぼらしい花が、本当に月に絡む?
 もちろん、見た目だけで判断することは上等とは言えない。しかしどうしても、妖夢にはこの花が美しいものだとは思えなかった。
「……あの、鈴仙さん。採取する前に、もうちょっとよく調べてからにしませんか?」
「はあ?」
「すいません」
 つい謝ってしまうくらい、露骨に嫌そうな顔だった。
 気持ちは分かる。妖夢も早く帰って冷たい麦茶が飲みたい。
「少しで良いので」
「で、調べるって、何処で何を?」
 鈴仙の意見はごもっともだった。辺りは空き地で、乾いた地面が続くばかり。妖精や精霊の影も無い。土着神が不在なのだろう、神の加護の無い土地は豊かにはならない。
「……話を聞ける人がいれば良いんですけど」
 仕組まれた一件なら、案内役がいても良いと思うのだ。
「妖怪ならいたわよ?」
 と、鈴仙が指差す先に、日傘がくるくると回っていた。
 妖夢が挨拶して手を振っても、特に急ぐでもなく、日傘の女性はゆったりと歩いてきた。そして、呟く。
「あら、来て損したわ」
「話をお伺いしても良いですか?」
「私は機嫌が悪いから、手短にね」
 質問の腕なら永琳で磨いたばかりだ。自信がある。
「私達はこの花を持って帰るように言い付けられています。何か不都合があるようなら教えてください」
「不都合? 誰にとって?」
 風見幽香が上機嫌にしているようなら、彼女の目の前で花を摘むことには抵抗があった。でも幸い、彼女は花に興味が無いらしい。よって、除外しても良いだろう。
「私と鈴仙さん、二人にとって、です」
「無いわ。ええ、本当に、まったく、これっぽっちも。摘むなら好きにすれば良い」
 予想以上に饒舌な答えだった。
「……この花は、何ですか?」
「品種のことなら答えられないわ」
「え?」
 品種を答えられない?
「でも、カレンデュラ、ヘリオトロープ、マリーゴールド、アドニス、スイセン……いいえ、何でもない。今のは撤回するわ。例えば最後のナルキッソスはどうしようもない男だけれど、少なくとも美しいもの。これとは違う」
 と、心底嫌そうに幽香。
「美しくない花は、嫌いなんですか?」
 そんな考え方をする風な女性には見えないけれど。
「いいえ、美しくない花も、徒花も、花を咲かせない花も嫌いじゃないわ。そろそろ良いかしら」
「待ってください。じゃあ、率直な感想を。損した以外で」
「さあ、特に何も。ただ、嫌な罰だと思ったわね。もちろん、私にとっての嫌、なんだけど」
「ややこしいからですか?」
「ええ、そうね」
「最後に一つ。この花は、花ですか?」
「花だったら、無駄足だなんて思わない」
 成る程、品種を答えられないわけだ。
「どうも。足を止めさせて申し訳なかったです」
 おかげで、少しだけ解決した。

「で、妖夢。時間を掛けた甲斐はあった?」
 遠ざかる日傘を眺めながら、鈴仙はウンザリと言う。
「白楼剣で斬るのだけはやめておこうと思いましたかね」
 代わりのものを試しに使ってみよう。そう決めた。
 今日までの間にも、現実に見えている景色に別の何かが重なることがあった。妖夢は醜悪な花の前に膝をおろすと、手で片目を覆って、赤い眼を意識する。幻視の手法と同じ。意識を、あちら側に合わせる。
 ──男と女。
 ──銃声。
 ──血だまり。
 身勝手な男の最期の光景が“視”えた。
「……ひぐっ」
 同時に、撃たれた腹が激痛を発した。固く目を閉じて、荒い呼気を整える。
 撃たれたのは私じゃない……!
「ははは、難しいですね」
 他人の心に同調することの危険を思い知った。
 波長を合わせる。難しいようで簡単で、信じられないくらい危険だった。ともすれば他人と自分の境界が分からなくなりそうだ。
「妖夢?」
「もう平気です。ちょっと痛いのが残ってるだけで」
「……そう言えば、目が充血してるわね」
 まるで今初めて気付いたようだった。
「ちょっと、色々あって」
 いや、色々と言うか、一つしか無かったけど。
「で、もう良いの? いい加減、暑いわ」
「それもそうですね」
 全身が冷や汗でびっしょりで、体の奥から体温を奪われていくような心地だったが、妖夢はそう言った。
「そう。じゃあ、こうするわね」
 そうして鈴仙は躊躇なく、茎の根本の方を掴むと、ぐっと力を込めて引っ張り上げた。
 マンドラゴラみたいな感じだったらどうしましょうね、と他人事みたいに思ったけれど、もう遅い。呻き声ないし、啜り泣きを響かせていたらしい花は、最後に干からびた花弁を震わせて断末魔の絶叫を張り上げた。
 人間の声に聞こえた。
 さっきの男の声だった。
「うっわ……」
 鈴仙が、心底嫌そうに呟いた。正直、妖夢にとっても気持ちの悪い経験だった。
 ただ、嫌そうにしながら手を離す程ではないのは、鈴仙が地上に慣れた証拠なのかも知れなかった。

「鈴仙さんは、それが何なのか気付いてましたか?」
「なに? そんなこと気にしてたの? どうでもいいじゃない、興味無いわ」

 帰り道、そんな話をした。



 幽香が挙げた花はギリシャ神話のエピソードに登場する花だった。理由は様々だが、人は花に姿を変える。また、人を別のものに変えてしまう罰は、海外だと結構ありがちだったりする。
 思うにあの花は、死んでも良いような人間だったのだろう。だから美しく見えるわけがないし、幽香が花と認めない程度には、魔法の掛け方が雑だった。思うに、敢えて雑にしたのかも知れない。それが人にとって幸福であるかはともかく、人が花に代わるのは美談で、花とは美しいものだ。
 幽香も言っていた。
 ナルキッソスは愚かだけど、少なくとも美しい。
 あの人間は、よりにもよって花に変えられてしまう資格など無かった。ただ、あれが罰であることを妖夢は疑っていなかった。不毛の土地に植えられるのは地獄の苦しみだろう。生前、花にまつわる悪事でも働いたのかも知れない。
「なによ。別に月なんて関係無いじゃない」
 粗悪な花の成り損ないを受け取った永琳はそう言った。
「謝った方が良いのかしら。要らない手間を掛けさせたわね」
 鈴仙はさっさと何処かへ行ってしまったので、それは妖夢に向けられたものとなる。
「この花は月とは無関係。大方、どこかの地獄から引っ張り上げてきた、死んでも良いような人間の末路でしょう」
「死んでも良いような人間なんていませんよ」
 言ってみただけ。
 しかし言ってみたそばから後悔して、妖夢は唇を噛んだ。もっと深く波長を合わせていれば、良い所の一つくらいは見付かったかも知れない。でもそれは、閻魔様が浄玻璃の鏡を見て探すものだ。
「かも知れないわね」
 意外にも、そんな返事をする永琳だった。
 永琳がそんな風に考えているとは、妖夢には信じられなかった。だからこれは、ただの下らない慰めで、そんなことをするとは意外だった。

「質問をしても良いですか?」
「ええ、良いわ」
 快諾してくれるというだけで、妖夢にとっては新鮮だ。世の中には、繰り返される質問を億劫がる主人もいる。
「八意先生は、どういう方法でこの一件を知ったのですか?」
「手紙よ。紙ではないけれど」
 誰かから、届いたわけだ。
「貴方にくっついていたの」
「……え」
 それは予想していなかった。
「これは魔法に詳しくないと気付けないでしょう。貴方が知らないのも無理はない」
「そうですか」
 なら別に良いか。
 それと、間が良かったことの説明にもなる。
「次です。ヘカテンピースという神様に心当たりは?」
「無いわね」
 即答。
「……では、ヘカ様ならどうですか? ヘカ──という文字列が名前に含まれる神様です」
 永琳は一瞬だけ首を傾げた。
「ヘカーティア・ラピスラズリ、という女神なら知っているわ」
 多分、惚けたわけではない。
「辻の女神の?」
「いいえ、地獄の女神よ」
 地獄、お地蔵様とも繋がるか。
「その人間に魔法を掛けたのは誰でしょう」
「分からないわ」
 再び即答。
「分かってもらえますか?」
 妖夢がお願いすると、永琳は花に似た何かを手に取った。
「ヘカーティア、彼女の仕業ね」
 どんな手段なのかは妖夢には到底理解できないのだろうけど、永琳はいとも簡単に断定した。最初からそうして欲しいと思ったが、いちいち頼まないとダメらしいのです。
「その問題は、私の目の異常と関係がありますか。そう訊ねた時、私は知らないわ、と答えましたね。何故ですか?」
「知らなかったからよ」
「知ってください、今」
「ふむ、人を花に変えたのも、手紙の送り主も、貴方の目に魔法を掛けたのも全てヘカーティアだわ。これは偶然かしら」
 と、真顔で。
 段々と永琳の使い方が妖夢にも分かってきた。

 私がこれからどうなるのか。

 妖夢はそれを質問してみようかと思ったけれど、怖いのでやめておく。
「ありがとうございます。それで、この赤い眼、ちょっと使っちゃったんですけど」
「大事を取って経過は診ておいた方が良いわね。しばらく、永遠亭に通いなさい」
「迷惑じゃないですか?」
 なんだか今日は質問してばかりだな、とか頭の隅っこで考えた。
「いいえ、迷惑なんかじゃないわよ。遊びに来るように気軽で構わない」
 その即答に、思わず口元が緩む。
 率直に伝えられる嘘偽りの無い好意の言葉は、どうしてこうも心地良いのだろう。
「そう言ってもらえると気が楽になります」
 ともかく、妖夢は自分の不注意から、変な女神に絡まれてしまった、ということだ。何事も無く済めば良いと思うのは甘い見込みだろう。永琳の知恵は借りることになる。
 一礼し、診察室代わりの部屋を立ち去ろうとして、妖夢はふと、足を止めた。
「その花の成り損ない、どうするんですか?」
 そんな状態だが、恐らくは意識の主体もあり、生きていると言って差し支えないだろう。
「どうって、処分するけど」
 永琳は即断で殺すと言った。
 八意永琳は完璧に正しい。その無謬性は絶対だ。更に元をただせば閻魔に相当するかそれ以上であろう地獄の女神がどうなっても良いと判断した人間の末路に、一介の庭師は口を挟まなかった。
 口は挟まない。妖夢は、口より先に手が出る。
「私は馬鹿なんでしょうね」
 自分で自分に呆れ果てながら、永琳の手から花を奪い取った。同調は二回目。一回目より上手く、深く、より深刻な代償の伴う危険度でやる自信があった。
 バンッと耳元で大きな音がした。頭が床にぶつかった音のようだった。
 気付いたら視界が真横に傾いていて、床の感触を頬に感じた。この子が何故こんなことをしたのか分からないと言いたげな、妙な真顔をした永琳に見下ろされている。
「ベッドに運んでおいた方が良いのかしら」
 お願いします。何とか心の中だけでもそう言ってから、電源を落とすようにぷっつりと意識を失った。

 淀みのような眠りに落ち、平気な顔で花畑を踏み荒らすような、ロクでもない男の人生を夢に見る。
 結局、良い所なんて一つも見付からなかった。


◇◇◇ part 2

 あれ以後、妖夢は永遠亭に通うのが日課になっていた。
 魔辻で出くわしてしまった地獄の女神から魔力を授かった赤い眼には、他人に同調する能力がある。身に余る力は妖夢が意図せずとも発動してしまうことが多々あり、結果、妖夢は人混みを避ける必要に駆られていた。治るものなら、治って欲しい。

 細長い指先が瞼を押し広げた。眼球が剥き出しになり、粘膜が外気に晒される。
「変化無し、ね」
 永琳は大した時間も掛けずに呟いた。
「前にも言ったけど、貴方は感受性が強いのね」
「そうみたいですね」
「貴方にとって、その瞳は開け放した小窓よ。遮蔽物が無ければ直截的に他人の影響を受ける。強い影響を受ければ貴方の人格が無事では済まない。気を付けて」
「あの、これは月の兎の瞳と同じなんでしょうか? 鈴仙さんとか」
「近い部分もある別の物。この辺りが答えになるわね」
 永琳の説明では、波長も少しくらいなら見えるでしょう、とのこと。
 赤い光は現像に向いている、とも。
「それから、ウドンゲの目はもう少し多機能よ。でも、彼女が他人に同調したという話は、一度も聞いたことがないわね」
 使いこなしている、ということだろうか。妖夢のような下手な使い方をする必要が無い程度には。
「本来、その目にも貴方が言うような機能は無い」
「え、そうなんですか」
 もう既に何日も通っているにも関わらず、初耳だ。
 永琳は顎に手をやって、こう続けた。
「シャルル・ボネ症候群という、興味深い症例がある。脳や視覚の異常によって視界に欠けが生じた際に、その代わりのように、小鬼や妖精といった、有りもしないものが見えるようになるというものよ」
 視界の欠けは霊視とも密接に関わる。
 霊能者には片目や弱視の者も多く、過去の聖職者は自ら片目を潰していたともいう。妖夢だって霊視に臨む時には目を閉じる。つまり、現実の視界を閉ざす。もっとも、今の話題はそういうことではないだろうが。
「幻覚ってことですか?」
「それはどうかしら。一般に、心的現実というものは当事者にとっての紛れも無い現実であり、しかし現実には存在していない」
 では、妖夢の赤い眼は幻を見ているだけなのか。
 結論から言うと、その早とちりは違っていた。
「現実ではない。でも、心的現実は当事者にとって現実。その赤い眼は、他人の心的現実を可視化するわ」
「他人が見ている幻覚が見える……?」
 だとすると妖夢が想像している以上に、この赤い眼は厄介な代物ではないのか?
「幻覚じゃなくて、心的現実ね」
 出来損ないの花は、現実には花だった。しかし当事者にとっては、どうだろう。妖夢が見たものとは、悪夢の渦中にあった男にとっての紛れも無い現実だった。
「そして特に、強烈なものや狂気的なものに強く反応して作用する。という傾向があるみたい」
 ここが重要な点で、困った点でもあった。赤い眼に見えるものはつまり、そのまま妖夢にとって危険なものということだ。
 もっとも、何から何まで見えていたら、それはそれで過負荷によって頭が破裂しそうだけれど。この辺りは、妖夢の目に魔力を与えた者の匙加減だろう。本当は、こんな機能を後付けするだけでも危険なのに、発狂寸前の危ういギリギリの線で、あろうことか安定している。
「そしてその目の能力が、他人に同調する、という形で発現しているのは、貴方自身の感受性と影響されやすい性質が原因でしょう」
 折角の眼を正しく使えていない結果、おかしなことになっている、と。
「……はあ」
 赤い眼のことを初めてまともに聞いて、間の抜けた声が出る程度には驚く。
「だから、気を付けて」
「はい」
 頷いてはみたものの、忠告を破ることになる覚悟だけはしておく。
「診察は終わり。それで、一つ頼まれてくれるかしら?」
 なんだろう。
 妖夢はきょとんとしながら、小さく頷いた。



 脱走した月の兎がいる。問題になる前に捕獲しておきたい。
 というのが、依頼の内容だった。永遠亭に、非公式で連絡があったらしい。

「それって、最近流行りの団子屋さんですかね?」
 月の兎であることを隠そうともしていない店を知っている。
 主人のおかげで、妖夢はかなりの度合いで甘味事情に通じていた。最新の店にはもちろんチェックを入れている。本場の味を出すその店では、既に全種類制覇を済ませていた。
「やはり、みたらしこそ至高です……」
 そしてこれが、妖夢の出した結論。
「あ、そう」
「鈴仙さんは、もう行きました?」
「団子とか、わざわざ買ってまで食べない」
 それもそうか。
「で、団子の話は置いといて」
「すいません」
「捕まえて欲しいのは別の玉兎らしいわ。そいつは、どさくさに紛れて逃げたんじゃなくて、普通に脱走したみたい。そんなことすれば捕まるに決まってるのに、浅はかね」
「……ところで、本当に捕まえるんですか?」
 ギロ、と睨まれた。
「当然でしょ? それが仕事なんだから」
「……」
「やれやれよね、誰だか知らないけど、余計な仕事を増やしてくれちゃってさぁ」
 捕まった玉兎は連れ戻されるだろう。どの程度の処分が下るのか、妖夢は知らない。
 そんな事は関係無く、鈴仙は心の底から楽しそうに溜め息を吐いていた。
「ま、しょうがない。頑張るとしますか」
「そうですね……?」
 どうして、楽しそうなんだろう。理解できない。
 使ってみようかな?
 妖夢は指先で目に触れて、しかしすぐに思い直した。同じ系統の能力が、格上相手に通用するはずもないだろう。そもそもそれ以前に、相手の許可無しに読心系の能力を使うのは不誠実だ。そもそもそれ以前のそれ以前に、危険だと念押しされているのも忘れていた。
「あわわっ、待ってくださいよ、鈴仙さんっ」
 とことこと、先を歩く鈴仙の背中を急いで追い掛けた。

 レーダー的な感知能力でもあるのだろう。事前に聞いた情報と合わせて鈴仙が向かった先は、妖怪の山だった。天狗の監視している山だが、広い山裾には隠れ潜むだけの場所は十分にある。
「いたわ」
「とんとん拍子ですね」
 なんて頼もしい。
 かつての同胞を売ることは心苦しくないのだろうか。
「ストップ」
 山道を進んで、清流のほとり。前回とは違って木陰と水の音が涼しい場所で、鈴仙は妖夢のことを手で制しながら立ち止まった。低木の隙間から顔を出して覗くと、玉兎と思しき少女が、川のせせらぎに恐々といった感じで手を差し伸べている。
「……きゃっ」
 冷たさに驚いている。小動物的な反応だった。
「こちらには、気付かれてませんよね」
「当然よ。ステルスモードにしてるわ」
「あ」
 思えば、あちらも玉兎だ。同じく波長操作系の能力を持っているに決まっている。いくら足音を殺して息を潜めたところで、レーダー的な感知能力を相手にしては無意味である。迂闊だった。
「鈴仙さんがいて良かったです」
 むしろ私が邪魔ですかね?
 落ち込みつつも様子を伺う。玉兎の少女は、今は気持ちよさそうに清流に足を浸していた。涼しそうで羨ましい。
 見逃してあげることはできないだろうか?
「挟み撃ちが、確実ね」
「……鈴仙さん、あの」
「妖夢はここにいて。動かなければ、たぶん大丈夫。私が回り込んでから合図をするから、そしたら仕掛けて。頼んだわよ」
「あのっ」
 行ってしまった。
 うぅ、どうしよう……?
 緊迫感のある状況と、少女の脱力した表情がそぐわない。小柄で、萌木色の服を着た、可愛らしい女の子だった。尼削ぎ……最近はボブカットと言うのだったか、とにかく切り揃えた髪型だ。つまりはおかっぱ頭の妖夢と同じ髪型で、なんとなく一方的に親近感を覚える。背丈もきっと、同じくらいだろう。
 答えの出るまで逡巡している時間は無かった。
 行くわよ、と聴覚ではなく頭に直接声が聴こえる。
 ほぼ同時に対岸の茂みから鈴仙が躍り出て、驚いた玉兎の少女は反射的に身を竦め、しかしすぐに反対側に逃げ出した。つまり、妖夢の方に向かって。
「とりあえず、おとなしくしてもらっても良いですかね……」
 聞く耳など持ってくれなかった。鈴仙より妖夢の方が楽に相手にできると判断したようで、そのまま向かってくる。
 少女の眼が赤く光る。身を屈めて横を通り過ぎようとした少女の腕を、妖夢は咄嗟に掴んでいた。少女の顔が驚きに染まり、張本人である妖夢も少し驚いていた。今の動きは位相の異なる場所、異次元を経由していた。赤い眼が無ければ、背後に瞬間移動でもされたように思っただろう。聞いてはいたが、月の兎の瞳と近い部分もあるようだ。
「離して!」
 突き付けられた指先は銃口を思わせる。
 真横から、こめかみに。有り得ない角度から飛んで来た不可視のはずの弾丸も、手刀の一振りだけで掻き消した。
「なんで貴方、玉兎でもないのに……!」
 妖夢の赤い眼を見て、少女が糾弾するように叫ぶ。妖夢は何も答えられなかった。事実これは、不当な力だ。
「さて、おとなしくしなさい」
 今度こそ正真正銘に気付けなかった。
 鈴仙が少女のこめかみに指先を突き付ける。その動作以前に、真紅の瞳が射抜くようでもあった。
「少しは期待していたのだけど、他愛なかったわね」
 本当に、妖夢も同感だった。
 こうしてあっさりと、見逃してあげたいと思った少女のことを容赦なく捕まえてしまった。



「もう連絡したわ」
 なんとか便宜を図れないかと提案したら、そう返された。テレパシーとやらを使ったのだろう。
「……でもそうね、助けてあげるのも、気分が良いかも知れないわ」
 鈴仙の独り言。
 それでも妖夢が飛び付くには十分だった。
「じゃあ私達がここで見ていない振りをして、その間にこの子には何処かへまた逃げてもらう、ということで」
「でも月の都が動いている以上、逃げ切るのは難しいと思うわよ?」
「うん、そだね。もう迎えも来ちゃったことだし」
 鈴仙の言葉に、軽やかな返事。
「そうですか。そうですかっ!? 誰ですか貴方っ!?」
 妖夢の小脇から、幼い少女が白っぽい紫色の髪をふわふわと揺らしながら、ちょこんと顔を覗かせた。
「早かったですね」
 と、鈴仙はあまり驚いた風もなく。
「最新鋭の羽衣のテストも兼ねてね、飛んで来た。中々ゲテモノな性能をしているよ。羽衣にタキオン織り込むのは、ちょっとやり過ぎだと思うのよね」
 幼い少女の服装は、鈴仙と同じブレザーの制服だったけれど、徽章やその他装飾、フリルで彩られている。ただしちゃんと着込んでいるわけではなく、何故かネクタイをリボンのように結んでいるし、少しサイズが大きいらしいワイシャツを外に出しているせいで、一目見ただけではスカートを履いていないのかと思って妖夢はギクリとした。最新鋭だと言う羽衣は、マフラーのように巻いている。
 幼い容姿、悪戯っぽい表情は、どこかで見たような顔をしている。
「それにしても、暑いね。今は夏だっけ?」
 溶けりゅぅ、みたいなことを言いながら羽衣を脱ぎ捨ててシャツの胸元をパタパタする玉兎の幼い少女。
「いや、真夏ですよ」
「……そりゃ暑いわけね」
「鈴仙さん、この、小さい女の子は?」
 本当に誰なのか。
「最古参の玉兎で、一番偉い玉兎、かしら。私もよくは知らないんだけど」
 一気に緊張の波が押し寄せる。
 とてもそうは見えなくて、そう見えないことも空恐ろしい。だが、千載一遇の好機でもある。
「初めまして。私は月の都で一番可愛くて賢い兎って言われているんです」
 それはきっと、別の評価と取り違えている。
「それと一応、私が実質的な玉兎のリーダーだと思ってもらって構わないよ。本当は他にいるんだけど、そもそもその子がそういう権利を持っているのは、私のことを所有しているからだし。ともかく私の一存でどうとでもなるってこと。ねぇ妖夢、貴方が知りたいのは、つまりそういうことだよね?」
「親切にどうも。おかげでよく分かりました。つまり、貴方のことを説得できれば良いんですね?」
 幼い少女、実質的な玉兎のリーダーは、面白そうに目を細めた。
「その通り。良いよ、付き合ってあげる。それで、鈴仙は何か言うことある?」
「そこの子を見逃してあげてくださいって言ったら見逃してくれるんです?」
 視線を向けた玉兎のリーダーに対して、鈴仙は馬鹿にしたように鼻で笑う。
「説得の材料次第かな」
「嘘ですね。月の連中が、一度決めたことを変えるとでも?」
「じゃあ貴方は向こうの木陰で涼んでて良いよ」
 鈴仙に向けて冷たく、そう言い放った。
「妖夢。無駄だろうけど、頑張ってね。自分が納得するまで努力することって、私は大事だと思うの」
 手をグーにして、励ますように。リーダーの冷たい視線は完全に無視するようだ。
「それは果たして応援なんですかね?」
 妖夢の疑問に答える前に、鈴仙は嬉しそうな顔で清流の方へと早足で駆けていった。
 脱走した玉兎の少女なら、木の幹に凭れ掛かって震えている。
「鈴仙は、本当に全然、驚くほど成長してないね」
「ロクに知らない貴方がそんなことを言わないでください。同じ地上で見ていた私が言いますが、鈴仙さんの心境は変化していますよ」
 我ながら有無を言わせない口調だった。
 妖夢はリーダーのことを強く睨み付ける。しかし幼女は涼しい……もとい暑そうな顔だった。どちらにしても意に介されていない。
「その目、どうしたの? ……ああ、そういう。やっぱり答えなくて良いわ。厄介事に巻き込まれてるみたいね」
 納得した様子で言う彼女の瞳の紅色具合の濃度は、妖夢はもちろん鈴仙とも段違いで、色々と見えているようだった。
「どのくらい厄介なんでしょう」
「教えてあげても良いけど、本当に知りたいの? 知ったら余計に怖いかもよ?」
「やっぱりいいです」
 そこはきっぱりと断った。
 知りたいことや知るべきことなら他にある。
「質問があります。良いですか?」
 本当に最近は質問してばかりだ。
「お好きなだけ、どうぞ。長くなっても良いからね」
「脱走した玉兎は他にもいるはずです。何故、そちらの方だけが連れ戻されるのですか?」
 実は最初から、この点が疑問だった。
 鈴仙も元は脱走兵のはずだし、詳しく知らないけれど、団子屋の二人も似たような感じだ。
「一つにタイミングの問題。どさくさに紛れた失踪は別の表現で書類が通るけど、ただの脱走はただの脱走。加えて、その子は月の道具を盗んだ上で持ち出している。もちろん型落ちの支給品だけど、月の技術を地上に落として混乱を招くのは良くない。理由はこの二点。分かったかな?」
「じゃあ、こうしましょう」
 妖夢は、震える少女に視線を落とす。確かに奇妙な形の銃らしき物を持っていた。まずはそれを拾い上げ、そして、背中の後ろから引き抜いた刀を振り下ろした。
「……ひ、ひぃ」
「なんかすいません」
 本気で怖がっているので、流石に悪いと思った。もちろん本当に斬ったわけじゃなくて、外したのだけれど。
「はい、お返しします」
 謎銃だけをリーダーに引き渡す。
「道具は回収できたでしょう。ですが残念なことにその子は辻斬りの凶刃にかかってしまいました。これでどうです?」
「いや、そんな詭弁にもならないたわ言でドヤられても……私が困り顔になるだけだよ?」
 本当に困り顔だった。
「ダメですか?」
「貴方って、嘘を吐くのに向いてない性格してるわ」
「いけると思ったんですけどね」
 これは半ば、虚勢だった。
 虚勢でも良い。半信半疑だが、妖夢の拙い交渉で許してくれるという見込みもあった。
「制服を着崩している貴方は、そこまで真面目に職務に従事しているという気がしないんです。ここは一つ、どうか適当に」
「うん、相手の様子を見るのは大事だね。よくできました」
「えへへ、どうです。私もやればできるんです」
 褒めてもらった。鼻が高い。
「で、そこの貴方、何か言いたいことはある?」
 リーダーは脱走した少女に話を振った。
 背筋に微かな電流が走ったような気がした。嫌な予感がする。妖怪の山だからって天狗になってる場合じゃない。
 相手の様子を見るのが大事だと言うのなら、簡単に崩れる所を突くのも常套手段だろう。
「……そうよ」
 震える声で、少女は言った。ただし震えている理由は恐怖でなく、怒りだったが。
「見逃しなさいよ! どうしてあいつらが良くて、私がダメなのよッ!!」
「つまり、羨ましかったんだ。クラスメイトは今頃楽しく暮らしているのに、自分はまた、つまんない毎日に逆戻りだものね。他のお友達は脱走した二人を馬鹿にするという娯楽で満足してるのに、貴方だけは羨ましいという本心を隠せなかった」
「悪い?」
 悪びれもせずに、脱走した少女は言った。
「ちょっと貴方、そこまでにしておいた方が……」
「うるさい!」
 先程までの気弱な様子が嘘のようだった。
「脱走した玉兎は他にもいる。何故、貴方だけが連れ戻されるのかな? どうしてだと思う?」
 それは妖夢が確認した質問のはずだった。
 しかしリーダーは、妖夢に言ったものとは違う答えを口にする。
「それに対しての一番シンプルな答えは、ここが地上だから。地上って理不尽なの。実の所、こんなことばかり、地上には溢れているよ? だから逆に質問、貴方は本当にこんな下らない世界で暮らしたいの?」
 詭弁だ。
 だって理不尽な目に遭わせているのは、幼女自身のはずだ。しかし事実も含んでいる。今回の理不尽はリーダーだが、いずれ次の理不尽が降り掛かり、その理不尽が手心を加えてくれる保証は無いに等しい。これが上手な詭弁というやつなんだろうか。
「ちょっと待ってください!」
 割って入るしかなかった。
「連れ戻す本当の理由は何なんですか?」
「特に無いよ」
 二度も嘘を吐いた後、リーダーはどうでもよさそうにそう言った。
「え……」
 妖夢も、脱走した少女も固まった。
「でも敢えて言うなら、どさくさに紛れてないから、っていうのは、一応は本当」
「……じゃあ、見逃してくれるんですか?」
「別に良いけど、そうしたらその子、死んじゃうんじゃない?」
 ひぅっ、と息を呑む声が聴こえた。
「だから、テストをしよう」
 どこか楽しそうに、リーダーは言った。
「たった今から、何でも良いよ、ある程度の大きさの生き物を殺しておいで。それができたら、温室育ちで贅沢三昧の飼い兎な貴方でも地上で暮らしていけると判断して、私の一存で許可してあげる」
 言葉の意味も、それをテストだと言う意図も分かる。不当ではなく妥当な内容だ。だけど、それはあまりにも惨くないか?
「鈴仙は、本当はやりたくないと言いながら、平気な顔でやるよ? 鈴瑚もそつなくこなすでしょう」
「清蘭はできないはず!」
「あの子は運が良い。鈴瑚と一緒だった」
 なんてことの無いように、リーダー。
「鈴仙は能力がある。鈴瑚は要領が良い。清蘭は運が良い。能力も無く、要領も悪く、運まで悪い子は死ぬの。それが地上。貴方は今、そういう場所にいるの。嫌なら辞退しても良いよ?」
「理不尽だわ……」
 妖夢も、そう思う。地上は時として厳しい。だが、嘆いていても始まらないはずだ。
「なんでよ! なんで私だけ! ひどい! ひどいわ!」
 嘆いていても始まらないはずだ。
「うわあぁぁっ、ずるいずるいずるいっ。なんであいつらだけ良くて、私だけ! どうして私ばっかり!」
 だから、嘆いていても始まらないはずだと。
 脱走した少女はとうとう地団駄まで踏み始めた。その様は、悲哀すら誘う。まるでこの世の全ての理不尽と悲しみを一身に背負っているかのようだ。なんて大袈裟な。
「……あの、この山には動物もいます。私も一緒に探しますから……」
「何よ貴方。生きるために殺すの? 最悪ね」
 助け舟を出した妖夢に対して、脱走した少女は蔑みの目を向けた。素晴らしい変わり身の速さだった。拍手を贈りたいくらいだ。
「大体にして、貴方のせいで私は捕まったんじゃない。今更、良い顔なんてしないでくれる?」
 嘆くの勝手だが、私情を無視して自分を良いように使う気すらないのだろうか。
 妖夢はそう思ったけれど、言わないでおいた。何を言っても無駄な気がしたのだ。
 そもそも根本的な問題として、この子は生きていくのに性格が向いていないと思うのだけれど。自分勝手にも程がある。
「どうして月の兎ってこうなんだろうね。まさか遺伝じゃないよね?」
 最初の月の兎らしい玉兎のリーダーは、呆れ果てたと言いたげな半眼で呟いた。



「……結局、連れて帰るんですね」
 脱走した少女は眠らされた上に、羽衣をぐるりと巻き付けられ、荷物みたいな感じで引っ張られるようだった。光速をぶっちぎって連行される少女の身の安全は気掛かりである。
「妖夢だって、その方がマシかなって思ってるでしょ?」
 控え目に頷いて、それでも気になることはあった。
「処分は、重いんですか?」
「グラウンド十周の刑。それと綿月家に送り付ける。学校生活で少しは協調性を身に付けてくれれば良いんだけどね」
「じゃあいいです」
 思ったより全然軽かった。
「ところで幻滅した? 月の兎なんて、大抵はこんな感じで恐ろしく身勝手だよ? 自分勝手とは月の兎の代名詞と言って良いかも知れないね」
「そうなんですか? 私の見た玉兎の方達は違うので、信じられませんけど」
 鈴仙に、団子屋の二人。
「……あのねぇ、妖夢。貴方は本当に鈴仙に対して、ズレみたいなものを感じないの? あの子は月の都始まって以来、歴代最低の問題児だよ?」
 終始半笑いだったリーダーが、この時だけは気遣うような顔で訊いてきた。
「さっきの鈴仙の態度。見たでしょ?」
「見ました……けど」
 けど。
「鈴仙さんの言い分も、分かりますから」
「だから、決定打にはならない、と。そう、分かったわ」
 これでもう話は終わり、さようならだと思ったら、リーダーはしばらく考え込んでから、口を開いた。
「お察しの通り、貴方って厄介事に巻き込まれてるよね。で、具体的な細かいことを話すと、脱走志願のこの子のためだけに槐安通路……夢の世界の通り道が開いたの。脱走幇助なんて、まったく誰がやったんだろうね、困ったね」
 素知らぬ顔をしている割には、知った風な口振り。
「……?」
「それはそれとして、とある少女の話をしましょう」
「少女?」
「そう、少女。貴方もよく知ってると思うけど、地上って理不尽だよね。そもそも命の仕組みが、他の命を奪うようにできている。これを月では穢れと言います」
「そういう一方的で横暴な言い方、嫌いです」
 窮屈で高飛車で高邁な意見には、流石の妖夢でも同調しかねる。
「でも、貴方なら仏教の教えくらいは分かるよね。殺生は厳禁」
「だからこそ感謝を忘れずに、です」
「その通り。そういう欺瞞、そういう詭弁で、貴方は穢れを受け入れているわけだ。意地悪な言い方だけど、何か違うかな?」
「地上のこと、知ったような口を利くんですね。月の兎のくせに」
 遠慮するつもりなんて最初から無かったけれど、思った以上に嫌悪感の込められた声になった。
「いや、私は元々、地上にいたよ? だって最初は月に兎なんていなかったんだから、そりゃそうだよね」
「……」
 だから何だ。そう思うしかなかった。
 それから、やはり似ているとも思った。姿形だけでなく、性格まで因幡てゐにそっくりらしい。こうも御託を並べ連ね、人の心を弄ぶとは。
「そうですね。殺生はせざるを得ない、それは仕方ない、そう思ってしまっています。でも、だったらどうしろって言うんです? 貴方達の言う穢れなんて、当たり前のものじゃないですか」
「そっか。じゃあ最低限の殺生は仕方ないとしよう。でも、生きるために他の生き物を殺して糧にする、何もそれだけに限った話じゃないよね? 特にそう、人間なら。『お互い同志の生存競争や、原人以来遺伝して来た残忍卑怯な獣畜心理、そのほか色々勝手な私利私慾を遂げたいために、直接、間接に他人を苦しめる大小様々の罪業を無量無辺に重ねて来ている』だったかな。生きるという所業は、悪夢じみているね」
「……」
 何か言い返したい。でも何も言えない。
 違う、人間はそんな酷いものじゃない。それを言うのは不可能だった。例えば、地獄の女神に罰せられて死んだ人間の人生を、妖夢は我が事のように体験している。
 平気な顔で花畑を踏み荒らすような人間だった。
 花畑はそのまま花畑であり、もちろん比喩でもある。
「悪い所だけ見て、悪いと言わないでください」
「じゃあ妖夢はこう言いたいの? 悪いのは一部分だけで、他の大部分は悪くない。本当にそうかな? 明らかにそれと分かる悪事だけが悪なのかな? 自分の属する大部分は悪くない。成る程、まるで善良な人間みたいな考え方だね。でもその善良な人間って、本当に善良? 他人を傷付けるのは大した事件じゃなくて、お手軽な消費者心理によってもたらされる方が多いことを知らないの?」
 言い返すんじゃなかった。
「人間社会というやつは厳しいらしいよ? そこで平気な顔をして生きているのが、立派な大人達なんだってさ。無知無思慮な酷い人間がいっぱいの理不尽な世の中で、前ならえして生きていくの。阿諛追従に、見て見ぬ振り。それって、心のある人間のすることなのかな?」
 わざとらしい幼女じみた無垢な表情で、きょとんと首を傾げながら、辛辣な毒を吐く。
 それは明らかな人間蔑視の言葉だった。この月の兎は、他の月の兎よりも深刻かつ正確に、人間という種族を見下している。
「人は生きているだけで他人を傷付ける。どんなに気を付けたって、全く他人を傷付けない者はいないでしょ? 人は、何もせずには生きられないんだから」
「……それも、仕方ないじゃないですか。だから、気を付けるしかないんです」
 だとしたら、傷付けたことに気付かないこと、それが一番重い罪なのかも知れない。
「そう言ってまた、仕方ないと受け入れるの? 都合良く目を逸らすの?」
 この少女には、口で敵う気がしなかった。
 反論できないことは悔しいけれど、妖夢の頭ではどうしようもない。
「それはそれとして、今、妖夢が自分で思ったこと、よく覚えておいてね。繰り返すよ? 『傷付けたことに気付かないこと、それが一番重い罪なのかも知れない』だからね? 私は平気な顔をしている誰かさんのことを言っているんだよ?」
 本当にどうしようもないのはね、花畑を踏み荒らす悪人に喜々として石を投げ付けながら花畑を踏み荒らす自称善人の方なんだよ?
 嘲弄と侮蔑の入り混じった愉快そうな微笑で吐き捨て、こほんと咳払い一つ、玉兎のリーダーは話の軌道を元に戻す。
「殺すこと、死ぬこと。死にまつわること、ひいては生きること。これを、月の都では穢れと言う」
 でもね、私の見解は少し違うの。
 そう囁き、地上と月を知る兎の少女は、かく語る。

「犠牲の上に成り立つ幸福という構図。他者を貪ることでしか得られない繁栄。おかしな話だと思わない?」
 もしもそれを認める。あるいは常態化した理不尽を忘れているのなら、それこそ本当に罪なんじゃないかな?

 せせらぎを遠く聴く御山の静寂の中、その言葉は精神の深い場所を揺り動かすようであった。
「でも別に、貴方はそれを本気で言ってるわけじゃないんでしょう?」
 明らかに嘘を言っていると分かる薄ら笑みで妖夢をからかうリーダーに、それだけ苦し紛れに言い返すのが精一杯だった。
 まあね、ただの詭弁だよ、とリーダーは笑った。
「さて、なにはともあれ、それって嫌だと思わない? 悲しいこと、理不尽なこと、大きな争い、小さな諍い、貴方達が当たり前と思って受け入れているものの全てから、逃れる手段があるとしたら、どうする?」
「……?」
「もしも逃れたいと望むなら、その二振りの剣を私に向けなさい。そして私にこう言うの。私を月に連れて行け、さもなくば殺す」
「……そんな手段で月の民になれるのですか? 信じられませんね」
「地下牢生活でさえ良ければ、なれるよ。ま、地下牢と言っても宮殿みたいな所だけどね。私は、当たり前の理不尽を許せないと言って、どんなに悪辣な手段を用いてでも月に逃げてきた人を知っているわ」
「その人が、とある少女だと?」
「そだよ。その子も、感受性が強い子なの。他人の機嫌が悪いだけで、その他人以上に苛々するような面倒な子。だから地上の当たり前が受け入れられなくて、世界に溢れる悲しさが赦せなくて、とうとう本当に穢れの無い世界に来ちゃったの。手段を選ばずに」
「その人は何をしたんです?」
 ふと、耳に入れない方が楽に生きられるような気がした。
 そんな気がしただけで、特に何か対処する暇は無かったけれど。
「考え得る限りの悪辣な方法を尽くしたと思ってくれて構わないよ。人だって謀殺するし、別の少女を絶望の底に叩き落す程度のこともやった。彼女はたとえそうまでしてでも、貴方達のように当たり前の理不尽に甘んじなかった」
「……矛盾してます」
 命を奪うこと、悲しみを嫌っているのに、そんなことをするなんて。
「そだね、綺麗好きのくせに泥沼で足掻くようなものだよ。足掻けば足掻くほど泥塗れ。結果を出すまでに多くを犠牲にした。でもその少女にとっては、それで人生最後の悪行になった。喩えるならこんな感じかな、嫌いな食べ物だけど、我慢して一生分食べちゃったってこと」
 その気持ちが分からないこともなくて、戸惑った。
 つまり、ただ程度の問題だった。その少女のやり方は過激で、妖夢自身も反感を覚えたが、動機それ自体なら決して理解の範疇を超えたものではなかった。むしろ、誤魔化していることが悪いことのような気さえしてくる。
 当たり前の理不尽に甘んじていると言われれば、返す言葉は無かった。世の中の当たり前と闘ったという少女を、少なくとも妖夢は詰ることができない。その資格が無い。どうして、闘わなかった者が闘った者を責められようか。
「妖夢。貴方さ、この子はすぐ影響されるんだからもう、とかって言われない?」
 呆れ気味に言われて、我に返った。
「……言われます」
「ずっと昔、私のご先祖様の時代から、兎は嘘つきで、あざとくて思わせぶりな態度を取る生き物と決まっているんだけどね。何を本気にしているの?」
 嘘だと言った言葉すら、嘘であるような気もしたけれど。結局、どこまで本当だったかは分からない。
「気を付けた方が良いわ。貴方みたいに純粋無垢な子は、簡単に悪い方向に転ぶ」
 これこそ本当に返す言葉が無い。
 結局、言っている当の彼女すら本気にしていない、下らない詭弁にも満たないような、単なる冗談で振り回されただけだった。少し刺激的なことを言われただけで、この有様。
 妖夢は萎れて肩を落とす。
「感受性が強くて純粋な子は、危ないの。そういう子達は、誰かが守ってあげないといけないお姫様。誰にも守ってもらえないお姫様は自分が壊れて、それでも壊れなかったお姫様は、女王になって周囲を壊すの」
 その時妖夢は、リーダーの声に混じる不機嫌に気付いた。
「私は、私の姫様の手を取るのが遅過ぎた」
「……貴方の、姫様? もしかして、今の話の少女がそうなんですか?」
 妖夢の頭の中で、もう一つ想像が繋がった。その少女こそ、実質的ではない方の本当の玉兎のリーダーで、そして何故、名目上だけなのかと言えば、幽閉されているからに決まっていた。
「そだよ。そして私は、その少女のことを姫様と呼び慕っています」
 今までの嘲弄も嘘も何も無かった。あらゆる感情を打ち消したような静かな面持ちで語られる言葉以上に、その、真摯な眼差しに面食らった。
「飼い主に、忠誠でも誓っていると?」
「まさか。主に忠誠を誓う動物なんて、人間と犬くらいのものだよ。兎はただ懐くだけ」
 嘘じゃないと分かった。
 好意を寄せる言葉は、本心だ。
「……そうそう、私自身の考えとしては、月の兎が少しくらい減ろうがどうでも良いのよね。だから、『私の兎達のことは大切に扱うように』っていうオーダーを出したのは、姫様なの。さっきは何回も嘘を吐いたけど、これが本当の理由ね。でもって何故この子だけが連れ戻されるかと言えば、貴方も見た通り、この子が地上で生きるのに性格向いてないから。仮に元気そうやれるようなら、私達はいくらでも放置するよ?」
「そう、なんですか?」
「そだよ。もちろん私以外の月の兎は、そんな事情は知らないけどね」
 お姫様は兎を大切にしている。
 そう知って、妖夢の胸の内に湧いた感情は、困惑だった。妖夢は困り果てていた。

 極悪人として聞かされた少女を、妖夢はもう、ただの悪い人、それだけで済ませてしまうことができない。

「要するに、このことを話すために、私はわざわざ暑い中、地上まで足を運んできたのね。まったく、月の都の敵になる女神のシナリオに乗るなんて癪だけど」
 と、不機嫌そうに。妙な言い方になるけれど、妖夢に聞かせるための独り言を。
「私の姫様の名前を、嫦娥と言うわ。じゃあ、純狐に会ったらよろしくね。あの子もまた、騎士に恵まれなかった可哀そうなお姫様だから。貴方がどんな答えを出すか、空の上で楽しみにしてるよ?」
 誰ですか、それ。
 そう口に出すに前に、逆さまの流れ星が地上から天に昇って、光の尾を引きながら夏の空に消えていく。眩しい太陽に紛れ、羽衣が散らす月の波は、すぐに見えなくなった。
 ──それと鈴仙のこと、都合良く目を逸らしちゃダメだよ?
 頭の中に、そんな声が聴こえた。


「妖夢。どうだった?」
 空に昇る光を見たようで、鈴仙が戻って来た。
「せっかく待っててくれたのにごめんなさい。結局ダメでした」
「納得できた?」
「一応は」
「そう、良かったわね」
「……お団子、買って帰りませんか?」
「そうね。たまになら、良いかも知れないわ」

 ……あのねぇ、妖夢。貴方って本当に鈴仙に対して、ズレみたいなものを感じないの?

 確かに、少しだけ感じていた。疑問だった。
 一応は納得できたという言葉は嘘ではないが、もやもやした気持ちは胸の中に残っている。あの少女、妖夢にとっては完全に他人だが、鈴仙にとっては仮にも以前の同胞で、脱走してきたという立場は同様のはずだった。
「私は最初からね、ああ、この子は地上で生きるのなんて無理だなぁって思ってたのよ。連行されて、良かったんじゃない?」
 その点は、妖夢も同感だった。けれど鈴仙のように朗らかに語ることなど出来そうにない。

 ねぇ、鈴仙さん。貴方はどうして、一仕事終えて満足みたいな、ぱぁっと晴れやかな顔をしているんですか?


◇◇◇ part 3

『眠られぬ夜の一番明晰な時間を、私たちは心中で敵を切り刻み、目を抉り、はらわたを引きずり出し、血脈を絞りあげて血を抜き出し、身体の器官という器官を踏み躙り、粉砕するのに費やす。そしてただ骨だけはお慈悲から享受させておいてやるのである。この譲歩を済ませると、初めて私たちの心は鎮まり、疲労に打ちひしがれて沈んでいく。かくも執拗な、かくも綿密な作業をくりかえした挙句、ようやく休息を得るのである』

 貸本屋で何気無く手に取った本が、凄まじく暗い内容だった。目次を捲ったらオデュッセイアなるギリシャっぽい単語が見えたから目を通してみたのだけれど、こんな内容だとは。
「……はあ、こっちまで暗くなりそうです」
 怨むことは、重労働であるらしい。
 ペカテーッっと光る赤い眼にも、もうだいぶ慣れてきた。慣れたくなどなかったが。
 そして今日も赤い眼の具合を診てもらうため、永遠亭に向かう。
 ただ、いつも手ぶらでは悪いので、手土産でも持って行くことにして、妖夢は人里をうろついていた。

 お饅頭、団子は最近食べたから、涼しいものが良いですね。葛餅とか良いかな……

「貴方、優曇華ちゃんのお友達ですか?」
「……ひっ!?」

 背筋が冷えた。
 熱という熱を奪われたような、亡霊が背後に立っている系の薄ら寒さを極寒にまで冷やしたような、何と言うかとにかくそんな感じ。
 恐々としながら振り返ると、最初、そこには誰もいないかと思った。数回の瞬きぱちくりの後、女性と思しき姿が目に映った。どの時代の衣裳かまでは妖夢には分からないけれど、中華風の礼服は、身分の高さを示すものだ。黙っていれば楚々として見えそうなものだが、何故だか妙に背筋がざわつく。
 うん、関わっちゃいけない類いの人だ。
 小心者はそう納得した。
「チガイマスヨ」
 カタコトニナッタヨ。
「オトモダチデスネ」
「どうして貴方までカタコトで返してくるんですかっ!?」
「真似っ子です」
 ふふふ、と笑う危ない人。
「そうですかっ」
 ひとまず妖夢の中での評価が、明らかに危ない人から、危なくて変な人に格下げになる。
「貴方も鈴仙さんの知り合いですか。お名前は?」
 中華風だし、身分高そうだし、妖夢が思うに月関係だろう。
 品の良い楚々とした仕草。丁寧な物腰。まるで、お姫様みたいな人。
「名前はありません」
「ほぇ? ……まあ良いです。そっちがその気なら、私も名乗りませんからね。真似っ子なんですからねっ」
「  」
 妖夢が見たことのない間の取り方をしてから、名前の無い人は微かに笑った、ような気がしたけれどよく分からない。遠慮無く言ってしまうのなら、表情を作る機能が壊れているような印象を受けた。
「ふふふ、面白い方ですね」
「いや、貴方ほどじゃないですよ」
 変な人と知り合いになっちゃったなぁ。
 そう思って空を仰ぐしかなかった。突き抜けた大空は高く広く青く、どこまでも続いていきそうだ。カッコイイ顔の角度で、溜め息でも吐いておこう。
「はぁ、やれやれです。大変な一日になりそうですよ」
「おお、決まっていますね。さては優曇華ちゃんの真似っ子ですか?」
「どうもです」
 褒められて嬉しい妖夢だった。
「もっと褒めても良いんですよ」
「私は知っていますよ。貴方みたいな子を、ぽんこつかわいいというのです」
「可愛いだなんて、照れますよ」
 えへへ~。


 町を歩いていて、異常にも程近い違和感に気付いた。
 明らかに危ない人と連れ添って歩いているのに、誰も隣の彼女を見ない。名前の無い彼女は、情報として認識し辛いのかも知れない。妖夢だって、真後ろで気配を感じるまで気付かなかった。目で見るのにも、時間が掛かったような気がする。
「そんな赤い眼をしていて、疲れないのですか?」
「もう慣れちゃったんで」
 オンとオフの切り替えくらいなら出来るようになっている。
「ところで、名無しさん。実は私は今日、ある場所に用事があるのです。友人に相談したところ、『貴方一人じゃ不安だから、誰かと一緒に行きなさい。おかっぱ頭の剣士とか良いわよん』とのことなのです」
「それはそれは、随分と具体的なラッキーパーソンの指定ですね」
「緑色の服だと尚よろしいとのことです」
「どうやら私が適任のようですね」
「折角ですので、優曇華ちゃんについて語り合いながら、私の用事に付き合って欲しいのです」
「良いですよ」
 診察の予定の時間は決まっておらず、いつも妖夢が行った時にやってもらっているので、急ぐ必要も無い。
 猛暑日は過ぎ去っていることだし、断る理由は、特に何も無かった。

「ところで、どこに何をしに行くんです?」
「ある男を、殺しに」

 放っておくわけにはいかなくなった。



 妖夢は、人里の裕福な区画に連れて来られた。
 稗田邸を始め、この辺りには里の有力者の邸宅が蝟集していて、立派な建物が軒を連ねている。白塗りの土壁が道の両脇に続いていた。

「質問です」
 この言葉も、すっかりお決まりになっているような気がした。
「何でしょうか?」
「どうして男を殺す必要があるのですか?」
「実は私にもよく分からないんです。ただ、私の中では既に決定事項です。以前にも一度、殺そうと思ったのですが、優曇華ちゃんに止められてしまいました」
「そりゃ、普通は止めるでしょうよ」
「そういうものですか?」
「そういうものですよ。男とはどんな縁なのですか?」
「縁という程のものでもありませんが」
 名前の無い彼女の説明は、こうだった。

 以前、その男は素行に異常が見られる息子の治療を永遠亭に依頼した。
 その息子がどうなったのか、名無しの彼女は記憶していない。
 そしてふと、男を殺しておくことにした。

 意味が分からない。
「言っちゃなんですが説明不足ですよ」
「私もそんな気がしていました。ですから、実際に見てみるのが良いでしょう。ここです」
 名無しの彼女は家の門を吹き飛ばした。
 消失、と表現した方が良いくらい、くっきりとした円形の型でくり抜いたように綺麗に消し飛んでいる。
「って、なにやってるんですかーーーっ!?」
「お邪魔しますです」
 と、大したことなどないように。
「こんなに荒っぽいお邪魔しますは初めて見ましたよっ!」
 あわわわわぁ。
 大慌てしながら、妖夢は今更になって理解した。
 表情が壊れているから気付かなかったけれど、名無しの彼女はひどく怒っているらしい。ブチギレている、と言っても良いくらいだ。怒り方すら、忘れてしまっているようだった。
「ああもうっ、ちょっとこっちに来てくださいっ。ひとまず逃げますよっ」
 玄関からお家の中にお邪魔するのは遠慮して、庭を迂回しながら隠れることのできる場所を探す。石灯篭の影、植え込みの影を経由しつつ、家の裏手側に逃げ込んでいく。使用人達が大きな物音のした玄関の周辺に集まっているのなら、反対側は比較的目立たないはずだった。
「ふふ、忍者みたいですね」
「剣士です。いや庭師ですっ。なんで大きな声出しちゃうんですかっ!」
「庭師さんは、ぽんこつかわいいですね」
「かわいいとか言ってる場合じゃないですよっ! 照れるじゃないですかやめてください! って、だからなんで大きな声出しちゃうんですかって言ってるじゃないですかっ! ってもうーーーっ!!」
「しーっ、ですよ」
 大暴れした張本人に窘められてしまった。
「はい……なんかもう、すごい疲れました」
 思わず膝を落として項垂れる。できることならこのままここで横になりたい。ずぶずぶと地面に沈んでいきたい。
「質問です」
「はい、どうぞ」
「私が良いというまで、待っててくれますか?」
「いいえ」
「待っててください。お願いします」
「いいえ、ダメです。私はあの男を殺します」
 あまり強く制止しては、邪魔者は速やかに排除されるだろう。
 この人は、人じゃない。妖夢は自分の力で止められるとは思わなかった。

「では、土仕事をする庭師の手で申し訳ないのですが」
 貴人のエスコートをするように、手を差し伸べる。
「おや、決まっていますね」
「私はこれでも令嬢の従者を務めているのです」
「そうですか。ぽんこつかわいいというのは撤回しましょう」
 微かに目を見開いている。
 怒っている、らしきよく分からない表情以外の表情を、初めて見た。驚き、かも知れない。
「私が貴方の剣になる。そういうことで、納得してくれませんか? 貴方の手を汚すまでもない。私がやります」
「ええ、良いですよ」
「はい、姫様。こちらこそ、よろしくお願い致します」
 真っ当な知性を失った女にしか通用しないような、他愛も無いその場しのぎのたわ言だった。

 赤い眼があって良かった。
 気配と足音で人の様子くらいは分かるが、透視をすると驚く程に確実だった。忍者に転職するのも良いかも知れないと、冗談であっても考えてしまう。細い肘に添えられた貴人の手の感触に思いを馳せながら、確実な異常が見て取れるその場所へ苦も無く進んでいく。
 家の奥まった場所にあるそこは、どうやら座敷牢のようだった。
 赤い眼で見るまでもなく、肌で空気が淀んでいるのを感じる。長い間、ほとんど人が立ち入っていなければ、こうはならない。表の喧騒も遠い。少しくらいはゆっくりする時間が取れるだろう。
 表情からは断言はできないが、恐らくは、姫の顔は強張っている。鈴仙が依頼を受けた際にこの座敷牢で何かがあった可能性は高い。

 窓の無い部屋は暗く、灯りも最低限。格子の奥の狭い空間にある物は、布団と、洗面器が一つ、それっきり。掻き毟られた畳には、吐き戻したらしい吐瀉物が放置されている。
 そして、縄で縛られ、横たわる人影。
 少年、いや、青年だろうか。極端に痩せ細っているためか、必要以上に小柄に見える。

「……」
 今は、何も無かったが。あるとしたら、ほぼ全面が黒ずんだ畳だけ。血反吐の痕跡が残るばかりで、お世辞にも綺麗にとは言えないが、片付けられている。
「姫様。大丈夫ですか?」
 肘が万力のように締められて軋みをあげている。
 見れば、姫の手は激しい怒りに震えていた。
「どうかしましたか? 私は何ともありませんよ」
 何ともないはずがない。
 内出血の痛みをやせ我慢で堪え、平静を装う。
「それは何よりです。では、何か楽しい話をしましょうか」
「優曇華ちゃんは、とてもクールにあの件を片付けましたよ」
 片付けた、ですか。
 少し前までであれば、その言葉も素直に受け止められた。でも今は、こう思う。
 本当に?
 疑ってしまうのは悪いと思ったけれど、一緒に関わった二つの事件を通しての、鈴仙の行動を思い返す。花の成り損ないの件、脱走した玉兎の件を鑑みると、ささっと手早く済ませてしまったような気がしなくもない。手際の良さを称賛するには、クールという形容詞も相応しい。しかし悪く言えば、他人の気持ちに無頓着なようにも思えた。

 あの鈴仙は、ここで何をした?

「鈴仙さんの話は、貴方にとって楽しいのですか?」
 表情の変化が狂っているので、顔を見ても分からない。エスコートする肘の痛みが判断の材料だった。今は、関節が砕けそうに痛む。
「さあ、分かりません。でも、心臓が激しく脈を打つのは本当です。胸の奥の方がズキズキするんです」
「ここで何があったんですか?」
「覚えていません」
 忘れるほどショックだったのか。忘れるほど不快だったのか。他に考えられる理由には何があるだろう。いくら考えても分からない。
 しかし、知る方法はあった。赤い眼には他人に同調する能力がある。何が起きたか知るには、一瞬だけ二重映しになったあの光景をよく観察するのが手っ取り早い。
「少々、時間を頂きます」
 妖夢は床に膝を落とした。乾いた血痕を指先でなぞる。聞いた話の中で、安否の分からない人間は一人だけだ。相手が死者だろうが何だろうが、当事者にとっての現実が残り続ける限り、赤い眼は妖夢の期待に応えてくれるはずだ。
「……」
 狙った変化は起きなかった。やはり、乾いていてはダメなのか。もっと深く、波長を合わせなければ。
 妖夢は意を決すると、顔を床に近付け、血痕に舌を這わせた。古い鉄錆に似たザラリとした感触と味が、舌の上に広がる。

 不安になるくらいにあっさりと、視界が他人のものに切り替わった。

 子供の私は、丁寧な手付きで蝶の羽根をもいでいた。
 羽根を失って芋虫になった蝶を白い皿の上に載せて、私は満足して微笑む。
 穏やかな顔立ちの女性がやってきて、私を窘めた。彼女の悲しそうで困ったような顔を見て、僕は悲しくなった。私はこの陽だまりのような女性が母であることを知る。私の中に彼女に対する愛情が芽生えた。
 また別の場面でも、僕は蝶の羽根をもいでいた。綺麗な蝶だった。私も綺麗な模様だと思う。これをお母様に見せれば喜んでくれるのではないかと、本気で考えていた。と、怖い人が現れて僕の腕を引っ張ると、砂利の敷き詰められた庭に僕を放り投げ、頭を思い切り殴った。僕はただ怯えるばかりで、私は驚く。この暴力は躾の範疇を超えている。その日は一晩中、真っ暗な納屋の中に閉じ込められた。お母様がおにぎりを持ってきてくれたのが、私はとても嬉しかった。
 また場面が切り替わる。とても悲しい場面だった。僕は庭の物陰に隠れて、座敷の中を見守っている。光景は単純だ。お母様は、その男に苛められていた。私はそれを、虐待だと思った。男は酷い罵詈雑言を浴びせながら、お母様のことを蹴り付けている。暴力は以前から日常的だったが、日に日に悪化していくようだった。
 獣の子。
 その言葉がやけに耳に付いた。獣の子とは、どうやら僕のことらしい。蝶の羽根をもいで、鼠を捕まえて、犬の腹を裂いたのが悪かったようだ。それは、お母様に言われたから知っている。だから悪いのは、どうしてもやめられない僕で、お母様は何も悪くないはずだ。躾がなっていないのならともかく、胎盤に責任を押し付けるような言い方が、私にはとても不快だった。

 今度の場面は、見覚えのある暗い座敷牢だった。俺はそこに閉じ込められ、滾々と湧き上がる陰惨な欲求に耐えながら過ごしていた。扱いは最悪の一言だったが、良いこともあった。監禁された状態では、陰惨な欲求を満たすことは物理的に不可能だった。耐え難い衝動を心が耐えられずとも、自動的に耐えることができる。俺は、お母様に迷惑を掛けたくなかった。それだけは、本当だ。
 俺が、お母様が病死したことを知ったのは、死の数年後のことだった。

 場面が暗転した。
 しばらく、何も見えない状態が続く。

 目を覚ます。
 耳障りな声が響いていた。最悪な寝覚めだった。
 仕方ないのですよ。もちろん私も不憫に思うのですがなぁ? おお、可哀そうに、可哀そうに。ですがなぁ、どうしても、息子が暴れるものでございますから、こうして──
 いや、それはいったいどんな類いのたわ言だ。
 そう言えば、お母様は本当に病死なのか? 心労が祟ったのなら、それは、殺されたようなものじゃないのか?
 ──では、貴方はどう解決すると言うのです?
 誰の声だろう。知らない女性のものだ。
 ──そうですね……
 また別の声。
 眉間に、銃口を思わせる指が突き付けられた。
 ──始末すべきは、こっちでしょうが。
 架空の撃鉄が落とされる。

 現実の怒鳴り声を聞いて、意識を取り戻す。
 黒を基調とした中華風の礼服の女性が、男のことを睨んでいる。よく知っている男だった。

 俺は、その男が憎くて堪らない。
 違う。それは私の憎悪じゃない。

 頭の中で他人の声が反響している。

 しかし、俺にとってどちらが他人なのか分からない。

「……っ、ああもうっ、私は馬鹿なんでしょうねっ。性懲りもなくっ」
 体に染み付いた動作が腰の後ろの刀を抜く。そのまま、白楼剣をふとももに突き立てた。鋭い痛みが走り、妖夢は自分の現実を取り戻す。
 口の中で、乾いた血の味がした。
 剣を引き抜いて立ち上がれば、零れた血が服を汚した。
 鋭い痛みが引いた後、熱の固まりが残る。肉の土壌に激しい鈍痛の種を植え付けたような感じ、などと頭の片隅で空想して気を紛らわす。
「姫様っ! 待ってください。待てと言っているでしょうが!」
「…………」
 ゆらりと、狂人は振り返った。
 何を考えているのか分からない瞳が妖夢を射抜く。
 邪魔をすれば殺すと言っているのだと、過たず理解できた。
「貴方の怒りはもっともです。私も、そこの男が気に入らない」
 彼の父親だろう男は、侵入者に心当たりがあったのか、使用人を連れてここまでやって来たのだろう。妖夢が目覚めた時には既に瀕死の重体で、他にも倒れた人間が山積みにされていた。
 どうやら妖夢が目を覚ますのは遅かったようだ。だが、手遅れではない。良い薬の先生を知っている。まだ息があるのなら、治療は容易のはずだ。
 死んでも良い人間は、確かに存在する。だからと言って、死んでも良い人間を見殺しにできるほど、妖夢は大人にはなり切れなかった。

「貴方が抱く殺意は分かります。だけど、殺しちゃダメです……!」
「    ?」

 恐らくは不思議がっているだろう無表情で、名無しの彼女は直角に首を傾げた。
「私の気持ちを、分かってくれるのですか?」
 ぞわっ、と。
 一斉に産毛が逆立つのを感じた。今、何か取り返しの付かない間違いを犯そうとしている。
「質問があります。良いですか?」
 失言をすれば殺される。
 そう確信しながらも、妖夢はそれ以外の処方を知らなかった。
「ええ、何なりと」
「お名前は?」
「私に名前はありません。失いました」
 それは聞いた。だから。
「貴方は、どういう存在ですか?」
「月の民に仇なす仙霊です。便宜上、純狐と呼ばれていますが、それは私の名前ではありません」
 純狐。聞き覚えのある単語だった。
 隠していたわけではないのだろう。ただ、質問の仕方が悪かっただけで。
「何故、月の民に怨みを?」
「月には嫦娥がいますから」
 それは、考え得る限りの悪辣な方法で月に昇った少女の名だった。純狐に同情するのであれば、容赦なく一緒になって詰れば良い。そうやって媚びを売れば、この場面を生き延びることもできるだろう。
 しかしそうするにしても不都合がある。妖夢は嫦娥のことを知ってしまっていた。
 嫦娥のことを好きになった少女がいる。その事実は重かった。天秤の片側にだけ錘を載せることはできない。どちらかに肩入れできるほど、妖夢は嫦娥のことも知らないし、純狐のことも知らない。
 そんな曖昧な態度を、純狐は許してはくれなかった。

「貴方が抱く殺意は分かります。貴方は、そう言いました。貴方は、私の気持ちを分かってくれるのですか?」

 答えられるはずがない!
「そうですね。分かると言うのなら、分かるのでしょう。何も複雑なことのない、とてもシンプルな理由ですから」
 曖昧に頷けば助かるだろうか。
 助からないような気がする。
「それとも、貴方の言葉は嘘だったのですか?」
 殺されると思った。
 助かる望みが極めて薄いことも理解した。
 安易に分かるなんて口にした自分が悪い。それだけは、絶対に軽々しく言っちゃいけない言葉だった。不注意だった。不注意が死に繋がるのは、当たり前のことだ。
 だから、仕方がないと思った。これから死ぬ状況だけれど、不思議と落ち着いた気持ちで喋ることができた。

「分かるなんて言って、ごめんなさい」

 ただ、謝った。
 どっち付かずが言って良い言葉ではなかった。
 分かると言って良いのは、純狐に寄り添うことのできる者だけだ。
「謝ってくださいなんて、言っていませんよ?」
「それも、ごめんなさい。私が謝りたいだけなんです」
 今更、謝っても遅い。
 どうして、純狐の気持ちを考えなかったのか。そう後悔するのも遅い。

 この家で起きた一件で、純狐はひどく怒っている。
 だから、理由は単純明快だった。子供が殺されたのが、辛いんだ。

 しかし、それだけか? いや、それだけだ。理由はシンプルだと言っていた。
 つまり、それだけだが、それだけではない。
 もう一度、考え直す必要があった。純狐が致命的に壊れ、これ程までに激怒している、とてもシンプルな理由とは何か。

 この家では、忌むべき性質を持った青年が殺される事件が起きた。純狐はひどく怒っている。
 ここに、想像を一つ付け加える。

 純狐には、愛していた子供がいる。その子供は、この家の息子と境遇が似ていた?
 よく似た構図の事件に、純狐は強い反応を示したのではないか……?

「……………………あぁ、そうだったんですね」

 確信した。これ以外に思い付かない。
「……私なんかに、分かるわけなかったです」
 子供を失った親の悲しみが、子供に分かるはずがない。
 そして、遺族の悲しみに、赤の他人は口を挟めない。
 蝶の羽根をもいで喜ぼうが、犬の腹を裂いて喝采をあげようが、親にとって子は子でしかない。真っ当な親ならば、そう考えるはずだ。母が子を愛するのは当然だ。そんな世界であって欲しいと妖夢は願う。
 純狐の嘆きも、怒りも、妖夢が言えたものではないが、ある意味で当たり前のものだった。こうならない方が、おかしいくらいだ。それくらい、深く愛していたということだ。誰からも疎まれた子を、母親だけは愛していた。
「貴方は、良い母親だったんですね」
 泣きそうな声で、妖夢は言った。
 ただただ、無神経な自分が恥ずかしかった。
「私は、貴方のことを狂人だって、ずっと勘違いしてました。でも違ったんですね。貴方は、ただの純粋な、一人の普通の女性なんじゃないですか」
 言いたいことは全部言った。
 涙が零れないように俯いて、固く瞼を閉じる。ぼやけた視界が黒く染まり、純狐がどんな顔をしていたのか、妖夢は知らない。
 顔を上げた時、純狐はもういなかった。誰も殺さずに、去って行った。


◇◇◇ part 4

 あの屋敷でのことは事件にならなかった。
「わよ~ん♪」
 と、ふざけた声で現れた女神が、あれよこれよと言う間に事態を収めてしまったのだ。瀕死の重傷者もいたはずだが、死者も出ていない。例の男は具体的な罪状があるわけではないが、裁かれずとも、人里という閉鎖社会における社会的制裁を受けることになるだろう。総じて、ゴンドラで降りて来る神様のような手際だった。

 翌日。ヘカーティアと最初に出会った寂れた道に、妖夢は足を引きずって出掛ける。
「……本当は、斬り倒してやろうかと思ってました。貴方のおかげで大変な目に遭いましたから」
 挨拶の前にそう宣言することで、怒りを表明する。
 ヘカーティアは以前のように路傍に直接座り込んでいて、静かな面持ちの妖夢と顔を見合わせると、微かに苦笑した。
「斬られる覚悟くらいはしているわ」
「刃毀れしたら困るのでやめておきます」
「そう?」
 来てみたは良いものの、何から話して良いか分からない。ヘカーティアも無言でじっと待っていて、しばらく沈黙が続いた。
「ありがとう。ごめんなさい」
 先に口を開いたのは、ヘカーティアの方だった。
「何がです?」
「感謝の理由は、貴方が純狐にしたこと。謝罪の理由は、私が貴方にしたこと。貴方が眼の使い方に慣れるように手を回したわ。授業は口で教えるより体験させた方が効果的だから」
「そうですか」
 流石の妖夢でも、ヘカーティアの存在には気付いていた。だからこうして、この場所を訪れているのだ。
 しかし、感謝される謂れには覚えが無かった。
「……私は姫様──純狐さんに、ひどいことをしました」
 最後の顔は見なかった。でも、泣いていたような気がする。
 短い間でも姫と呼んだ貴人を、半人前の未熟者は満足に守り通すことはできなかった。
 守るべきものを守れないのなら、妖夢が持っている二本の棒きれは、本当にただの棒切れだ。妖夢は何のために、毎日欠かさずにこの棒切れを振る練習をしているんだろう。
「いいえ、そんなことない。貴方はとっても素敵な騎士だったわ」
 女神はゆるやかに首を横に振って、そう言った。
「半人半霊……面白い種族もあったものよね。周りの大人達から何か聞いてる?」
 何故か出し抜けに、そんなことを。
 何も聞いていない。よって返事は簡潔に。
「いえ、何も」
「人間は陽、幽霊は陰。つまり、分かるかしら? 貴方という存在は太極図を表しているの。道──タオの概念の理想的状態に程近い」
「いや、そんな大袈裟な……私はただの、どっち付かずです」
 人間でもないし幽霊でもない。別にそのことを気にしたことはなかったけれど、今、妖夢が言っていることは別のことだ。
 純狐の味方にも、嫦娥の味方にもなれない、どっち付かず。
「偏ることの方が問題よ。だから、半分と半分で良いの。半分と半分、それは陰と陽であったり、死と生だったり、相手と自分、だったりするかも知れないわね」
「…………」
 その言葉の本質的な意味を理解するには、妖夢は未熟だった。
 ヘカーティアは、彼女の恐ろしい貌を知る者がいればとても信じられないような柔和な顔で、妖夢に語り掛ける。
「今まで貴方みたいな偏りの無い普通な子は純狐の周りにいなかった。滅多にいないのよ、本当に均整の取れた真っ当な人間なんて。多くの人間は、自分は何の問題も無いと思ってる自称善人なんだもの。中道を歩くことが、どれだけ難しいか」
 過剰評価されているのか、それとも普通で尖った所が無いと言われているのか。それすら判断に悩む妖夢だった。
 少し考えて、同じようなことを、あの玉兎の幼い少女が言っていたのを思い出す。上と下から、真ん中に向けて同じことを言っている。
「まあ、道徳の話なんてのはどうでもいい。私はそういう議論を見下げ果てているの、自分で言ってて辟易するほどよん。だからさっさと私の目的の話をしましょう」
「貴方の目的、ですか」
 純狐のことを置いて他に何かあったのなら、驚くことになる。
「最初はただの実験のつもりだった。貴方のことを試しに純狐にぶつけて、反応を見てみたいと思った。それで本当はね、私が授けた眼で見て欲しいのは純狐だったの。私が引き起こした案件は、眼に慣れてもらうのと同時に、困った子を見せ付けて、困った子に対する理解を促すためでもあった。だけど……だけど私は、何も分かってなかった。思いやりはね、相手を思うこと、相手の気持ちを考えることから、始まるの。こんなの当たり前なのに、私にはその当たり前が分かってなかった。ダメね、女神生活が長過ぎよん。だって貴方は、眼なんか使わないでも純狐のことが分かったじゃない」
 いや、それは違うと妖夢は思った。
 あの赤い眼が無ければ困る場面は大いにあった。
 そして、純狐のことなど分かっていない。分かるはずがない。たったそれだけのことが分かっただけだった。
「……ただの想像です。当たっていたんですか? 今になって考えると、他にも理由はあったような気がしています」
 不思議と落ち着いていたけど、とにかく夢中だったことに違いはない。
 そもそも、当たっていたから何だと言うんだ。
「結局、私がしたことと言えば……」
 余計なことを言って、泣かせただけじゃないのか?
「貴方は期待以上のことをやってくれた。だから、ありがとう。泣くのは、良いのよ。あの子は少し、普通に怒ったり、泣いたりするべきだと思うの」
 そこまで穏やかに言いつつ、ヘカーティアは途中から語気を強めた。
「実を言うと、純狐は別にあの男を殺すことをやめたわけじゃない。もちろん、肝心の復讐もね。私は、そんな御為ごかしに興味は無い」
 そんなこと、言われるまでもない。
「ただ頭がパンクしただけなのよ、色々、思う所があってね。それで現状が後回しになった。あの時に起きたのは、そういうことよ。でもって、私はそうなって欲しかった」
「色々、思う所。怨む以外のこと、ですね?」
「そうね。あの子は怨みしかないの。ねぇ、放置された怨霊がどうなるか分かる?」
「想像したくもないです。酷過ぎて」
 何だったろう。
 眠られぬ夜の一番明晰な時間を、私たちは心中で敵を切り刻み、目を抉り、はらわたを引きずり出し、血脈を絞りあげて血を抜き出し、身体の器官という器官を踏み躙り、粉砕するのに費やす。
 ……だったか。
 怨むというのは、妖夢ごときに想像が及ばないほどに重労働だ。そんなことを続けていては、頭がおかしくならない方がおかしい。
「そう、酷いわ。怨みが募りに募って、どんどん悪化して悪化して悪化して悪化して、悪化して。そして最後に、怨みだけの存在に純化した」
 それが、純狐という存在の正体だった。
「あの、確認しておきたいんですけど、私が何をしたって言うんです?」
「貴方はよくやってくれたわ。そう言ったけど?」
「だから、具体的に何をしたって言うんですか?」
 いわゆる“良いこと”なんて、していない。悪いことには心当たりがちらほらあるけれど。
「そういうことなら、ほとんど何もしてないわね。勇敢でご立派な善人様みたいなことなんて、何もしてないわ。ただ、フェアな立場から素直に思ったことを言っただけ」
「……やっぱり、そうなんですか」
 痛ましい思いで、妖夢は足元の地面を睨んだ。
 ヘカーティアがあっさりと肯定したこととはつまり、たかだか妖夢がした程度のことさえも稀有な経験になるくらい、純狐が人々に蔑ろにされてきたということだった。蝶の羽根をもいで、花畑を踏み荒らす悪人の母親は、喜々とした衆愚に石を投げ付けられたことだろう。いや、誰もが石を投げたわけではないかも知れない。つまりは阿諛追従に、見て見ぬ振り。結局、誰一人として純狐を助ける者などいなかった。怨霊なら社か霊廟の一つでもあるのが普通だが、純狐にはあるかどうか。
 誰にも助けてもらえなかったお姫様は、世界の理不尽さに耐えかねて壊れて、周囲を壊す女王になった。
 やがて哀れな魂は、とうとう恐ろしい地獄の女神に目を付けられるまでに堕ちて──昇華した。それは、どれだけ想像を絶する異常事態だろう。本当に狂っているのは純狐でなくて、そうさせた周囲の人間の方じゃないのか?
「彼女を初めて見た時、なんて綺麗な魂なんだろうと思ったわ。怨念の塊なのに、透き通っているの」
 確かに、極致にあるものは何であれ美しいだろう。
 だが、純狐は美術品ではない。
「……純狐さんは、貴方のことを友人と言っていましたよ?」
 ある場所に用事があるから、友人に相談したと言っていた。それで、おかっぱ頭の剣士が良いだとかで。
 純狐と交わしたヘカーティアの話題はその一回切りだったけれど、妖夢は純狐がそう言ったことをきちんと覚えていた。
「ええ、私の存在は、彼女にとっての不純物だわ。普通に怒ったり、普通に泣いたりする気持ちもね。純狐には心しか無くて、だから心以外の理屈や感情は、不純物。お友達なんかになって、何のつもり? 私は純狐をどうしたいの?」
 どこか自嘲気味の言葉だった。
 それもそうだろう。だって、余計な不純物は純狐を極致から引き摺り下ろす。雑念の混じる剣筋は美しくない、そんなことにも似ているかも知れない。だとすると純狐の存在は、あの極限まで研ぎ澄まされた美しさは、手を加える必要など無いどころか加えるべきではない、完成されたものだ。またとない程の美術的な価値のある稀少な品に、ヘカーティアは、なんて余計なことをしているのだろう。
「私は綺麗な純狐を気に入ったのに、自分で不純物を混ぜて汚してるの。ねぇ、どうしてかしら?」
 本気で不思議がっている表情だった。
「分からないんですか?」
「分からないわ」
 ヘカーティアは真顔で言った。
 本人に分からない感情が、他人に分かるはずがない。でも、
「あくまで私がこう思うってだけで、でも多分こうじゃないかなーっていうのがあるんですけど、言っても良いですか?」
 妖夢が遠慮がちに言うと、予想以上に食い付きが良かった。
「ぜひ、聞かせてほしいわね」
「友達に、普通に笑って欲しいからだと思います」
「……そう。いや、それは無い」
 ヘカーティアは頷こうとした、ようだった。が、その動きは途中で止まった。他愛のない冗談を笑い飛ばしながら、小さく首を横に振る。
「私は本当は、とても恐ろしい強大な神様なの。だから、そんなショボくて生温いことを考えるはずが無いでしょう? 怒ったら怖い、そのはずなんだから」
「生温いも何もないですよ。貴方は元々、怒ったりするような性格ではないんじゃないですか?」
 何か物凄く見当外れなことを言ったかと思うくらい、目に見えてヘカーティアの表情が固まった。
 目を見開き、奇妙に固まった表情のまま、ヘカーティアは訝しげに呟く。妖夢の言っていることが信じられないという表情だった。
「……私は、地獄の女神なのよ?」
 強く念を押して、確認するように。
「だからどうしたんですか? 私は説教臭い地獄の閻魔様が、本当は優しいことを知っていますよ」
 何ら気負わずに、妖夢はただ思ったことを口にした。
 ヘカーティアは恐ろしい。でも、怖いものじゃない。
 その瞬間のヘカーティアの表情の変化は不可解なものだった。虚を突かれたような無表情から、痛みに耐えるように唇を噛んだかと思えば、最後には、何か憑き物が落ちたような、執着を捨てたような、そんな穏やかな顔になった。
 それは些細な神様が大きな神様になるまでの果てしなく長い道筋を、ものの一瞬の間に逆向きに辿ったかのようでもあり、だからなのか、ヘカーティアの顔は少し疲れていた。それでいて、どこの路傍にでも転がっているお地蔵様のような、柔和な顔だった。
「……ああ。そう言えば、そうだったわね。ずっとずっと昔、冥府下りの前にはね、私は、すぐそこにいたのよ」
 辻や三叉路というのは要するに、交わる場所。交わるから、出遭いやすい場所。転じて、あの世、冥府へと通じる場所。そういう危ない場所には決まって、塞の神や道祖神がいたものだ。
 だから辻の女神が君臨していた場所は、遠い地獄の底などではなく、どこにでもあるすぐそこ、すぐ近くの道の端。かつての時代のある地域では、夕暮れ時の辻の暗がりに、必ず女神様の恐ろしい影があり、危険な場所に不用意に近付く人間を追い払っていた。
 妖夢は知っている。決して特別ではない普通の目だけれど、一目見た時から分かっている。──このラフでパンキッシュな恰好をした神様は、地獄から人間を睥睨するような怖い女神ではない、と。
「忘れていたんですか? いや、貴方が自分でそう言っていたんじゃないですか」
「貴方こそ、あんな冗談を覚えていたの?」
「ええ、覚えていますよ。ヘカテンピース様でしたよね」
 親しみを込めて、ヘカ様と呼びなさい、だとか。
「冗談に決まってるじゃない、そんなの……」
 笑い飛ばした声も小さく萎んでいく。地獄を統べる程に、世界で最も強大な力を持ったお地蔵様は、力無くふっと息を吐いた。懐かしむように、何処か遠くを見るような目をしたヘカーティアが何を見ているのかなんて、妖夢は知らない。何か、悩み事のヒントか答えになるようなことを、妖夢が言ったのかも知れない。でもそれは単なる偶然で、そう、妖夢の知ったことではないのだ。
 その万感の思いは、ヘカーティアだけのものだ。小さな子供じゃないんだから、そのくらい一人で受け止められるだろう。
「他の誰でもない、貴方を選んで良かった」
 ヘカーティアは小さな声でそう呟いた。冗談じゃ済まないくらいに困らされたのは確かなので、妖夢は聞こえない振りをしておく。今は、そっとしておこう。


「純狐さんは、今、どうしてるんですか?」
 程無くして落ち着いたヘカーティアに、妖夢は問う。
「部屋でじっとしてるわ。いつも通りと言えばいつも通りで、何か違うような気もするけれど、どうかしらね。まあ、簡単に変化が出るなんて思ってないけどね。でも大丈夫よ、自重しなくて良いって分かったから」
「そうですか」
「他に何か、知りたいこと、言いたいことはある?」
「いえ、特に無いです」
「いやいや、特に無いって。今なら貴方の望みを好きなだけ叶えてあげても良いのよん?」
「別に良いです」
「なんでちょっと迷惑そうなのっ!?」
 ちょっと迷惑と言うか、結構だけど。
「大変な目に遭ったので、正直な所、貴方のことが苦手です」
「……私に対する遠慮が無くなっているような気がするんだけど、気のせい?」
「さあ、どうだか」
 もう用は済んだので、お供え物だけ押し付けて、さっさと踵を返す。
 ただ、早足で去ったわけでもない。青い空を眺めながら、ゆっくりと歩く。

 二重映しの赤い景色は、もう、見えなくなっていた。



「お世話になりました」
 ヘカーティアとのやり取りからまたしばらくして、役目を終えた赤い眼は、完全に元通りになっていた。それに伴い、目の診察は今日で最後になる。妖夢は深く頭を下げて、永遠亭を後にした。

 ひと夏の間、ほぼ毎日通っていた建物を振り返ると、自分で思っていた以上に名残惜しく感じた。いつでも遊びに来ても良いとのことだけれど、理由が無ければ訪れることは無いだろう。

 鈴仙と、会うことも……

 最初は、肝心な部分を話してくれない困った主人を持つという共感で。
 似たような立場から親しくなっていき、折に触れて、彼女の颯爽とした態度を見ることになった。
 未熟者の妖夢からは、常に自信に満ち溢れた鈴仙のことが、格好良く見えた。

 共感。憧れ。
 恋慕にも似た感情。

 赤い眼を言い訳にして鈴仙と過ごした夏は、妖夢にとって、どんな意味を持つのだろう。

「あ、鈴仙さん」
「あら、妖夢じゃない。もう帰るとこ?」

 竹林の小径で、その彼女と行き合った。
 こうして出会ってしまうのは、どういう理由なのだろう。妖夢は、神様の悪戯というものに思いを馳せずにはいられない。これはきっと、迷いの竹林というボードゲームで遊んでいる神様の悪戯だった。頬杖を突いて盤面を見下ろし、微笑みながら妖夢の駒を愛おしげに突っついているのだ。

「大事な話があるんです。聞いてくれますか?」
「良いけど、それならうちに寄って行ったら?」
「いえ、歩きながらにしましょうよ。この頃は涼しくなってきて、気持ち良いですから」
 そうして、二人は連れ立って歩き始めた。
 どこか遠くからヒグラシの鳴き声が聴こえる。
「夏も、もう終わりですね」
「そうね。私もすっかり、夏の風物詩みたいに思うようになってきたわ」
「ああ、そうなんですね」
 嫦娥を姫様と呼んでいたあの玉兎の少女は、鈴仙のことを成長していないと言っていた。でもこうして、鈴仙は地上に馴染んでいる。無論、彼女が言っていたのは、そういうことではなかったが。
「そう言えば、純狐さんに会いましたよ」
「えっ? 大変だったでしょ?」
「それはまあ、はい、ですね。何と言うかこう……自由? な方でした」
「そうそう、他人の事情なんかお構いなしなのよ」
 よりによって、そんな返事をされるとは思っていなかった。
「妖夢は、あんな自分勝手な奴になっちゃダメよ? 困るのは周りなんだから」
「……」
 どう答えたものか。
「困ると言えば、師匠の言い付けで大変だったんだから。はぁ、やれやれよね。どうして私ばっかりこんな目に……」
 絶妙な指の逸らし方で額を抑え、顔に絶妙な角度を付けて溜め息を吐く鈴仙。
 やはり本物は決まっている。
「私は鈴仙さんと一緒で、ちょっと楽しかったですけど」
 この夏の一連の出来事はヘカーティアが純狐のために仕組んだものだと、当の彼女の口から聞いてはいるけれど、妖夢にとっては、それはただそういう側面もあるというだけの一つの状況に過ぎなかった。

 だから、“鈴仙と過ごした夏”、妖夢にとっては、それが一番重い意味を持っている。

 この夏を通して関わった三つの事件で、鈴仙は常に颯爽としていた。
 奇妙な花が何なのか知ろうとしなかった。
 似た境遇の少女の行く末に、興味を持たなかった。
 純狐の目の前で、やってはいけないことをやった。
 特に、三つ目が酷い、と言うか、凄い。鈴仙は、純狐を傷付けたことに気付いていない。地雷原と化した花畑に向かって石どころか巨大爆弾を投げ付けておきながら、そんなことは露知らず、平気な顔で満足している。ここまで来ると、もはや圧巻ですらある。
 しかし鈴仙は、自分が何か悪いことをしたとは思っていない。だが無理も無い。実際、特に何か悪いことをしたわけでもないのだから。

 鈴仙とは何なのか。
 少なくともこれだけは言える。自分勝手、などと、そんな次元の話ではない。鈴仙はもはや、自分勝手を超えた別の何かだ。

 同じ事件を共に体験し、徐々にすれ違いを感じ始めて、いよいよ不信感は浮き彫りになった。
 もう都合良く目を逸らせない。妖夢はもう、今までのように鈴仙のことを無邪気に慕ってはいない。
 だけど、それでも、妖夢は──

「あの、鈴仙さんっ……」

 立ち止まった。そんなつもりはなかったのだけれど、気付いたら足が前に進まなかった。
 少し先で、鈴仙が振り返る。風に靡く髪が眩しい。

「伝えたいことがあります。良いですか?」

 震える指先を胸の前で握り締める。
 固く緊張する妖夢が見つめると、鈴仙は促すように頷いた。

「鈴仙さんは、私の憧れでした。カッコよくて、綺麗で、本当に、憧れだったんです。そんな貴方と、一緒に色々なことに関われて、本当に嬉しかったです」

 大きく息を吸った。
 あれほど言えないと思っていた言葉は、魔法のように滑り出す。

「貴方のことが好きです」
 今も、まだ。

 鈴仙のことを知らずに憧れた。鈴仙のことを知って、憧れではなくなった。
 でも、いつの間にか好きになっていた気持ちは変わらない。清濁を合わせて、その姿に惹かれている。

 鈴仙は、屈託の無い笑顔を見せてくれた。
 そっと歩み寄り、妖夢の耳元に唇を寄せる。髪先が頬をくすぐった。甘い香りが広がった。心臓が高鳴った。
「妖夢にだけ、ナイショで教えてあげる。絶対に誰にもナイショだからね?」
「二人だけの秘密ですか? 嬉しいです。教えてください」
 そうして鈴仙は、吐息のような声で囁く。
「私も──」
 頭の中が空っぽになって、胸の鼓動を何処か遠くの出来事のように感じながら、妖夢は続く言葉を待った。

「──私も、私のこと好きなの」

 その時の気持ちを、どう言葉にすれば良いのだろう。
 納得とは、また違うのだけれど。
 さらさらと流れる髪が離れていった。顔のすぐそばに、はにかんで微笑む鈴仙の顔。可愛い、素直にそう思った。都合良く目を逸らすことをやめた今だから、純粋にそう思える。
 風見幽香の言葉を思い出す。
 ナルキッソスはどうしようもないが、少なくとも美しい。
 神話の美男子のことは知らないけれど、きっとそうだったのだろうと、妖夢も同じように思う。
「鈴仙さんは、素敵な女の子ですね」
「ええ、私もそう思うわ」
 夏の太陽よりも眩しい笑顔。
 他人の気持ちなんて、自分にはこれっぽっちも関係無いという、爽やかな笑顔だった。
「聞いてくれて、ありがとうございます」
 声は掠れていないだろうか。
 唇は震えていないだろうか。
「別に良いのよ、このくらい」
 平然と、鈴仙。
「……」
 涙が浮かばないように、唇を強く噛んで堪える。
「じゃあ、またね」
「はい。さようなら、です」
 鈴仙は手を振って、走り去っていく。
 妖夢は一人、竹林の小径に立ち尽くす。せめて見えなくなるまでは見送ろうと思うのに、鈴仙の後ろ姿は次第に滲んでいった。

 頬を透明な涙が零れていく。流れるままに任せて、涙を拭いもせずに遠景を見つめ続ける。しゃくりあげるわけじゃない。むせび泣くわけじゃない。清らかな雫は離別のために流されたもので、妖夢はただ静かに、もう戻れない日々を名残惜しむ。悲しいと言うよりも、寂しかった。
 気が済むまで立ち尽くした後、しゃんと顔をあげる。

 通り過ぎて行く夏と共に、初恋にさよならを告げた。
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コメント



0.370簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
大変面白かったです

ただやっぱり強サドキャラをあげすぎて
うどんげをさげすぎている感が強いですね

ヘカや純子相手にもスジを曲げないうどんげを
矮小化しすぎだと思います
最後のくだりは不自然すぎる

4.100名前が無い程度の能力削除
思っていたよりずっと軟着陸でしたね。うどみょん
竹林のボードゲームやってる神様的にはこれはよかった方に入るのだろうか?

妖夢がかっこよかったです。
鈴仙は残念な展開が続きますね。

あと本編に関わらない程度に散りばめられた過去作要素がちょっと好きだったり
5.100名前が無い程度の能力削除
妖夢の優しさが今度はうまいことかみ合っていて本当によかったです
6.90奇声を発する程度の能力削除
とても素晴らしく良かったです
7.100仲村アペンド削除
大変に素晴らしい作品でした。この猛烈なキャラの立ち方は、とても真似できないと思わされます。
8.100名前が無い程度の能力削除
どこまでも誠実な妖夢を始めとしたキャラ達の心情の立て方が深く太くて、紅い目でも無いのに引き込まれそうになった。
終盤の会話が予想も出来なかったのにすんなり納得出来た事に脱帽。
10.100名前が無い程度の能力削除
終盤の方で語られる、テーマの再提示がグッときました
ヘカの事が好きになる話
11.70名前が無い程度の能力削除
理不尽な殺戮者に命懸けで媚びるなさけないやつが偉くて毅然とした態度をもって貫くやつが自分勝手か

それはそれでひとつの正義だしいいねんけどなんつーか鼻につくいやらしさがあるんだよなあ


12.90名前が無い程度の能力削除
これぞまさにここの鈴仙という感じでとても良かったですここまで疑うことなく自分を肯定できる人格に周囲が惹かれる(それが+か-かはともかく)のもわかります
13.100名前が無い程度の能力削除
多分作者さんも気づいてないかもだけど
この作者さんの作品の大概のキャラクターって自分のことを自分で欺いてるんですよね
妖夢も今回で自分を自分で見事に欺いてみせた生き延びるために
自分に対して自分勝手になれる人からみれば自分に誠実なやつは嫉妬半分命知らず半分で馬鹿に見える 自分勝手ということにしとかないといけない
とそう思わなきゃやっていけない
底なしの暴力という現実を受け入れるために

優最後のやつ優曇華からしたら私たち好きなもの一緒だねおっそろーいというオーケイサインのつもりだったんでしょうなw
こいつもとんでもないやっちゃでw








15.無評価名前が無い程度の能力削除
つまり、妖夢ポンコツ可愛いですね分かります。つっても、うどんもポンコツメンタルだったりwソコニシビレルアコガレルー。「私も私が好き」ってーある意味名言ですよね。羨ましいくらい。我が身可愛いと言えるくらい素直だとも言えますし、だからつまり、他人無感情なポンコツうどん可愛い、です(笑)
20.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい