Coolier - 新生・東方創想話

RAINBOW

2017/08/12 17:22:40
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「パチェ、出かけるわよ」
「・・・どこへ?」
「外へ」
「出かけると言っているのだから外へ出るのはわかってるわ。私が聞きたいのは目的地・・・」
「これから出かけるというのに目的地なんて必要かしら?」
「むしろ必要不可欠だと思うのだけれど・・・」
「もう!ごちゃごちゃうるさいわね!」
図書館でひとり静かに魔導書の解読をしていたら突然押しかけてきた吸血鬼にうるさいと言われた・・・こんな理不尽な目にあった魔女は自分以外にはいないのではないだろうか?
答えはおそらくイエスだろう。吸血鬼も魔女も絶対数が少なすぎる。
「とにかく出かけるといったら出かけるの!ほら!」
「あ・・・!」
そう言って彼女は私の手を取ってかけだした。
少女が少女の手を取ってかけだす・・・文章だけで見れば誰もが微笑ましい光景を想像することだろう。
だが忘れてはいけない、彼女は吸血鬼だ。
その身体能力は人間のそれとはかけ離れている。
新学期初日の朝、食パンをくわえて曲がり角から飛び出してきた彼女とぶつかったら転校生との運命の出会いを迎えることなく人生が終了してしまうだろう。
そんな勢いで手を取られて走られているのだ、私にはもうどうすることもできない。
もはや地に足は着いていない。
人間だったらとてもではないが耐えられないだろう。魔女で良かった。

そんな勢いで走ったのだから玄関まではあっという間だった。
そして彼女は走った勢いそのままに玄関のドアを開け放つ。
あれ?今は日中ではなかっただろうか?だとしたら今、外には吸血鬼の弱点である日光が降り注いでいるはずでは・・・
そう考えていた私の目に飛び込んできた外の世界、そこには日光など降り注いではいなかった。
そのかわりにこれもまた吸血鬼の弱点である流水、雨が降り注いでいた。



「もう!出かけようと思っていたのになんで雨が降ってるの!?こんなのおかしい!絶対に間違ってるわ!」
「ええ、そうね・・・」
「私はレミリア・スカーレットよ!天気だって私にひれ伏し従うべきだわ!そうだと思わない?」
「ええ・・・」
「・・・ねぇパチェ、聞いてる?」
「ええ・・・」
「・・・今、何考えてる?」
「この魔法は詠唱に対しての効果が薄すぎるわね・・・そこさえどうにかできれば十分実用的な魔法なのだけれど・・・」
「人が話しているのだから魔導書から顔を上げなさい!」
紅魔館2階の応接間にこの館の主人の怒鳴り声が響く。
どうやらよほど雨が降っていることがお気に召さなかったらしい。先程から言っていることが無茶苦茶、我が儘お嬢様ここに極まれりだ。
「パチェー、魔法で雨雲を消しちゃってよ。パチェならできるでしょう?」
「雨は大地に恵みをあたえてくれるとても大切な物なのよ。降ってくれる時に降っておいてもらわないと・・・荒れ果てた広野の真ん中にある吸血鬼の館なんて様にならないでしょう?」
魔法を使うのも出かけるのも面倒なのでそれらしい理由をつけて適当にあしらう。大体私は今、読書をするのに忙しいのだ。
だというのに彼女は「出かけるのー」だの「パチェも出かけたいでしょー」だの「うー」だの・・・控えめに言ってうるさい、読書のジャマだ。
ここはもう一度現実を突きつけることでおとなしくなってもらうことにしよう。
「レミィ、あなただってさっき見たでしょう?外は雨、吸血鬼のあなたが出かけることなど不可能よ・・・」
私は近くにあった分厚いカーテンに手をかけ、そして開け放った。その瞬間、私の背後に現れた窓からこの薄暗い紅魔館の中に日光が差し込んでくる・・・日光?
窓の外を見る幼い吸血鬼、先程から曇っていたその顔がみるみるうちに笑顔に変わっていく。
私も後ろを振り向いて窓の外を見た。
振り向いた先には青空、そして今見た彼女の笑顔と同じくらいに輝く太陽・・・雨は?
背後で誰かがかけだした音が聞こえた。その数秒後・・・
「肌が!肌が焼ける!?」
「お嬢様!外に出るなら日傘をお持ちください!」
紅魔館の玄関にこの館の主人とメイド長の叫び声が響いた。



「パチェー、なんでついてこないの?」
「私があなたの速さについていけると思った?」



紅魔館からさほど離れていない森の中、お気に入りの日傘を差しながらご機嫌に歩く吸血鬼の後ろを私は3歩下がってついて歩いた。
別に大和撫子を気取ろうなどというつもりはない。目的地がわからないから彼女の後ろをついて歩くしかないだけだ。
そもそも先程からあっちへこっちへとフラフラしている彼女を見ているととてもではないが目的地があるようには思えない。
まさか本当に何も予定を立てずに出かけようと言い出したのだろうか?
彼女が思いつきで動くことなどいつものことだがそれに付き合わされるこちらの身にもなってほしい・・・
そんなことを考えていたときだった。
鼻先にひとつの水滴が落ちてきたのは。
その瞬間、私は反射的に空を見上げた。
見上げた先には曇り空、そして今落ちたような水滴が私の頬にふたつ、みっつ・・・数えられたのはそこまでだった。
空から降り注ぐ数え切れないほどの水滴を浴びて私は雨が再び降り出したことを理解する。そして後悔する。
普段ならこんな雨を止ませることなど生粋の魔女である私にとっては造作もないことだ。だが今はそれが出来ない。なぜなら先程適当にあしらうために少し前を歩く少女に雨の大切さを説いてしまったから。
そういえばこの雨の中、その少女はどうしているのだろう。私は視線を前に戻してみる。

そこには日傘の半分を空けてこちらに差し出すレミィの姿があった。

「パチェ、入りなさい」
「あら、日傘なのに雨除けに使ってしまっていいの?」
「悪魔は利用出来る物はすべて利用するのよ」
言っていることの恐ろしさとやっていることの小ささのギャップに思わず吹き出しそうになってしまったがここで彼女の機嫌を損ねてしまってはこれからしばらく雨を浴び続けることになるかもしれない。
私はグッとこらえて彼女の右隣に滑り込む。
小さな傘だったので右肩は雨を浴び続けることになってしまうが文句は言えない。それは彼女の左肩だって一緒だ。
「ねぇレミィ・・・あなたの左羽から煙が上がっているような気がするのだけれど・・・」
「き、気のせいよ!」
私は彼女の強がりと雨の降る音、彼女の左羽から上がる煙の音を聞きながら雨が止むのを待った。



吸血鬼である彼女は雨が降ってしまっては動くことが出来ないので私達は雨が降っている間はその場で片方の肩を濡らしながら相合い傘をし続けた。
幸い雨はすぐに降り止んだ。どうやら通り雨だったらしい。
空模様も紅魔館の窓から見たような青空に戻っている。
ただひとつだけその時とは違うことがあった。
それは空に雨雲達が置いていった七色の橋が架かっていることだ。
「こんな素敵な偶然に巡り会えるんだもの・・・たまには目的地を決めずに外へ出てみるのも悪くはないでしょう?パチェ」
偶然か・・・運命を操ることの出来る彼女に偶然の巡り会いなどあるのだろうか。
昔、考えたことがある。この世界のすべては彼女の思い通りに動いているのではないのかと。
私と彼女が出会ったのも・・・紅霧異変が失敗に終わったのも・・・今、こうして2人で並んで雨上がりの空を見上げているのも・・・すべては彼女にとって偶然ではなく必然だったのではないだろうか。
ふと隣にいる彼女の顔を見てみる。
そこには年相応・・・ではなく見た目相応に目を輝かせながら空に架かる橋を見上げる少女の姿があった。
そんな姿を見るととてもではないが彼女が考えていたような大それた存在とは思えない。
何より今のこの状況を楽しんでいる彼女がとてもうらやましく思えた。
今は私も巡り会えた偶然を楽しむことにしよう・・・そう考えて私は偶然に巡り会えた空を見上げた。
初めまして。普段はYouTubeでゆっくりを使ったゲーム実況や茶番の動画を投稿しているゆっくりルートという者です。
今回は初めて二次創作SSにチャレンジしてみました。
今までこのような物を作ったことがなかったのでまだまだ拙い作品になってしまったと思いますが楽しんでいただけたのなら幸いです。
ゆっくりルート
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コメント



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3.90ノノノ削除
なんだかんだで付き合ってあげるパチェさん可愛い……。
楽しめました。
4.80奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
6.30名前が無い程度の能力削除
うーん、文章のテンポが悪い。
7.70T削除
わがままお嬢様がとても可愛らしかったです。
この二人の友人関係、アウトドアには程遠いと思いつつもこういうエピソードは素敵だなと思います。
8.100南条削除
面白かったです
焦げ付きながらも親友を濡れさせまいとするお嬢様にカリスマを感じました
でも結局濡れさせちゃっているお嬢様がそれっぽくて良かったです