Coolier - 新生・東方創想話

神からのもて成し 第1章

2017/06/26 01:57:52
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今日もまた何処かで人身事故があったらしい、なんでも自ら快速電車に飛び込んだという。またか。絶えないな。
一体どうすれば飛び込む者はいなくなるのか。近年営団地下鉄で見かけるようになった、『ほーむどあ』とやらを全路線に設置すれば良いのでは無いだろうか。
線路とホームの間に柵や壁を作ってしまえば、飛び降り件数はゼロになるだろう。と一度私は自己解決したものの、いや、でもまあ、突発的衝動に駆られた者の死を防ぐ事は出来ようとも、決心付いた者なら意地でも突破するかもしれないとすぐさま自説を修正した。

……そんな本当にどうでも良い事ばかりを、電車に揺られつつぼーっと考えていた。
世紀末まであともう少しとなった97年の春。
私、東風谷早苗がたった1人で生まれ故郷の諏訪の町から東京へと移住して『まだ』2年。いや、受験勉強という観点なら『もう』と表現すべきだろうか、悩ましい。
ふと窓の外に目をやると、流れゆく夕焼け色に染まったビル群の風景はいつの間にか消え去り、外は光すら生きていけぬような暗闇に包まれていた。
夜は自然と心が安らぐ。闇が人の視界を奪う、世界が私だけになる、邪魔されることの無いたった一人の私の時間。
列車は行き先も知らぬ私を乗せて、未知なる場所へと夜を切り裂いて行く。
此処は何処だ。いや、何処でも良いか。
今日はもうどうにでもなれ。




郊外になるにつれ、人が少しずつ減っていく。皆降りて行く。
気付けば号車は私一人。たった一人。




少し……寂しい。



…………寂しい?

只々寂しい。孤独。
ああ、そうだ。最近私の辞書に追加された新しい感情であった。まだ慣れてはいない。


私が生まれ、物心ついた頃。
既に私の側には諏訪子様と神奈子様という二人の神様が常にいたのだ。
彼女らはどうやら他の人には見えないが、何故か私にだけは見えていた。よく幼馴染から心配されたものだが、決して妄想の産物では無いし、病気でも無い。
何故私だけに二人が見えるのか、実際のところは分からない。だが、私が二人を祀る守谷の神社の巫女である事、そして神様から絶対的な信頼を得ていたからであると、二人と過ごす中で自然と私は結論付けていた。

あれから幾年も経ち、私は高校進学の為、東京へと移住したのだった。

私は、イジメの対象となっていた。
高校生にもなって神様が見えるなどと思わず口が滑ってしまったからだろうか、それとも私の思考がやはり世間一般よりズレて浮いているからなのだろうか、ただ単に私が周囲から見て芋臭い女だからなのか。
自分を客観視すると言うのは中々難度の高いもので、一体全体何が原因だったのか未だに分からないのだが、現に私は女子には避けられ男子には暴言を吐かれ、ひたすら虐められる日々であるのだ。
助ける者などこの学校には誰も居ない。教師も全く頼りにならない。
毎日毎日白い目で見られていた。極めて不愉快であったが、感情に走り何か言い返そうにも私を彼等と明確に区別する強力な理性が、言葉を発する事を全て邪魔したのだった。
相手が抵抗しないのを良いことに男子のイジメは段々とエスカレートしていった。椅子没収、黒板に誹謗中傷、上靴に生ゴミ、病原菌扱い……。
どれもこれも幼稚な虐めではあるが、やはり相当精神的に来るものがあるのだ。

或る日の朝の事だった。
私は何時ものように嫌々教室に入ると、今日はやけにクスクスと笑い声が聞こえるでは無いか。また何か企んでいるのだろうと思いつつ、黒板に目を向けた。
何時もの事だ、やはり今日も誹謗中傷が書かれていた。内容など観る気にもならない。
誰にも気付かれないように小さく溜息をつき、表情を変えず自身の学習机の椅子へと目を向けた。
幸い今日は椅子はあるようだ、椅子が無いのが最も後が面倒なのである。
今日は矢鱈と周囲が五月蝿かったもので、もしや何かあるのではと勘繰ったものの、やはりいつも通りのようだな。
と思ったのだ。
だがしかし、

机上に視線を移すと、そこには物体があった。透明、縦長、直方体、頂から二種類の植物が顔を出している。

それは花瓶。
純白の花弁を付けた花と、複数の小さな花弁を付け黄色に近い薄緑の花。


この光景に既視感があった。
ドラマなどで見覚えのある場面。
或る日突然他界してしまったクラスメイトを悼む為、その人の机の上に花瓶を置く。


私の机上に花瓶が置いてある。
花瓶には透き通るような白色の花と黄緑色の花。
垂れ下がる真っ白な花弁と、萌黄色の葉を付けた純白の花は、一際目立っていた。




ゆっくりと目を閉じた。




そうか。
そうなのか。
そういうことなのか。
私に死ねと、そう言いたいのか?
事故や、病気で死ねと。



過去の虐めで私が死ねと言われた事は無かった。
だが今回は違う。
間接的に、だが明確に死を表していたのだ。
私は至って冷静だ。冷静なつもりだ。
こんな事には動じない。いつも通り。
だが、思考に反して心臓の鼓動が早くなる。

目を開け、席に近付くと、花瓶の隣に一つの色紙が置いてあった。
寄せ書きである。中央を取り囲むような構図でクラス一人一人の短文が書き連ねられていた。
「別れが寂しい」「もっと遊びたかった……」
寒気がした。
死んでおらず、それどころか現在進行形で虐めているクラスメイトへと良くこんな馬鹿げた文を……。
私にはこの色紙の意図が分からなかった。
だからこそ、尚更正気の沙汰とは思えない。
心臓の鼓動が身体中に響く。




教室は暫し無音になる。皆の顔はにやけているが、私をじっと観察し次の言動を今か今かと待っているのだ。
周囲の静けさと共に、真の冷静さが次第に戻ってくる。

透明な花瓶。
一輪の透き通るような白色の花。

そうだ、私はこの花を見た事があった。
思い出した。

待雪草……。またの名をスノードロップ。
代表的な花言葉は、希望。



一見何の変哲も無い花言葉である。
しかし、これにはカラクリがあった。

こんなイギリスの言い伝えがある。

愛する人が亡くなった事に気付いた乙女ケルマは、摘んできたスノードロップを亡くなった彼の傷に乗せたという。
だが残念ながら、恋人が息を吹き返す事は無かった。
しかし、恋人に触れると彼の肉体は瞬く間に雪の雫、スノードロップへと変化してしまったという。
言い伝えが残るその地方では、スノードロップは死を象徴する花として扱われ、家の中に持ち込むと不幸が起こると言われている。

この伝説から、スノードロップは人に贈ってはならない花になってしまった。
言い伝えの死と、花言葉の希望。
この二つの言葉が結びついた時。


そう、この花を贈る事は。
『あなたの死を希望する』意味に繋がる。


出来るならばこの怒りをもって暴れたい。だが、それとは裏腹に私の顔は青褪めて行く。
此処まで手の込んだ挑発的行為をして、彼等が次に何をするのか分からない。何が彼等をここまで突き動かしているのかも分からない。何も分からないからこそ恐怖なのだ。
そうだ、今回は全てが違う。何もかもが違った。稚拙でも何でもない、私に対しての無慈悲で冷酷な命令。

分かっている。
確かに、確かにこれ以上の侮辱は無い。断じて許せぬ。面向かって死ねと言うならまだしも、此処までタチの悪い事をされ常人ならば黙っていられる筈もない。
だが、私の怖れは怒りの感情を押し潰そうとしている。恐怖の後味は中々消えそうにはないだろう。
しかし、このまま一方的な残虐行為で終わらせる事に私は一切納得行かなかった。
そうだ、何故これ程の行為をされ、何故黙って奴等の思うがままになる必要があるというのだろうか?
奴等の行為を許してはならない。決して。
そうだ、今こそ、燃え上がる瞋恚の炎を奴等へとぶつけてやるのだ。

恐怖に潰されかけていた怒りが急激に息を吹き返す。その機会を逃さず、私は花瓶を持ち上げ机を乱暴に倒し敵へと勇敢に立ち向かった。想定外の動きに学級中に衝撃が走る。
此奴にこんな事が出来たのかと。
あり得ない、信じられない。
あの、東風谷早苗が。
私はそんな周りの反応など全く構わずに一人の男目掛けて走った。首謀者、犯人であろう男へと。その男はにやけたまま逃げようともしない。
このまま奴の脳天に花瓶をぶつけろ。
血を流してお前が死んでしまえ。
だがしかし、相手を目前に凶器を振り上げようとしたその瞬間。金縛りのように私の動作は完全に停止した。動かそうと思っても動かせない。

突如理性と恐怖心が同時に呼び戻されたのだ。
もう遅い。既に身体は動きを止めている。
後の祭りだった。
怒りは、……呆気なく敗北した。

そうだ、そうだったのだ。
理性を誇りとし、普段やられるがままの受身であった者が、突然激憤に身を任せ反抗に出る事など到底不可能だったのだ。
……それは、反撃と言えるものでは到底無い。
手が止まり、最早意味を成さぬその行動は好奇の眼差しで見られ、静寂が訪れていた教室は一瞬にして嘲笑の渦に飲み込まれたのだった。
現実は非情で残酷だ。

最早、最早この無限の地獄は、抵抗を辞め、思考を停止し、蹲り、耳を塞ぎ、目を瞑り、ただ現実から逃げる事で凌ぐしか、道は残されていないのか。
ただひたすら涙が溢れてきた。
何の涙かも、分からないまま……。








チャイムの音が学校中に鳴り響く。

気が付くと私は、薄暗い無人教室のど真ん中でただただ突っ立っていた。
窓の外は曇天。そこには希望も何も存在しない、鉛色の空。
時計を見ると、下校時刻を大幅に過ぎている。気を失っていたのか。いや違うだろうな、恐らく記憶が飛んでいたのだ。
何故か知らないが身体はとても疲弊しており、直ぐに私は机の椅子に座った。


人生辛い時、悲しい時、多くの者は家族、友人が助けてくれると言うだろう。
しかし東京へと引っ越した今、私には家族も友人もいない。やはり教師も役に立たない。
だが、私には誰にも見えぬ唯一無二の人生の相談役がいる。

諏訪子様と神奈子様。

そうだ、いつも私を支えてくれた。
どんなに苦痛であっても耐え抜き今まで学校に通えたのもこの二人のお陰であった。
いつもどんな時も、背後を振り返ればそこに居る。愚痴だろうが、相談だろうが、何でも聞いてくれる、正しくそれは神様であった。

今日も助けてください。
滅多打ちにされた私の心を。
少しでも、少しでも、癒して欲しい。
そうして私は背後を向いた……。






そこには、
そこには確かに、
確かにそこには、
誰も、居なかった。






ただ茫然と立ち尽くした。
いや、いやまさか、恐らくふざけて隠れているだけだろう。




そのまま1時間が経った。




経験したことの無いまでの大きな、途轍もない損失感と絶望が私を覆った。

いつも背後を振り返れば二人がいた。
確かに微笑む二人がいたのだ。例えどんな場所でも、どんな時でも。
しかし、そこには、居なかった。

何故忽然と消えたのか、再び会えるのか、何もかもが分からなかった。
若しかすると、最早私は神様を見る資格などないまでに落ちぶれたのかも知れない。
そうだ、そうに違いない。拗れ破綻する人間関係、下降線を辿る成績。暗く沈み捻くれて行った性格。
諏訪子様も、神奈子様も、何時も笑顔を見せつつ心の中では既に愛想を尽かしていたのだ。この子は、我が神社の巫女としてはもう相応しく無いだろうと。器では無くなったと。
だから、私の前から姿を消したのだ。
そうであろう……。


その時、初めて私は孤独を知った。
私は、一人。
背後を振り向こうとも、一人。
私を助ける者は、最早何処にもいない。

この東京砂漠。乗り越える気力は、私には残されていなかった。
読んで下さり本当にありがとうございます。
初投稿ですが、よろしくお願いします。
丸加綺符
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コメント



0.190簡易評価
2.100K-Tei削除
幻想郷行きの話かと思えば、ただただ早苗の絶望を描いた作品。だが、そこが良い。
冒頭の飛び降り自殺の描写からエスカレートするいじめが死を結びつける。
しかし、与えられた理性を堅持し二人の神を信じる描写が生々しい。
そこに神の救いがあるわけでもないエンド。そして、それを極めつけるような都会の代名詞東京砂漠。良かったです。
心理描写に特化した書き口も好きです。頑張ってください。
4.80スベスベマンジュウガニ削除
リアリティのある描写で良かったです。(見習いたいくらい)
ただ、さらっと流れてしまってる気がするので、もうひとひねり欲しかったかもしれません。
5.20名前が無い程度の能力削除
だからなに?
8.100T.W削除
第1章だと本当に早苗さんの絶望一色って感じですね…
続編に期待してます
9.60名前が無い程度の能力削除
心理描写が緻密だな、と思いました。
ただ、まだ第1章ということもあり、その心理描写が展開にどう生きてくるのか、
物語の着地点はどうなるのかが、ぼんやりしていると感じました。
続きに期待、ということでこの点数で。
10.無評価名前が無い程度の能力削除
ここまでの感想を言えば、ただただ不快なだけの文章だが、まだ続くということで続編に期待。