Coolier - 新生・東方創想話

気怠き世界を活かせきるだけ

2017/06/23 15:07:45
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 大学の近辺はファストフード店、ファミレス、コンビニ等の即物的な物を取り扱う店ばかり。娯楽施設は月並みで特に利用したいと思わなかった。昼時なのにすれ違うのは会社員が多く、学生はあまりいない。酉京都の大学は構内で完結するように一通りの施設がそろっているため、わざわざ外に出かけようとする者は少なかった。それこそ、私達の様に気まぐれに散策するような人間を除いて。
「ねえ、蓮子。二人でオカルトスポット以外に行くのって珍しくないかしら?」
「それもそうね。新鮮で良いと思うわ」
「……蓮子にそう言ってもらえてわたしも嬉しいわ」
 メリーは繋ぐ手を一度離し、彼女の指と私の指が組むように握りなおしてきた。所謂恋人繋ぎ。未だに小っ恥ずかしさを感じるけれど、メリーを近くに感じられるから。私は好きだ。
 隣にいる彼女の顔を覗き込むと、頬と口角が緩んでとても嬉しそうにしている。メリーは私の視線に気づくと、恥ずかしそうに私から顔をそらした。メリーも私と同じだ。彼女の仕草一つ一つが可愛くて、微笑ましくて。繋ぐ手をぎゅっと握りかえす。
 オフィス街に面した大通りから外れ、裏路地を歩くと静かな住宅街に出た。大学近辺は殺風景な施設ばかりが立ち並ぶ印象を抱いていた私として、人の生活を感じられる場所があるなんて驚きだった。人口の減少が著しい昨今、住宅街に出くわすことはとても珍しい。
「大学の近くに住宅街があるなんてね。ねぇ、蓮子。これって新しい発見かしら?」
「そうね……」
「もしかして……蓮子のイメージしていたのと違ってがっかりしている?」
「うん……。確かに新鮮ではあるけれど……何か違うというか」
「そう……それは残念ね」
 メリーはそう言って口を噤んでしまった。もちろん分かっている。ここで、怪奇現象に出くわすことはないと。もし、現象にまつわる噂が流布されていたら、すでに探索をしているから。メリーもきっとそれを知ったうえで誘ったはず。ではなぜ、私のことを誘ったのだろう。気が向いたから。なんとなく。本当にそうだろうか。それなら普段からメリーの方から外出の誘いをしてくるはず。きっと理由があるに違いない。
 私とメリーの間を沈黙が支配する。気まずい雰囲気が先行するばかりで、メリーの気持ちがなかなかわからずにいる。メリーと一緒にいるのに気怠く感じてしまう自分が嫌いだ。
 


 ほどなく歩いていると住宅街に突如、古き日本家屋の門が姿を現した。門は開かれており受付には誰もいない。
「ねぇ、メリー。門空いてるみたいだし、中に入ってみない?」
「えぇ、そうね。入ってみましょう。」
 メリーの手を引き、門をくぐると眼前には日本庭園が広がっていた。
 池を中心とした回遊式の日本庭園。
大きな池には、六角の浮見堂、カルガモ、錦鯉。
園路の際に夏を告げる植物――ガクアジサイ、クチナシ、ビヨウヤナギ、キキョウ。
庭園の奥から水が勢い良く落ちる音が聴こえる。滝があるのだろうか。
「――メリー……」
庭園の美しさに心を奪われた私は気が付くと、メリーに話しかけていた。
「……えぇ、とても綺麗ね」
「もしかしてこの景色を見せたくてここに?」
「そうよ。蓮子と一緒に見られたらもっと素敵だから」
「ありがとう……メリー」
「いいのよ。日差しの中歩いて疲れたから休憩しましょう。あの六角堂がちょうどいいわ」
メリーはそう言うと、六角堂のベンチに腰を下ろした。
私はメリーの向かいのベンチに座る。頭上を見上げると、天井に池の水面が反射させた日差しが映り込み、水面に合わせて光もゆらゆらと揺れている。とても綺麗だ。
「ねぇ、蓮子。人はなぜ、住宅街の中に日本庭園を造ったと思う?」
「都内の喧騒を忘れたいからかしら……」
「そうね。正解だわ。でも、答えはそれだけじゃないの。もう一つは。忘れないためよ。技術や文化、思い出を残すため」
「今を忘れ、過去に追憶するなんて矛盾しているわ。時がたてば、忘れた今を思い出そうとしているのだから」
「ええ、でも人はそういう生き物よ。もちろん貴女もね」
 メリーは口元を手で隠しながらくすくすと笑う。
「私もかしら? あまり心当たりはないのだけれど」
 口元を手で覆い、幾分思案してみるも答えは出ない。
「蓮子が退屈そうに受けている講義も、研究も、大学生活もいつか終わりは来るの。もちろん、秘封倶楽部の活動もね」
「時間が経てばそうだけど……」
「言葉では、頭では理解しているつもりかもしれない。でもそれが唐突に訪れることもあるのよ。私と蓮子にだって、いつかは別れる時が来る。終わってから悔やんでも、どうにもできないのよ」
 メリーに言われて初めて気づかされる。退屈なことも、幸せなこともそれぞれに終わりは来るのだ。
「……メリー。私はね。幸せなことばかりに夢中で、退屈なことは早く過ぎ去れば良いと思っていたの。だって退屈なことは繰り返されるから。一つの退屈なことが続いて、終わってもまた同じ様な退屈がやってきて。そう、ループするものだと思っていたわ」
「蓮子の言う通りだと思うわ。幸せなことは大事にするのは当然。でも、今退屈に感じていることが、終わってから、幸せなことだと感じたり、やり残したことを感じさせる場合もあるのよ。それすらも繰り返してしまうのは勿体ないことではないかしら?」
「そうね……うん。そうだわ」
「時間は失われていくのだから。今を大切にしましょう。幸せなことも。退屈なことも全てね」
 私は今まで、退屈で気怠い世界を生き残るための手段として幸せを見出して暮らしていた。そのための秘密倶楽部でもあった。しかし、それでは何も変わらない。退屈な毎日から抜け出すために、気怠き物までも活かせきるだけ活かす必要がある。そうでないとこの繰り返しから抜け出せないのだから。
                                           ――了
読んで下さりありがとうございました。
初投稿で勝手がわからず、拙い文章でしたが、感想、アドバイスいただけたらとても嬉しいです。
苗洲烟
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コメント



0.440簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
恋人繋ぎしてるのは、恋人設定ですか?
説明が無いのが気になりました。
内容としてはとてもよかったです。
3.100名前が無い程度の能力削除
冒頭の、講義の場面に理系要素があるのがいいですね。
宇佐見蓮子の日常と思考が描かれた、とてもいい作品ですね。
5.100名前が無い程度の能力削除
蓮メリが仲良くしたり、メリーが蓮子に諭したりと二人の距離が近く感じるのが良いですね。
終盤のやり取りに引っ掛かりを覚えて、タイトル読んで理解しました。この仕掛けは凄いと思います。

7.100名前が無い程度の能力削除
楽しい時間も、いずれ終わってしまうそんな空気か漂う切ない話でした。とても良かったです。
9.100奇声を発する程度の能力削除
雰囲気も良く素晴らしかったです
12.90怠惰流波削除
なんとなくちょっとセンチな蓮子さんが珍しい。
2人の恋人つなぎに大変嬉しい。好きな人と一緒にいるのに、気怠さを感じるっていうのは、日常に溶け込んだ一部になってるからでもあるんですよ、蓮子さん。
13.100ノノノ削除
もしかしなくてもタイトル回文だったりします…?
こういうギミックすごく好きです。
15.100名前が無い程度の能力削除
終始落ち着いた雰囲気のためかすらっと読むことができました。