Coolier - 新生・東方創想話

ナズーリン○○

2017/06/07 00:21:53
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注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定があります。





本日大安吉日。晴れ渡る空、雲一つない。輝く日差しは仏の後光のよう。これだけの陽気に照らされれば顔も自然とほころぶと言うもの。ここで轟雷でも起ころうものならば、それこそ晴天の霹靂と言える。そんな事など起こる筈もない。昔の様な悲しみに暮れる事など、そうそうある訳ではない。妖怪の一生は長いのだ。私達の平穏はこれからも続く。今もこれからも。



「点呼ぉ」

間諜として各地に忍ばせている小鼠に気だるげな声をかける。人里や寺が主として潜入させている。しゃがんで見る私の前で小鼠にしては整列している。能力の甲斐もあって、それなりに言う事を聞いてくれている。どこぞの化け猫とは違うのだよ。
ちゅ、ぢゅ、と一匹一匹が鳴き声をあげて数字を言いあげている。

「それでは、各自順番に報告」

人里に誰がいた。何をしていた。寺に来た人物。小鼠達は人間や妖怪の顔を覚えたり時間を覚えるのが苦手だ。小鼠の言う事は抽象的なのだが、そこに問題はない。私が補う事は容易い。それこそ賢将たる私がまとめれば良いだけの事だ。
集められた情報は他愛の無い情報。日々刷られている新聞にもならない小さな話題ばかりであった。情報というものは小さなものが集まって出来る。どんな些細な事であれ、それが以後どうなるか分かったものではない。力の弱い私が生き残る道だ。

「……主人であろうと、いつ裏切られるか分からない」

信頼していないと言えば嘘になる。しかし、信頼していた者が次の瞬間には敵に回る状況を何度も見て来た。
気を取り直して、最後の報告を聞こう。最後はご主人様に関しての監視だったな。言いたまえ。なに……木の実美味しかったでちゅう?しっかり見つかっているではないか。ご主人様も解っていながら、こういう事をする。ナズーリンにも渡してください?鬼胡桃……。

「ふんっ!」

私のロッドは金属製。少し叩いてやればこの通り。そして、割った瞬間に群がる小鼠達、私の分など残る筈はなかった。



「戸籍制度?」
「ええ。人里では戸籍登録というものを行って管理をしているそうで」
「で、それを何故私に言う」
「私達は人里付近の寺に住んでいますので、貴女も如何かと思ったのです」

住職の聖が私に言う。私は彼女にとっては一応仲間という事になっているらしい。私にとってこの寺で関わりがあるのはご主人様の星だけのつもりでいる。聖の教えは人間の考える教えであって私には無縁だからだ。

「そういう事なら、ご主人様にでも任せてくれ」
「わかりました。星」
「では、委任状があるので記載して下さい。後の事は私が行っておきます」
「ああ、任せるよ。私には興味の無い事だ」

紙で作られた上等な書類。ここでお目にかかれるとは思っていなかった。さらさらと名前を書き拇印を押す。主人が望むから行うだけ。私にとっては興味の無い事である。今日も寺に来た理由は様子を見に来ただけだ。
しかし、見方を変えるなら存在の証明によって怪しまれる可能性が下がると考えても良い。私の仕事の上手い隠れ蓑になるかもしれない。



狭い幻想郷の更に狭い空間。碁盤のマス目状に発達した幻想郷の楽園。人里。大通りにひしめき合う人の群れ。体が小さい利点があるとすれば、人が密集する場所をすり抜けられることぐらいだと思う。ことある毎に頭に手を乗せられたり顔を埋められたり、その他の利点など見つかる気がしない。主な原因は私の主人であるが。

「おっと……」

スリか……他の人間なら騙せたかもしれないが、私に手を出したのが運の尽きだ。小鼠に後を着けさせて住処を突きとめてやる。私の財布の中に入っている物を盗った報いは受けてもらわなければならない。

人々が木器を片手に麦酒を楽しむ時間。顔はホオズキよりも赤くなり、鳥もかくやと歩を乱す。笑い声は千里果てまで響き渡り、人間を脅かすであろう妖怪達が酔っぱらいの喚く声に怯えている。
その最中、薄暗い部屋には猿轡を噛まされ後ろ手に縛られ転がされている男が一人。私の財布を盗った男だ。余りに簡単に事が進み、込み上げる笑いを堪える事が難しい。感情を表に出してはならない。私は賢将。感情を表に出さず静かに佇み大物感を出すのだ。

「さて、私の財布を盗った報いは受けてもらう。この千両箱の山で存分に楽しませてもらおうか」

男がなにか言いたげであるが関係の無い事だ。観音開きの窓を開け放つと外の喧騒が入って来る。今宵は騒がしくなる。さあ、始まりだ。
外が騒がしくなる。金、金、金。空から金が降って来た。そんな騒ぎが起こり始める。男から奪った千両箱の中身を撒いたのだ。
屋根に上がって更に撒く。子供ぽいって?時には良いだろ?楽しみたい時だってあるんだ。そらそら、ネズミ小僧はここにいるぞ。金が欲しいか、そら拾え。走れ、走れ、小鼠達。千両箱を持って付いて来い。奴の金はまだあるぞ。
私の清々しい怒り。男の部屋には毘沙門天の絵が飾ってあった。更に月兎の造ったおもちゃが置いてあった。解っていてやったのだろう。毘沙門天(ごしゅじんさま)を信奉するなら、もっと賢くやるんだな。私に手を出した……財布に入れてある大事な絵を奪った事が、そもそもの間違いだったのだよ。
黄金の擦れる音、地面に落ちて黄金の音が響く。鈴虫の鳴声にも似た心が落ち着く音がする。その音を合図に人々が殺到すると、先までの音がかき消されていく。
さあさあ、そろそろ打ち止めだ。騒ぎの主犯として、しょっ引かれる前に退散だ。
空の千両箱数個。へばる小鼠を余所に箱に書きたる鼠小僧。私と判らぬ様に念入りに。今日はお騒がせしやした。という文字と横に描いたへったくそな鼠小僧は会心の出来だ。人が居ない所に落とす木箱。ゴトンと大きな音に人が集まる。大きな溜息と共に人々は疎らに散っていった。
天より降りしきる黄金の騒ぎは終わったのだ。



「やぁ、遊びに来たよ」

皆が集まる居間に、ご主人様と皆。来た目的は大した事では無い。彼女の近況を見に来ただけである。健勝であるなら、それ以上見ようものもない。ただ健康な彼女が見られれば、それで良い。

「先日はえらい騒ぎだったようですね」
「その様だな。私も小鼠から聞いただけだがね」

やや伏し気味の顔。小動物ゆえ鼻は異常に効くと自負している。ご主人様は機嫌が斜めのようだ。

「とぼけても無駄ですよ。私を誰と思っています。私の部下でありながら騒ぎを起こした事は許されるものではありま……」
「ごめん、星。やっぱ我慢できないよ。ナズーリン、聞いてくれ」

ご主人様の話を遮り船長が語り始めた。ご主人様が私を叱るのなら二人だけで叱る筈だ。嫌な予感はしていた。先に感じた逃げ出したい気持ちは、恐らくご主人様以外から発せられていたに違いない。

「その男が、さっき寺に来たんだよ。お前の所のネズミに全財産を盗まれた上に全部撒かれてしまった。有り金全部失った俺は明日からどうやって生きれば良いんだ。ってね。そしたらマミゾウが、賭博場で良く見る顔じゃのう。商人でもないじゃろうし、一体どこから金が出てくるのかのう?って詰め寄った。怯んだ男にすかさず星が言い放ったんだ。愚か者が!我を信仰しながら額に汗せずして稼ごうなどと言語道断!邪な心、悔い改めぬのであれば、今この場にてこの宝棒で打ち据えて煩悩すべてを打ち砕いてくれん!と叫んだ。歪められた星の顔は怒りに満ちた顔であったが、その裏にあったのはナズーリンへの思いがあったのさ」
「そうかい?それはありがたい事だね」
「しかし、ナズーリン。私は貴女の事を心配しているのです。以後、この様な事は決して起こさぬように」
「心に留めておくよ。あいつが毘沙門天の絵を飾ってなければ、ここまで激昂する事もなかったさ」

話しをする中、船長やマミゾウ、ぬえが顔に笑みを浮かべている。してやったり、と言った意味を含ませニヤニヤと笑いを堪えている。嫌な予感がする。ご主人様でもこの場の皆でもない。もっと大きなものが私に警鐘を鳴らしていた。

「そうそう、ナズーリン。先日、魔除けの指輪の話を聞きまして」
「指輪?」

そう言うと、ご主人様は袖の中から小さな箱を取り出した。木目が見事に浮かべられた小さな木箱。滑らかな表面には引っかかりがない。音も無く開けられると、中には黒い指輪が飾られていた。

「黄金で出来ているのですが、貴女の役目上光り物は良くないと思いまして染めて貰いました。左手を……」
「ま、待て。どこに着けようとしている?」
「貴女は自身が思っている以上に魅力的です。悪い虫がつかないおまじないですよ」

主人からの贈り物を無下にする訳にもいかない。部下というのは、こう見えて主人に気を遣わなくてはならないのだ。
そう思っていると、響子が聖と共に部屋に入って来た。

「先日の戸籍登録が終わったので皆さんに配ります!」

元気の良い響子の声に皆が、それぞれの戸籍票を取りに立ち上がる。ふーん、へーと気の無い声をあげて、思い思いに戸籍ってこんなものか、と呟いていた。マミゾウだけが外の世界で知っているのか、特に驚く事も何もなかった。

「はい、ナズーリン。これが貴女のですよ」

ご主人様に任せてあったのだ、特に目新しさもないだろう。何となしに受け取り目を向けた。興味がない。私はそう思っていた。

「なっ!なんだこれは!」

雲一つない晴天の空、突如として雷鳴が轟き、轟音と共に雷が地面を大きく揺らした。そう表現しても過言ではない。妖怪の人生は長い。一度平穏が訪れれば、長い平穏が続くだろう。
今、この時まで私はそう思っていた。驚き慄く中、船長やぬえの馬鹿笑いが後ろで繰り広げられていた。
私が見た戸籍票。私の名前が、ナズーリン・寅丸になっていた。
これは、どういう事かと主人に目を向けるも、あまりの衝撃に言葉が出ず、ただ口をパクパクとさせるだけで精一杯であった。

「私達、お揃いでお似合いですね」

再び戸籍票に目を向けると、続柄の部分に夫婦と書かれていた。ご主人様が夫で私が妻。眩暈がする。立っているのがやっとだ。そして、こういう時に限って優秀さを発揮するご主人様。立っているのが辛そうな私を見るなり肩を抱き寄せて支えてくれている。
後ろの馬鹿共が馬鹿面揃えて馬鹿笑いしている理由も何となく察した。婚姻の立会人の覧に記入したのは、こいつら……いや、おそらく寺の全員が書いたに違いない。
一刻も早くこの場から逃げ出したい。だが、私を支えるご主人様が逃がしてはくれない。

ご主人様が満足して飽きるまで、私はこの場で思いがけず夫となったご主人様に見つめられ続けなければならなくなってしまった。



余談であるが、婚姻の報告をするとご主人様に言われ無理矢理連れて行かれる事になったのであるが、博麗神社を筆頭に報告する人報告する人すべてから、あんたたちって結婚していなかったの?と言われた。私は自分では厳格な主従関係を維持していると自負していたのだが、傍から見たらこれこのようであった。私が積み上げた自信や尊厳は粉々に砕け音を立てて割れ去った。

だが、収穫もあった。ご主人様から貰った魔除けの指輪と……財布に入れていた毘沙門天の絵に私が増えた事だ。

本日も大安吉日。雲一つない青空、ご主人様の輝く笑顔が私を照らし、日々の平穏がまた続いてくれている。
ここまで読んで頂きありがとうございます。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ナズーリンが怒るならどんなときだろうか、と思いながら優秀な星を混ぜて出来たのが今作です。
ナズーリンのスペカを見た事があるなら誰もが一度は考えただろうネタを詰めてみました。
まいん
http://twitter.com/mine_60
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コメント



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まいーん面白かった。
3.100名前が無い程度の能力削除
可愛らしい感じが全面に。最高に楽しめました!
4.100名前が無い程度の能力削除
賢いけど賢くないそしてかわいいナズーリン
ところどころ鋭い寅丸、流石毘沙門天代理
5.100名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤニヤニヤニヤ
7.100名前が無い程度の能力削除
ナズ星サイコー!
8.100名前が無い程度の能力削除
本日も大安吉日
9.100南条削除
子ネズミで情報を集める健気なナズーリン
盗人が毘沙門天を信仰しててキレるナズーリン
御主人と婚姻してて困惑するナズーリン
どれもこれもがナズーリンの魅力にあふれていました
ただ話の展開が急すぎて私には前後の繋がりがよくわからない所がありました