Coolier - 新生・東方創想話

戦え。僕らのロボ霊夢!

2017/05/06 18:55:16
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 雲一つない昼下がりの境内。空は青く澄み渡る一方、博麗霊夢は顔は朱に染まっていた。
 怒り心頭。そのような面持ちの霊夢に気づいているのか、いないのか。対面に立つ河城にとりは得意げに笑っていた。
「……にとり、これは何なの?」
「ロボ霊夢ですよ」
 にとりの横には等身大の木人形に、巫女服を着せた奇怪な物体が置かれていた。上半身はそれでも人間を模したように、腕があり、顔があるものの、下半身は全く似せる気がないのか腰から下がなく、両側にキャタピラが取り付けられていた。
 もっとも顔にしても「こけし」に毛の生えたような作りであり、腕にしても丸太に木の棒を突き刺し、腕と言い張っているような外見だった。腕の先端には手袋が取り付けられてあり、むしろカカシに似ているかもしれない、霊夢は思った。
 霊夢はロボ霊夢をひとしきり眺めたあと、おもむろに懐から札を取り出した。
「よし。殺す」
「待って! 待って下さい!」
「うるさい。何よ、これ。私を馬鹿にしているの?」
「お願いします! 話を聞いてくださあい!」
 にとりの悲鳴が閑散とした博麗神社に響いた。



「最近、山の奴らが調子に乗っているんですよ」
 にとりと霊夢は神社裏の縁側に腰掛けていた。彼女たちの目の前にはロボ霊夢が置かれていた。ロボ霊夢は無表情な顔を、霊夢の方に向けている。ロボ霊夢を無視しつつ、霊夢は答えた。
「山……天狗のこと?」
「いや、天狗ではないんです。守矢ですよ守矢」
「ああ、守矢ね」
 霊夢は頷く。最近になり守矢神社直通のロープウェイが完成したらしく、繁盛していると聞いていた。守矢神社は妖怪の山に建っているため、参拝に訪れる人は少なかったが、近頃ではツアーも組まれるほどの人気になっていた。
「……癪に障るわ。何だかんだ言っても、あいつら商売敵だし」
「客が多いだけなら別に良いんですが、不穏な噂を聞きまして」
「噂?」
 首を傾げる霊夢に、にとりは顔を近づけた。
「核融合炉や外界の機械を使って、技術自慢をしているそうです」
「そりゃあ、神社的にも良い宣伝になるからね」
「私らとしても面白くないですよ。天狗ならともかく、ぽっと出の異邦人に技術を誇られちゃあ、河童の沽券に関わるってもんです」
 拳を震わせ、にとりは語る。古来より天狗や河童は人間の里には無い技術を、影で駆使してきた。電力を得るためにダムを建てたり、安定した食料供給のためきゅうり工場を建てたりと、その技量自体は霊夢も認めている。だからこそ、にとりの悔しさも、霊夢には不本意ながらも理解できた。
「それで自分たちの技術を見せつけたい……と?」
「ええ。まずは里の代表たる霊夢さんに使って頂き、我々の技術に正当な評価を下してもらいたいのです」
「そして私に『正当な評価』とやらを広めて欲しいということね。……で、その『河童の技術』がアレ?」
「そう。アレです」
 霊夢はロボ霊夢を指差し、にとりは頷いた。ロボ霊夢は無表情に二人をながめていた。霊夢は頭を抱えた。
「……ちょっと河童に幻滅したわ」
「見かけで判断しないで下さい。こんな形ですが、頭は良いんですよ?」
「頭?」
 にとりは腕を組み、自信ありげに頷いた。
「このロボットには、霊夢さんの思考を模した人工知能が組み込まれているんですよ」
「……何を勝手に、気持ち悪いことしてくれらのよ!?」
 青汁を飲み干したような、渋い顔を浮かべる霊夢に対し、にとりは澄まし顔で言った。
「まあまあ。とにかく、話しかけてみて下さい」
「まったく。……ええと、こんにちは?」
 不承不承ではあるものの、霊夢はロボ霊夢に顔を近づける。ロボ霊夢は顔を上げた。能面のような顔から、声が流れた。
「コンニチワ。サイセン、ハラエ」
「よっし。これ不良品だ。ぶっ壊す」
「止めて! 止めて下さい!」
 どこから取り出したのか、陰陽玉を投げつけようとした霊夢に、にとりは飛びかかった。
「うるさい! 私を馬鹿にしに来たんでしょ!? そうなんでしょ!?」
「だから霊夢さんの思考パターンを参考に……」
「サイセン、ハラエ」
「アンタは五月蝿い!」
 にとりを突き飛ばし、霊夢は立ち上がる。そして陰陽玉を投げつけようと、手を曲げたその時だった。二人の正面に広がる茂みの中から、黒白の魔法使いが現れた。
「話は聞かせてもらったぜ!」
「……魔理沙。何時からそこにいたのよ?」
「さっきからな。機会を伺っていたら、蚊に刺されたぜ」
 帽子に小枝が刺さったまま、現れた魔理沙は、手の甲を引っ掻いていた。虫に刺されたらしく赤く膨れており、霊夢は悲しい気持ちになった。一方の魔理沙は気にしていないのか、朗らかに笑っていた。
「ともかくだ。そんなおもしろ……高度な機械を壊すなんてもったいない」
「今、面白いって言ったわよね?」
「言ってないぜ。でも、霊夢。考えてみろよ。こんな面白いものが置いてあったら、神社にも人が来るぜ」
「……面白いって言ったわよね!?」
「言ってないぜ」
 魔理沙は顔をそらし、明後日の方向を見上げる。永遠亭に頭痛薬を頼もうか、真剣に悩みつつ霊夢は叫んだ。
「ともかく、私はこんなガラクタ置きません!」
「ウルサイ。サイセンハラエ」
「アンタがウルサイわ!」
 張り上げた声に、茂みが揺れた。そう霊夢が思っていると、茂みの中から今度は、見慣れた妖精の姿が現れた。サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は、目を輝かせてロボ霊夢を見ている。服や髪に木の葉がついていることも気にせず、ロボ霊夢の元へ駆け寄る。ルナチャイルドは途中で転んだ。
「わー。なにこれ、なにこれ?」
 スターサファイアが声を上げた。
「かっこいい!」
 サニーミルクがロボ霊夢の胴体を触りだした。
「つっよそー!」
 鼻に土をつけたまま、ルナチャイルドはそう言って起き上がった。三人の妖精はロボ霊夢の周りを取り囲み、霊夢たちをそっちのけで騒いでいる。一方の霊夢は、頭を掻きつつ三人の様子を眺めた。
「……アンタ達、いつの間にいたのよ!」
「ほらな、霊夢。あいつらの顔を見ろよ。絶対このロボ、ひと目を引くぜ」
 隣の魔理沙は、帽子に刺さった小枝を払い、霊夢に笑いかけた。にとりも魔理沙に続いて、霊夢に追いすがった。
「一週間だけ。それだけでいいです! 試しに置いてみて下さい!」
「……ああ、もう! 分かったわ。分かったわよ! 置けば良いんでしょう!」
 深い溜め息を吐いて霊夢は言った。にとりの歓声と、三妖精の笑い声が神社の空に響いた。


 三日がたった。普段は閑散としている博麗神社だが、祭りでもないのに混み合っていた。賽銭箱の前に佇むロボ霊夢の前には、里から来た人々が鳥居の辺りまで列を作っていた。
「サイセンハラエ」
「あらあら、かわいいカラクリだこと」
 ロボの前にしゃがみこんだ老婆は、にこやかに微笑みロボ霊夢の頭をなでた。そして老婆は手元の財布から小銭を取り出すと、ロボ霊夢の手の平に載せた。ロボ霊夢は手の中の小銭を無表情に見つめ、そして老婆の顔を見返した。微笑みを残して老婆は去っていき、後ろに並んでいた若い男がロボ霊夢の前にしゃがみこんだ。
 そんな神社の風景を、本殿のフスマの影から霊夢は眺めていた。
「……嘘でしょ」
「ほらな。言ったとおりだろ?」
 霊夢の隣でお茶を飲みつつ、魔理沙は笑った。
「あんな面白ロボットが居るんだぜ? そりゃあ集まるだろ」
「……やっぱり面白いって思っているじゃない。でもあんなガラクタ、サイセンハラエしか言わないじゃない。何がそんなに楽しいんだあ?」
「いや? ああ見えて結構喋るぞ?」
「へ?」
「このあたりの妖怪のこととか、神社の歴史とか、あれで色々と知ってるぞ。この前は旬の野菜について話していたな」
 フスマを締め切っているためか、薄暗い本殿の中で、霊夢は更に暗い顔になった。
「嘘。私のときはカネハラエしか言わなかったわよ」
「嫌われているんじゃないのか?」
 霊夢は地団駄を踏む。くすんだ色の床板が、蹴られる度に小さな音をたてる。
「ますます腹がたつわね。何よ。仮にも居候させて上げているのよ!」
「いいじゃねえか。客を呼べているんだから」
「そういう訳にはいかないわ。きちんと立場ってものを分からせてやらないと」
 拳を握りしめる霊夢は、微かに開いたフスマの隙間から、ロボ霊夢の姿を歯ぎしりしながら見つめていた。


 最後の参拝客が帰る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。空には宝石箱を散りばめたように、星々が煌めいている。
「ちょっとアンタ。こっちに来なさい」
 フスマを開け、本殿の方からロボ霊夢を呼ぶ。ロボ霊夢は振り返ると、賽銭箱の手前までキャタピラを唸らせ近づいた。段差が登れないらしいことに気づいた霊夢は、賽銭箱の横に降りると、ロボ霊夢の前に立った。ロボ霊夢は霊夢を見上げて言った。
「カネハラエ」
「……それ以外に言えないの?」
「霊夢ガ、一番ヨロコブ言葉ダト聞イタ」
「あの糞河童ども……」
 霊夢の脳裏に、にとりの姿が浮かんだ。河童が自分のことをどう考えているのか、よく分かった。はてさて、どうやって落とし前をつけようかと、一人気を揉む霊夢をよそに、ロボ霊夢の口が機械音声を発した。
「ソレ以外ノ言葉ヲ話スコトヲ許可シテイタダケルノカ?」
「それ以外のことだけ話せばいいわ」
「感謝スル霊夢」
「あら。可愛げあるじゃない」
 少しだけ顔を綻ばした霊夢に、ロボ霊夢は言葉を付け加えた。
「サイセンハラエ」
「……賽銭払えも禁止」
「日本語ムズカシイ」
 霊夢は腕を組み、今日何度目かのため息を吐いた。首を傾げるロボ霊夢の姿を見ていると、とても高性能ロボットとは思えなかった。
「あんたの考えが難しいわ。仕方ないわね、私が後で教えてあげるから」
「日本語ノコト?」
「そうそう」
「里ノ人達ノコトモ?」
「そうそう」
「カネノ儲ケ方モ?」
「私が教えてほしいわ!」
 つばを吐いて霊夢は怒鳴った。声に驚いたのか、裏の森から鳥が羽ばたく音がした。見上げた霊夢の視界に、群青に染まる雲と、その向うにきらめく星が見える。もう夜は間近に迫っていた。
「霊夢。イマ教エテ欲シイコトガアル」
「何よ?」
 明かりがないため薄暗い境内の上で、ロボ霊夢の顔は星明かりを受け、微かに光っていた。ロボ霊夢は言った。
「オ金トハ一体何? 何故ソコマデ霊夢、オ金ヲ求メル?」
「また凄いことを聞いてくるわね……」
 霊夢は頭を抱えた。少し頭に手をあて考えたあと、霊夢はロボ霊夢を見下ろした。
「人間ってのはね、良いもの食べて良い生活したいものなの。そのために必要なのが金」
「ツマリ、生キルタメニ必要ナモノ? 私デ言ウ、オイルノヨウナモノカ?」
「アンタ、オイルで動いてたの?」
「電池ダ」
「どっちだよ!」
 霊夢は怒鳴るが、ロボ霊夢はどこ吹く風だった。やりづらい。そう思いつつ霊夢は話を続ける。
「まあ、オイルとはちょっと違うわね。食べ物とかとは違い、お金がなくても生きることは可能よ。でもお金があった方が良い暮らしができるの」
「良イ暮ラシ。シカシ霊夢、巫女ニ良イ暮ラシハ必要? 私ガ判断スル限リ、霊夢ハ幻想郷ノ平均以上ノ暮ラシヲシテイル。ソレニ神社ノ建物モ状態ハ良イイノデ、修繕必要ハ見受ケラレナイ」
「うそ。平均以上ってなんかの間違いでしょ? うちは万年金欠なのよ」
 詰め寄る霊夢だが、ロボ霊夢は動じることはなく、無表情な顔を霊夢に向けたままだった。
「失礼ナガラ霊夢。働イテナクテモ生活デキル以上、アナタハ恵マレテイルト判断スル」
「してる! 私仕事してる!」
「何故、霊夢ハ金ヲ求メルノカ?」
「無視された! ああもう、私だって良い暮らししたいし、もっと神社おおきくしたいからよ!」
「良イ暮ラシガシタイ。ナラバ巫女デハナク商人ニナルベキデハ? 何故、羽振リノ悪ソウナ巫女ヲヤルノカ?」
 ロボ霊夢の言葉に、霊夢は彼女の頭を小突いた。ロボ霊夢の体がかすかに揺れた。
「悪かったね。儲けが少なそうで。人間には得手不得手があるし、職業にも儲かるものとそうでないものがあるの」
「ワカラナイ。商人ニナルヨウ努力スルノガ合理的デハ? ソレ以外ニモ価値ガ存在スルノカ? 金。金トハ一体?」
 ロボ霊夢は頭を抱え、ぐるぐるとその場を周り始めた。霊夢はどうすることもできず、その様子を見下ろしていた。
「……やっぱりこれは、ポンコツじゃん」
 今からでもにとりに返品するべきか、霊夢は真剣に考え始めた。


 色々あったものの、一週間が過ぎた。意気揚々と神社に現れたにとりだったが、その姿を見つけた途端、脱兎のごとくの勢いで、霊夢が飛びかかってきた。
「あのロボットを作ったのは誰だー!?」
「わー! 霊夢さん、叩かないでください。叩かないでください!」
「確かに客は集まったわ。でもポンコツよ。あんなガラクタ!」
 にとりの肩を持ち、揺さぶりつつ霊夢は怒鳴った。耳元で怒鳴られたせいか、にとりは耳を押さえてうめき声をあげた。しばらくして疲れたのか、霊夢がてを離すと、にとりはその場に倒れ込んだ。
「ううう。お気に召しませんでしたか」
「知らないわよ、あんなくず鉄!」
 にとりは涙目になりながら、霊夢を見上げた。多少は罪悪感を感じたのか、霊夢はにとりから顔を反らした。昼下がりの神社の境内に、なんとも言えない空気が漂っていた。
 先に口を開いたのは、にとりだった。
「……うう。分かりましたよ、霊夢さん。出直してきます。あの、ロボットだけ返していただけますか?」
「……あれ?」
 霊夢は辺りを見回した。境内で賽銭をたかっていたロボットの姿は、いつの間にか消えていた。にとりの顔がますます暗くなる。
「え。まさか無くしたとか?」
「おかしいわね。さっきまで、そこにあったんだけれど」
「私ハ、ココニイルゾ」
 神社の横手の森の方から声が聞こえてきた。霊夢とにとりが駆け寄ると、腰ほどの丈の、木でできた箱が置いてあった。下部は丸く切り取られ、黒い穴の中には、機械が仕込まれているようだが、霊夢には何なのかさっぱり分からなかった。
「え、なにこれ?」
 一方で霊夢の後ろにいたにとりは、目を輝かせていた。
「うおおお!? 小型のスピーカーだとぅ? しかも里で手に入る物品だけでしあげているじゃあないか? ロボットが自分で道具を作りだしたなんて」
 にとりは霊夢を押しのけ、箱の前にしゃがみ込むと、箱のあちこちを触りだした。
「しかもこれは小型カメラ! それにマイクが併設されてある。このロボットを作った妖怪、やはり天才では?」
「自画自賛やめい。とにかく、ロボ霊夢。さっさと神社まで戻って来なさい」
 木箱に向かって霊夢は言ったが、しばらくの沈黙の後で返された答えに、霊夢は絶句した。
「ソノ神社ダガ、アト一時間デ爆破スル」
「……へ?」
 霊夢とにとりは顔を見合わせた。スピーカーが何を言っているのか、霊夢には分からなかった。
「私ハ不合理的ナ人間ヲ処断スル。ソウ私ノ中ノ付喪神ガ疼イテイル」
 我慢できずに霊夢は、にとりを押しのけ木箱に掴みかかった。そして無駄とは知りつつも、力を込めて木箱を揺らした。
「ちょっと。なにふざけたことを言っているのよ!」
「私コソ妖怪ト機械ガ結ビツイタ究極ノ存在。手始メニ神社ヲ、ユクユクハ里中ヲ爆破スル」
「おいこら、いい加減にしろロボ霊夢」
「チナミニ、コノ放送ハ、幻想郷中ニ流シテイルゼ☆」
「なんでそんな、無駄なところで頑張っているのよ!?」
 怒鳴る霊夢の背後から、にとりの歓声が聞こえた。振り返るといつの間に移動したのか、にとりは神社のすぐ脇に座り込み、その床下を見つめていた。
「すげえ! 霊夢さん。社の下に爆弾が大量にあるよ! しかもこの形状、外の世界のプラスチック爆弾と見た!」
「へ?」
「見た所、遠隔操作できるようになっているな。恐らくロボットの指示があれば、一発で神社は吹き飛ぶね」
「なんつーものを作ったのよ、あのバカ」
 永遠亭で頭痛薬を買おう。心のなかで決意をしつつ、霊夢は頭を抱えた。後ろのにとりはというと、霊夢の様子を気にすること無く興奮の声をあげた。
「幻想郷の中の品だけで、こうも高度なものを作るなんて……、やはりこのロボットの開発者は天才」
「救いようのない大馬鹿よ!」
 霊夢は喉に痛みを覚えた。今日何回怒鳴っているんだろうという、考えたくもない疑問が頭に浮かんだ。そしてその考えたくないことの主因――ロボ霊夢の木箱――が、再び音声を発した。
「我コソハ大ロボ天魔王。止メテホシクバ、神社ノ裏山マデクルコトダ」
 そして役割を終えたのか、木箱は沈黙した。叩いても揺らしても何も反応がないので、仕方なく霊夢は立ち上がった。そしてロボ霊夢の言う、裏山の方へと視線を向けた。
「良い度胸しているじゃない。行ってやろうじゃないのロボ霊夢! にとり。あなたは爆弾の方をよろしく」
「一体どれほどの威力があるのだろう。やはり一度爆破させてみて……」
「いや、解体しろよ!」
 にとりの返事に一抹の不安を覚えつつ、霊夢は木立の中に踏み入った。


 木々の生い茂る裏山の、その頂上は僅かに開かれている。ロボ霊夢の姿は雑草が生えた少しばかりの広場の上にあった。
「来タカ霊夢」
「良い加減にしなさいよ、ポンコツ」
「私ハポンコツデハナイ。大ロボ天魔王ダ」
「うるさいわ、ポンコツ。良いから爆弾を解除しなさい」
「止メタケレバ私ヲ倒スコトダ」
ロボ霊夢は両手を掲げた。すると周囲の茂みから、大きな地鳴りが響く。周りの木の葉がざわめき、たまらず霊夢は耳をふさぐ。音の発する圧力だけで、霊夢の体は揺れる。たまらず霊夢は歯をくいしばる。
 ロボ霊夢に顔を向ける。ロボ霊夢は波のない水面のように見え、霊夢にはなんの感情も読み取れなかった。
 まずい。霊夢はそう思った。
 これは攻撃のための準備段階にすぎないと感じていた。今はひたすらに力をため、そして強力な魔術をロボ霊夢が放ってくるだろう。そうなってしまえば霊夢の体はひとたまりもない。
「だったら、先手必勝!」
 攻撃をされる前にこちらが攻撃をすればいい。そう思い霊夢はロボ霊夢の懐に飛び込もうとした。霊夢であれば、ひとっ飛びで間合いの中に入り込める。そう確信しての行動であった。
 瞬き一つのわずかな瞬間。霊夢の視界に映るロボ霊夢の姿は、段々と大きくなる。霊夢は札を持ち、手を振り上げる。しかし、いつでも退けるよう足に力を入れていた。
 飛び込む刹那に霊夢は考える。この程度の行動は、当然ロボ霊夢も予想している、と。霊夢の脳裏に一週間のロボ霊夢の姿が浮かび上がる。一見すればなにも考えていないようで、あのロボットは深く深く、彼女にできる限りのことを考えていた。そのことは霊夢も認めている。霊夢の知っているロボ霊夢なら、何か対策を取っているはずだった。けれどそれを感じさせないのが、言いようもなく不気味に思えた。
「悪霊退散!」
 一閃。迷いを断ち切るように、霊夢は札を叩きつけた。そして勢いそのままに背後に回り込む。懐からもう一枚札を取り出し、飛びかかれるように足に力を込める。手応えはあったものの、この程度で終わるとは思えなかった。ロボ霊夢は振り向かない。
 好機。そう思い霊夢は、二撃目を放とうとした。
「グワアアアアアアア! ヤラレタアアアアア!」
「へ?」
 突然ロボ霊夢が倒れ込んだ。思わず霊夢の口から、気の抜けた声が漏れた。呆気にとられた霊夢をよそに、ロボ霊夢は叫び続ける。
「コノ大ロボ天魔王ガヤラレルトワア……コレガ……ハクレイノミコ……コレデ……コノ放送ヲ終了……スル……」
 いきなり辺りから爆発音が聞こえた。よく見れば茂みの中にいくつもスピーカーが隠されていた。さきほどの地鳴りも、このスピーカーが鳴らしていたらしい。
「……ということは、ハッタリ?」
「当然……デス。私ガアナタニ敵ウワケ……ナイジャナイデスカ」
 倒れ込んだロボ霊夢は、ノイズ混じりの声で答えた。どこか配線がショートしたのか、右腕から黒い煙が立ち上っている。振り向いたロボの顔からは、霊夢は敵意を感じられなかった。
 気がつけば霊夢は、ロボ霊夢のもとへ駆け寄り、しゃがみこんでいた。
「……もしかして今までのは演技? 何故?」
「霊夢。アナタノ……タメデス」
「私の?」
「ズット、オ金ノコトヲ考エテイマシタ。ナゼ人ハ、オ金ヲ使ウノダロウカト」
 ロボ霊夢の肩から流れる煙の量が、段々と増えていく。焦げ臭い。そう思いつつも、霊夢は顔を近づけた。
「ソノトキ思イ浮カンダノガ……オ婆サンノ顔デス。アノ人ハ、私ニ賽銭ヲ……渡シマシタ。優シイ言葉ヲ……カケナガラ」
 ロボ霊夢の声に混じるノイズが、次第に大きくなっていく。ロボ霊夢は壊れようとしていた。それでも彼女は声を振りしぼる。
「霊夢。私ハ……思ウノデス。オ金トハ……感謝デハナイノカト」
 にとりを置いてきたことを、今になって霊夢は後悔した。ロボ霊夢の故障は、霊夢にはどうすることもできない。もしにとりがいたら何とかなったのかもしれない。
 そこまで考えたとき霊夢は、ロボ霊夢の行動を許している自分に気づいた。
「人ニ助ケテ……モラッタトキ、支エテ……モラッタトキ、一体ナニヲ返セルノデショウ? ソレハ……キット感謝ノ心デス。ケレド心ハ……形ガナク、私ニハ見エマセン。人間ニモ見エナイカモ……シレマセン。ダカラ形トシテ残スタメニ、人ハ……オ金ヲ渡スノデハ……ナイデショウカ?」
「それがこの事件と、何の関係があるの?」
「アナタハ……金欠デアルト言ッタ。ソレハ神社ノ価値ガ……他ノ人ニ認メラレテイナイコト……ヲ意味スル。私ハ……コノ状況ヲ……ナントカシタカッタ」
 声が聞き取りづらい。霊夢は、おでこが触れるほど近くに、顔を近づけた。冷たかったロボ霊夢の体は、故障で内部に熱がこもっているのか、皮肉にも暖かかった。
「だから自分が悪く振る舞い、退治されたの?」
「ソウ。巨悪、大ロボ天魔王ヲ霊夢ハ倒シタ。ソノコトハ……スピーカー……ヲ通ジテ……里ニモ放送……サレテイル。コレデ……霊夢ノ名声モ高マル。神社ニ……人モ来ル」
「馬鹿なことを。あんた、そのせいで体が壊れたじゃない」
「タッタ……一週間ダッタケド、霊夢ハ色々ナモノヲ……見セテクレタ。聞カセテ……クレタ。私ハ……アナタニ……感謝シタカッタ」
 それきりロボ霊夢は反応しなくなった。霊夢が肩を揺さぶっても、ノイズ音すら発せず、肩口から出る煙は、いよいよ黒々としてきた。立ち上がり、ロボ霊夢の残骸を見下ろして霊夢は呟く。
「馬鹿。こんなことされても迷惑よ」
 そして霊夢は後ろを振り返り、茂みの奥に向けて言った。
「……にとり。いるんでしょう?」
 霊夢の視線の先から、青い服を着た妖怪が現れる。河城にとりは静かに笑いを浮かべ、霊夢の方へと近づいた。
「あの爆弾、不良品だったよ。よくよく調べてみると爆発しないようにできていた」
「……最初からそのつもりだったんでしょうね」
 にとりは霊夢の隣に立つと、動くこともなくなったロボ霊夢に顔を向けた。彼女は背負っていたカバンを下ろすと、水鉄砲を取り出してロボ霊夢に向けた。少しだけにとりが手前に立っていたため、霊夢にはにとりの表情が分からなかった。何も言わずにとりは水流を発射する。ほとばしる水が肩口からくすぶる炎を押し流し、にとりが指を離す頃にはロボ霊夢だったものは、ただの鉄くずに戻っていた。
 振り返るにとりの表情は笑っていた。それが本心なのか虚勢なのか、霊夢には分からなかった。沈んだ顔で霊夢は声を欠けた。
「悪いわね、にとり。壊してしまって」
「いえいえ。いいものが見れたので、私としては満足ですよ。あと、ここで見たことは誰にも言いませんので」
 足元のカバンを手に取り、水鉄砲をしまう。そして再びロボ霊夢の姿を、二人で見下ろした。どこか遠くから、鳥の鳴き声が聞こえた。
 しばらくして、霊夢はにとりに顔を向けた。
「言ったほうが良いんじゃない? そうしないと、あなたの製品が不良品ってことになるわよ?」
 放送は里中に流されている。そのためにとりの当初の目的は、当のロボ霊夢のせいで頓挫したことになる。けれどロボ霊夢の真意を話せば、いくらでも挽回できるはずだった。けれど、にとりは首を横に振った。
「どのみち改良は必要だったんでね。まあ里での評価が散々になるのは正直痛いんですが」
 そして霊夢に顔を向けると、満面の笑みを浮かべた。
「……でも、霊夢さんには分かってもらえた。それで十分ですよ」
 にとりの微笑みが眩しすぎて、霊夢は顔を反らした。
 にとりの言葉をどう思うのか、無性にロボ霊夢に聞いてみたかった。けれどそれはもうできない。今になって、もっと話をしておけばよかったと霊夢は後悔した。そんな霊夢の横顔に、隣のにとりは語りかけた。
「二号機できたら送りますよ?」
「もうポンコツは結構よ。でもね」
 霊夢は肩をすくめて、にとりを見返した。結局のところ、最後になるまでロボ霊夢が考えていたことが、霊夢には分からなかった。そのせいか一週間は、霊夢にとって刺激的ではあるものの、疲れる日々だった。それでも一つだけ、確かに言えることがあった。
「あのロボ、悪くなかったわ」
 霊夢はにとりに微笑み返した。
お久しぶりです。例大祭の原稿が終わり、ようやく戻ってこれました。
一発ネタなタイトルから話を膨らましたら、こんな話になりました。全編ギャグで行くつもりが、どうしてこうなった……?

このような話を書いた後で恐縮ですが、明日の例大祭では「さよなら秘封倶楽部 〜東京は崩壊しました〜」をI21b「わらびボックス」にて頒布いたします。立ち寄っていただければ幸いです

>>2
やってしまった……。修正しました OTL
maro
http://twitter.com/warabibox
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コメント



0.140簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
よかったです。
6.70名前が無い程度の能力削除
いや、よくないよ
幾つか守矢が守谷になってるよ

物語自体は悪くなかったです
7.90名前が無い程度の能力削除
楽しませて頂きました
8.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです