Coolier - 新生・東方創想話

永遠に追い、無限に求める

2017/03/21 00:25:58
最終更新
サイズ
16.25KB
ページ数
1
閲覧数
588
評価数
6/10
POINT
750
Rate
14.09

分類タグ


「……第十一式にエラー。結界への重大な影響なし。構成修復を開始……完了。結界の不具合なし。引き続き対象の拘束を継続。第二十五から第三十の術式に重大なエラー。詳細不明、要確認。変換効率10%未満……」

「おーい」

「第三十一式から第三十八式……現状エラーは認められない。ただし変換のエラーにより妖力の供給が少なすぎて、実行結果の検証に不足あり」

「おーい。暇なんだけど」

「……そうだと思ったから漫画本を置いておいたでしょう」

「三冊って少なすぎでしょ。とっくに読み終わったよ」

「それは物質結界も込みだから、本だけ通す事はできないわ。ありもので我慢しなさい」

「横暴だぁー。我々は待遇の改善を要求するぅー」

 そうだそうだー、と、同意の声が無数に上がる。
 容姿は全員同じだ。ノースリーブの白シャツにロングスカート、腰帯から○△□の分銅を垂らし、頭の両横には二本の角。
 手のひらに乗るような小さな分身を多数足元に従え、本体はのんきに瓢箪から酒をあおる。

「……伊吹萃香。種族は鬼。密と疎を操る。能力により生み出した無数の分身にも微弱の妖力が認められる。第十三式から第十八式までの妖力拡散力場に影響なし」

 淡々としたその声に合わせるように、小さな分身たちの何体かが目を回して倒れ、煙とともに消えた。
 それを見届けた萃香が指を鳴らすと、分身たちは一斉に煙となった。

「せっかく拉致監禁なんて楽しいイベント、もっと色々楽しめるかと思ったのにー」

「期待に添えなくてごめんなさい。お帰りはあちらよ。通れないけど」

 ぶーぶー、とふくれっ面で不平を述べる萃香。その表情には拘束されていることへの恐れも、焦燥も見られない。
 パチュリー・ノーレッジはそれ以上取り合わず、萃香に背を向けて部屋隅の机へ向かった。

 紅魔館。紅き吸血鬼の館。その一角に座するパチュリー・ノーレッジの私室である。
 部屋に窓はなく、ただ一つの扉は膨大な蔵書量を誇る魔法図書館と直結している。
 ただし、物理的に繋がっているわけではない。壁に貼り付けた扉を、魔法で図書館の扉の一つと繋げているだけだ。だから、魔法の連結を切ってしまえば扉はただの壁となり、ここは出入り口のない密室となる。
 魔法の研究に勤しむ時、パチュリーはしばしばここを利用する。誰にも邪魔されないために。もっとも、人の通れない小さな空気孔を抜けてくるような連中もいるのだが……。

 ちら、と再び部屋の中央に目をやる。
 萃香は不満を言うのに飽きたらしく、結界のそばに寄ってしげしげと観察していた。

 部屋の中央より半径四メートル。それが、今の萃香が行動できる範囲だ。
 周囲を囲むように描かれた魔法陣が生み出す結界。それによる拘束の中に、彼女はある。

「結界は専門じゃないんだよねえ。これってどういうものなの? なんか色々組み込んでるのはわかるんだけど」

 全く緊張感と言うものが欠如した態度だった。
 それは強者の余裕なのであり、恐らく油断でもあるのだろう。

 鬼。魑魅魍魎の具現する幻想郷にあっても、単純な力において最強を謳われる種族。
 力とは、単純に筋力のことであり、恐るべき妖術を操る妖力のことでもある。

「……私が、拘束した相手に結界の性質を語るような間抜けに見えるのかしら」

「間抜けかはともかく、説明したがりには見えるけどねえ」

 パチュリーはいつもよりさらに目を細めて、萃香を見やった。睨んだつもりだったが、相手がそれを理解したかどうか。

「ま、聞いたってどうせ私にゃ解除できないだろうけどねえ。私が得意なのは、」

 そこで一旦言葉を切って、萃香は右の拳を握った。

「解くより、破る方だし」

 そして、思い切り突き出す。
 拳は結界に突き刺さり、小さく火花をちらした。

「……おや」

 一瞬の後、萃香は拳を引く。
 結界には小さな波紋が走っただけで、針ほどの穴も開いてはいない。

 そして、萃香の右拳は、その半ばまでが炭化して崩れ落ちていた。

「第十二式の自動修繕機構に干渉。促進。再構築完了」

 ぽつりと呟いて、パチュリーは部屋の中央に一歩進む。

「鬼を相手に物理的な壁は意味をなさない。だから、通れば炭化し、通ろうとするほど内に誘われ、灰の一粒たりとも外へはたどり着けない。そういう結界を用意したわ」

「なるほどねえ。鬼を相手にする用意としちゃ……まあ及第点かな」

「満点に足りない何かがあったかしら?」

「鬼は『いわく』というものに弱いんだ。鬼退治の誉れ高い一品を結界の中心にするとか、ね。髭切とか」

 語りながら、萃香は炭化した右手を顔の前にやり、ふっと息を吹きかけた。右手が徐々に霧に解けるように輪郭がぼやけてゆき、しばしの間を経て元に戻る。黒焦げになった部分も、全て元の通りに治っている。

「そうは言っても、なかなか大した代物じゃないか。これはちょいと骨が折れそうだね」

「……随分と余裕ね。骨が折れるどころか、炭化して無くなるというのに」

「で、閉じ込めたところでコイツの出番ってわけだ」

 パチュリーの返答は無視して、萃香は床の魔法陣を見る。

「妖力を吸い出して奪い取る仕組みかな? 鬼を相手に大胆なことだね。もっとも、うまく機能してないみたいだけど」

「…………」

「一朝一夕の結界じゃないな。随分と周到に準備してくれたみたいだねえ。あんたの方から酒の誘いなんて妙だと思ったが、なるほど、こういうことなら納得だ」

「……妙だと思った割に、誘いには二つ返事で乗ってきたわね」

「罠を警戒して誘いを断るなんざ、鬼のやることじゃあないね。そういうのこそ、あんたら魔法使いのやり方だろう?」

 ケラケラと笑う。
 実際のところ、パチュリーが一番腐心したのはそこだった。
 理論が構築さえされていれば、結界の準備には時間はかかれど困難はない。しかし対象をここに誘うのには、どうしても不確定要素を排除しきれない。それこそが一番の懸念であり、萃香が誘いを二つ返事で受け、誘導するまでもなく結界の範囲に入ってきた事には拍子抜けしたし、『こいつは全てわかっているのではないか』という疑問は拭えなかった。

 実際、魔法式は完全には機能していない。
 拘束はできているものの、結界内の存在から妖力を強制的に拡散する式はきちんと動いておらず、抽出できた妖力は想定の一割に満たない。
 式のどこに障害が存在するのかを調べるのは、ともすれば同じものをもう一度構築するに等しい手間を要する。

「そういう意味じゃ、この状況はいささかお粗末と言わなければならないだろうが」

「……拘束は問題なく機能している。調べて修正すればいいだけ。誤差の範疇よ」

「いつまでも保つってんなら、そうだろうけどねえ」

「…………」

 それ以上なにも言う気になれず、パチュリーは再び机に向かった。



 それからしばし。萃香が戯れにかける声と、無視してパチュリーが紙にペンを走らせる音だけが、部屋に響いていた。
 萃香は寝転がって昼寝したり、酒をあおったりしながら、時折思い出したように結界への攻撃を仕掛けた。
 鋭く突きを、蹴りを放ち、多数の分身を生み出して突貫させた。いずれも黒焦げになって崩れ落ちながら、多重結界の一枚か二枚を破ることには成功していた。その度、パチュリーは魔法式に干渉して結界を即座に修復した。
 自動で修復する式も組み込んではあるが、あまりに余裕綽々という萃香の態度は、破れた結界を一時でも放置する事をためらわせた。

 こほ、と一つ咳をする。喘息の調子はあまり良くない。
 一つのことが上手くいかない時、連鎖的に悪い結果が重なっていくような気分。根拠のない思い込みとわかっていても、その考えさえも負の連鎖の一端であるように思えて、気が滅入る。

(変換効率は変わらず低推移……属性の解析が不十分だったか? けど、今から式を組み替えるのは無理……)

 がり、とペンが強い音を立てる。知らず力の入っていた手からペンを落とし、何度か開閉して筋肉の強張りを解す。

 しばらく前から、萃香は結界にぎりぎり触れない位置でじっと一点を凝視していた。何度も結界に触れたせいで腕巻きや靴が崩れ落ちているが、同じように何度も崩れ落ちたはずの手足は、何らの損傷もなくそこにある。鬼の妖力の強大さに疑問の余地はないが、肉体の再生においてすらこれほどに卓抜であるというのは、パチュリーの知識にはなかったことだ。
 萃香は時折強く息を吹きかけたり、指先で結界に軽く触れたりしている。まるで何かを探すかのように。 

「……どれだけ探しても、穴なんてないわよ。針ほどの穴でもあなたは通り抜ける事ができる。そんなことは百も承知だもの」

「知ってるよ」

 少し前までの饒舌は鳴りを潜め、ただ静かに結界の観察を続ける萃香。
 その淡々とした様子はパチュリーを苛立たせ、同時に、そんな事で苛立つほどに自分は余裕を欠いているのだと気付かされる。

 こほ、とまた一つ咳をする。同時に、強く息の詰まるような感覚。

「……っ! ごほっ、かはっ!」

 咳が続けざまに出て、椅子から降りて背を丸める。喉の奥からヒュウヒュウと喘鳴がする。慌てて首から下げたネックレスを握り、その中に仕込んだ魔法式を開放する。周囲の空気を循環させて肺に酸素を送り込み、酸欠を防ぐためのものだ。呼吸が楽になったところで机から薬を取り出し吸引する。それでようやく人心地つく。

 最近、こんな風に喘息の発作が起きることはなかった。日が悪いとこんなものだろうか。何か、得体の知れないものに否定の言葉を投げかけられているような、そんな気分にさせられる。それに対してどれだけ怒ろうとも、反撃する術は何もないのだ。

「全てのものには波がある」

 萃香が唐突に話し始める。その目は、やはり結界の一点を凝視していた。

「波とはつまり強弱の事であり、一見して均一に構築されているものであっても、実際には何処かにムラが存在する。何かを閉じ込めるためにある結界においては、そのムラをどれだけ巧みに隠せるかというのが、一つのキモになるわけだ。強弱があるってのは、つまり薄く破れやすいところがあるってことだからね」

「…………それが、なにか」

 声を出すのも億劫だったが、それでもパチュリーは言葉を返した。

「いやあ、それがわかってるから、さっきからずっと薄いところを探していたんだけど、どうにも見当がつかなくてねえ。仕方がないから、待つことにしたんだ」

 待つ。何を。未だ喉の状態は悪く、今度は言葉にはならなかった。

「あんたが少しでも弱って、魔力の供給が細くなれば、結界の性質も見えやすくなる」

 言葉とともに、萃香が右足を小さく踏みしめる。すると、いつの間にか足元に漂っていた霧が、無数の萃香の分身へと変じた。
 拳よりも小さいその分身たちは、結界内を足の踏み場も無くすほどに大量に出現し、多方に飛び上がって一斉に結界へと突撃した。

「これは要するに、ランダムパターンってヤツだね。結界を構築する魔力が常に動いているから、薄いところも常に移動する」

 小さな萃香たちは、結界に阻まれ次々に煙となって消える。一斉に、ではない。すぐに消えるものと、いくらか残り続けるものがある。
 最後の一匹になった瞬間、萃香はその方角へと向き直る。そして、強く握った拳を突き出した。

「…………っ! くっ、かはっ……!」

 手をかざし、魔力を放って結界の強化を図ろうとした瞬間、再び息が詰まった。
 萃香の拳が、黒焦げの灰となって散じながらも、その腕を結界の外側へと突き出す。
 それは一瞬のことであり、結界は開いた穴を瞬時に塞ぎ、元通りの檻を形作った。
 もはやその中に誰の姿もない、空の檻を。

 パチュリーが立ち上がろうとした瞬間、何かが強くその背を引っ張り、背中から床に叩きつけられた。

「かはっ!」

 胸の中心を強く押さえる力があり、それはやがて人の足を形どった。裾がボロボロになったスカートが、半ばまで焦げ落ちた腕が現れ、最後に二本の角を左右に伸ばした少女の顔が現れる。

 結界に穴の空いたのはほんの一瞬。その一瞬に霧となって脱し、次の一瞬には実となって術者を押さえつける。その速度もまた、これまでの知識には存在しなかった。

 即座にスペルを放たんと口を開いた瞬間、胸の中心を押さえる圧力が増した。

「ぐっ……!」

 右の素足をパチュリーの胸に乗せたまま、萃香は悠然と地面に縫い付けた相手を見下ろす。

「あんたらしくもない」

 その表情からは、余裕以上に疑念が強く窺えた。

「魔法使いってのは、戦わない連中ばっかりだ。事前に過剰なほどの準備をして、実際の行動は単なる結果の確認程度にしか考えない。確信のない事は、確信を得るまで実行しない。あんたは、その典型だと思ってたんだけどね」

 例外はあの黒白くらいだと思っていた。そう、萃香は続けた。
 それを聞いた瞬間に、パチュリーの眉がいっそうしかめられたのを、萃香は見逃さなかった。

「あんたが焦っているのは、あいつのせいか?」

 萃香がパチュリーの目を覗き込む。

「……魔術の女神」

「ん?」

「女魔術師の保護者。その名を全ての魔女が胸に刻みこんでいる。それは私たちの祖であり、母であり、力の源」

 首を傾げる萃香に構わず、パチュリーは滔々と語る。

「その気配を、私たち魔法使いが見誤るはずもない。それは確かに、一時この幻想郷を訪れたわ。魔法の森の、ある一角を」

 この図書室ではなく。
 そう続けたパチュリーの表情には、何らの変化も見られなかった。

「懐かしい名前だ。それって、要は嫉妬というやつかい?」

「さあ、どうかしらね。実を言うと、自分でもよくわからないわ」

 目を閉じ、語る。己の内にある何かを探るように。

「女神の気配を感じた時、柄にもなく興奮したわ。その存在の恩寵を受ける事は、魔女としての頂点に至る事にも等しい」

「だが、それはあんたのところに来た訳ではなかった」

「そうね。それがわかった時、悔しいと思ったわ。あいつのところには女神があり、私のところには来ないという事実。でもね、一番に思ったのは、それを悔しいと思う自分がまだ居たのだということよ」

 語りながら、パチュリーは胸を押さえつける萃香の足首を掴む。

「私は魔女であり、魔女でしかなく、魔女以外の何者にもなれず、その意志もない。私を認め、尊重する者は、誰よりも私自身でなければならない」

 言葉とともに、その手に力がこもる。それは病弱な魔法使いの握力ではないと、萃香は感じた。

「誰かに認められる事や、敬愛を受ける事などは、私が私である事の理由にはなりえない。そんなことは、はるか昔から知っていた事なのよ。そうでなければ、私がここに来る事もなかったでしょう」

 吸血鬼が、超人が、数多の妖怪が跋扈する地。
 不老も不死も単なる特徴の一つにしか数えられぬ場所。
 己を誇示するのに、これほど具合の悪い場所もないだろう。

「人の中にあり、敬意と畏怖を集める魔女として生き、やがて幻想として消え行くのが私だったのかもしれない。でも、そうしなかったの。私を望むのは、他の誰より、いつでも私自身であったから。
 でも、いつの間にか随分と腑抜けていたみたい。私の知を糧とし、技を参考にするような奴に、出会ってしまったからかしらね。望まれる事の快楽を、自ずから望むようになってしまっていた」

「……あいつは強欲だからね。どんなものでも自分の糧にしようとする。あんたの事も、女神の事だってそうなのだろうさ」

「私のように、悠長に自分と向き合ってなどいられないのでしょう。あいつは人間だもの。だから、私も急がなくてはいけないの」

 パチュリーの腕が、胸を押さえつける萃香の足を少しずつ動かしてゆく。
 鬼の力をも退ける恐るべき膂力。それが、今のパチュリーの手には宿っていた。

「『パチュリーにはかなわないな』と、あいつにそう思わせるための猶予は、そう長くはないのだから」

 がば、と力強く起き上がり、腕を振り回す。
 足を掴まれた萃香は、その勢いで投棄され、壁に叩きつけられた。

 否、叩きつけられてはいない。壁に触れる瞬間、萃香は霧となって散じ、質量を失った力は壁に何らの衝撃も与えなかった。

「ははは……! なるほど、強い意志だ。しかし、それは結局のところ、他者に認められようとしていると、依存しているという事じゃあないのかい?」

「違うわ。私が私を認めるためにこそ、他者という存在があるのよ。自分が他者を肯定し、その他者がまた自分を肯定する。その循環が、高みへと至るという事」

 手段を選ばず貪欲に知識を蓄え、他者の技を取り込む。
 生まれ持った才によってではなく、学びと研鑽によってそれを成す。
 あれは正しく魔法使いそのものであり、女神が寵愛するのもそれが理由なのだろう。
 そして、その結果として得た技は、力ある妖怪たちをも倒しうるほどに強大で、鋭い。

 それほどの相手が、魔の申し子とも言うべき者が、自分の背を踏み台に飛び上がろうとしているのだ。

「なりふり構っていられるような、そんな生ぬるい私でいるのは、もう止めにしたの。
 私はパチュリー・ノーレッジ。知は私の血であり、肉である。誰かの後塵を拝する私など、認めない」

 薄く広がる霧が、渦巻いて部屋を駆け巡る。

「あっはっは! 魔法使いってのは陰気な連中ばかりだが、なるほど、内に秘めたものとひたすらに向き合うからこそ、ってわけか。そういうのは嫌いじゃあない。そこに免じて、その力は置いていってやるよ」

 そして、霧は空気の通り道へと抜けていった。小さき鬼の気配と共に。



 パチュリーは右手を二、三度開閉する。
 魔法陣はうまく機能してはいなかったが、そのわずかな効果でも、萃香の押さえを退けるほどの力にはなった。
 これをもって、何らかの成果を得たと言えるだろうか。

「……無理ね。抽出できた妖力だけではすぐに使い切ってしまうし、この程度の膂力を得たところで大した事はできない」

「レミリアお嬢様と腕相撲でもしてみますか?」

 全く唐突に、部屋に響く別の声。
 パチュリーはそれに、特に驚くような様子も見せず、部屋の一角にある扉を見つめる。

 どこへとも繋がっていない、壁に貼り付けられた扉が開く。
 その向こうの壁に描かれた魔法陣。それが淡い光を放つと、ずるりと抜け出すように一人の悪魔が現れた。

「レミィを悔しがらせるのはなかなか楽しそうではあるけど、手間に対しては小さな成果と言わざるを得ないわね」

 姿を見せた小悪魔に、パチュリーは軽い口調で返す。

「それにしても、逃して良かったのですか?」

「何が」

「ご命令くだされば、東洋の悪魔如き、この身体でも刺し違えるくらいはして見せましたのに」

 にや、と含むような笑みで、小悪魔はパチュリーの側に寄る。
 忠誠を誓う従者ではなく、聖者を誘惑する悪魔のように。

「あなたを失う方がよっぽど痛手だわ」

 パチュリーは臆面もなく、笑みすらも浮かべずにそう返す。

「また喚んでくだされば良い事でしょうに」

「探すのが面倒だから嫌よ。言ったでしょう?」

 言葉を切り、扉の向こうの壁に手をかざす。
 小悪魔が出てきたものとは別の魔法陣が描き出され、その向こうに広大な空間が現れる。
 数多の知をその腹に収めた、魔法の図書館。その蔵書は、未だパチュリーの頭脳に収まりきってはいない。

「余計なことにかかずらう暇はないのよ。無限に等しい時間とは、有限であるという事だから」

 知識は無限にあり、探求は永遠に終わらない。それは一握りの成功と、数多の失敗を残してゆく。
 その先に、無限足り得る成果を生み出す事。有限なる者が、無限へと至る道。
 あいつはきっと、その道を行き続けるのだろう。

 ならば、先達として背中を見せ続ける事。それが私の使命だと、パチュリー・ノーレッジは信じている。
ご読了に感謝いたします。ご批評をお聞かせ願えれば幸いに存じます。
なんとなく、パッチェさんはすっごい負けず嫌いで激情家な印象があります。
仲村アペンド
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.180簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
これはいいパチュリーや
面白かったです
2.80名前が無い程度の能力削除
萃夢想で本当は宴会が楽しみなんだろ?と萃香に言われているパチュリーを思い出した
よかったです
3.90奇声を発する程度の能力削除
面白く楽しめました
5.100名前が無い程度の能力削除
ハングリーなパチュリーはあまりないので良かったです。魔理沙とヘカテーが近づいたことを知ったら魔女としてはじっとしてられないだろうというのはそれはそうですよね。
甲子園レベルの自分を差し置いて地区優勝レベルの少年とイチローが仲良くしてるのを知ってしまった、的な。
鬼パワーを得たパチュリーがレミリアと力くらべをするところも見てみたいです(怪力フェチ)。
6.100SPII削除
パチュリーはこういうところありますね
女神は魅魔様だったんだろうか…
8.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
パチェリーからしたら命懸けの行為なんでしょうね
ある意味魔理沙に対する誠意みたいなところがありそうに思えます