Coolier - 新生・東方創想話

万年筆と、ガラスペン

2017/03/13 19:52:20
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 私が幻想郷縁起を編纂し始めてから、どのくらいが経っただろうか。その間、色々な妖怪が増え、その度に加筆、修正をしていく。
 その作業は主に筆で行い、新しい事を書き込んでいくとすぐにページが無くなるので、紙に穴を空け、その穴に紐を通して本に仕立てていた。これならページをどんどん増やしていける。


 そうして編纂に精を出していたのだけれど、数週間前、誤って墨の入った硯をひっくり返してしまい、せっかく書いたものを台無しにしてしまった。
 私はそんなに落ち着きが無いわけでは無いのだけれど、たまにこういうミスをやらかす。その度に書き直すのが面倒なので、何か良い案は無いかと考えていた所、人里で万年筆を扱っているお店があると知り、さっそく出かけて行った。


 人里に着いてみると、お店には人が屯していた。万年筆は結構使い勝手が良く、インク補充の時も余り手が汚れないので、普段筆を使用している人にとっては有難い筆記具だった。その分、値段もそこそこするのだが、背に腹はかえられないと思い、購入した。
 軸がエボナイト製で、スポイトで胴軸内に直接インクを入れるタイプの蒼い万年筆だった。液体墨だと、胴軸内で固まってしまう可能性があるらしく、せっかく買ったものを壊すわけにはいかないと、インクも別に購入した。


 家に帰り、さっそく使ってみた。スポイトでインクを吸い上げ、胴軸内に注入する。首軸を締め、その後、尻軸を少し捻る。こうすることでインクが流れるようになるらしい。
 ペン先に力を込めず、紙上にそっと置く。手を動かしてみると、サラサラとインクが流れ出た。なるほど、力を込めなくても書けるわけだ。
 硯をひっくり返す心配もない。インクの入った瓶は、蓋がついているので安心だ。私はすっかり万年筆が気に入ってしまった。家にいる時だけではなく、外にも持っていくようになった。歩いていて、思いついた時に詩を書いている。詩の内容は、人様に見せられるものではないのだけれど。
 こうも素晴らしい道具だと、誰かに自慢したくなってくる。私は鈴奈庵に行き、小鈴に見せびらかした。


「どう?人里で買ったんだけど。凄い使いやすいのよ?今まで筆で書いて、硯をひっくり返していたのは何だったのかって思うわ」


 小鈴は本から視線を逸らし、私を見る。面倒くさそうに


「それは、阿求がおっちょこちょいだからよ。普通の人はそんなに硯をひっくり返したりはしないわ」


 と言った。それじゃ、まるで私が落ち着きの無い女って言っているようなものじゃない。集中していると、周りが見えなくなるっていうのは認めるけれど……。
 だから、私は言ってやったわ。


「小鈴。そんな事言ってるけど、実は羨ましいんでしょ!分かってるわよ。付き合い長いからね」
「別にそんなんじゃないわ。毎回、墨だらけの紙を製本させられるこっちの身にもなってよ」
「あら、ごめんなさい。でも、これからは大丈夫よ。この万年筆があれば、そんな心配は無用だから」


 小鈴に自慢した私は、満足して家へと戻った。部屋に入り、編纂を開始する。筆や硯を片付けたので、机の上は大分広くなった。インクを注入し、紙上でペン先を滑らせる。うん、やっぱり良い文具だわ。




 万年筆を使い始めて三ヶ月程経っただろうか。困った問題が発生した。インクの出が悪くなって、書きにくくなってしまったのだ。よく見ると、ペン先の部分が離れてしまっている。買った時はこんな感じじゃ無かったけれど。


 人里の文具店に持っていき、店主に万年筆を見せた。店主はルーペでペン先を見て、ため息をつく。


「お客さん、これは力の入れすぎだね。それでペン先が変形しちまったのさ」
「直せませんか?」
「うちは売るだけで、修理はやってないんだ。すまないね」


 売るだけ売って、アフターサービスは無しなのね。あの店主にそんな技術も無いことは分かっているけどね……。
 仕方なく、万年筆を直すのを諦めた私は、小鈴の所へ行った。


「いらっしゃ……ああ、阿求。どうしたの?」


 私は小鈴に全てを話し、どうすれば良いかを相談した。新しいものを買うのも良いが、集中すると手に力が入る癖があるので、またペン先を駄目にしそうだ。
 小鈴はしばらく考えていたが、抽斗の中から万年筆を取り出し、机の上に置いた。


「くれるの?」
「誰が。この万年筆を買ったお店……香霖堂だったかな。そこに行けば、良い文具に出会えるかもよ」
「ああ、霖之助さんのお店ね」
「うん。でも、適当に話を切り上げないと、延々と喋り続けるわ。この間なんか、五時間も蘊蓄を聞かされ続けて、まいっちゃったわ」
「よくそんなに聞いてられたわね……」


 でも、このお店なら良いものがあるかもしれない。私は小鈴にお礼を言って、香霖堂へと向かった。


 魔法の森に向かって歩いていくと、よく分からない道具が散乱している建物が見えてきた。あれで間違いないはずだ。
 中に入ると、外と同じように色々な道具が乱雑に置いてあった。恐らくこれも商品なのだろうけど、こんな風に扱っていいのかしら。


 机の上に本を置いて、熱心に読んでいる男性がいた。この人が霖之助さんね。
 霖之助さんは、私の方を見ると、驚いて本を閉じた。


「これはこれは……珍しいね。いらっしゃい」
「転生してからは初めてですかね。前の代では、よく来ていたのですか?」
「たまに来ていたよ。紙やペンを買いに来ていた」
「そうですか」


 私は、その時のことは記憶に無いのだけれど、家にある古びたペンや筆は、きっとここで買ったものなのだろう。という事は、私の期待に応える文具もある可能性が……!


「今日は、文具を買いに来ました」


 私がそう言うと、霖之助さんは本をしまい、立ち上がった。


「万年筆の代わりになる文具は無いですか?」
「万年筆の代わりか……あれも結構、実用性はあるんだけれどね」
「壊れてしまったんです。もっとシンプルなものが欲しいのですが……」
「うーん……ちょっと待っていてくれ」


 そう言うと、霖之助さんは奥の部屋に消えていった。しばらくして戻ってきた彼が持っていたのは、木で出来た長方形の箱。中には、透明なガラスで出来たペンが入っていた。


「これは……」
「これはガラスペンと呼ばれる筆記具だ。綺麗だろう?」


 私はガラスペンを取り出し、まじまじと見つめる。店に入ってくる日光に照らされ、キラキラと輝いているこのペンは、とても実用的なものとは思えなかった。


「こんなもので文字が書けるのですか?」
「試してみるといい。インクの中にペン先を入れると、ペンの溝にインクが溜まる。それで文字が書けるんだよ」


 私は恐る恐る、出されたインク壺の中にペン先を突っ込んだ。引き上げてみると、確かにペン先の溝にインクが溜まっている。紙の上でペン先を走らせる。万年筆とは違った、ゴリゴリとした書き味だ。
 しばらく書いていると、文字が段々と薄くなってきた。


「これは……どうすれば良いのですか?」
「またペン先にインクをつければ、書けるようになる。万年筆のように複雑な構造はしていない。インクをつけ、書くだけ。多少、力を加えても大丈夫だ。まあ、加えすぎると欠けるんだけどね……」
「確かにシンプルですね。それに綺麗です」
「そう、綺麗なんだよ。しかもインクは水で簡単に流せるから、色々な色を試せる」


 私はすっかりガラスペンが気に入ってしまった。見れば見るほど美しい。それでいて実用的。まさに私にぴったりの文具!


「このガラスペンは、外の世界の風鈴職人が作ったと言われている。風鈴はガラスで出来ているからね。何の気まぐれかは知らないが、ガラスでペンを作ってしまったんだ」
「そうなんですか……人里にも風鈴職人はいますよね?」
「このガラスペンは、職人の腕によって書き味が変わる。中には全く書けないものもある。人里の職人が作ったものは、あまり良いものでは無いと思う」
「このペンは普通に書けますね。外の世界の職人は凄いのですね」
「そうさ!僕も何時かは外の世界に行き、技術や知識を得たいと思う。更に外の世界には……」


 あ、このパターンは不味いわ。話が長くなりそう……なんとか切り上げないと、阿求みたいに五時間も聞かされたんじゃ、たまったもんじゃないわね……。


「あの、霖之助さん。これ、購入します!」
「……ん?ああ、そうかい。毎度ありがとう!」


 私は霖之助さんにお礼を言い、逃げるようにお店を出た。良かった……無事に良い文具も買えたし、話も聞かなくて済んだわ……。
 でも、ちょっと可哀想だったかしら。今度、暇が出来たら聞きに行ってあげようかしら。




 あれから数日が過ぎた。私は香霖堂で買ったガラスペンで、幻想郷縁起を書いている。執筆に疲れたら、ガラスペンをデスクライトに照らし、光の反射を楽しんでいる。
 ガラスペンを買ってから、以前よりも文字を書きたいと思うようになった。これを書くのは仕事だけれども、その他に自分で小説を書いてみるのも面白いかもしれない。


 こんな素晴らしいペンを作れる外の世界の人々は、いったいどんな技術を持っているのだろう。霖之助さんと同じく、私も外の世界に興味が出てきた。今は無理だけど、死ぬ前に外の世界を見に行きたい。そして、ガラスペンのような素晴らしい物に多く触れてみたいと思う。
 キラキラと輝くガラスペンを見ながら、そんな事を考えた。
 
ガラスペンを購入した記念に書いてみました。結構使いやすいです。
ケロ
http://kerokero313.web.fc2.com/
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コメント



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2.10名前が無い程度の能力削除
買ったオモチャを自慢したい。東方のキャラに言わせちゃえ。
8.30名前が無い程度の能力削除
ガラスペンに興味は持てましたが、それ以上の展開が欲しかったです。