Coolier - 新生・東方創想話

彼女は地獄の女神とどうやって知り合ったか

2017/02/21 23:03:03
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 「ひー! 寒い寒い寒い寒い寒い寒い!!」

 寒風が吹く真冬の妖怪の山で秋穣子は榎茸を探しに勤しんでいた。榎茸は冬の代表的な茸である。滑子によく似た姿をしているが滑子よりも肉厚で味も上だ。だが、この茸を手に入れるには冬の山を探し回らなければならない。
 今日は太陽が出ているとは言え、先日降った雪がまだ大分残っていて気温はあまり高くない。この寒さは秋の神様の彼女には大分堪える。それでも彼女は朝から山を歩き回っている。この寒さを上回る価値が榎茸にはあるのである。
 ふと木の根本に何かの皮のような塊が落ちているのを見つける。彼女はその正体がわかると背中のかごに放り入れた。
 ぬけおち―――これも茸の一種で高い木の上に生える。しかし積もった雪の重みで地面に落ちている時があり、これを特殊な方法で調理すると珍味となる。
 このように冬の山と言えど彼女にとっては宝の山なのだ。しかしこの宝の山は時折とんでもないものを見つける事もある。

「ふー。大分収穫したわね」 
 
 彼女の背負いかごの中にはこの時期にとれる茸がたくさん詰め込まれている。もう十分だろうと思った彼女は一休みをしようと切り株に腰をかけた。そのときである。ふと彼女は足下になにやら光り輝く玉のような物を見つけ、思わず手に取った。

「何これ? 綺麗ねー」

 その玉は宝石のように輝きを放っているが、今まで見たこともないようなくらいに澄んだ色をしていてこの世の物とは思えない。すっかり魅せられてしまった彼女はその玉を家に持ち帰った。

 「姉さん見てー!」

 穣子が玉をテーブルの上に置くと、家中が煌びやかな光に包まれる。それを見た静葉は一人で盛り上がる彼女に尋ねた。

「穣子。これは何かしら」
「玉よ」
「それは見ればわかるわ。これをどうしたの?」
「山で拾ったのよ」
「これを山で?」

 静葉はその玉を訝しげに見つめている。その様子を見て穣子が言う。

「姉さんったら心配性ね。こんなのただの綺麗な宝石でしょ。せっかくだから飾っておきましょうよ」
「穣子。あなた少しは疑う事を覚えなさい。冬の山に落ちているこんな玉がただの宝石なわけないでしょう。あなたは気づかないの? この玉が放っている気配に」

 静葉の言葉を聞いた穣子はきょとんとした表情を浮かべている。静葉は思わずため息をついた。

「あなたに聞いた私が馬鹿だったわ」

 穣子は抗議的な表情を見せているが、静葉は構わず話を続ける。

「冬の山に普通こんなものが落ちてるわけないでしょ。私の神としての勘がこの玉は危険だと告げているの。とにかく一刻も早くこれを元の場所に返してくるのよ」
「ええー。またあんな雪山行かなきゃいけないのー? 私凍え死んじゃうわよー」
「自業自得よ。それに神様は寒いくらいで死んだりしないから大丈夫」

 いかにも不満げそうに頬を膨らませながら彼女はテーブルの玉を手に取った。そのときだ。

「やぁん。あんな寒いところに戻りたくないわー」
「ひぃいい!? なに!!?」

 穣子は思わず玉を庭に放り投げる。次の瞬間玉は一際まぶしく輝いたかと思うと赤い髪に黒いシャツと三色で彩られた短いスカート姿の女性に姿を変える。彼女はそのまま宙に放り出され地面にべちゃりと音を立てて叩きつけられた。

「……ちょっとー放り投げるなんて酷いじゃないのよー」

 そう言いながらのろのろと起きあがる彼女には、土埃一つついていない。

「だ、誰よ! あんたはっ」

 穣子が警戒しつつ尋ねるとその赤髪の女は笑顔を浮かべて答えた。

「私? そーねえ。この世界のファンといったところかしら」

 穣子は狐に摘まれたような表情を浮かべている。見かねた静葉が尋ねる。

「あなたみたいな存在が、こんな辺境の地に何をしに来たのかしら」

 静葉の問いに彼女は先ほどとは違う意趣の笑みを見せる。

「あら……私が何だかわかったのかしら?」
「いえ? でも明らかにただものじゃないわよね。あの子は気づいてないようだけど、あなたからは相当な力を感じるわ」

 静葉の言葉を聞いた赤髪の女は笑みを浮かべたまま、再び家の縁側に上がり込むと二人に告げた。

「別に悪いようにはしないわ。本当、ここでの生活に興味があっただけよ? 神様さん」
「ふーん。ま、いいけどねー?」

 穣子は未だに事情を今一飲み込めていない様子だが、ま、いっかとばかりに彼女にお茶菓子を差し出す。とりあえずお茶菓子を食べてもらって、ちゃっちゃと帰ってもらおうとしているのだ。彼女は招かれざる客に対してしばしばこういう振る舞いを方する。そんな穣子の魂胆を知ってか知らでか彼女はそのお茶菓子を受け取るとおもむろに頬張った。

「あら、おいしいじゃない。何これ。ここの名物か何か?」
「ただの芋けんぴよ」
「へえー。この世界にはこんな美味しい物があるのねー」

彼女はさも感心したといったように腕組みをする。

「おおげさねぇ。こんなの普通の芋菓子じゃないのよー」

 穣子は呆れ気味だったが、彼女はもう一つ口に入れると何かに納得したように頷いた。

「おーけー、気に入ったわーこれ。おみやげにくれないかしら。袋に入れて」
「はぁ?」

 彼女の言葉を聞いた穣子は思わず声を上げる。

「あんたねー。図々しいにもほどがあるわよ? ったくもー……」

ぶつぶつと言いながら穣子は家の奥に姿を消してしまう。

「あららら。嫌われちゃった?」

そう言いつつ家の奥をのぞき込んでいる彼女を静葉はにやにやしながら見つめている。その視線に気づいた彼女は静葉の方を振り向く。

「なによあんた。変な笑みを浮かべて」
「何でもないわ。また変なのが迷い込んだものねって思ってね」

 静葉は悪びれなく笑みを浮かべ、彼女の横に腰を下ろす。すかさず彼女が言う。

「またえらく、どストレートに言ってくれるじゃないの」
「事実だもの仕方ないわ」
「……それもそーね」

 そう言うと彼女は空を見上げた。雲一つない澄んだ空だ。

「で、何しに来たのかしら? あなたみたいな人がこんなとこに」
「やっぱり私の正体わかってんじゃないのあんたは」
「いえ? でも、少なくとも私に敵意はないってことはわかったわ」

 確かに彼女は今、自分のすぐ横に座っている。自分が少しでも彼女に対し敵意を持っているなら距離をあけるだろうし、そもそもこんな場所に座らせない。なるほど、この神様は瞬時にそこまで心理を読みとったのかと思わず感心する。そして彼女に自分の名前を告げることにした。

「私はヘカーティア。ヘカーティア・ラピスラズリ。言っちゃえば地獄の女神ってとこね」
「地獄の女神……聞いたことあるわね」
「あら、私ってここでも有名人なのかしらー?」
「有名かどうかは知らないけど少なくとも私は知ってるわ」
「あら、それはどうも」
「名前聞いたことあるくらいだけどね。で、地獄の女神さんがこんなところに何しに来たのかしら」

 静葉は彼女の方を再び見ると不敵な笑みを見せる。ヘカーティアはにこりと微笑み返すとさらりと言った。

「実はね。殺したい奴がいるのよ」
「あら、それは物騒ね」

 静葉もさらりと言い返す。

「と言うのもさー。私の計画を台無しにした奴がいてねー。地上に来れば会えると聞いたから来てみたんだけど」
「それはわざわざご苦労な事ね」
「そんでアテなんてないからとりあえず宝石に化けて拾った奴の家にまず行こうとしたわけよ」
「そしたら穣子の奴に拾われてこんな所にたどり着いたって事ね」
「そーいうことねー」
「こんな辺鄙な所に着いたところであなたの願いは果たせそうにないわよ?」
「そうかしら? でもまーいいのよ。地上にいればそのうち会えるでしょ」
「それもそうね。ところで聞いていいのかわからないけど地獄の女神に怒りを買うなんてどんな大罪を犯したのそいつは」
「あら、知りたい?」

 そう言ってヘカーティアは微笑む。その笑みには、そこはかとなく殺気がこもっていた。

「いいわよー。教えてあげる。素敵な素敵なとある復讐劇を」

 ヘカーティアは先の月の異変の事そしてその異変が、麓の巫女たちによって未遂に終わったことを静葉に話した。話を聞いた静葉は笑みを浮かべて彼女に尋ねる。

「つまりあなたの怒りを買ったのはあの巫女達ってことかしら?」
「いえ、違うわよー。あの子達とはもう和解したし」
「ということは……あいつね。ドレミーとか言うバク」
「せーかーい。そーいうことよ」
「あいつになら会ったことあるわよ?」
「あら本当? どこで?」

 静葉の言葉を聞いたヘカーティアは驚いたように目を見開いた。

「そうね。今度は私の話を聞いてもらえるかしら?」

 そう言うと静葉は月の兎と出会ったことや、イーグルラヴィ基地跡でドレミーに遭遇したことを話す。その話を聞いた彼女は手をぽんと叩いて告げた。

「なぁーるほど! そういうことね。どうりであんたから月の気配を感じたわけよ」
「あら、そうなの?」
「だってあの兎さんたちの基地に行ったんでしょ? あそこは月と繋がってるもの。多少なりともあっちの気が流れ込んでるのよー」
「ふむ、なるほどね」

 静葉は思わず自分の服のにおいをかいだ。それを見たヘカーティアは苦笑して言う。

「においとか出てるわけじゃないからわからないって」
「それもそうだわね」

 静葉はニヤリと笑みを浮かべる。

「さて、貴重な情報ありがとねー。無駄足じゃなくて助かったわー」
「やっぱりあいつを探すの?」
「もちろんよー。おとしまえって奴はつけてもらわないとねー」

 満面の笑みでそう言った彼女からは、殺気は感じられたがどちらかというと少し痛い目に遭ってもらう程度の雰囲気のように感じ取れる。殺すなんて物騒な言葉を言い放っていても、結局は神様の暇つぶし程度のものなのだ。思わず静葉は苦笑した。と、そのときだ。

「はーいおまたせーっ! 持ってきたわよー!」

 穣子が家の奥から姿を現したかと思うと、二人の目の前にずだ袋をどすんと置く。

「ちょっとあんた、なによこれ?」
「何って決まってるでしょ!」

 驚いたヘカーティアが尋ねると少しヤケ気味な様子で彼女は答えながらその袋を開けた。すると中から袋一杯のけんぴ芋が姿を現した。

「もー。これ作るの大変だったんだからね!?」

 目の前の大量の芋けんぴと辺りを包み込む甘ったるい匂いにさしもののヘカーティアも唖然としている。

「確かに袋につめてって言ったわよ? 言ったけどね……」
「穣子ったら。これ土嚢袋じゃないのよ」
「だって今この家で空いてる袋これしかなかったんだもん!」
「いや、だからってねぇー。わざわざそれに見合う量を詰め込まなくてもいいじゃないのよ? なにこれ新手の嫌がらせ?」
「なんか文句あんのっ!? 作りたてなんだからちゃんと持って帰ってよね! なんたって神様の手作りよ! 味は保証するわ!!」

 そう言い放った穣子の気迫に戸惑う彼女を見て静葉は思わず笑みを浮かべた。





 その夜、二人は鍋を囲んでいた。昼間穣子がとってきた榎茸で茸鍋を作ったのだ。結局あのあとヘカーティアは「せっかくだからもらっていくわ。今夜の晩ご飯にでもするわね。ありがとー」と言い残して大量のけんぴ芋が入った袋を携え帰っていった。ああ見えて意外と律儀なようだ。

「……ふーん。あいつそんな凄い奴だったのね」

 静葉から彼女の話を聞いた穣子は、思わず感嘆の声を上げる。

「穣子ったら気づかなかったの?」
「気づいてたらあんな宝石持ち帰ってないわよ」

 少しすねたような表情を浮かべた穣子を見て静葉はふっと笑みを浮かべる。

「ほらほら、姉さんったら、そんなことより鍋早く食べないと冷めちゃうわよ? せっかく私があんな寒い中とってきたんだからちゃんと食べてね?」

 そう言って穣子は鍋をつついている。負けじと静葉も鍋をつつき出す。そして口に広がる茸汁の芳醇な香りと豊かな風味を味わいながら、今頃地獄の女神も穣子の芋けんぴに舌鼓を打っているのだろうかと想像すると、思わず苦笑せずにはいられなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。静葉と清蘭や鈴瑚との出会いについては前々作の『月の兎はなぜ地上に舞い降りたのか』を読んで頂けると幸いです。
バームクーヘン
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コメント



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1.90ヤクザ憲兵削除
読ませて頂きました。ここでヘカーティアとドレミ―の因縁が顔を出すことになるとは……そして穣子さんのこの能天気さ。もしや彼女は大物なのでは?(神です)
この流れは長くなっていきそうですね。今後の展開がとても楽しみです。ドレミ―の運命や如何に?
5.80大豆まめ削除
大物っぽい静葉初めて見た。
面白かったです。
8.100SPII削除
いいですねえ!
9.90名前が無い程度の能力削除
シリーズは読んでいませんが、微笑ましく楽しめました。