Coolier - 新生・東方創想話

HAPPY LIFE

2017/02/20 20:37:17
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その日小鈴は「東方創想話」とかかれた本を朝から読みふけっていた。今日は店休日であり、客に時間を割かれる心配もない。この本は幻想郷に纏わる物語が記されている。全ては作者の創作に過ぎないがそれは実際に起きる可能性のある創作なのだ。幻想郷という世界に魅入られし人たちの書き記した世界。言わばこの「東方創想話」は幻想郷は人の数だけあるを体現したような書物なのである。

一時期は数日で数百ページも追加されるほどの更新されぶりだったのだがここ最近は一週間でも数ページ程度である。一時的なものなのかそれとも書き手が減ってしまったのか。それは小鈴にもわからなかった。しかしそれは彼女にとっては逆に都合がよかった。何故なら日々の仕事に追われる彼女にとっては更新が少ない方が過去の作品を遡って読みやすいからである。何も物語は今だけではない。過去を遡ればいくらでも魅力的で素晴らしい作品はいくらでもあるのだ。

この「東方創想話」は小鈴が存在に気がついたときは既に十数巻にも及ぶ大作となっていた。いつの間にか本が増えていく。この貸本屋ではそのような不思議な出来事は日常茶飯事であるが、何よりこの本は増えていくスピードが速かった。あっという間に数十、数百と本が増えていったのである。このままでは他の貸本を圧迫してしまうと思い彼女は最新刊以外は倉庫へとしまっていた。しかしふと彼女はなにかを思い出したかのように初めから読み漁っていた。丁度先日来店した客の言葉も彼女に引っ掛かるものがあったからかもしれない。

「―――誰だって新しいものを欲しがるものさ。流行りにしても何にしても。流れに取り残されたものは忘れ去られるだけなんだよ」

この言葉は彼女にはある意味衝撃的だった。彼女にとっては本はその存在自体が魅力的なものであり、価値のあるものと思い込んでいたからである。それは彼女の育ってきた環境にもよるのかもしれない。彼女の小さい頃から古い本が身近にあった。埃を被ったような古ぼけた書物、かび臭さすら感じるような巻物に描かれた軍記。例え古くても本は彼女に色んな世界を教え、色んな物語を繰り広げてくれた。彼女にとっては本は当たり前のように存在するものだった。そんな環境で育ったからこそ彼女は本を単に新しい古いで判断することはなかったのだ。

「こんなに素敵な本なのに忘れ去られるわけにはいかないわ……」

彼女は本を愛しそうに抱えると、能力で本の世界を紡ぎだす。目の前に次々と本の中の物語が浮かび上がっていく。ある物語は笑いを求めたコメディ、またある物語は種族の違いを乗り越えた恋愛もの。そしてあるものは世界の終わりを追求したカタストロフ。中には妖怪の残酷さをまざまざと見せつけるような物語もあった。どの物語も彼女は大好きだった。また新たな幻想郷の世界に自分を誘ってくれるからだ。本来ならそんな行動しないような妖怪たちの姿もまた創作だから許されるし、魅力的なのである。

ある時、彼女はこの本にあるものを見いだす。それはこの数々の物語を描いた作者たちの中にあるものを読み取るということであった。創作には作者の心が写し出されているとは作品の批評に使われる常套句だが、実際そうなのか。その作者の内面を見い出そうとしたのだ。彼女の能力を使えばそれも不可能ではなかった。しかしその作品の数々から浮かび上がったものは決して前向きなものだけではなかった。ある作品は深い悲しみが浮かび上がり、またある作品からは作者の嫉妬。攻撃的な心、中には殺意に似たものすらあった。しかもそれらの内面は底抜けのようなギャグ作品から感じ取った時もある。

自分の行動は不毛かもしれない。そう思ったときは何度かある。しかしそれもまた本を読みとく楽しみになっているのは事実なのだ。

「小鈴」

不意に呼ぶ声が聞こえ彼女は、はっとして顔をあげる。そこには眼鏡をした女性がにこりと笑みながら立っていた。

「あ、こんにちは!」

彼女は慌てて本を閉じると挨拶を交わす。

「どうしたんじゃ。いくら呼んでも返事をしない。深刻な顔してページを捲り続けて」
「え?あ…その、いつからそこに?」
「ずっとじゃよ。さっきからずっと呼んでたんだがのう」

本を読みふけっている姿をずっと見られていたのかと思わず小鈴は赤面する。彼女はこの女性とは面識がある。面識があるどころか憧れすら感じていた。この女性は外の世界からやって来たという佐渡の二ツ岩の大妖怪、二ツ岩マミゾウである。彼女は小鈴の持っている妖怪のイメージにとても近い存在だった。飄々としていながら常に含みを持たせる物言いと振る舞い。そしていざというときは大妖怪の名にふさわしい威厳を発揮する。

「今日は店休日ですよ?」
「ああ、知っとる。暇だから顔出しに来たんじゃ」
「と言われましても……生憎今は話題が…」
「お主が読んでいた本でいいよ」

小鈴は、はっとして本に視線を戻す。

「この本ですか?」
「うむ、見たところ物語のようじゃのう? 儂にも見せてくれぬかな?」

彼女はこの本に興味を持っているようだ。無理もない、あれだけ物憂げな表情で読み漁っていたら否応にでも興味を持たれるだろう。あの先日の客の言葉もあって彼女はとても複雑な思いになる。幸いなのは興味を持ってきたのがこの人だったことだ。例えこの人になら否定されても納得いく。小鈴は意を決して本をマミゾウに差し出した。

「ふむふむ…どれどれ……」

マミゾウは眼鏡の位置を指で直すと本に目を通す。暫しの沈黙が辺りを包み込む。彼女はいつになく真剣な表情で本を読んでいる。すると

「ほほぅ! これは面白いのう! 儂らの世界の二次創作というものか」
「その通りです! 流石ですね! あなたならわかってもらえると思いました!」

小鈴は笑顔を弾けさせて答えた。

「おやおや、どうしたんだい? そんなに安堵したような笑顔を見せて」

小鈴が理由を彼女に話すと「ほほう……」といつもの訳知り顔を見せて彼女に告げた。

「確かにその客の言うことも事実じゃな。……だがな小鈴。そもそも本の楽しみ方なんぞいくらでもあるんじゃよ。それこそある者はその本を持っているだけで満足するものもいるし、ある者は本を単に重石が代わりに使うものもおる。お主が知っての通り本は読むものじゃ。だがその本の価値観は人によって違うんじゃよ。重石がわりに使うものは本をその程度のものとしか思っておらんのじゃろう。お主からすれば考えも及ばぬ愚行であると怒り出すことじゃろうな。だが考えてみるとだな。世の中はそんなものばかりじゃろう。本来の使い方ではない使い方などいくらでも溢れておる」

ぽかんとした様子で小鈴は聞いている。その様子を見てマミゾウは思わず苦笑する。そしてコホンと咳払いをして話を続けた。

「…と、少々話がずれてしまったのぅ。儂が言いたいのはつまりじゃ。本に常に新しさを求め続けるのも、お主のように本に愛着をもって読み砕くのもどっちも正解なんじゃよ。どちらも本を楽しんでいることにはかわりあるまい。そうだな例をあげてみるか」

マミゾウは手に持っている「東方創想話」をはらりと開く。

「この本は幻想郷に纏わる創作の集合物……所謂おむにばすというもの。ここに記された作品は現実にはありそうもない事が多く書かれておる。しかし、ありそうもないだけであって、あり得ないのではないのじゃよ。この物語のような事が起きる可能性もあるのじゃ。麓の巫女が外から来た男と恋に落ちる。森の魔法使いさんが幻想郷壊す魔法を完成させてしまうなどな。それと同じよ。本の楽しみ方も人の数だけあるということじゃ。儂やお主がありえんと思うような楽しみ方や価値観もある。だが、それでいいんじゃよ。それは何者にも縛られない個人の価値観であ。楽しみ方なのじゃ」

そこまで言ってマミゾウがフフ…と笑みを浮かべて小鈴を見遣ると、彼女は今一腑に落ちてない表情でなにかをぶつぶつと言っている。その様子を見たマミゾウはふっと彼女の頬を撫でる。不意に頬を撫でられ彼女は思わず全身をビクッとさせて目を見開いた。

「フフフ…そんなに気にすることあるまい。あの客の言ったことが全てではない。ましてや、お主の人格を否定したわけでもない。そう言うことを言う客もいるのだ程度に留めておけ」
「そ、そうですよね……はい。わかりました。ありがとうございます」

小鈴はマミゾウに礼をする。まだ心のもやもやは完全には晴れていないが、幾分表情に余裕が出てきたような気がする。ふと彼女は思い出してマミゾウに質問した。

「そういえば、外の世界から来たんでしたよね? あの、良かったら外の世界でのこの本の評判教えていただけませ……」

彼女が顔を上げるとマミゾウはいつの間にか姿を消していた。どこからともかく現れてはいつの間にか去っていくまさに神出鬼没の大妖怪である。



小鈴は呆気に取られていたが、ふと気がつくと、愛しそうにその黒い本を抱き締めていた。
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コメント



0.100簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
憂う会の人
3.90名前が無い程度の能力削除
続けるなら応援します
4.100名前が無い程度の能力削除
メタ作品の受けはよくわかんないけど書こうと思えば書けるっぽいようなので、次は創想話絡ませないで書いてみては。
ただ、これらを嫌う人(おもに自作を読んでもらいたい書き手など)は連投による速い流れの作品集に時間をかけた中編長編は投げないかも
面白いの早くー、って感じで執筆するくらいならば(まあこれは私の勝手な解釈ですが)、やはり自給自足しかないかと
創作の輪の中に混ざりたいって気持ちで自分も書き手になった口なので、万代さんも気合い入れた物をこの際だから書いちゃいましょうよ、割と本気で。筆早そうですし
勝手な予測で書き手じゃないと決めつけて進めますが(違ったらごめんなさい)、最初は20kb前後の短編がおすすめですよ。慣れてきたら60前後まで足を延ばして、それからテーマ練るのがベターです(多分)
初心者がいきなり長編やると意気込んでもおそらく転ける(書き上げられない)と思うので、連載なども言わずもがなです
書ききれるなら寧ろどんとこいですけどね
さて長くなりましたが、愉快犯的なことを楽しんでるわけでないならおいでよ創作の沼ってわけです
次は憂いっぽくない(まあこれはこれで面白いのかもしれないけどw)作品で会えることを期待してますね(←結構マジですよー)
5.10名前が無い程度の能力削除
今度はいきなり媚を売り始めた。
なにコレ気持ち悪い。
6.無評価名前が無い程度の能力削除
お前みたいなやつが創想話をダメにしてくんだよ!
二度と来るな!
9.40名前が無い程度の能力削除
コメントに対するコメントは禁止だって注意事項を守れない人が何を言っても説得力が無い

それはそうと小鈴はマミゾウの正体を知らないって前提が崩れているのが気になってしまう