Coolier - 新生・東方創想話

MonkeyMagic

2016/12/31 00:24:43
最終更新
サイズ
18.83KB
ページ数
1
閲覧数
1697
評価数
9/19
POINT
1360
Rate
13.85

分類タグ

 玄奘三蔵が4つの僕を従えて、経典求めて天竺へ、それは皆さま知りたる西遊記。
 それが語るとこによれば、世界には四つの大陸が存在しているという。
 即ち、東勝神州・西牛賀州・南贍部州・北具盧州の4つ。
 その内、東勝神州の傲来国という国に花果山という山があり、さらにその頂上に巨岩があった。
 天地開闢以来、天地の気を浴び続けた巨岩が二つに割れる。
 中に在ったのは、岩でできた奇妙奇怪な卵が一つ。
 卵が雨風によって削られ、猿の形となるとなんと金眼を持つ活きた猿へと変じてしまった。

 猿は天を見上げて光を放つ。
 地より天へ放たれて、天を騒がせる金光。

 俗世にあるなら金光いずれ消え失せると、高をくくった天の過ち。
 後に天地冥の三界を大いに揺るがす斉天大聖孫悟空ここに生まれる。





            *  *  *





 年の瀬を師走と呼んだ者は如何なるものか。
 いずれにしろ古人とはうまい事を考え、典雅で確信を突いた言葉を残すものだ。
 あるいは、確信を突いているからこそ残るのか。
 それとも、古人がその様に定めたからそうなるものなのか。
 真相は歴史の遥か彼方だが、一二月が非常に忙しいという現在は変わらない。
 それは、魔法の森で独り暮らしをする霧雨魔理沙も同じことだ。
 己を縛る縁を断ち切って、己に都合のいい縁だけを残すお気楽我儘娘。
 されど、生きているからには動く必要があり、己の趣向を満たすためにはそれなりに働く必要もある。
 特に、収集癖のある魔理沙にとって、集めた品物の管理はとても大事なのだ。
 なので大掃除のついでに、本の虫干しにも精を出す。
 様々な手段で集めた本の数は、パチュリーの図書館にはるか遠く及ばないがそれなりの数があり、なかなかに重労働だ。

「だから邪魔して欲しくなんだぜ」

 魔理沙が胡乱な目を来客に向ける。
 瘴気漂う魔法の森に、青天のごとき蒼い髪をたなびかせ、作法だけはお上品なお嬢様が、そんな魔理沙の目にむっと頬を膨らませた。

「なによ、ちょっとアンタの魔法薬を分けてほしいって言っただけじゃない」

 比那名居天子の膨れっ面に、魔理沙は少しばかり困った顔をする。
 幻想郷に訪問先の事情を気にする者など左程にはおらず、魔理沙自身もおかまない無しに乗り込むのが常だが、しかしてこうして仕事をしているときにやってこられてはいささか鬱陶しい。
 霊夢辺りならば茶の一つかもしれないが、天子ではお茶漬けを出したい気分だ。

「大体、なんで魔法薬なんか欲しいんだ?」
「決まってるじゃない、爆発させるのよ。アンタの魔法薬、それしか使えないじゃない」
「そりゃまぁ、そうだけどさ」

 実際には光とか爆発だけではない研究だってそこそこはやるのだ。
 しかして、天子の言う通り光の魔法こそ自分の本分ではあるので否定はしない。
 それに、自分の研究を馬鹿正直に公開するほどに魔理沙も能天気では無いし、天子にその話をしても大して盛り上がりもしまい。
 これがアリスかパチュリーなら、そこそこに役立つ話を聞けたり、論争になったりもするのだが。

「なぁ、見て解るだろ? 私は今忙しいんだ」
「解るわよ、大掃除ごくろうさま」
「そうだろうそうだろう、だから帰ってくれよ」
「帰る前に魔法薬頂戴よ」

 いい加減にしろ、と言いたい。

「お前の家は大掃除とかしないのか? デカいんだろう? 人手がいるんじゃないのか?」
「使用人達がやるから問題ないわ」
「自分の部屋は」
「使用人がやるもの」
「……見られたら嫌なものとか」
「無いわよそんなの、天界のつまらなさを知らないわね。見られたら嫌なものですら手に入らないんだから」
「そいつはご愁傷さま」

 羨ましいやら妬ましいやら、少しばかり可哀想やら。
 だが、魔理沙には関係ない。日の時間が短い間に、本を干し終えなければ。

「そんなに欲しいなら、ちょっとは手伝ってくれよ」
「はぁ? 虫干しを?」
「ああ」

 この手の手合いは労働を嫌がる。
 なまじ上に立つものだから、人を使う術はある程度知っていても自分で動くという発想が無い。
 尤も、天子は人を使う術もしらないのだが。そんなことはどうでもいい、これで嫌がって帰るだろうと、魔理沙は高を括るのだが……

「しょうがないわね」
「え?」
「どこから手をつけるの?」
「おい、まさかやる気なのか?」
「はぁ? 言い出したのアンタじゃない」
「いや、そうなんだけど……じゃあ、そこに積んである本から」
「はいはい、それじゃ、始めるとしますか」

 仕方ないと言わんばかりだが、本を手に取り、頁を開いて並べてゆく。
 意外と手際のよい、そしてあまりにも意外過ぎる展開に目を見開く魔理沙であるが、なんの理由があるにしろこれを利用しない手は無い。
 呆気に取られていたのもほんのわずか、このかまって困ったちゃん天人の気が変わらぬ内に、と魔理沙も作業にいそしむのであった。





               *  *  *




「……まさか虫干しだけじゃなくて訳の分からない魔道具の整理まで手伝わされるなんて思わなかったわ」

 見事に片付いた霧雨魔法店の、小洒落たテーブルで安い茶を啜りながら天子は嘆息する。

「お陰で助かったんだぜ」

 対する魔理沙は悪びれもせずににかっと笑う。
 立ってるものは親でも使え、という古人の言葉に従い、縁を切った親の代わりに不良天人を思う存分に活用した。
 おかげで、予定よりも大幅に早く大掃除が終わって魔理沙としては大満足である。
 そうともなれば、天子に対して茶漬けではなく茶を出すことぐらいは吝かではない。

「んで、これでいいんだろ?」

 無論、対価を忘れるような真似はしない。
 テーブルの上に置かれたのは液状から粉末から固形の、さまざまな魔法薬だ。
 どれも光を放つ力をもった、魔理沙の自信作である。
 ……そういう触れ込みで、実際の処は実験と研究の末にどうにも使い出が無くなった代物の処分ができると内心はほくそ笑んでいるのだが。

「これで良いって、どういう代物か見てないんだけど」
「それもそうか、ちょっと待てよ」

 魔理沙は、固形の魔法薬の一部をナイフで少し切り取り、魔力を少し通して宙に放り投げる。
 すると、魔法薬はぱっと鮮やかな紅い光を放ち、光に燃え尽きて消えてしまった。

「へぇ」
「気に入ったか?」
「勿論」
「それじゃ、占めて5円になるんだぜ」
「はぁ? 労働させた上にお金も取ろうっていうの?」
「冗談に決まってるじゃないか」
「あんたの冗談は冗談に聞こえないわよ」

 天子は先ほどよりも不機嫌そうに、残った茶を煽る。
 にやにやと揶揄えてご満悦な魔理沙だが、すこしばかりこの天人を見直した。
 まさかまさかと、本当に手伝って貰えるとは思っていなかったのだ。
 だからこそ、茶漬けではなく茶を出して労をねぎらってもいる。

「それにしても、どういう風の吹き回しなんだ?」
「だから、あんたの魔法薬が欲しかったって言ってるじゃない」
「そうじゃなくてさ、なんで私の魔法薬なんだ? パチュリーやアリス辺りならもっと良い薬持ってると思うんだが」

 悔しいが、魔理沙の魔法使いとしての技量はパチュリーとアリスには及ばない。
 何せ基礎も違うし年月も違う。
 豊富な知識と明確なテーマ性をもったあの魔法使い達の研究速度は魔理沙よりも更に早い。
 他者の模倣と、解明から始めている魔理沙とはやはりレベルが違う。
 まぁ、弾幕ごっこならば負けはしないという自負があるし、そちらから迫るつもりだ。
 アリスに本気を出させてしかめっ面を拝んでやるのが当面の目標である。

「あの二人じゃダメよ。人形とただの魔法じゃない」
「私のだって、光るだけだぜ」
「だからよ」

 天子は、魔理沙に大して笑みを向ける。
 天人らしい、傲然さと悠然さ。
 幻想郷では腐るほどにいる、自称超越者の皆様方の顔だ。
 魔理沙も見慣れたもので、さて、どんな戯言をのたまってくれるのかと期待する。

「アンタの弾幕がとっても綺麗だったから」

 ……出た言葉は、期待していたどれとも違っていた。
 あんまりな出来事に、先と同じく魔理沙はぽかんと口を開け、間抜けな言葉が口から漏れるのに数秒を要してしまう。

「……え?」
「なによ、聞こえなかったの?」
「いや、聞こえた。うん、すごく良く聞こえた」

 幻想郷で、相手を讃えるなんぞまずしない。
 弾幕ごっこは美しさ典雅さを競う決闘なれば、勝てば相手をおちょくり、負ければ相手を小馬鹿にする。
 いずれにしろ、本気の勝負なんぞとは遥か無縁で、そうすれば相手に対する敬意なぞ生まれるはずもない。
 いや、ここ最近はかなり本気にならないとどうにもならない事がやたらと多かったが、兎に角、幻想郷の流儀とはそういうものだ。
 ましてや、誰よりもお高く留まった不良天人からのお褒めの言葉なんぞ、だれが予測し得たであろうが。

「魔理沙は、花火って観たことある?」
「いや、ない」

 花火。
 聞いたことと読んだ事はある。
 なんでも、火薬を詰めた球を空高くに打ち上げて破裂させ、その様を愉しむのだとか。
 早苗や董子はとても綺麗だ、と言ってはいてたが、魔理沙としては火薬が弾ける事の何が美しいかさっぱりわからない。

「お前は花火を見たことあるのか?」
「あれは……凄いわよ、夜の中に極彩色の華が咲くの」
「火薬で?」
「アンタも魔法使いでしょ、鉱石をつかった調合とかしないの?」
「あいにく専門外だし、そのたぐいは高価すぎて手が出せないんだぜ」

 狭い世界で、鉱石は貴重品だ。
 掌に乗る程度の量でも、二週間分の生活費に匹敵して、とてもではないが研究には使えない。
 やるとしたら、飲み食いの必要がなくなる「種族としての魔法使い」に至ってからだろう。
 ……それでも研究費が賄えるかどうかわからないが。

「まぁ、私の場合、天界から見下ろすだけなんだけどね」
「外を、か?」
「そうよ」
「また物好きな」
「幻想郷だけ見てても飽きるんだもの」
「花火見物は楽しいのか?」
「勿論! 本当に綺麗なのよ。こう、花火が絶え間なくババババッと打ち上げられたり、花火で壁を作ったり、珍しい事じゃ花火で物語を吟じたり」
「……へぇ」

 天子の熱のこもった語りに、魔理沙は少しばかり興味を持つ。
 外の世界は、つまらない世界だと聞いている。
 珍しいものが流れ着くから、時折興味は沸くが、やはり幻想郷の方が素晴らしいと。
 ある種、幻想郷の住民の一般的な認識である。
 しかし、この天人はいささか違うものを見つけたようだ。

「んで、お前もやりたくなったと」
「そうよ、幻想郷に本格的な花火をみせてやりたくなったの」
「地震を起こされるよりはマシかもな」
「そうでしょう」

 過去の悪行を蒸し返しても、平然と胸を張るそれは度胸と言うのか鈍感と言うのか。
 だがまぁ、本当に地震で神社を倒壊させられるよりはよほどにマシだろう。
 花火か何か知らないが、そっちで勝手にやってくれ。
 私は年の瀬で忙しい。
 感謝はすれど縁もそこまで、と。

「あ、そうだ、あんたも手伝いなさいよ」

 そういう理屈が通じないのが、この不良天人であった。

「嫌だ」
「なんでよ」

 断るのを想定していない返答に、魔理沙は頭を悩ませる。

「なんで、って。逆になんで私が協力するんだ?」
「面白そうじゃない?」
「全然」
「面白いのよ」
「断言するなよ」
「天界の植物とか、鉱石とか提供するわよ?」

 そう来たか。
 地上で手に入らぬ天界の品物。
 確かに魔法使いである魔理沙にとっては魅力的であろう。
 魅力的ではあるが、はて、やらねばならぬ事と天秤にかけてどうかとなれば……

「乗ったんだぜ」

 即答である。
 魔理沙自身が自覚するのもなんだが。
 じつにちょろかった。




            *  *  *




 さて、不良天人と普通の魔法使い。
 棚ぼたで天人になった比那名居天子と、自力で魔法使いをやっている霧雨魔理沙。
 考えればそりが合うはずもない。

 と、思うのがまぁ並であろう。

 そうとも行かぬのが、人間の面白い処。
 処は変わり天界の一角、年の瀬もすぐそこと言うこの時に、どぉんと腹に響く重い音を立てて空に見事な華が咲く。
 天の大地と、天の天に影が一つづつ。
 言うまでもなく、霧雨魔理沙と比那名居天子である。

「どう! いい感じー?」
「まだちょい大きさが足りないなー」

 年の瀬で忙しい。
 それは全くの事実であるが、もとより霧雨魔理沙とは欲の深い悪戯好きの我儘娘。
 めったに手に入らぬ天界の資材を餌に飛びついて、さらに結果が面白いとなれば、面倒な仕事よりもそちらに飛びつくのは自明の理。
 比那名居天子が試しにと放った花火は、本人からしてみれば拙い猿真似と評したが、その彩は間違いなく魔理沙の興味を引いた。
 なのでこうして、何もかも放り出して花火の改良と実験に勤しむ始末である。

「色は十分なんだけど、音と大きさがいかんともしがたいわね」
「音って、そんなに重要なのか?」
「勿論よ、あのどぉーーんっていうお腹に響く音がたまらないんだから」

 本物の火薬の類なら、その問題は簡単にクリアできるのだろうが、魔法薬ではやはり限界がある。
 調合のやり方次第ではどうにかなるかもしれないが、期日が迫ってる。

「ほら、あと10は試験するのが残ってるんだから、早くしないと今日中に終わらないわよ」
「なんでまた大晦日に花火なんて……」

 そう、この天人、よりにもよって大晦日の夜に花火を上げようと言うのだ。
 なぜもっと早くに話を持ってこなかったのだろうか。
 せめて、一カ月あれば十分な準備ができたであろうに。

「この間思いついたからよ。思いついたというか、やりたくて堪らなくなったというか」
「そんな事だろうとおもったんだぜ」

 散々に言うが、やはり比那名居天子は不良天人だ。
 まともな天人ならば地上人を天界に手引きするような真似はしない。
 尤も、こうも広さが有り余っている天界に正式な手順での昇天を拒む時点で、天人は多かれ少なかれ碌でもないのだろうが。
 それを考えると、天子はまだ付き合いやすい部類なのだろう。

「なぁ」
「なによ」
「なんで私を巻き込んだんだ」
「今更それを聞くの?」

 小馬鹿にしたような眼差しを向けられるが、魔理沙はそれで引き下がらない。
 天界の資材を餌に、面白そうだからと釣られてみて、実際に面白かった。
 今までにない色を出せたし、それが幻想郷でもそうはない弾幕ごっこ以外で空を飾るとなればなかなかに心躍る。
 だからこそ、余計に不思議に思う。
 何故自分なのかと。
 地上には自分よりもすぐれた術者など他にもいる。
 悔しくもあるが事実であり、光の術は決して魔理沙が唯一無二ではない。

「まぁ、確かに、花火を作るのならアンタ以外の術者でも良いと言えば良いんだけど」
「そうだろう?」
「でも、ダメよ」
「なんで」
「アンタが、私に無いものをもってるから」

 はて、天子に無くて魔理沙にあるものとは何であろうか。
 魔理沙が首を傾げるよりも先に、天子はその答えを口にする。

「魔理沙だったら、こういう試行錯誤を愉しめるっておもって」

 試行錯誤を愉しむ、とはどういう事か。
 天子だって、愉しんでいるように見える。

「私はねーこういうのダメなのよ、堪え性が無いから。たぶん、薬を貰っても飽きちゃうか、半端なので由にしちゃう」
「そうでもないだろ」
「割とそうよ、あの時の異変だって、黒幕気取るなら緋想の剣じゃなくて、自分の力で起こすべきだったのに、我慢できずに剣の力で異変を起こした。それが私よ」
「それがどう話に繋がるのかよくわからないんだぜ」
「だーかーら、アンタみたいな、物事に一所懸命に頑張れる奴がいると私の矜持がバリバリに刺激されるの。地上人風情が気張ってるのに、私が負けてたまるかってね」

 なんだ、それは。
 ほめているのか、それとも見下しているのか。

「折角思いついたのだもの、最初から最後まで隅の隅まで自分が愉しくなくちゃ意味がないじゃない。どんなに美しくても、他人が造ったものじゃ感動も半減よ」
「他の魔法使いじゃ、そいつらで勝手に作っちゃうか」
「そうよ、パチュリーやアリスだと、もっと簡単に作っちゃうでしょうね。私が手を出してわくわくする暇なんてないじゃない」

 天子は笑う。
 比那名居天子に最も似合う、青天のような笑顔が咲く。

「アンタならそうじゃない、猿真似ばっかのアンタだけど、好いと思ったものを即座に自分のモノにしちゃうアンタなら妥協はしないしきっと出来上がるまでに沢山沢山頑張れる。それを見てきっと私も頑張れる」
「……自分の気性を、他人の気性で補うなんて、とんでもない考えなんだぜ」
「自分を知ってるって言いなさいよ。私は自分でできる事出来ない事をは理解してるの」
「でも、抑えは効かないって? やれやれ、とんでもなく面倒な奴なんだぜ」

 湧き上がる羨望と、膨れ上がる共感を皮肉の幕で覆い、魔理沙は苦笑して見せる。
 流石は自分から好きで天辺から地に飛び出してきたイカレた天人・比那名居天子。
 天下の事ならどうにでもなると、あの手この手で掻き回し
 人も妖も神も、あらゆるものを揶揄って
 小癪な娘と怒りをかって、それでもいつかと同じように誇らしげに傲然に、比那名居天子は言い放って見せる。

「そうよ、私がその気になったら、なんだって思いのままなんだから」

 まるで己を天に斉しいと言わんばかりの傍若無人。
 なれば地にある平民代表として、負けてられぬのが霧雨魔理沙だ。

「んじゃ、ちゃっちゃと片づけるんだぜ」
「勿論、時間もないんだからね」

 天の地にて小娘二人。
 お互いに気がついていただろうか。
 いや、気がつかぬはずもない。
 悪戯好きな笑顔が二つ。
 まるで鏡写しの様に、そこにはあったのだから。




                    *  *  *



 幻想郷における大晦日の過ごし方はそれぞれである。
 いつもは事あるごとに酒を喰らって騒ぐ者どもも、やはりこの時は特別なのか、各々の場所で静かに過ごす。
 時に一か所に集まってのどんちゃん騒ぎが起きる事もあるが、まぁ、それはそれはそれ。
 蕎麦手繰って酒を喰らい、新しい年に思いを巡らせる。
 尤も、勤めがあるので下手に酒など入れられぬ者もいる。

 博麗霊夢もその類だ。
 幻想郷の調和を護る者として、金星の調伏を行わなくてはならない。
 うっかり酒などを入れてしくじれば一年を火消に駆けずり回らなくなるのは霊夢本人なのだから気合もはいる。

 しかしはてと、霊夢は首を傾げる。
 今年は魔理沙の姿が見えないのはどういう事だろうか。
 儀式の失敗を見物したいと公言してはばからないあの魔法使いがこの時間になっても顔を出さないとは珍しい。

「まぁ、邪魔がはいらなくていいか」

 今年は妖怪や妖精共もよってはこない。
 人間の参拝客の邪魔になると、入念に蹴散らしておいた甲斐があるというもの。
 肝心かなめの参拝客がこないのが不思議ではあるが、それはそれ。
 先に言う通り、邪魔が入らないと思えば良いのだ。
 そう思う事にしよう。
 別に今頃屋台が多く立って賑やかであろう寺の事など羨ましくはない。
 山の神社など、天狗や河童ばかりではないか、全くの論外だ。
 大晦日に一人きりの神社と言うのも良いではないか、別段、魔理沙がいなくとも儀式は完遂できる。
 だからなにか物足りなんて事は無い。

 そう、自分に言い聞かせて、神社の外に出た時である。

 どぉん、と聞きなれぬ音が響いた。
 音の元を探し、自然と首は空を向く。
 すると、なんという事だろう。
 大気を震わすその根元に、大輪の華が咲く。
 呆気にとられ、霊夢は空を見つめる。

 霊夢だけではない、里の人間も、湖の吸血鬼も、竹林の宇宙人も、冥界の幽霊も
 その時、幻想郷と幻想郷に繋がるすべての者が空を見上げていた。



 天に斯様な華とは何者か。
 恐らくこの時、知るものは誰もいない。
 だが二人は、構わず放つ。
 二人で作り上げた花火の偽物。
 所詮は猿真似、外の華には叶わぬ。
 重ねた年月、積んだ研鑽遠く及ばずとも、何を恥じることがあるだろう。

 霧雨魔理沙は花火の素を手にして、軽やかに一歩を踏み出す。
 比那名居天子も花火の素を空高くに打ち出して、悠然と一歩を踏み出す。
 天を彩るこの祭典。
 誰もが天を観て地を観るなどしないだろう。
 だが二人の足にも手にも力が漲り熱が入る。
 東から西へ、西から東へ。
 華を重ねて散らばらせ、体を優雅に入れ替えて。
 これが舞台ならば拍手喝采であっただろうが、ここは冬の夜空の下、見物人はだれもいない。
 しかして構うものかと、呼吸を合わせ描き出したる豪華絢爛、一夜限りの特別な大晦日。
 嗚呼、なんと愉しい面白い。
 用意した花火の数は無限ではない。
 せいぜいが81発と言った処。
 最後の一つを二人で手に取って、名残惜しい事この上ないが、それでも躊躇わずに魔法をかける。

 誰でも使える、猿のような魔法だ。

 それでも、その魔法はひときわ大きな金色にて天を飾った。


 花火は一瞬。
 轟音も散って往く光の残滓も、か細く消えてゆく。
 その間が良い。
 美しいものを観た、その余韻を深く深く心に残す。
 魔理沙は、胸いっぱいに空気を吸う。
 凍てつく様なその気が、体の中に入った途端に、熱くなるのを感じる。
 冷たい感覚と、熱い体の差異が堪らなく心地いい。

 おもわず魔理沙は笑った。
 いつの間にか、天子も笑っていた。
 
 二つの笑い声が、天にも地にも満ち満ちて。
 それが、ふたりの余韻である。
 熱も笑顔も、このまま消してしまうのは惜しい。
 だから魔理沙が口を開く。

「よぉーし、このまま神社いこう、神社! 霊夢の驚く顔を見てみたいんだぜ」
「お、いいわね。やっぱあいつの反応が一番面白いわよね」
「そうそう、どうせ参拝客もいない寂しい大晦日なんだろうかさ」

 再び笑い声が起きて、魔理沙は意気揚々と神社を目指す。
 天子もそれに続こうとした時、背後でなにか小さな音がしたのを聞いた。
 何事か、と思って振り返れば、そこには酒瓶が一つ。
 手にしてみれば、中身が入っている。
 いつの間にか、酒瓶が現れる。
 このような事をする者に、天子は心当たりがあった。

「ふぅん……珍しいじゃない、アンタが私に酒を差し入れるなんて」

 いまの時分は眠たいでしょうに、とあの自称賢者を笑ってやる。
 しかし、悪い感情では無い。

「アンタも堪能してもらったかしら。ならやった甲斐があるってものね」

 良い手土産ができたと、素直に喜び、天子は魔理沙の後を追う。
 面白い友・共も出来た、きっと探せばもっといるだろう。
 それを思うと心が躍る。

 さぁて来年はどうしようかと
 天子は思案しほくそ笑む。
 あとわずかで年が明ける、だから、天子はそれを目指して歩くのであった。 
今年は申年である、という事なので、やはり天子の話を書かなければダメだろうと思い、最後に書かせていただきました。
拙い作品ばかりですが、来年もまた東方の短編を書き続けたいと思います。

それでは、良いお年を。
四聖堂
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.480簡易評価
1.100Qneng削除
100点では物足りないくらいに綺麗な御話しで、読むことができて良かったです。
魔理沙や天子の性格が際立っていた部分も凄く好みで、文面も読みやすかったです。
2.90名前が無い程度の能力削除
キャラクターがよかったです。
3.100南条削除
面白かったです
思いの外素直な天子がそれでもやっぱりわがままで良かったです
5.100奇声を発する程度の能力削除
キャラも良く面白かったです
6.100名前が無い程度の能力削除
 楽しませて頂きました。
10.100名前が無い程度の能力削除
話もすっきりとして読みやすくく二人のキャラも悪ガキな感じがでて面白かったです。
13.100名前が無い程度の能力削除
花火のようにとても綺麗なお話、堪能させていただきました
また、読んでいて気持ちの良い魔理沙と天子でした
16.90名前が無い程度の能力削除
あまりみない取り合わせでしたがとてもしっくりきました。良かったです
18.100名前が無い程度の能力削除
生き生きとした二人がすばらしい