Coolier - 新生・東方創想話

上海とワークポイント

2016/11/26 20:03:35
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幻想郷の山中、背の高い木々が並ぶ平坦な場所に、1台のキャンピングカーが停まっている。時折近くを横切る動物たちが警戒していない様子をみると、少なくとも数日間は同じ場所に停まっているのかもしれない。外からは運転席を見ることができるものの、運転席に人の姿はない。しかしながら車体部、キャビンには人のいる気配があり、キャビンの側面に取り付けられた窓からは、キャビン内部からの明かりが漏れている。
キャビン後部には中に入るための扉が取り付けられていた。扉からキャビンの中に入ると、左手側には壁に沿うように棚が設置されていて、棚にはケーブルや電子機器、工具などが詰め込まれている。右手側にはとくに目立ったものはない。そして、キャビンの奥には幅の広い作業台が置かれており、そこには一匹の妖怪の姿があった。
作業台にいたのは河童の妖怪ニトリであった。ゴーグルを掛けて何かの機械を手に取り、その機械の設計図らしき紙と機械とを交互に見比べている。このキャンピングカーはにとりの移動研究所だったのである。
名前は「ニトリ号」。
幻想郷に流れ着いた故障車をニトリが改造して作ったものである。ニトリ号の製作に費やした期間は1年。完成したのはついひと月前のことだ。最初は暇つぶしに故障している部分を直した車であったところ、研究をしていると場所を移して研究をしたいときもあるし、材料を持ち帰るよりも材料のある場所まで移動したほうが研究をしやすいときもある。そんなときに機材ごと移動することができると便利であったため、車を改造して研究所にしたのである。ちなみに、ニトリは運転免許を持っていないが、自身の運転技術はなかなかのものだと考えている。
屋根にはソーラーパネルも設置してあり、1時間も発電すればガソリンを使用することなく100㎞以上車を運転することが可能である。もちろん電子機器を動かすことにも利用できる。将来にはさらなる設備の改良を目指しつつ、ニトリは車を用いた新しい研究生活を満喫していたのであった。
コンコン
キャビン後部にある扉が叩かれた。誰かが来たらしい。
「どうぞー。」
ニトリが扉を振り返って応えると、扉を開けて女性の妖怪が車内に入ってきた。
「おじゃましまーす。」
入ってきたのは魔女で人形遣いの妖怪アリスだった。人形遣いであることを表すかのように、彼女の肩のあたりには2体の人形がふよふよと浮かんでいる。人形はそれぞれ焼き菓子の入ったバスケットと紅茶の入った水筒を両手で抱えるようにして持っていた。アリスはニトリ号へ遊びに来たようだ。ニトリとアリスは毎日会うということはないものの、お互いの研究について話しをすることや、二人で共同して機械や料理を作ったりして遊ぶことがあったため、連絡を取り合って時折会っていたのだ。
そして今回、ニトリ号にアリスを招待したのはニトリ自身である。ニトリ号の扱いに慣れてきたので誰かにニトリ号を見せたいという気持ちが出てきたのである。誰かに作ったものを見てほしい。そして褒め称えてほしい。これは研究者にとって避けることのできない感情であった。
「へぇ~。意外と広いのね。人が二人入っても余裕があるし、棚もあるし、よく作ったわね。」
「ふふーん。そうでしょう。」
車内を観察するアリスから素直な感想をもらい、ニトリは満足気だ。
「もうすぐ今やってる作業が終わるから、ちょっと待っててね。床下にも収納があって、その中に折り畳みのイスがしまってあるから、出して座っててもらえる?」
「そうしましょうか。」
アリスが床下収納の扉を開けて床下をのぞいているところを見て、ニトリは作業台に体を戻した。ニトリが作業を再開してから、ニトリの背後からは物を動かす音がしばらく聞こえていた。そして少しすると、「よいしょ。」という声とガタン、というひと際大きな物音が聞こえて、続けて金属が擦れる音と布が擦れる音がした。アリスがイスを置いて腰を掛けたのだろう。ニトリは後ろを見ることなく予想する。
「ふぅ、疲れた。ニトリ、イスを出したけれど、この車には残念ながらテーブルがないわね、テーブルも置きましょうよ。イスだけだとティーカップを置けないし、お菓子も置けないわ。外で食べるならあまり気にしないけど、せっかくイスがあるならやっぱりテーブルがあったほうがいいと思うのよ。そうするとやっぱりこの車にはテーブルが必要でしょう?あと、ベッドも置いたほうがいいわね。テントをつけたりハンモックを吊るしてもいいと思うけど、しばらく寝泊まりするならやっぱりベッドが一番よ。安定感が違うもの。」
アリスに言われてニトリは苦笑する。
「それはスペースが厳しいかなぁ。車体を今の2倍くらいにしないと間に合いそうにないよ。」
そもそも妖怪は寝る必要がないのでベッドなど必要ないと思うのだけれど、アリスが妖怪であるにもかかわらず毎日、睡眠をとっている妖怪だということは知っているので無粋なことは言わない。しかしながら、アリスが来たときのためにベッドを置くとすると、ベッドを2段式ベッドにするべきか、それともダブルベッドにするべきかが悩みどころだ。
「そういえば、床下を見てたら何か押しボタンの付いた箱があったんだけど。」
アリスが床に物を置く音がする。
「あぁ、それはきっとワープホール発生装置だね。」
ニトリは機械の設計図から目を離さずに答えた。
「へぇ、コードも何もつながってないし、その装置に付けるためのスイッチなんだ。」カチカチカチ
「いや、それ単体でワープホール発生装置だよ。試作機、というか失敗作なんだけどね。押したらその場にワープホールができちゃって、押した人が周囲の空間ごと宇宙のどこかに飛ばされちゃうんだ。それにボタンを押すごとに力が強くなってワープホールが大きくなるから、3回も押せば周囲20メートルくらいが消し飛んじゃうだろうね。」
「ふーん、ちなみに押したあとはキャンセルできたりしないの。」
「キャンセルボタンなんてつけてないしできないと思うなぁ。1秒以内に装置を壊せればワープホールができるのを止められるかもしれないね。」
「ふーん、そっかぁ。」
ジジジ
「あれ、車のバッテリーが切れたかな、照明が暗くなったぞ。」
ジジジジジ
出現したワープホールが二人を飲み込んでいく。
こうして、ニトリとアリスはニトリ号とともに幻想郷から姿を消したのであった。





どこかの平野にて、
「まったくもう。まったくもう。」
「ごめんねぇ。」
ニトリ号のそばで怒り声を上げているのはニトリである。平謝りしているのはアリスだ。アリスが起動した装置によって二人はワープホールに飲み込まれてしまった。しかしながら、幸いにも飛ばされた場所は宇宙空間ではなく、どこかの星の地面であった。酸素があり、まわりには草木も生えている。ひとまず安心できそうだ。そうして、逼迫した命の危険がないことに安心した二人であったが、安心するとニトリに怒りの感情が湧いてきた。そして勝手に機械に触ったアリスに「まったくもう。」と怒っていたわけである。
「ごめんねぇ。そんなに危険なものだとは思わなかったの。」
「だからってさぁ。押す前に一言くらい言ってくれてもよかったんじゃない。」
「ごめんねぇ。」
すでに似たようなやりとりが5回ほど行われている。アリスの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。その様子をみて、ニトリは怒りすぎてしまったと後悔する。何回も謝罪している人を執拗に責めるのは大人の妖怪がやるべきことではないはずだ。床下に不用心に危険な装置をしまっていたのは自分にも非があることだし、危険なら注意書をしておくこともできたはずだ。どこかに飛ばされたようだけれども、死んだわけでも危険な場所に飛ばされたわけでもない。妖怪の身なので飢え死ぬこともない。落ち着いて考えてみれば、別の世界から幻想郷へ来た妖怪もいるし、地獄なんていうところから幻想郷へ来ているような妖怪もいる。アリス自身も魔界から幻想郷に来た妖怪だったはずだ。ここがどこなのかはわからないけれど、幻想郷へ帰ることは不可能ではないはずだ。今、自分がやるべきことはアリスを責め続けることではなく、アリスと一緒に幻想郷に帰る手段を見つけることだろう。
「ごめんね。言い過ぎたよ。周りに危険はなさそうだし、少し落ち着こう。」
「うん。そうね。」
ニトリはアリスの手を引いてニトリ号のなかに入った。そして、まず紅茶でも飲んで落ち着こうということになり、二人は物を適当に積み上げて簡易なテーブルを作成してテーブルに着いた。そして、アリスの持ってきた紅茶とお菓子を食べて精神を落ち着ける。
それからしばらく二人で話し合いをしたのち、二人はまず、周囲の状況をより詳しく知るべきだと考えた。そして、二人はテーブルに二体の人形を用意した。
「上海、蓬莱。目を覚まして。」
アリスが二体の人形に向けて呼びかけると、ブーンという静かな起動音を鳴らして二体の人形が目を開いた。
「おはよう上海、蓬莱。」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
アリスの挨拶に手を挙げて人形が応える。二体の人形はアリスがニトリ号に来るときに連れていた人形である。それぞれ上海、蓬莱という名前が付けられている。
「上海、蓬莱、今からあなたたちに指令を出すわ。上海はニトリ号から降りて周囲の状況を調べてきてちょうだい。蓬莱、あなたには上海とのデータ通信とバックアップ係をお願いするわね。」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
二体が首を縦に振り承諾の意思表示をする。実はこの二体の人形はただの人形ではない。内部にはアリスとニトリが共同で作成した機械が内蔵されており、多種多様な事態に対応するための機能が備え付けられているのだ。その機能には人形が見ている映像をリアルタイムで通信する機能や、人形の位置情報を反映した自動マッピング機能などがある。それらの機能を用いることで周囲の調査を行うことができるはずなのだ。そして、アリスから指令を受けた上海と蓬莱はテーブルから地面へ降り立ち、行動を開始したのであった。



上海、ニトリ号にて
目の前には蓬莱がいる。話しかけてみようか。
「シャンハーイ(おはよう蓬莱)」
「ホラーイ(おはよう上海、データのバックアップをする?)」
どうしよう。まだデータのバックアップをするほどの行動をしていない、バックアップは不要だろう。蓬莱に向かって首を横に振る。
「シャンハーイ(今はいいや。)」
「ホラーイ(じゃあまたね。)」
蓬莱との会話を終了し、ニトリ号から降りる。
「そうだ、上海に教えておくべきことがあったわ。」
ニトリ号から降りたところで、ニトリ号の中にいるアリスから通信が入った。
「シャンハーイ」
「あなたの仕事は周囲の状況を調べることだけど、危険な動物に襲われることもあるかもしれないわ。そんなときには右手に内蔵されている上海バスターを使って自分の身を守るのよ。」
「シャンハーイ」
自分の右手には上海バスターなるものが装備されているらしい。ためしに地面と水平に右手を伸ばして意識を集中する。すると、どことなくエネルギーが右手に集まってきたような気がする。よし、上海バスター発射。
バシュン
こぶしほどの大きさのエネルギー弾が一発、まっすぐに発射されて30メートルほど飛んで消えた。弾の速さは人がボールを投げるよりは速くて、銃弾よりは遅いくらいだ。弓で矢を放つくらいの速さといったところだろうか。次に、地面に向けて上海バスターを発射する。
バシュン
上海バスターが地面にぶつかり土埃をあげた。棒やトンカチなどで叩きつけたくらいの威力がありそうだ。
「調子は上々ね。」
「シャンハーイ」
「通信はいつでもできるから、頑張ってきなさい。体の調子が悪くなったら修理をするから戻ってくるのよ。」
「シャンハーイ」
アリスとの通信を終了する。周りを観察してみると、ニトリ号の周囲には平地が広がっている。地面からは短い草がまばらに生えており、ところどころに背の高い木が密集して生えている場所が見える。空は明るい。探索に不便はなさそうだ。
トコトコとニトリ号の周りを円を描くように歩くと、ピピピという電子音が体内から聞こえてきた。地図データが作成されているのだろう。調子は順調だ。このまま円を描くように移動を続けて地図を広げていこう。
トコトコトコトコ
とくになにごともなく、しばらく歩いたところで脳内端末を確認する。地図のできた範囲はニトリ号から半径500メートルほどまで広がっていた。スムーズな仕事ぶりだ。
そして、歩いていて2つほど気になるものも見つかった。1つは、自分のいる地点からさらに何百メートルか先のほうに道のようなものが見えたことだ。道があるなら、道を辿ることでなにかが見つかるかもしれない。近くに行って確かめたいところだけれど、そうすると円を描くようにして地図を広げていた行動計画を崩すことになってしまう。悩みどころだ。
もう1つの気になるものは、今、目の前にいる一匹のウサギである。毛並みは白い。どこから歩いてきたのかはわからないけれど、ゆっくりとした動作でピョンピョンと跳ねながら移動している。こちらを警戒する様子はない。人に慣れているのだとすると、もしかすると野生の動物ではないのかもしれない。
「ウサギね。」
「ウサギだね。地球のウサギと同じウサギなのかな。」
「どうかしら。」
通信機を通してアリスとニトリの声が聞こえる。
「上海、少し見てみたいからそのウサギを捕まえてそこで待っててちょうだい。そこまでニトリ号で行くから。」
「シャンハーイ」
アリス達がここまでくるらしい。それほど離れているわけではないし、車ならすぐに到着するだろう。その前にウサギを捕まえてしまおう。トコトコと歩いてウサギの後ろに回り込む。ウサギはこちらを見ることすらしない。捕まえるのは簡単そうだ。
現在、ウサギとの距離は1メートル。ゆっくりじりじりとウサギとの距離を詰めていく。手が届く距離まで近づいて、ウサギを逃がさないようにゆっくりと手を伸ばす。そして、ウサギの両脇あたりを両手で包み込むように掴んだ。毛はふさふさしていて、体の手触りはぷにぷにして柔らかい。そのままウサギを持ち上げる。ウサギはとくに抵抗もせず、体を持ち上げられるのにまかせたまま足をだらんと垂らして口と耳をひくひくと動かしている。
「ウサギを捕まえたのね。よくやったわ上海。」
「シャンハーイ」
アリスからの通信だ。ウサギを捕まえるミッションは難なく成功した。このままアリス達がくるのを待とう。
ウサギを捕まえてから少しして、ニトリ号がやってきた。私のすぐ目の前に停まり、運転席からアリスとニトリが降りてくる。
「お待たせ上海。」
「シャンハーイ」
アリスは私の横に立って私の頭を軽く撫でた。一緒に降りてきたニトリはウサギを抱えている私の正面に立ってウサギを観察している。
「う~む、これはウサギだね。」
「そうね。ウサギね。」
「う~む、ウサギなんだけど、なにか違和感があるような、ないような。」
ニトリはウサギに対して違和感を感じているらしい。なんだか難しい表情をして唸り声をあげている。
「どれどれ、私にも見せて。」
アリスは頭をなでるのをやめてニトリの隣へ移動した。そして、ニトリと同じようにウサギの観察を始める。
「ふむふむ、たしかに違和感があるようなないような気がするわね。」
二人ともウサギを見ながら考えこんでしまった。
「シャンハーイ」
「ああ、待たせたままでごめんなさいね。一度、ニトリ号に戻りましょうか。」
「そうだね。そこでゆっくりと観察することにしよう。」
「シャンハーイ」
アリス達と一緒にニトリ号へ戻る。ニトリ号に入りアリスにウサギを渡すと、アリスは両手でウサギを抱えて作業台の上にウサギを乗せた。ニトリはレンズのついた機械を取り出して、レンズをウサギに向けてカチカチと機械を操作している。ウサギのほうはされるがままといった感じで、おとなしくじっとしているので拘束もされていない。
アリスとニトリはウサギの観察をしているし、私は暇になってしまった。勝手に外に出るわけにはいかないし、どうしようか。
「ホラーイ(やあ)」
「シャンハーイ(ん)」
壁際で足を伸ばして座っていた蓬莱が立ち上がって話しかけてきた。
「ホラーイ(時間があるならデータのバックアップをするかい?)」
「シャンハーイ(どうしようかな)」
地図データや視覚情報などは自動で蓬莱に送信されている。しかしながら、私が行動しているときに感じたことや考えたことは送信されていない。思考データを保存するには蓬莱に直接データのバックアップをとってもらう必要がある。データがあれば今の私の体が直せないほどに壊れてしまっても、私の記憶と感情を元通りに復元することができる。とても便利だ。当然、バックアップをするべきだろう。
「シャンハーイ(お願いします)」
「ホラーイ(じゃあやるよー)」
蓬莱の手から糸が出て、それが私の頭へ伸びてくる。そして私の額のあたりに糸が付くと、糸を通して蓬莱へのデータ送信が始まった。
ピピピという音が頭の内部から聞こえて、目には見えないなにかが移動していく感覚がある。人形に脳はないけれど、脳が吸い取られるとこういう感覚なのかもしれない。
「ホラーイ(終わったよー)」
「シャンハーイ(はいどうもー)」
バックアップは数分で終了した。蓬莱にお礼を言って、アリス達のほうを見る。アリス達はウサギを机に置いたままにして、二人で紅茶を飲んでいた。すでに観察が終了したみたいだ。
「上海、私とニトリがウサギに感じた違和感の正体がわかったわ。このウサギ、アンドロイドだったのよ。」
「シャンハーイ?」
「つまり、本物のウサギではないってことだね。ウサギを模して人工的に作られた人造生物なんだ。」
「おとなしいし警戒する様子もないのは、このウサギが人造生物だからかもしれないわね。」
「すごく精巧なウサギだし、ぜひとも製作者に会いたいところだよね。」
「そうね。けど、とりあえず調べたいことはひととおりすんだから、ウサギは放してあげましょう。この子にはなにか役割があるのかもしれないし、捕まえたままだと所有者に見つかったら悪印象だわ。今は静かに情報を集めたいし。」
「それもそうだね。上海、この子を放してきてくれるかい。」
「シャンハーイ」
ニトリからウサギを受け取りニトリ号から降りる。ウサギをニトリ号から少し離れた場所で地面に放すと、ウサギは何事もなかったかのようにゆっくりと跳ねてその場から離れていった。
「さて、これからどうしようか。」
「上海が見つけた道があったところまで移動してみましょう。道があるならそこを辿ったほうがよさそうだわ。」
「そうだね。闇雲に移動するよりいいかもしれない。」
「シャンハーイ」
「上海も賛成みたいね。」
「よし、それじゃあ車でそこまで行こうか。」
ニトリとアリスがキャビンから出て運転席に向かう。私も運転しているところを見てみたい。二人の後に続いてキャビンを降りる。ニトリが先に運転席に乗り込み、続いてアリスが助手席のドアを開けたところでアリスに追いついた。クイクイとアリスのスカートの端を引っ張る。
「上海、どうしたの?」
「シャンハーイ」
不思議な顔をするアリスに身振り手振りで運転席に行きたいということを伝える。
「運転するところを見たいの?それじゃあ、一緒に行ってみましょうか。」
「シャンハーイ」

アリスはすぐに私の考えがわかったらしい。アリスは一度助手席に座ると、座ったままの体勢で両手を伸ばして私を抱き上げて、自分の膝の上に私を乗せた。運転席には色々なボタンやメーターが付いていた。一つ一つのボタンに役割があるのだろうか。運転席からの視界はピラーや天井で遮られているせいか狭く感じる。さらに横や後ろへの視界は格段に悪い。アリスの上に座っているので座り心地はいい。
「おや、上海も来たの?」
先に乗り込んでいたニトリが私に気付いて言った。
「運転席からの景色を見たかったんですって。」
「おお、それは見込みがあるね。幻想郷に戻ったら上海用の車を作ってあげよう。」
「よかったね上海。」
「シャンハーイ」
「それじゃあ行くよ。」
ニトリがボタンを押してアクセルを踏み込むとニトリ号が動き出す。運転席からの景色を眺めながらほどなくして、先ほど見つけた道のある場所まで到着した。アリス達とニトリ号を降りて周囲を見渡す。
先ほど見つけたものは確かに道だった。道は一本。幅は2メートルほどで、舗装はされていないようだけれど、荒れてはいない。道の左手をみると、しばらく先の方に背の高い建物が1棟見える。あれは塔だろうか。逆方向、道の右手を見ると、遠くに複数の建物が並んだ町らしきものがみえた。
どちらに行くべきだろうか。
「シャンハーイ」
アリスのスカートをくいくいと引いて、判断を仰ぐ。
「うん?どっちに行けばいいかって?そうねぇ。」
アリスは顎に手を当てて考える素振りをする。そして5秒ほどで顎から手を離して顔をあげた。
「上海は左へ進んであの塔まで行ってみてちょうだい。その間に私たちは町に行ってみるわ。いいでしょう、ニトリ。」
「いいよ、上海に塔と町を行ったり来たりさせるのは非効率だしね。」
「塔の近くまで行ったら中には入らなくてもいいわ。危険がなさそうなら入ってもいいけど、とりあえず、一番の目的は地図データの更新と建物のデータ収集と考えましょう。いいわね上海。」
「シャンハーイ」
右手を挙げて了解の意を示す。
さっそく行動しよう。アリス達と別れて道を左に進んでいく。道は別れることなくまっすぐに塔まで伸びているので、すぐに近くまでいけそうだ。
トコトコトコトコ



塔付近にて
道を歩き出してからちょうど1時間ほど歩いたところで塔に到着した。道中、動物などが出てこないか周辺を見ながら歩いたものの、先ほど見つけたウサギを除いては一匹も動物を見つけることはできなかった。塔は高くて横幅が大きな、まっすぐに伸びた円柱の形をしている。外壁は鉄かなにかの金属でできているようだ。塔の周りを一周してみると、正面には一か所だけ出入り口と思われる扉があった。しかしながら、ほかに出入り口や窓などは一切見当たらない。いったい何のための建物なのだろうか。しばらく様子を伺うけれど、中から物音は聞こえてこない。今のところ、扉以外には注目するべきところはなさそうだ。
扉に近づいてみる。扉は外壁と同様の金属で作られているようだ。ドアノブや取っ手のようなものはない。鍵穴もない。まったくの平面である。この扉はどうやって開けるのだろうか。慎重に扉に触って押してみても扉はびくともしない。
ふむ~。
アリスをまねて顎に手を当てながら扉の開け方を考えてみる。扉の周りを再び観察してみると、扉のそばの壁に四角い形のボタンがあることに気付く。このボタンが扉を開くスイッチになっている可能性は高い気がする。
どうしよう。
ボタンを押してみようか。
どうしようかな。アリスからは周辺を見るだけでいいと言われているけれど。う~ん。
押してみるか。
カチ
扉の近くにあるボタンを押すと、カシャンという静かな音とともに扉が左右に開いた。
中をのぞくと扉の先には、幅、高さともに2メートルほどの大きさの、真っ白な廊下がまっすぐに伸びていた。廊下の天井には照明が設置されていてほどよく明るい。廊下の突き当りには、今開けた扉と似たような扉があるのが見える。見たところ特に危険はなさそうだ。
どうしよう、中に入ってみようか。中に入った瞬間に閉じ込められたりしたらいやだなぁ。
「上海、聞こえる~?」
中に入ろうか迷っているとアリスから通信が入った。
「シャンハーイ」
「通路があって奥には扉がある。町のひとが言っていたとおりみたいね。」
「?」
「説明するわね。上海がそこに行っている間に私たちは町まで行ってみたのだけど。実際、そこにあったのは幻想郷の町と変わらないような町だったのよ。家があって、住んでいたのはどうみても人間で、話されていた言語は日本語で。何人かと話してみたけど、その反応も友好的なものがほとんどだったのね。本当はここは日本なんじゃないかって思うくらいの状態だったの。ここが日本だとは思えないけどね。拍子抜けだけど、現地の人や生物と敵対しながらサバイバル生活を送る。なんていうことはしなくてすみそうよ。それと、技術水準も進んでいるみたい。家はヨーロッパのレンガ造りの家みたいな形をしたものが多いけれど、壁や屋根に使われている材質はレンガとは違うなにかの金属によってできているみたいだし。これは上海のいる塔と同じものなのかしら。この世界では一般的な金属なのかもしれないわね。他にも、ニトリ号みたいに車まであったのよ、人力車とかじゃなくてエンジンで動く車よ。もしかしたら幻想郷のように地球の文化が反映される世界なのかもしれないわね。少し話しがずれたかしら、町の様子の話はまた後でしましょうか。とにかく、町の人たちとのコミュニケーションはおおむね良好に終わったのよ。それでね、塔の話も聞いてみたの。そしたら、なんでもその塔は昔からある正体不明の遺跡なんですって。扉を開けると通路が伸びていて、通路を歩いた先にはまた扉がある。で、扉を開けると、そこは中央にパネル台がある小さな部屋になっているらしいの。それからその部屋に入ってパネルに触れると、その部屋自体が動いて下の階まで部屋が移動するらしいの。つまり、その部屋はエレベーターなのね。で、エレベーターで下の階に到着すると、そこから先は迷路のように入り組んだ通路があって、どこかにまた下の階に行くエレベーターがあるらしいの。そうやって、通路とエレベーターがそこかしこにあるのがその遺跡なんですって。けど、遺跡の全貌を町の人は把握してないみたい。遺跡が広くて深いということもあるし、中をさがしても特に得るものがなかったということもあって、遺跡を深く探検しようとする人はあまりいなかったみたいよ。それに、その遺跡それなりに危ないらしいの。生き物を模したような機械が遺跡を守っているらしくて、侵入者を見つけると襲ってくるんだって。」
「シャンハーイ」
「戻ってきたほうがいいかって?うーん、実はね、ちょっとその遺跡気になるのよ。魔女的第六感、ていうのかしら、別世界で見つけた機械が守っているほとんど手つかずの遺跡でしょう。私のセンサーがビンビン感じてるのよね。ニトリも感じるでしょ?」
「いや、私はあんまり。」
「・・・ニトリのバカ。」
「えぇ!?」
「しくしく。ニトリならきっとわかってくれると思ってたのに。しくしく。」
「あ~けど、機械のことは気になるし、やっぱり遺跡のことも気になるかな~。」
「でしょでしょ。やっぱりそうなのよ。というわけだから、上海には遺跡を探検してきてほしいの。」
「シャンハーイ」
「実を言うと、今のところ上海にやってもらうことがなくなっちゃった、っていうこともあるのよ。町にいるのは日本語の通じる人たちだし、環境も地球と変わらないし、地図は作っておきたいけど、危険がないなら上海を歩かせてデータを取るよりも、町を拠点にして車でまわったほうが早いわ。けど、あなたにはいろいろな機能をつけているし、せっかくの機会だから車の中で待機してもらうよりももっと行動してほしいのね。幻想郷に戻るには時間がかかると思うし、その遺跡はちょうどいいと思うのよ。」
「え~と、そんなわけらしいから、とりあえず頑張ってきてね。」
「シャンハーイ」
アリス達との通信を終了する。機械が襲ってくると聞いてしまうと正直行きたくないのだけれど。主人の期待に応えるのは人形の役目だ。行ってみよう。
通路を進みエレベーターの前まで進む。扉のそばにあるスイッチを押すと静かにエレベーターの扉が開いた。扉をくぐり中に入るとすぐにエレベーターの扉が閉じる。部屋の中央には電子パネル台が設置されている。パネルには何も表示されていない。近寄ってパネルに触れると、パネルが起動して画面が表示された。画面には1の表示とB1の表示がされている。どうやら移動する階を選ぶことができるみたいだ。両方とも青く光っているけれど、1の表示はさらに黄色の枠で囲まれている。おそらく、今いるこの場所が1階なのだろう。
B1のボタンを押す。すると、わずかな振動と浮遊感とともに、エレベーターがゆっくりと下に移動を始めた。しばらくすると、ピコン、という電子音が鳴り、エレベーターが停止した。扉がゆっくりと開く。エレベーターから降りると、その先には上の階と同じような白い通路が伸びていた。通路はすぐに左右の分かれ道になっていて、先を見通すことはできない。
いまのところ機械が襲ってくるような気配はない。しかしながら、アリスの話によると何かが襲ってくることはほぼ確実なので、警戒しつつ通路を進もう。まずは通路を右に曲がる。しばらく道を進むと扉が現れた。扉は閉じている。扉のそばにはボタンがあるので、ボタンを押すと扉が開くだろう。けれどもすぐに開けるのは怖いので、扉を開ける前に中の様子を伺ってみよう。扉に耳をあてて中の様子を調べる。すると、かすかに機械が動いているような音が聞こえる。とうとうくるか。よし、上海バスターを撃つ準備をして、深呼吸をして呼吸を整えて。準備よし。いち、にの、さん、でいこう。
いち
にの
さん
ポチ
扉を開ける。
ガシャンガシャン
部屋の中にいたのはひよこを模した姿で、私と同じくらいの身長をした2本足のロボットだった。私に反応したのか、赤い目を光らせて、素早くこちらを向いて近づいてきた。しかしながら、振り向く動作は素早かったものの、ひよこ姿の2本足のせいか向かってくる速度がとても遅い。対してこちらはすでに迎撃態勢ができている。ひよこロボが近づくまでに上海バスターを叩きこむのは容易だ。
しかしながら、まだ撃つことはしない。本当にこのロボットが危険なロボットなのか、その判断がついていない。町の人たちの情報に誤りがある可能性もある。幻想郷の人たちならとりあえず撃ちこんでから考えようとするだろうけれど、人形と機械のよしみとして、撃つのはひよこロボがこちらに危害を加える直前まで待ってあげよう。
ひよこロボが至近距離に迫る。そして、そのまま突進してきた。敵対行動と判断する。即座に上海バスターを発射。上海バスターをまともに受けたひよこロボは吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がっていった。起き上がることができないのか倒れた体制のまま足をじたばたと動かしている。このままでも危険はなさそうだけれど、念のためもう何発か弾を撃ちこむ。
弾が当たるたびにひよこロボはゴロゴロと地面を転がった。そして、4発ほど弾が当たったところで、突然、ひよこロボは姿が透き通っていき、そのまま透明になって消えてしまった。ステルスではない。まるで電源を切ったホログラムのように完全に姿が消えている。
「不思議な機械ね。姿が消えてしまうなんて。」
「シャンハーイ」
「遺跡に近づく人が少ない理由がわかるわ。なんだか幽霊みたいだし、いつ出てくるかもわからないものね。あれぐらい弱いなら心配はなさそうだけど、注意してね。」
「シャンハーイ」
ひよこロボを警戒して、部屋の隅に移動して部屋の中をじっくりと見渡す。部屋は20平方メートルほどの四角い形になっているが、部屋にはさきほどいたひよこロボ以外にはなにもない。出入り口は部屋に入るときに通った扉一つだけだ。1分ほど様子を伺ってみたけれど、特に変化はなかった。とりあえず、部屋を出て移動しよう。
エレベーター付近の分かれ道まで戻り、先ほど行かなかった左の道へ進む。道はカーブを描くように右方向に曲がっている。見通しは悪い。
道を歩いていくと、前のほうからガシャンガシャンという音がする。さきほどのひよこロボの足音にそっくりだ。そして、こちらへ近づいてきている。
さきほどのひよこロボなのだろうか、それとも違うロボか。道が曲がっているので姿は確認できない。こちらに気付いて近づいてきているのか。それとも気付いてはいないのか。
気にしてもしかたない。先手必勝、待ち伏せして出合頭にバスターを食らわせよう。体を壁に寄せ、体制を低くして相手を待つ。
ガシャンガシャン
足音がそばに迫る。
そして、相手の姿が視界に入った。
やはりひよこロボだ。即座に上海バスターを撃ちこむ。バスターが当たったひよこロボは吹き飛んで曲がり道の壁に沿うようにごろごろと転がっていった。そしてまた透明になって消えていく。さきほど会ったひよこロボだったのかはわからなかった。気になる。けれど、気にしていてもしかたない。あんなに弱いロボのことをいちいち気にしてもメモリーの無駄使いにしかならないだろう。そうに違いない。さっさと先に進んでしまおう。
どんどんと通路を進む。ず~~~~~っと分かれ道もなにもない右曲がりの通路を進んでいく。何もなさすぎて、いっそのこと再びひよこロボに出てきてほしいくらいだ。そんなことを考えながら進んでいくと、やっと通路が終わり、扉が目の前に現れた。なぜか扉には鳥の絵が描かれている。とくに躊躇することなく扉を開いて中に入る。
中はテニスコート2つ分ほどの大きな部屋になっていた。しかしながら、それだけだ。ほかには何もない。床も壁も天井も真っ白で凹凸もない。あやしい。隠し部屋があるかもしれないし、念のため1周して部屋を詳しく見ておこうか。部屋を壁沿いに歩いていく。とくになにもない。なにかないかなと思いながら扉の反対側にある壁までたどり着いたところで、ドスン、となにかが地面に落ちる音がした。
部屋の中央からだ。中央を見ると、そこには体長1メートルくらいのニワトリのロボがいた。ひよこロボの親玉だろうか。部屋に入ったときに天井を見たときには確実にいなかったはずだけれど、どうやって出てきたのだろうか。
「コケー!!」
にわとりロボが機械の羽を大きく広げて威嚇するような声をあげる。敵意満々といった感じだ。上海バスターを構えてにわとりロボに相対する。
「コケー!!」
にわとりロボは再び声をあげると、こちらへ向かって突進してきた。
ドスドスドスドス
速い。ひよこロボとは比べ物にならない速さだ。あわてずにバスターを発射する。放たれたバスターがにわとりの正面に当たる。しかし、
パキン
乾いた音を立てただけで、にわとりロボは無傷だ。上海バスターが弾かれた。ひよこロボは吹っ飛んでいったのに。やばい、後ろは壁だし、すでに相手は目前に迫っている。とっさに斜め前方に倒れこむように身を投げ出す。間一髪、にわとりロボを避けることに成功する。
ガアン
直後、にわとりロボは壁と衝突した。まるでバイクが壁にぶつかったような大きな衝撃音が部屋に響く。まともにぶつかるのは危険だ。けれども、ちょうど今はにわとりロボの背後をとった状態になっている。チャンスだ。前からのバスターが弾かれるなら後ろからだ。
バスバスバスバスバス
上海バスターを連射してにわとりロボの背後にバスターを当てる。しかしながら、パキンという音を立てるだけだ。だめだ。うしろから当てても弾かれてしまう。
バスターを連射している間に体制を整えたにわとりロボが再びこちらへ突進してくる。引き付けてから側転を行いにわとりロボをやり過ごす。にわとりロボの攻撃方法は突進しかないらしい。よけるのは難しくない。しかしながら、にわとりロボの攻撃は当たらないけど、こちらの攻撃もきいていない。どうしようか。
「上海、きこえる~?」
アリスからの通信だ。
「シャンハーイ」
「ちょっと戻ってきてもらえる。このままだとジリ貧だし、一度戦い方を考えましょう。」
「シャンハーイ」
悔しいけれど、アリスの言う通り一度退却したほうがよさそうだ。にわとりの突進をかわしつつ部屋から脱出する。扉が閉められているかもしれないと思ったけれど、何事もなく扉は開いた。部屋を出て素早くボタンを押し扉を閉める。部屋に閉じ込められなくてよかった。にわとりの足音が扉を挟んで聞こえてくる。近い。しかしながら、扉を開けることはできないみたいだ。扉の近くで足踏みをする音だけがずっと続いている。ひとまず安心できそうだ。ニトリ号へ戻ろう。



ニトリ号にて
「ホラーイ(おつかれ~)」
「シャンハーイ(おつかれ~)」
ニトリ号に戻り蓬莱と挨拶をかわす。続けて、アリスのところへ向かう。アリスとニトリは木製の丸いテーブルに着いて二人でお菓子を食べていた。私がニトリ号を降りるまでは物を積み重ねて作った積み木みたいなテーブルだったのに、仕事が早い。
「シャンハーイ」
「お疲れさま上海、よく頑張ったわね。」
「あのにわとりロボもなかなかやるねぇ。まさか上海バスターが効かないなんて思わなかったよ。けっこう自信作だったのに。」
「そうね。けど俄然やる気が出てきたわ。」
「シャンハーイ」
「あのにわとりロボをどうやって倒そうかって?上海もやる気十分ね。大丈夫よ、すでに対策を考えてるから。ニトリ、準備は大丈夫?」
「できてるよ。上海ちょっと来て。」
ニトリのそばへ行く。
「はいこれ。」
「シャンハーイ」
ニトリから何かを受け取った。平たい形の、まるでフロスビーのような物体だ。
「上海マインだよ。つまり小型の地雷だね。威力は上海バスターよりずっと強いよ。あのにわとりロボに踏ませて爆発の衝撃を与えれば、にわとりロボの装甲が硬くてもきっときくはずさ。」
う~ん、別にこれでもいいけど、派手さが足りない。もう少しなにかないだろうか。
「シャンハーイ」
「うん?ショットガンとかドリルが使いたいって?う~ん。上海の戦闘レベルはまだ1だったよね?」
「シャンハーイ?」
戦闘レベルとは何だろう。
「上海、あなたはとても優秀な人形なの。経験を積めば積むほどどんどん能力が高くなっていくのよ。けど、あなたは起動してから間もないから、あなたの戦闘レベルはまだ1の状態なの。だから今の状態だと、扱いが簡単な上海バスターと上海マインくらいしか使うことができないの。戦闘レベルが上がっていけばショットガンでもミサイルでも使えるようになるから、今はこれで我慢してね。」
「シャンハーイ」
よくわからないけれど、経験値が足りなくてほかの装備は使えないらしい。しかたない。上海マインを手に取り、準備を整える。塔へ向かう前に、蓬莱と話しておこう。
「シャンハーイ(やあ)」
「ホラーイ(ん)」
「ホラーイ(データのバックアップをする?)」
「シャンハーイ(お願いします)」
「ホラーイ(おまかせしなさい)」
糸を通してバックアップが行われる。
ピピピ
「ホラーイ(おわりー)」
「シャンハーイ(はいどうもー)」
よし、バックアップもできたし、出発しよう。
「そうだ、上海ちょっと待って。」
扉まで歩いたところでニトリから声を掛けられた。
「塔の危険性がわからなかったから道を戻ってもらったけど、危険もなさそうだし塔まで車で送ろうか。」
「あぁ、それもそうね。上海、ニトリに送ってもらう?」
車で送ってもらえば速いし服も汚れないし疲れない。断る理由はまったくない。送ってもらおう。
「シャンハーイ」
ニトリにお辞儀をして感謝の意を示す。
「はいはい、じゃあちょっと待っててね。」
ニトリが運転席に移動し、車が動き出す。塔につくまでは休憩しよう。



塔にて
塔までは10分も経たずに到着した。やっぱり車は速い。再び塔に入り、エレベーターに乗ってB1階に行く。
まずは、前回と同じように分かれ道を右に曲がって、ひよこロボがいた部屋に行ってみることにする。ひよこロボはまた出てくるだろうか。扉のある場所までいき、ボタンを押して扉を開く。
ガシャンガシャン
聞きなれた音をさせてひよこロボが出てきた。なんとなく予想はしてたけど、ひよこロボは一度倒してもまた出てくるらしい。倒しても出てくるなんてなんだか幻想郷の妖精みたいだ。弱いから問題ないけど。ちょうどいいから上海マインの実験台になってもらおう。ゆっくりとこちらへやってくるひよこロボの前に上海マインを仕掛ける。
ガシャン、上海マインを踏むまであと3歩、
ガシャン、あと2歩、
ガシャン、1、
ガッ ドオン
爆発。
ひよこロボが宙を舞い、天井へぶつかってから地面へ落ちた。ひよこロボは即座に消失した。いい爆発だ。これならにわとりにも通用するだろう。部屋を出て、にわとりロボがいた場所を目指して、右に曲がった道をずーーーっと歩いていく。
途中、通路にいたひよこロボは立ち止まることもなく上海バスターを撃ちこんで処理する。そしてさらに10分ほど歩いたのち、にわとりロボのいる部屋まで来た。一度、深呼吸をしてから部屋に入る。部屋に入ると前回と異なり、にわとりロボは最初から部屋の中央でこちらを待ち構えていた。そして、さっそくにわとりロボは突進をしかけてきた。行動は前回と同じ、かつ単純なので、危なげなく側転で突進をかわし、隙だらけのにわとりロボの背中へ上海バスターを放つ。バスターはにわとりロボに当たるとパチンと軽い音をたてて弾かれた。命中はしているけれど、あいかわらずダメージはないようだ。
よし、上海マインを使う時だ。にわとりロボから離れて上海マインを設置する。そして、上海マインを間に挟んで、私とにわとりロボが一直線になるように立つ。あのにわとりロボならまっすぐに突進をしてきて上海マインにかかるはずだ。にわとりロボがこちらを向く。そして、突進してきた。上海マインを踏むまで、3、2、1、カチッ
ドオン
上海マインが見事に爆発した。
ひよこロボほどではないけれど、にわとりロボは爆発の衝撃で真横に吹き飛ばされた。しかしながら、倒れてもにわとりロボはすぐに起き上がった。けれど、にわとりロボの足元はぐらついている。あきらかに動きが鈍っている。上海マインが確実にきいているみたいだ。あと2、3発上海マインをあてれば完全に倒せそうだ。
こりずに突進をしてきたにわとりロボの進路に上海マインを設置して再び爆破。にわとりロボが再び吹き飛ぶ。さらに、倒れたにわとりロボの近くに上海マインを設置し、少し離れてから上海バスターを上海マインに向けて放ち、上海マインを直接爆破して倒れているにわとりにさらに追い打ちをかける。一際大きく飛ばされたにわとりロボは倒れた体制のまま少しずつ透明になっていき、消えていった。どうやら、にわとりロボを倒すことができたようだ。
気が付くと、にわとりロボが消えた場所に何かが落ちている。近づいてみると、それは1枚のカードだった。青白く光り何かの文様のようなものを浮き上がらせている。よくわからないけれど、なにかに使えるのかもしれない。持って帰ろう。にわとりロボは倒したけれど、部屋にはとくに変化はなかった。とくに変化がないなら、戻るしかないだろうか。
新しい道が現れたりしてくれればよかったのに。
「にわとりロボ撃破おめでとう上海。がんばったわね。」
「よく頑張ったね、おめでとう。」
「シャンハーイ」
アリスとニトリからの通信だ。にわとりロボを倒したことをほめてもらった。褒められるとうれしい。
「そのカードはなんなのかしらね。」
「ニトリ号まで持って帰ってもらおうか。詳しく調べてみよう。」
「そうね。上海、もうひと頑張りして戻ってきてね。」
「シャンハーイ」
通路は長いけれど、すでに倒したひよこロボは帰りにはでてこないだろうし、さっさと戻ろう。暇なのでフンフンと鼻歌を歌いながら通路を歩いていく。鼻歌の曲が3曲目に入ったところでエレベーターまでたどり着く。
ここまでくればあとは1階に行って遺跡を出るだけだ。エレベーターに乗り込んでパネルを操作しようと台に近づく。すると、
ピコーン
という電子音が鳴った。なんだろう。
パネルを見ると、1階とB1階しか表示がなかったところに、B2階の表示が新たに加わっている。どうやらB2階にも行けるようになったらしい。にわとりロボを倒したからだろうか。それとも拾ったカードが関係しているのだろうか。
ただ、カードをアリス達に渡したいし、今からB2階に行くよりも、アリス号に一度帰りたいような気もする。どうしようか。
迷いながらも1階のボタンを押す。B2階に行くのはまた今度にしよう。1階に戻り塔を出る。



ニトリ号にて
ニトリ号の中ではアリスとニトリが紅茶を飲んでいた。
「おかえり上海。」
「おかえり~。」
「シャンハーイ」
アリス達と挨拶を交わして、アリスに近づいて、にわとりロボを倒して手に入れたカードを渡す。
「ありがとう上海。ふむふむ、上海からの映像を見た時も思ったけれど、ちょっと変わったカードね。あのロボットがどうしてこのカードを持っていたのかも気になるけれど、そもそもこのカードは遺跡の中で使うものなのかしら。もしくは別の用途があるのかしら。」
「どれどれ、おもしろそうなものが手に入ったね。」
アリスとニトリはさっそく、カードを作業台に乗せて調べる準備を始めている。
「そういえば上海、もしかすると戦闘レベルが上がってるんじゃない?」
準備を進めているニトリから声がかかった。
「シャンハーイ?」
「上海には戦闘レベルがあるって話をしたよね。蓬莱に話して今の状態を見てもらうといいよ。レベルが上がっていけば上海バスターの威力や精度も上がっていくからね。」
「シャンハーイ」
蓬莱に話してみよう。
「シャンハーイ(やあ)」
「ホラーイ(ん)」
「シャンハーイ(私の戦闘レベルをみてくださいな)」
「ホラーイ(いいよ)」
蓬莱の指から糸が伸びて私の頭につながる。
「ホラーイ(戦闘レベルは2になってるよ、よかったね。)」
「シャンハーイ(ありがとう)」
私の戦闘レベルは1から2に上がっていたらしい。しかしながら成長した実感はあまりない。まだ、ひよこロボとにわとりロボを倒しただけだし。もっと成長を感じられるようになるためにはさらに探索を進めていく必要があるかもしれない。やる気が出てきたし、アリスに出かける挨拶をしてから出発しよう。作業台でカードを眺めているアリスに近寄る。
「シャンハーイ」
「あら上海、どうしたの?」
「シャンハーイ」
「塔に探索に行きたいのね?う~ん。そうだ上海。遺跡に行くのもいいけど、その前に一回、私たちと町まで行ってみない?」
「シャンハーイ」
「基本的に、町に行く必要ができたときには私かニトリが行くと思うけど、上海に行ってもらうことが必要になることがあるかもしれないでしょう。上海にも町を見てもらっておいて損にはならないと思うのよ。」
町か、アリスの話だと日本語を話す人達が暮らしているらしいし、どんな町なのかたしかに気になる、行ってみたい。
「シャンハーイ」
右手を挙げてアリスに賛同する。
「ありがとう上海、それじゃあ蓬莱にバックアップをとってもらったら、その後に行ってみましょうか。」
「シャンハーイ」
遺跡でどれだけ自分の能力が上がったのか試してみたかったけど、町に行くのも楽しみだ。さっそく蓬莱に話しかけてバックアップをとってもらおう。
「シャンハーイ(蓬莱さん、バックアップをとってくださいな)」
「ホラーイ(いいよ)」
蓬莱の指から糸が伸びて頭につながり、ピピピという電子音が聞こえる。
町はどんなところなのだろうか。楽しいところだといいな。蓬莱にバックアップをとってもらいながら、上海は町への想像を膨らませるのであった。






ニトリ号から離れた場所にて
アンドロイドのウサギが一匹、背筋を伸ばして二本足で立ち上がっている。
そのそばには、一人の少女の姿があった。その顔にはなにかをたくらむような笑みを浮かべている。
「ウサウサ、なにやら遊びがいのありそうな奴らがやって来たウサ。少し私が面倒を見てやろうじゃないかウサ」
その少女は誰にともなくそう言うと、手に持った何かの装置のボタンを押した。すると、少女の姿は忽然と消え、その場にはアンドロイドのウサギだけが残されていた。残されたウサギは少しすると、4本足で飛び跳ねて、ゆっくりとその場を離れていった。
お読みいただきありがとうございました。
最終的にバックトゥザフューチャーのデロリアンを作って幻想郷へ帰るという。
場所の設定としては前に書いた作品の塔の中を想定して、ロックマンDASHを思い出しながら書いてましたが、文章を書くのは難しくて疲れますね。軽い気持ちで何か書くなどと言ってはいけないなぁと思いました。
感想などいただけますと、とてもうれしいです。
ひきにく
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価名前が無い程度の能力削除
ひきにくってハンドルネームの作者さん2人いるん?
2.30名前が無い程度の能力削除
なにコレ?
3.無評価名前が無い程度の能力削除
この作品を読んで思ったことなのですが、途中の主観の変更に唐突さというか不自然さがあった気がしました
最初から上海の視点にしていればもう少し違った評価もあったのではないでしょうか
4.80名前が無い程度の能力削除
自分の理解力が足りないだけかもしれないですが、結局何が起こったのかがよくわからなかったので、その辺りの説明を追加してもらえるといいなあと思いました。
あとやっぱり、上海視点への変更が唐突だったのはちょっと気になりました。
でも、相変わらず独特の世界観は素敵だと思いました。
ぜひ続きを期待しています。