Coolier - 新生・東方創想話

宵闇妖怪と無口な壁

2016/09/14 11:09:09
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時は深夜、ザアザアと降りしきる雨の中、黒い球体が雨粒を吸いながら飛んでいる。
葉月の十五夜、今宵は古より伝わる、有名な中秋の名月を拝むことの出来る日である。
名月、とはいうものの、その姿を地上から見ることは稀だ。
なぜならば、気候風土の関係から、この日が晴れ渡ることが珍しいからである。
今日も例に漏れず、幻想郷には朝から激しい雷雨が降り注ぎ、一旦は小康状態になったものの、再び激しさをましてから、深夜を過ぎても止む気配はない。
幽界の亡霊は、直接は見ることが出来ない、それゆえに風情があるのだと、若者の貧困な感性に嘆息をする。
月見団子を本物の月に見立てて愉しむのが成熟した精神の楽しみ方なのだそうだ。
しかしながら、この黒い球体、すなわちルーミアはそんなことはお構いなしに空を飛んでいた。

ルーミアは存外、退屈を嫌う性分である。
他の妖怪とイタズラをしてみたり、里の外を出歩く人間にちょっかいをかけてみたり、はたまた、妖怪に向けた学校、寺子屋に通ってみたりと、あらゆる手段を講じて退屈を紛らわせてきた。
ある時、暇に明かして壁に哲学を問う、などということをしたことがある。
議題は妖怪の正体であった。

「ねえ壁さん、妖怪の正体ってなんだと思う?」
「……」
「そうよね、唐突に聞かれたところで困っちゃうだけだよね」
「……」
「私はね、生まれ落ちた時から今まで、妖怪の正体、あり方なんていうのには全く疑ったことなんてなかったの。
けれども最近ね、ほんとつい最近のことよ。ほら、紅い霧でぜーんぶ隠れちゃった時ってあったじゃない? 
ほら、紅魔館のあのいけすかない、えーっと、レミ、レミ、レミリア、そうレミリアが起こしたっていうあの異変。
あの時ね、私、なんだかおかしくなっちゃっててさ。なんていうか? 身体の奥から力がわいてくる? みたいな?
まあ、だからね、久しぶりに人間を襲おうって、私、そう思ったのよ。
でさ、ちょうどよくお目出度い色のあいつ、あのめちゃくそ強いあいつ、霊夢がほよほよーって飛んでたもんだから、たまには巫女の肉なんてのもいいかもね、なんて思ってね。私、襲ってみたわけよ」
「……」
「もちろん、力づくなんて無粋な真似はしなわったわよ。ほら、ちょっと前に出来たでしょう? あの、なんか小難しい名前の、ほら、戦い方っていうか、取り決めっていうか、ああ、そうそう、命名決闘法(スペルカードルール)。あれよ。あれ。つまりはあれを試してみたね」
「……」
「あれ、作るの随分苦労したのよ。『幻想郷に住むすべての妖怪はこれに従わなければなりません』なんて、御大層な立て札立てちゃってさ。ほんとはめんどくさかったけれど。
でもまぁ、手本とか言って巫女とスキマ妖怪が戦ってるのをやっぱり私も見に行ったわけよ」
「……」
壁は、当然のことながら返事を返すことはない。
ルーミアは興が乗ってきたのか、身振り手振りを交えながら興奮した様子で話を続ける。
「その時の戦い。それはとてもとても綺麗だったのよ? 紫がバーっと光をばらまくの。そんで、霊夢がこうシュバババババって動くじゃない? そして針をバシバシっと紫にあててね。ちょっと痛そうに顔が歪んでね。
 でもわりと安全なのよ? 妖怪(わたしたち)ってほら、痛いのとか、わりと平気だし。
 でね、まるで華が咲くように紫が光の粒を、それも1つの色しか使ってないようなつまらないものじゃないわ。
 色とりどりの光の粒をふわーばーしゅるしゅるーって広げるの。
 あの時の霊夢の表情、一瞬だったんだけどね。ポカーンと口開けちゃってさ。もう、呆然? 唖然? 
 なんだか滑稽で笑っちゃったわ。それで、反応が遅れたものだから、カリカリカリって服にこすっちゃってね。
 もう、霊夢カンカンよ。キッと紫を睨んだかと思えば低い、唸るような声でね。
『よくも私の一張羅を……』
 なんて、ドスを効かせていうわけ。
 私、ゾッとしちゃったわ。
 その戦いを見ていた妖怪って私の他にもたくさん居たんだけれどね。
 きっとみんなも同じような気持ちだったはずよ」
ルーミアは当時のことを思い出したのだろうか。
悪寒を鎮めるように肩を抱いた。
「思い返してみてみれば、よくもまぁ、あの巫女にケンカを売ったもんだと、我ながら関心するわ」
「……」
壁は無言で返事を返す。
「ああ、そうね。ごめんなさい。話が脱線しちゃったわ。
 そう、そうそう、それでね。その戦いを見てね。私にも出来そうだなって、そう思ったのよ」
ルーミアはため息をついた。
「やってみたら本当に大変だったわ。
 まず何が大変かってね。カードはもらえるのよ。里と森の境目にある変わった小道具屋で。
 なんて言ったかしら。香霖堂? だったかな。一回しか行ってないから、もしかしたら違った名前かもしれないけれどね。
 で、もらったカードにね。文字を書くのよ。まあ、正確には込めるって感じなんだけれども。
 なんか、力の強さによって書ける量が違うみたいなんだけどね」
そう言って、ルーミアは指で壁に上半身ほどの四角形を描いた。
「……」
壁はなんだかこそばゆそうだ。
「私の場合、こんくらいあったかな。書ける量。でね。これに書いていくんだけれどね。その色々と。
 うーん、なんて説明すればいいかなぁ。例えば光の弾の数だとか、どんな風に飛んでいくだとか、大きさだとか、そういうのをね。書いていくのよ。ひたすらと」
ルーミアはうんざり気に手をひらひらとふる。
「それでね。書き方とか、こういう風に書いたらどんな風になるだとか、そういうことが書いてある説明書? みたいな? そういう本があるんだけどね。これがまた、わざとやってんじゃないかってくらい分かりにくいのよ。絵もほとんどないし。
 光の弾の広がり方を、一生懸命どうにか書いて伝えようかとしてるんだけどね。分かるわけ無いじゃん、あんなのね。
 だから私、行きましたよ。勉強会。
 ほら、里にさ。慧音っているでしょう? 半分妖怪の。
 彼女がね。まあ、彼女も苦労したとは思うんだけれどね。自分で書いたその、えーっと、ああ、コード、そうそう。書いてあることって、コードって言うんだけどね。なんでも命令って意味らしいんだけど。
 それをね。こんなコードを書いたらこういう風に飛んでいきますーって教えてくれるのよ。
 まあ、そうね。慧音のお陰でね。私でもどうにかこうにか作れたの、スペルカード」
「……」
ルーミアは祈るように手を胸の前で握る。
「心に響いたわぁ。初めて自分のカードが使えた時には。もうなんていうのこういう時人間って。
 感動、そう、感動って言ったわね。確か。
 そう感動したわぁ。今でも思い出せるわ。あの光景」
うっとりと何かを見つめる。きっと、初めて使ったスペルカードの光景を思い浮かべているのだろう。
「……」
壁は、どこか嬉しそうだ。
「まあ、ある程度書いたらね。飽きちゃってね。他の妖怪みたいに凝ったものとか作らなかったんだけれども。
 あんまり量も書けないしね。こんな程度じゃさ」
悔しそうに何度も何度も四角を描く。
「で、なんだっけ? ああ、そうそう本題はね。つまり、妖怪ってのはね。怖れられるものなわけなんだけど、同時に、退治されなければならないってことなのよ。
 そういった意味ではさ。私って、この世界で一番、そう、一番妖怪らしい妖怪だと思わない?」
「……」
壁は、どこか同意を示しているように思える。
「でもね。いい加減にね。私もね。里で広がってる噂ってやつにはちょっと嫌な思いもするわけよ。
 そー聞いてよ。里で私なんて言われてると思う?
 いや、もちろん、勝手に入ったりなんてしてないわよ。
 ほら、時々ミスティアが『鳥食の実態調査だー!』とか言って隠れて出入りしてるんだけどね。
 そう、そのミスティアからね。聞いちゃったのよ。里の噂、私についての噂。
 ねえ、なんて言ってたと思う? 里の人間たち」
「……」
壁の亀裂はまるで困っている人の眉のようである。
「……怖くないって。私なんて怖くないって。弱いって。そう言ってたらしいわ!」
ルーミアは言葉の端々から怒りを露わに、ドンっと力任せに壁を殴る。
「……」
痛そうだ。
「ああ、今でもムカつく。見返してやるんだから」
そこでふと、アっと呟いた。
「そうだわ! 新しいカード作ろう!」
「……」
「どんなスペルにしようかしら。ねえ。どんなのが良いと思う?」
「……」
「そうね、そうよね。やっぱり月にちなんだものが良いわよね。よし! 確か今日は、満月ね!
 お月見でもしながら考えててたら良いアイデアでも浮かぶかもしれないわ! 月見酒と洒落こみましょう!」
そう叫び、立ち上がるととっくりをひっつかみ、慌ただしく玄関へと駆けていく。

「……いってらっしゃい」

「へ?」
ルーミアは、誰かに話しかけられたような気がして振り返る。
しかしながら、誰の姿もそこにはない。
さきほどまで話しかけていた壁がどこか、名残惜しそうに居るのみである。
「なんだろう、気のせいかしら」
玄関のドアを開ける。
今朝から降り続いていた雨は、もう落とす雨粒も尽き果てたのか、夜の散歩程度では気にならないほどに弱まっていた。
「あー良かった。一応傘も持って行こうかしら」
森で拾った番傘をひっつかみ、ルーミアは夜の闇へと飛び立っていく。

玄関に置かれた見知らぬ黒靴には、最後まで気付くことはなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の作品、いかがでしたでしょうか。
少しでも面白いと思っていただけると幸いです。
実は、この作品はとある方へ寄せられた『お題』を元にしております。
もしも、あ、あの作品か、と気付かれた方は、作者による違い、なんてものも楽しんでいただけたら嬉しいです。
あと、作品内にとある妖怪を明示せずに匂わせています。
それは東方書籍、鈴奈庵の小話が元ネタです。
クスリと笑っていただけると嬉しいです。
その2妖怪とのカップリングも構想中。
何故か?
だって、同じコマにいたもん!
というマイナーカプ厨のテンプレでオチとしたいと思います。
あとがきまで読んでいただき、ありがとうございました。
ルミ海苔
tubalove782@gmail.com
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コメント



0.70簡易評価
1.20名前が無い程度の能力削除
なんなのかわかんない。それがわからなきゃ楽しめない作品なんでしょうね。
2.40名前が無い程度の能力削除
素質はありそう。

頑張れば現実世界での経験と文章力つければある程度は、評価されそう。
(480〜1140点位)